大和旅館。
嘘か本当か、ここは江戸時代から営んでいる老舗旅館で日本各界のお偉いさんも利用するらしい。
まあ実際、海軍トップの海軍元帥が来るからお偉いさんが利用するって部分は本当か。
そんな大和の実家でもある旅館に、横須賀から3時間ばかし車を飛ばして来た私たち阿矢様一行は……。
「あ~……疲れた……。お湯が染みる~~」
温泉に浸かってます。
いや~、何度入っても良いわこの温泉。
効能は疲労回復に肩凝り腰痛の改善、さらに美白効果とありきたりではあるけど、何て言うの?効果が凄いって言うか、効能をすぐ実感できるくらい強いって言うか……。そう!鎮守府で使ってた、高速修復材を少量混ぜたお風呂と同じ感じ!
これなら何時間でも浸かって……。
「一分たりとも運転してない阿矢さんが何か言ってるぞ霧衞」
「いつものことですよ有磯」
いられる。と思うくらい気分よく温泉を堪能してたのに二人に水を差された。
確かに運転は一秒たりともしてないけど、それはアンタらも同じでしょうが。
「飛車丸さんはケロッとしてましたけどね~。あ、香澄さん、さっき朝歌ちゃんが探してましたよ?」
「朝歌が?何か用事かしら」
そうそう、うちの旦那は何時間運転しても疲れない特異体質だから気にしなくても大丈夫。
と、それは置いといて、雪菜が口にした朝歌ちゃんって、たしかここで中居をしている朝潮だった子よね?
元姉妹艦同士、積もる話でもあるのかしら。
「アレじゃねぇか?ほら、去年来たときに香澄が「アンタより前の世代の朝潮型全員で撮った写真があるから今度見せてあげる」とか言ってただろ?」
と、元霞の
見た目はドレスとか着て社交界で愛想振り撒いてそうな美人なのに、口調が朝霜だった頃のままだから妙な違和感があるわね。
「あ~アレか。でも、それならべつに急がなくても……。ん?待てよ……。ねえ雪菜、朝歌はどんな感じだった?」
「どんなって……。凄く焦ってたと言うか、何かから逃げていたと言うか……」
「あちゃー……」
とか言いながら、香澄は右手で両目を被いながら天を仰いだ。
あちゃーとか言う人を実際にこの目で見るのは初めて……って、それはどうでも良いか。
あの様子だと、朝歌ちゃんが香澄を探していた理由に察しがついたんでしょうね。
私も察しがついちゃったし。
「園長か……。そういやぁそろそろ着く時間だもんなぁ。止めねぇのか?香澄」
「私にあのゴリラが止められるわけないでしょ。そう言う真霜が止めてきてよ」
「いやぁ~止めたいのは山々なんだが……。ほら、あたいってあの海戦で膝に砲弾を受けちゃったからさぁ……」
だから無理。
と続けて、真霜は肩までお湯に浸かってくつろぎ始めた。
確かに真霜は掃討戦の最中に被弾して膝を痛めてたわね。もっとも、高速修復材のおかげで完全に治ってるはずだけど。
「騒がしくなって来たわね。これじゃあ情緒もへったくれもないじゃない」
「阿矢さんは朝歌の悲痛な叫びを聴いても平常運転だな。ちょっと薄情じゃないか?」
「朝歌は阿矢さんからしたら恋敵ですから」
恋敵だったのは過去の話、いや過ちよ。
だって今は旦那LOVEだもの。
これで旦那が大和より下手くそだったなら今も大和を想って独身だったかも知れないけど、そうじゃなかったから今に至るってわけ。
「肉欲の権化……」
「何か言った?雪菜」
「いえ何も。それより、本当にどうにかしてあげませんか?朝歌ちゃんの悲鳴だけじゃなくて気持ち悪い笑い声まで聴こえ始めましたし」
そうね。朝歌ちゃんは横須賀鎮守府で一緒だった仲間だからできれば私も助けてあげたいわ。
門倉さんの「うひょひょひょひょひょ♪」って笑い声も怖気が走るからやめさせたい。
でもね雪菜。それは叶わないの。
何故かと言うと……。
「あの人、桜子さんに「できるなら相手にしたくない」って言わせるほど強いらしいのよ」
「そうなんですか?単なる筋肉馬鹿だって聴いたことがありますけど……」
「うん、艦娘だった頃はそうだったんだけど……。ここからは香澄に話してもらった方がいいかな」
と言って香澄に話を振ると、香澄はため息を盛大に吐いてからポツポツと話し始めた。
