艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百五十話 旧第八駆逐隊の全て

 

 

 

 

 第一特務戦隊。

 

 後に『天号組』と呼称されたこの戦隊は、米国の第二特務戦隊列びに英国の第三特務戦隊同様、対欧州棲姫用の艦隊として編成された。

 

 第一特務戦隊(以下一特戦)が他の二つと決定的に違ったのは、艦隊メンバーに空母艦娘が一人も編成されておらず、戦艦大和を旗艦として旗下に第七水雷戦隊を加えていた点だろう。

 

 更に一特戦は、一つの艦隊と言うよりは三つの艦隊が一つとして数えられていたと後に語られる通り、三つの小隊が独自判断で行動していた。

 

 にも関わらず、一特戦が艦隊として機能していたのは一特戦第二小隊の朝潮型十番艦 霞(彼女に関しては朝潮型十番艦霞の項を参照されたし)の存在あってこそだと言われている。

 

 

 ~艦娘型録~

 艦隊編成 第一特務戦隊の項より抜粋。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 『大和!さっさとどっちかのハドウ砲で吹っ飛ばして!』

 『演習でですか?相変わらず矢矧は無茶を言いますね』

 『じゃあ流星群で前衛艦隊を潰して!』

 『対空迎撃で手一杯なので無理です』

 『あぁぁぁぁぁもう!だったら相手戦艦の砲撃を弾き返してよ!』

 『無理ですよ。そうされるのがわかっているから誰一人として私に砲撃してきませんもの』

 

 今月の頭に正式に編成された、今だに若干肌が黒い大和を旗艦とした第一特務戦隊、通称『一特戦』の練成訓練が始まって早一週間。

 その訓練の一日の仕上げとして行われる演習の様子を澪姉さんと一緒に見てるんだけど……痛々しくなるくらい防戦一方だわ。

 

 「ねえ、澪姉さん。さすがに無理ゲー過ぎるんじゃない?」

 「何がかな?満潮教官殿?」

 「大和達の演習相手よ。わかってんでしょ?」

 

 イタズラが成功した子供みたいな顔してなぁにをとぼけてんのかしらね、この姉は。

 ちなみに相手は、長門さんを旗艦とした横須賀第一艦隊に第一水雷戦隊を加えた横須賀最強の水上打撃部隊。

 更に一航戦と五航戦を主軸として四水戦を加えた空母機動部隊。

 つまり大和達は、横須賀で双璧を成す連合艦隊を二つ同時に相手しているの。

 

 「でも円満の指示だからなぁ」

 「指示はね。でも、提案したのは澪姉さんでしょ?」

 

 そうツッコんだら、ペコちゃんみたいな顔して誤魔化そうとし始めたけどバレバレだから。

 だって、一特戦の練成メニューは澪姉さんに一任されてるはずなんだもの。

 

 「満潮はこの訓練に意味が無い。って言いたいのかな?」

 「意味が無いとは言わないわ。第一、一特戦に与えられる任務を考えると()()()()の艦隊くらい突破できないと話にならないしね」

 

 だから演習自体に意味が無いなんて事はない。

 でもこの演習の目的は別にある。

 と、私は予想するわ。

 だって、澪姉さんは姉さん達の中で一番性格が悪いんだもの。その澪姉さんが、単に勝てば良いような演習を組むはずがないわ。

 恐らくこの演習の目的は……。

 

 「艦隊の弱点を把握させる。それが目的でしょう?」

 「ご明察。やっぱ満潮は教官に向いてるね。退役したら教師でも目指してみなよ」

 「茶化さないで。それならそれでやりようは他にもあるでしょ?それなのに、どうしてこんな()()()()()()方法を選んだの?」

 

 またまたそっぽを向くという形で澪姉さんは誤魔化そうとしてるけど、それは私がツッコんだ事が的を射ているという証拠。

 澪姉さんは、大和達に自艦隊の欠点、悪い言い方をすれば穴、もしくは足を引っ張っている者の存在を気付かせようとしていながら、物量で押し潰すという何が悪かったのかわかり辛くなる方法を取ってそれに気付きにくくしているの。

