艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百六十二話 その人、別の世界で大和さんに会ったそうです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大和型戦艦一番艦 大和。

 

 大和と言えば艦娘の代名詞。

 と、言われるほど国民の認知度が高い彼女であるが、彼女が艦娘として活躍した期間は二年に満たない。

 

 にも関わらず、彼女が日本人のほとんどに知られ、親しまれているのは彼女が関わった作戦が多く映像化されているせいもあるが、彼女の最後が日本人の心の琴線に触れたからだとも言われている。

 

 

 ~艦娘型録~

 大和型戦艦一番艦 大和の項より抜粋。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 「は?はぁ!?今なんて言った!?」

 

 年が明け、欧州への遠征の準備で上から下までてんてこ舞いな日々を送っていたある日。

 私こと矢矧が大和と一緒に居酒屋 鳳翔で休日前の夕飯(飲酒)を楽しんでいる最中、大和が思い出したかのようにとんでもない事を口走った。

 そのとんでもない事とは……。

 

 「大淀と決闘するって言いました」

 「や、やっぱり聞き間違いじゃなかった……」

 「その様子だと、矢矧は反対みたいですね」

 「当然でしょ?ただでさえ大事な時期に……」

 

 いや、それは名目か。

 確かに今年、具体的には二ヶ月後の三月三日に欧州へ出発予定だから大事な時期なのは間違いないわ。

 でも私は、そんなこと以上に二人に争ってほしくないと思ってる。

 大和が艦娘を目指した理由を知っていても、友人と憧れの人が争う場面なんて見たくない。

 

 「それでもアンタは、私の制止なんて無視して戦うんでしょうね」

 

 

 そう言いながら向けた私の視線と問いを、大和はグラスに注がれたお酒(たぶん日本酒)を飲み干すことで肯定した。

 いや、肯定したと私が思い込んだだけかしら。

 それとも、思い込みたいだけなのかしら。

 

 「こう言って安心してくれるかどうかはわかりませんが、私は復讐のために決闘を挑んだわけではありません」

 「じゃあ、どうして?」

 「簡単ですよ。単に私は、今の私がどれくらい強いのか確かめたいだけです」

 「嘘よ。そんなことが目的なら相手は大淀さんじゃなくても良い。そうでしょ?」

 

 大和は困ったような顔を私に向けることで、今言ったことが嘘だと認めた。

 まったく、アンタは私を見くびりすぎよ。

 私の事を心友だなんだと言うクセに、アンタは私を馬鹿にしている。

 私じゃアンタの悩みなんて解決できない。理解できない。相談にも乗れない。そう思ってる。

 

 「馬鹿にすんな!私はアンタの心友なんでしょ!?だったら少しは相談しなさいよ!一人で悩まないでよ!前にも言ったでしょうが!」

 「馬鹿になんてしていません」

 「じゃあなんで……!」

 「え~と……怒りません?」

 

 内容による。とは口に出さずに、私は大和の目を真っ直ぐ見ることで聞く意思はあることを伝えた。

 さて、大和はなんて言うつもりかしら。

 

 「矢矧を傷つけたくなかったんです......」

 「はぁ?私が傷つく?なんで?」

 

 たしかに大和と大淀さんが戦うところなんてみたくはないと思ってるし、見たら複雑な気分になるのは間違いないわ。でも傷つくってほどじゃ......。

 いや、もしかして大和は私が大淀さんに憧れているのを知っていて、その大淀さんに怪我をさせたら私が泣いちゃうとかそんな風に考えたのかも。 

 

 「だって、私が怪我したら矢矧が泣いちゃいそうで......」

 「そっちかよ!私は逆を考えてたわ!」

 「え?逆?どうしてですか?」

 「どうしてって......。大淀さんは私の憧れの人だから......」

 「大淀に憧れてる?え?頭大丈夫ですか?」

 「おいコラ、どうして大淀さんに憧れてるって打ち明けたら頭の心配をした?」

 

 大和は筋違いの復讐心からいまだに嫌ってるんだろうけど、大淀さんってその美しい容姿と軽巡洋艦でありながら戦艦や空母を差し置いて海軍最強と謳われる強さで、今でも軽巡の候補生から羨望の的にされてるんだからね?

