艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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結局、報酬艦以外の新艦はゲットできませんでした……(・c_・。)


第百八十二話 大和は帰れそうにありません

 

 

 

 カナロアが『穴』に向けて撃ったミサイルには何の意味があったのか?

 

 さあ?

 意味があったのか、それとも無意味だったのかは『穴』の中にいた者にしかわからないわ。

 でもまあ、結構な量を積めて撃ち込んだって言ってたから、無駄になっちゃったんなら少し勿体無い気がするわね。

 

 いいえ。

 アレは私の指示じゃない。ヘンケンの独断よ。

 私だって、後に彼から聴いて知ったくらいだったんだから。

 

 本当に無駄になったのか?

 だからわからないって言ったでしょ。

 

 ああでも、私が意識を取り戻してから明石に聴いた報告に気になる事があったわ。

 なんでも、カナロアから発射されたミサイルが着弾してほどなく、彼女の艦名に変化があったそうよ。

 ええ、有り得ない艦名よ。

 だって私は、そんな改装が可能になっただなんて妖精さんから聴かされてなかったもの。

 

 

 ~戦後回想録~

 横須賀鎮守府司令長官 紫印 円満中将へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 気持ちが焦る。

 もっと速度を速く、もっと攻撃を多くと、焦りたくないのに焦ってしまう。

 その理由はいたって簡単。

 航空戦艦に改装された彼女との戦闘が再開されてからほどなく、モニターのように四角い窓が空に現れ、それに外の映像が映し出されたからです。

 しかも、思わず駆け出してしまいたくなるような危機的状況が。

 

 (気を逸らすな大和!ながらで勝てるような相手ではないんだぞ!)

 「わかっています!ですがワダツミが……。ワダツミの艦橋が!」

 

 ワダツミの艦橋前部が吹き飛ばされ、提督を庇うように覆い被さった大城戸さんや、欧州棲姫の艦隊を相手に防戦一方になっている矢矧たち。それに、霞たちと共に三艦隊を相手にしているご主人さまたちを見て動揺するなと言う方が無理です。

 

 『フフフ♪相変わらず人間とは愚かだ。勝てもしないのに、抗えもしないのにどうしてああも足掻くのか』

 

 カチンと来ました。

 あなたは挑発したつもりなのでしょうが、今のは完全に悪手です。あなたの挑発で怒りが頂点に達したおかげでかえって冷静になりましたよ。

 

 「勝てもしない?抗えもしない?おかしなことを仰るんですね。そもそも、人に抗う術を与えたのはあなたでは?」

 

 その術とは艦娘。いえ、艦娘が扱う艤装や装備群を生み出す妖精。

 彼女が産み出した深海棲艦の対存在であり、同時期に現れたことを鑑みれば、妖精たちを産み出したのも彼女のはずです。

 

 『そうだよ?おかげで希望が持てただろう?戦い続ければいずれは勝てると夢を抱けただろう?』

 

 彼女の顔が神とは思えないほど邪悪に歪みました。

 なるほど、あなたは人が抗う様が見たかったのですね。

 人が試練に打ち勝つところが見たかった訳ではなく、ただただ人がもがき苦しむ様が見たかった。

 抗った末に、人が負ける様が見たいんです。

 

 『最っ高の見せ物だったよ!やはり人間には定期的に試練を与えねばならない!でなければ堕落するだけだ!災厄に見舞われ、それに抗おうとする時こそ人間は一番人間らしくなる!』

 

 そう言いながらも私への攻撃は緩めないまま、彼女は大仰に両手を掲げて笑い始めました。

 まったく、彼女はとんだ邪神ですね。

 神話に語られる神々はたいてい身勝手で理不尽ですが、実際に相対すると嫌悪感がこれでもかと胸の内から涌き出てきます。

 

 『外もそろそろ終わりそうだね。結局はそれが真理だよ。そうそれ、君の左脚に刻まれているその言葉だ』

 

 一頻り笑った彼女が、艶かしい声で言った言葉とは非理法権天(ひりほうけんてん)

 かつての私に掲げられ、今の私のニーソックスにも刻まれているこれは訓読みすると『無理(非)は道理(理)に劣位し、道理は法式(法)に劣位し、法式は権威(権)に劣位し、権威は天道(天)に劣位する」となり、『人間としてなすべきことは天命によってのみ動くものであり、天を欺くことはできない』という意味の言葉。

 つまり、人が何をしても神には及ばないということです。ですが……。

 

 「だから、なんですか」

 

 だから諦めろと?神である自分に屈しろと?

