艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百六十三話 大淀、討ち取ったり

 

 

 

 騒々しい。

 が、ここ最近の横須賀鎮守府にピッタリな言葉ね。

 ただでさえ欧州への出発準備で騒々しかったのが、各泊地、各鎮守府の艦娘を乗せたワダツミが横須賀に入港してからいっそう騒がしくなったわ。

 得に駆逐艦同士のいざこざが目を引いたわね。

 まあ基本的に血の気が多く、自分が所属している鎮守府こそ一番と思っているようなやつらが一ヶ所に集められたら当然よね。

 今は落ち着いてるけど、ワダツミが入港してしばらくはそこかしこで「気取った横須賀野郎をぶっ潰せ!」とか「大湊の田舎者が調子に乗んな!」とか「佐世保舐めんなよ!」なんて罵詈雑言が飛び交ってたわ。

 当然、私も何度か喧嘩を売られた。

 まあ、全員工廠送りにしてやったけどね。性懲りもなく私の貞操を脅かしてきた時雨は特に念入りに。

 

 「満潮さん。大和さんと先輩の名前の横に書いてある数字は何ですか?何かの暗号でしょうか」

 「オッズよ。簡単に言うと、アンタが大和の勝ちに100円賭けたら6000円になって却ってくるの」

 

 それに加えて、今日はお姉ちゃんと大和が決闘する日。オッズはだいたい40:60になってるからお姉ちゃんが勝つ方に賭けてる人が多いみたいね。

 ちなみに引き分けの場合は胴元である奇兵隊、と言うよりは桜子さんの総取りになっている。

 

 「その様子じゃ、朝潮はどっちにも賭けてないみたいね」

 「ええ、賭け事は良くわかりませんし、どちらか一方を応援するなんてことは……」

 

 したくない。

 って、続けようとしたのかな。

 まあ、私も似たようなもんだから朝潮の気持ちはわかるわ。

 朝潮からしたら、かなり特殊な関係だけど大和は友人兼ペット。お姉ちゃんは尊敬する先輩。

 私にとっては大和は教え子で、お姉ちゃんは私を育ててくれた姉の一人であり愛すべき家族なんだもの。

 

 『それでは選手の紹介から入りましょう!まずはこの方!』

 

 おっと、もうそんな時間か。

 さっきまでルール説明をアナウンスしてた青葉さんが選手の紹介を始めたわ。

 

 『へし折った死亡フラグは数知れず、最強故に一人孤独に戦うことを余儀なくされた海軍元帥自慢の愛刀。その名は大淀。大本営付き艦娘筆頭。『一人艦隊』大ぉぉぉ!淀ぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

 その紹介と共に、私と朝潮がいる観客席の大型モニターにお姉ちゃんを上から撮影した映像が流れ始めた。

 まあそれは良いとして、青葉さんの司会を聴くたびに思うけどなんで選手紹介がプロレス仕立てなんだろう?

 

 『その最強に挑むのは皆さんご存じの大戦艦。着任からわずか一年足らずで輝かしい戦果を数多く打ち立てた横須賀の華。その美しく舞う姿から誰が呼んだか『大和太夫』!横須賀が誇る大和型一番艦、戦艦 大ぁぁぁぁぁ!和ぉぉぉぉぉ!』

 

 あ~、そう言えば去年の演習大会以降、駆逐艦たちからそんな風に呼ばれてたわね。

 たぶんあの傘を使った戦闘スタイルが芸妓っぽいからでしょうけど、大和本人は「太夫だなんて畏れ多いです」とか言って申し訳なさそうにしてたのよね。

 ちなみに太夫ってのは遊女、芸妓の位階の最高位のことよ。

 大和に聞いたところによると、遊女、芸妓における太夫の称号は江戸時代初期に誕生し、当時は女歌舞伎が盛んだったから芸達者の役者が『太夫』と呼ばれたのが始まりなんだって。

 それがやがて、遊廓が整えられて遊女の階級制が確立され、美貌と教養を兼ね備えた最高位の遊女に与えられて京の島原、江戸の吉原、大坂の新町、長崎の丸山に配置されるようになったんだとか。