「今のえんちょ……門倉さんはただの力自慢じゃないのよ」
「と、言いますと?」
「あの人ってさ、国際艦種別演習大会でネルソンさんとプロレスしたじゃない?」
「ええ、してましたね。ん?まさかとは思いますが……」
「そのまさかよ。あのゴリラ園長、それでプロレスにドハマりしたらしくて、しかもプロレス団体まで作っちゃったの……」
香澄の説明を補足すると、元長門こと門倉さんは艦娘を辞めるなり孤児院を開設。さらに同時期に『BIG7』と言う名の女子プロレス団体を設立し、自身も『ミス・ロングゲート』と言うリングネームで覆面レスラーをやってるの。
ここまでだと金がかかったネタで終わりそうなんだけど、生憎と言うか残念と言うか予想外と言うか、ヒール役に深海棲艦のコスプレをさせ、同じ団体所属の覆面レスラー『ミス・フクジュウジン』とタッグを組んでぶちのめすっていうヒーローショー仕立ての興行スタイルがウケて、今やプロレス業界になくてはならない存在と言っても過言ではなくなってるそうよ。
「要は、あの人って桜子さんですら忌避する筋力と耐久力、さらにプロレス技を身につけてるって訳」
「うわぁ……」
うん、うわぁってなる気持ちはわかる。
有磯と霧衛も私が何かを諦めていた理由を理解してくれたらしく、「いい湯だな」とか「あとで温泉饅頭食べません?」なんて、朝歌ちゃんの鳴き声混じりの悲鳴と門倉さんの恐怖を掻き立てる笑い声を無視して言い始めたわ。
「あ、でも、有磯なら神凪とタッグを組めばワンチャンあったんじゃないですか?」
「いやいや、冗談はやめてくれ霧衛。神凪は得物がないと戦力が半分以下だし、私の蹴り程度で門倉さんをどうこう出来るとは思えない。と言うかそもそも神凪がいない」
いや、霧衛が言う通りワンチャンあるんじゃない?
確かに神凪は素手だと民間人よりマシ程度だけど、逆に言えば得物さえ持ってれば達人級だって話だし、有磯の蹴りだって大の男を一撃でノックアウトできるくらい強力。
ルールの縛りがない私闘なら、門倉さん相手でもどうにかなると思うわ。
そうあの時、掃討戦に移行してから二人で欧州棲姫に放った……。
「クロスカリバー……だったっけ?」
「あ~、何か言ってましたね。神凪まで乗るとは思っていませんでしたが」
「神凪なら乗るでしょ。だってカミレンジャーのリーダーよ?」
「おいおい、どうして阿矢さんと霧衛は呆れてるんだ?あの状況なら技名の一つや二つ叫びたくなるだろう?」
いや、気持ちはわからなくもないんだけどね。
あれは、あとは欧州棲姫にトドメを刺すだけって場面になった時、弾薬が尽きかけてて決定打が与えらず、援軍が来てくれるまで遅滞戦闘に徹しようか悩んでいた時だったっけ。
「朝風、春風、松風、旗風。みんなの命を私に預けて」
「今さら何言ってんのよ神風姉」
「そうですよお姉さま。命ならとうの昔に預けています」
「この状況でアレを使う気かい?神風の姉貴らしいや」
「逆に言えば、今の状況こそアレを使う絶好の機会です。神姉さん。私たちの命、存分にお使いください」
正気とは思えなかった。
神凪たちは戦闘の真っ最中だってのに制止して円陣を組んだの。
そして、他の四人の緊急脱出装置が作動すると同時に現れたのは赤い、いや紅……コレも違うわね。しいて言うなら緋色。そう!緋色!その名称通り、特撮のカミレンジャーの決め技にもなっている、神凪の愛刀の柄から伸びた長さ5mは有ろうかという緋色の刀身だったわ。
その名も……。
「神風型合体戦術。『緋色の神刀』」
そう言って緋色の刀を中段(有磯曰くサ○ライズ立ち)に構えた神凪は、稲妻で二隻の戦艦棲姫の内、私から見て左の個体へと弾幕を掻い潜って接近し、頭の天辺から股下まで一刀の元に斬り伏せた。
ホント、今思い返しても現実味がない光景だったわ。
でも納得はできた。
神凪以外四人の力場全てと神凪自身の力場で形成された刀身は、正に神刀と呼べるほどの強度と切れ味があったし、あると直感で感じられたわ。
でも……。
「クソ!硬い!」
欧州棲姫の装甲を一刀で斬り裂けるほどじゃなかった。