 冗談じゃない。

 私は負けられない。ご主人さまが幸せに生きていける世界を勝ち取るために絶対負けられない。

 

 『とっとと穴を塞ぎなさいよ!何遊んでんの!』

 

 決意を新たにして彼女に斬り込もうとしたら、空の画面は映像だけで音声は流れていないのに矢矧の声が聴こえてきました。

 べつに遊んでいるわけでは……。

 実際今だって、砲撃と爆撃の合間を縫って突撃しようとしてたんですよ?

 

 『またまた矢矧さんの癇癪だ。どうにかしろ浜風』

 『無理ですね。と言うか私も同じ気持ちです。大和さんはいつまで遊んでるつもりなんですか』

 

 磯風と浜風の声まで……。

 苦戦はしているようですが、いつもの調子で会話ができる程度の余裕はあるみたいですね。

 

 『まあ、その内出て来ますよ』

 『だが雪風、このままだと私たちが先に潰されるぞ』

 『大丈夫です』

 『その心は?』

 『雪風が幸運だからですよ。今の状況では、大和さんが穴を塞いでくれなければ雪風でも沈んじゃいます。でも雪風は沈みません。だから、大和さんは絶対に穴を塞いでくれます』

 

 雪風の言葉で、磯風と浜風は「そうだな」とか「じゃあもう少しだけ頑張ります」と言って気を持ち直したようです。

 でもこれ、本来なら矢矧の役目では?

 

 『それに、旗艦様が雪風以上に大和さんを信じて奮戦してるんです。下っ端の私たちが真っ先に諦められませんよ』

 

 矢矧が私を信じてる?

 えっと、さっきから矢矧は「帰ってきたら絶対殴る。あの無駄にでかい胸と尻をヒィヒィ言うまで殴ってやる」とか言ってますよ?

 帰りたくなくなるので辞めてもらえませんかねぇ……。

 

 『突っ込みすぎよ朝潮!少し下がりなさい!』

 『ダメです!ここで退いたら大和さんが出てきた時に鉢合わせになります!だから、もっと引き付けないと!』

 『だけど……!』

 『私は大和さんの飼い主です!飼い犬が必死に戦っているのに、飼い主である私が楽なんてできません!大和さんが安心して帰ってこれるよう、私は戦うんです!』

 

 ご主人様!ああ、大和は幸せです。

 あの気弱だったご主人様が霞の命令に逆らってまで私が帰る場所を確保しようとしてくれている。

 それに、他にも私を呼ぶ声が聴こえてきます。

 提督と満潮教官。大城戸さんや辰見さん。涼月に初霜。朝霜に霞。みんなが私を呼んでいる。

 私の帰りを待っている。

 そんな声に呼ばれるにつれ、私の闘志がメラメラと燃え上がっていきます。

 

 (おい、体が光ってないか?)

 「いきなり何を言ってるんです?体が光るわけが……あれ!?本当に光ってる!」

 

 派手に光り輝いているわけではなく淡くボウッと光っているだけですが、窮奇が言ったとおり本当に光っています。

 いえ、光っているだけじゃありあせん。

 体の奥の方で力が漲っている。

 だけど表に出られず、燻っている感じがします。何か切っ掛けがあれば、私の内から解き放てそうなんでが……。

 

 『何だ?あれは。ミサイル?そんな物に何の意味が……』

 

 彼女の言葉に釣られて視線の先を追ってみると、言葉通りミサイルが頭上から落ちてきてますね。しかも、狙ったかのように私の頭上へと。

 

 「窮奇!あのミサイルの外装を破壊してください!中身は傷付けちゃダメですよ!」

 (アイツの相手をしながらか?無茶を言うな!)