 太夫の位が与えられた遊女は主に公家、大名、旗本ら上流階級を相手にし、吉野太夫・夕霧太夫・高尾太夫ら(寛永三名妓)を輩出したそうよ。

 でも、太夫を相手にするには高額の費用が必要だったんだってさ。今風に言うと……滅茶苦茶失礼な言い方だけど高級風俗嬢って感じになるのかしら。

 

 「あのぉ、満潮さん」

 「何?」

 「どうして今回の演習はあんなに離れた場所で行うんです?」

 「あ~、それはね。簡単に言うと大和の誤射から観客席を守るためよ」

 「誤射……ですか?」

 「そう、大和の射程は長いし、お姉ちゃんは基本的に動き回るからね」

 

 故に今回の演習場所は鎮守府から、と言うよりは日本からすんごく離れた場所で行われる。

 具体的に言うとハワイ島から西の沖合い約100kmの何もない海域。

 かつて朝潮だった頃のお姉ちゃんと、戦艦水鬼だった頃の窮鬼が死闘を繰り広げた海域よ。

 円満さんの話では、二人揃ってその海域での戦闘を希望したらしいわ。

 

 「満潮さんはどっちが勝つ方に賭けたんですか?」

 「アンタと同じでどっちにも賭けてないわ。でも……」

 「でも?」

  

 十中八九お姉ちゃんが勝つ。

 私はそう思ってる。

 確かに大和は強くなったわ。それこそ姫堕ちまで使った全力の私や、米国最強と謳われるアイオワさんに勝っちゃうくらいにね。

 それでもお姉ちゃんに勝てるとは思えない。と言うより、お姉ちゃんが負ける場面が想像できない。

 

 「相手がどんなに手強くても相手の技術を吸収して強さを増すお姉ちゃんと、相手が強ければ強いほど強さを増す大和。はてさて、どんな結果になるのやら……」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 大淀と大和の決闘の勝敗に関して、私と桜子、それに長門と鳳翔さんの予想は真っ二つに割れたわ。

 

 桜子は「私が儲かるから引き分け!」とか冗談目かして言ってたけど、しっかりと大和に賭けてたっけ。

 ちなみに私も大和に賭けてた。

 長門と鳳翔さんはその逆で大淀に賭けてたわね。

 

 ええ、私たち自身意外だったわ。

 長門と鳳翔さんからすれば大淀と親しく、元駆逐艦と元軽巡洋艦の私と桜子が大和に賭け、私と桜子からすれば同じような理由で長門と鳳翔さんが大淀に賭けたのが意外だった。

 

 でも理由はあったのよ?

 私と桜子は、いくら大淀が規格外の天才でも、大淀を上回る性能を十全に引き出して使いこなす大和が相手じゃじり貧になって負けると予想した。

 

 長門と鳳翔さんは、いくら大和が手数で勝っていても大淀には通じず、じりじりと距離を詰められて戦舞台なりでトドメを刺されると予想したの。

 実際長門は、朝潮だった頃の大淀にそんな感じで負けたことがあるしね。

 

 でも私たちの予想には共通点があったの。

 それは四人とも、二人の戦いはじわじわと精神も肉体も磨り減らすような長期戦になると予想したこと。

 

 ええ、私たちは、あの二人の決闘に短期戦はないと予想していたの。

 

 

 ~戦後回想録~

 横須賀鎮守府提督補佐 辰見 天奈大佐へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「窮奇、準備は良いですか?」

 (すでに彼女が取るであろう航路から回避先まで予測済みだ。あとは撃つだけだよ。お前はどうなんだ?)

 「同じです。後は舞うだけですよ」

 

 そう窮奇に答えながら、私は周りを見渡しました。

 ハワイ島から約100kmの何もない海域。かつての窮奇とかつての大淀が死闘を繰り広げた海域。

 二人がラストダンスを踊った、思い出の海域を。

 

 

『それでは欧州遠征前の景気付け!大淀 対 大和、始めぇぇぇぇぇ!』

 

 青葉さんによる開始の合図と共に、私は電探傘を右から左へと横薙ぎに降ってレーダー波を照射。同時に眼前へレーダー画面を投影しました。

 その画面の一番上端には、私の位置から役20km離れた場所にいる大淀を示す蒼い光点。そこを起点として、無数の紅い光点が逆扇状に広がっています。

 まだ砲撃を開始していないとは言え、大淀は真っ直ぐこちらへ向かって来ていますね。偵察機を発艦させた様子もありません。

 私と同じで、撃ち落とされるから装備して来なかったのでしょうか。

 

