艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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十七章ラストです!
次章は今月中頃には投稿できると……思います(゜ロ゜)


第百八十三話 幕間 円満とヘンケン

 

 

 

 

 

 目が覚めたらリグリア海での戦闘はとっくに終わってて、ワダツミはジェノバに入港して日本まで曳航される準備をしていた。

 で、そのワダツミ艦内の病室で目覚めた私が何をしているかと言うと……。

 

 「暇だ……」

 

 ハッキリ言ってやることがない。

 お見舞いに来てくれた各提督や艦娘たちから、私が意識を失ってからの戦闘の経過や結果を聴かされている最中は暇だなんて感じる余裕はなかったのに、それがなくなったら一気に暇になっちゃった。

 身体も起こせないくらい動けないから、やることと言うよりやれることが無いわね。

 

 「ああでも、考えなきゃいけないことはあるか……」

 

 それは、これからのこと。

 作戦の事後処理とかではなくもっと個人的なこと。

 満潮が涙ながらに話してくれた私の容体を考えると、私は彼に別れを告げなければならない。

 

 「やだなぁ……」

 

 私は彼を愛してる。

 だから別れたくないし、私から別れを告げたくない。でも、彼のことを本気で想ってるなら言わなくちゃ……。どんなに愛してても、私は彼の傍にいちゃいけない。

 彼の伴侶にはなれ……なれな……。

 

 「やっぱやだぁぁぁぁあ!?たたたた……」

 

 脇腹を何十針も縫ってるのに大声出しちゃった……。

 だけどそれくらい嫌だ。

 彼と別れるくらいなら死んだ方がマシだと思えるし、彼が傍にいない人生なんて考えられない。

 

 「普通の女の子も、こんな感じになるのかな……」

 

 私は普通を知らない。

 恋愛に関しては漫画で培った知識しかない私は、普通の女の子が恋愛をするとどうなるのか知らない。 

 だから、私の胸の内で渦巻いてるこの感情が正常なのか異常なのかもわからない。

 

 「お酒でも飲もうかな……って、無理か」

 

 飲んだのがバレたら満潮からこれでもかってくらい怒られるだろうし、そもそも病室にお酒がない。

 ってあら?ドアをノックする音が聴こえるけどまた誰か来たのかしら。もしかして満潮が戻って来た?

  

 「どうぞ~……あ」

 「起きてたか。それに、思ったよりも元気そうだ」

 

 迂闊に返事をするんじゃなかった。

 入ってきたのは今の私が最も会いたくない相手であるヘンケン。しかもジェノバの街で買ったのか、恋愛関係の花言葉を持つ花を何種類もてんこ盛りにした花束装備。

 でもねヘンケン。

 米国にはそういった常識がないのかも知れないけど、お見舞いに向かない花が結構な数混ざってるからね?

 だけど嬉しい!

 満潮がいたら「米国にはそんな常識もないの!?」とか言いながらヘンケンを病室から蹴り出しそうだけど私は嬉しい!

 今すぐ抱かれても良いと思えるくらい……って。

 

 「だからそれはダメだぁぁぁぁあ!?いいぃぃぃ……お腹痛いぃぃぃ……」

 「大丈夫かエマ!人を呼ぶか!?」

 「だいじょばないけど呼ばなくていい……」

 

 いや、呼んでもらった方が良かったかな?