でも全く効いてない訳じゃなかったわ。
本当にあと一押し、もう一本神凪の神刀と同じ物があればと考えた私は……。
「行きなさい磯風!アンタの出番よ!」
と、フォートレスで残ったもう一隻の戦艦棲姫を撃破してから有磯に突撃を命じた。
私と霧衛、そして雪奈の力場を全部預けてね。そんなことをしたもんだから、当然私たちも朝風たち同様に緊急脱出装置に身を預けてプカプカ浮いてるだけの状態になったわ。
「普通に自殺行為よね」
「ホントだぜ。あたいと香澄が合流するのがもう少し遅かったら死んでたかもしれねぇぞ」
確かにね。
でもあの時はああするべきだと思ったし、したい気分だったのよ。今考えると本当に背筋が寒くなる……。
だけど、それだけのリスクを冒した甲斐はあったわ。
「合わせろ神風!」
戦舞台と緋色の神刀で欧州棲姫への攻撃を続けていた神凪に、欧州棲姫の左舷側から回り込んだ有磯がそう声を掛け、間合いに入ると同時に右足を大きく振り上げて通常の聖剣より遥かに強力な聖剣を形成した。
その意図を察した神凪は一旦20mほど距離を空けたわ。
そして……。
「クロス!」
と、言いながら、股を180度以上に開いてるんじゃなかと思えるほど足を上げた有磯が、聖剣を欧州棲姫を左の肩口へと振り下ろした。
でもこれは装甲に阻まれたわ。
そこへすかさず、稲妻で20m分加速をつけながら有磯の逆サイドに回り込んだ神凪が……。
「カリバァァァァ!」
と、叫びながら欧州棲姫の右肩口へ、有磯の聖剣と重ねるように神刀を振り下ろした。
その結果、欧州棲姫はバッテンの軌跡に斬り裂かれて沈んで行ったわ。
「もう一回やりたいなぁ……」
「冗談やめてください。わたしは二度とごめんですよ」
「霧衛に同意~。雪奈もやだ~」
私もやだ~。
って、それはもう良い。
最初に悲鳴が聴こえてからけっこう経つのに、悲鳴と笑い声がまだ聴こえてくるから追いかけっこは続いてるみたいね。
「さすがに可哀想になってきたなぁ……。みんなでかかればどうにか……」
ズッドン!!
なるんじゃない?
と、続けようとした私の言葉を、砲撃音を彷彿とさせる轟音が遮った。
どうしてこんなひなびた旅館で砲撃音が?もしかしてテロリストの襲撃?
いやいや、今はそんな事を考えてる暇はないわ。荒事なら……!
「総員、出撃準備!急ぎなさい!」
「了解だ。行くぞ霧衞」
「まったく、誰だか知りませんが、こんな元軍属が集まっている旅館で荒事を起こすとは……」
「ただの馬鹿かそれとも確信犯か。どちらにしても血が騒ぎますね」
「はぁ……。せっかく平和を手に入れたって言うのに……」
「ぼやいてる割にやる気満々じゃねぇか香澄。やっぱ艦娘辞めてもあたいらは駆逐艦だなぁ」
私が脱衣場に向かい始めるとそれに6人も続いてくれた。
さすがはあの戦争を生き抜いた駆逐艦たちね。
艦娘だった頃の戦闘能力は失くなっているのに、それでも有事には真っ先に立ち上がる。
「まずは状況確認ね。香澄、音がしたのはどっち?」
「おそらく正面玄関の方よ。あれっきり目だった音はしないのが気にはなるわね。それに……」
「異状がそれっきりない……ね?」
「ええ、テロリストの襲撃と仮定すると不自然だわ」
確かに不自然ね。
あんな砲撃音がしたのに振動はなかったし、火事が起きてる気配もない。
故に、テロリストやそれに準ずる者たちの襲撃ではない可能性が高い。
だけど……。
「尋常じゃない殺気が漂ってるな。こんなの、呉で対峙した時の桜子さん以上だ」
え?有磯って桜子さんを殺気立たせるようなことしたことあったの!?それでよく五体満足でいられたわね……って、それは置いとこう。
今はとっとと着替えて正面玄関に向かうことを考えなきゃ。
「どう?霧衞」
「どうもこうも、おかしいですよこれ」
「どうおかしいの?」
「あんな轟音がしたのに玄関が無傷です。それに、外に人だかりが……」
廊下から顔を覗かせて正面玄関の様子を窺っている霧衛の報告で余計状況が掴めなくなったわね。
どうしてあんな轟音がしたのに玄関が無傷?しかも外に人だかり?
