速吸さんから補給を受けていた大和さんと合流して欧州棲姫の艦隊と会敵する少し前だったかな。
そうそう、深海棲艦の大合唱よ。
青木さんも聴いたでしょ?
ええ、今でも憶えてるわ。
と言うか、聖書を持っている人やオカルト好きな人ならそらで言えるんじゃないかしら。
私?私も言えるわよ。。
いや、別に教徒って訳じゃないわ。神話とかそういうのが好きだから知ってただけ。
聖書って物語として読むと結構面白いのよ?
え?そういうのはいい?
は?いやいや、青木さんってオカルト雑誌の記者よね?だったら私に言わせなくても……忘れたから聴かせてくれ?
はぁ……しかたないわね。
あれは新約聖書の最後を飾る予言書、ヨハネの黙示録に記されている一説で内容はこうよ。
わたしは、赤い獣にまたがっている一人の女を見た。この獣は、全身至るところ神を冒涜する数々の名で覆われており、七つの頭と十本の角があった。
女は赤の衣を着て、金と宝石と真珠で身を飾り、忌まわしいものや、自分の淫らな行為の汚れで満ちた金の杯を持っていた。
ええ、青木さんの想像通り、こじつけ感は凄いけど、アレは私たち一特戦、ひいては大和さんのことだと思う。
まず十本の角は、私たち一特戦と窮奇のこと。
神を冒涜する名とはそれぞれの艦名ね。
そして七つの頭とは、大和さんの艤装に装備されていた七基の砲塔のことよ。
そして一人の女。
これはバビロンの大婬婦とかマザー・ハーロットとか呼ばれる者で、大和さん本人のことだと思う。
はぁ!?こじつけ感が凄い!?
だから最初に言ったじゃない!文句言うなら青木さんの解釈を聴かせなさいな!
~戦後回想録~
元駆逐艦 霞へのインタビューより。
ーーーーーーーーーー
「いきなり人を婬婦呼ばわりとは……」
『何か言った?大和』
「何でもないですよ矢矧。それより、本当に私は何もしなくて良いんですか?」
『ええ、アンタを万全の状態で『穴』に放り込めって言われてるからね』
いや放り込めって……。
もうちょっと言い方があると思うのですが……。例えば送り込むとか届けるとか。
まあ、矢矧って高校を中退して養成所に入ったとか聞いた覚えがありますから、そういった学がないのでしょう。
『今、私のこと馬鹿にしなかった?』
「いいえ全く。それより矢矧、敵の前衛艦隊がこちらに向かってますよ」
『わかってるわよそんなこと!磯風と浜風はいつも通り突撃!雪風はフォロー!』
さて、戦端は開かれましたが、『穴』に到るまで何もしないでいるのは退屈……もとい申し訳ないですね。
何か、私にもできる事は……。
『Hi!大和!退屈そうね!』
「あら、アイオワさんじゃないですか。もう戦っても平気なのですか?」
『ええ、お陰様で。それより、『穴』の中にいる奴には気を付けて。半端な強さじゃないわよ』
「はい、肝に銘じておきます」
なにせ私たちの右、約1kmほどを、復活した戦艦仏棲姫に向かって航行しているアイオワさんをボロ雑巾のようにして『穴』から放り出した奴ですものね。
それだけで、相手が並どころかどの深海棲艦をも上回る相手なのだと想像できます。
『あら、Ms.Iowaはうちの娘には労いの言葉を言ってくれないのですね』
『貴女の娘が突撃するのは大和が失敗した場合でしょ?まだ早いじゃない』
立てることがバレたから開き直ったのか、私たちの左をしっかりと両足で立って欧州水鬼へと向かっているウォースパイトさんがアイオワさんに噛みつきました。
前々から思ってはいましたが、あの二人って仲がよろしくないのでしょうか。
『おっと、雑談してる場合じゃないわね。大和!meとWarspiteの艦隊で支援してあげるから突撃しなさい!』
『支援するとは一言も言ってないのですが……。はぁ、まあ良いでしょう。Nelson!Ark!やりますわよ!』
そう言うなり、両翼の二艦隊による支援攻撃が開始されました。それぞれの目標に向かいつつの攻撃なのに精度が高いですね。
それどころか、欧州棲姫の艦隊は正面の私たちにではなく、わかりやすい驚異と化した二艦隊への攻撃を優先し始めました。
『チャンスね。霞、何処に突っ込めば良い?』
『敵主力艦隊の中ほど。そこが一番、敵味方両方の攻撃が薄い』
『了解。磯風、浜風、雪風!フォートレスで突っ込むわよ!』
『『『了解!』』』
ここぞとばかりに矢矧たちが突撃を始めました。
霞が指示した敵主力艦隊の中ほど。
それはつまり、最後尾の欧州棲姫の盾の如く前にいる二隻の戦艦棲姫、そのさらに前のヌ級改。
敵艦隊の空母を無力化し、他の8隻を分断するつもりなのでしょう。
ならば私は……。
「敵右方より突撃します。涼月、初霜、援護を」
『相変わらず無茶振りをしますね。まあ、やりますけど』
