艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百五十五話 朝潮と結婚する

 

 

 

 

 天使と言えば神の使い。

 口が悪い人は神の使いっ走りなどとも言いますね。

 さらに、これは日本独自なのかもしれませんが特定の人物を讃えるためにも使われます。

 例えば〇〇ちゃんマジ天使!などです。

 神様に喧嘩を売った手前、その使いである天使を使用して彼女を讃えるのは若干抵抗がありますが、改二改装を終えた彼女を見た今では使わずにはいられません!

 

 「背丈が変わっていないため制服のサイズが合っていませんが、長い黒髪と真面目を体現するような佇まいで正統派美少女と言っていいご主人さまが満潮教官達と同じ白の長袖ブラウスに黒のサロペットスカートの制服に換装した姿を拝めたのは正に僥倖。襟元の赤いリボンタイが黒の割合が多い服の中でいいアクセントとなっています。うん、控えめに言って天使です」

 「長いから三行にまとめろ」

 

 ふむ、私が大規模改装を受けるのと一緒に、満潮教官と訓練をしていたご主人さまが改二改装を受けた感想を出来るだけ短く、かつ簡潔に語ったつもりだったのですが、付き添いとして着いてきた満潮教官のお気には召さなかったようです。

 ならばもっと簡潔に……。

 

 「改二になった朝潮ちゃんマジ天使!大天使アサシオンです!」

 「なんか合体しそう」

 「あ、あの、大和さん。恥ずかしいのでそのくらいで……」

 

 合体しそう……ですか。

 確かに恥ずかしそうにモジモジしているご主人さまは合体したくなるくらい可愛いです。

 でも残念なことに、私にもご主人さまにも合体に必要な突起物がありません。

 

 「しかしご安心を!突起物などなくても、必ずやご主人さまに「気持ち良い~!」と言わせてみせます!」

 「ふぇ!?」

 「ちょっとそこの整備員さん!今すぐ憲兵さんを呼んで!ダースで!」

 

 おっと、ついつい本音が……いえ、今のは窮奇です。

 窮奇が私を乗っ取って自分の秘めた欲求を口走った。と、言うことにしておきましょう。

 

 「本当に呼ぶのかい?満潮ちゃん」

 「本当に呼……げっ、アンタは……」

 

 念のために確認しようと思ったのか、満潮教官に憲兵を呼んでと頼まれた二十代前半くらいの整備員さんが困ったように頭の後ろを掻きながら近づいて来ました。 

 お互いに顔見知りのようですが、満潮教官が心底嫌そうな顔をしてるのが気になりますね。

 

 「げっ、は酷くないかい?別に知らない仲じゃないだろ?」

 「知ってるから嫌なの!それにアンタ、昨日もまた澪姉さんと飲みに行ったそうじゃない!」

 「もしかして話を聞いたのかい!?どうだった?澪は俺のことを何か言ってたか!?」

 

 なるほどなるほど。

 満潮教官の肩を掴んでユッサユッサと揺らしている整備員さんと「や、やめ、酔う……酔っちゃ……」などと譫言を言っている教官の先程の会話である程度察しはつきました。

 つまりこの整備員さんは大城戸さんと飲みに出る仲で、さらに大城戸さんに絶賛アタック中。

 その事を知っている満潮教官が反発して一方的に嫌ってると言ったところでしょうか。

 

 「あの~満潮さん。そちらは?」

 「ちょ、ちょっと待って、吐きそう……」

 「俺かい?俺は……名乗っても艦娘さんに名前を憶えてもらえないのは鎮守府の常識だから整備員Aとでも名乗っておくよ」

 

 だからと言ってモブキャラのような名前を名乗るのはどうなのでしょうか。しかも若干長いですし。

 整備員は省略してAさんで良いかしら。

 

 「ちょっとアンタ、澪姉さんの次は朝潮に手を出そうっての?」

 「それは聞き捨てなりません。憲兵さんに突き出しますか?教官」

 「そうね大和。突き出しましょう。実際コイツ、艦娘だった頃の澪姉さんを手籠めにしたロリコンだし」

 「ほう?前科有りですか」

 

 ならば尚更放って置けません。

 教官が今だに顔を青くして気持ち悪そうにしているのは放っておきますが今のセリフは聞き捨てなりません。

 今なら艤装も背負っていますし、いっそのこと撃ってしまいましょうか。

 