「なあ香澄、あたいはなんとなく何が起こってるかわかってきたよ」
「奇遇ね真霜。私もよ」
私とは逆で、香澄と真霜は霧衛の報告で事態を察したみたい。
でも私を含めた四人はわからないまま。
そんな私たちに、香澄はため息をつきながら右手の指を四本立てながらこう言ったわ。
「ヒントは四つ。一つ、最初の轟音。二つ、外の人だかり。そして三つ目、聴こえなくなった悲鳴と笑い声」
「いや、ヒントを出されてもわからな……」
待てよ?
どうして香澄はヒントを出すなんてまどろっこしい真似をした?もしかして、口に出すのも馬鹿らしいことが起きてるんじゃない?
「じゃあ最後にして最大のヒント。って言うかほぼ答えね。そろそろ元帥一家が到着する予定の時間よ」
「あ~……だいたいわかった」
つまり最初の轟音は朝海さんか桜子さんの攻撃によるもの。三つ目のヒントから、その攻撃を食らったのは門倉さんね。で、外に人だかりが出来ているのと殺気が漂っている事を加味すると……。
「まだ外でバトってるのね」
「たぶんね。こんな事ならお風呂から出るんじゃなかった……」
事態が掴めた私たちは「はぁ……」と、盛大にため息をつきながら玄関に向かったわ。
外では予想通り、人間が出しているとは思えない打撃音が鳴り、朝海さんと門倉さんが打撃の応酬……じゃないわね。両手を大きく広げた門倉さんに、朝海さんがひたすら打撃を叩き込んでたわ。
「どうした朝海!貴様の力はその程度か!」
「クッ……!なんという耐久力!このままでは私の拳が……!」
なんて現実味のない光景かしら。
艦娘を辞めてからメガネをかけなくなり、紺色のワンピースに白い長袖の上着を羽織るという、じっとしていれば良家のお嬢様にも見える格好をした朝海さんがプロボクサー顔負けのパンチを何度も何度も繰り出している。
対する赤色のジャージ姿の門倉さんは、余裕の表情でそれを受け続けてるわ。
若干頬が赤いけど、まさか殴られて興奮したりしてないわよね?
「なあ霧衞。もしかしなくても賭けが始まってないか?」
「今気付いたんですか有磯。私と雪菜はとっくに賭けてきましたよ」
「ちなみに、どっちに賭けた?」
「雪菜が朝海さんと言ったから朝海さんに」
まあそうよね。
朝海さんは艦娘を辞めたとは言え艦娘時代に培った戦闘技術は健在。私も賭けが行われていると気付くなり朝海さんに賭けたわ。
「どうして堪えられるのです!?私の攻撃は全て裏当てとの会わせ技なのに!」
「ふん!いくら裏当てが内部に衝撃を伝える技法だとしても問題ない!何故なら、私は内蔵も鍛えているからな!」
んな阿保な。
鍛えることが不可能な内蔵を鍛えるなんて、それはもう人類じゃないです。
「ねえお父さん。あれってインパクトの瞬間に力を入れたり抜いたりして打点をズラしてるだけよね?」
「ああ、間違いない。だが言うだけなら簡単だが、それを実現するのは相当困難だ」
あっさりと元帥さんと桜子さんが門倉さんの秘密をバラした。
それは当事者たちの耳にも届いているらしく、門倉さんは「マズい……」と言わんばかりに冷や汗を流し、朝海さんは「勝った」とか考えてそうな顔してるわ。
「さ、さぁて、良い汗もかいたし、そろそろ風呂にでも入ろうか……なぁ?」
「なぁ?じゃ、ありません。朝歌をあんなに怖がらせたんです。せめて足腰立たなくなるくらいまで叩きのめさないと朝歌が成仏できません」
死んでませんよ?
朝歌ちゃんは女将さんの後ろに隠れて震えてますが死んでません。と、恐らくこの場にいる全ての人が頭の中でツッコミを入れてることなど関係なく、朝海さんは瞬間移動と見紛うほどの速度で門倉さんの懐に飛び込んで腹部に右拳をめり込ませた。
見るからに痛そうだなぁ。
あんなパンチを食らったら胃の中身どころか内蔵が全部口から飛び出しそう。
実際に食らった門倉さんも、目玉が飛び出そうなほど目を見開いて口をパクパクさせてるわ。
「ガゼルパンチ……からの!」
見えない力の流れが見えた気がした。
後ろに伸びた朝海さんの右足から始まって腰、そして胸を通って肩、肘と、流れた力の奔流が全て、門倉さんの腹部に突き刺さったままの右拳に流れ込んでいったように見えた気がしたわ。
「
朝海さんの掛け声とともに、再び砲撃のような轟音が辺りに響き渡った。
でも門倉さんは微動だにしていない。
もしかして不発?