『本当は『穴』の中までついて行きたいですが……。でも今は我慢します。やっちゃいます!』
頼もしいです。
矢矧たちが首尾よくヌ級改を撃破し、欧州棲姫と二隻の戦艦棲姫の相手を始めたのを確認した涼月と初霜は、欧州棲姫の援護に向かおうと反転しようとしていた他の8隻の横っ腹に霞と朝霜と共に突撃していきました。
「さてと、鬼が出るか蛇が出るか……いや」
既に視界のほとんどを埋め尽くすまでに近付いたドーム状の『穴』。そこにいるのは鬼でも蛇でもない。神です。
ソイツを倒し、『穴』を塞げば私たちの勝ち。
それを成し遂げた時、私たちは未来を手にすることができる。
『今よ大和!行きなさい!』
「わかりました。いってきます!」
私は一杯まで速度を上げ、水底よりも禍々しく、夜の暗闇より暗い『穴』へと突撃しました。
ーーーーーーーーー
今でもよくわからないんだけど、欧州棲姫って艦種的には何になるの?
正規空母並に艦載機を飛ばしてたから空母じゃないか?
いや、確かに重武装のヲ級みたいな感じだったけど、目視で確認した限りじゃ15inch砲を装備してわよ?
相対した身として言わせてもらえれば航空戦艦って感じだったわね。
しかも随伴は復活したヌ級改に戦艦棲姫が2隻もいるし、ナ級フラグシップは駆逐艦の皮被った戦艦みたいな奴だったしで最悪だったわ。
それプラス、倒しても倒しても『穴』から湧き出てくるってオマケ付きだったからゲンナリどころか絶望したのを憶えてる。
いやいや、無力化して放置するなんて芸当ができるような状況じゃなかったわよ。
それが出来るようになったのは、神風たちと第八駆逐隊が速吸さんと神威さんを連れて駆け付けてくれてからかな。
~戦後回想録~
元軽巡洋艦 矢矧へのインタビューより。
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「ああ!もう!しつっこい!」
もう何回、同じ台詞を言ったかしら。
でも、何度沈めても切り無く復活する深海棲艦どもを見てたらそう叫びたくなるのもわかるでしょ?
『また矢矧さんの癇癪が始まったぞ。なんとかしてくれ浜風』
『私は関わりたくないので雪風に頼んでください』
『雪風も関わりたくないのでいっそ沈んでもらいます?』
ああそうですか。
無情な僚艦どもには私の気持ちは理解できなかったみたいね。雪風なんか恐ろしいことをサラッと言ってるし。
『それよりどうするんです?大和さんが突入してそろそろ五時間。燃料も弾薬もヤバイです』
「ヤバイのはわかってる!でも、今の状況じゃ退くに退けないわ」
雪風の忠告通り燃料、弾薬の残量が残り少ない。
でもかと言って退けないし、燃料弾薬を節約して戦えるほど温い相手でもない。
せめて援軍が来てくれればとも思うけど、後ろから聴こえてくる戦闘音的にそれも難しそうね。
『矢矧さん!6時方向1000mに雷跡!数10!』
「後ろから攻撃!?」
浜風の指摘に従って確認してみると、確かに雷跡がこちらに伸びて来ていた。それプラス、発射元と思われるカラフルな人影が5つ。
あれは……。
『魚雷に平和の祈りを乗せて』
無線を通して聴こえてきた春風の台詞とともに、私たちを避けるように伸びた雷跡が二隻の戦艦棲姫に吸い込まれて爆炎を上げた。
なるほど、こんな状況でもやるんですね。
「灯せ正義の探照灯!」
朝風の台詞とともに目が眩むほどの光が炎の柱を抜けてきた戦艦棲姫を照らし、まだお日様が中天に差し掛かろうって時間にも関わらず、敵の目を眩ませた。
アレが探照灯に依るものじゃなく、自前の額に光が反射しただけだってんだから呆れちゃうわ。
「例えこの身が朽ち果てようと!」
旗風が台詞を言う頃には、五人は私たちより前に出ていた。
相変わらず惚れ惚れする脚捌きね。
五人は下から数えた方が早いほど性能が低いのに、それを補って余りあるほど卓越した技術を身につけた横須賀最強の駆逐隊。
「守ってみせるさ輝く未来を!」
松風がそう言い終わると、私たちと欧州棲姫たちの間に壁を作るように五人が立ち塞がっていた。
その後ろ姿は正しくヒーロー。
強大な敵にも敢然と立ち向かい、平和のためなら無償で命をかける正義の味方。
その名は……。
「全艦抜錨!合戦用意!我ら駆逐戦隊!」
「「「「「カミレンジャー!」」」」」
神風が刀を抜きながら言った台詞を合図に、五人は高らかと名乗りを上げた。
私を始めとした一特戦第一小隊の面々と、神風たちと一緒に来たと思われる神威さん。そして、欧州棲姫と二隻の戦艦棲姫が浮かべたポカンとした表情など微塵も気にせずに。
ーーーーーーーーー
私の事を昔から知ってた駆逐艦は、あの頃には霞と霰だけになってた。
え?霞は知ってるけど霰は知らない?
