艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第十四話 水雷戦隊!カミレンジャー!

 

 

 異名持ち(ネームド)

 特徴的な戦い方や、輝かしい戦果を上げた艦娘に周囲から異名、称号を贈られた艦娘の総称。

 ネームドだからと言って特別な権限が与えられる訳ではないが、艦娘、特に駆逐艦の間ではネームドと言うだけで羨望の的であった。

 例を挙げるなら『呉の死神 雪風』。『波乗り 時雨』などが挙げられる。

 

 ~艦娘型録~

 用語解説より抜粋。

 

ーーーーーーーーー

 

 「し…死ぬ……」

 「死ぬとか言えてる内はまだ死にません。もう20往復して来てください」

 

 神風ちゃんに師事し、提督へ着任の挨拶をしに行くのを夕方まで忘れてた事で軽く怒られてから早一週間。私は海にも出してもらえずに、砂浜をクラウチングスタートだけで走る訓練をひたすら続けていた。ちなみに、片道100m。

 

 「ほ、本当にこの訓練が…はぁ……必要なの?」

 「当然です。『脚技』は力場操作が一番の要ですが、肉体操作が疎かでは恩恵が半分以下になります」

 

 何度言ったかわからなくなるほど言った質問を、言われた通り20往復し終わってから飽きもせずぶつけてみた。

 神風ちゃんが言うには、『脚技』は力場、もっと言うと『脚』の操作と踏切りの動作のタイミングを合わせる事で爆発的な加速を得る事が出来るモノらしい。

 今やってる訓練を始める前に『トビウオ』と呼ばれる『脚技』を見せてもらったんだけど、それを使った神風ちゃんは、瞬間移動と見紛うばかりの速度で10mくらいの距離を移動して見せたわ。

 間近で見てもどうやってるのかさっぱりわからなかったけど、大城戸教官が使う所を見てなかったら、艦娘にあんな芸当が出来るだなんて考えもしなかったでしょうね。

 

 「今日はこれくらいにしましょう。明日からは『脚』の操作法を教えます」

 「や…やっと海に出れるのね……」

 

 時間は16:00(ヒトロクマルマル)くらいかしら。上がるには少し早いけど、体力的に限界だからありがたいわ……。

 

 「大和も頑張ってるみたいね……。今日は砲撃訓練か」

 「この週末に元帥さんがいらっしゃるみたいなので、それに向けて訓練中だそうです」

 「元帥閣下が?大和を見に?」

 「はい。だから、元帥さんが来る日は訓練はお休みです」

 

 大和を見に…ねぇ……。たしかに『戦艦 大和』は海軍が望みに望んだ艦娘。元帥閣下が視察にいらっしゃるのも納得できるわ。

 けど…その大和は人の話をまともに聞かず、脈絡もなく変な事を言い出す問題児。閣下を怒らせたりしないか心配だわ。

 

 「そういえば、長門さんと一緒に大和の嚮導をしてる子ってどんな子なの?たしか駆逐艦よね?」

 「満潮さんの事ですか?たしかに駆逐艦ですけど……。何か問題がありますか?」

 「いや、問題はないの。ただ、どんな子なのかなぁと思って」

 

 私だって駆逐艦である神風ちゃんに師事してるんだし、大和が駆逐艦に嚮導されてるからって文句はないわ。

 けど、その満潮ちゃんの良い噂を聞いた事がないのよ。だから少し心配なの。悪い噂ならたくさん聞いちゃったから……。

 

 「普段は円満さんの秘書艦をしてる優秀な駆逐艦ですよ?たぶんですけど、横須賀で一番強い駆逐艦だと思います」

 「そんなに凄い子なの!?」

 

 横須賀で一番強い駆逐艦がどれ程のモノかは想像がつかないけど、私より遥かに強いはずの神風ちゃんがそう言うだから相当強いんでしょうね。

 

 「ええ……。ただ、ほとんどの人は彼女の実力を知りません。私自身、満潮さんがどのくらい強いのか想像すらつきませんから」

 「それなのに…一番強いと?」

 「はい。彼女は目立った戦果を上げていませんけど、桜子先輩曰く「一対一なら、昼戦でも姫級の戦艦と渡り合える」らしいです」

 「それ…冗談よね?」

 「冗談ならもうちょっと面白い事を言います」

 

