艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百六十七話 馬鹿......

 

 

 

 

 

 どうして私がワダツミに乗ってなかったか?

 それはライン川の方に配置されてたからよ。

 

 ええ、確かに私は辰見さんの秘書艦だったわ。

 青木さんが言う通り、普通に考えれば辰見さんがいるワダツミに私も乗るのが道理だし自然ね。

 でも私はそうはしなかった。

 

 でも元帥さんから、と言うよりは大淀に指名された旨を円満から聞かされた時点で、私の腹は決まってたの。

 

 反対はされなかったのか?

 むしろ行けって言われたわね。

 それは、私が強くなりたかったのがアイツと一緒に戦うためだって辰見さんが知ってたからよ。

 

 そう、大淀と。

 アイツと私って養成所で同期……いや?入ったのはアイツの方が先だから正確には同期じゃないかしら?まあ、それはどうでも良いわ。

 

 でさ、アイツって養成所時代は勉強が出来るだけの落ちこぼれだったのに、朝潮になった途端に見る見る強くなっちゃってさ。

 

 ええ、嫉妬した。

 私が守ってあげなきゃって思ってたアイツが、私なんかじゃ足元にも及ばないくらい強くなったことにね。

 それで一時期腐ってて辰見さんに怒られたこともあったわ。

 

 他には誰がライン川に配置されてたのか?

 え~とたしか日進さんと由良さん。それとガングートさんとタシュケントもいたわね。あとは陸軍の……あきつ丸だったっけ?もう何人か居た記憶はあるけど忘れちゃった。

 

 その人数で対処出来る数だったのか?

 とんでもない!ざっと数えただけで250隻は軽くいたわよ。しかも姫級や鬼級もわんさか!それで100隻近く減らしたんだから大したもんでしょ?

 

 ええそうね。

 いくら大淀がいたって勝てるような数と質じゃなかった。

 実際、川の両岸にいた砲兵隊や戦車隊はほぼ全滅。

 内火艇ユニットを装備した特殊歩兵連隊も八割方戦死したし、奇兵隊も半数以上が帰らぬ人になったわ。

 

 最後の方には私たち艦娘も弾切れになってて、大淀と私、それと桜子さんや花組の人たちと生き残った人みんなでなんとか戦線を維持してたっけ。

 

 あの人が来たのはそんな時よ。

 もし、あの人が来るのがもう30分、いえ10分遅かったら、あの場に集った人たちは私も含めて戦死してたと思う。

 

 え?そうよ、元帥さん。

 あの人が残りの150隻以上を沈めてくれたから私はこうして生きてるの。

 は?元帥さんが沈めたのは100隻じゃないのか?

 

 ああそれって、元帥さんが『狩場』とか言うのを使った時でしょ?

 

 そう、その前に50隻以上を一人で沈めてたのよあの人。

 本当よ!

 私と大淀でさえ合わせて20隻そこそこだったのに、あの人は日本刀だけで50隻以上の深海棲艦、しかも鬼級以上の戦艦や空母まで相手にして無双したのよ。

 

 凄い、と言うより怖いと思ったわね。

 だって元帥さんは、大淀ですら「あの密度の攻撃は回避しきれません」って言ったほどの攻撃を回避し、30回ちょっと刀を振っただけで敵の三分の一以上を沈めちゃったんだから。

 

 今でもふとした時にあの高笑いが聴こえてくることがあるわ。

 『周防の狂人』とか『嗤う黒鬼』とか呼ばれた、狂気に満ちたあの人の嗤い声が。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 叢雲へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 「暇ねぇ、大淀」

 「暇ですねぇ……叢雲さん」

 

 もう何度目かもわからないくらい言ったセリフ。

 そのセリフを飽きもせず、私と叢雲さんはライン川の畔で体育座りして景色を眺めながら繰り返しています。

 そんな私たちの後ろでは、日進さんがお札のような物をアチコチに貼ってまわってますし、各国陸軍や奇兵隊の人たちが少将さんの指示で忙しそうにしているのですが……。

 

 「やることがない……」

 「アンタは桜子さんたちが買い出しから戻って来たら炊き出しするんだからまだ良いじゃない。私なんて夕飯ができるまでホンっトにやることがないんだから」

 「いやいや、配膳くらい手伝ってくださいね?」

 