あ~……、あの子って喋るのが稀だから影薄かったもんねぇ……。
でも、あの子って凄かったんだよ?
うん、あの当時の朝潮型じゃあ一番だったんだんじゃないかな。
そう、あの子の戦闘スタイルは他のどの艦娘とも違うし欠点も多かったんだけど、『広辞苑・改』をモノにしてた霞や、朝雲と山雲のコンビ。それに満潮よりも強かった。
その霰がワダツミから出撃したのを見た時、あの子が出撃しなきゃならないほどの事態になってるんだって気を引き締めた覚えがあるよ。
だってあの子は、性能で艦娘を依怙贔屓していた頃の呉提督が、鎮守府防衛の切り札として離さなかったほどの艦娘だったんだから。
~戦後回想録~
元軽巡洋艦 阿賀野へのインタビューより。
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大和さんが『穴』に入って五時間くらいか。
矢矧さんたちが主力を引き受けてくれてるからこっちは水雷戦隊の相手だけで良いけど、ボチボチ燃料弾薬も心細くなって来たわね。
体力の方はまあ、クッソ不味い黒汁とかいうドリンクのおかげで保ってはいるけど……。
いや、そんな事よりもまずは。
「涼月!もう沈めちゃダメよ!兵装だけを破壊して無力化しなさい!」
『努力します』
と、一応は反省した風の返事を返してくれた。
涼月が初っぱなからナ級を一隻沈めたせいで矢矧さんたちの負担が増えたりしなければ、こんな注意をしなくても済んだのになぁ。
もしかして、こっちの負担を減らすためにわざと沈めたんじゃないわよね?
『でもよぉ霞。そろそろあたいたちもヤバイぜ?いっそ全部沈めて矢矧さんたちに押し付けねぇか?』
『涼月は大賛成です。そうしましょう』
やめて朝霜。
冗談でもそういう事を言わないで。冗談を真に受けた涼月がその気になったらどうすんのよ。
いや、死んだ魚みたいな目をしてブツブツ言ってるのって、もしかして深海化を使おうとしてる?1隻2隻どころじゃなく全部沈めて矢矧さんたちに押し付けようとしてる!?
「初霜!涼月を止めて!絶対に深海化させないで!」
『は、はい!』
さて、涼月は初霜に丸投げするとして、この状況をどうやって打破しよう。
せめて補給が出来れば……。
ん?電探に反応があるわね。反応の大きさ的に駆逐艦が4、大型艦が1。しかもワダツミの方向から。
これは期待しても……。
「良いタイミングよ満潮。助かったわ」
「お礼は後でいいから、早く速吸さんから補給を受けて」
敵艦隊に砲撃を加えながら私たちを単縦陣で追い抜いて行ったのは、満潮を筆頭にして朝潮、荒潮、大潮の四人。メンバーは代わっちゃったけど、私が憧れた第八駆逐隊だった。
「だから今はやってあげるわ!しかも全力で!第八駆逐隊、突撃します!」
「一発必中!肉薄するわ!」
「暴れまくるわよぉ~♪」
「アゲアゲで行きましょう!」
逞しくなったわね。
奥の手を使ってないとは言え、朝潮たちは問題なく満潮について行けてる。
満潮は頼もしくなった。
無駄に肩肘張ってツンケンして、姉妹艦すら寄せ付けなかったあの子が、今では姉としてみんなを引っ張ってる。
「すっかりお姉ちゃんらしくなったじゃない。これなら、霰姉さんの出番はない……かな」
いや、あっちゃいけない。
霰姉さんは戦場に出ちゃダメ。
こんな、姉妹に万が一が有り得る戦場に霰姉さんが来たらきっと無茶をする。
霰姉さんは姉さんたちと同世代の朝潮型で唯一のネームド駆逐艦。
澪姉さんですら、マリオネットを使ってようやく勝てるかどうかというほど強く、朝潮だった頃の大淀がいなければ間違いなく朝潮型最強で、全力の満潮でもたぶん勝てず、歴代の全朝潮型中最も怖い人。
『
ーーーーーーーーー
『
戦争中期頃に存在したと言われている謎のネームド艦娘である。