 

 「満潮には、一特戦の穴がわかる?」

 「ええ、初日で気付いたわ。たぶん時間的にもそろそろ……」

 

 一特戦の穴。

 先に言ったけど、その存在には初日で気付いた。意外にも感じたわね。

 だってその人は一特戦で一番艦娘歴が長く、艦隊旗艦の経験もある人で、あのメンバーの誰よりも経験豊富な駆逐艦だったんだから。

 

 『ちっくしょう!霞がやられた!矢矧さん!このままじゃまた分断されるぞ!』

 『わかってるわよ!雪風は朝霜をフォローして!浜風は突っ込みすぎの磯風を連れ戻しなさい!』

 

 こりゃ終わったわね。

 矢矧さんたち前衛と、大和たち後衛を繋いでいた霞さんが戦闘不能になったことで艦隊の中央が薄くなった。

 そこにすかさず、那珂さんを筆頭にした四水戦が朝霜を撃破しながら突っ込んで一特戦を完全に分断しちゃったわ。

 後は一水戦と四水戦に挟まれた矢矧さんたち前衛が潰され、返す刀で大和たち後衛が包囲殲滅されるだけ。

 

 「また同じパターンになったわね」

 「そうだね。さすがに今日の演習で、矢矧たちも気付いたんじゃないかな」

 

 そう、一特戦の穴は霞さん。

 そして欠点は、霞さんが前衛と後衛を繋ぎ続けなければ艦隊の体を成さないこと。

 要はあの艦隊って、突っ込みがちな前衛と速度差の関係で遅れがちになる後衛(と言うよりは大和)の間で中衛が上手く立ち回らないと艦隊として機能しないのよ。

 でも、これが霞さんには荷が重い。

 個人でならトップレベルの面子が集まった一特戦の中で、霞さんだけが明らかに実力が低いから艦隊を繋ぎ続ける事ができない。

 その事に……。

 

 「霞さんは、きっと気付いてるんだよね」

 「うん、初日の晩に私のところに来たよ」

 「脚技を教えてくれって?」

 「うん。霞はトビウオしか使えないからね」

 

 正道を貫いてダメなら邪道に手を出す。

 これは駆逐艦が真っ先に考える事よ。その最たる例が脚技。霞さんは実力不足を補うために、澪姉さんにトビウオ以外の脚技を教えてもらおうとしたんでしょうね。

 でも……。

 

 「霞さんが使う素振りすら見せないところを見るに、澪姉さんは断ったのよね?」

 「うん、霞には才能がないからね。ハッキリと「霞には無理」って言って断ったよ」

 「相変わらず容赦ないなぁ澪姉さんは」

 「中途半端に憶えた脚技は害にしかならないからね。それに、霞はそう言われるとわかってて私に頼んできたんだと思う」

 「それって……」

 「うん。霞は逃げ道を自分で塞いだんだよ」

 

 霞さんらしいわね。

 霞さんは自分の実力不足が艦隊の足を引っ張っていると初日で気づき、その打開策を脚技に求めようと安易に考えた自分への罰もかねて、ハッキリと言ってくれる澪姉さんに頼んだんだ。

 

 「クソ!なぜ勝てないんだ!しかも今回は今まで一番酷いじゃないか!」

 「そりゃあ都合7戦目ですから、わかり切ってる穴を真っ先に潰しに来るのは当然です」

 「だがマシュ風。霞が穴だとわかっているなら、もっと前衛と後衛の間を狭めれば良いじゃないか。何故そうしない?」

 「それ本気で言ってます?そう言ってる磯風が馬鹿みたいに毎度毎度突っ込むからでしょうが。っつか今、マシュ風って言いましたよね?ぶっ飛ばすぞコラ」

 

 などと言いながら、私と澪姉さんがいる桟橋に戻って来るなり磯風と浜風がドツキ漫才を始めましたが、本人の前でハッキリと穴呼ばわりするなんてこの二人どういう神経してるのかしら。

 とうの霞さんは無表情で何考えてるかわかんないけど……怒ってる?それとも落ち込んでる?