 本当に。

 私や花組の人たち、それに各国の女性兵士の方々で配膳をしますが人手が多いに越したことはないんです。

 だから手伝わせます。

 いくら「私ってお嬢様育ちだからさ~」なんて言い訳になってない言い訳を言っても通用しませんしさせません。

 

 「あの人たちってさ、この作戦のために奇兵隊が集めたんだって?」

 「はい。奇兵隊に『武器屋』と『店長』のコールサインで呼ばれている人たちがいるのですが、その人たちが何年もかけて募ったそうです」

 「ふぅん。噂には聞いてたけど、奇兵隊って色んな人がいるのね」

 

 ええ、本当に色んな人がいます。

 それこそニートから政治家まで、様々な人たちが主人の呼び掛けに応えて集い、復讐を成就させる手助けをする過程で完成したのが、このライン川の最北端に築かれた対深海棲艦用迎撃陣地なのです。

 

 「()()()()を使ってまで死にたいないなんて理解できないわね。ちょこっとだけ舐めてみたけどクッソ不味いじゃないコレ」

 「ふふふ♪確かに不味いですよね。作った桜子さんが「この世で一番不味いわ」って言うくらいですから」

 

 今叢雲さんがポケットから取り出して忌々しそうに睨んでいるのは、緊急時栄養補給剤と銘打たれてこの場に集った全員に支給された『黒汁』です。

 戦闘開始前、具体的には敵艦隊が確認されて戦闘配置についた時点で服用を許可されているこれは、驚異的な効果の代償なのかクッソ不味いんです。

 私も試しに少しだけ舐めてみたんですが、これを飲むくらいなら汚水をガブ飲みした方がマシだと思えるほど不味かったですね。

 

 「そう言えば、あっちはそろそろロンドンに着く頃だっけ?」

 「タイムスケジュールに狂いがなければもう二~三時間ほどで着くはずです」

 「そっか、じゃあ明後日には……」

 「ええ、あちらは戦闘開始です」

 

 早ければその数日後、遅くとも一週間後にはここが戦場になる。と、いうのが主人の予想です。

 そしてそれは、円満さんたちがノルウェー海での戦闘で負けるということ。

 

 「なんだか変な気分よねぇ」

 「どういう風にですか?」

 「いやぁ、何て言うか。辰見さんや円満たちに無事でいて欲しいって思ってるクセに、私はここが戦場になるのを望んでるの。ここが戦場になるって事は、辰見さんたちが負けるってことなのにさ……」

 

 はて?どうして叢雲さんはそこまで戦闘を望むのでしょうか。私が知る限り、叢雲さんって感情の起伏は激しくて我が儘ですが、大切な人が危険な目に遭うとわかっていながら失敗を望むほどの戦闘狂ではなかったはずです。

 

 「へぇ、アンタって私のことをそんな目で見てたのね」

 「ち、違いますよ?私はけっして、叢雲さんのことを我が儘で面倒臭がりの面倒臭い人だなんて思っていません!」

 「なるほどなるほど、アンタにとって私は面倒臭い人間だったのね。ちょっとこっち来なさい!久しぶりに折檻してやるから!」

 

 マズイです。ついつい本音が出てしまいました。このままだと容赦なく槍で突っつかれそうです。

 養成所時代もそうでした。

 私と叢雲さんは同じ養成所で同室だったのですが、ことある毎に箒なりで私を突っついてたんです。

 あの頃は叢雲の召し使いみたいな生活をしてましたねぇ……。他の人の目からはイジメに映っていたようですが、私はイジメられてたなんて思ったことはありません。

 せいぜい「宿題くらい自分でやれば良いのに」とか「どうして私が体を洗ってあげないといけないんだろう」なんて疑問を抱いたくらいです。

 まあそれはともかく、今の私なら回避からカウンターを入れるくらい容易ですが、叢雲さん相手にそれはしたくないです。かと言って突っつかれたくもない。困りましたね……。

 

 「アンタは、その……」

 「何ですか?また宿題を写させろですか?」

 「何で宿題!?」

 「あ、すみません。養成所時代を思い出してたのでつい……」

 