 (各砲、順次砲撃を開始しろ)

 

 窮奇の命に従って各主砲、各副砲が仰角とタイミングを微妙に変えながら砲撃を開始しました。

 その回数、実に各砲5回づつ。

 都合105発の砲弾が、放物線を描きながら大淀に向かっています。

 

 (全主砲、再装填急げ。装填完了後、覇道砲を撃つ)

 

 私と窮奇が立てた作戦はこうです。

 まず恐らくは真っ直ぐ、回避などほぼせずに、ダメージを受けそうな砲弾のみ撃ち落としながら向かって来るであろう大淀に対し、彼女が移動するであろう地点全てに、着弾時間を調節した砲撃を順次撃ち込みます。

 ですがこれはあくまで陽動、いえ誘導です。

 初手の砲撃は彼女の進路を限定し、弾速が若干遅い覇道砲を確実に撃ち込むための布石なのです。

 

 (あの時もそうだった)

 「どの時ですか?」

 (私と彼女が出会った時さ。その時も彼女は真っ直ぐに私に向かって来た)

 

 以前ご主人さまに、私の内には窮奇が居ると話したのちに、ふと疑問に思ったことがあります。

 ご主人さまに見つけてもらう前に流れ込んできた窮奇の記憶。その記憶の中で、初代朝潮と思われる子は窮奇の片腕と一緒に粉微塵になりました。

 ええ、アレで生きている訳がありません。間違いなく亡くなったはず。

 それなのに、二度目に会ったとき窮奇は彼女、今の大淀を『朝潮』だと認識した。

 確かに、窮奇の記憶の中の彼女たちは同一人物と思えてしまうくらいソックリですよ?

 でもあり得ません。

 戦艦という無機物の生まれ変わりが何を言うと思われるかもしれませんが、身体が粉々になってまで生きていられる人間などいるはずがない。

 にも拘らず、窮奇が大淀と初代朝潮を同一視したのに理由があるとするなら、それは初代朝潮が窮奇と同じ状態になっていたということ。

 つまり初代朝潮は死んだ後も艤装の中で行き続けていたから、窮奇は朝潮だった頃の大淀を朝潮と認識したのではないでしょうか。

 そうであるならば、大淀に決闘を申し込んだときに二人が言っていた「何度でも、沈めてあげる」というセリフにも符合する気がします。

 

 (大和、段取りを滅茶苦茶にしてしまうけど、我が儘を言って良いかしら)

 「お好きなように。反対したって、どうせ身体を乗っ取られちゃうんですから」

 (ありがとう……)

 

 私が応じるや否や、視界が遠くなった気がしました。

 予定にはありありませんでしたが、これからしばらくは窮奇の時間です。精々、久しぶりの会瀬を存分に……。

 

 「ふふふ……♪ふふ、ふ……。あははははははははははははははは!あーっはっはっはっはっ!愛してるわ!大淀ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 楽しませようなんて考えるんじゃなかったと、窮奇が顔をこれでもかと歪ませながら笑って覇道砲を撃った直後に後悔しました。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 私の航行速度に応じるように広がっていった光景。例えるなら森でした。

 ええ、大和さんが私の回避先を全て潰すように放った砲弾が巨大な水柱を上げ、水の森を作っていたんです。

 

 余裕で直進してたじゃないか?

 とんでもない!余裕なんてありませんでした。

 大和さんの砲撃は正確で、しかも細かいダメージを与えてくる至近弾も大量にあったので、息つく暇もなく撃ち落としてたんですから。

 

 はい、あの森を抜けるまでの十数分で弾薬の10%を消費させられました。

 それを抜けたと思ったら正面から覇道砲ですよ?

