艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百四十八話 呪法 暮れなずむ石の如く

 

 

 

 

 

 

 日本国防海軍において、各担当軍区内の作戦行動、及び鎮守府運営に関する裁量権は各鎮守府提督にありますが、大規模作戦や鎮守府に駐屯していない海兵、列びに海軍艦艇への命令権、さらに各鎮守府への予算配分等の決定権は大本営、ひいては海軍元帥にあります。

 なので、彼の裁決にミスや遅れがあると控え目に言って大変な事になるのにこの人と来たら……。

 

 「何処へ行かれるおつもりですか?」

 「ちょ、ちょっと横須賀へ……」

 「この書類全てに判子を押すまでダメです。さ、お茶くらいは淹れてあげますから座ってください」

 「し、しかしだな淀渡君、今日は霞の着任祝いも兼ねて……」

 「しかしも案山子もありません。霞さんには電話でもすれば良いですし、大淀に会いたいのならキッチリと仕事を終わらせてから会いに行ってください」

 

 すぐに仕事をほっぽって逃げようとするんです。今のやり取りも今日だけで10回目ですよ?

 このまま今のペースであの問答を繰り返したら定時までに20回は軽く越えてしまいます。

 

 「まったく、あの子と一緒の時とはまるで別人ですね」

 「そりゃあ、惚れた女の前じゃ格好つけたいからな」

 「ああそうですか。ちなみにですが、ここ最近の貴方の勤務態度は撮影しています」

 「何だと!?俺の肖像権は!?」

 「公僕に肖像権もなにもありません。あの子に本当の勤務態度を知られたくなかったら仕事してください」

 

 ちなみにですが、被写体の許可なく写真や動画を撮影するのは肖像権の侵害にあたります。

 昨今では撮影した写真や動画などをSNS等に気軽に投稿できますが、ふとした事から肖像権の侵害に問われる事も無きにしもあらずなのでお気をつけください。

 

 「人差し指を立てて何をしてるんだ?」

 「いえ別に。それよりコーヒーと緑茶、どちらがよろしいですか?」

 「酒」

 「ぶん殴りますよ?私がコーヒーの気分なのでコーヒーにしますね」

 

 ちなみに私こと淀渡 大海(よどわたりおおみ)は彼の秘書官、秘書艦ではなく秘書官をしています。

 もう大淀ではありませんので、あの痴女と言わんばかりにスリットが開いた制服ではなく海軍支給の紺色の軍服です。

 去年までは前元帥閣下の介護のために大本営の仕事からは離れていたのですが、あの人がお亡くなりになったので今年の一月から秘書官として復帰しました。

 

 「誰に説明しているんだ?後ろには誰もいないぞ?」

 「お気になさらず。それより、この書類は急ぎですので早く目を通して判子を押してください」

 「これで良いか?」

 「今読みました?読まずに判子を押しただけですよね?罰として今晩は晩酌無しです」

 「そんな殺生な!」

 

 殺生でも何でもありません。

 今貴方が判を押した書類は今年度の横須賀鎮守府の予算に関する重要な書類。なのに、書類上の不備が四カ所もあるのに構わず判を押したではないですか。

 あ、再度ちなみにですが、大淀が横須賀で産休と言う名の幽閉状態なので彼の私生活のお世話も私がやっています。

 一応弁解しておきますが、大本営内にある元帥邸で同居していますが彼と男女の関係にあるわけではありません。

 

 「じゃけぇ誰に説明しちょんじゃ?」

 「方言が出てますよ。公務中は素に戻らないでください」

 「そろそろ休憩の時間じゃけぇええじゃろうが」

 「ダメです。まだお昼まで10分もあります」

 

 だからこの人の昼食を用意しなくてはならないのですが、今のように隙あらばサボろうとするので目が離せないんですねぇ……。カップ麺でも食わせておけば良いかしら。

 

 「あ、カップ麺で思い出しました。明石さんから報告が上がっています」

 「どうしてカップ麺で思い出した?と言うか何故カップ麺?まさか俺の昼飯か!?」

 

 なぜカップ麺で思い出したのか。

 それは現在呉工廠にいる明石さんが、妖精さんの手を借りてとは言え大抵の物なら三分以内に造ってしまうからです。

 とまあ、それは置いておいて……。

 