音は最初に聴いたのと同じでズッドン!!と盛大だったけど、門倉さんの肉の鎧には通じなかったのかしら。
「ねえお父さん。あれ、死んだんじゃない?」
「門倉が一ミリも動いてないということは余すことなく力が内部に浸透したということ。死んだかもな」
なるほど。
力の浸透が不十分だったら逆に吹っ飛んでたかもしれないのね……ってぇ!それヤバイじゃん!下手したら大和の三回忌と門倉さんの通夜が同時になっちゃう!
「あ、あれ?手が抜けない!」
「フフフ……。効いたよ朝海。私じゃなければ今ので終わっていただろう」
良かった。とりあえず生きてた。
門倉さんはまだ余裕があるのか、右手を抜こうと必死になっている朝海さんを嘲笑うかのように、再びゆっくりと両手を広げ始めたわ。
「な!?まだこんな力が!?」
門倉さんが何をしたかと言うと、見た目は朝海さんの両腕ごと抱えあげてるだけ。所謂鯖折りね。
プロレス技じゃなくて相撲の決まり手だったはずだけど、門倉さんの筋力でアレをやられたらたまったもんじゃなさそう。
実際朝海さんは、苦悶の表情を浮かべて必死にもがいてるわ。
でも妙ね。
門倉さんは朝海さんをホールドしてから、それ以上は力を強めていないように見える。
それどころか、燃え尽きて真っ白な灰になったようにも見えるわ。
「ねぇ辰見、
「本当ね。我が生涯に一片の悔いなしとか言いそうな顔で気絶してるわ」
あ、気絶してたんですね。
だから燃え尽きたように見えたんだわ。
ってことは、これは朝海さんの勝ちで良いの……かな?
「さ、桜子さん……」
「何よ。もしかして抜けれないの?」
「はい……」
「しょうがないわねぇ」
はて?セリフは面倒臭そうなのに、どうして桜子さんは満面の笑み浮かべてるんだろう。
あ、もしかして桜子さんも朝海さんに賭けてて、予想通り朝海さんが勝ったから?
「なあ霧衞。払い戻し金はいくらだ?」
「ここにいる殆どの人が朝海さんに賭けていたようですからほとんど付きません。1000円賭けて100円つけば良い方じゃないですか?」
あ、そんなにオッズが片寄ってたんだ。
だったら1万円賭けとけば良かっ……いや待て。そんなに低い払い戻しで桜子さんがあんなにもウキウキと門倉さんから朝海さんを助けたりする?
だって小さく賭けて大きく儲けるのが桜子さんなのよ?それが高々1.1倍の低オッズに賭けるとは思えないし、当たったからって「儲けた♪儲けた♪」って聞こえてきそうな笑顔を浮かべるとは思えない。
「ねえ朝海、まだ戦える?」
「無理です。もし門倉さんの意識が残っていたら結果は逆に……」
「あ~、戦えないなら良いの。ってことは、ホールドされた時点で朝海は戦闘不能だったってことで良いわね?」
「そう言えなくもないですが……」
あ、わかった。
鎮守府で行われてた賭けもそうだったんだけど、賭けの胴元は基本的に奇兵隊。ひいては桜子さんが務めるという暗黙の了解があった。
しかも、引き分けに相当する結果になった場合は胴元の総取りってルールもあったわ。
そのルールが今回の賭けにも適用されていたらどうなる?
さっきの朝海さんと桜子さんの会話を鑑みると、朝海さんはホールドされた時点で戦闘不能だった。
門倉さんも、ホールドしてすぐに気絶したようだからその時点で戦闘不能だったと言えなくもない。
つまり……。
「じゃあ今回の勝負は引き分け~♪掛け金は親の総取りで~す♪」
こうなる。
周りからはブーイングが巻き起こってるけど、桜子さんはどこ吹く風といった感じで気にも止めてないわ。
ああいう図太さがたまに羨ましくなるわね。
それに、不満はあっても楽しいし。
「大和と、この光景を見たかったな……」
ふんぞり返っている桜子さんの周りに出来た人だかりを見てたら、自然とそんなセリフが口をついて出た。
いってきますと言ったきり帰ってこなかった私の一番の心友。もしかしたらあの輪の中心にいたかもしれない大和を偲んで、私は楽しそうに笑い合う人たちを眺め続けた。
主要キャラ人気投票
-
朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)