 「お、お二人とも落ち着いてください!」

 「しかしご主人さま。彼は危険です」

 「そうよ朝潮。コイツはね、整備員という立場を利用して澪姉さんに近づいて薄い本的な事を繰り返し、艦娘を辞めて大人になった途端に澪姉さんを捨てたんだから」

 

 なんと鬼畜な。

 本人は「それは誤解だ!」と弁解していますが、満潮教官の殺気が隠った眼差しを見るに本当の事なのでしょう。

 ならばここは、教官の教え子でありご主人さまのペットでもある私が二人に代わってこの悪漢を成敗……。

 

 「四人で何を楽しそうに話してるんですか?」

 「み、澪姉さん!?なんでここに!」

 「なんでって……。私が工廠に来るのはおかしいですか?」

 「いや、おかしくはないけど……」

 

 噂をすればなんとやら。

 話題の中心人物である大城戸さん登場です。

 でも何故でしょう?

 大城戸さんが登場するなり満潮教官はバツが悪そうに腰が引け、Aさんは「助かった」と言わんばかりに安心してます。

 

 「大和、どうして彼に砲の照準を合わせてるんですか?」

 「えっと、満潮教官から彼が艦娘時代の大城戸さんを言葉巧みに騙して手籠めにし、艦娘を辞めるなりゴミのように捨てた最低男と聞いたので成敗を……」

 「ちょ、ちょぉ!私そこまで言ってない!」

 

 はて?多少オーバーに言ったような気がしないでもないですが、私が言った内容は教官が言った内容と概ね同じです。

 ですが、「へぇ~そんなことしてたんだ?」とイタズラっぽい笑顔を向けながら言う大城戸さんに「してないのは澪が一番わかってるだろ?」とAさんが呆れながら返している様子を見るに嘘だったようですね。

 

 「それは半分嘘ですから砲を下げてください。この人はそんなに悪い人じゃないですよ」

 「でも半分は本当なんですよね?」

 「ん~……。言葉巧み私を手籠めにした部分は合ってる……かな?」

 

 かな?

 と、再びイタズラっぽい笑顔彼を見上げながら言う大城戸さん。対するAさんは「勘弁してくれよ……」と言いながら帽子を目深に被って顔を隠してしまいました。

 

 「こら満潮。どこに行くんですか?」

 「い、いやそのぉ……。そろそろ円満さんのお昼ご飯の準備をと……」

 「まだ11:00ですしお弁当でしょ?それより彼に謝りなさい。彼との関係は前に説明したでしょう?なのに、なんでそんな嘘をついたんですか」

 「だって……」

 「だってじゃありません。私たちはそんなたちの悪い嘘をつく子に育てた覚えはありませんよ?」

 

 ふむふむ。

 今までのやり取りでなんとなくわかりました。

 つまり大城戸さんとAさんは元々お付き合いをしていて、何かが原因で別れちゃったんでしょう。

 そして大城戸さんが横須賀に着任したのをこれ幸いと、Aさんは復縁するためにアタックしている。

 それが面白くない満潮教官が、ついつい悪質な嘘を言ってしまったというところでしょうね。

 ブツブツと「姉さんたちだってたちの悪い嘘つくじゃない」って言ってるのは聞かなかったことにします。

 

 「ごめんなさい……」

 「気にしてないよ。それに、俺が最低男だってのは本当だし」

 

 そう言って、Aさんは申し訳なさそうに視線を大城戸さんに向けました。

 とうの大城戸さんは「もう昔の事ですよ」と言って気にしていない風を装っていますが、大城戸さん的には余程ショックな出来事だったらしく表情が若干曇っています。

 

 「もっと駆逐艦の気持ちを考えるべきだったんだ。成長が止まってる駆逐艦からしたら大きくなりたいはずなのに、俺は澪に小さいままであって欲しいばっかりに、「澪も艦娘を辞めたら大きくなるのかな」なんて失礼な事を言ってしまったんだから」

 

 なるほど、彼は真正のロリコンなのですね。

 今の大城戸さんでも十分ロリの部類ですが、それでも艦娘時代と比べたら育ってしまっているはず。

 それが嫌で、ついつい口から本音が出てしまったんでしょう。

 でも、大城戸さんの「あれ?」と書いてありそうなほど不思議がっているのはなぜでしょう?

