艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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 十五章ラストです。
 次章の投稿開始は……フレッチャー掘り次第で変わります……。


第百五十八話 幕間 辰見と天龍姉妹

 

 

 

 

 

 天龍型軽巡洋艦 一番艦 天龍。

 

 

 『天龍』は戦争最初期に完成した軽巡洋艦の内の一隻であるが、後の球磨型、長良型よりも若干古く、最古の軽巡洋艦と呼べる艦型だった。

 

 ステータスがバグってると言われるほど異常に性能が高かった球磨型一番艦 球磨、ならびに長良型 一番艦 長良と違い性能は平凡以下であったが、軽巡洋艦でもトップクラスの燃費の良さと、天龍となった者達特有の面倒見の良さが相まって駆逐艦や海防艦を伴った哨戒任務、遠征任務などで重宝された。

 

 余談ではあるが、駆逐艦や海防艦を引き連れた彼女の姿が微笑ましく、まるで保育士のようなことから『天龍幼稚園』と呼ばれ親しまれていた。

 

 だが一方で、彼女には不可解な話がいくつも存在する。

 

 ※以下、数例を列挙する※

 

 天龍になった者は眼球、視力の有無に関わらず左目に眼帯を着用していた。

 

 近接艤装を装備していながら、初代天龍と四代目天龍以外は近接戦が不得手だった。

 

 天龍になる者は適合前の性格がどうあれ、必ず中二病を発症した。

 

 最後の天龍として終戦を迎えた四代目天龍は二人いた。

 

 四代目天龍がリグリア海戦の真っ最中、急に老けた。

 

 天龍になった者は五人いた。など。

 

 

 ~艦娘型録~

 天龍型軽巡洋艦 一番艦 天龍の項より抜粋。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 艦娘には特有の習性がある。

 例えば、新たに姉妹艦になった子に対して自分たちにとって都合の良い出鱈目を吹き込んだり、艦型的には姉であっても妹として扱ったりね。

 さらに姉妹艦に限らず、作戦などで一緒になった艦娘とは艦種を超えて仲良くなったりするわ。

 具体的に言うと、霞を始めとした『礼号組』や捷一号作戦時の『西村艦隊』とかね。

 

 「オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」

 

 いや、まったく怖くない。

 は、置いといて。

 艦娘に特有の習性があるように、元艦娘にも特有の習性があるわ。

 一つは後輩へ対する過剰な執着。

 私と交友関係がある元艦娘で言うと例えば桜子。

 アイツは神風のことを後輩どころか娘と思ってる節があるし、元帥から貰った宝とも言える愛刀を譲ったりもしたし、桜子が神風として培った戦闘技術を全て伝授したりもしてるわ。

 円満の場合は執着どころか依存してる節まであるわね。

 実際、円満の私生活は満潮無しじゃ成り立たないくらい酷いって話だし。

 

 「初めまして、龍田だよ。天龍ちゃんがご迷惑かけてないかなあ~」

 

 執務机越しにガンつけて来てるから視界的に大迷惑を被ってるわ。

 も、置いといて。

 二つ目は一つ目の逆。

 後輩への異常な拒絶反応よ。

 今現在私が感じている不快感が正にそれの現れね。

 目の前で調子に乗って「ホントにこんなショボい奴が提督なのかぁ?」とか言って挑発している天龍がウザくてしょうがない。出来るとこなら殴り飛ばしたいわ。

 

 「貴女達の到着は明日のはずじゃなかった?」

 「それがねぇ。天龍ちゃんがどうしても横須賀観光したいって言うからぁ」

 「はぁ?観光したいって言ったのはオレじゃなくて龍田だろ?」

 「あらぁ、そんな嘘つくのぉ?海防艦の子達が「天龍お姉ちゃん行かないで~!」って言いながら泣いてるのを見てつられて泣いちゃってたのバラしちゃおうかしらぁ」

 

 現在進行形でバラしてるわよ龍田。

 天龍もいまごろ「あ、あれは目にゴミが入って痛かっただけだ!」なんて弁解しても遅い。

 

 「姉妹喧嘩は良いから質問に答えなさい。貴女達は軽い気持ちで到着を早めたんでしょうけど、急遽貴女達の艤装を整備しなくちゃならなくなった整備員達は残業が確定してるのよ?少しは反省しなさい」

 

 こうやって艦娘に注意する度に、私も偉そうな事を言うようになったなぁって思う事が増えて来た気がする。

 いやだって、艦娘だった頃は桜子と一緒に注意される立場だったからね。

 