 

 「だって、大淀ってかなりお馬鹿ですよ?」

 「アンタがそれ言う!?アンタだって相当じゃない!」

 

 大淀さんは頭が良さそうな外見の割りに頭は良くない。そのことは霞や涼月からも聞いたし、実際に何度か会って話す内に「あれ?この人って実は……」みたいに考えたこともあったわ。

 でも大淀さんは大和よりはマシ。

 だって大和は突然に突拍子もないことを言い出すけど、大淀さんは考えてることが顔や態度に出るからわかりやすいもん。

 

 「大淀と一緒にしないでください!私は彼女みたいに本能だけで動いたりしません!」

 「いやいやいやいや、アンタって本能でしか動いてなくない?」

 「失礼な。私はちゃんと熟考した上で行動しています」

 

 ああそうですか。

 私を含めた大多数の目からはノリで動いてるようにしか見えないのに、アンタはあくまで熟考して動いてるって言うのね。

 

 「その熟考した結果が大淀さんとの決闘?馬鹿なんじゃないの?」

 「だって決着を着けたいですし、それに……」

 「それに?」

 「未練を、残したくないんです」

 

 未練を残したくないですって?

 それってつまり、アンタは欧州での作戦で死ぬつもりってこと?

 

 「あ、勘違いしないでくださいね?今の私は死ぬつもりなんてないですから」

 「じゃあどういうこと?」

 「偽りのこの世界を、私にとって真実の世界にするために必要なんです」

 「訳わかんないからもうちょっと分かりやすく言え」

 

 大和って若干中二病入ってる?

 いや、ここは以前聞いた大和の事情を加味して、少しは真面目に考えてみようかしら。

 以前、呉で別れる前に大和は、自分は別の世界線で沈んだ戦艦大和の生まれ変わりとか言ってた。

 それを事実と仮定するなら、別の世界線での記憶がある大和にとって、この世界は偽りの世界と言えなくもないわね。

 じゃあ、真実の世界にするってのは?

 

 「私はこの世界にとっては異物です。少し気取った言い方をすれば特異点でしょうか」

 「要は、そうじゃなくなりたいって言いたいの?」

 「はい。私は一人の人間としてこの世界で生きていきたい。欧州での作戦は、この願いを叶えるための手段です。でも今のままじゃダメなんです」

 「今の……いや、大和になる前の自分と決別でもしたいの?」

 「そうとも言えます。私はかつての戦争で沈んだ戦艦大和でも、大淀を恨んでいた頃の大和撫子でもなく、今の『私』として生きていきたいです」

 

 だから、大淀と戦うんです。

 と締めくくって、大和は鳳翔さんに〆のラーメン(特盛)を注文した。

 今まで散々食ったのにまだ食うのかよ。は、置いといて、それが大淀さんと決闘したい本当の理由か。

 つまり大和は過去の自分と決別、いえ受け入れて、新たな大和としてこの世界に再び生まれたいんだと思う。たぶんね。

 

 「はぁ……。アンタって相変わらず面倒臭い」

 「でも、最後まで付き合ってくれるのでしょう?」

 

 最後までって何処まで?

 とまでは聞かない。

 大和が言う『最後』とは恐らく本当に最後。戦争を終わらせた先までだわ。

 

 「良いわよ。アンタくらい面倒な友人が居た方が人生に張りあるでしょうから」

 

 私がそう返すと、大和は満面の笑みを浮かべて鳳翔さんからラーメンを受け取り、ラーメンは飲み物ですと言わんばかりの勢いで食べ始めた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 私の心境なんかお構いなしにね。

 

 あの時だってそうよ。

 大和は私にそんな事を言ったのに、必ず戻るって言って『穴』に飛び込んだのに帰ってこなかった。

 

 ええ、大嘘つきよアイツは。

 欧州棲姫やその近衛を相手にしてた私たちに「行ってきます」って言ったくせに、アイツは「ただいま」って言ってくれなかったんだから。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 矢矧へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 「いらっしゃいませ~♪って、なんだアンタたちか」

 「なんだとはご挨拶だな阿矢さん。遥々呉から可愛い元部下が来たって言うのに。なあ?霧衞(きりえ)

 「まったくです。有磯(ゆうき)への対応はそれで十分ですが私のことはもっと歓待してください」

 

 などと、店に入るなり管を巻き始めたのは元磯風の沖田 有磯(おきたゆうき)と元浜風の浜田 霧衞(はまだきりえ)