彼女は艦名、艦型、艦種はおろか所属していた鎮守府も不明であり、存在したという事実はあるが彼女の事を知る者は今のところ確認されていない。
デストロイヤーと呼ばれていたことから駆逐艦ではないかと言われているが、詳細は戦争が終結した今も杳として知れていない。
~艦娘型録~
ネームド艦娘。『
ーーーーーーーーー
霰は朝潮型駆逐艦の九番艦。
今の朝潮型姉妹では最年長になる。
でも、霞ちゃんが口煩くて悪目立ちしてたから霰は全く目立たなくて、満潮ちゃん以外の今の八駆の子達なんかワダツミで会うまで霰の存在を知らなかった。
「どこに行くのぉ?霰ちゃんに出撃許可は降りてないわよねぇ」
「満潮ちゃんたちが、霞ちゃんの援護に向かったって聞いた」
「だから霰ちゃんも行くのぉ?」
「うん」
だけど霰はお姉ちゃんだから、妹たちが危ない目に遭ってるのを黙って見ていられない。
だから、満潮ちゃんたちが出撃してから2時間も経っちゃったけど、カタパルトを使わずに右舷の非常口からコッソリ出撃しようとしたのに、いざ出ようとしたところで恵姉さんに止められちゃった。
「止めるの?」
「止めたら、思い直してくれるのぉ?」
霰は首を横に振って否定した。
止められたって行く。
霰は戦いが嫌いだから、出撃しなくて良いなら出撃したくない。霞ちゃんが呉提督に冷遇されてた頃だって、霞ちゃんが危ない目に遭わなくて済むから霰的には大歓迎だった。
でも、今は妹たちが必死に戦ってる。
姉さんたちも戦ってる。
朝潮型で戦ってないのは、今も昔も霰だけだ。
「霰ちゃん。いえ、駆逐艦霰。貴女に、提督補佐として命令があるわ」
「なぁに?」
霰が諦めないと悟って諦めたのか、それとも最初からそのつもりだったのか、恵姉さんが間延びした口調を改めて真剣な表情になった。
「もし、万が一ワダツミに何かあった場合、満潮の撤退を支援して」
「うん、わかった」
霰が理由を聞き返さなかったことに驚いたのか、恵姉さんがキョトンとしてしまった。
そんなに意外?
霰にだって、ワダツミに何かあった場合なんて聞けば満潮ちゃんが必要になることくらいわかるよ。それとも、素直に命令を受け入れたのが意外だった?
まあどっちでもいいや。
それよりも、出撃する前に確かめておかなきゃいけないことがあったんだった。
「敵は沈めちゃダメなんだよね?」
「ええ、敵はできるだけ沈めずに無力化して。霰なら出きるでしょ?」
「うん、できるよ」
沈める方が簡単だけど、霰なら他の子達よりも上手く無力化できる。
だって、壊すのは霰の得意技だから。
「『
「うん」
着任したての頃はそう呼ばれてた。
澪姉さんのマリオネットとは相性が悪かったけど、それ以外の人には負けたことがなかった。阿賀野さんにだって、勝ったこともないけど負けたこともなかった。
「妹たちのこと、お願いね」
本当は自分が行きたいんだろうな。
でも、恵姉さんはもう艦娘じゃないからそれが出来ない。霰に頼るしかない。
艦娘では出来ない事をしようとして艦娘を辞めた結果、艦娘でしか出来ない事ができなくなった。
だから霰がやる。
姉さんたちの代わりに、霰が妹たちを守る。
「任せておいて。霰は、お姉ちゃんだから」
そう言い残して、霰は海に出た。
妹たちが戦っているはずの戦場へ行くために。
ーーーーーーーーー
ええ、アイオワさんから聞いていた通り、『穴』の内部には海が広がっていました。
果てがないと思えるほど広く、空と海との境界線が曖昧になるほど蒼く、この世で最も黒い水底を孕んだ海が。
そこにいた少女は私に、開口一番にこう言いました。
「やあ、バグ」と。
~戦後回想録~
匿名希望の元艦娘へのインタビューより。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
-
大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)