艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百六十八話 とんだ茶番に付き合わされたわね

 

 

 

 

 

 戦艦と言えば正規空母と並ぶ最強の艦種。

 そこに存在するだけで下の者達を奮い起たせ、他の艦種では並び立つことすら不可能なほどの強大な砲火力で敵を薙ぎ払う艦隊決戦の華。

 と、民間人やプライベート時の戦艦を知らない人は思ってるわ。

 でも私は……。

 

 「戦艦ほど変態が多い艦種は他にない。と、思ってる」

 「Hey霞、それじゃあ私も変態みたいじゃないデスか」

 「え?金剛さん自覚なかったの?」

 「いやいや、あそこで騒いでる連中に比べたら私はまともな部類デース」

 

 ふむ、たしかにワダツミ内の談話室の一つを占領するかのような勢いで騒いでいるあの連中に比べたら金剛さんはマシな部類かもしれない。あくまでマシってレベルだけどね。

 それと言うのも......。

 

 「やはり余のNelson touchが見た目も威力も一番だろう。なんでも、余の真似をする駆逐艦もいるそうじゃないか」

 「いやいや、私の『一斉射か、胸が熱いな!』こそ一番だ」

 「ちょっと待ってナガート。youのそれって名前なの?」

 

 などとビッグセブン特有の特殊砲撃(ただの一斉射)について話しているネルソンさんに長門さん、それに同じビッグセブンとは思えないほど小柄(ただし胸部装甲は正にビッグセブン)なコロラドさんが騒がしい。

 でもまあ、ここはまだ騒がしいだけだから実害はないわね。

 そんな彼女たちと違って気味が悪いのは、談話室の片隅で艦種問わず艦娘を集めて「あらあらあらあら」言ってるだけの陸奥さんね。

 恵姉さんと荒潮も混ざって「あらあら」言ってるし、もしかしてあれが噂のムツリム集会なのかしら。

 

 「ホント、戦艦って濃い」

 「濃いとか言うなデース。濃いのはBIG7だけで金剛型はまともデス」

 「いや、金剛型も大概でしょ」

 

 だって一番艦の金剛さんは色ボケの痴女で、二番艦の比叡さんは磯風以上の料理音痴、いえ毒物製造機。本当かどうか知らないけど、昔戦闘中に弾切れになった比叡さんがたまたま持っていたカレー(どうして戦闘にカレーを持っていったのかはツッコマない)を投げつけたら投げつけられた深海棲艦が爆散(爆散って......)したそうよ。 

 そして三番艦の榛名さんはムッツリスケベの被虐趣味。金剛さんの話では、身の毛も弥立つほどハードなプレイ中に「榛名は大丈夫です!」って言うのが夢なんだとか。

 さらに濃いのが四番艦の霧島さんね。

 彼女は893の組長の娘らしく、艦娘になったのも後々役に立ちそうな軍とのコネクションを構築するためだったらしいわ。もっとも、その目論見は霧島さんが呉提督に惚れちゃったのと、すでにどこぞの組が軍と協力なコネクションを築いてて入り込む余地がないなんて理由があって断念したらしいわ。

 あ、ちなみに霧島さんはネームド戦艦としても有名ね。しかも異名は複数あるわ。有名どころだと『マイクチェックメガネ』とか『893戦艦』、さらに『メガネをとったら本気の合図』とか......いや、最後のは違うか。

 

 「あ、そうだ。結婚おめでとうございます。上手く落とせたみたいですね」

 「このタイミングで言います?でもまあ、一応ありがとうと言っておきマス」

 「どういたしまして。それに新しい改装も受けたそうじゃないですか」

 

 たしか改二丙。

 戦艦のクセに雷撃まで可能になったって聞いたわね。

 機動力は戦艦のままではあるものの、金剛さんの砲火力と速力に雷撃まで加わるなんてたちが悪いわ。

 絶っっっ対に!敵に回したくないわね。

 

 「個人的には、純粋に火力を強化してほしかったデスネ」

 「どうして?」

 「まどろっこしいんデスよ。一々何秒も先の敵艦の未来位置を算出して撃つくらいなら手に持って投げつける方が簡単デス」

 

 これだから戦艦は……。

 と、私だけでなくほとんどの駆逐艦が、今の金剛さんのセリフを聞いたら思うでしょうね。

 今まで砲撃だけで戦ってきた金剛さんにはわかんないんでしょうけど、想定した敵艦の未来位置に魚雷を放ち、砲撃なりで誘導して上手いこと魚雷が命中したらメチャクチャ気持ちいいのになぁ……。

