艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第百七十九話 龍の姉妹

 

 

 

 

 実を言いますと、私を含めた歴代の龍田には実戦経験がありません。

 いえ、軽巡洋艦龍田が出撃し、任務に携わったという事実はあります。

 ですが私の先代もその先代も、任務時の記憶が無いんです。たまにお会いした時にその話題は必ず出ますので間違いありません。

 

 私もあの時までは例外じゃありませんでした。

 いつもは抜錨直後からの記憶がスッポリ抜け落ちていたのに、リグリア海戦で被雷して片足を失くした天龍ちゃんを曳航してワダツミに戻った後からの記憶だけはしっかりと残っているんです。

 

 あら、青木さんもあの場に居たのですか?

 なるほど、ちょうど補給を受けに戻っていたんですね。明石さんと一緒に、天龍ちゃんの応急処置をするのに必死で気付きませんでした。

 

 話を戻しますが、私のたち『龍田』に任務時の記憶がなかったのは恐らく彼女のせいです。

 長い間艤装の内に残り続けていた彼女。

 長門さんや鳳翔さんに、大淀さんや阿賀野さんを凌ぐと言わしめた始まりの龍田が、私たちの身体を使って戦っていたからだったんです。

 

 

 

 ~戦後回想録~

 元天龍型軽巡洋艦二番艦 龍田へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 「ったく!このクソ忙しい時に!」

 

 大和が『穴』に突入してそろそろ5時間。

 艦隊の損耗率もドンドン増してきて、交代要員を新たに加えた編成を考えたり、今現在も外で戦ってる艦娘に指示を飛ばしたりで忙しいのに……。

 

 「あのクソガキ!これでろくな内容じゃなかったら即解体してやる!」

 

 と、悪態をついても状況は変わらないからこれくらいにしておくか。

 でもハラワタが煮えくり返っているのは変わらない。

 そもそもアイツは、何の話があって私を工廠に呼び出した?通信士が言うには「戦況を左右するほど重要な話」らしいけど……。

 

 「来たわよ天龍。それで話って……」

 

 工廠に入ると、いつもの油臭い臭いじゃなくて血の臭いがした。

 その臭いの原因は天龍。

 右足を腿の中程から失った天龍が、明石と龍田に応急処置をされていた。

 被弾して龍田と供に帰投したって報告は受けてたけど、まさかここまで酷いとは思ってなかったわ。

 これじゃあ、高速修復材を使っても作戦中に戦線復帰は無理ね。

 

 「や、やっと来たか先輩。気絶する寸前だったぜ」

 「無駄話はいい。それより、戦況を左右するほどの話って何?簡潔に話なさい」

 「冷てぇなぁ。可愛い後輩が片足失くしてんだぜ?もうちょっとこう……」

 「息の根を止めてほしいのならそう言え。今の私に、アンタと無駄話している暇はない」

 

 そう、暇はない。

 私が艦橋を離れている今も戦況は変わってる。円満に行ってこいと言われなければ来なかったわ。

 

 「ったく、せっかちな先輩だなぁ。じゃあ話すが、見ての通り、オレはもう戦線に復帰できねぇ。オレが復帰できねぇってことは、後ろからの攻撃を防いでる人員が一人減るってことだ」

 「だから何?確かにアンタの言う通りだけど、まだ代わりはいるわ」

 

 天龍と龍田が配置されていたのは第二対潜艦隊。

 その艦隊の主な役割はすでに終り、海防艦たちはワダツミの直衞に回って、二人は長門の第一攻略艦隊と一緒に背後から迫る敵艦隊の相手をしていた。

 二人が抜けたことで確かにキツくはなってるでしょうけど、鳳翔さんに行ってもらったから二人の代わりを送るまでは持ちこたえられるはずよ。

 

 「代わり?無理だろ。交代要員として待機してる連中の大半は半端な奴らだ。そんな奴らをあんなところに送ったら、辿り着く前に轟沈だよ」

 

 そんなことはわかってる。

 一特戦の応援に向かわせた、八駆か神風たちのどちらかが居ればそんな心配をしなくても済んだ。

 でもいないのなら仕方がない。

 例え練度が低くても、戦場にたどり着く前に轟沈する可能性が高くてもそうするしかない。

 

 「アンタが、いるじゃねぇか」

 「は?」

 

 思わずすっとんきょうな声を上げちゃったけど、天龍は今何て言った?

 アンタがいる?アンタって誰よ。もしかして私?私に、内火艇ユニットで出ろとか言ってんの?

