大和さんは強い。
阿賀野さんとは戦闘スタイルがまるで違うので一概に優劣はつけられませんが、私が今まで戦ってきた相手の中では一二を争うほど強いです。
「それに加えて、窮奇もいる」
初めて試した『反転世界』で中破に追い込んでからと言うもの、大和さんの戦闘スタイルがまた変化しました。
私が距離を詰めようとすれば窮奇が出てきて砲撃と気色の悪い笑顔と言葉で心身共に私を追い込み、逆に距離を開けると大和さんに変わり、『戦艦乙女』で私の攻撃を無効化どころか跳ね返した上で砲撃まで加えてきます。
距離に応じてスタイルをコロコロ変えられると厄介どころではないですね。
「でもまあ、どちらかと言えば窮奇の方が御しやすい……かな?」
精神的苦痛を無視すれば、ですが。
でも、前半に負ったダメージのせいで『反転世界』で仕留められなかった上に、その前のランダム砲撃で『脚技』の使用回数が限界を超えている今の私にはそれくらいしか勝機はありません。
それに……。
「戦闘狂ではないと思っていたのですが、軽巡洋艦になっても私はやはり駆逐艦のようです」
ワクワクするのとは違う気がします。
でも早く肉薄したい。砲撃を食らわしたい。雷撃で吹き飛ばしたい。性能が圧倒的に上の相手を、自分にできる全ての事を駆使して打倒したい。
相手が窮奇と大和さんだから、余計にでもそう思うのでしょうか。
「機関への燃料過剰投入開始。回せ、回せ、回せ、壊れるまで回せ!」
『脚技』の使用回数が限界を超えている私が、彼女に肉薄するために取れる手段は『回光返照』による高速移動のみ。
窮奇からの砲撃はギリギリまで強化された『装甲』で耐え、間合いに入ると同時に『天羽々斬』で決めます!
「大本営付き艦娘筆頭。一人艦隊 大淀、全力突撃します!」
ーーーーーーーーーーーーーー
あの決闘のあとの数日間、病室で大和さんが暇潰しがてら説明してくれたんですが、大和さんの『戦艦乙女』は二種類あったそうです。
一つは敵の砲弾に自身の『弾』を纏わせて跳ね返す『戦艦乙女・守の型 絵日傘』と、もう一つは試合の最終局面で大和さんが使った攻の型です。
そうですね。
私も説明はされましたが、何をどうしたらあんな事ができるのか今だにわかりません。
一緒に観戦していた満潮さんですら「あんな事ができるのはあの二人だけだわ」って呆れていましたから。
~戦後回想録~
元駆逐艦 朝潮へのインタビューより。
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勝負を仕掛けてきた。
と、私と窮奇は大淀が蒼い光、たしか回光返照でしたか。の、光に包まれると同時に思いました。
恐らくは特攻に近い突撃。
去年の演習で、アレを使った大淀と阿賀野さんは『脚技』を使っていませんでした。それはつまり、アレを使っている間は使えないと考えるのが妥当。
たぶん強化された『装甲』で私たちの砲撃に堪え、間合いに入ると同時に何かしら、『天羽々斬』あたりで決めるつもりなのではないでしょうか。
「窮奇、主砲の制御を私に」
(何をするつもりだ?)
「真っ向勝負です!」
大淀は全力。いえ全力以上を出して向かって来てくれています。それなのに、挑戦者である私が逃げる訳にはいきません。
彼女の全力に真っ向から立ち向かい、彼女の全力以上の力を持って打ち破るのです!