 「ちゃんと作りますよ。それで報告なのですが……」

 「護衛艦群の改修作業の件か?」

 「はい。今日付で、各艦の艤装作業に入ったそうです」

 「人員の方は?」

 「艦長さんの報告では、現時点で3000名を越えています。到着順で乗艦、及び持ち場を割り振って訓練を開始している。だそうです。ただ……」

 「早く『いかせろ』。と騒いでいるか?」

 「はい」

 

 『行かせろ』なのか『逝かせろ』なのはかは不明ですけどね。

 まあ、艦長さんが集めている人達の経歴をみるに、両方だと考えるのが妥当でしょう。

 

 「ああそれと、明石さんから荷物も届いてましたよ?」

 

 そう伝えながら引っ張り出してたのは明石さんが送って来たトランクケース。

 たしか夕張さんとの共同制作という嫌な予感をこれでもかと掻き立てる売り文句付きでしたが、中身は何なのでしょう。

 

 「これなのですが、何を造らせたんです?」

 「内火艇ユニットだよ」

 「内火艇ユニット?このケースの大きさだと……『狩衣』ですか?」

 「その改良型だ」

 「じゃあ、コレが……」

 

 平成三年にこの人が開発を命じた『狩衣』と『薄衣』の改良型と銘打った三式内火艇ユニット『戦装束(いくさしょうぞく)』ですか。

  でもたしかこれは……。

 

 「『脚』の形成に特化させた内火艇ユニット……でしたよね?」

 「そうだ。他の一切、それこそ身体保護機能まで廃し、内火艇ユニットでありながら30ノットの速度を実現した特注品だよ」

 「それはつまり……」

 

 深海棲艦の攻撃に対する防御力が皆無と言うこと。

 しかも、身体保護機能も無いので人間離れした膂力も得られません。

 ただ海上を駆逐艦並の速度で移動できるだけのコレにいったい何の意味が……。いや。

 

 「貴方が使ってこそ意味があるのですね」

 「その通りだ」

 

 と、言いながら、彼はケースから取り出した黒いコートを羽織りました。

 肩と胸部、それに肘の部分に申し訳程度の鈍色をした装甲がある以外は『狩衣』と同じですね。

 これで軍服も士官服ではなく、ニッカポッカを魔改造したような奇兵隊の制服なら様になると思います。

 ですが困りました。この様子だとたぶんこの人は……。

 

 「淀渡君、午後からの予定は全てキャンセルしてくれ。それと、秋月型姉妹と日進に出撃準備をさせろ」

 「仕事が詰まってるからダメです。と、言っても聞いてくれなさそうですから了解しました」

 

 案の定『戦装束』の実戦テストをするつもりですか。

 しかも、大本営付きの艦娘では大淀に次ぐ実力者である日進まで出撃させようとしていると言うことは艦娘相手の演習ではなく文字通りの実戦。

 深海棲艦を相手に実戦テストをするつもりです。

 

 「大人の男と少年の違い、それは玩具の値段だけだ。でしたか」

 

 たしかアメリカの諺だったと思うのですが、この人の様子を見てたら頭に浮かんできました。

 だって彼は少年のようにウキウキしながら、新しい玩具を身に着けた自分を鏡で見ていたのですから。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 あの日は何事かと思うたのぉ。

 そう、叔父上が急に出撃すると言うた日じゃ。

 

 その日は休暇じゃったけぇのんびりしちょったんじゃけど、大海殿がクソ真面目な顔して出撃を告げに来たけぇビックリしたのをよぉ憶えちょる。

 だって叔父上も一緒じゃったんぞ?

 わしゃあてっきり、叔父上まで前線に出張らにゃならんほどの緊急事態じゃ思うて慌てて準備したんじゃが……。

 

 蓋を開けてみれば叔父上の新しい玩具の実戦テストじゃった。

 ああ怒ったわい。

 わしの休暇を台無しにしといてなんじゃそれは!ボテクリかますぞワレェ!ってのぉ。

 

 じゃがまあ、最初こそ怒っとったが、叔父上の戦闘をこの目で直接見れたのは眼福と言えんでもなかったか。

 

 ん?どうして叔父上と呼んじょるかじゃと?