 

 「あ、居た。コンゴーおばちゃ……むぐ!?」

 「Hey ジャービス。おばちゃんって呼ぶなと前にも言いましたヨネ?」

 

 大人気ない。

 とは、談話室に入るなり先のセリフを吐きながら、トテトテと走り寄って来たロリコンゴー……もとい、ジャービスの口を塞ぐように右手で掴んだ金剛さんには言えない。

 だって目がマジだもん。

 

 「ご、ごみぇんにゃはい」

 「わかればよろしい」

 「うぅ……顎が痛い」

 

 嫌な予感がする。

 ジャービスはたしか、別の談話室でウォースパイトさんが開いているお茶会に参加していたはず。

 そのジャービスがわざわざ金剛さんを探しにここへ来たと言うことは……。

 

 「で?何か用デスか?」

 「あ、そうだった。ママがおこなの!激おこなの!だからヤマートが金剛おば……姉ちゃんを呼んできてって!」

 「は?ウォースパイトが?」

 

 やはり助けを求めて来たのね。

 しかもウォースパイトさんが激おこときた。

 と、言うことは、ほぼ間違いなく誰かが喧嘩を売るなりしたのね。

 なんて命知らずな……。

 

 「仕方ないないデスねぇ……。じゃあ霞、行きますよ」

 「え?いやいやいやいや!なんで私も行かなきゃいけないの!?」

 「旅は道連れ世は情けと言うでしょう?だから付き合ってください」

 「言うけど!言うけど嫌だったら!だってウォースパイトさんが激おこなんでしょ!?」

 「まあそう言わずに。ジャービスも行きますよ」

 「へ?」

 

 そう言いながら、金剛さんは嫌がる私だけでなく見送りとばかりに手を振っていたジャービスまで脇に抱えて談話室を出た。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 海外の戦艦や、その当時引退していた人はどうだったか知らないけど、私が知る限り当時の戦艦にまともな人はいなかったわ。

 

 ええ、断言しても良い。

 戦艦は頭のおかしい人しかなれないんじゃないかって本気で考えるたことがあるくらいだもん。

 

 え?扶桑さんや山城さんもまともじゃなかったのか?

 そうよ。あの二人も例外じゃなかった。

 山城さんは「姉様の妹じゃなくて弟として生まれたかった」とか平気で宣うくらいのシスコンだった……え?何が問題って、わかんない?

 あの人近親相姦上等みたいな感じでそう言ったのよ?いや、むしろそれが至高とまで言いそうだったわね。

 ええ、もし山城さんが男だったら襲ってたんじゃないかしら。

 

 扶桑さんもそうだったのか?

 扶桑さんの場合はベクトルが違うわね。

 あの人が不幸の代名詞みたいな人だったのは青木さんも知ってると思うけど、そのせいか開運グッズを集める癖があったの。

 ええ、あの人ってどんなに怪しいものでも、どんなに高額でも即決で買うのよ。

 そのせいであの人と佐世保提督の家は怪しげな開運グッズでいっぱいになってるし、それが原因でトラブルになったことも一度や二度じゃないわ。

 

 え?ワダツミで戦艦同士の喧嘩があった?

 それ何時の話?

 ああ、マルセイユを出た後のアレか。でも、アレは喧嘩って言うよりは意地の張り合いかなぁ。

 

 いや、後から事の顛末を円満さんに報告するはめになったんだけど、それくらいしか言えなかったもん。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 三つ巴って言葉を知ってる?

 簡単に説明すると、三つ巴とは「三者が対立して入り乱れること」「三人が向かい合って座ること」「巴を三つ組み合わせて円形にした文様」という意味の言葉よ。

 対立した三者の力が拮抗して入り乱れる様子や、そのややこしい状態を差すのにも使われるわね。

 似たような言葉で『三すくみ』があるけど、これはジャンケンのように三者それぞれが得手不得手を持ちお互いに牽制しあう様子を表す言葉だから三つ巴とは少し違うわ。

 

 「まあ、これはどっちでもないかな」

 「満潮さん、諦めないで止めてくださいよ……」

 「無理無理無理無理。アンタこそ止めて来なさいよ。ウォースパイトさんとアイオワさんは無理でも、アンタは飼い主なんだから大和なら止められるでしょ?」

 「それは……」

 