 だって二回も叫んじゃったせいで縫ってある脇腹が異常に熱いし、そこに心臓があるんじゃない?って思っちゃうくらいズクンズクンしてる。

 それに、他に誰かがいれば、彼に別れ話を切り出さなくても済みそうだから……。

 

 「エマがそう言うなら良いが……。辛かったらいつでも言ってくれよ?」

 「うん……」

 

 本当は現在進行形で辛いです。心も、身体も……。それに彼に負い目を感じてるからか、顔を直視できない。

 

 「大和は、まだ見つからないそうだな」

 「ええ、艤装の破片は見つかったそうだけど、大和本人は見つかってないみたい」

 

 会話の取っ掛かりにでもと考えたのか、ヘンケンはそう言いながらベッドの横に椅子を引っ張ってっ来て腰を下ろした。

 海戦が終わってから今日で一週間って、満潮は言ってたかな。

 ドーム状だった穴が崩壊して敵が復活しなくなるなり、呉提督は掃討戦に移行させた。

 その結果はカナロア及び、応援に駆け付けてくれた欧州残存艦隊と協力し、多くの犠牲者を出しながらも敵の殲滅に成功したらしい。

 澪に見せてもらった戦死者リストも、私の予想と大きくかけ離れた結果となったわ。

 だけど一人だけ、海戦の立役者である大和の生死だけが不明なまま。

 

 「聴いた限りの情報でしか判断できないけど、動ける艦娘のほぼ全てと、カナロアと欧州連合の艦娘まで動員して見つけられないんだから……」

 

 生存は絶望的。

 捜索に参加している艦娘たちにも諦めムードが漂い始めているらしい。

 

 「各国上層部は戦死ということにしたいらしいが……。日本は何と言っている?」

 「同じよ。先生が何て言ってるのかは知らないけど、他のお偉方は生きて凱旋より、命と引き換えにして穴を塞いだってことにした方が国民受けが良さそうとか考えてるんじゃない?」

 

 特に日本人はその手の話が好きだからね。

 他の国もまあ、似たようなもんでしょ。

 もっとも、他国の場合は何かある度に大和を担ぎ出されたくないって思惑もありそうだけど……って、なんか妙に視線を感じるわね。

 

 「……」

 「な、何よ。そんなにジーッと見られたら恥ずかしいんだけど?」

 「ああ、すまん。その、何と言ったらいいか……」 

 

 気まずそう。

 ヘンケンは私が視線を向けると逆に目を逸らしちゃった。

 もしかして、私が怪我しちゃったことに変に責任を感じてる?

 それともまさか、ヘンケンも別れ話をすりつもり?

 傷物になっちゃった私とは交際を続けられないとか……いやいや、後者はないか。

 だってそれじゃあ、これでもかと愛を詰め込んだ花束を持ってきたりしないもんね。

 

 「I'm so bad ... (ヤバイ……)What is this cuteness, no beauty?(何だこの可愛さ、いや美しさは)

 「え?ちょ……」

 

 つい口に出しちゃった?

 思わず口に出しちゃったから、「あ……」とか言って慌てて口元を手で隠したの?

 って言うか、そんなドストレートに誉められたら照れるんですけど!?血圧が上がると傷が痛むからやめ……いや控えめにして!

 

 「と、ところでエマ。君に大切な話があるんだが……」

 「は、はい……」

 

 何の話だろ。

 彼にしては珍しくソワソワしてるし、顔も湯気が出そうなくらい赤いところを見るに真剣な話。しかも色恋に関することの可能性大。もしかしてプロポーズかしら。

 だとしたらマズいわ。

 こっちから別れを切り出す前にプロポーズなんてされたらきっと決心が鈍っちゃう。

 

 「お、俺と……!」

 「それはダぁぁぁあメぇぇぇえ!?ったぁぁぁぁ……。お腹破けるぅぅぅ……」

 「大丈夫かエマ!?」

 

 だいじょばない……。

 って言うか、大声を出したら傷が痛むって身をもって知ってるのにまた叫ぶなんて私は馬鹿か。

 まあでも、それでヘンケンの言葉を遮れたから良しとしましょう。

 それに、これから彼の心を深く傷付けちゃうんだから、これくらいの痛みは甘んじて受けないと。

 

 「私からも……話があるの」

 

 私は戸惑うヘンケンの目をなんとか真っ直ぐ見て、そう切り出した。

 これから私は彼に別れ話をする。

 罪深いからとか、私には幸せになる権利がないとかそういう理由じゃないわ。

 私は彼の伴侶足り得ない。

 私と一緒にいたら、彼にまで不幸な想いをさせてしまうから。

 

