艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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最終章 私と貴女の夢想曲《トロイメライ》
第百八十四話 一人の狂人の物語


 

 

 

 平成8年。

 作戦に参加した艦娘の五分の一が戦死し、十数万の軍人たちの命が失われた欧州での作戦が終わってから4年目の3月。終戦宣言が発布されてから1年経った。

 私こと、元朝潮型駆逐艦三番艦 満潮改め紫印 満(しいんみちる)は、相も変わらずダメ女な義理の母相手に悪戦苦闘する日々を送っていた。

 

 「なぁんて、現実逃避みたいな脳内回想したくなるからいい加減起きろ!」

 「あと5分~~」

 「10分前にもそう言ったじゃない!いいから起きなさい!ほら早く!」

 

 ちなみに、終戦とともに私を義理の娘としたダメ女こと円満さんは、そのさらに10分前にも同じことを言っている。

 ホント、毎日毎日同じことしてよく飽きないわね。

 まあ、それは私にも言えることではあるんだけど……。

 

 「もうすぐヘンケンさんが迎えに来るんでしょ!?そんなだらしないとこ見せていいの!?」

 「大丈夫。彼は私の全てを愛してくれてるからぁぁぁぁ!?痛い!なんで腕ひしぎ十字固めするの!?」

 「うっさい色ボケ女!朝っぱら惚気る余裕があるなら起きろ!ほら!ほら!」

 「わかった!わかったから離して!折ぉぉれぇぇぇるぅぅぅぅぅ!」

 

 ホントに折ってやろうかと少し悩んだけど、さすがに目が覚めただろうから解放してあげた。

 まったく、素直に起きてくれたら私もこんな疲れるようなことしなくてもいいのに。

 

 「ああもう!髪の毛ボサボサじゃない!目ヤニも凄いし!とっとと顔洗ってらっしゃい!」

 「は~いママ」

 「ママはアンタでしょ!」

 

 ったく。これじゃあ本当にママだわ。

 リグリア海戦以降、深海棲艦の数が減るのと比例するように妖精さんも減っていき、終には艤装を使えなくなってから退役するなり円満さんの養子になったけど、私たちの生活スタイルは全くと言っていいほど変わっていない。

 しいて違いを挙げるなら、出撃の代わりに学校へ行くようになったくらいかしら。

 

 「満~、髪の毛セットして~」

 「はいはい……ってぇ!ちゃんと顔洗った!?口の周りが歯磨き粉だらけじゃない!」

 

 あ、あと身体が年相応に成長したわ。

 艦娘だった頃は円満さんの方が若干高かったけど、今では私の方が10cmも高い。

 そのせいもあるし、円満さんの顔立ちが幼いのも手伝って二人並んで歩いてたら私の方が姉に見られるわ。

 しかも!

 バストサイズは比べるのも馬鹿らしいくらい私の方が大きいわ。具体的に言うなら高低差15cmのCカップ!

 二十歳過ぎても高低差5cm未満のブラ要らずな円満さんには同情するけど、たまに私の胸見ながら「私も満潮だったのに……」とかボソッと言うのはやめてもらいたいわね。

 

 「服はどうする?無難にスーツにしとく?」

 「ジャージかスウェットで……」

 「良いわけないでしょうが」

 

 楽なのはわかるけどね。 

 まあ行き帰りはスーツで良いとして、あとは黒の第一種軍装を引っ張り出せば円満さんの服はOK。

 私はどうしよう。

 三回忌の時は高校の制服で良いとして、行き帰りは誰に見せるわけでもないから……。

 

 「ジャージでいっか」

 「ズルい!なんで私はダメで満は良いのよ!」

 「何故私は良いのか。それは私が女子高生だからよ!」

 

 補足すると、円満さんは今も横須賀鎮守府の提督を続けている。しかもリグリア海戦での功績が認められて中将になってます!

 つまり、海軍の要人である円満さんは世間体もあって迂闊に腑抜けた格好ができないけど、一般ピーポーかつただの女子高生でしまない私はTPOの範囲内ならジャージで彷徨こうがスウェット姿でストリートダンスを踊ろうが関係ないわけ。

 ちなみに今年の4月から三年生。

 卒業後の進路に悩む華の17歳よ。

 

 「ズルい!女子高生ズルい!私も女子高生になる!」

 「24にもなって何言ってんのよ。それよりほら、さっさと着替えて朝ご飯食べて。片付けができないでしょう!」

 

 と言うと、円満さんは「いけるもん……私なら女子高生できるもん」とか不貞腐れながらも着替えて朝食を食べ始めた。

 円満さん。

 さすがに悪いと思ったから口には出さなかったけど、円満さんなら中学生でもいけるから。

 って言うかぶっちゃけ、見た目は私より幼いから、下手したら小学生でもいけると思うわ……って、誰かが部屋に近づいてる足音が……。

 

 「Good Morning! エマ!Mitchieも元気そうだな!」

 「ノックくらいしろクソ外人!って言うかどうやって鎮守府に入ったのよ一般人!それにミッチー言うな!」

 「おいおいMitchie、俺はエマの婚約者だぞ?当然顔パスさ♪」

 

 顔パスさ♪

 とか親指立ててにこやかに言ってんじゃない!