 二人とも普段は呉にある有磯のお祖父さん、元ワダツミ艦長の家に住んでるんだけど、今日は事情があって横須賀まで出てきてもらったの。

 でも変ね。

 同じく呉に住んでる元雪風の幸坂 雪奈(こうさかゆきな)と一緒に出てくるって聞いてたのに雪奈の姿がないわ。

 

 「入り口で突っ立ってないでとりあえず座りなさいよ。それと、雪奈は?」

 「いやぁそれが、横須賀中央駅で青木さんに遭遇して……」

 「雪奈を置いて逃げてきました」

 「おいおい霧衞、もうちょっとこう……」

 

 言い方があるだろ。って言おうとしたのかな?は、まあ良いか。

 つまり三人は、ほんの数十分前までここに居た青木さんと駅に着くなり偶然出会い、取材を申し込まれたけど面倒に思った二人は雪奈を残してここまで逃げてきたってことね。

 

 「お?そこでコーヒーカップを洗ってるのは神凪じゃないか。神凪も行くのか?」

 「行くって……どこに?」

 「大和さんの三回忌だよ」

 「あ~、もうそんな時期か」

 「なんだ、違うのか」

 

 うん、違う。

 神凪が日曜日などの休み日にここで暇を潰すのは毎度の事よ。

 ちなみに今は、さっきまで青木さんから取材を受けてた私とバカ亭主の代わりに洗い物をしてもらってるわ。

 それにしても、カウンターで洗い物をする姿が意外と様になってるわね。神凪って腐っても女優だし、客寄せパンダになりそうだから日曜日だけでもバイトしてもらおうかしら。

 

 「今日出るの?」

 「今日はここで一泊して明日だな。神凪も行かないか?」

 「行きたいけど……。明日から撮影が入ってるから無理かなぁ」

 「カミレンジャーのか?」

 「ううん、そっちは終わってる」

 「じゃあ何の?」

 

 有磯に「何の?」と聞かれて露骨に嫌そうな顔になったわね。

 神凪って女優業は割りと楽しんでやってるから、そんなこの子が嫌がるって事は……。あ、たぶんアレだ。

 

 「前に愚痴ってた写真集?」

 「ええ、冗談だと思ってたのに、先輩ったらマジでやるつもりだったらしくて……」

 「水着?」

 「()、あります。ヌードじゃないだけマシですけどね」

 

 女優としてのステップアップだと思って諦めろ。

 とは言いにくいわね。どうせ桜子さんあたりが似たようなこと言ってそうだし。

 

 「女優も大変だな。次の作品は決まってないのか?」

 「決まってるよ。でもクランクインは冬からなの。今回の写真集はそれまでの繋ぎみたいなものね」

 「それも桜子さんプロデュース?」

 「スポンサーとしては参加してるけど違うわ。でも、その映画の内容がちょっとね……」

 

 内容がよほど酷いのか、神凪の表情がみるみる曇りだした。

 神凪にこんな顔をさせるなんて、いったいどんな内容なのかしら。聞いて教えてくれるかしら……。

 

 「どんな内容なの?」

 「その映画、あの時の作戦がモチーフなんです」

 「あの時って……。捷一号作戦」

 「その後から、です」

 「その後ってことは……」

 

 私たちにとって最後の大規模作戦。

 スエズ運河突破から始まった欧州棲姫討伐作戦かしら。しかも神凪が乗り気じゃないところを見るに、恐らく結末は……。

 

 「大和が戦死するまで描くってことね」

 「ええ、大和さんの最後を描いた作品はこの三年余りで複数作られていますが、大和さんの最後は誰も知らない分、好きなように描けますから制作側からしたら意欲をそそられるようでして……」

 「そう……また作られるのね」

 

 気に食わない。

 アイツの死を金儲けに使う奴らも気に食わないし、今まで作られた映画やアニメのラストも気に食わない。

 最初に公開された作品のラストはたしか、大和が『穴』に飛び込んだところで終わって消化不良気味だった。

 次に公開された作品では、『穴』の中に入るなり出てきた映画オリジナルの深海棲艦と大和が刺し違えるって内容だったわね。

 他にも、大和の内には実は深海棲艦が潜んでて、『穴』に入るなり大和を乗っ取って人類を滅ぼそうとしたその深海棲艦を大和が説得して一緒に消えていくってのもあったわ。

 そう言えば、捷一号作戦時の戦いをモチーフにした映画が近日公開だったっけ?タイトルはたしか『たった二人の連合艦隊』だったかしら。

 