 「私たち、別れましょ。貴方とはもう、恋人同士でいられない」

 「理由を、聞いても良いか?」

 

 まあそうなるわよね。

 でも、ヘンケンの表情に違和感を感じる。

 別れようと言った瞬間は目を見開いて驚いてたのに、今は動揺してるわけでもなく、怒っているわけでもなく、暖かい眼差しで私の言葉を待ってくれてる。

 まさかヘンケンの大切な話も別れ話だった?

 いや、それはないか。

 もしそうだったら、あんな花束を持ってきたりはしない。

 

 「私は貴方の子供を産めない。それが理由よ」

 

 第一艦橋が爆撃された際に負った私の傷は、私に女としての人生を諦めさせるのに十分な被害をもたらした。

 具体的に言うと、右脇腹に刺さった破片は大腸の一部と右の卵巣、そして子宮を完全に破壊してたの。

 大腸が短くなちゃったから食事制限までオマケでついてきたわ。

 だから、私は彼と別れることにした。

 子供が産めない、女として不良品と言えなくもない私なんかと結婚したって、彼は子供を授かれないんだから。

 

 「なるほど。そういうことか……」

 「そうよ。だから……」

 

 私のことは忘れて。

 と、続けようとしたのに言葉を紡ぐことができなかった。

 だって泣きそうなんだもん。

 目頭は熱いどころか涙腺が崩壊したみたいにダバダバと涙を放出してるし、顎が妙に強ばってまともに動かせない。

 

 「良かった……」

 「え……?」

 

 今なんて言った?

 良かった?良かったって何が?私と別れられて良かったってこと?

 

 「君が俺のことを嫌いになったのなら仕方ないと諦めた。だが、君の様子を見るにそうではないみたいだ。だから、良かった」

 「嫌いになるわけ……!」

 

 ない。

 本当はずっと一緒にいたい。

 貴方が求めてくれるならプロポーズだって即時OKだしその場で婚姻届にサインしてもいいくらい愛してる。

 でも無理なの。

 無理になっちゃったの。

 私と一緒になったら貴方まで不幸になる。だから私たちは別れないとダメ。貴方は他に好い人を見つけて、私の分まで幸せに……。

 

 「君は馬鹿か?」

 「ば、馬鹿ぁ!?」

 「ああ馬鹿だ。君の身体のことはMitchieから聴いている。その上でもう一度言うぞ。君は馬鹿だ」

 

 既に満潮から聴いてたか。

 ってか口軽すぎ!

 話したのがヘンケンだからまだ許せるけど他の人に吹聴してたら絶交ものよ!私の部屋から追い出すのだって厭わな……いや、それはダメだわ。

 満潮がいなくなったらまともな生活ができなくなる……。

 

 「君が別れ話を切り出したのも俺の幸せを願ってのことだろう?だが、君は大きな勘違いをしている」

 「勘違……い?」

 「そうだ。君がいない人生など考えられない。君がいないだけで俺は不幸だ。世界一不幸になる。君は、俺を不幸にしたいのか?」

 「違う!そうじゃない!そうじゃないけど……」

 

 仕方ないじゃない。

 貴方は私がいなきゃ不幸になるとか言ってるけど、一緒にいたって結局不幸になる。

 そりゃあ最初の内はいいでしょうよ?

 でも、その年月を重ねていけば子供が欲しくなる。

 貴方から言い出すか私から言い出すかの違いがあるだけで、絶対に子供が欲しくなる。

 養子でも取ろうって考えてるの?