 姫級の戦艦と互角?駆逐艦が?しかも昼戦で!?とてもじゃないけど信じられない……。

 たしかに駆逐艦や軽巡、重巡が標準装備してる魚雷は強力だけど、兵器としての命中率はお世辞にも高いとは言えない。確実に当てるには相応に接近しなきゃ無理だわ。

 例を上げるなら夜闇に紛れて。

 重巡以下の艦種が夜戦に強いと言われているのはこれが理由でもあるんだもの。逆に言えば、夜戦以外では持てる火力を十全に発揮できないって事だけど……。

 

 「じゃあ…満潮ちゃんは異名持ち(ネームド)なの?」

 

 強い弱いが関係ない場合もあるけど、特徴的な戦い方やキャラが濃い艦娘に送られる異名をそれだけ強い駆逐艦に贈られてない訳がない。いくら目立った戦果を上げていないと言っても、ネームドじゃないなんて逆に不自然だわ。

 

 「たしかに異名はありますが…彼女の場合は蔑称ですね。『前八駆の七光り』とか『提督の脛齧り』とか言われてます」

 「そ、そっち?いくら目立った戦果が無いからって酷いわね……。彼女は反論しないの?」

 「少なくとも、私は反論してる所を見た事がありません。相手にしてないんじゃないかしら」

 

 相手にしてない…か。本当にそうなのかしら。私だったら、そんな陰口を叩かれてると知ったら凹んじゃうと思うわ。メンタルが弱い自信はあるから。

 って、メンタルが弱い自慢してどうするのよ!満潮ちゃんが本当はどう想ってるのかなんて私にはわからないけど、そういう図太い面は見習うべきかもしれないわね。

 

 「あっ!ネームドと言えば、軽巡でネームドの人が元帥さんと一緒に来るはずですよ。いつもなら毎週末に来るんですけど……。元帥さんのスケジュール調整で来れなかったのかな?」

 「ちなみに、なんて人?」

 

 軽巡のネームドか。私が知ってる限りで言うと、佐世保の『夜戦忍者』、呉の『鬼の神通』、横須賀だと『艦隊のアイドル』かな。全員川内型だったと思う。それ以外で有名なネームドと言うと……。あ、あれだ。

 あまりの強さから随伴できる艦娘が居らず、艦隊を組むより一人の方が強いとまで言われる大本営付きの軽巡洋艦。名前はたしか……。

 

 「大淀さんです。『一人艦隊』なんて呼ばれていますね」

 「そう!その人!空母機動部隊を一人で殲滅したって噂を聞いた事があるけど本当なの?」

 「さあ……。あの人でも流石にそれは無理だと思いますけど……。でも、やりそうだなぁ……」

 

 噂がどこまで本当か知らないけど、私が聞いた噂はこうよ。

 その大淀さんは、元帥閣下が激励のために泊地を巡っていた時に襲って来た正規空母6隻を含む空母機動部隊12隻をたった一人で迎撃し、一隻残らず海の底へ沈めたんだって。

 当然、泊地の艦娘も一緒に迎撃に出たらしいんだけど、大淀さんは一言「泊地に爆弾が落ちないようにだけしてください」と言って、泊地の艦娘達を置いて行った。

 けど、泊地には爆弾はおろか艦載機すら来なかったそうよ。

 大淀さんは敵艦隊だけでなく、正規空母6隻分の艦載機も根こそぎ撃ち落としたらしいわ。

 

 「うわぁ……。駆逐艦だった頃よりチートっぷりが上がってるわね……」

 「え?大淀さんは駆逐艦だったの?」

 「はい。現状唯一の『艦種変更』成功者です」

 

 『艦種変更』…確か去年に行われた実験で可能な事が確認されたんだっけ。別の事が目的だったって噂もあるわね。

 改装の果てに艦種が変わる艦型はいくつかあるけど、ここで言う艦種変更は全くの別物。

 例えば、水上機母艦 千歳や千代田は改装を続けると軽空母になれるけど艦型は変わらない。

 だけど、大淀さんの場合は違う。艦型を無視した艦種変更よ。艤装を乗り換えると言った方がわかりやすいかしら。

 例えば、神風型の神風ちゃんが阿賀野型である矢矧の艤装と適合する事は出来ない。両方の適性を持っていたら話は別だけど、それは非常に稀な事らしいわ。

 

 「その様子だと、神風ちゃんは会ったことがあるみたいね」

 「ええ、ここに所属してた頃にも面識はありましたし、先輩の継母に当たる人ですからいらっしゃる度にお話します」

 「あの人の継母って事は……」

 「はい。大淀さんは元帥秘書艦でもあり、元帥夫人でもあるんです」

 

 へぇ……。艦娘の恋愛や結婚が禁止されてないのは知ってたけど、本当に結婚(ガチ)してる人が居たんだ……。しかも相手は元帥閣下。玉の輿にも程があるわ。

 