 「じゃあ主砲と副砲は私が制御します!貴女は機銃でミサイルを!」

 

 私の直感が告げている。

 あのミサイルは攻撃ではありません。補給物資です。

 だって体が求めていますもの。

 光だした私の体があのミサイルを、いえ中に詰まっているであろう物を求めています。

 

 『何だ?鋼材に燃料?それに弾薬、高速修復材、戦闘詳報まで……』

 

 窮奇に外装を破壊され、吐き出された中身が私に降り注ぎ始めました。

 これで解き放てる。

 私の帰りを待ってくれているみんなの想いが与えてくれた、この強大な力を。

 

 「あなたは人を、人の想いの強さを侮りすぎです」

 『人の想い?そんなモノに意味なぞ……』

 

 降り注ぐ資源が私の装甲に触れると同時に吸収される様子によほど驚いたのか、彼女は攻撃をやめて目を見開いています。

 そのまま見ていなさい。

 これからもっと驚かせて差し上げます。

 

 「改二……実装!」

 

 私の言葉を合図に、艤装が眩い光を発して形を変え始めました。

 機関が少し大きくなり、両舷、更に機関から伸びたアームに繋がれた試作51cm連装砲が計3基。

 制服も変化していますね。

 武蔵と同じように、七分丈の儀礼用軍服をアレンジしたような制服。ただし、私の制服は武蔵の真逆で白です。そして、鮮やかな朱に染め上げられたコート調の羽織。

 

 『馬鹿な……。そんなモノわたしは知らない。それは実装されていないはずだ!』

 

 ええそうでしょうとも。

 これは本来なら存在しないはずの改装。

 私の帰りと勝利を望む全ての人たちの想いの結晶にして戦の象徴。

 そして、貴女を葬り去る神殺しの兵器。

 その名は……。

 

 「大和型戦艦一番艦。大和改二!推して参ります!」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 何故、資材や資源をミサイルに積めて穴に撃ち込んだか?

 そうした方が良いと思ったからだ。それ以上の理由はないよ。

 

 本当さ。

 本当に、俺はそうした方が良いと考え、それを実行しただけなんだ。

 強いて言うなら勘か?

 

 第七艦隊の司令に就く前、東海岸側で駆逐艦たちを率いていた頃にもたまにあったんだが。

 ここでこうした方が良いとか、敵が居もしない方に艦隊を進めた方が良いとか、とにかくそう言った根拠のない直感に従った結果、思いもよらず大戦果を叩き出したことが何度もあったんだ。

 

 あのミサイルもその類いだな。

 だからあの時もその直感に従ったんだが……あのミサイルがどんな結果をもたらしたのかは、あの中にいた大和に聞くしかないからわからないままだよ。

 

 

 ~戦後回想録~

 バーガーショップ マクダニエル日本支店店長。

 ヘンリー・ケンドリック退役大将へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 改二改装を成し遂げてすぐ、私は砲撃による反動で彼女の間近まで迫りました。

 まずは小手調べ。

 新しくなった自分の性能に慣れなくてはなりませんからね。

 

 「洄天剣舞!一刀!」

 

 着水すると同時に、マジックアームで繋がれた第三砲塔を頭上に掲げて刀身を形成。後に彼女の頭部目掛けて振り下ろしました。

 思っていたよりも取り回しがしやすいですね。

 これなら、背部に半ば固定されていた時よりも便利です。

 しかしこの一刀は不発に終わりました。

 何故かと言うと……。

 

 「あらあら、戦艦とは思えない加速と速度ですね」

 『黙れバグが!君がやってる事に比べれば余程現実的だよ!』

 

 先程も言った通り、戦艦どころか艦とは思えないほどの急加速で後ろに下がられたからです。

 数秒で500mもの距離を開けられたのを考えると90ノットは軽く出ているのでは?

 もっとも、距離を開けても関係ありませんが。

 

 (全副砲、てぇ!)

 

 何故ならば窮奇が即座に砲撃に転じたからです。

 ですがこれも、至近弾による爆風で軽く煽るだけに終わってしまいました。

 彼女の艦の常識を無視した速度はそれだけで脅威ですね。()()()()()()()()()()()と戦った経験がなければ翻弄されていたでしょう。

 

 「その程度の速度ならどうとでもなりますしね」

 『ほざけ!大口を叩いているが、君は私の砲撃をまともに弾き返せていないじゃないか!』

 「あらあら、お気づきになっていなかったのですか?そう見せ掛けていただけですよ?」

 『はっ!負け惜しみを……!』

 

 言うな。

 とでも言おうとしたのでしょうか。

 ですが残念ながら、その言葉は私に届くどころか口から発せられる前に、彼女の移動速度と未来位置を計算し、誘導し、落下時間を調整して弾き飛ばした砲弾による八枚の水壁に遮られました。

 

 「大和流海戦術、八重垣……からの!」

 (覇道砲!)

