艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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けっして、けっして中枢さんが落とせない現実から逃避するために執筆を進めたわけではありあせませ(-.-)


第十五章 涙と友情の装飾曲《アラベスク》
第百四十七話 わ、私に!?どうしよう…あ、あの…どうしよう…わ、私……


 

 

 

 

 

 艦娘特有の風習に鎮守府旅行と呼ばれるモノがあるわ。

 まあ旅行と銘打たれてはいるけど、実際は着任した鎮守府なり泊地をガイド付きで散策する程度よ。

 で、どうして私こと矢矧が、誰に言うともなくこんな脳内解説をしているかと言うと……。

 

 「凄いぞマシュ風!インド人だ!インド人がいる!」

 「ただの絵で興奮しないでください磯風。それより、またマシュ風って言いましたね?ド突かれたいのかワレコラ」

 

 などと、毎度毎度同じパターンで喧嘩を始める磯風と浜風や、私も引っ掛かったことがある桜子さんの看板トラップに引っ掛かって「なあ霞、あたいは当分カレーが食えないよ……」「私もよ……。誰よあんな悪質なイタズラを仕掛けたのは……」なんて言いながら顔を真っ青にしてる朝霜と霞。

 さらに、別の看板トラップに引っ掛かったらしく「倉庫街はあっちでは?」とか言いながら明後日の方向に行こうとしている涼月を「確実に嘘ですよアレ。だって倉庫街ってあっちですよ?」と説明して引き留めている初霜。

 そんな、まとまりもクソもない駆逐艦たちを連れて鎮守府を案内しなきゃならないんだもの。少しくらい脳内解説して現実逃避してもバチは当たらないでしょ?

 ああでも……。

 

 「雪風がまともなのがせめてもの救いね……」

 「まともじゃない方が楽だったかな~」

 

 どうやら雪風も私と同じ気分みたい。

 だって私と同じように、思い思いの騒ぎ方をしている他の面子を冷めた目で見つめてるもの。

 

 「それより矢矧さん。提督が言ってた特別コーチが誰なのか聞いてるんですか?」

 「詳しくは聞かされてないわ。でも……」

 「でも?」

 「大城戸教……いえ、大城戸中佐が練成メニューを組んだとは聞いてる」

 

 それだけで嫌な予感が止まらない。

 大城戸中佐が訓練の指揮を執るってことは最低でも養成所時代並み。最悪の場合は、今まで経験したこともない地獄になるって事なんだもの。

 

 「大城戸中佐はたしか、先代大潮だった人ですよね?」

 「知ってるの?」

 「ええ、一緒に艦隊を組んだことはありませんが、同じ作戦に参加した事が何度かあります」

 

 艦娘時代の教官……か。

 いったいどんな感じだったんだろ。今の大潮ちゃんみたいに無駄にアゲアゲ言って常にハイテンションだったのかな。それとも今とそう変わらない?

 ん?待てよ?

 たしか大城戸教官が艦娘を辞めたのは、私が養成所に入った年に教官二年目と言ってたから四年前の平成元年のはず。

 それより以前に、大城戸教官と同じ作戦に参加した事があるって事は……。

 

 「ね、ねえ雪風。アンタ……いや貴女って歳いくつ?」

 「いくつに見えます?」

 「11~2歳くらいかな~……」

 

 私がどうして急に歳を聞いてきたか察したらしく、雪風は見た目相応に無邪気な笑顔を向けてきた。

 これ、予想通り私より年上って事よね?

 

 「さん付けで呼んだ方が良い……ですか?」

 「今まで通り呼び捨てで構いませんよ。たしかに私は矢矧さんよりほんの少し年上ですが、立場は矢矧さんの方が上ですから」

 「いやぁ~でもやっぱり……ねぇ?」

 

 今まで散々呼び捨てにして、しかも何度も何度も偉そうに命令しておいてなんだけど、年上と知っちゃったら気後れしちゃったのよねぇ。

 ん?そう言えば雪風って陽炎や不知火の事を姉さんって呼んでたような……。

 と、言う事はあの二人も私より年上!?あんな贔屓目に見て中学生くらいにしか見えない子が!?