 

 「大きい方が好きなんじゃないの?」

 「それは身長かい?」

 「胸ですよ。私てっきり、胸が大きい子が好みなんだと思って……」

 「いやいや、澪だって俺がロリコンなのは知ってるだろ?だから澪が艦娘を辞めるって言ったときに、澪もあの神風だった人みたいにグラマラスに育っちゃうのかなって不安になって……」

 

 ピーンときました。

 つまりこの二人が別れてしまったのは、彼がそのセリフを言ったタイミングが悪すぎて大城戸さんが勘違いしてしまったせいです。

 恐らく情事の真っ最中、例えば胸を揉んでいる時に「澪も艦娘を辞めたら大きくなるのかな」と溜息混じりに言ったのでしょう。

 それを大城戸さんは「コイツは胸が大きい子が好きなんだ」と勘違いし、そこから喧嘩に発展して別れてしまったのでしょう。

 

 「え~と……。ごめん、私の勘違いだったみたいです」

 「いや、俺も言うタイミングが悪すぎたよ」

 

 誤解が解けたせいかなんだか甘い雰囲気になってきました。成り行きを見守っている私たちをほったらかしてキスでもしそうな空気です。満潮教官はさっきまでの青ざめた顔から一転して真っ赤なふくれっ面になり、ご主人さまは話の意味が理解できずに完全に置いてきぼりになってますよ。

 

 「今晩、どうです?今日は私が奢りますから」

 「是非。と言いたいところだけど、今は大淀さんの出産準備で忙しいんじゃないのかい?」

 「そっちは霞や桜子さんがやってくれてるので大丈夫です」

 

 大丈夫じゃありません。

 いや、そっちは大丈夫かもしれませんが置いてきぼりをくらっている私たちが大丈夫じゃないです。

 満潮教官なんて大城戸さんが復縁しそうなのが嫌なのか彼を呪い殺す勢いで睨んでますし、ご主人さまは暇すぎたのか「あ、蝶々」とか言って現実逃避してます。

 

 「あ、出産準備で思い出した。大和、貴女は今から1週間、工廠から半径500m以内に立ち入り禁止ね。それと艤装の装着も禁止。私はそれを伝えに来たんだよ」

 「え?はぁ!?どうしてですか!?それって訓練も出来ないって事ですよね!?」

 

 私何かしました?

 訓練は真面目にやってますし、トラブルも起こした覚えはありません。なのに、どうして謹慎に近い扱いを受けなければならないのですか!?

 

 「念のためだよ。だって今の大淀は貴女に襲われた場合為す術がないんだよ?一応は奇兵隊の最精鋭が護衛してるけど、万が一大淀に何かあった場合次の作戦にも影響が出かねないからね」

 「襲いませんよ!妊婦を襲うほど常識知らずじゃありません!」

 「それでもだよ。言っとくけど、こう言うのは貴女の身を按じてだからだよ?もし大淀に何かしてあのオジサン……じゃないや。元帥の恨みを買ったら殺されるだけじゃ済まないよ?」

 「うぅ……」

 

 それは避けるべきですね。

 一度会ったきりですが、あの人の底の知れなさは正直怖いと思いましたから。

 でも問題は……

 

 (妊婦姿の大淀を見に行こう!今すぐに!大淀と腹ボテックスしたい!)

 「なんて言ってるんですよねぇ……」

 「誰が?何を?」

 「いえ、ここにいる人が……」

 

 と、自分の頭を指差すと、大城戸さんは察してくれたらしく「あ~、だいたいわかった」と呆れながら納得してくれました。

 だいたい腹ボテックスってなんですか。

 想像はつきますが、頭の中のクスレズ深海棲艦はどこでそんな犯罪臭しかしない単語を憶えたんでしょうか。

 

 「あの、満潮さん。先輩のご出産は近いのですか?」

 「ええ、近いわ。早ければ今週中って話だから、元帥さんも出産に立ち会うために徹夜で仕事してるそうよ」

 「そうですか……」

 「何よ暗い顔しちゃって。アンタも立ち会いたいの?」

 「はい。尊敬する先輩ですし、『猫の目』に行く度に何かと可愛がってもらったので……」

 

 そう言えば最近、と言うより大淀が横須賀に来てるのを知ってから、ご主人さまはあの三人組への恐怖を抑え付けて足繁く通っていましたね。

 私はまあ、一特戦の訓練が忙しかったのと大淀の顔が見たくなかったので行きませんでしたが。

 

 (どんな子が生まれるんだろうなぁ……。きっと私と大淀に似て美人だろうなぁ)

 「貴女には関係ないでしょ……」

 「た、確かに先輩のご出産は私には関係ないですが……。でも……」

 「あ、違っ!ご主人さまに言ったんじゃありません!」

 

 どうして毎度毎度、最悪のタイミングで最悪のツッコミを入れたくなるような事を言うんですか!

