艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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 十六章ラストです。
 次章は話数が多くなるかもしれないので来月の……いつ書き上がるんだろう(;´д`)


第百七十話 幕間 満潮と窮奇

 

 

 

 ノルウェー海戦。

 

 ノルウェー海戦とは、開戦時から数えて五回行われた欧州棲姫に対する討伐作戦によって生じた海戦の総称である。

 

 五回の内、いずれも欧州連合は多大な被害を被り、その度に制海権を大幅に失う結果に終わったことから、各国の国民からは「蜂の巣をつつくようなもの」「制海権の献上」「政権交代の時期」などと言われ、国によっては欧州棲姫へ攻撃すると発表しただけで暴動が起こるほどであった。

 

 決定的だったのは、日本と米国の支援を受けて実行された第五次ノルウェー海戦が敗北に終わったというニュースが各国を駆け巡ったときである。

 

 結果として、後のリグリア海戦で勝利はしたものの、二つの中枢を討伐した日本と米国が協力しても倒せなかったという事実は欧州各国の国民を絶望させ、ノルウェー海戦で敗北してからリグリア海戦で勝利するまでの僅か一週間の間に自殺者が急増し、戦死者よりも自殺者の方が多かったと言われている。

 

 

 ~艦娘型録~

 主要海戦。第五次ノルウェー海戦の項より抜粋。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 ノルウェー海での戦闘は、概ね円満さんの予想取りの展開を経て敗北。

 今現在、ワダツミは敵の追撃艦隊を撃破して先に撤退を開始していた護衛艦群と合流し、ポイント オケアノスに向けて航海を続けてるわ。

 

 「あれだけの反撃を食らったのに被害は想定以下……か。さすがは円満さんってとこかしら」

 

 私は、真夜中なのにも関わらず航海を続けるワダツミの前部甲板から、真っ黒な真下の海を眺めてそう呟いた。

 数字にすると1%未満。

 怪我人は出たけど戦死者は0。その怪我人も、ポイント オケアノスに着く頃には戦線復帰が可能。ホント、円満さんの采配には舌を巻くしかないわね。

 

 「アンタもそう思わない?」

 「そうだな。さすがは円満だ」

 

 知ってる気配を感じたからつい聞いてみてたけど、忍び寄るように近づいて来た大和……いえ、口調的に窮奇か。は、同意してくれた。

 こんな時間に何してるのかしら。

 ジャージ姿だから、大和が寝てる隙に身体を拝借して散歩でもしてたのかな?

 

 「こんなところで何をしているんだ?」

 「それはこっちのセリフよ。大和は寝てるの?」

 「ああ、時差ボケがどうとか言っていたな」

 「時差ボケって……欧州に来て何日も経ってるのにまだ治んないの?」

 「それは私に言われても困る」

 

 そりゃそうだ。

 身体は共有してても、普段の使用権は基本的に大和に有るっぽいし。って、なんで私の隣に来るのよ。

 大和って私よりずっと背が高いから、あんまり近づかれると見上げなきゃならないから首が辛いんだけど。

 

 「ふと、やり残した事を思い出したから夜な夜なお前を探していた」

 「夜な夜なって……。部屋に来れば良いじゃない」

 「お前は円満と同室だろう?」

 「それって……」

 

 円満さんが居たらマズいってこと?いや、マズい云々じゃなくて、私と二人っきりで話したいことなりやりたい事があるってことか。

 ん?でも窮奇ってレズなのよね?

 だったら二人っきりはマズいんじゃない?

 時雨なら対格差がほとんど無いから何とでもなるけど、大和の身体を使ってる窮奇に本気で押し倒されたらさすがに抵抗できないんじゃ……。

 

 「あれ?もしかして私ピンチ?」

 「どうした?敵影でも見えたのか?」

 「いや、そうじゃなくて……」

 

 怪訝そうな顔して私を見下ろしてるアンタに危機感を抱いてるの。とは言い辛いわね。

 距離はやたらと近い、それこそ私の頭に肘を乗せられそうな距離だけど、変な空気は感じないからたぶん平気でしょ。

 

 「それより、どうして私を探してたのよ」

 「ん?ああ、お前がいつまで経っても願いを言ってこないから、いっそ私に方から聞いてやろうと思ってな」

 「あ~……そのことね」

 

 スッカリ忘れてた。

 そう言えば私、以前窮奇に何でも一つだけ願いを聞いてやるっ言われてたんだっけ。

 

 「でもアンタ、私が思い付いた時で良いって言わなかった?」

 「確かにそう言ったが……。時間が限られてるのでな」

 

 時間……か。

 確かに限られていると言えば限られてる。

 あと1日ちょっとでワダツミはポイント オケアノスに着くし、そうなれば第二種戦闘配置になるから、お互い呑気に雑談してる暇なんてなくなる。

 でもそれだけじゃない気がする。窮奇が言った「限られている」には含みを感じるわ。

 もしかしてコイツ、生きて帰るつもりがないのかしら。それとも、私が戦死すると思ってる?

