艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第十五話 大和、砲雷撃戦、はじめます!

 

 

 他の鎮守府や泊地に居る戦艦はどうか知らないけど、横須賀鎮守府に所属している戦艦にはある特徴がある。

 それは駆逐艦に妙に執着している事。

 浜に居る私から100mほど離れた洋上で大和に砲撃の仕方を教えている長門さんは朝潮を偏愛し、ストーカー紛い……。いや、ストーカーしてるし、武蔵さんは佐世保に転属になった五月雨、春雨の後任として第二駆逐隊所属となった清霜にご執心。

 長門さんみたいにストーカーはしてないけど、よく一緒に居る所を見かけるわ。まあ、あれは清霜の方が武蔵さんに懐いてるって感じもするけどね。

 陸奥さんは……。あの人はよくわかんないや。いっつも「あらあら」言ってるイメージしかないわ。荒潮が言うには、『ムツリム』とか言う宗教の教祖らしいけど。

 

 「それに大和も……」

 

 何故か朝潮にお熱。

 最初こそロープだったけど、今では制服の首輪に犬用のリードを着けて朝潮と散歩してるわ。

 そのせいか知らないけど、朝潮は『大和の飼い主』もしくは『戦艦調教師』なんて渾名を着けられちゃてるわね。

 

 『もっと砲身に意識を集中させろ!グイーン!って感じだ!』

 『グ、グイーン!?抽象的過ぎてわかりません!』

 『何故わからん!こうだ!こう!シャッキーン!って感じで立たせるんだ!』

 

 なるほどわからん。

 長門さんの艤装の動きから察するに、砲塔を旋回させてからの射角修正の仕方を教えてるんだとは思うけど、大和は長門さんが発する変な擬音?に意識を持って行かれて理解が追い付いてないみたいだわ。

 

 『まったく、話をちゃんと聞いてたか?』

 『聞いてましたけど……』

 

 グイーン!とシャッキーン!しか覚えてない。

 もうちょっとマシな教え方があるでしょうに……。少しだけ大和に同情するわ。

 

 『いいか?風向きやら目標との距離の算出やら弾道計算やらと言った小難しい事をする戦艦も居るが、だいたいあの辺に当てたいと思えば当たるものなんだ』

 『え~本当ですか~?』

 

 それに関しては長門さんに同意。

 駆逐艦は射程が短いから余計でもそう思うんでしょうけど、自分が使う砲の射程と弾速さえ覚えていれば長門さんが言ったように感覚で当てれるわ。 

 まあ、射程が十数kmもある戦艦や実艦じゃそうはいかないでしょうけどね。

 

 『本当だとも。私は教え方には自信があるんだ。私の言う通りにしていれば間違いはない!』

 『その自信はどこから来るんですか?』

 『私は艦娘になる前は小学校の教師だったからだ。保護者の方々からも「良い先生だ」と言われていたんだぞ?』

 『と言う夢を見たんですか?』

 

 だと思うよ?

 あんな教え方じゃ一桁の足し算だって理解できないわよ。「これをガシン!として5だ!」とか「2つほどビューンと来て7になる!」って感じで教えそうだもん。

 

 『夢…か……。そうだな、あの頃の事がもう夢のように思えるよ』

 『満潮教か~ん。長門さんが物思いに耽りだしたんですけどぉ……』

 「そうみたいね。時間も丁度良いから戻って来なさい。休憩にしましょ」

 

 大和の嚮導をするようになって早一週間。

 訓練初日みたいに暴走の兆候を見せることもなく、大和はそれなりに様になった航行が出来るようになって砲撃訓練に移っていた。

 嚮導してみて私が大和に抱いた感想は、覚えは悪くないけど良くもないって感じね。練度の上がり方も並。要は普通よ。

 

 「はぁ……。満潮教官が教える事は出来ないのですか?長門さんの言ってることがサッパリ理解できません」

 「無理ね。駆逐艦、特に私みたいなタイプの艤装とアンタの艤装じゃ操作方法が全然違うから」

 

 物思いに耽ったまま洋上でフリーズした長門さんを置いて私の元に戻って来た大和は、盛大に溜息を吐いて愚痴を漏らした。愚痴りたい気持ちはわかるから文句は言わないであげよう。感謝しなさい?