 おかげでご主人さまが涙ぐんでしまいましたし、満潮教官と大城戸さんとAさんが揃って「今のはないわぁ……」と言いながら呆れてしまったではないですか!

 このままだとご主人さまに誤解されてしまいますからなんとか誤魔化さないと……。

 

 (ああ!この溢れんばかりの愛を彼女に届けたい!)

 「うるさいですよ!ちょっと黙っててください!」

 (うるさいとはなんだ!うるさいとは!私が愛する大淀が私たちの子を産もうとしてるんだぞ?妻としては傍で愛を囁きつつ励ますのが普通だろう!)

 「いつ妻になったんですか!私は大淀と結婚した覚えはありませ……!」

 

 あ……またやってしまいました。

 ご主人さまがビックリして泣き止んだのは良いですが、残りの三人からは頭がおかしい人でも見るような目で見られています。

 もう何を言っても誤魔化せそうにないですね……。

 

 「ねえ大和、アンタって編み物は出来る?」

 「編み物ですか?毛糸と道具さえあれば可能ですが……。教官のパンツを編めばよろしいので?」

 「ぶっ飛ばすわよアホ戦艦。そう言うんじゃなくて、例えば……マフラーとか編める?」

 「簡単な物なら丸一日集中すれば編めますよ。幸い、一週間も暇になってしまいましたから編みましょうか?」

 

 仮に10cm角が15目20段だとしますと、一目編むのに1秒なら10cm角で300目になります。時間に直すと300秒。つまり6分ですね。

 私の場合ですと、一目編むのに一秒かかりませんので、一分あればだいたい100目ほど編めます。

 これを15cm幅、長さ100cmで単色のマフラーを編むとするとだいたい1時間半です。

 まあ実際は100cmだと短いので150cmくらいが妥当として二時間ですね。

 休憩を適度に取りつつ拘るなら二日はかけたいところですが……。

 

 「朝潮に編み方を教えてあげてくれない?」

 「わ、私にですか?」

 「そう、アンタが編むの。もうちょっとしたら寒くなりはじめるし、出産祝いに贈ってあげなさい」

 「編み物なんてした事ないですが……。出来るでしょうか」

 「アンタって別に不器用なわけじゃないし、集中力の保ちも良いから大丈夫よ」

 

 確かにご主人さまのようなタイプには向いているかもしれません。ハマれば一日中ひたすら編み続けそうですもの。

 

 「でも訓練が……」

 「成長痛が来るかもしれないから三日間休みだって改装前に言ったでしょ?だからその休みを利用して大和に編み方を習うのよ」

 「な、なるほど。そういう事ですか」

 

 ナイスです教官!

 これでさっきの失言が有耶無耶になりましたし、編み物講座を開く名目で堂々とご主人さまを部屋に連れ込めます!

 

 「あ、ただし執務室でね。一通り習ったら自室で編むのよ?」

 「そんな!どうしてですか教官!」

 「朝潮の貞操を守るために決まってんでしょうが!アンタと二人っきりにするとか、長門さんと二人っきりにするレベルで危険よ!」

 

 むむむむむ!

 私とあの変態を同一視するとはなんたる侮辱!でも私は怒りません。ええ、怒りませんとも。

 場所が執務室になったとは言えご主人さまと真っ昼間から一緒にいられますし、恐らく窮奇のせいで私が変な一人言を言ったんだとと察してくれた満潮教官のお気遣いのおかげで誤魔化せましたから。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 これですか?

 これは出産祝いに朝潮が贈ってくれた手編みのマフラーです。

 え?マフラーには見えない?

 ふふふ♪確かにマフラーにしては幅が大きいですよね。

 でも、これはこれで便利が良いんですよ?