 だったら……。

 

 「私が艦娘になった理由。話したことあったっけ?」

 「いや、記憶に無いな」

 「そう、なら教えてあげる。私は、かつて『隻腕の戦艦棲姫』と呼ばれていたアンタに復讐するために艦娘になることを選んだの」

 

 窮奇は何も言ってこない。ただ黙って、真剣な瞳で私を見つめ返してるわ。

 

 「アンタは私の友達を殺した。当時の私にとって、唯一の友達を殺したの」

 

 艦名は涼風。

 涼風は、作戦からの帰投中に襲ってきた窮奇の砲撃から時雨を庇って死んだ。

 時雨に聞いた話だと、一部すら遺体は残らなかったらしいわ。

 

 「でも、アンタがお姉ちゃんに沈められたと聞いたときに一度は諦めた。だって居ない者には復讐できないからね。でも、アンタは甦った」

 

 私の理由と一緒に。

 最初は喜んだわ。円満さんから全力を出して良いって許可も貰った。暴走したら即沈めてやるともりだった。

 なのに、大和に情が湧いてできなくなった……。

 

 「アンタは、沈めた相手の事を憶えてる?」

 「アサシオ以外は姿形をボンヤリと……だな。でも、憶えていない方が良かったと後悔している」

 「どうして?」

 

 私に問われた窮奇は、バツが悪そうな顔をしてワダツミの艦橋の方に視線を移した。

 艦娘になったことで罪悪感を感じるようになったから?それとも窮奇が大和の内に潜んでると知った誰かに、今の私と似たような事を言われでもしたのかしら。

 

 「ボンヤリと姿形は覚えているとさっき言ったろう?艦娘はどいつもこいつも似たような容姿をしているから、まるで幽霊でも見ているような気分になってくるんだよ。それがどうにも、気持ち悪くてな……」

 

 幽霊そのものみたいな奴が何言ってんの?

 とは思ったけど、窮奇からしたら沈めたはずの相手が何食わぬ顔し、時には親しげに話しかけてくるような感じなのかしら。

 私が逆の立場だったら……。う~ん、気持ち悪いと言うよりは怖いって思っちゃうかな。

 あれ?でも……。

 

 「お姉ちゃんのときはむしろ嬉しかったんじゃないの?」

 「そりゃあそうさ。彼女は私の、初恋の相手だったんだからな」

 「いやいや、確かにお姉ちゃんと初代朝潮は瓜二つってくらいソックリだったらしいけど全くの別人よ?」

 「はぁ?」

 

 ん?え?何よその「何言ってんだコイツ」みたいな顔と反応は。私、何か変なこと言った?

 

 「あの二人は身体は別でも同一人物じゃないか」

 「はぁ!?いやちょ……それどういう意味?」

 「どういう意味も何も言葉通りだ。聞いていないのか?」

 

 全く聞いてません。

 そもそも身体は別なんでしょ?それなのに同一人物なの?それとも、お姉ちゃんは初代朝潮の生まれ変わり?

 

 「私と同じだ。彼女は艤装の中で生き続けていた」

 「だったら、やっぱりお姉ちゃんと初代朝潮は別人じゃない」

 「いや、今は一つになっている。今の彼女は私が恋したアサシオであり、私を沈めた朝潮でもある」

 

 と言って、窮奇は私から海の彼方に視線を移した。

 具体的には北北東くらいね。

 窮奇はお姉ちゃんがライン川に居るのを知らないはずだけど、そっちの方に居るってわかったりするのかしら。

 

 「信じられないなら良いさ。それよりも……」

 「何よ」

 「そろそろ願いを言ってくれないか?さすがに疲れてきた」

 「そう言われてもなぁ」

 