 口から出てしまいました。

 でも仕方ないんです。

 養成所時代の叢雲さんは、体を洗えとか着替えの手伝えとか言うときは申し訳なさなど微塵も感じずに言うのに宿題を写させて欲しいときは心底申し訳なさそうにお願いしてきてたんです。正にさっきみたいな感じで。

 だから私が勘違いしちゃうのも仕方がないのです。

 

 「アンタって相変わらず……。いや、何でもない」

 「考えてることが顔に出る。でしょう?」

 「ええそうよ。ホンっト、呆れちゃうわ。でも安心もした」

 「安心、ですか?」

 「うん。だってアンタ、昔と全然変わってないんだもん」

 

 はて?それはおかしいです。

 朝潮だった頃ならまだしも、今の私は心身共に大人の女です。年齢的には若いですが、結婚してますし子供だっているんです。

 その私を捕まえて昔と変わってないとは如何なものでしょうか。

 

 「馬鹿なところが変わってない」

 「い、いや、確かに頭はあまり良くないですけど……そんなに酷いですか?」

 「酷いわね。確かにアンタは強くなったし、見た目も年相応に成長した。でも私が一緒に戦いたかったのは、そんな酷いアンタ。自分に自信が無くて、それでも愚直に努力してたアンタなんだから」

 

 叢雲さんはそう言い終わると、急に照れ臭くなったのか顔を真っ赤にして明後日の方向を向いてしまいました。

 私に変わっていないと言いましたが、私から見れば叢雲さんも変わってはいません。

 高飛車で意地っ張り。でも、本心を晒すのを本気で恥ずかしがる天邪鬼のままです。

 

 「私も同じです。いつかの秋刀魚漁のような小規模な戦闘ではなく、全力を出しても尚勝てるかどうかわからない戦場で、叢雲さんに背中を任せたかった」

 

 叢雲さんは、大和さんとの決闘が終わってから主人に「連れて行きたい艦娘はいるか?」と聞かれた私の頭に、満潮ちゃんや阿賀野さんを差し置いて真っ先に浮かんだ私の初めてのお友達。その叢雲さんと、ようやく私は戦える。

 あ、でもそうなると……。

 

 「もう、一人艦隊とな名乗れませんね」

 「ふん!随分と時間がかかっちゃったけどもう名乗らせるもんですか!アンタの相棒は満潮でも阿賀野さんでもない。この叢雲様なんだから!」

 

 相も変わらず顔を真っ赤にしたまま、叢雲さんは溜め込んでいたモノを吐き出すようにそう言ったあとに、なぜか申し訳なさそうに「馬鹿......」と言い捨てました。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 奇兵隊の飛車角コンビ?

 何それ、奇兵隊ってそんな人たちが居たの?

 はぁ!?うちの馬鹿亭主!?

 

 え、あなたってそんな呼ばれかたをしてたの?どうして……。ああ、そう言えばあなたの下の名前って飛車m……痛い!なんで叩くのよ!

 

 恥ずかしい?

 いや、恥ずかしがることないじゃない。親が名付けてくれた名前でしょ?堂々と名乗りなさいよ。

 海坊主さんだって顔に似合わない名前だけど堂々と……あ、そう言えば海坊主さんの下の名前ってたしか……。

 なるほど、だから飛車角コンビか。納得した。

 

 ん?一人で納得してないで教えろ?

 いや、教えろも何も想像ついてるんじゃない?そう、この人と海坊主さんの下の名前が由来よ。

 

 でもさ、青木さんが興味持つほど凄かったの?

 それと言うのも、私ってこの人が車を運転してるとこしか見たことないから、そんなこの人が戦場でどんなだったか知らないのよ。

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 矢矧へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 「買い込んだっすね~。トラック10台の荷台が山盛りになってるっすよ」

 「それは良いからもうちょっと丁寧に運転してくれない?酔っちゃったらどうしてくれんのよ」

 「十分過ぎるほど丁寧に運転してるっすけど?」

 「いやいや、揺れてるじゃない。飛車丸(ひしゃまる)が運転する時は全く揺れないわよ?」

 「相棒みたいな天才と一緒にされても困るっす。自分は凡人っすよ?」

 

 そう?あなただって天才の部類だけど?