「
私は大淀との距離を確認しつつ、短歌を詠みながら『脚』を円形に変形させ、左右に向けた両舷主砲と真上に向けた背部主砲から発泡し、大淀の『天羽々斬』のような巨大な剣を三本形成しました。
ちなみに、今詠んだ歌は万葉集に綴られている短歌の一つ。
作者は不明ですが、現代語に訳すと『剣の太刀の鋭い諸刃に 足を踏み貫いて 死ぬなら死にもいたしましょう。あなたさまのためなら』になります。
何故、私がこの短歌を選んだかと言いますと、太刀が主流の当時では珍しい諸刃で自身を傷つけ、死んでも愛すると言われた男性は辟易してしまうんじゃないかと思ったのが理由です。
だって、窮奇に愛を囁かれた大淀が正にそんな感じでしたから。
「大和流海戦術。戦艦乙女・攻の型」
この技の射程と威力は大淀の天羽々斬とほぼ同じで約20m。ですが私の場合は三刀。
舞の体捌きに合わせて左右の刃で水平面を連続で薙ぎ払い、背部の刃を頭上から振り下ろして止めを刺す。その名も……。
「洄天!剣舞!」
私は満身の力を込めて左に体を捻り、一刀目を大淀目掛けて振りました。
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妹が水上艦なのに何故潜ることができたのか。ですか?
それは今だに謎です。でも、『脚』を消せて沈む事への恐怖に堪えられるのなら誰でも可能だったと思います。
ただ、あの子が恐怖に堪えられ……いえ、感じなかったのには私なりの仮説はあります。
あの子はそもそも、艦娘になれる適正がなかったのです。
ええ、艦娘になれる三つの条件の内、あの子には『朝潮』にも『大淀』にもなれる適正がありませんでした。
そうです。
あの子は一つ目、いや主に三つ目の条件を満たせたからこそ艦娘になれたのです。
そこで私なりの仮説ですが、あの子は本来艦娘になれるはずのない子だったからこそ、水上艦の誰もが感じる恐怖を感じなかったのではないでしょうか
以前あの子に聞いてみたことがあるのですが、あの子は潜ることを怖いと思った事がないそうです。
むしろ、水上艦が潜る事に恐怖すると聞いてビックリしていたくらいですから。
~戦後回想録~
元軽巡洋艦 大淀 淀渡 大海大尉へのインタビューより。
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ハラハラする。
二人の決闘が始まってからそろそろ30分くらいだけど、私の心臓はずっと爆発しそうなくらい脈動しっぱなしよ。
特に大淀さんに覇道砲が直撃した時や、大和が空中でお手玉みたいにされた時は気絶するかと思ったわ。
「なあ阿賀野さん。回光返照を使っている時に『脚技』は使えないのか?」
「そうね。磯風が言う通り基本的には使えない。でも使おうと思えば使えるよ。実際阿賀野も、大淀との演習の最後に使ったでしょ?ただし、ほんの少しでも艤装の制御をミスると……」
ボン!と、阿賀野姉は手の平を開くジェスチャーと同時に言って説明に一区切りつけた。
私がこんなにハラハラドキドキしてるってのに、阿賀野姉や駆逐艦たちは完全に観戦モード。
阿賀野姉が大城戸教官の解説を補足するのを聞きながら、決闘に変化がある度に一喜一憂してるわ。
「回光返照は暴走状態の艤装を制御し続ける。なんて矛盾した行動を発動中は続けなきゃならない。例えるなら、針に糸を通す作業を連続で行うようなものかな。そんな状態でさらに『脚』を細かく操作なんてしたら脳ミソが焼き切れちゃうよ」
「じゃあ、回光返照を使った大淀さんは、速度は速くても機動力は半分以下。と言うことですか?」
「そうよ初霜。特に今は、脚技の限界使用回数なんかとっくに越えてるだろうし」
やっぱり大淀さんにも限界使用回数はあるのか。
でも流石は大淀さんと言うべきね。
私なんかじゃトビウオ五回が限界なのに、決闘が始まってから大淀さんが使った脚技の回数は40を軽く越えてる。