 私の訓練に堪えきった成果か、朝潮は心身共に強くなった。それでも無理なのはわかってる。

 私だって無理、と言うよりは関わりたくないもの。

 あんな馬鹿騒ぎを止めに入ったら、私まであの戦艦どもと同じに見られかねないからね。

 

 「武蔵!私を裏切るのですか!?姉であるこの私を!」

 「すまない大和姉さん。だが私は元々夕雲型駆逐艦の末妹だ。その私が、コーヒー党の夕雲姉さんに敵対するわけにはいかない。と言うか、苦いの苦手……」

 

 いや、どう考えても最後のが最大の理由でしょ。

 まあ夕雲型駆逐艦に囲まれ、さらに武蔵の膝の上で膝を組んで長女の威厳をこれでもかと醸し出している夕雲に逆らえない気持ちはなんとなくなくわかるわ。

 

 「ふ、扶桑さんと山城さんは……」

 「私は……その、どれが良いかと聞かれたらコーヒーですね。ね?山城」

 「私は姉様がお好きな物なら何でも♪」

 

 再び仲間を増やすのに失敗してガックリと肩を落とす大和。それどころかコーヒー党に二人加わっちゃったわ。

 そんな大和が、すがるような視線を向けた先にいるのは……。うわぁ、よりにもよってあの二人か。

 

 「伊勢さんと日向さんは……」

 「「瑞雲だ」」

 「は?今何と?」

 「「私たちが愛飲しているのは瑞雲だと言った」」

 「あ~……うん。すみません。聞く人を間違えました」

 

 気持ちはわかるけどツッコミを放棄するんじゃない。

 色々あるでしょ?

 ほら、瑞雲は飲み物じゃないとかさ。瑞雲飲んでるのかよ!とか、意外と「瑞雲」っていってるヤツ多いな!とかさ。日向さんも「まあ、そうなるな」とか言うくらいなら瑞雲とか言うな。

 

 「じゃ、じゃあ……」

 

 マズい。

 結局味方が得られず、ついに壁際に避難していた私と朝潮に大和が目を着けたわ。

 とっさに目を逸らしたけど、あの様子じゃ私たちを味方に着けようとするんじゃ……。

 

 「きょ、教官」

 「な、何よ」

 「教官は日本人ですよね?」

 「ええ、一応………ね」

 「では当然、私と同じで飲むなら抹茶です……よね?」

 

 今更ながら説明しましょう。

 今現在、私たちがいる談話室で繰り広げられている茶番の原因。それは、午後のティータイムで飲むなら何か。と、大和とアイオワさん、そしてウォースパイトさんが話しだしたのが原因よ。

 まあだいたい察しは着くと思う。

 アイオワさんはコーヒーを挙げて夕雲型姉妹を筆頭に数多くの味方を得、ウォースパイトさんも紅茶を挙げ、金剛型姉妹や神戸生まれと宣う末妹に引っ張られた最上型重巡洋艦姉妹等々多数の味方を得ているわ。

 さらに意外と人数が多く、横から参戦してきたのが伊勢型姉妹を筆頭とした瑞雲教ね。ちなみに、誤解がないよういっておくけど瑞雲は飲み物なんかじゃあない。

 そして大和が何を挙げたかと言うと、さっき本人が口にした通り抹茶。しかもガチなヤツ。

 つまり、今この談話室はコーヒー党と紅茶派、さらに瑞雲教が心底どうでも良い三つ巴の戦いを繰り広げられているのよ。

 あ、あとは超少数派、ってか大和一人の抹茶会ね。

 

 「教官!」

 「ごめん大和、私はアンタの味方にはなれない」

 

 何故なら私もコーヒー党だから。

 しかも私は、サイフォンを使って淹れるほどのコーヒー好きよ。その私が、いくら教え子とは言えアンタの味方はできるわけがない。

 それに私、コーヒー党と謳ってはいるけど武蔵と同じで苦いの苦手なのよ。

 コーヒーにだって、砂糖とミルクを入れなきゃ飲めないんだから。

 

 「教官まで……でもご主人さまは……!あ、あれ?どうして私の方を見てくれないんですか?」

 

 大和の絶望一本手前みたいな視線を追って隣の朝潮を見てみると、朝潮は私と同じように大和から目を……いや、顔をそらしていた。しかも「よくそんなに曲がるわね」って言いたくなるような角度に。

 ほとんど真後ろ向いてるんじゃない?