 

 当然ながら、動きを封じたらすかさず覇道砲です。

 目視で確認できる限りでは直撃しましたから、これで決まってほしいのですが……。

 

 『クソっ!クソっ!なんなんだお前は!どうしてわたしのルールから外れたことができる!』

 

 やはり無事ですか。

 それなりにダメージは負わせられたようですが良くて中破と言ったところ。

 覇道砲が直撃したのにアレは異常ですね。

 つまり彼女は、ルールがどうとか言っていますがルール違反を続けているようです。ステータスの数字でも弄りました?

 

 「見苦しいですね。神を騙るならもう少しらしくするべきでは?」

 『黙れ!木偶風情が神であるわたしに説教か!』

 

 木偶、ですか。

 確かに私は貴女からすれば木偶でしょう。と言うか、元は物ですし。

 

 (ん?この感じ……。上がってきている?)

 「何がですか?」

 (私たちの、本当の攻略目標だよ)

 

 私たちの攻略目標。それは彼女ではなく、こちらの世界とあちらの世界を繋ぐ『穴』。

 それが上がって来ている?

 上がって来ているのなら潜る手間が省けていいですが、『穴』を引き上げているのは彼女ですよね?

 そんなことをして何の意味が……。

 

 『醜い咎人め……。神の、私の威光の前に膝ま付け』

 

 そう言った彼女の背後の海から浮かび上がって来たのは正に穴。直径20m程の、異次元へと繋がっていそうだと思えるような極彩色に彩られた穴でした。

 アレを塞げば私たちの勝利。人は平和な世を取り戻せる。

 それができなければ敗北。この世には今と変わらず深海棲艦が蔓延り、乱世が続く。

 

 『奴らを沈めろ我が使徒達よ。欠片も残さず、私の世界から消滅させろ』

 

 彼女の声に導かれるように、穴から深海棲艦たちが次々と出現し始めました。

 姫級に鬼級、それにフラグシップやエリート。さらに見たことのない艦もいますね。

 数はざっと数えて100隻ほどでしょうか。

 

 (大和。話がある)

 「こんな時にですか?」

 (こんな時だからだ)

 

 はて?5kmほど先で100隻もの敵が艦隊を組み、私への攻撃準備を進めている今の状況で話すことなんて波動砲を使うかどうかくらいしかないと思うのですが……。

 

 (穴を塞ぐためにはどうしたら良いと思う?)

 「は?その手段は貴女が知っているのでは?」

 (ああ、知っている)

 

 だったらなぜ私に聞くのです?

 いや、待ってください。そう言えば以前、各国の戦艦たちとお風呂に入った際、穴の蓋に成り選る者は命を落とす云々という話しになりましたね。

 もしかして窮奇は、私にその覚悟があるのかどうかを確認しようとしている?

 

 (穴を塞ぐ方法は簡単だ。私たちの場合は波動砲を撃ち込めばいい)

 「簡単。という割に、声が神妙ですが?」

 

 それに波動砲を撃ち込むだけで良いのなら、前の会話に出てきた生け贄の意味がわかりません。

 

 (波動砲は目の前の奴らを突破するための手段でしかない)

 「と、言いますと?」

 (穴は向こう側からしか塞げない。だから私かお前、どちらか一方の魂を込めて発射する。そして穴を塞げば、再びこちらに戻ることはできない)

 「なるほど。だから生け贄。これが、貴女たちが言っていた選択ですか」

 

 こちら側の世界に戻ってこれないのなら、それ則ち死と同義。故に生け贄。

 ですが私たちの場合はアイオワさんやジャービスちゃんに比べればマシですね。

 以前聞いた話で、アイオワさんは深海棲艦になっていたアイオワと一つになったと窮奇は言いました。恐らくはジャービスちゃんも同じでしょう。

 そして選択とは、私と窮奇のどちらかが向こう側へ行くかではなく……。

 

 (私はな、大和。フラれた今でも、大淀のことを愛している。ずっと傍にいたいと思っている)

 

 これはまさか、だから私に向こう側へ行けと言いたいのでしょうか。

 以前の私ならこれ幸いと飛び込んでいたかも知れませんが、今の私には夢があります。

 あの子が幸せに生きていける世界を勝ち取り、ともに人として生きていくという夢が。

 だから私は行きたくない。

 だけれど窮奇に押し付けるのも気が引けますし、できることなら二人揃って帰りたい。

 窮奇を嫌っていた頃の私なら、何の迷いもなく窮奇を向こう側へ送っていたのでしょうが……。

 

 (そのせいかな……。どうしても踏ん切りがつかないんだ。私が命をとして守った世界で彼女が生きていく。私のことを彼女の記憶に焼き付けることができる。それなのに、私は覚悟しきれないでいるんだ)

 

 それは、窮奇は最初から向こう側へ行くつもりだったということですよね?