水切りや稲妻の燃料的負担がトビウオよりも軽いとは言ってもこれは異常な回数。見た目的には大和の砲撃によるダメージしか刻まれていないけど、きっと体の内側はボロボロのはずよ
「大淀が回光返照を使ったわね。恐らく次の突撃が最後。それ以上は、いくら大淀でも戦えないはずよ」
「ねえ、阿賀野姉。もし大和が、大淀さんの突撃を堪えきったら……」
「そんなの、言わなくたって矢矧でもわかるでしょ?大淀の負けだよ」
阿賀野姉はただ事実を述べるかのように、冷静な口調でそう言った。
でも、最後にこう付け加えたわ。
若干飽きれ気味に「大和が大淀の強さの秘密に気付いてなければ……ね」と。
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お父さんがやることには必ず裏がある。
あの人って、普段はハゲてて脚が臭くてでサボり魔で悪ノリとお酒が大好きなクソ親父なんだけど、権謀術数にかけては今の円満でも足元にも及ばないわ。
あの戦争だってそうよ。
あの戦争は人類と深海棲艦の生存競争とか、人類文明を守るための戦いだったとか言われてるけど、私に言わせれば、始まりはどうあれお父さんの復讐劇だわ。
特に、そこまでやるかって呆れたのは大和が朝海、ああ、今は大淀で通した方が良いわね。に、決闘を申し込んだ日よ。
さすがに出産してすぐだったからお父さんは許可しないと思ってたのに、円満の話だと「むしろ決闘しろ」と言ったらしいわ。
そう、その通り。
お父さんは大和を大淀の餌にしたの。
大淀に実戦の勘を取り戻させ、大淀と言う名の大剣を完成させるための餌にね。
結局大和も大淀も……いえ、あの戦争に関わった人全てが、お父さんの手の平の上で踊っていただけなのよ。
お父さんの復讐を成就させる駒として、ね。
~戦後回想録~
奇兵隊総隊長 神藤 桜子大佐へのインタビューより。
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「大淀の勝ちで決まりだな」
と、先生が口にしたのは、大淀が回光返照を発動した直後だった。
まだ大和と大淀との間はかなり開いてるし、大和も何かしらしようとしている雰囲気なのに、先生はどうして大淀の勝利を確信したんだろう?ただの嫁贔屓?
「叔父上よ、そりゃあ早計じゃないかや?」
「どうしてそう思う。日進」
「どうもこうも、大淀の嬢ちゃんはとっくに限界を超えちょる。この突撃がかわされるなりすりゃあ、もう打つ手はないじゃろう。大和の嬢ちゃんも何やら隠してそうじゃしのう」
私も日進と同意見。大淀の突撃は一か八かの賭けに近いわ。
もし回避なり迎撃なりされたら、とっくの昔に限界を越えてる大淀には次に打てる手がない。
「円満、大和が今取っている構えから、何をしようよしているか予想できるか?」
「大和の構え、ですか?」
そう言われてモニターに視線を戻すと、大和は左右の主砲を真横に向け、さらに背部の主砲を真上に向けていた。それに、『脚』を円形にして腰を若干右に捻っているように見えるわね。
大和はあの体勢からどんな攻撃を……。
「大淀を敵にした場合、最もやってはならないことは何だ?」
「それは……大淀が知らない攻撃方法で攻撃することです。艤装の構造や、澪のマリオネットや私の艦体指揮のように、あの子の身体能力や才能で再現不可なモノを除いて、新技を披露することはあの子に手札を与えるのと同義ですから」
つまり、大和はあの構えから新技で大淀を迎撃しようとしてると先生は予想したのね。そしてそれを瞬時覚えた大淀が、それを使って勝つと確信したんだわ。
「違う。確かにそれもなくはないが、それは些細な問題だ」
「では、どういう……」
「簡単な事だ。大淀を相手にした場合、最もしてはならないことは彼女を本気にさせることだ。本気になった彼女は限界を超えた先にも容易く歩を進め、只でさえずば抜けている成長速度に拍車がかかる」
「つまりそれは……」
大淀はあそこから更に強くなると?
大和が放とうとしている新技を覚える云々ではなく、全体的に成長するってことなの?