 

 「本当にわからないんですか?」

 「本当よ」

 

 力場の使い方自体は変わらないはずだけど、砲塔の旋回や射角の変え方はもちろん、狙いのつけ方なんて全く分かんないわ。駆逐艦に多い手持ちの兵装なら銃火器と大差ないんだけどなぁ……。

 

 「満潮教官の砲も射角を変えれますよね?」

 「変えれるけど……。駆逐艦と戦艦じゃイメージの仕方が違うと思うの。だから、あえて教えなかったのよ」

 「イメージの仕方…ですか?」

 「そう。これは私の場合だけど、砲身を指だと思い込んで動かしてるわ」

 「なるほど!指ですか!」

 

 何がなるほどなのかは置いといて、今のが砲身の動かし方のヒントになったみたいね。「指…指…これは指……」とか言いながら砲身を動かそうとしてるわ。

 

 「動いた!ちょっとですけど動きました!」

 「その程度の事で騒がないの。アンタみたいなタイプの艤装は、砲身を動かさなきゃ狙いもまともにつけれないはずなんだから出来て当たり前なのよ」

 「教官のは違うんですか?」

 「私は砲身を一々動かしたりしないもの。砲身を動かすより、腕を動かす方が簡単でしょ?」

 「言われてみると確かに……」

 

 砲身だけを動かして、見た目の射角と実際の射角を誤認させる『アマノジャク』って呼ばれる技があるにはあるんだけど、上下にしか砲身を動かせない朝潮型の連装砲じゃ恩恵が少ないから私はあんまり使わないかな。

 『姫堕ち』中なら話は別だけどね。

 

 「砲身が指なら…砲塔は手の平……。手の平……手の平……」

 「お、やるじゃない。その調子で良いんじゃない?」

 

 大和は目を瞑り、「手の平」と繰り返しながら両舷の砲塔を左右に振り始めた。

 砲塔と一緒に手首が動いてる様が「メガネ~メガネ~」って言いながらメガネを探してる人みたいで滑稽ではあるけど、大和なりに頑張って動かし方を模索してるみたいだからチャチャは入れないでおこう。

 

 「なんだ。やれば出来るじゃないか。メガネを探してる人みたいだが」

 「それは言わないであげて」

 

 ようやく浜に戻って来た長門さんが、私が思うだけで口には出さなかった事をあっさり言ってくれた。大和の耳には届かなかったみたいだけど、集中してるみたいだから邪魔しないで上げてよね?

 

 「長門さんもあんな感じだったの?」

 「いいや?私が砲塔の操作を覚えたのは……『長門』になって1年くらい経った頃だったかな。それまでは操作できるとさえ考えなかった」

 「なんで砲塔を操作しようと思わなかったの?」

 「撃てれば十分だと思っていたんだ。私や大和みたいなタイプの艤装は『撃て』と念じる事で撃つ事が出来るからな。私は砲塔を動かさず、体を向ける事で照準していたよ」

 

 長門さんが言うには、『機関』と『兵装』が一繋ぎになっているタイプの艤装は装填から照準、発砲まで全て頭の中でイメージして実行するらしい。イメージしやすいように声に出す事もあるそうよ。

 『艦体指揮』と似てるかな。もっとも、あれは艤装だけでなく体の操作も半分妖精さんに委ねちゃうけど。

 

 「そんなある日、いつも通り大きく体を逸らして射角を修正しようとしてたら「砲身を動かせないの?こう…ピ-ン!って感じで」と言われてな。それからだ。私が砲塔操作の練習を始めたのは」

 

 なるほど、そう言われてその通りに練習して実際にできるようになっちゃったから、長門さんはその教え方で間違いないと思っちゃったのね。

 それにしても…長門さんにアドバイスした人の言葉を聞いて、桜子さんの顔が思い浮かんだんだけど……。思い過ごしよね?