 「神凪が出る映画のラストはどうなるんだ?」

 「まだクランクイン前なのに教えてくれるわけないじゃないですか有磯」

 「しかしだな霧衞。大和さんを題材にした映画なら私たちにも関係あるんだ。気になるだろう?」

 「それは、そうですが……」

 

 たしかに気にはなる。

 気にはなるけど神凪の様子を見るにろくな結末じゃなさそう。

 

 「実は私もラストは知らないのよ」

 「台本を貰ってないのか?」

 「台本は貰ってるわ。でもラストは書かれてないのよ。それと言うのも、今回の映画で監督を務める人が変な事を言ってるらしくて決まらないんだって」

 「変な事?」

 「うん。どうもそれが、桜子先輩がスポンサーになるのを決めた切っ掛けでもあるらしいの。しかも好きなだけ使えって言ったらしいわ」

 

 ふむ、あの他人の金は好き放題使うけど自分の金は頑なに出さない桜子さんにお金を出させたんだから、その監督は相当変な事を言ったのね。

 しかも際限無し。

 いったいその監督は何て言ったのかしら。

 

 「その人って、それこそ学生時代から変人で通ってたらしくて、昔から「僕は大和の映画を撮るために生まれたんだ」って言ってたらしいんです」

 「ねえ神凪、昔からっていつから?」

 「子供の頃からだそうです」

 「それ、実艦の大和じゃなくて?」

 「はい。実艦ではなく艦娘の大和さんの映画です。それを、深海棲艦が出現する前から言っていたそうなんですよ」

 

 有り得ない。

 そう思ったのは私だけじゃなくて、訝しそうにお互いの顔を見合ってる有磯と霧衞も同じみたいね。

 

 「それが桜子さんの琴線に触れたの?」

 「いえいえ、それは後にわかったことです」

 「じゃあ、その監督は桜子さんに何て言ってお金を出させたの?」

 「それが、一緒に聞いた私自身信じられないんですが、その監督は「ラストは大和本人に聞く」って言ったんです」

 「はぁ!?」

 

 大和本人に聞く?

 それこそ有り得ないわ。

 だって大和は死んだ。

 あの戦いが終わってから散々、それこそ艤装が使えなくなるまで探したけど、見つかったのは艤装の残骸だけで遺体は見つからなかった。

 だから、あの作戦が終わった一年後に大和が戦死と判定された時に、私たち一特戦のメンバーは泣く泣くそれを受け入れた。

 それなのに、今さら大和が生きてるみたいなことを言われても……。

 

 「監督が何を思ってそんな事を言ったのかはわかりません。でも桜子先輩は、次に監督が言った一言で出資を決めました」

 「何て、言ったの?」

 

 え~と……。と言いながら頬を掻く神凪に、固唾を飲んで神凪が口を開くのを待つ私たち三人の視線が集中した。

 そして神凪は、「怒らないでくださいね?」と前置きしてからこう言ったわ。

 

 「その人、別の世界で大和さんに会ったそうです」と。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 青木さんは今の話信じられる?

 え!?信じるの!?

 雪奈は?そうよね。普通は信じられないわよね。

 

 私だって、大和から自分は別の世界の大和の生まれ変わりだ~。なんて話は聞かされたけどそれでも信じられないもの。

 

 まあそれはともかく、どうして青木さんが一緒に車に乗ってるの?

 はぁ!?大和旅館についていく!?

 

 いや、べつにダメじゃないけど……。

 これから香澄たちも迎えに行かなきゃなのよねぇ……。全員乗れるかしら。

 あ、一番後ろの席を出せば乗れる?

 へぇ、このハイエースって9人乗りだったんだ。知らなかった……。

 

 え?誰が来るのか?

 え~とたしか提督とか元帥さんとか……あ、あと朝海さんも来るって言ってたわね。

 

 ええ、結構な面子が集まるわよ。

 だから急に加わった青木さんの部屋は無いかもしれないから、最悪この車で寝てね。

 

 は?私の部屋で寝かせろ?

 冗談じゃない!絶対に不可よ!

 

 何でかって……。

 何でもよ!せっかく温泉旅館で二人部屋が取れたんだから邪魔しないで!

 

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 矢矧へのインタビューより。

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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