「猿真似のせいで忘れられがちだが、彼女の着任から僅か一年足らずで窮奇を沈めるほどに成長した成長速度は今だに衰えていない。研鑽を怠らず、常に成長し続けることこそ、大淀の強さの秘密だ」
そう言って、慈しむように目を細めた先生の視線の先では、大和が大淀の足元を狙って振り抜いた左舷主砲から伸びた巨大な刃を、大淀が『水切り』で跳んでかわす様子が映し出されていた。
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予想外。いや、予想の斜め上を行かれた。
と、足元を狙った一刀目を軽くジャンプすることで回避した大淀を見て思いました。
まさかアレを使っている間も『脚技』を使えるとは……。でも、次の二刀目は胴を狙ったもの。今なら、彼女の『脚』が海面に着く前に確実に当たります。
「そんな……!嘘でしょ!?」
二刀目が当たる寸前、大淀は左手の三連装砲を真下に撃って、宙に浮いたまま半回転し、その勢いを利用して二刀目に右拳を叩きつけて軌道を逸らしました。
でもまだです。まだ三刀目がある。
着水した直後で体勢が整っていない今の大淀に、頭上からの三刀目を回避する手段は……。
「はははは……。忘れてました。それがありましたね」
無いと思っていた手段はありました。
いや、手段と言って良いのか疑問ですがありました。
でもべつに、大淀は難しい事をしたわけではありません。だって潜っただけです。ただ『脚』を消し、水中に潜って三刀目を回避しただけなんですから。
(魚雷が来るぞ!備えろ!)
「来ませんよ。魚雷なんて来ません」
何故なら、大淀の雷撃値では私に決定打を与えられないからです。今の大淀の状態でそんな無駄な手を打つとは考えられません。
「覚えました」
やはり魚雷はありませんでした。
代わりにあったのは、左から聞こえてきた大淀が海面に飛び出したと思われる水音と不吉なセリフ。
何を覚えた?このタイミングで何を大淀は覚えた?そんなこと考えるまでもないですね。
大淀が覚え、私を屠る手段に選んだのは、先ほど私が披露した『洄天剣舞』でしょう。
「大淀式砲撃術その七。『
やはり、私の予想は概ね当たっているようですね。
今正に、大淀が両手を広げて砲撃した直後に砲身から伸びた金色の二刀『干将・莫耶』は、『洄天剣舞』を再現するために急遽創った技でしょう。
ですが砲塔一基につき一刀なので、恐らく一刀辺りの威力は『天羽々斬』の半分程度のはず。その程度の威力では、私の『装甲』を傷つけることは出来てもこの身までは届きません!
「洄天……!」
大淀が私の動きをトレースしたように完璧な動きで左の一刀目を横薙ぎに振るってきました。
ですが、一刀目は私の左舷『装甲』に相殺されて砕け散りました。幸いにも、私の『脚』は『刀剣乱舞』を放った直後なので円形のままですから、このまま半回転して右舷を晒せば二刀目も相殺できそ……う?
「私の洄天剣舞と違う!?」
私の洄天剣舞は高さを変えた水平面への二連撃と頭上からの一撃です。なのに大淀は右の二刀目を上に振りかぶっています。
大淀なら、直撃させても装甲に相殺されて身までは届かないと一刀目で判断出来たはず。それなのに上段から振り下ろそうとしているということは、狙いは私自身ではなく……。
「くっ、やはり左舷主砲でしたか!」
咄嗟に身をかわしたので腕は持っていかれずに済みましたが、代わりに左舷主砲を艤装の基部から断ち斬られてしまいました。
しかも急に左側だけ軽くなったため、私はバランスを崩して左手と左膝を『脚』に突いて、大淀に頭を垂れながら踏ん張る形になってしまいました。
このままだと、三刀目を背中側からモロに食らってしまう形になりますが……大淀の刃は左手側が砕けた状態。つまり、丸々一回転しないと三刀目を振れません。
その僅かな間に背部主砲で……。
「剣舞……!」
自分の装填速度を基準にするべきじゃなかった。
大淀は左腕三連装砲から再度発泡し、都合三刀目を造って右薙ぎと言ってもいいほど角度が浅い逆袈裟に振り下ろしてきました。
結果、左舷主砲の時のように艤装ごと持っていかれはしませんでしたが、背部主砲は切り取られてしまいました。
本来は三連擊の攻撃を装填の速さで四連擊に増やしたことには驚きましたが、両腕の刃が消えたところを見るにそれが限界のようですね。それに対して、踏ん張っていたおかげで私の体勢は悪くありません。このまま起き上がる勢いを利用して右舷主砲を大淀に向けて砲撃を……。
「六連!」
大淀が予想外のセリフと共に、再び両腕から刃を伸ばすのと私が起き上がるのは同時でした。
四連でも驚いたのに六連?