 ここ軍事施設よ!?深海棲艦がいなくなった今でも海軍の重要拠点の一つなのよ!?

 そこに一般人が顔パスで入れるとかセキュリティガバガバじゃない!私でさえ毎朝毎晩、入門証見せて出入りしてるのに!

 

 「おはようヘンケン。今日もカッコいいわね♪」

 「君も変わらずprettyだよエマ。スーツ姿もcharmingだ」

 「ふふ♪ありがと♪」

 

 このバカップルが……。

 ヘンケンさんと一緒に来るはずの元アイオワさんことIvy(アイヴィー)さんの姿が見えないってことは、今にもチュッチュし始めそうなバカップルを見たくないから車で待ってるのね。

 私もさっさと着替えて車に避難しようか……。

 

 「って、ヘンケンさんがいたら着替えられないじゃない」

 「気にするなMitchie。君はエマの養女。つまり俺の未来の娘も同じだ」

 「だから、貴方の前で着替えろと?」

 「Yes off course!」

 

 ははははは、何言ってんだこのクソ外人は。

 あまりにも堂々と言ってくれるもんだから乾いた笑いが出ちゃったわよ。

 って言うか脱ぐと思う?

 確かにヘンケンさんは未来の父親と言えなくもないわ。

 でもねヘンケンさん。

 華も恥じらう女子高生は父親の目の前で着替えたりしないし、普通は恋人でもない男の前で素肌を晒したりもしないの。

 つまり、私が何を言いたいかと言うと……。

 

 「アホなこと言ってないで出てけ!ほら!円満さん食べ終わったんならとっとと出ろ!」

 「ま、待てMitchie!出てくから!出ていくから蹴るな!」

 「私まで!?え、ちょ!痛い!本気で蹴ってるでしょアンタ!これってDVじゃないの!?家庭内暴力!」

 「うっさい!いいから出てけこのバカップル!」

 

 と言った感じで、私は二人を文字通り部屋から蹴り出し、オマケとばかりに円満さんの着替えが詰まったキャリーバッグを投げつけた。

 円満さんの頭に直撃してたけど、アレでしばらくは大人しくなるだろうから良しとしましょう。

 

 「ふぅ、これでようやく自分の準備ができる」

 

 と言っても、あとは洗い物をして着替えるだけ。

 でも着替えが問題なのよねぇ……。

 どうせあっちに着いたら三回忌の時以外は浴衣で過ごすから、極端な話行き帰りの服装はさっきも出たようにジャージかスウェットでも問題ない。

 見せる相手でもいるなら話は別だけど、アイツは着いてこないから気合いいれる必要は……。

 

 「いやいやいやいや、なんでアイツがいたら気合いいれなきゃいけないのよ」

 

 私の彼氏面してる元時雨こと雨流 時江(うりゅうときえ)

 アイツって私と会うときはやたらとお洒落してくるから私も迂闊な格好できないのよねぇ。

 いや、アイツがお洒落してくるからって私まで合わせる必要はないんだけど、やっぱビシッと決めて来てるのに、私がジャージとかスウェット姿じゃ見映えが悪いじゃない?ほら、私ってTPOを大事にするからさ。

 

 「って、変な言い訳は後にして、ホントに何を着ていこう」

 

 もう面倒だから高校の制服でいいかな。

 うん、そうしよう。

 制服ってプライベートから冠婚葬祭までどの局面でも着ていられる万能服だもん。

 学生でいる内は制服の恩恵を利用できるだけ利用しとかなきゃ損よね。

 それに、艦娘だった頃は四六時中制服を着てたせいか落ち着くし。

 

 「それで制服にしたの?」

 「そうよ。荷物も減らせるから一石二鳥だしね」

 

 と、制服をチョイスした理由を運転してるアイヴィーさんに説明した。

 ちなみに、バカップル二人は飽きもせず後部座席でイチャイチャしてるわ。

 ホンットにウザい。

 

 「ねえアイヴィーさん、この車って後部座席を打ち出せたりしない?」

 「残念ながらできないわ。次までに改造しとくからそれまで我慢して」

 