 ええ、今でもこの子のお昼寝用の掛け布団として使ってますし、長さもあるから肩掛けとしても使えるんです。

 

 そうですね。

 今では私の物と言うよりこの子の物になってます。離してくれないんですよ。

 幼稚園に行くときも離してくれないので毎朝大変で……。

 

 そう言えば、つい先日面白い事がありました。

 この子があまりにもこれを離そうとしないので、「それは朝潮って子が作ったのよ」って言いながら、あの子の写真がなかったので朝潮だった頃の私の写真を見せたんです。 

 

 そしたらなんて言ったと思います。

 ええ、お察しの通りです。

 主人はそれを聞いてお酒を噴き出していましたが、私は嬉しさのあまりこの子を抱き締めてしまいました。

 

 だってこの子、私の写真を見ながら……。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦大淀。現海軍元帥夫人へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「じぃじと結婚する。ですか?」

 「そう!この子がそう言ったのを聞いてバカ亭主が凹んじゃってさぁ」

 

 出産を目前に控えてから病院に軟禁され、円満さんの護衛を海坊主さんと交代した桜子さんが暇潰しに付き合うという日々を過ごしだして早一週間ですか。

 最初こそ面倒くさがって昼寝ばかりしていたのに、今では家庭の愚痴を聞かせてくるようになりました。

 身内とは言え、人様の家庭の事情を聞くのは色々と勉強になります。

 

 「桜ちゃんはじぃじと結婚するの?」

 「うん♪じぃじとけっこんすゆ!」

 「じゃあ、ばぁばはどうなるの?」

 「ん~と……。ばぁばにもわけてあげる!」

 

 子供って恐ろしい。

 もし今のセリフをある程度育った人が言ったなら修羅場待ったなしですよ。

 

 「ね?本当に言うでしょ?今は子供だからまだ良いけど、この子がもっと育ってから言ったらアンタでもさすがに面白くないでしょ?」

 「主人が望むなら……。と、言いたいところですが、さすがに複雑ですね」

 

 この子の場合は色々と可能ですからね。

 と言うのも、この子は戸籍上主人の孫ですが血が繋がってないのです。つまり、倫理観などを無視すれば結婚から出産まで可能なのです。

 まあ子供が言うことですの本気にはしませんが、孫として可愛がっているこの子が実際にそう言い出した場合を考えると穏やかではいられませんね。

 でも……。

 

 「どうして急にそんな事を言い出したんですか?」

 「聞きたい?」

 「ええ、聞いてよろしいなら」

 「じゃあ、まずはコレを見て」

 「コレは……」

 

 写真、ですね。

 その写真には、見たことがない軍服を着て日本刀を携えた10台後半と思われる男性が写っています。

 かなり若いですが、この男性は恐らく……。

 

 「これ、二十年以上前に中東で傭兵やってた頃のお父さんなんだけどさ」

 

 桜子さんの話では、この写真は主人と同じく中東で傭兵をしていた頃の海坊主さんが入手した写真だそうです。

 当時の海坊主さんは主人が所属していた陣営と敵対していた陣営で戦っていたらしく、数百メートルも離れた位置からの狙撃を日本刀で切り払う主人の事を調べる過程で手に入れたんだとか。

 あれ?でもたしか、海坊主さんって今年で32~3歳でしたよね?

 と言う事は、この写真の当時は10歳くらいだったんじゃ……。

 

 「うちの亭主、親に売られて中東で狙撃兵として教育されたんだって」

 

 そして幾度も主人と死線を交わらせる内に主人に敗北し、捕らえられ、主人が契約を満了して日本に帰る際に一緒に連れ帰り、折を見て陸軍に入隊させたそうです。

 

 「でさ、亭主と一緒にアルバム見てたときに、桜がこの写真見つけて気に入っちゃってさ。そしたらあのセリフを言ったってわけ」

 

 なるほど、さすがは桜子さんの娘と言うべきでしょうか、男性の好みが同じです。

 それに私とも。

 主人のこの写真は初めて見ましたが、私の好みにもドストライクです。

 

 「アンタのお腹にいる子もさ。もしかしたら似たような事言うかもよ?」

 「パパと結婚する。ですか?」

 「いやいや、逆も有り得るでしょ」

 「逆……ですか」

 

 そう言えばその可能性もあるんでしたね。

 桜子さんが手を回したのか、主治医の先生もこの子の性別を教えてくれないので失念してました。

 それなのに女の子が生まれた前提で物を考えてしまうと言う事は、私は女の子が欲しいのでしょうか。

 

 「その時は、朝潮だった頃の写真でも見せてみましょうか」

 「今じゃなくて?」

 「ええ、……」

 

 だって駆逐艦 朝潮は私とあの人にとって特別な艦娘です。

 私が朝潮にならなかったらあの人と出会えていませんでしたし、再会も出来ませんでした。

 だから、この子が男の子だったらこう言って欲しいんです。

 

 「『朝潮と結婚する』って、言ってくれたら嬉しいなって」

 

 私がそう言うと、桜子さんは「母親の顔、できるようになったじゃない」と言いながら私のお腹を優しく撫でてくれました。

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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