 とは、けっして口に出さない。

 誉められるのは好きだけど人を誉めるのは照れ臭いのがこの桜子さんだからね。

 おっと、それは今どうでもいいわね。

 一応説明しとくと、艦娘たちから金髪さんとした親しまれ、奇兵隊の実働部隊の一つである『車』の隊長をしているビークル1こと矧上 飛車丸(しんじょうひしゃまる)少佐は、私の亭主であり実働部隊『銃』の隊長兼奇兵隊副長をしている神藤 角千代(しんどうかくちよ)の古くからの相棒よ。

 二人をまとめて奇兵隊の『飛車角コンビ』と呼んだりもするわね。

 

 「ちなみに初出っす」

 「何が?」

 「何でもないっす」

 

 あっそ。なら良いわ。

 いや、私も何か違和感は感じてるのよ?

 だって、それこそかなり初期から登場してるのに今の今まで名前が設定されてなかったのに何を今さらって……。

 ん?何言ってんだろ私。これじゃあまるで、適当な設定をしてた二次創作作者の言い訳をさせられてる気分だわ。

 

 「どうかしたんすか?」

 「ううん、何もないわ。それより、飛車丸はなんで買い出しに付き合わなかったの?私の専属ドライバーでしょ?アイツ」

 「べつに桜子さんの専属って訳じゃ……。まあいっか。相棒は魔改造したジェットスキーの慣熟訓練で忙しいんすよ」

 「あ~、アンタと乗るやつ?」

 「そっす。四式っす」

 

 説明しよう!

 四式内火艇ユニット、通称『龍』とは、今回の作戦のために奇兵隊の実働部隊の一つである『車』に配備された21式内火艇ユニット、通称『竜』のカスタムバージョンよ。

 この『龍』(竜もなんだけど)は全長360cmで全幅130cmのジェットスキー(水上バイクとも言うわね)に『装甲』形成に特化させた内火艇ユニットを組み込み、後部に『銃』の隊員用の銃座を設置した物よ。

 要は装甲が張れる2人乗りのジェットスキーね。

 あ、ちなみに、他の兵器でもそうなんだけど、日本製の武器には基本的に年式がつけられるわよね。

 今説明した21式の場合は2021年式って意味よ。

 通常は21式みたいに西暦の下二桁が用いられるんだけど、飛車丸専用の『龍』やお父さんが作らせたっていう『戦装束』みたいな、他の人間には扱いきれないオーダーメイド品には和暦が使われるの。

 つまり四式は平成四年式って意味ね。

 

 「最高速度は60ノット越えだっけ?」

 「21式はそんなもんっすね。四式は70ノット出せるらしいっす」

 「速すぎでしょ!制御できんの!?」

 

 え~とたしか1ノットが時速約1.8kmだからだいたい……129km!?さっきも言ったけど速すぎ!陸上ならともかく、喫水がほぼ無いジェットスキーが水上でそんな速度出したら即転覆よ!直進できるかも怪しいわ!

 

 「トビウオとか稲妻を使ったときはもっと速いっしょ?」

 「アレは水面を走ってるんじゃなくて跳んでるの」

 

 しかも直進しかできないしね。

 回光返照とやらを使った大淀と阿賀野が90ノット近い速度で航行したって聞いたけど、アレは両足で直接姿勢を制御できる艦娘、しかも大淀や阿賀野レベルの天才だからこそ実現できた事よ。

 それらと似たような真似を機械、しかも後部に人を乗せた状態でできるとはとても思えないわ。

 

 「言っときますけど、常に最高速でぶっ飛ばす訳じゃないっすよ。まあ、相棒ならできそうっすけど」

 「ホントにぃ?」

 「うわ、全く信じてない……。相棒は頭悪そうな見た目してるっすけど、こと運転に関しちゃマジで天才っすからね?しかも敵の攻撃タイミングが直感でわかるっつうチート持ちっす。ハッキリ言って奇兵隊でも……って、どうしたんすか?膨れっ面なんかしちゃって」

 「べぇつにぃ」

 

 まあ上手いのは確かね。

 アイツが運転する車に乗ったときはエンジンの振動以外感じないってくらい揺れないし、格闘術も銃撃も並なのに、例えばバイクに乗っただけで奇兵隊で五本の指に入るくらい強くなるしね。

 でも、亭主がアイツを誉める度に思うんだけど……。

 

 「気にくわない」

 「何がっすか?」

 「アイツのことを嬉しそうに誉めるアンタが!少しはその……私の事も誉めなさいよ」

 「いつも誉めてるじゃないっすか」

 「もっと!確かにアイツはアンタの相棒だけど、私はアンタの伴侶なのよ?同じくらい誉めなさいよ!」

 

 コイツはいっつもそう!