 次までに……か。

 この車にこの四人が揃って乗る機会なんて大和の年忌法要に行く時くらい。つまり、次は四年後の七回忌。

 故人を偲ぶって意味では大切な儀式だし、普段会えない人たちにも会える良い機会でもある。

 でも……。

 

 「やっぱ嫌だな……」

 「そうね……。大和は死んだんだって、嫌でも思い出させられるから……」

 

 大和は結局見つからなかった。

 動ける者総出で捜索したのに、見つかったのは艤装の破片だけ。矢矧さんたち一特戦のメンバーなんて、ワダツミが日本へ戻った後も欧州に残り、艤装が使えなくなるその日まで捜索を続けたけど大和は見つからなかった。

 まあ、副産物として仏語が堪能になってたけどね。

 

 「穴と一緒に消えたのかな」

 「その可能性が高いわね。穴は、向こう側からしか塞げないはずだから」

 

 穴の塞ぎ方は後に円満さんから聞いた。

 聞いた時はふざんけんなって思ったのを覚えてるわ。

 だって穴は向こう側からしか塞げない。しかもこちら側に戻ってくる手段はないときた。

 だから、例え向こう側で生きていたとしてもこちら側では死んだのと同じ。大和には、二度と会えない。

 でも、円満さんは聴いていた話と違うとも言っていたわ。

 

 「大和なら、こちら側に残ったまま穴を塞げる。窮奇の話ではその筈だったの」

 「あ、円満さん聴いてたんだ」

 「うん、一応ね」

 

 本当に一応っぽいわね。

 だって円満さんはヘンケンさんに膝枕され、さらに頭を撫でられてるもの。喉からゴロゴロって音鳴らせてそうなほど気持ち良さそうだわ。

 

 「もしかして、大和か窮奇のどちらかが向こう側に行って穴を塞ぐ手筈だったの?」

 「ええ、そしてそれは、窮奇がやるはずだったの」

 「窮奇が?」

 「うん。アイツはね、朝海のためにこの世界から消えるつもりだったのよ」

 

 円満さんがその話を聞いたのは私が大和と秘書艦を交代していた時期らしい。

 口頭で聞かされた訳じゃないそうだけど、窮奇はいつの頃からかこの世界から消えることを望むようになり、そのために大和と一つにならず、そしてあの日、実行した。

 

 「正直、頭おかしいんじゃないかって思ったわ」

 「どうして?」

 「だってアイツは、私に送ってきたメールにこう書いてたの。「私は彼女が生きていく世界の礎になる」って。ある意味究極の押し付けね」

 「押し付け?窮奇は何を押し付けたの?」

 「アイツの歪んだ愛情よ。今のこの世界は、朝海への愛を糧としたアイツが勝ち取った世界。今の世界の在り様そのものが、窮奇の愛の形なのよ。そんな世界で、朝海は生きていかなくちゃならない」

 

 否応無くね。

 と、円満さんは話を締め括った。

 だから『究極の押し付け』か。

 確かにこの世界で生きていくしかないお姉ちゃんは、ふとした時に嫌でも窮奇のことを思い出す。

 世界に喧嘩を売って、そして勝ち取った狂人の歪んだ愛に満たされたこの世界で、お姉ちゃんは生きていくんだ。

 気にする必要はないって言われてすんなり受け入れられる人なら平気なんでしょうけど、お姉ちゃんはそんなタイプじゃないからきっと気にする。

 一生涯、窮奇のことを忘れる事ができない。

 愛って言うより呪いに近いわね。

 窮奇はその命を持って、お姉ちゃんに永遠の呪いを残したんだわ。

 

 「一人の……」

 「ん?何か言った?円満さん」

 「ああいや……最近、あの戦争では色々あったけど、あの二年間だけはアイツの物語だったような気がしてさ」

 「アイツって、窮奇?」

 「ええ、窮奇。アイツは……大和は多くの者に望まれて誕生した。でも、私たちみたいにアイツを恨んでいた者たちからはその復活を疎まれたわ。でもアイツはただ一つの望みのため、朝海のためにその産声を世界に響かせた。愛するあの人と共に在る。ただ、それだけのためにね。あの二年間は、愛のために世界に喧嘩を売った一人の狂人の物語だったんじゃないかって、最近考えるようになったの」

 「一人の狂人の物語……か」

 

 そう言えなくもない気はする。

 気はするけど……。よくそんな恥ずかしいセリフを臆面もなく言えたわね。聴いてた私の方が恥ずかしくなっちゃったんだけど?