 

 「ま、まさかご主人さまも……」

 「ごめんなさい。私、苦いのと辛いのはちょっと……」

 

 朝潮の返事を聞いた途端、ガックリって擬音が聴こえてきそうなほどガッカリして、大和は膝から崩れ落ちた。

 正に最後の望みも潰えたって感じね。

 

 「態勢は決したようですね。ms.大和」

 「まだです!まだ誰か……」

 

 いや、居ないでしょ。

 大和はそれでも誰かと言わんばかりに室内をキョロキョロしてるけど、大和、と言うより抹茶を完膚なきまでに叩き潰したそうなウォースパイトさん以外は各々が好きな物を飲みながら談笑し始めてるわ。

 

 「まあまあ、Warspite も大人気ないこと言ってないでTeaTimeをEnjoyしましょうよ」

 「TeaTime?Ms.Iowaが飲んでいるのは泥水じゃなくって?」

 ピシッ!って音が聴こえた気がした。

 それと同時に、コーヒーを楽しんでいた全てのコーヒー党の人たちが固まった笑顔をウォースパイトさんに向けたわ。

 これは間違いなく喧嘩になるわね。

 すでに夕雲を始めとした夕雲型姉妹は戦闘態勢。それを察したのか、ティーテーブルで紅茶片手に静観していた金剛型姉妹が立ち上がったもの。

 

 「逃げるわよ朝潮。このままここに居たら間違いなく巻き込まれる」

 「無理ですよ満潮さん。だってほら……」

 「クソ、あのアホ戦艦、よりにもよってあんな場所で……」

 

 朝潮の視線の先にあるこの談話室唯一の出口の前で、実際に淹れる場面を見せれば興味を持つ人が出るかもしれないとでも考えたのか、はたまた単に不貞腐れて一人で茶の湯を楽しもうとでも考えたのか、大和がどこからともなく取り出した赤い絨毯?を敷いて、これまたどこからともなく取り出した茶釜をカセットコンロに置いてお湯を沸かしていた。 

 

 「あれ?そういえば……」

 「どうしたのよ朝潮。逃げ道でも見つけた?」

 「いえ、そうではなくて。いつの間にかジャービスさんの姿が消えてるんです」

 「言われてみと確かに……」

 

 本当にジャービスの姿が消えてるわ。

 いったいいつから居ないんだろう。

 大和が勧誘を始めてから?それとももっと前の、各派閥がこれこそ一番だとか言い出したあたり?

 

 「Warspite 、貴女がcoffeeが嫌いなのは良くわかりましたが、だからと言って泥水呼ばわりはないんじゃない?」

 「キャラが崩れてるわよms.Iowa」

 「話を逸らさないでもらえる?私が言ってるのは……!」

 「正直迷惑してるんですよ。せっかく金剛の妹たちとTeaTimeを楽しんでいたのに、あとから来た貴女たちが淹れたcoffeeの下品な『悪魔の臭い』のせいで紅茶の繊細な香りが台無しだわ」

 

 悪魔の臭いとかいつの時代の人間よ!

 と、言ったのは私じゃなくてアイオワさん。

 ちなみにコーヒーがヨーロッパに伝わった時、当時の英国人にとってコーヒーは馴染みのない飲み物で、コーヒーハウスの近隣の住民からコーヒーの「悪魔の匂い」の対処を訴え出た記録が残っているんだって。

 他にも色々と悶着があったそうだけど、その辺が気になるなら各々で調べてちょうだいね。

 ん?なんか大和が茶釜を移動させたわね。

 

 「HEY!ウォースパイト!話はジャービスから聞きましたよ!」

 

 あ、なるほど。

 大和は金剛さんが来た気配を察して茶釜を移動させたのね。それにジャービスの居場所もわかったわ。

 具体的には金剛さんの脇の下。

 怯えた顔して抱えられてるわ。何故か反対の脇には何かを諦めたような顔した霞さんも。

 

 「あら金剛。貴女もどう?淹れたてよ?」

 「それは後で貰います。それよりウォースパイト、貴女またcoffee飲んでる人に喧嘩を売ったんですって?」

 

 また、とな?

 ウォースパイトさんと昔馴染みの金剛さんがそんなセリフを言ったってことは、彼女って以前からコーヒーを馬鹿にしたような事を言ってたってこと?