 

 「長門さんは、どれくらいで出来るようになったの?」

 「私はすぐに出来たさ。ああ、断っておくが天才だからとか言うつもりはないぞ?その頃には練度が30を超えていたからだろうが、思っていたよりアッサリ出来たんだ」

 

 へぇ、練度が上がれば砲塔の操作もスムーズに出来るんだ。

 それもそうか。練度とは同調率の別称だもんね。

 この数字が増えれば増える程艤装の反応が良くなるんだもの。例えば、練度30なら同調率30%って事よ。

 レベルと言う子もいるかな。

 駆逐艦なんかは練度を聞いた時に、ゲームに影響されてるのか「ぺぺぺぺっぺっぺー♪」と、レベルアップ時の音楽的な物を口ずさんでる子が稀にいるわ。

 

 「大和の練度はいくつなんだ?」

 「3よ。今日まで航行訓練しかしてなかったんだからそんなもんでしょ?」

 

 余談だけど、艦娘は自分の練度を直接知る事が出来ない。妖精さんから艦娘の練度を聞かされた提督、もしくは提督補佐官から知らされて初めて知る事が出来るの。

 ちなみに、私の練度は53万です。

 は、冗談として教えてあげない。最高練度である99よりは上だとだけ言っておくわ。

 

 「3…か。実戦を体験させれば一気に上がるのだろうが……」

 「まともに砲も撃てないのに?自殺行為でしょ」

 「いや、実戦の空気を感じるだけで十分すぎる経験になる。いくら訓練を重ねて練度を上げても、実戦で何も出来ずに死んでいった者は多いんだぞ?」

 「わかってるわよ」

 

 私も初実戦は散々だったなぁ……。あれはたしか、着任して一か月くらい経った頃だったっけ。

 哨戒中に発見した敵駆逐隊と交戦したんだけど、私は恐怖のあまり腰を抜かして動けなくなってしまった。

 姉さん達が一緒だったから無傷で帰れたし、動けなくなった事を責められもしなかったんだけど、私を守りながら戦った姉さん達に申し訳なくて落ち込んじゃったな……。

 

 「まずは演習からか。三日後に、元帥に叢雲との演習を披露する予定なのだろう?」

 「らしいわね。円満さんが何を企んでるのか知らないけど、叢雲さんを演習相手にするなんて酷すぎるわ」

 「フルボッコは確定だろうな。今や、叢雲は横須賀が誇るネームド駆逐艦だし」

 

 ネームド…ねぇ……。

 叢雲さんはお姉ちゃんと同期の駆逐艦で、辰見さんの秘書艦も務める横須賀鎮守府No.1の駆逐艦よ。周りからは『魔槍 叢雲』って呼ばれてるわ。

 なぜそんな異名を付けられたかと言うと、あの人の決め技、必殺技とでも言うべきモノに理由がある。詳細は省くけどね。今は関係ないから。

 

 「だが、お前が相手なのよりはマシだと思うが?」

 「買いかぶり過ぎよ。私は強くなんてないわ」

 「強く見られたくない。の間違いではないか?私が知るどの駆逐艦よりお前は強い。先代の朝潮よりもな」

 「そんな事ないでしょ。私はお姉ちゃんに負けてるのよ?『十二単』の状態で」

 「大淀に(・・・)だろ?」

 

 まあ…そうなんだけど……。

 もう一年近く前かな。

 私が『姫堕ち』を使えるようになってからしばらく経って、お姉ちゃんが艦種変更実験の成功で大淀となった頃に、私達の戦闘力を確認する意味合いで演習をした事があるの。

 もちろん、わざわざ離島に移動し、万が一に備えて長門さんや武蔵さんまで配置して、誰にも見られない様に奇兵隊が監視してる状況下での演習よ。『姫堕ち』を事情を知らない艦娘に見られるわけにはいかないからね。

 どんな事情かって?

 それは艤装の核に使われているのが深海棲艦だって事。艦娘歴の長い人は艦種を問わず知ってる事が多いんだけど、艦娘歴の短い子はそんな事知らない。知ってる人も、この事実を不用意に漏らさないよう厳命されてるわ。

 敵である深海棲艦の力を利用してるなんて知れたら士気が下がるからってのが理由みたい。

 私は気にしてないけどね。

 

 「お姉ちゃんに負けたんだから同じよ。もう少し考えて動けば…とは思ったけど……」

 「そうだな。もう少し『脚技』を使うタイミングを考えてれば、ガス欠で動けなくなる事もなかっただろうな」

 

 本当にそうね。

 私は『姫堕ち』で跳ね上がった自分のスペックに慢心し、『脚技』を多用しすぎて燃料的にも体力的にもガス欠になって負けちゃった。お姉ちゃんは『トビウオ』くらいしか使わなかったって言うのに……。