 全く思い浮かばない。

 だいたい、願いって言っても窮奇が叶えられるような現実的な事だけでしょ?非現実的な願いならいくつか有るんだけど……。

 例えば、円満さんを掃除洗濯ができるようにしてとか、せめて袋ラーメン……いや、高望み過ぎね。カップ麺で良いわ。カップ麺くらいはまともに作れるようにしてとか、人目がないと私に甘える癖を……やっぱりこれは無しで。

 あとはそうね……。

 円満さんが、幸せな人生をおくれるようにして、とか。

 

 「って、円満さんの事ばっかりじゃない」

 「円満がどうした?」

 「べつに……」

 

 何でもな……くはないか。

 改めて思い知ったわ。円満さんが私に依存しているように、私も円満さんに依存してる。

 だって円満さんが居ない生活なんて考えられないもの。

 毎朝寝起きが悪い円満さんを叩き起こし、半分寝た状態の円満さんに歯磨きと洗顔をさせている間に朝食の用意をし、歯磨きしながらでも寝ようとする円満さんの尻を蹴飛ばして着替えさせ、お箸を持ったまま船を漕ぐ円満さんの口に朝食を突っ込む。

 

 それが終われば仕事。

 真面目にやってるフリして面倒な書類仕事を私に押し付けようとする円満さんを叱って、私自身も仕事しながら夕方まで過ごす。

 

 そして夕飯の支度をして、アレが嫌いだのコレが食べたいだのと駄々をこねる円満さんを無視して(でもたまには好きなものを食べさせてあげる)、栄養バランスを考えた夕飯を食べさせて、服を脱ぎ散らかしてお風呂に入る円満さんをやっぱり叱る。

 

 円満さんがお風呂から上がったら私も入って、上がった後はテレビでも見ながら談笑し、時間になったら一緒に寝る。

 

 面倒臭いと思いながらも、私はその生活がなくなるのが嫌だと思ってる。

 この戦争が終わっても、ずっと円満さんとそんな生活を続けていきたいと思ってるわ。

 そのためには生きて帰らなきゃダメ。

 私も、円満さんも。

 

 「よし、決めた」

 「聞こう」

 

 窮奇が体ごと私に向き直ったので、私も応えるように体ごと窮奇を向いた。

 私の願いは大したことじゃない。

 窮奇からしたら迷惑きわまりない願い事よ。でも、これは私にとっての決意表明であり意思表示。そして、涼風の仇をとったことにもなる……ような気がする一石二鳥の願い事よ。それは……。

 

 「日本に戻ったら、一発ぶん殴らせて」

 「そんな事で良いなら今からでも……」

 「今じゃダメ」

 

 私は、「変なことを言う奴だ」と言わんばかりに見下ろして来た窮奇の目を真っ直ぐ見上げてそう言った。

 そう、今じゃダメ。帰ってからじゃないと絶対にダメ。

 これは殴るのが目的じゃなくて、お互い生きて帰ろうって遠回しに言ってるんだから。

 

 「お前がそれで良いんならいいさ。その願いなら……問題なく叶えられるだろうからな」

 

 そう答えて、窮奇はどこか寂しそうな瞳で私を見つめたあと、静かに艦内に戻って行った。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 約束は果たされなかったわ。

 ええ、あの大嘘つきは帰ってこなかった。

 お姉ちゃんと朝歌(あさか)……。あ、朝歌ってのは朝潮だった子ね。ほら、女将さんと一緒に仲居姿で出迎えてくれた子。は、今も大和は生きてるって信じてるみたいだけど、あれだけ探して見つからなかったんだから可能性は無いに等しいわ。

 

 私もあの二人みたいに信じたいわよ。

 もし生きてて戻って来たら、おかえりって言う前にぶん殴ってやりたいわ。

 

 だって私は、願い事をまだ叶えてもらってないんだから。

 

 え?横須賀に帰ってから時間を取れないか?

 学校が休みの日ならべつに……。は?円満さんのアポイントも取りたい?

 聞いては見るけど……円満さんって今でも多忙だからあんまり期待しないでね?

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦満潮へのインタビューより。

 

 

 

 

 

 





次章予告。


大淀です。

 ついに始まったリグリア海戦。
 ワダツミは円満さんの指揮の下、艦娘たちと共に敵陣へと突撃を開始します。
 そしてその一方で、十数年の時をかけたあの人の復讐劇も幕を降ろします。
 予告の方も残すところあと1回になってきました!

 次章 艦隊これくしょん『黒鬼と妖精の哀歌(エレジー)
お楽しみに。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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