 

 「やっと解放された……」

 「どうして霞さんまで連れてこられたの?」

 「そんなの私が聞きたいわよ……。ってジャービス!足にしがみつくのやめてったら!」

 

 金剛さんの脇から解放されるなり、脱兎の如く私と朝潮の傍まで避難して来た霞さんは、ついさっきジャービスに足にしがみつくなとか言ったのを忘れたのか、私の背中に隠れるようにしがみついたわ。

 

 「だってcoffeeだけは私……」

 「まだ昔の事を気にしてるのよ?もう十……年前のことじゃないデスか」

 

 十……何年?ハッキリと下の桁まで言ってくれないかしら。は、まあいいか。

 金剛さんに注意されて子供みたいに頬を膨らませていたウォースパイトさんは、まるで絞り出すようにそう言ったわ。

 いったい、ウォースパイトさんの過去に何が……。

 

 「昔の彼氏が紅茶よりcoffeeの方が好きだって言ったからって、coffee自体を敵視するなんて相変わらず頭おかしいデス」

 「昔の彼氏って何よ!私、男性は主人しか知りません!」

 「どっちでも良いデスよそんなこと。それよりも……良いんデスか?」

 「良いって何が……!あ……」

 

 金剛さんが呆れながら指した指の先では、ウォースパイトさんが「しまった」と言いたそうな顔してしっかりと両足で立ってるわ。

 その様子を目の当たりした周りの艦娘たちは、さっきまでの敵意剥き出しの視線ではなく、仰天一色に染め上げられた視線を向けて「ウォ、ウォースパイトさんが立った……」とか「やっぱり立てたんだ」とか言ってるわ。

 でも困ったわね。

 金剛さんの乱入によって、ウォースパイトさんのコーヒー嫌いの理由と立てるという事実が明るみになったことで、一触即発の雰囲気から一転して微妙な雰囲気になっちゃったわ。

 

 「さて、恥もかいたところで皆さん一服しませんか?」

 

 そんな雰囲気を意に介さず、所在なさげにしている一同にお茶を薦めたのは我が横須賀が誇るアホの子、もとい大和よ。

 その大和は、この場にいる全ての人から向けられる「こんな時に何言ってんだ」って言いたげな視線を受けながら茶釜からお湯を掬って茶碗に入れ、茶筅でシャカシャカとかき混ぜ始めたわ。

 

 「本来の作法とはかけ離れていますが、それでも心得は変わりません。先ずは金剛さん、いかがですか?」

 「……お点前頂戴致します」

 

 大和に誘われた金剛さんが、赤い絨毯に正座するなり懐からハンカチを出して右に置き、差し出された茶碗を左手に乗せて、右手を添えたかと思ったらゆっくりと180度回転させてから口をつけたわ。

 なんで茶碗を回したんだろ?

 

 「金剛さんは茶道の経験があるのですか?」

 「子供頃に噛った程度デス」

 

 だいたい三口半かしら。で、お茶を飲み干した金剛さんは、右手の親指と人さし指で軽く飲み口を拭いて手はハンカチで拭き、茶碗をさっきと反対に回して、大和に戻した。

 私には茶道の作法なんてわかんないけど、二人の所作は堂に入ってると思えちゃうわ。

 

 「ほら、いつまでも突っ立ってないでウォースパイトも座りなさい。それにアイオワ。貴女もよ」

 「で、でも金剛。私、正座は苦手で……」

 「み、Meも正座はちょっと……」

 「べつに正座じゃなくても好きに座れば良いデス。構いませんよね?」

 

 と、金剛さんに問われた大和はコクリとうなずいて許可を出した。

 まさか大和は、このくっだらない諍いを鎮めるためにお茶を淹れ始めたのかしら。

 

 「ね、ねえ金剛。どうやって飲めば良いの?」

 「好きなように飲めば良いんデスよ。変に気負う必要はありません」

 「でも、茶道には作法があるんじゃなくって?」

 

 大和から茶碗を受け取ったウォースパイトさんが言う通り、茶道には細かい作法がいくつもある。金剛さんは気負わなくても良いと言ったけど、始めての経験であるウォースパイトさんとアイオワさんが気負うのも無理はないわ。

 

 「茶聖と謳われた千利休はこうおっしゃいました。曰く、『一生に一度しかない、今この時の出会いを大切にしようとする「一期一会の精神」が大切なのではないでしょうか』と」

 「Ms.大和。つまりどういう事です?」

 「言葉通りですよ。確かに作法はありますが、それが当たり前に出来る人など少数。そんな事を気にするより、今を楽しみましょうと私は言いたいんです」

 「なるほど……。Japanには素敵な言葉があるのね。なんだか、紅茶だコーヒーだと騒いでいたのが恥ずかしくなってきたわ」

 