しかも狙いは右舷主砲らしく、左の刃を逆風に振り上げています。
「クソっ……!」
私は出来る限り身体を左にズラしました。
右舷装甲を道連れに左の刃は消えても、大淀の勢いは死なずに右の刃が下から迫っているからです。
これならば、なんとか基部から切断されることはない。主砲を失うのは確定ですが、右舷副砲が二基残ります。
あとは、生き残った二基の副砲で大淀を撃ち抜くだけ。そうすれば今度こそ私の勝ち……なのに。
「綺麗……」
私は彼女に見惚れてしまい、副砲を持ち上げる動きに数瞬遅れが出ました。
私の三基の主砲を破壊した動き自体は私を模し、独自のアレンジを加えたもの。自画自賛ではないですが、私並に流麗で洗練された動きに仕上がっていました。
その長い黒髪は流れる水の如く弧を描き、幾度も振られた両腕は刃物のように鋭く空を裂き、回転の起点となっている両足は針を想わせるほどに細くてしなやか。
これに見惚れるなと言う方が無理です。
彼女の舞に見惚れたまま死ねるなら本望と想えるほど、目の前の彼女は美しい。
「これが……私の答えです」
回転を終えた大淀は、そう言って両腕を突き出して私に砲を向けました。
あの構えから砲撃?それとも新たな技?
「覇道砲……撃てぇ!」
私の予想はある意味両方とも当たっていました。
予想外だったのは、彼女がただ模しただけの覇道砲を放ったこと。
彼女が装備している中口径砲では、例え回光返照で私並みの力場を得ていても本来の覇道砲には遠く及ばないほど威力が低いのに、それをトドメとばかりに放ってきました。
この覇道砲に何の意味が?
いえ、単に私に勝利するだけなら十分な威力があるのですが、大淀が言った「私の答え」と言うセリフの意味がわかりません。
ですが、そんな私の疑問など関係なしに、大淀が放った覇道砲は私を吹き飛ばしました。
ーーーーーーーーーーー
大淀が他人を嫌うことって滅多にないんだけど、その反動なのか一度嫌うととことん嫌うの。
私が知ってる限りだとゴリ……じゃないや。長門と窮奇ね。
今思い出しても、長門の本性を知ってからの嫌いっぷりは凄かったわ。朝潮を辞める前なんか視界に入るだけで殴り飛ばしてたくらいだもん。
え?窮奇って誰って……。
あ、これって言ったらマズいんだっけ?
う~ん……。
まあいっか。どうせアンタ、これからも色々と元艦娘を訪ねて回るんでしょ?