 見た目は子供で中身は大人とかコ〇ン君か!紛らわしいにも程があるでしょ!

 

 「あーもう!これだから駆逐艦は!」

 「何を思ってそのセリフを言ったのかだいたい察しはつきますが、私なんて若い方です」

 「陽炎とか不知火?」

 「姉さんたちもそうですが、佐世保に25~6歳の駆逐艦がいるそうです」

 「マジで!?」

 「マジです。何でもその人は艦娘の運用が始まった頃から艦娘をやってるらしくて……。たしか睦月型の誰かだったはずです」

 

 この戦争が始まって今年で15年目だっけ?

 そんな頃から艦娘をやってるのも凄いけど、戦死率が一番高い駆逐艦でそんなに長く続けられるなんて実力も相応に高いんでしょうね。

 佐世保で有名な駆逐艦と言えば……えっと、『波乗り時雨』くらいしか知らないわね。誰か知ってそうな子は……。

 

 「あ、初霜なら知ってるかな」

 「呼びましたか?」

 「あ~うん、呼んだわけじゃないけど丁度良いわ。今雪風から聞いたんだけど、佐世保にアラサーの駆逐艦がいるんだって?」

 「アラサーって……。たしかにギリギリ含まれる歳ですが、間違っても彼女の前で言っちゃダメですよ?」

 「どうして?」

 「その人って、佐世保で一大勢力を築いてるとある宗教の教祖なんです。後は言わなくてもわかりますよね?」

 「うん、なんとなくわかった」

 

 つまりアレだ。

 その彼女をアラサー呼ばわりするのは、横須賀で言うとムツリムや瑞雲教徒に喧嘩を売るのと同じなのね。

 拉致されて拷問でもされるのかしら……。

 

 「駆逐艦が教祖になってる宗教はそれなりにありますから、あんまり下手な事は言わない方が良いですよ」

 「はい、肝に銘じておきます」

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 そんなやり取りの数日後、知らず知らずの内に狂信者からの恨みを買わないように調べたんだけど……。

 まあ何と言うか、思ってたよりいっぱいあったなぁ。

 

 まず、要注意宗教でもあり三大宗教でもある『文月教』『五月雨教』『ムツリム』でしょ?

 あと、『ぽいぽい教』とか『かもかも教』なんてのもあったわね。

 それに当時、三大宗教の一角である『ムツリム』に迫る勢いで勢力を広げていた『瑞雲教』に、変わり種だと『たべりゅ教』なんてモノもあったっけ。

 まあ、さすがに人数が少ないマイナー宗教までは把握しきれなかったけどね。

 

 え?佐世保のアラサー駆逐艦は誰だったのかって?

 いや、マジ勘弁して。

 調べる過程で、その駆逐艦が率いてた宗教団体の悪事を知って背筋が冷たくなったんだから。

 

 ええ、三大宗教のどれか。とだけ言っておくわ。

 それ以上はさすがに言えない。

 だって、もし奴らにバレたら私のセリフが全部ひらがなになっちゃうもの。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 矢矧へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「お……おおおおおおお……」

 「矢矧さん、『お』しか言えてませんよ」

 

 そんなことわかってるのよ雪風。

 でもダメなの。彼女の名前を口にしようとしてるのに『お』しか出てこないのよ。

 だって、休憩も兼ねて『猫の目』に立ち寄った私たちを「いらっしゃいませ」と言って迎えてくれたのは、私が神通さんと同じくらい憧れてた……。

 

 「大淀じゃない。なんでメイド服着て接客してるの?」

 「暇すぎて死にそうだったんです」

 

 そう、霞が言った通り、本人曰く死にそうなほどの暇を持て余してメイド服でお出迎えしてくれた大淀さん。

 まさか、大本営にいるとばかり思ってた彼女にこんな場所で会えるなんて考えもしなかった。

 そのせいで、昨日の夜に大城戸教官が破壊した壁とかガラスがたった一晩で元通りになってることにツッコめないほど頭がパニクってるわ。

 