 って言うか……。

 

 「真面目な話するんならせめて起きてしなさいよ」

 「やだ。固さがちょうどいいんだもん」

 

 もん。じゃない。

 ホンット、円満さんってヘンケンさんの前じゃアホになるわねぇ。

 

 「あ、そう言えば時江はどうしたのよ。最近会ってないらしいじゃない」

 「なんでここで時江が出てきた?」

 「だってアンタの彼女でしょ?年忌に不謹慎だとは思うけど、ヘンケンに紹介する良い機会だったじゃない」

 

 だから何?連れてくれば良かったのにとか言うつもり?生憎だけど連れて行く気は端からないわ。

 だって温泉旅館よ?

 ただでさえ会うたびに貞操を脅かされてるのに、あんな合法的に裸の付き合いができる場所に一緒に行ったりしたらアイツのタガが外れちゃうでしょ。

 いやいや、それより。

 

 「彼女じゃないから!私ノンケだから!」

 「はいはい、そういうことにしといてあげる。でも最近会ってないのはどうして?喧嘩でもしたの?」

 「べつに喧嘩はしてないわ。アイツ、先週からタイに行ってるのよ」

 「タイに?旅行?」

 「じゃない?なんか空港で別れる時に「頑張って生やしてくるよ」とか訳わかんないこと言ってたけど」

 

 生やすって何を生やすんだろ?

 円満さんとヘンケンさんは時江の目的に気付いたのか「あ~なるほど」とか言って納得してるわ。

 アイヴィーさんは呆れたのか顔がひきつってるわね。

 

 「帰ったら時男になってるのかぁ……。アイツも思い切ったわね」

 「は?どういうこと?」

 「ん~、簡単に言うと……」

 「エマ、それは黙っておいた方が良い。きっと本人が直接打ち明けたいだろうからな」

 

 気になる。

 打ち明けるって何を?時江って私にも言えないような秘密を隠してたっての?

 

 「満が結婚するまでに法整備が進んでれば良いけどね」

 「大丈夫さ。例え法的に夫婦と認められなくても愛さえあれば」

 「私たちみたいに?」

 「Yes off course!」

 

 結局はそこに行き着くのね。

 自分たちの愛を確かめ合うために私たちを出汁に使うのやめてくれない?って言うかそもそも、私は時江と結婚しないし、私とアイヴィーさんがいるのにブチュブチュとキスすんな!

 

 「はぁ……。平和だなぁ……」

 

 と、誰に言うでもなく、窓の外を眺めながら呟いてしまった。

 戦争が終わって、艦娘を辞めてからずっと妙な気分が続いてる。迷子になった気分とでも言えば良いのか、自分が何処にいるのか、何処に向かっているのかわからない。

 だって私の人生は戦争と共にあったんだもの。

 そんな私が、戦争のない世の中でどう生きていけば良いのかなんてわかるわけがない。

 ある意味生まれたての赤ん坊の気分ね。

 私の人生は艦娘を辞めた日に始まった。

 円満さんのお世話をしながら学校に通い、放課後は元四駆の子たちと遊んだりして、休みの日は時江と会ったりする。

 そんな平和な日常がこれからも続いていくんだと思うと、何故か不安になる。怖くなる。

 いつかまた、何の前触れもなく全部奪われちゃうんじゃないかと頭が勝手に考えてしまう。

 こんなことなら、戦ってればよかった頃の方が気楽……。

 

 「いや、それじゃダメなのよね」

 

 戦争が終わってから、以前香澄さんに言われた言葉の重みを嫌と言うほど思い知った。

 確かに私は異常だ。

 戦ってた方が気楽だなんて普通じゃない。今の世の中じゃ完全に異物だわ。

 私はこの先ずっと、こんな怪物を胸の内に飼ったまま生活していかなきゃならないのか……。

 

 「ある意味、本当の戦いはこれからなのかもね……」

 

 余程の事がなければ、私はこの先5~60年は生きる。もしかしたらもっと、100歳くらいまで生きるかのしれない。

 正直うんざりしてくるわ。

 だって私の人生と言う名の戦争は、まだ始まったばかりなんだから。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 聞かれてばっかで癪だからちょっと聞いてみたいんだけど、青木さんはどうして回想録なんて書こうと思ったの?

 

 元艦娘の所を回るだけでもかなりの労力よね?

 

 あの戦争がどうやって終わったかを教えてあげたい?

 誰に……ってああ、そういうことか。

 

 そうね……。

 志半ばで逝ってしまった人たちは、あの戦争がどうやって終わったのか知らないんだもんね……。

 

 そういう事ならまあ、協力するのもやぶさかじゃあないわ。

 円満さんのアポイントも取り付けてあげるし、時江がタイから帰ってきたらアイツの都合も聞いといてあげる。

 

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

 

 

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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