 私を生け贄に捧げるのではなく、端から自分が生け贄になるつもりだったと。

 

 「ふふふ♪」

 (何がおかしい。私は真面目な話をしているんだぞ)

 「いえ、すみません。貴女にも可愛いところがあるのを知って少しおかしくなっちゃったんです」

 (か、可愛いだと!?)

 

 ええ、可愛いです。意外と言い換えても良いですね。

 貴女は愛する大淀のために消えようとしながら、それでも彼女と一緒にいたいと思っている。

 女々しい、未練がましいと言えばそれまでですが、大切に想う人と一緒にいたいと願うのは人として当然。

 私は今、初めて窮奇を人間らしいと思ったんです。

 

 「しかたないですねぇ。そんなに怖いなら私が行きます。貴女は実らない恋に焦がれてストーカーにでもなっていなさい」

 (馬鹿を言うな。お前は朝潮と約束があるのだろう?だから行かせるわけにはいかない。私が行く!)

 「いえいえ、私が行きますよ。何せ私には、こちら側に戻ってくる自信があるのですから」

 

 嘘ですけどね。

 そもそも方法が思い浮かびませんもの。

 あちら側に行けば、いくら私でもこちら側に戻ってくることはできないでしょう。

 それは則ち、ご主人様と永遠にお別れするということ。

 

 (それは無理だと言っただろう!相変わらず馬鹿だなお前は!)

 「馬鹿とは失礼な。貴女より頭が良い自信はありますよ?」

 (そんなわけあるか!もういい!とっとと波動砲を撃て!私は向こう側へ行く!だからお前は……)

 

 窮奇の声がトーンダウンしました。

 恐らく覚悟が決まったのでしょう。あちら側に行き、大淀が生きていく世界を勝ち取る覚悟が。

 そして、覚悟ができたのは私も同じ。

 この世界で生き続けて人としての生を全うする。それが、この世界から消えることを選んだ窮奇を送り出す私に課せられた十字架です。

 

 (だからお前は、絶対に朝潮との約束を守れ)

 「ええ、お約束します」

 

 そう約束を交わすと、艤装の全制御が私に移りました。

 さて、別れも済ませたことですし、この戦いに終止符を打つ準備をいたしましょう。

 私の選択。

 この世界の行く末を左右する選択を示すために。

 

 『相談は終わったかい?木偶』

 「ええ、終わりましたよ。あなたこそ、お祈りは済ませましたか?」

 『祈りだと?神である私に、何に祈れと言うのだ』

 

 さあ?何でも良いんじゃないですか?

 例えばより上位の神や、自分がしでかしたことに懺悔したのでも良いと思います。

 もっとも、祈ろうが懺悔しようが結果は変わりませんが。

 

 「全主砲、三式弾装填」

 

 同時に力場チャージ開始。力場アンカー投錨、船体固定。

 砲身の数は減ってしまいましたが、今の私はかつての私を上回る力場総量を誇っています。

 故に、今の私が全力で撃つ波動砲の威力と射程は以前の波動砲を遥かに上回ります。

 それを今から、あなたに撃ち込みます。

 子供のように無邪気で残酷。ですが反面、女王のような気品と冷徹さを併せ持った、私の半身とともに。

 

 (ああそうだ。一つ言い忘れていたことがあった)

 「何ですか?」

 (私の代わりに、満潮に殴られてやってくれ)

 「はぁ!?」

 

 どうして私が教官に殴られないとならないのです!?

 もしかして、私が寝てる間に体を使って何かしました?例えば教官のおやつを食べちゃったとか、無理やり夜戦(意味深)を仕掛けたとか。

 

 「もう!厄介な置き土産を残してくれちゃって!」

 

 しかも後に引けないくらいに準備が整ってから!

 窮奇は知らないんでしょうけど、満潮教官って殴るの上手いんですよ!?的確に私が痛がるところを執拗に殴ってくるんですから!