 どうしても何も、あの人はわしの遠い遠い親戚にあたる人じゃけぇじゃが?

 

 そうそう、わしゃあ叔父上の父方の親戚なんじゃ。もっとも、叔父上の父方の実家はわしの家から絶縁状態じゃったけぇ、艦娘になるまで血縁じゃとお互いに知らんかったがのぉ。

 

 どうして絶縁状態じゃったか?

 そりゃあ叔父上のご先祖様の所業のせいよ。

 かれこれ百数十年前、幕末の折に叔父上のご先祖様はわしの実家の跡取りであったにも関わらず、我が家の秘法を盗んで出奔し、京の都で暗躍したと聴いておる。

 たしか……暮石 弥一郎っちゅう名前じゃったか。

 で、この一族の名前が面白うてな?弥一郎の二人の息子が二郎丸と三郎太、その孫が弧四郎っちゅう風に数字がどんどん増えて……。何?その話はどうでも良い?そうか……残念じゃのぉ。

 

 その秘法とは何か?

 秘法なんじゃけぇ教えるわけなかろうがたわけ者。

 じゃがまあ、お主が持って来た土産を食うて気分がええけぇ名前くらいは教えちゃろう。

 

 その秘法の名は……。

 

 ~戦後回想録~

 日進型水上機母艦 一番艦 日進へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 「じゅ……は?ごめんなさい日進、もう一度言ってもらえますか?」

 「もう一度じゃとぉ?大海殿は耳年増のクセに耳が遠い……ごめんなさい。謝りますからその拳を収めてください」

 

 お願いしますが抜けてます。

 は、まあ置いておきましょう。じゃないと話が進みませんから。

 さて、それではこれまでの経緯を少し整理してみましょう。そうすれば、今の現実逃避したい気分も幾分マシになるでしょうから。

 

 先ずは私が今置かれている状況ですが、日進が発見したはぐれ深海棲艦の艦隊を撃破し、哨戒艇と船側に書いてあるだけの大型クルーザーに元帥閣下と日進と一緒に乗って秋月たちに護衛されながら陸へ向かって移動中です。

 

 まあここまでは良いでしょう。

 原因の一つは、空母と戦艦を含んだ艦隊を元帥閣下が一人で撃破したこと。しかも、完全勝利と言っても過言ではないほど圧倒的に。

 クルーザーの護衛としてついてきた秋月たちも「やっぱりあの人の旦那だ」などと言いながら呆れていましたっけ。

 

 さらに、私が現実逃避したくなるほど動揺している原因をもう一つ。それは図らずも日進から聴かされる事になってしまった、船首で煙草を吹かしている彼の血統です。

 

 彼の先祖は日進の先祖の兄にあたる人で、さらにその先祖は1000年近く前に京の都を追い出された陰陽師だったそうです。

 そして百数十年前、幕末の折に彼の先祖は日進の先祖と袂を分かち、京の都で長州藩の維新志士として暗躍したんだとか。

 この話を聴かされて「いやいや、なんですかその後付け設定は」と呆れていたところで、彼が深海棲艦を相手に無双した手段の名前を聴かされたんです。

 その名前とは……。

 

 「じゃあもう一度言うぞ?叔父上の強さの根本を担うのは叔父上の家名の由来ともなっておる我が家の失われし秘法。その名も『呪法・暮れなずむ石の如く』じゃ!」

 

 じゃ!

 とか言ってドヤってますけど、この秘法の名こそが私が現実逃避したい最大の原因です。

 だって呪法ですよ!?

 そりゃあ陰陽師の子孫という話ですから、呪法の一つも識ってておかしくないとは思います。でも、先程までの怪現象を引き起こすほどの呪法など実在するのですか?