 もっと早く気付いて欲しかったなぁ。

 ってツッコみたいけど、妙にしんみりとしちゃったウォースパイトさんには言えないか。

 

 「あら?思ってたよりも苦くないのね。むしろほのかに甘い?」

 「その通りですアイオワさん。抹茶はその色から苦いと思われがちですが実は渋味などは少なく、あっさりとした美味しさが味わえるんです」

 

 へぇ、抹茶って見た目ほど苦くないんだ。

 ウォースパイトさんとアイオワさんはその味が気に入ったのか、最初の一杯を一気に飲み干しちゃったわ。

 

 「それに、抹茶にはこういう飲み方もあります」

 

 そう言いながら、大和が腰の後ろあたりから取り出したのは牛乳パックと砂糖と書かれた小瓶。それと小型のヤカン。

 もう今さらだから何処にしまってたんだとか突っ込まないけど、抹茶と牛乳と砂糖くればアレしかないわね。

 

 「ご主人さま。コレを飲んでみてください」

 「コレは……抹茶オレですか?」

 「どちらかと言うと抹茶ラテですが……まあ、どちらでも良いですね」

 

 ちなみに抹茶オレと抹茶ラテ、と言うよりオレとラテの違いは無いわ。強いて言うならオレが仏語、ラテが伊語ね。意味はどちらも牛乳よ。

 じゃあ何故別けているか。

 それを説明するには抹茶ではなくコーヒー、カフェオレとカフェラテで説明するのが良いわね。

 お店によって配合量は違うんだけど、だいたいレギュラーコーヒーと牛乳が1:1なのがカフェオレ。

 エスプレッソと空気を入れて泡立てた牛乳が2:8なのがカフェラテよ。要は配合量が違うだけでどっちもコーヒー牛乳って訳。

 今朝潮が恐る恐る口をつけたのも要は抹茶ミルクだけど、大和は泡立てた牛乳を使ったから、抹茶ラテと訂正したのね。

 

 「あ、これなら私にも飲めます。いえ、むしろ好きです。ほのかな苦味が良いアクセントになっていていくらでも飲めそうです」

 

 大和におかわりをお願いしているのを見るに、どうやら朝潮は気に入ったようね。

 あんなに美味しそうにゴクゴク飲まれたら、抹茶に抵抗感がある私ですら飲んでみたくなるわ。

 

 「いや、私だけじゃないか」

 

 アイオワさんは余程気に入ったのか大和に二杯目を点ててもらい、それに夕雲型姉妹プラス武蔵を擁したコーヒー党も続いてるし、ウォースパイトさんを筆頭とした紅茶派は抹茶ラテが気に入ったらしく大和から淹れ方を習って自分たちで淹れ始めたわ。あ、ちなみにジャービスは、ウォースパイトさんがしんみりしちゃったあたりで、霞さんを引っ張ってお茶会に参加したわ。

 瑞雲教は……なんか「抹茶にはやはり瑞雲だな」とか訳わかんないこと言いながら線香焚いてるから無視しよ。

 

 「これは大和の一人勝ち。かな?」

 

 現状を見れば抹茶(抹茶ラテ)以外を飲んでる人は居ないから抹茶会の独壇場。

 正直見直したわ。

 喧嘩を仲裁するだけじゃなく、敵対していた者まで仲間に引き入れた大和の手腕は元帥さんを思わ……せ。

 

 「まさか、最初から?」

 

 大和の振り撒く笑顔に違和感はない。

 でも時折、ほんの一瞬だけ「フ……」と鼻で笑うように口角を上げてる。

 よくよく思い出してみれば、そもそもことの発端は大和が「お茶なら抹茶が一番です!」と言ったのが始まり。

 つまり大和はわざと火種を撒き、ウォースパイトさんがヒートアップしだした頃に逃げようとしたジャービスに金剛さんあたりを呼んでくるよう言付けて談話室から出してお茶を点て始めた。

 そして折りを見て一服を薦め、見事この談話室を抹茶一色にしたのよ。

 

 「まったく……。とんだ茶番に付き合わされたわね」

 

 お茶だけに。

 と、自分でも心底くだらないと思う事を思いながら、ついに「計画通り」と言わんばかりにほくそ笑みだした大和を見て私はため息をついた。

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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