 

 「霞さん、あまり気を落とさないでください。失敗くらい誰だってするんですから」

 「初霜の言う通りだぜ霞。今回だって、たまたま霞が狙われやすい位置にいただけだって」

 

 たまたまな訳がない。

 それは言っている朝霜本人が一番わかっているはずよ。

 たぶん相手艦隊のほとんどのメンバーに初日で霞さんが一番落としやすいと把握され、更に一番弱い霞さんが一特戦の要になってるとバレたから真っ先に狙われるってことにね。

 

 「はいはい、反省会は罰の鎮守府一周が終わってからだよ。それと、霞はそれが終わって艤装を預けたら執務室に来るように。わかった?」

 「はい」

 

 相変わらずの無表情で霞さんは返事をして、他のメンバーから離れるかのように駆け出した。

 このままで良いの?

 これじゃあ単に、霞さんを追い詰めてるだけなんじゃ……。

 

 「ねえ大和、もう少し前衛を下げるなりして対応できないの?」

 「それでは矢矧たちの一番の強味である機動力が半減してしまいす。それくらい、教官ならおわかりでしょう?」

 「言いたい事はわかるけど……」

 

 このままじゃ霞さんが潰れかねない。

 それは一特戦にとって一番の痛手のはずよ。だって霞さん以外に中衛を熟せそうな人がいないんだもの。

 大和と矢矧さんはそれぞれの持ち場があるからもちろん無理だし、考えるより先に体が動くタイプの磯風、浜風、朝霜にはそもそも不可能。できそうなのは雪風だけど、彼女を前衛から下げると前衛の突破力が激減する。

 対空戦闘しかできない初霜も論外ね。

 残るは涼月だけど……あの人、今日までの演習を見る限り一度も本気で戦ってないのよねぇ。

 

 「大城戸さん。そろそろ頃合いかと思うのですが」

 「わかってるよ大和。ちゃんとヒントくらいは与えるつもりだから、貴女は今まで通り適度に手を抜いて」

 「わかりました」

 

 怪しい。

 今の会話を聴く限り、大和は最初から霞さんが一特戦の穴であり要だとわかってたみたいね。

 それをわかった上で演習中に手を抜き、理不尽な戦力差の中での演習で艦隊メンバーと霞さん本人に気付かせようとしてたってところかしら。

 しかも、澪姉さんと結託して。

 

 「霞の事が心配?」

 「そりゃあ……ね。だって姉妹艦だし」

 

 大和が去ったのを見計らってそう聞いてきた澪姉さんに返した私のセリフが意外だったのか、澪姉さんは「素直になったなぁ」なんて感想を呟きながら一特戦が走り去った方向を嬉しそうに見つめた。

 確かに、以前の私ならこんなセリフは言わなかったわ。

 でもこんなセリフを恥ずかしげもなく言えるようにしてくれたのは、すでに見えないくらいは遠くに走り去ってしまった霞さん。

 私が最も尊敬する朝潮型の姉さんなんだから。

 

 「ねえ満潮。恵を探して執務室に来るよう伝えてくれる?」

 「恵姉さんを?それはかまわないけど……。何する気?」

 「何する気。は心外だなぁ。私は、いや私たちは霞に渡したい物があるだけだよ」

 「私たち?」

 [そう、私たち……」

 

 何処か懐かしそう。いえ、哀しそうにも見える顔をしてそう言った澪姉さんは、私が「何を?」と口に出す前にこう言ったわ。

 

 「『旧第八駆逐隊の全て』を霞に託す」

 

 と、存在は識ってても、私じゃ扱いきれないと教わること諦めた初代朝潮の遺産。

 いや、姉さん達の経験までも書き加えた旧第八駆逐隊の戦闘経験そのものを霞さんに渡すと。

 

 

 

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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