 

 「ケケッ、アンタでもそんな顔するんだな。ちょっと可愛いじゃねぇか」

 「う、うるさい!だいたい、アンタは私が出れば言いとか言うけど、内火艇ユニットじゃこの戦況で役には立たない。それくらいアンタにだって……」

 「はぁ?内火艇ユニット?何言ってんだよ。もっと良い物がアンタの目の前にあるじゃねぇか」

 「私の、目の前?」

 

 私の目の前にあるのは脂汗をダラダラと流して痛みに堪えている天龍と、それを心配そうに見つめている明石。そして、何故か無表情の龍田。

 それ以外はない。

 

 「まだわかねぇのか?コレを使えって言ってんだよコレを。アンタならオレ以上に上手く使えるだろうが」

 

 天龍が心底呆れたように言いながら親指で指したのは背中の艤装。天龍本人の怪我の割に艤装は綺麗だわ。

 代わりの適合者さえ用意できれば、補給だけで即座に出撃できるくらいに。

 ん?代わりの適合者?

 まさかコイツ……。

 

 「私に、天龍になれって言うの?」

 「それ以外に何があるってんだ?アンタならオレより上手くコレを使える。しかも、現場で直接指示できるっておまけ付きだ。な?戦況を左右するほど重要な話だったろ?」

 

 コイツは馬鹿か?いや馬鹿だった。

 確かに今の私なら、コイツより上手く天龍の艤装を扱える。でもそれは叶わない。

 だって私は30を過ぎてる。

 年の割に若く見られても、天龍の艤装と適合できる年齢を遥かに超えている。

 そんな私が、再び艤装と適合できるわけが……。

 

 「艦娘になれる条件。アンタは三つ全部満たしてる」

 「いや、そうだけど……ん?三つ?」

 

 一つ目と二つ目は言わずもがな。でも三つは満たしきっていない。それとも、アンタは私を望んでるって言うの?

 

 「アンタさ、昔南方で、深海棲艦に襲われたタンカーを救助したことがあるだろ?」

 「覚えがありすぎてどれのことかわかんないわね。それが何よ」

 「そのタンカーにオレのパパ……じゃない。親父が乗ってたんだ。そして親父は、その戦闘を撮影してた。その映像の中に、当時のアンタが映ってたんだ。紅い駆逐艦と一緒に刀振り回してたアンタがさ。オレはアレを見て完全に魅了された。天龍に、いやアンタになりたくなった。天龍の適性があるってわかった日は嬉しすぎて泣いちまったほどだ」

 

 天龍はそこまで言い切ると、眼帯で隠れてない方の目を懐かしそうに細めた。

 だから私に艤装を託すと?

 私が再び、天龍として戦えるよう艤装を返すと言いたいの?でも、できるできないは別としてそれをしてしまったら……。

 

 「失った足は、二度と戻らないわよ」

 「覚悟の上さ。アンタの勇姿が見れるなら安いもんだ」

 「私が適合できるかわからないのに?」

 「できるさ。だってアンタは、唯一無二の天龍だから」

 

 コイツは本気だ。

 解体されたら高速修復材を使えず、失った足は二度と戻らないのに、私に艤装を返そうとしている。

 私を、天龍の復活を心の底から望んでいる。

 

 「ねぇ、天龍ちゃん。いや、お姉ちゃん。この子と私の望みを叶えて」

 

 それまで黙っていた龍田が、私を見てそう言った。

 どうして私をお姉ちゃんと呼ぶ?

 私をそう呼ぶのはあの子だけ。私が死なせてしまった、私の半身だけ。まさかこの子は……。

 

 「龍佳(りゅうか)……なの?」

 

 私の問いに、龍田は瞳を潤ませることで答えた。

 有り得ない。

 だって龍佳は死んだ。私を庇って被雷して下半身を吹き飛ばされ、桜子に引導を渡されて死んだ。

 考えられるのは、初適合時に龍佳の記憶を見たことで、この子が自分を龍佳だと思い込んでる可能性。

 でも、この子が纏ってる雰囲気は龍佳にソックリ。顔は違っても、目に見えない部分があの子とソックリだわ。

 

 「お願いだ先輩。オレは先輩が戦うところが見たいんだ。だからオレは天龍になったんだ!なぁ、オレに見せてくれよ。あの時と同じ、カッコいいアンタを見せてくれよ!」

 

 天龍に涙ながらの懇願をされたのに、私は踏ん切りがつかない。

 私は何を悩んでる?