 「ところでよぉ提督。オレらの部屋はどこなんだ?疲れたから晩飯までゆっくりしたんだが」

 「あのね。アンタら予定より早く到着したのをもう忘れたの?」

 「え~っとぉ。それはつまりぃ……」

 「お察しの通りよ龍田。今正に、私の秘書艦が掃除してるからまだ用意できていない」

 「てぇことは何かい?アンタはオレらに野宿しろって言うのか?」

 

 そうは言ってないでしょうが単細胞。その調子に乗りまくった態度を少しは改めないと叩っ切るわよ。

 くらいの事は言ってやりたいけどここは我慢。我慢するのよ天奈。

 天龍を前にして当時の桜子たちの気持ちが嫌ってほど理解できた今の私ならと堪えられる……はずよ。

 あ、あと訂正しとかなきゃ。

 

 「ちなみに、どうして貴女達が私を提督だと思ってるのかは知らないけど、私は提督補佐であって提督じゃないわ」

 「はぁ!?だってここ、執務室だろ!?」

 「ええ、執務室で間違いないわ。ただし、ここの本来の主は今日休み。貴女達や他の到着予定者の着任報告は明日、提督が直接聞くことになってるわ」

 

 だから油断していた。

 天龍姉妹が欧州遠征に参加するため、一時的に横須賀に異動になる話は元帥から聞いて知ってはいた。

 でも、さっきも言った通り着任報告を聞くのは円満だから、私がコイツらと直接話をする事はないと高をくくって、正門の守衛からコイツらが来たと報告されるまで叢雲と呑気に「今年ももう終わりか~」とか「今年はアッと言う間だったわね~」なんて話をしながらお茶を啜ってたわ。

 

 「じゃあ、アンタ誰だ?」

 「そういえば名乗ってなかったわね。私は横須賀鎮守府提督補佐、辰見 天奈大佐よ」

 「辰見?じゃあアンタが……!」

 

 ん?どうして私の名前を聞いて驚く?

 あ、もしかして私が初代天龍だって知ってたのかしら。

 

 「横須賀に居るとは聞いてたが、まさかこんなに早く会えるとは思ってなかったぜ」

 「あら、私のことを知ってるの?」

 「そりゃあ知ってるさ。だってアンタだろ?馬鹿な妹を盾にして生き長らえ、しかも片目まで無くした間抜けな初代天龍ってのは……」

 

 天龍のセリフであっさりと限界がきた。

 私は傍らに立て掛けていた愛刀を抜き、顔を突き出しながら執務室越しに挑発してきた天龍の首筋に刃を添えたわ。

 断っておくけど私が馬鹿にされた事に対して怒ったんじゃない。ただ一つ、今の天龍のセリフでどうしても許せない部分があったからよ。

 

 「私があの子を盾にして生き長らえているのも、片目を無くした間抜けって部分もその通りよ。でもその前が違う。訂正しろクソガキ、あの子はけっして馬鹿なんかじゃない」

 「……嫌だと言ったら?」

 「このまま首を刎ね飛ばす」

 

 こんなに怒ったのはいつぶりだろう。

 今の私なら、天龍の返答次第じゃ確実に首を刎ねるわ。その後どんな面倒な事になろうともね。それくらい妹の事を馬鹿呼ばわりしたコイツが許せない。

 私の妹を、私の半身を、私の龍佳を馬鹿呼ばわりしたコイツを許すわけにはいかない。

 

 「OKわかった。初代龍田を馬鹿呼ばわりしたのは謝るよ。だから刀を降ろしてくんねぇか?アンタだって死にたくはないだろう?」

 

 天龍の呆れたように向かって左に流した視線を追うと、龍田がニコニコしながら私に薙刀型の近接艤装を向けていた。

 まあ、天龍に教えられなくても気づいてたけどね。

 龍田の殺気に気づいたからこそ、私は刀を振り抜く寸前に正気に戻れたんだから。

 

 「天龍ちゃんの非礼は私からも詫びるわぁ。だから今回は許してあげてぇ?」

 「ふん、詫びるくらいなら少しは礼儀を教えておきなさい」

 

 たぶん、今の私ならこの二人を同時に相手しても負けやしない。

 でも私は、今にも近接艤装を突き刺して来そうな龍田から視線をそらさずに刀を鞘にしまったわ。顔立ちは少し違うけど、妹によく似た子と荒事は起こしたくないからね。

 