 しかも日進の話では、彼が体得している剣術や体術、戦術に到る全てはオプションに過ぎず、その呪法を自在に扱えるから強いのだと言うことです。

 

 「初手で駆逐艦を真っ二つにしたのもその呪法の効果なのですか?」

 「装甲をものともしなかったのは謎じゃが、駆逐艦を真っ二つにしたの自体は単なる唐竹割りじゃのぉ」

 

 なるほど。じゃあアレは、本来の歴史では失われているはずの彼の愛刀の特攻効果と剣術によるもので、呪法なんてオカルトは絡んでないのですね。少し安心しました。

 

 「では、敵艦隊が彼を見失ったのは?」

 「恐らくじゃが、桜子の嬢ちゃんが創った『脚技』による高速移動と隠形術の合わせ技じゃろ。もしかしたら無音歩行術と浮き身歩行術も混じっておるやもしれん」

 

 ふむ、この際本当に可能なのかどうかは考えないものとして、ここまでもまだ現実的なことと納得しましょう。じゃあ次、恐らくこれが……。

 

 「軽巡一隻と駆逐艦二隻が、彼が間合いの遥か外から刀を真横に一閃しただけで()()()()()のは?」

 「それこそが『呪法・暮れなずむ石の如く』の片鱗じゃよ。叔父上は『魂斬り』と呼んでおったかのぉ」

 

 やはりアレが……。

 ですが、触れもせず、横に一度しか振ってないのに三隻同時に縦に真っ二つになるとはいったいどういう原理なのでしょうか。

 完全に物理法則を無視してますよね?

 

 「それと最後に、叔父上が「飽きた」と言うた瞬間に深海棲艦共の動きが止まったじゃろ?アレもじゃな」

 「あ~……。私が死にかけたヤツですね」

 

 日進が言った通り、彼が「飽きた」と言うと同時に深海棲艦の動きが止まり、その数秒後に残りの深海棲艦が細切れになったそうです。まるで見えない巨人の手に握り潰されたようにも見えた。と、日進が言っていましたね。

 もっとも、私はその時深海棲艦と同じく影響を受けて動けず、それどころか呼吸もできなくなってのたうち回っていましたから直接見れませんでしたが。

 

 「アレは『狩場』と言うらしい。まあ、今回はかなり抑えとると思うがのぉ」

 「アレで抑えてたんですか!?私、窒息死一歩手前だったんですけど?」

 「一歩手前まで保つと言うことは叔父上が本気で『狩場』を展開していなかったという証拠じゃし、わしらがターゲットになっていなかったという証明じゃ」

 「そ、それはどういう……」

 「どうもこうもない。叔父上が本気なら『狩場』を展開した瞬間にわしも大海殿も心臓が止まっちょったかもしれん」

 

 これは本気を出さないでくれてありがとうございます。と言うべきなのでしょうか。

 言わなくても良いですよね!?

 敵味方の区別ほぼ無しの広範囲攻撃に感謝する必要ないですよね!?

 いや、待ってください。

 あの『狩場』というモノは今回でも半径2kmを越えていました(私が乗ったクルーザーと戦闘区域がそれくらい離れていたので間違いありません)

 アレで本気じゃないとしたら、本気の場合はどれ程の範囲になるのでしょうか。

 

 「ちなみにじゃな、わしらがおった場所はほとんど『狩場』の範囲外じゃ」

 「いや、ちょっと意味がわかりません。だって私は影響を受けてましたよ?」

 「『狩場』の中では叔父上が触れずとも『斬れろ』と念じるだけで好きな対象の好きなところを好きなように斬り刻めるんじゃよ。ここまでは納得できなくてもそういうモノだと理解してくれ」

 「はい……」

 「で、じゃ。わしや大海殿が受けた影響は、簡単に言うと『狩場』の余波に過ぎん。そうじゃのぉ……爆弾が爆発したら余波で風が起こるじゃろ?その風に少し煽られたと考えればええ。今回の『狩場』の半径は実質200m程度じゃろうよ」

 

 それで私は死にかけたと?