 

 あれのせいで、序盤で使うつもりなどなかった『回光返照・改』まで使わされたんですから。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 大淀。暮石 朝海少佐へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 「序盤から飛ばしすぎではないですか?」

 『いいえぇ?まだまだ小手調べ程度よ。貴女はそうでじゃないの?』

 「ええ、私も同じです」

 

 嘘ですけどね。

 水柱の森を抜けるのに弾薬の10%を使ってしまいましたし、覇道砲に対処するために阿賀野さんと連絡を取り合いながら改良し、数秒間だけ要所要所で小出しにできるようになった『回光返照・改』からの『天羽々斬』まで使わされてしまいました。

 おかげで後の余裕がなくなりそうです。

 

 『でも驚いたわぁ。まさか、あんな方法で覇道砲を凌ぐなんて思いもしなかった』

 「あんなタイミングの覇道砲を凌ぐ手段なんて、私の手札ではアレしかありませんから当然です」

 

 私がどうやって覇道砲を凌いだかと言いますと、簡単に言えば『天羽々斬』で斬ったんです。

 でも斬れたから良かったものの、斬れなかったらと考えたら背筋が寒くなりますね。

 っと、呑気にそんなことを考えている暇はありません。今は、何故か砲撃をしてこない大和さんに近づくことだけ考えないと……って!どうして……!

 

 「ふふふ♪良い表情ね大淀。私の側に、来たかったのでしょう?」

 

 何が起こったのですか?

 どうして大和さんが私の眼前に?

 と、軽くパニックになっていたら私の遥か前方から砲撃音が聴こえてきました。

 大和さんはここに、私から5mほど前方という近距離にいるのに、どうしてそんな方向から砲撃音が聴こえて来るのですか?いや、少し冷静になれば考えるまでもないですね。 

 まるで飛び降りて着水したような大和さんの姿勢。真後ろを向いて湯気を上げている背部主砲。遅れて聴こえてきた砲撃音。そして、恍惚に歪んだ表情。

 つまり大和さんは、渾沌艦隊と戦った時に窮奇が見せた砲撃の反動を利用した高速移動を使って、私の目の前まで一瞬で移動したんです。

 

 「ボーっとしてて良いのぉ?」

 「ボーっとなど……!」

 

 してはいません。

 そりゃあ、少しパニクってしまいましたから1~2秒は止まっていたかもしれませんが、貴女を前にしてボーっとするなどしていられません。

 ですが妙ですね。

 表情と言い口調と言い、戦闘スタイルまで大和さんとはかけ離れている気がします。

 まるで……そう!窮奇みたいです!

 

 「ならば!」

 「あら、せっかく私の方から来て上げたのに」

 

 などと、窮奇が唇を尖らせて言いましたが、私は構わずトビウオで右前方へと跳びました。

 だって近すぎますもの。

 あんな装甲と装甲が触れ合うような距離では、攻撃手段が命を奪いかねない衝角戦術を使った格闘戦に限定されてしまいます。

 まあ、まともに食らえば命はない覇道砲を容赦なく撃ってきた大和さん、もとい窮奇の命の心配をする必要はないのですが、もう円満さんに怒らせたくないのでこの決闘中は禁じ手にしてるんです。

 だから私が今取るべき手段は距離を取る。

 さっきまで接近しようとしていたのに行動が矛盾していますが、窮奇の方から近づいて来てくれたので手間が少し省けけました。

 このまま水切りで窮奇との距離を10m前後に調整して戦舞台を……。

 

 「させると、思う?」

 

 貴女がどうする気なのか知りませんが、ここはすでに私の距離です。今さら何をしようと、私の戦舞台は止められは……。

 

 「そんな……!」

 「馬鹿な。ですか?」

 

  ええ、その通りです。

 窮奇は私の背後からの砲撃を振り向きながら左手に持った電探傘を逆袈裟に振り上げて、自身の『弾』を上乗せして砲弾を弾き返してきたのです。

 あまりに予想外の出来事に回避が間に合わず、装甲を抜かれてダメージを負うばかりか30mほど吹き飛ばされてしまいました。

 

 「今のは大和さんの『戦艦乙女』?でも、今出ているのは窮奇なのでは……」

 

 いや、違いますね。

 同じ身体を使っているのですから窮奇も『戦艦乙女』を使えるのかとも考えましたが、さっきまでの蕩けきった顔から一転してキリッとした表情に変わっています。

 つまり、今表に出ているのは大和さん。

 任意のタイミングで交代可能と考えるべきでしょう。

 

 『朝比奈の 紋を十づつ十寄せて……』

 

 大和さんがほぼ真上に全砲門を向けて連続砲撃を開始したのと同時に……これは短歌ですか?を詠い始めました。

 短歌の意味はわかりませんが、上空への砲撃は恐らく『流星群』の予備動作。

 しかも両舷前部の副砲は私に照準を合わせていますから、上と水平面の同時攻撃をするつもりなのでしょう。

 でも変ですね。

 100発近く撃っているはずなのに、上空から落ちてきている砲弾が一発しか見えないのですが……。

 