 「天龍ちゃん大丈夫ぅ?」

 「屁でもねぇよこんなの。お前が邪魔しなきゃ、逆にオレがぶった切ってやってたんだぜ?」

 「ふぅん。でもどうやってぇ?天龍ちゃん丸腰じゃなぁい」

 「へ?丸腰?うぉお!本当だ!オレとしたことが剣も預けちまってた!」

 

 マジで得物を持ってないに気づいてなかったのかコイツ。

 口調や性格なんかは私の影響を受けてるんでしょうけど、私は得物がないのに気づかない程間抜けじゃなかったわよ。たぶん……。

 でも、仲が良いのは私と龍佳と一緒か。

 

 「んだよ気持ち悪ぃなぁ。オレらの顔になんかついてんのか?」

 「べつに。それより天龍。部屋の掃除が終わるまでまだ時間があるし、晩飯前に運動する気はない?」

 「運動だぁ?おいおい勘弁してくれよ先輩。さっきも言ったが、オレたちは飯までゆっくり……」

 

 私はお茶らけて断ろうとした天龍に殺気をぶつけて二人を黙らせ、固まった二人の間をゆっくり歩いて執務室のドアノブに手を掛けた。

 ふむ、見た感じよく鍛えてるから実力はそれなりにあるんでしょうし深海棲艦が放つ殺意は感じた事があるんでしょうけど、研ぎ澄まされた殺気をぶつけられるのは二人とも初めてだったみたいね。

 でも、私に喧嘩を売ったんだから少しくらいは痛い目に遭ってもらうわよ?

 そして私に会った事を後悔しなさい。

 私によく似てるであろうアンタを痛い目に遭わせたくなかったから、私はずっとアンタに会わないようにしてた。

 それなのに、アンタは私の前に立ち、しかも喧嘩を売っちゃったんだから。

 

 「先輩である私の実力が気になるでしょ?なんせ、世界水準軽く超えてるからねぇ」

 「け……けっ!とっくに一線を退いたロートルが何ほざいてやがる!」

 

 挑発には挑発で返す、か。

 ホント、昔の私にソックリ。ソックリ過ぎてイライラする。

 今のアンタは馬鹿なだけだったころの私よりはマシでしょうけど、中身はまるっきりあの頃の私と同じだわ。

 

 「何?ロートルだって?馬鹿め」

 

 だから思い知らせてあげる。

 二度と挑発する気が起こらないくらい徹底的に、二度と私に逆らう気が起こらないくらい圧倒的に痛めつけてあげる。

 でも勘違いしないで。

 これは八つ当たりを兼ねたお仕置き。

 昔の私によく似たアンタを身代わりにした、過去の私へのお仕置きなんだから。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 実を言うと、私は先輩に憧れていました。

 それもあって、欧州遠征のために横須賀に異動することになった時も移動日が待ちきれなくて一日早く出ちゃったんです。

 怒られちゃいましたけどね。

 

 しかも私は嬉しすぎて舞い上がっちゃって、「ずっと憧れてました!」とか「サインください!」とか言う前に挑発して怒らせちゃったんです。

 ええ、あの頃は変に斜に構えちゃってましたから。

 

 はい。

 私が先輩にノされたのはその後です。

 たしか、青木さんも見てましたよね?

 

 ふふふ♪

 そうですね。徹底的にやられました。

 使ったのはお互いに竹刀で場所も武道場でしたが、これは海上でも勝てそうにないなと思いましたよ。

 

 だから……だったのかもしれません。

 だから私は、あの時片足を失うことになるとわかっていながらあの人に託したんだと思います。

 

 いえ、後悔はしていません。

 だって片足と引き換えに、私が憧れた初代天龍の勇姿をこの目で見られたのですから。

 

 

 

 

 ~戦後回想録~

 元天龍型軽巡洋艦 一番艦 天龍へのインタビューより。

 

 




次章予告。



 大淀です。


 年明け早々にも関わらず慌ただしい横須賀鎮守府。
 欧州への出港準備や私と大和さんの決闘などで艦娘達はお正月休みどころではありません。
 出発したら出発したらで、今度は深海棲艦がワラワラ出て来てやっぱり大忙し。でも、そんなの今に始まった事じゃないですよね?
 さあ大和さん。こういう時こそ景気づけに波動砲でドーン!と薙ぎ払っちゃってください。


 次章 艦隊これくしょん『希望と絶望の聖譚曲(オラトリオ)

 お楽しみに。


主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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