 ならば中心部はいったいどれ程の……ん?なんか意外な言葉が混ざっていたような……。

 

 「日進も影響を受けてたんですか?」

 「わしゃあ見た目通り気が弱いでなぁ。死にかけはせんかったが、ぶっちゃけ少しチビった……」

 

 あ、それでですか。

 日進の戯れ言は無視するとして、けっこう前から微かにアンモニア臭がしてるとは思ってたんですよ。

 でもまあ、私が風上に移動すれば問題ないですし、見た目が幼い貴女の粗相は大きなお友達に好評ですから恥ずかしがらなくても世間的に平気ですよ。

 おっと、それはどうでも良いですね。

 上記の二つ、『魂斬り』と『狩場』が『呪法・暮れなずむ石の如く』による現象だとして、その本質はどういったモノなのでしょうか。

 こう言う場合は先ず、名前から考えてみるのが妥当かつ正道ですね。何故なら日本人は名前に意味を込めますから。

 

 では、改めて『呪法・暮れなずむ石の如く』と言う名前を分解して考えてみましょう。

 これは四つに分解できますね。即ち『呪法』『暮れなずむ』『石』『如く』の四つです。

 この内『呪法』と『如し』はそのままの意味でしょうから除外します。

 それでは二つ目の『暮れなずむ』。

 これは『日が暮れそうでなかなか暮れないでいる』という意味です。『なずむ』だけだと『人や馬が前へ進もうとしても、障害となるものがあって、なかなか進めないでいる』という意味ですね。

 多少無理矢理ですが少しづつですが進んでいると解釈出来るかもしれません。

 

 そして三つ目の『石』。

 これは普通に考えれば言葉通り石です。ですが、私はこの『石』にこそ呪法の源たる意味が込められていると予想します。

 それと言うのも、石とは『石のように固い』などと言われるように固いイメージがあり、『いし』と読めることから『意思』にも転じ、『せき』とも読みますから『塞き』止めるにも転じます。

 

 以上二つの意味を含め、私なりの解釈を加えるとかなり無理がありますが『溢れ出んばかりの意思を塞き止め、少しづつ石のように固くする』となります。

 これを彼に当てはめ、現代風の言い方をするなら……。

 

 「あの怪現象を起こした力の源は彼の深海棲艦に対する悪感情。つまり『呪法・暮れなずむ石の如く』とは感情制御法」

 「流石は大海殿。その通りじゃ」

 

 かなり無理矢理な解釈でしたが合っていましたか。良かったです。

 ですがこれで日進が本気じゃないと言った理由にも納得できました。

 何故なら、相も変わらず美味しそうに煙草を吹かしている彼が、こんなところで本気を出すわけがないんですから。

 でも……。

 

 「もし『戦装束』が開戦初期からあれば。と考えてしまいますね。あの人が本気を出せば、かつての敵太平洋艦隊くらいなら彼一人で余裕そうじゃないですか」

 「いんや、わしはそうは思わん。もし開戦初期からあの装備があったら、叔父上は今日の小手調べ程度の戦果すら上げられんかったじゃろうよ」

 「それはつまり……」

 

 あれほどの現象を起こすには悪感情の充填が必要と言うことでしょうか。

 発散せずに何年も、それこそ10年を超える年月をかけて悪感情を制御し、育ててきたからこそ、彼からすれば例え小手調べでも私からすれば信じられない戦果を上げられた。と、言うことですか。

 

 「我が家では失伝してしもうた秘法をこの目で見られたのは僥倖じゃったが、アレを見た今では失伝したことが幸運だったと思えてしまうのぉ……」

 

 そう言いながら、呆れたような瞳で彼を見つめた日進は最後にこう呟いて締め括りました。

 

 「怨み辛みに身を焦がした者のなれの果て……か。ありゃあもう、人とは呼べんわい」と、退屈そうに海を眺める彼に聞こえないように。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 悪魔、ですか?

 はあ、あの子は彼のアレを悪魔と表現したんですね。

 

 いえ、私はその場にいなかったので見ていませんが、彼が必死になって抑え込み、育てていたアレは悪魔と呼んで差し支えないと思います。

 

 その時に起こった事を妹から聞いたときも「彼が本気ならそれくらいは余裕だろう」くらいにしか思いませんでした。

 

 ええ、妹の話では、立ち塞がった二隻の戦艦棲姫を皮切りに残っていた百隻近い深海棲艦が一瞬で沈んだそうです。

 はい、彼の「邪魔だ」の一言とともに、細切れとなって。

 

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦大淀。現海軍元帥秘書官 淀渡 大海大尉へのインタビューより。

 

 

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