だったら誰かが口滑らせるかもしれないから気にしないことにしよっと。
細かいきとは考えないで忘れるのがこの桜子さんだからね。
で、その窮奇なんだけど、アイツは簡単に言うと大淀の仇敵だった奴よ。
でも同時に、大淀にとって初めての相手でもあったの。もちろん意味深はつかないわ。
アイツは大淀を初めて愛した相手であり、大淀が初めて憎んだ相手。
もしアイツがいなかったら、海軍最強と謳われた大淀は誕生しなかったかもしれないわね。
~戦後回想録~
奇兵隊総隊長 神藤 桜子大佐へのインタビューより。
ーーーーーーーーーーー
大淀の覇道砲に吹き飛ばされて何分たったのでしょうか。
一度意識を失ってから目覚めたら、目の前に大淀の三連装砲の砲身が映りました。
ですが、海面に仰向けになった私を見下ろす大淀の顔に余裕は無く、肩で息をし、必死に踏ん張っている両足もガクガクと震えて今にも崩れ落ちそうです。
それでも、私に向けた砲を下げようとしません。
限界なんかとっくに超えているはずなのに、彼女は勝利が告げられるまで砲を下げないつもりなのでしょう。
「もう、良いですよね」
(ああ、私もお前も全部出した。全部出した結果がこれだ。悔いはないよ。それに、告白の返事も貰ったしな)
それが私にはよくわかりません。
そもそも、窮奇の覇道砲は大淀式砲撃術を参考にし、彼女への溢れんばかりの
窮奇に愛を囁かれて本気で気持ち悪がっていた大淀が同じ想いを込めたとは考え辛いですが、もし何かしらの想いを込めたとしたら恐らく拒絶。
全力を出しきり、限界を超えたさらに先まで力を絞り出した拒絶。
だから胸に広がる窮奇は、落胆し諦めているようでも清々しい気持ちになっているのでしょうか。
いや、それは私も同じですか……。
「私の……いえ、私たちの負けです」
だからなのか、何の抵抗も無く負けを認める言葉を言うことが出来ました。
それでも大淀の表情は険しいまま。
目の前で負けを認められても、ハッキリと終了を告げられるまで戦闘態勢を維持する様は正に軍人の鑑。
そんな彼女に全力で挑んで追い込み、それでも敗北したのですから悔いなど残りようがありません。
『試合終了ぉぉぉぉぉ!永遠とも思えた死闘を制したのは大淀!一人艦隊の異名に偽りはなかったぁぁぁぁぁ!』
感傷に浸っている内に、空気を読まない青葉さんによる騒がしいアナウンスで大淀の勝利が告げられました。
まったく、せっかく静かでいい空気だったのに台無しです。大淀もきっとそう思っているは……。
「ちょっ!大淀!?」
アナウンスの直後、大淀が私に向けていた砲を下げたと思ったらそのまま倒れ、左に傾斜して沈み始めました。『脚』が徐々に消えていってる。もしかして意識がないんですか?
いやいや、そんな事を考えている暇はありません。
緊急脱出装置も作動していないみたいですから、早く救出しないと本当に沈んでしまいます。
「まっ……たく!これではどちらが勝者かわかりませんね」
私は『脚』を広げて腰まで沈んでいた大淀の右手を握りました。
このまま一気に引き揚げたいところですが、私のダメージも軽いものではないので上手く引き揚げられません。せめて大淀の意識が戻ってくれたら……。
「あ……すみません。私、気を失って……」
「あ、起きた。喋る余裕があるならもっと強く手を握ってください。私だってボロボロなんですから」
「はい……」
「それでは一気に引き揚げますよ。せ~の……!うわわっ!」
今出せるありったけの力を両腕に込めて大淀を引き揚げましたが、勢い余ったと言いますか思った以上に踏ん張りが効かなかったと言いますか、大淀を引き揚げた勢いそのままに後ろへ転けてしまいました。
しかも、大淀が私を押し倒して胸に顔を埋める形で。
ちなみに、大淀が私の胸に顔を埋めるなり窮奇が「ウホッ♪」とか言いましたが無視します。
「硬い……」
「それは胸パットのせいです。と言うか、文句があるならどいてください」
「……動けないので我慢します」
いや、我慢するくらいならどきなさいよ。
と、ツッコむのも億劫なので放っておきますが、硬いとか言ってた割りに座りの良い位置を探して頭をモゾモゾと動かしているじゃないですか。
くすぐったいのでやめてくれません?