 「どんな人なの?大淀さんって」

 「ん~……。変な人…かな?」

 「変なの?」

 「変です。目障りとか言いながら伊達メガネを頑なに掛け続けてますし、16歳かそこらなのに、桜ちゃんに「ばぁば」と呼ばれてデレデレになります。それだけじゃありません。あの人、考えてる事がすぐ顔に出るんです」

 「か、顔に?え?どういう事?」

 

 私が噂で聞いてる大淀さんの人物像は冷静沈着で思慮深く、元帥閣下に忠誠を誓っている参謀の様な頭脳キャラなんだけど……。あ、あれ?聞き間違えたのかしら……。

 

 「あの人って頭脳キャラとは真逆ですよ?性格は真面目なんですけど、短絡思考っぷりなら桜子先輩にも負けません。「避けれないなら撃ち落とせばいいじゃない」や「砲撃や魚雷が利かないなら拳で殴る」を素で実行するような人です」

 「嘘……。密かに目標にしてたのに……」

 

 私の中の大淀さんは凛々しく、率いる艦娘に的確な指示を飛ばし、戦場に居るだけで戦意を高揚させる、ジャンヌダルクと諸葛孔明を合わせたような人だったのに……。

 

 「強すぎるのもありますが、脳筋っぷりが激しくて誰もついて行けません。戦士としては超一流なんでしょうけど、指揮艦としては素人以下だと思いますよ?」

 

 やめて!それ以上、私の中の大淀さんのイメージを崩さないで!憧れてたのに!軽巡の先輩として憧れを抱いてたのにぃぃぃぃ!

 

 「それに、先ほども言いましたが考えがすぐ顔に出ます。円満さんなんか「あの子の考えを読むのなんて平仮名を読むより簡単」って言ってました」

 「頭脳派どこから来たの!?そんなんでよく「軽巡大淀は頭脳派」なんて噂が立ったわね!」

 「先代の大淀さんとごっちゃになってるんじゃないですか?今の大淀さんは兎も角、先代の大淀さんは文字通りの頭脳派だったそうですから」

 

 な、なるほど。

 先代と今代の噂がごちゃ混ぜになった結果、頭脳派かつ戦闘力も化け物レベルと言う噂が出来上がったのね。何処からが尾ヒレで、何処までが胸ビレかわかんないけど……。

 

 「お~い!神風姉ぇ~!」

 「あら、なんかチカチカ眩しいと思ってたら朝風達が哨戒から戻って来たのね」

 

 神風ちゃんの視線に釣られて海を見ると、朝風ちゃんの額に反射したピカッという擬音が聞こえそうな光で軽く目をやられてしまった。

 ワックスでも塗ってるんじゃないかってくらい光を反射してるわね。探照灯の代わりになったりしないかしら。

 

 「お疲れ様。その様子だと、戦闘はなかったみたいね」

 「あっても楽勝だけどね。春風なんか退屈過ぎて寝てたのよ?」

 「嘘はいけません朝風さん。寝てたのは旗風さんです」

 「いえいえ、寝てたのは松姉さんです。哨戒中に寝るなど言語道断」

 「いや、寝てたじゃないか。僕が曳航してたんだから間違い……」

 「松姉さん?呆けるのはまだ早いですよ?それとも、白昼夢でも見ましたか?」

 「いやいや、寝て……」

 「ません。どうやら松姉さんはお疲れのようですね。永眠しますか?」

 「僕が寝てた!旗風は断じて寝てないよ!」

 

 あ、はい。寝てたのは松風ちゃんね。そういう事にしておいてあげる。理不尽な気はするけどそういう事にしとくわ。旗風ちゃんの笑顔が怖いから。

 

 「まあ、寝てた松風には後でお仕置きするとして、例のアレやっとく?朝風」

 「そうね。最近まともな戦闘がないせいでやってないし」

 「矢矧さんもいらしゃいますし丁度良いですね」

 

 嫌な予感しかしない……。

 なんか私の前に集まって来てるし、春風ちゃんが言った私がいる云々も気になる。神風ちゃんが言った例のアレとはいったい……。いや、五人の配置を見たらなんとなくわかって来た。

 神風ちゃんを中心にして、右翼に朝風ちゃんと春風ちゃん。左翼に松風ちゃんと旗風ちゃんと言う順番に並んで私に背を向けている。

 今から始まるのはおそらく前口上。いえ、名乗り口上だわ。

 この子達、私にカミレンジャーの名乗り口上を披露するどころか、私まで巻き込む気なんじゃない!?