 私を誉める時とアイツを誉めるときとじゃ表情が全然違う。私を誉めるときは「そっすね~。桜子さんは凄いっすね~」って感じで適当に誉めるのに、アイツを誉めるときは嬉しそうな上にどこか誇らしそうなんだもん。

 

 「桜子さんは凄いっす。自分の誇り、いや恩人っすから」

 「もっと具体的に。それじゃわかんない」

 

 だいたい、誇りなのはわかるけど恩人って何よ。

 私がアンタにしてあげた事なんて、世紀末に肩パットつけてヒャッハー!とか言いそうな外見のアンタと結婚して子供を生んであげたくらいよ?

 

 「自分は学が無いっすから、どうしてもそれ以上の言葉が思い浮かばないんすよ。でも心底そう思ってるっす。桜子さんがいなきゃ自分は……俺はここまで幸せになれなかったっすから」

 「どこが幸せなのよ。今回の作戦って下手したらハワイ島の時以上に生還率が低いのよ?」

 「それでもっす。この作戦の成否はそのままこの世の行く末に直結してるんっすよ?つまり、俺は愛する桜子さんと桜ちゃんが伸び伸びと生きていく世界を守るために戦える。家族を知らなかった俺が家族のために戦えるんっす。戦うことしかできない俺にとって、こんなに幸せなことはないっすよ」

 

 まるで陣地に着くのを見計らっていたかのように、トラックを停めるのと同時に角千代がそう言い終えた。

 何よそのセリフ。

 それじゃあまるで死ぬつもりみたいじゃない。遺言みたいじゃない。

 

 「そんな泣きそうな顔しないでほしいっす。心配しなくても自分は死んだりしないっすから」

 「本……当?」

 「ホントっすよ。孫の顔を見るまでは殺されたって死なないっす。それに……」

 「それに?」

 

 なんか頭まで真っ赤になってきたけど何を言うつもりなんだろ。

 そんな茹でダコみたいになるほど恥ずかしいセリフを言うつもりなのかしら。

 

 「桜子さんともっと、イチャイチャしたいっすから」

 「は?はぁ!?」

 「嫌っすか?」

 

 嫌なわけがない。

 この人は私が初めて......お父さん以外で初めて見も心も任せて良いと思った人。今の私が心の底から愛する唯一の人よ。その人にイチャイチャしたいと言われて嫌な訳がない。

 でも困ったことに、素直に本音を晒されたら素直に答えることができないのがこの桜子さん。

 だから私の口は、私の心情なんて関係なしに「馬鹿......」と呟いてた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 何の罰ゲームだ。

 が、後部座席で一部始終を見せられた私たち花組一同の感想でした。

 

 だって桜子姉さんと角千代兄さんは、私たちがいるのを完全に忘れてイチャイチャチュッチュチュッチュとし始めたんです。

 ええ、べつにイチャイチャするのは良いですからせめて他所でやってくださいと思いましたよ。

 

 その時は無駄に長いキスだけで済ませてくれたからよかったですが、もしその場でセッ......いや、まぐわ......。う、うん!とにかくそういった事を始めようものなら、「私も混ぜてほしい」とか言ってた桃姉さんや「僕たちもどう?」とか「も、もうちょっと見てから」などと言っていたくらら姉さんと桔梗姉さんを張っ倒してから止めるつもりでした。

 

 でも、同時に羨ましくもなりました。

 ええ、私は今だに伴侶と呼べる人に巡り会えていませんから。

 

 

 ~戦後回想録~

 元神風型駆逐艦 五番艦 旗風。現奇兵隊花組所属 降旗 菘少尉へのインタビューより。

 

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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