 「暇ってアンタ……動いて良いの?今って一番気をつけなくちゃいけない時期じゃなかったっけ?」

 「つわりもなくなりましたし、主治医の先生が仰るには少し早いけど安定期に入ったそうなので多少の運動なら大丈夫との事です」

 「もうそんなに経つっけ?」

 「はい。もうちょっとで五ヶ月です」

 

 んん?ちょっと待って?

 つわりとか安定期とかって妊娠に関する用語よね?どうしてそんな用語が大淀さんの口から出てきたの?まさか、大淀さんって妊娠してる!?

 

 「お腹も膨らんできたわね。もう動く?」

 「ええ、先週くらいからハッキリわかるようになりました。初めての経験ですが、すぐにこれが胎動だなってわかりましたよ」

 

 あ、これ間違いないわ。

 だって、そう説明してる大淀さんのお腹に霞が手を当ててるもの。相手はやっぱり元帥さん?

 いやいやそれより!

 どうして霞が大淀さんと知り合いなの!?しかも気心知れてるっぽいし!

 あ、そう言えば前に一緒に艦隊を組んだとかって話を聞いたような……。

 

 「ご懐妊おめでとうございます。大淀さん」

 「ありがとう、涼月」

 「姉さんたちにはもう?」

 「いえ、秋月たちにはまだ知らせていません」

 「良ければ私から伝えておきましょうか?」

 「あ、お願いできますか?何と言いますか、自分から妊娠したと知らせるのは少し照れ臭くて……」

 

 そう言えば、涼月は大本営で大淀さんと訓練してたんだっけ。

 いいなぁ二人とも。私もこの機に大淀さんと親しくなれないかしら……。

 

 「ボケ~っと入り口に突っ立ってねぇで座れよ矢矧。胸が重くて動けねぇのか?」

 「え?ああ、ごめんなさい。って!それってセクハラ!」

 「今さらだろボケ女。それより、いつも通りコーヒーとチーズケーキで良いのか?」

 「それで良い。その代わり!セクハラしたんだから代金は貴方持ちよ!」

 「へいへい」

 

 まったく。

 金髪さんの相手をしてたせいでカウンターの端から二番目に座った大淀さんの両隣を霞と涼月に取られて席が離れる事になっちゃったじゃない。

 

 「良いなぁ。私もあっちに行きたい……」

 「私たちに挟まれているのは不満だそうですよ。磯風」

 「それは心外だな。私とマシュ風は矢矧さんをこんなに慕っていると言うのに」

 「おい。またマシュ風って言いましたか?コーヒーを鼻から流し込んでやるからこっちに来い」

 「喧嘩するんなら外でやりなさい」

 

 と言って、お約束のじゃれ合いを始めた二人を店外へ追い出した事で一つ席を移動することができるようになった。

 これで大淀さんまで残り3席。

 

 「代わりましょうか?」

 「良いの?雪風」

 「ええ、構いません。そんな「退け」と言わんばかりの視線を浴びせられるよりマシですから」

 「ありがとう雪風。この借りはいつか必ず返すわ」

 「しっかり徴収しますから覚悟しといてくださいね。あ、そうだ。朝霜さん、一緒にダーツでもしませんか?」

 「お、良いねぇ。何か賭けるかい?」

 

 なんて旗艦想いの駆逐艦かしら。

 私が大淀さんに近づこうとしているのを察し、しかも次の障害である朝霜まで排除してくれるなんて。

 お礼に、朝霜の財布の中身まで排除しようとしてるのは黙っといてあげるわ。

 さて、残る障害は……。

 

 「ハドウホウですか?」

 「そう、波動砲……!じゃない……あ」

 