 適合できるかどうか?

 違う。私は再び天龍になれる。それは何故か確信してる。

 じゃあ、上手くやれるか?

 これも違う。私はあの頃よりも上手くやれる。艦隊の指揮を執りながら、敵を食い止めることができる。

 私は怖いんだ。

 また龍田を、龍佳を身代わりに死なせてしまうかもしれないことが怖い。またあの苦しみを味わうのが、どうしようもなく怖いんだ。

 

 「大丈夫よ、お姉ちゃん。一緒に、いきましょう?」

 

 私の悩みを察したのか、龍佳はそう言って右手を差し出してくれた。

 そうね。

 今の私なら大丈夫。貴女の足を引っ張らない。貴女と一緒に行ける。

 不意に訪れた貴女と一緒に生きられる時を、私は謳歌できる。

 

 「覚悟は出来たみてぇだな。龍田、オレの予備の制服が部屋にあるから……」

 「ふふふ♪大丈夫よぉ?こんなこともあろうかと、天龍ちゃんの制服はいつも持ち歩いてるからぁ♪」

 

 これはツッコむべき?

 龍佳のヤツ、いつこんな状況になっても良いように天龍の制服を持ち歩いてたって言ったの?

 

 「じゃあ、明石さん。一思いに頼む」

 「構いませんが……。後悔、しませんか?」

 「ああ。やらない方がきっと後悔する」

 「わかりました。では準備しますので、その間に辰見大佐は着替えてください」

 

 明石が天龍に色んな色のコード繋いで準備いているのを尻目に、私は龍佳に手伝ってもらって天龍の制服に着替えた。

 着替えたは良いけど……。

 

 「私の歳でこれは……」

 

 少々どころかかなりキツい。いや、サイズ的な意味じゃなくて見た目的にね。

 だって腋は出てるしスカートも短い、さらに胸元が開きすぎて谷間も凄いことになってる。

 それを見た龍佳が「ノースリーヴの白いシャツの上からファー付きのジャケットをざっくばらんに羽織るワイルドなスタイル。さらに惜しげも無く晒された腋もさることながら、どっしりと量感に満ちてシャツを押し上げる胸部装甲が素晴らしい。 スカートにはスリットが入り、足元は折り返し入りのハイカットスニーカー。むっちりと健康的に成長した脚は健在なニーソックスに包まれ、スカートとの間で絶対領域を見せつけている 」なんて感想を抑揚のない声でぶつぶつ言いながら鼻血垂らしてるのは無視する。

 

 「なんだ。歳の割に似合うじゃねぇか」

 「うっさい」

 

 本音を言うと羞恥心でいっぱいいっぱいよ。

 こんな制服を恥じらいもなく着るなんて……いや着ちゃったけど、若くないと無理だわ。

 

 「解体、完了しました。それでは同調を開始してください。辰見大佐、やり方は憶えていますか?」

 「なんとなく……ね」

 

 そう答えて、私は瞼を閉じて背中に背負った艤装に意識を集中した。

 その途端に見えて来たのはかつての記憶。

 私が天龍だった頃の記憶に始まり、歴代の天龍たちの記憶。その記憶の中に気になるものがあった。

 それは私以外の歴代の天龍と、龍佳以外の歴代の龍田が約束を交わした記憶。

 その記憶では、龍田が「いつの日か、お姉ちゃんと一緒に戦わせて」と言うと、天龍が「ああ、任せとけ」と答えていた。

 そっか。

 たぶん龍佳は、私と一緒に戦うためにずっと艤装の中に留まっていたのね。

 

 「練度……175で安定。さすがに開いた口が塞がりませんよ」

 

 175か。

 たしか、確認されている最高練度ね。

 解体された当時は90そこそこだったのに、再び天龍になったら倍近くなった。

 今の私の実力が加味された?それとも天龍の練度が加算されたのかしら。

 まあどちらにしても、叢雲には黙っておかなくちゃ。

 だって、あの子の練度より遥かに高いんだから、教えたらきっと拗ねちゃうもの。

 

 「明石。円満に伝言を頼んで良いか?」

 「ご心配なく。提督からは「五代目天龍が誕生した場合、伝言は必要ない」と仰せつかっていますから」

 「そっか。なら良い」

 

 なるほど、円満はこの状況も予想してたわけだ。

 だから天龍が私を呼び出すなり、私が抱えていた指揮権を澪に譲渡させて艦橋から追い出したのね。

 