 

 (さあ、もう時間もないぞ)

 「わかってますよ!」

 

 敵艦隊は準備が整ったのか、眼前に形成したターゲットスコープ内に映る空母たちからは艦載機が飛び立ち、他の水上艦たちも砲撃や雷撃を放ち始めました。

 本当にもう時間がない。あんな物量の攻撃を浴びれば今の私と言えども轟沈は確実。

 着弾する前に、攻撃ごと波動砲で破壊しなければ。

 

 (達者で暮らせ。人として……な)

 「言われずともそうします。さようなら……もう一人の私」

 

 これがアニメや漫画なら「さようならは言いません」なり言うのが王道なのでしょうが、私たちの場合はそれが叶わない。

 だって窮奇の言葉を信じるなら戻る方法がないのです。だからこれは永遠の別れ。

 故に、窮奇はこちらの世界での私の人生を願い。

 私は窮奇があちらの世界で安らかにいられることを祈って別れを告げました。

 

 「白雲(しらくも)の……此方彼方(こなたかなた)に立ち別れ」

 

 この歌は古今和歌集に綴られている歌の一つ。

 良峯秀崇という人がお互いのことを気遣いつつ、別れ行く友の旅路を思って詠んだ歌。

 私と窮奇の旅立ちにピッタリな歌です。

 

 「心を(ぬさ)と……くだく旅かな」

 

 歌い終わると、私は波動砲を発射しました。

 同時に、窮奇が私の中からいなくなるのを感じました。

 空間を引き裂くような轟音を響かせて敵艦隊を包み込み、穴までも巻き込みながら向こう側へと延びて行く波動砲の光。

 戦いの終わりを告げる光と供に、私の半身は消えてしまいました。

 

 「この音は……」

 

 穴が完全に消滅すると、ガラスにヒビが入ったような音が空のあちこちから聴こえ始めました。

 いえ、音だけではないですね。

 目に見える形でヒビも入ってきています。

 

 「脱出した方が良さそうですね。ですが……」

 

 出口はどこ?

 この空間が壊れれば、元の海上に戻れるのでしょうか。それとも、この空間と供に私も消えてしまうのでしょうか。

 

 『出口なんかないよ』

 「なっ……!?」

 

 穴と一緒に消えたはずの声が聴こえたと思ったら右手に鎖が巻き付きました。

 コレは大和型の錨?

 鎖の先にいるのは、空間に入った長さ2mほどの亀裂から上半身だけ覗かせた彼女。

 あの波動砲を食らって生きているとは思いもしませんでしたよ。

 

 「くっ……!離しなさい!」

 「離さないよ。管理者として、せめてバグであるお前だけは排除する」

 

 ジリジリと鎖を手繰りよせられて、ついに無線なしで声が聴こえる距離まで引き寄せられてしまいました。しかも、ダメ押しとばかりに砲撃まで加えてきます。

 このままではマズい。

 恐らく彼女は、あの亀裂に引き込んで私をこの世界から消すつもりです。

 

 「ダメ……ダメです。このままじゃ約束が守れない」

 

 だけど為す術がない。

 燃料は砲撃に堪えられる程度の装甲と、浮力を得られる程度の脚を造れるくらいしか残っていないですし、燃料がそんな状態では砲撃のための力場も精製できません。

 

 「ごめんなさい……ご主人様。大和は…大和は……」

 

 亀裂の中に完全に引き込まれ、それでもわずかに差す光に手を伸ばしました。ですが……。

 

 「大和は帰れそうにありません」

 

 それを嘲笑うかのように無慈悲に音もさせず、亀裂は閉じました。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 声が、聴こえた気がしました。

 はい、大和さんの声です。

 

 穴が崩壊し、敵が復活しなくなってから移行した掃討戦の最中に聴こえたんです。

 

 なんて言ったのかは聞き取れなかったのでわかりませんが、悲しんでいたことだけはわかりました。

 

 はい、掃討戦が終わってからも、矢矧さんたちと一緒に大和さんを捜索しましたが、ご存知の通り見つけることはできませんでした。

 

 見つけることができたのは、大和さんの物と思われる艤装の破片のみでした。

 

 え?それなのに、どうして大和さんが生きていると信じているのか?

 

 必ず戻ると約束したからです。

 それに他の人たちが諦めてしまっても、主人である私くらいは信じてあげないと、大和さんが帰ってくる道標がなくなってしまうような気がして……。

 

 だから信じ続けるんです。

 例え何年、何十年経っても、私はあの場所で大和さんの帰りを待ち続けます。

 

 はい!約束は……大和さんとの大切な約束は一生守り通す覚悟です!

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 朝潮へのインタビューより。

 

 

 

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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