 たぶん、私たちが初めてこの面子で出撃したときの事を霞が話してたんでしょうね。

 そして波動砲のくだりに差し掛かったところで、詳細を知らない大淀さんが波動砲について聞こうとしたんでしょう。

 そのタイミングと、次の障害をロックオンしようとした私の思考タイミングが見事に被っちゃった訳よ。

 大淀さんたちの「急にどうしたんだろう」って感じの視線が痛いわ。

 

 「えっと、矢矧さん……でしたよね?」

 「は、はい!阿賀野型軽巡洋艦三番艦の矢矧です!」

 「敬礼は結構ですよ。あ、申し遅れました。私は大淀型一番艦の大淀です。いつも霞がお世話になってます」

 

 名前を尋ねられて思わず立ち上がって敬礼した私に、立ち上がりまではしなかったけど大淀さんは深々とお辞儀をしながら自己紹介してくれた。

 こんな至近距離で見るのは初めてだけど、改めて見ると綺麗な人だなぁ。

 日本的な美人とでも言えば良いのかしら。それに加えて並の艦娘じゃあ束になっても敵わないほど遠強くて海軍元帥夫人。天は二物を与えないって大嘘ね。

 

 「阿賀野型と言うことは阿賀野さんの姉妹艦ですよね?」

 「はい、一応……」

 「彼女は元気にしてますか?先週くらいに、呉の軽巡寮で火事があったと聞いたのですが……」

 「ええ、元気ですよ。少し焦げましたけど……」

 「焦げたって……それ大丈夫なんですか?」

 「ぜんっぜん平気です!次の日には罰掃除してましたから!」

 

 私と神通さんも手伝わされたけどね。

 まあ、火事の原因を作ったのは阿賀野姉だけど火をつけたのは私と神通さんだから仕方なく手伝ったわ。

 でも大淀さんには秘密にしとこ。

 

 「そう言えば大淀って、あの試合の時に阿賀野さんを大本営に誘ったんだって?」

 「ええ、誘いました。フラれちゃいましたけどね」

 「ふぅん。アンタが誘うって事は相当だったのね」

 「はい……」

 

 本当に残念そう。

 たしかに大淀さんと戦ったときの阿賀野姉は凄かったし、同じ阿賀野型なんだから私も努力すればあの域に達することができるかもしれないんだと思うと誇らしかった。

 でも私生活がダメすぎる。

 大淀さんが阿賀野姉を欲しがるのは戦闘時の阿賀野姉しか知らないからよ。

 もし普段の惰姉っぷりを知ったら「やっぱり帰ってください」って三行半を突きつけると思うわ。

 

 「あ、フラれたと言えば……」

 「言わなくても良い。どうせあのオッサンが何か言ったんでしょ?」

 「はい。私が阿賀野さんにフラれた話をしたら、主人が思い出したように「俺も霞にフラれたなぁ」って」

 「だから言わなくても良いったら!」

 

 ふぉ!?

 今とんでもなくスキャンダラスなことを聴いちゃった気がするんですが!?

 

 「あのぉ、大淀さん。元帥閣下って霞さんに告白したことがあるのですか?」

 「ちょ!違うのよ涼月!そういう意味のフラれたじゃないから!」

 「では、先ほどの大淀さんが阿賀野さんにフラれたと言ったのと同じ意味ですか?」

 

 あ、そういう意味か。

 いやぁ、焦った焦った。

 海軍元帥である大淀さんの旦那様が霞にまでモーションかけてたなんて、その手の話が大好物である艦娘からマスコミまで飛び付きそうなネタだもんね。

 

 「はぁ、そうよ。もう何年も前だけど、あのオッサンがここで提督してた頃に誘われた事があるの」

 「ふふふ♪霞はあの人が、私以外で唯一本気で欲しいと思った駆逐艦ですからね」

 「それ、うちの……じゃないや。呉の司令官も言ってたけど本当なの?」

 「本当ですよ。もし霞が横須賀にいたなら、今ここで提督をしているのは円満さんではなく霞だったかもしれません」

 

 ほうほう、私の隣で「いや、有り得ないから」って言いながら呆れてる霞が提督候補だったと。

 凄くね!?