 それも子供を授かる手段ではあるし素敵だと思う。

 でも、やっぱり私は貴方の子供が欲しい。貴方と私の血を継いだ子供が欲しいって思うはずよ。

 

 「ふむ、Mitchieにしても君にしても、どうしてそう悲観的なんだ?」

 「どうしてって……」

 

 本当に不思議そうにしてるわね。

 男には、子供が産めなくなった女の気持ちがわからないのかしら。それとも、ヘンケンは子供なんて望んでない?

 

 「ああそうか!」

 「ちょっ!急に大声出さないでよビックリするじゃない!」

 「おっとすまない。君たちが悲観的な理由がわかったんだ」

 「だからそれは……!」

 「Surrogate mother birth」

 

 子供が産めなくなったからだ!

 と言おうとした私を、ヘンケンが聞き慣れない英語で遮った。

 サロゲイトマザーバース?

 『Surrogate』はたしか『代理』って意味よね?それで『mother』は『母親』で、『birth』は『誕生』とか『出産』で……あ、そういうことか。

 

 「代理母……出産?」

 「そうだ。日本では一般的じゃないのを失念していたよ」

 

 そっか、子供を授かるだけならその手があった。

 日本では法整備が進んでないし色々と問題もあるけど、私の卵巣は片方無事だって聴いたから、その方法を使えば私とヘンケンの子供が授かれる可能性が十分ある。

 つまり……。

 

 「一緒に……いられる?」

 「ああ、一緒にいよう」

 

 そう言いながら、ヘンケンは私の頭を愛おしそうに撫でてくれた。

 そのせいなのか、安心した私の涙腺はまた壊れた。彼の顔がボヤけて見えないくらい涙を流し始めたわ。

 

 「全部終わったら結婚しよう。ずっと……一緒にいよう」

 

 ああ、無理だ。

 彼と別れるだなんてもう考えられない。

 彼がしてくれたプロポーズへの答えなんて一つしか思い浮かばない。

 だから私は……。

 

 「はい……」

 

 と、一言だけ絞り出すように言った。

 他に何も付け足さず、ただ一言だけ、彼の手の平から伝わってくる愛情に身を任せて。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 してやられました。

 ええ、ヘンケンが円満にプロポーズした時です。

 あのポッと出野郎、よりにもよって円満が一番弱ってる時を狙いやがって……。

 

 ええ、聴いてました。

 実を言うと私も同じ病室で寝てまして、円満が「暇だ……」とか言い出したあたりからずっと聴いてたんです。

 そうですよ!

 お約束ですよ!

 

 邪魔すれば良かったじゃないか?

 出来なかったんですよ!

 それと言うのも、私も第一艦橋が爆撃された際に結構な大怪我をしてまして、痛いわ熱が出て苦しいわでまともに声も出せない状態だったんです。

 

 さらに!

 狙い済ましていたかのように恵が来てて、ヘンケンが来るなり猿ぐつわを噛まされました。

 しかも!しかもです!

 恵の奴、ダメ押しとばかりに私の喉を鷲掴みにして「邪魔したら潰しちゃうからぁ♪」とか言って脅してきたんです!そんな状態で声なんて出せませんよ!

 

 今でも反対なのか?

 いやいや、さすがに結婚間近になってまで反対はしません。

 ヘンケンがいなかったら円満は不幸なままだっただろうし、もしかしたら笑うことができなくなってたかもしれませんから。

 

 だから感謝してますし祝福もしてます。

 だって、円満を幸せにしてくれたのは間違いなく彼、ヘンリー・ケンドリックなんですから。

 

 

 ~戦後回想録~

 横須賀鎮守府提督補佐 大城戸 澪中佐へのインタビューより。






大淀です。


 激戦を制した艦娘達は、長い戦いの果てに終戦と言う名の栄光を手に入れました。
 そして戦後。
 今だ帰らぬ一人の艦娘を待ち続ける彼女は、約束の地で今日も空を見上げます。
 まるで自身を彼女が帰ってくるための道標とするかのように。

 次章、艦隊これくしょん。最終章『私と貴女の夢想曲(トロイメライ)

お楽しみに。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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