 「じゃあ行くぞ、龍田」

 「ええ、行きましょう。お姉ちゃん」

 

 私と龍田は、明石と元天龍に見送られて後部カタパルトへと移動した。

 そこでは既に、私たちを待っていたかのように射出準備が整っていたわ。

 ったく、円満のお節介め。

 

 『これより抜錨シークエンスを開始します。天龍、龍田両艦は抜錨位置へ』

 

 管制官の指示に従って主器とカタパルトを接続してふと思った。

 そういえば私、カタパルトでの射出訓練なんて一度もしてない。

 

 『主器とカタパルトの接続を確認。射出タイミングを両艦に譲渡します』

 

 それでも抜錨シークエンスは容赦なく進む。

 まあ、やり方は見てるし、私ならなんとかなる……かな?なる……よね?

 

 『辰見大佐。いえ、天龍。聴こえますか?』

 「聴こえてるぜ円満。まったく、上手い具合にハメてくれたなぁ。帰ったら憶えとけよ?」

 『憶えとくわ。だから、後ろのことはお願いします』

 「おう、任せとけ。だから、前は任せたぜ」

 『ええ、任せてちょうだい』

 

 円満と話したことで、さっきまでの上手く抜錨できるかって不安が払拭された。

 だって、抜錨をミスるなんて間抜けな真似はできないもの。

 可愛い後輩の後ろを、先輩である私が支える。

 円満が前に集中できるよう後ろは私が……いや、オレが支えるんだ。

 

 『針路クリア。CL277 天龍改二、CL278 龍田改二。抜錨どうぞ』

 「了解だ。辰見改め軽巡 天龍。抜錨だ!」

 「軽巡 龍田。出撃するね~♪」

 

 管制官の合図と同時に、オレと龍田はカタパルトで射出された。目指すは長門達が支えている戦場。

 オレと龍田が、初めて肩を並べて戦う戦場だ。

 

 「なあ龍佳。帰ったら、話したいことがある」

 

 アンタが死んだ後のことを話したい。

 墓参りで一方的に喋るんじゃなくて、アンタの反応を見ながら、相槌を聞きながら話したいことが沢山ある。

 そして、謝りたい。

 アンタに謝って、涙が枯れるまで泣きたい。

 

 「私もよ~。帰ったらい~っぱい、お話しましょう~」

 

 でも、そう言いながらも悲しそうな目をしているアンタを見るに、それは叶わない願いなのね。

 でも良い。それでも良い。

 一緒に語り合うことが叶わないのなら、不意に訪れたアンタと生きるこの一時を魂にまで刻み付けてやる。

 

 『戻ってきたのか天龍!い、いやちょっと待て。お前まさか、辰見か!?』

 『何を訳わかんないことを言ってるんですか長門さん。それよりももっと砲撃を……って、え!?本当に辰見さん!?』

 

 追い抜くなり、長門と鳳翔さんの驚愕の声が鼓膜を震わせた。

 攻撃の手を止めるほどビックリしなくても良いんじゃない?

 あ、もしかして、やっぱり天龍の制服を着た私って二人が手を止めちゃうほどヤバイのかしら。

 

 「って、それは今どうでも良い!天龍より第一攻略艦隊へ。これより、この戦場はオレ様が摂り仕切る!」

 

 オレの言葉に動揺しながらも、長門が了解したのに従って他の面子も了解した。

 さぁて、じゃあオレ様の復活祝いに何隻か打ちのめすか!

 

 「オラオラ!天龍様のお通りだ!」

 「うふふ♪死にたい艦はどこかしら~♪」

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 その言葉を合図に、二人は敵艦隊に突撃していったよ。

 ああ、百万の味方を得た気分だった。

 そう、私と鳳翔、そして桜子にとって古くからの友人であるあの姉妹が駆けつけてくれたんだ、当たり前だろう?

 

 天龍と龍田が戦線を離脱し、鳳翔が合流しても私たちは苦しい状況だったのに、あの二人が来てくれた途端に形勢は逆転した。

 

 いや、たしかにあの二人の活躍は凄まじかったんだが、それ以上に、諦めかけていた私たちに闘志が戻ったのが大きかった。

 

 あの二人が、『龍の姉妹』が率いてくれたからこそ、私たちは死なずに戻ってくることが出来たんだよ。

 

 

 

 ~戦後回想録~

 元長門型戦艦 一番艦 長門へのインタビューより。

 

 

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
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