 霞が戦うところを見たのは演習大会三日目の緊急出撃の時だけだからどれくらい強いのか把握しきれてないけど、元帥閣下が大淀さん並みに欲しがったくらいなんだからとんでもなく強いんでしょうね。

 

 「ハードルが無駄に上がるからやめてくれない?矢矧さんが変な勘違いしてるじゃない」

 「でも事実ですし……。今日だって、霞が着任する日だからこっちに来るとか言ってたんですよ?」

 「はぁ!?まさか本当に来る気なんじゃないでしょうね!?」

 「いえ、さすがに大海姉さんが止めたようです」

 

 大淀さんが「久しぶりに主人と会うチャンスだったのに」って考えてそうな顔をしてるのは取り敢えず置いとくとして、霞って本当に気に入られてるのね。

 まあ、そうでなけりゃ海軍元帥を『あのオッサン』呼ばわりなんてできないし、大淀さんにもタメ口利いたりできないよね。

 って、アレ?いつの間にか涼月が居なくなってるんだけど何処に行った?

 

 「なぁに黄昏れてんだ矢矧。生理か?」

 「ぶん殴るわよクソDQN。単に、霞が思ってたより凄いんだって知って感心してるだけよ。あと、涼月は何処行った?」

 「ついさっき「ちょっとお花を摘みに」とか言ってフラフラ~っと出て行ったぞ?それよりほら、ご注文のコーヒーとチーズケーキだ」

 「はいはいありがと……って!このコーヒー苦すぎない!?」

 「いつもそんくらいだったろうが。呉で甘いもんばっかり食って舌が馬鹿になってんじゃねぇか?」

 「そんなわけ……!」

 

 無いとも言えないか。

 阿賀野姉がやたらと甘い物を買い込んで来るせいで、私も便乗してちょいちょい摘まんでたからなぁ。

 二水戦の訓練をしてなかったらと思うと寒気がしてくるような量を……。

 いや、それより今日はやけに絡んでくるわね。

 若干怒ってるようにも見えるし……。私、この人の気に障ること何かしたっけ?

 昨日の、予定外ではあったけど大城戸教官に連れて来てもらったときに挨拶した時は普通だったじゃない。

 

 「金髪さんと矢矧さんはお付き合いしてるんですか?」

 「は?はぁ!?私とこの人が!?有り得ないですから!」

 「そりゃあこっちのセリフだ。何が哀しくてこんな胸だけ立派な奴と付き合わなきゃいけねぇんだよ」

 「ちょ!またセクハラ!いい加減にしないと憲兵さんに言いつけるわよ!」

 「おう!好きなだけチンコロすりゃあ良いじゃねぇか!憲兵が怖くて軍人やってられっかってんだ!」

 

 この若作りの金髪DQNめ。いつかみたいにまた開き直りやがった。

 たしかあの時も胸がどうとかってセクハラしてきて……ん?そう言えばその時、この人と何か約束をしてたような……。

 

 「う~ん……。なんだっけ……」

 「ちょっと矢矧さん。あんまり叫ぶと大淀の胎教に悪いからやめてくれない?」

 「え?ああごめん。そんなに五月蝿かった?」

 「ええ。正直、痴話喧嘩なら他所でやれって何度か言い掛けたわ」

 「だから……!」

 

 痴話喧嘩じゃない!