 

 「魚雷に平和の祈りを乗せて!」

 

 春風ちゃんが番傘を開き、肩に掛けながら一歩踏み出し、そう言った。

 どうやって乗せるのか。とツッコんだら負けな気がする。あと、急に番傘を後ろに向けるから「うおっ!」ってなっちゃった。ごめんなさい。睨まないで。

 

 「灯せ正義の探照灯!」

 

 それに続くは朝風ちゃん。

 右手の人差し指と中指をピッ!と立てて敬礼のように額に当ててるわ。貴女に探照灯は必要ないんじゃない?と言いたいけど怒られそうだから黙ってよう。

 

 「例えこの身が朽ち果てようと!」

 

 朝風ちゃんに旗風ちゃんが続いた。

 凛々しい表情だと勇ましいわねこの子。演劇とかで近藤勇役をやらせたら似合いそうとか思ったけど、怒られそうだからやっぱり黙ってよう。

 

 「守ってみせるさ輝く未来を!」

 

 まるでステージに立つマジシャンのような仕草で松風ちゃんがそう言った。

 この子の帽子、動き回ってもズレる気配がないけどどうなってるんだろう?吸盤とかでくっついてるのかしら。

 っと、それは今どうでも良いわね。

 順番的に次は神風ちゃんだけど、神風ちゃんは腕組みしたまま微動だにしない。

 あれ?神風ちゃん以外の四人がチラチラと私を見てる。なによその、「次は矢矧さんですよ」とか「ちゃんと考えてた?」とか言いたそうな視線は。やっぱり私も巻き込む気だったのね!

 

 「ふぅ……」

 

 覚悟を決めるしかない。

 恐らく、最後の名乗りは神風ちゃんの役と決まってるんでしょう。まあ、名乗りと言えばリーダーである赤の役目だもんね。たぶん。

 でも、しまったなぁ……。何も考えてない。

 勢いに任せて思いついたセリフを言うか……。でも、丁度交代の時間なのか、哨戒から帰って来た子と今から哨戒に行く子達の視線が集まって来てる。何よこの罰ゲーム。私が何か悪い事した?

 いや、ここまで来たらもうやるしかない。なんかギャラリーの数も増えてるし「何が始まるんだろう」って声まで聞こえて来てる。

 ええいいわ。やってやろうじゃない!こうやったらヤケクソよ!

 

 「五省に反せず一致し努力する!我らが抱くは水雷魂!臆さぬならばかかって来なさい!」

 

 なんとかそれっぽい事を言う事に成功した私に満足したのか、神風ちゃんはニヤリと笑って一歩踏み出した。

 たぶん、絞めのセリフを言うつもりなんだわ。

 

 「全艦抜錨!合戦用意!我ら水雷戦隊!」

 

 あ、なんとなくわかる。ポーズを決めて「カミレンジャー!」って叫べばいいんでしょ?そうよね?

 だって五人とも、決めポーズを取るために各々が溜めてるもの。何をとまでは説明しづらいけど溜めてるもの!

 私はどうしよう。決めポーズ何てそうそう思いつくものじゃないし……。あ、そう言えばこの子達と初めて会った日に話し合ってたわね……。たしか、私は神風ちゃんの後ろで……。

 そう!グ〇コのポーズだ!

 

 「「「「「カミレンジャー!」」」」」

 

 ドーン!と、色付きの爆発はしないけど決まった!なんとか決めポーズも間に合ったわ。思ってたより気持ちいいわねこれ。疲れてるせいでナチョラルハイになってたのも手伝って最高の気分だわ!

 と、思ってた時期が私にもありました……。

 その後、ギャラリーの冷めた反応と、パシャシャシャシャシャ!と、何とかってゲーム名人もビックリな速度でシャッターを切る青葉さんを見つけて、私は一気に素に戻ってしまった。

 そして神風ちゃんは、素に戻って絶望している私にトドメを刺すようにこう言ったわ。

 

 「明日からは、名乗り口上の練習もメニューに追加ね♪」と。

 








おまけ。名乗り口上描写無しバージョン
 
春風「魚雷に平和の祈りを乗せて!」
朝風「灯せ正義の探照灯!」ピカッ!
旗風「例えこの身が朽ち果てようと!」
松風「守ってみせるさ輝く未来を!」
矢矧「五省に反せず一致し努力する!我らが抱くは水雷魂!臆さぬならばかかって来なさい!」
神風「全艦抜錨!合戦用意!我ら水雷戦隊!」
全員「「「「「カミレンジャー!」」」」」

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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