 『百人力の 鶴の紋なり』

 

 そういう事ですか。

 大和さんが上空へと砲撃したのは流星群のためではなく、私が以前見せた『斫り』を大和型の艤装で再現するため。

 しかも相手の回避先を予測して撃てば、砲弾が蛇行するような軌跡を描いて追尾して着弾するというオマケ付きです。

 実際今、私を追うように落ちてきた砲弾が連続で水柱を上げています。

 

 『大和流海戦術『百鶴(ひゃっかく)』。やはり貴女ほど機動力が高い相手に使うには今一つですね』

 「余裕ですね。私を相手に実験ですか」

 『ええ、どうやら圧勝できそうですので』

 

 圧勝できそう?

 確かに私は回避で手一杯ですし、弾き返されるので迂闊に砲撃もできません。普通の艦娘なら手詰まりです。今の状態が続けば貴女の圧勝に終わるでしょう。

 ですが、私は普通の艦娘じゃありません!

 

 「これなら……どうです!」

 

 私は真後ろに降ってきた砲弾による水柱を『稲妻』と『水切り』を使って右にバックロールターンをするように回避し、左手に持った三連装砲を下から上へと振り上げて『鎌鼬』を放ちました。

 砲弾なら弾き返せても、縦に長いこれならば……!

 

 『返せない。とでも思いましたか?』

 

 ええ思いましたよ。でなければ使ったりしません。

 でも結果は、私が放った鎌鼬を袈裟斬りでもするように左上から右下へと、まるで掬うように電探傘で受けてそのまま右上へと弧を描くように回し、私に向けて電探傘を降りおろして鎌鼬を返して来ました。

 しかも、砲弾を弾き返した時と同様に大和さんの『弾』を上乗せしているらしく、天羽々斬並みに巨大な刃となっています。

 

 「こうなったら致し方ありません」

 

 また円満さんに怒られてしまうかもしれませんが、回光返照・改の航行速度で一気に接近して格闘戦を挑むしかありません。

 でないと、私が沈められて……。

 

 『さあ、もっと踊ってちょうだい』

 

 私が回光返照・改を使おうとしたその時、大和さんの表情と口調が窮奇のものに変わりました。

 これは好都合ですね。

 先ほど、わざわざ交代して戦艦乙女を使ったということは、窮奇には戦艦乙女が使えないということ。

 正確無比な砲撃は厄介ですが、私なら駆け抜けられます。

 

 『こうされると、困るでしょう?』

 「なっ……!」

 

 確かに困りました。

 窮奇が大和さんと交代するなり始めた砲撃は、今までの彼女からは考えられないほど乱暴なもの。

 狙いは大雑把。砲撃間隔も出鱈目。

 窮奇が得意なはずの、相手の回避先を全て予測してその全てを潰すような砲撃とは真逆です。

 ですがこれが非常に厄介。

 どこを狙っているかわからないので先読みして回避することが難しく、かと言って、明後日の方向へ飛んでいるからと回避をおろそかにするとすかさず正確な砲撃が飛んでくるでしょう。

 

 「くっ……!捌き、きれな……」

 

 そんな私に出来ることと言えば、直撃しそうな砲弾を見極めて撃ち落とし、少しづつ距離を縮めるくらい。

 当然反撃する余裕なんてありませんし、至近弾によるダメージが徐々に蓄積されていってます。

 このままではマズい。

 このまま今の状況が続けば、遅かれ早かれ私は……。

 

 『大淀、討ち取ったり』

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 迂闊でした。

 ランダムな砲撃の中にほんの数発だけ混じった正確な砲撃。それは私を狙ったものだけだと思っていました。

 

 はい、気づいた時にはもうどうしようもなくなっていました。

 

 水の檻?

 ああ、鎮守府に中継されていた映像ではそう見えたんですね。

 いえ、実際そうだったと思います。

 

 私は大和さんと窮奇が張った罠にまんまと嵌まり、四方八方を水柱による壁で塞がれて()()()()逃げ道を失い、そして二度目の覇道砲を撃ち込まれたのですから。

 

 

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦大淀。暮石 朝海少佐へのインタビューより。

 

 

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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