 

 「経験の差…だと思いたいけど……」

 「それに尽きるだろう。性能も手札の数もお前の方が勝っていたのだから」

 

 そうよね。お姉ちゃんと私じゃ実戦経験に差が有り過ぎる。だって、お姉ちゃんは姫級や水鬼級の戦艦とやり合った経験があるのに、私が戦ったことがあるのは精々タ級。しかも、全力を出しても勝てないと思えるような敵と戦った事がない。

 死線すら見たことがない私と、死を力尽くでねじ伏せた事があるお姉ちゃんじゃ差があって当然ね。

 

 「大規模作戦…近い内にないかしら……」

 「不謹慎な事を言うんじゃない。大規模作戦などないに越したことはないんだ」

 「わかってるわよ…言ってみただけ」

 

 国の平和を守るべき艦娘が戦いを望むなんて本末転倒だとは思うけど、私は戦いたくてしょうがない。

 力を試したい。全力で戦いたい。深海棲艦共を海の底に沈めてやりたい。最近の私はそう考えることが多い。

 大規模な戦闘になれば、仲間の艦娘が死ぬかも知れないのに……。

 

 「……まあ、お前の気持ちもわからんではない。私とて、改二改装を受けた時は力を試してみたくてウズウズしたしな」

 「慰めなんていらない」

 「そう言うな。いずれ力を存分に振るう機会はあるさ。私の勘がそう言っている」

 「それ、当てになるの?」

 「なるとも。今や私は、鳳翔と並んで最古豪の艦娘だぞ?」

 

 と、海の古強者は言ってるけど、別にそういう情報を掴んでるわけでもない単なる勘でしょ?

 勘が見聞きできる情報以上に頼りになる場合があるのはわかってるけど、勘なんて外れる方が多いじゃない。しかも他人の勘。朝潮を涎垂らしながら追いかけ回す人の勘なんて信じられないわ。

 

 「よし!だいたいわかりました!長門さん!見て貰ってよろしいですか?」

 「構わないが…休憩は良いのか?」

 「はい!感覚を忘れない内に『撃つ』までやってみたいんです!」

 

 練習熱心だこと。休むことも大事なんだから休憩しなさいと言いたいところだけど、やる気に水を差すのも何だから言わないでおくか。

 長門さんも同じ事を考えたのか、「やれやれ」とか言いながら大和の方に向かい始めたし。

 

 『装填しているのが模擬弾だからと気を抜くんじゃないぞ?実戦だと思って撃つんだ』

 『はい!あ、でもぉ……。具体的にどうすれば?』

 『具体的に?そうだな……。私だったら、気合を入れるために「ビッグ7の力、侮るなよ!」などと言ったりするが』

 『なるほどなるほど……。どんなセリフが良いでしょうか……。満潮教官、何か良いのありませんか?』

 

 長門さんと一緒に再び沖に出た大和が、私からすると心底どうでも良い事を聞いてきた。

 んなもん人それぞれでしょうが。私に聞かなくても長門さんの真似してりゃ良いじゃない。いや、それはダメか。大和はビッグ7じゃないし……。

 

 「砲雷撃戦始めます。とかで良いんじゃないの?」

 『良いですねそれ!いただきます!』

 

 ご馳走さまもちゃんと言いなさいよ~。なんてね。

 そう言えば、砲雷撃戦って砲撃と雷撃を一斉に行う事よね?駆逐艦や軽巡洋艦を連れてるなら兎も角、砲撃しか出来ない大和が砲雷撃戦云々言うのは適当なのかしら。

 

 『目標、距離15000。全主砲、徹甲弾装填!撃ち方ー始め!』

 『了解!大和、砲雷撃戦、はじめます!』

 

 長門さんの号令に従って、大和は模擬弾が尽きるまで砲撃を何度も何度も繰り返した。

 浜に戻って来た時には、ヘロヘロになってたわね。

 「耳がキンキンしますぅ」とか「体中がビリビリしますぅ」とか色々言ってたけど、「お腹が空きましたぁ……」ってセリフを聞いた時は軽く笑っちゃった。

 だって、そのあとにグウゥ~~~ってお腹鳴らすんだもん。お腹って本当に鳴るんだって変に感心しちゃったわ。

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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