 と、言おうと思ったけど、霞の「叫んだら殴る」と言わんばかりの視線と、大淀さんの「仲が良いですね」と考えてそうな顔を見てなんとか留まれた。

 でも、悪いのはセクハラしてくるDQN野郎であって私じゃないんだけどなぁ……。

 

 「あの、矢矧さん」

 「は、はい!なんでしょうか大淀さん!」

 「ふふふ♪そんなに畏まらなくても良いのですよ?」

 「いやでも…その、大淀さんは私が憧れている人の一人なので……」

 

 自分が口にした愛の告白に近いセリフで言葉を詰まらせた私を尻目に、大淀さんは「聞きましたか霞!矢矧さんは私に憧れているそうです!」と、霞の両肩を掴んで揺さぶりながら子供のようにはしゃぎ、揺らされてる霞は「このバカに憧れるなんて頭おかしいんじゃないの?」と言いながら憐れんでるような瞳で私を見ている。

 でもおかしくなんてないのよ霞。

 霞は識らないだろうけど、今も軽巡洋艦の候補生たちの間では大淀さんはトップクラスの人気を誇っているの。

 ちなみに私が候補生だった頃は、対抗馬として佐世保の川内さんとか舞鶴の五十鈴さんがあがってたかな。それが去年の大会以降、阿賀野姉が対抗馬と呼べるまで急浮上したそうよ。

 私が異動する前に着任した神通さんから聞いたんだから間違いないわ。

 

 「もう!酔うからそんなに揺らさないでったら!」

 「あ、ごめんなさい。嬉しかったのでつい……」

 「まったく……軽巡洋艦になって大人っぽくなったのは見た目だけか!」

 「フッ、経験的にも大人です」

 「ちょっとヤッてる程度でドヤ顔すんなバカ。それより、矢矧さんに話があるんじゃないの?」

 「あ、忘れてました」

 

 失礼極まってる霞の大淀さんへの物言いは後で注意するとして、大淀さんは私に何の話があるんだろう。

 もしかして「霞と涼月をよろしく」的な?

 有り得るわね。

 いつの間にか消えた涼月は兎も角、霞は気心しれた人には口が悪くなるから気にしないで、とかそんな感じのお願いをするつもりなのかも。

 

 「金髪さんのどこが好きになったんですか?私、気になります!」

 「そっち!?私はてっきり……。いやいや!こんな人べつに好きじゃないですから!」

 「でも仲が良いですし、金髪さんがこんなにも女性相手に気さくなところを初めて見たので……」

 

 と、言いながら大淀さんが横目で金髪さんを見たので釣られて見てみると、若干顔を赤くして「誰にでもこんなだよ」と、照れ臭そうにぼやいてた。

 え?何よその態度。もしかしてマジなの?マジでこの人、私に惚れてる?

 

 「わ、私に!?どうしよう…あ、あの…どうしよう…わ、私……」

 

 くらいしか言えない私に、金髪さんは「真に受けてんじゃねぇよバーカ」と言い捨てて厨房に隠れちゃったけど、彼のことを変に意識してしまった私は大淀さんの隣に行くという当初の目的も忘れて厨房の入り口を見つめ続けた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 それが馴れ初め、と言うかこの人の事を初めて意識した時かな。

 

 それからしばらくは照れ臭くて『猫の目』に近寄れなくなっちゃちゃけど、誰かに誘われて行く度にこの人との距離が縮まっていったわ。

 

 え?どうしてその時この人の機嫌が悪かったのか?

 聞きたい?

 それがさぁこの人、捷一号作戦前に私としたデートする約束を私が忘れてたから拗ねてたのよ。意外と可愛いとこあるで……ちょ!痛い!なんで叩くのよ!

 

 は?自分から振ってきた約束を忘れといてなんで上から目線なんだ?

 アンタだって今年の結婚記念日忘れてたでしょうが!

 

 青木さんもちょっと聞いてくれる!?

 この人、昨日の結婚記念日をすっぽかして海坊主さんたちと呑みに出てたのよ?ね!信じられないでしょ!?

 

 え?何よ。

 親父の退役祝いだから参加しないわけにはいかなかった?

 あの人の退役ってまだ先でしょうが!

 退役祝いなら退役してからやりなさいよ!私、あの日ずぅぅぅぅっと待ってたんだからね!?

 そうよ!

 アンタが通販で買った趣味の悪い下着けてずぅぅぅぅっとね!

 

 

 (ド突き合いが開始されたのでインタビューを一時中断)

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 矢矧へのインタビューより。

 

 

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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