(お、大淀が私の胸を愛撫している……幸せ)
「貴女のじゃなくて私のです。欲しいって言ったってあげませんからね」
おっと、これでは窮奇の声が聞こえない第三者からは、大淀は私のものと言ったと誤解されかねませんね。
現に大淀が、「私のです」と口にした瞬間ビクッとしましたし。
「い、一応お聞きしますが、今のは窮奇へのツッコミです……よね?」
「当たり前です。私は同性愛者ではありませんので」
「でも手が……」
「手?あ!いつの間に!」
どうやら、大淀がビクッとしたのは私のセリフのせいだけではなかったようです。
いつからなのかはわかりませんが、窮奇が私の両手を使って大淀の身体をまさぐっていたんです。主にお尻を重点的に。
「窮奇!めっ!です!少しは空気を読んでください!」
(でもでも!こんな近距離に大淀の乳尻太ももがあるんだぞ!?)
「それでもダメです!ハッキリとフラれたんですから自重しなさい!」
(わ、わかった……)
少しキツく言い過ぎましたが、窮奇は自重する気になってくれたらしく、両手の制御を返してくれました。
でも、返してくれたのは良いですが、手のやり場に困ってしまいましたね。
このまま大淀のお尻に手を置いたままなのは色々とマズい気が……。
「ごめん……なさい」
「どうしたんです?急に。怪我のことならお互い様なのでべつに……」
「いえ、そちらではなくて……。私、貴女の弟さんを救えませんでした」
「ああ、そっちですか」
その事に関してはもう恨んではいません。
と、言うのは簡単なのですが……どう私は、色々な人と関わりを持つ間にひねくれてしまったようです。
なので、意地の悪い言い方をしてやります。
「今はまだ許しません」
「そうですか……そう、ですよね」
「ちゃんと聞きましたか?『今は』と言ったでしょう?」
ふむ、戦闘で頭を使いすぎたのか、はたまた単に疲れて眠たいだけなのかはわかりませんが大淀の反応が鈍いです。吐息も寝息に近くなっていますので、もしかしたら捷一号作戦の時のように寝る寸前なのかもしれません。
だとするなら、大淀が寝てしまう前に言いたいことを言ってしまわないと。
「いつか、私が女将になったらうちの旅館に来てください。そうしたら……許してあげます」
「大和さんの……旅…館……に?」
マズいですね。
いよいよ眠気が限界に近いのか、どうしてそうすれば許してもらえるのかという疑問さえ抱いていないようです。
「そうです。私の旅館です。ホテルではないですから間違えないで……って、そうじゃない!」
言いたいのはそんなことじゃありません。
でも口に出すのが気恥ずかしい。それでも言わないと、私は二度と言えない気がします。
「それで……その時に私とお友達になってください!」
と、恥を忍んで言い切ったのですが、いつまで経っても大淀の反応が全くありません。聴こえてくるのは波の音と、スースーと私の睡魔まで呼び起こしそうな寝息だけ。
「もう!せっかく思いきって言ったのに!」
大淀は睡魔に堪えきれずに眠ってしまいました。
残された私はと言いますと、暴れる体力もありませんので迎えが来るまで大淀を胸に抱いたまま波に揺られて漂うだけです。
「由良の
私は思わず口ずさみそうになった歌が恋の歌だと思い出して喉の奥に引っ込めながら、沈まないように『脚』だけ維持して体から力を抜きました。
ーーーーーーーーーーー
お友達になって。と、言われたような気がするんです。
はい、あの決闘の後です。
あいにくと気を失う寸前でしたのでハッキリとは憶えていないのですが、大和さんにそう言われた気がしたんです。
そう……ですね。
私も大和さんとはお友達になりたいです。
え?なりたかった。じゃなくて?
ええ、今でもなりたいです。
それは、私があの子と同じように彼女が死んだなんて思っていないからです。
はい。軍が戦死と認定しようと関係ありません。
私が毎年ここに来てあの子と一緒にあの場所に行くのは、彼女とお友達になるためです。
それに聞かせてほしいんです。
あの決闘のあと、微睡む意識の片隅に聴こえてきた歌の続きを。
~戦後回想録~
元軽巡洋艦 大淀。現海軍元帥夫人 暮石 朝海少佐へのインタビューより。
主要キャラ人気投票
-
朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)