艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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 最終回!
 あとはオマケが一話あるだけです!


第百八十八話 エピローグ 提督ガ鎮守府ニ着任シマシタ

 

 

 

 僕が生まれたばかりの頃、この国は戦争をしていたらしい。

 人と人による戦争ではなく人と人ならざる者、深海棲艦と呼ばれた者たちとの間で起きた戦争だって、学校の授業で習いました。

 今は戦争前の豊かな暮らしに戻ってきているとも教えられましたね。

 でも、僕の姉の一人はおかしなことを言います。

 その姉は、暮らしは確かに豊かになったけど、あの頃の方が充実してたって言うんです。

 だけどこうも言います。

 二度と戦争はごめんだけどね、って。

 高々7年程度しか生きていない僕には、姉の言うことがよくわかりません。

 

 「あ、やっぱりここに居た!ばぁばが探してたよ?」

 「桜お姉ちゃん……。探しに来てくれたの?」

 「あったり前でしょ?私は君のお姉ちゃんなんだから」

 

 と、横須賀鎮守府の西門近く、一般開放地区に建てられた戦史博物館。通称『艦娘博物館』の一コーナーで展示物を飽きもせず眺めていた僕に、額を若干汗で湿らせた桜お姉ちゃんが胸を張って言いました。

 ただ、桜お姉ちゃんは僕の姉として振る舞うのに妙な使命感を感じているようですが、僕と桜お姉ちゃんは姉弟ではありません。

 戸籍上は僕が叔父で、桜お姉ちゃんが姪になります。

 年も四つ離れているのに、なんだか変な関係ですね。

 

 「お母さん、怒ってた?」

 「ううん、怒ってはなかったけど心配はしてかな。ほら、君ってすぐ一人でどっか行っちゃうから」

 「ごめんなさい。鎮守府に来ると、どうしてもここに来たくなっちゃうんだ」

 

 僕がそう言うと、桜お姉ちゃんは「ふぅ~ん」と唇を少し尖らせて僕が見ていた展示物に視線を移しました。

 ここに来たら必ず立ち寄る、戦時中に活躍したとある艦娘を写した三枚の写真と艤装に。

 

 「朝潮型駆逐艦 一番艦 朝潮……か。君って相変わらず好きよね。もしかして黒髪フェチ?」

 

 別に黒髪フェチって訳じゃないです。

 だけど、好きかと問われれば好きと言わざるを得ません。あ、当然ながら黒髪ではなく、写真に写っている彼女がです。

 でもまあ、好きと答えると桜お姉ちゃんは何故か不機嫌になるので、ここはいつもの手で煙に巻くとしましょう。

 

 「フェチって何?」

 「何って、その……君にはまだ早いの!18禁!」

 

 じゃあ桜お姉ちゃんも18禁に抵触してるね。とまではツッコミません。

 フェチの意味を理解してないのか、もしくは逆で理解しているからなのか、そう言えば桜お姉ちゃんは顔を真っ赤にして話を切り上げてしまいます。

 でも桜お姉ちゃんは理不尽です。

 僕が朝潮を見ていると先ほどのような反応をするくせに、自分もとある駆逐艦にご執心なんですから。

 

 「桜お姉ちゃんだって、あっちの駆逐艦が好きでしょ?」

 「そりゃそうよ。だって朝潮よりカッコいいじゃない」

 

 そう言うなり、僕の手を引っ張って桜お姉ちゃんが向かったのは駆逐艦コーナーの一番最初、神風型駆逐艦のコーナーです。

 その一番艦が桜お姉ちゃんのお気に入り。

 錆びだらけでボロボロの艤装と、二枚の写真が大のお気に入りなんです。

 

 「やっぱ駆逐艦と言えば神風でしょ!ほら、如何にも歴戦の駆逐艦って感じの艤装じゃない?この初代神風なんてどことなく私に似てるし!」

 

 似てるのは当たり前です。

 だって初代神風は桜お姉ちゃんのママ。僕が桜子お姉ちゃんと呼んでいる人なんですから。

 しかも二代目は、桜お姉ちゃんがかみっか姉さんと呼んでいる人。

 初代も二代目も桜お姉ちゃんの身内なんです。

 ですが、桜お姉ちゃんはその事実を知りません。

 何故なら、桜子お姉ちゃんとかみっかお姉ちゃんが二人して「何も知らない桜ちゃんに誉められるのって気分良い♪」とか言って秘密にしてるからです。

 つまり桜お姉ちゃんは、ここに来る度に無自覚に二人を誉めてるって訳です。

 

 「私も神風になりたかったなぁ……」

 「また言ってる。前に桜子お姉ちゃんにソレ言って泣かれたでしょ?」

 「そうだけど……」

 

 それでもやっぱり、桜お姉ちゃんは神風になりたいのかな。

 あの桜子お姉ちゃんに「もう二度とそんなこと言わないで!神風になりたいだなんて絶対に言わないで!」って言わせて泣かせたくらいなのに、桜お姉ちゃんがそれでも神風になりたいのはどうして?

 

 「私の髪ってさ……ほら、中途半端じゃない?だから私も、神風になればあんな風に真っ赤で綺麗な髪の毛になるのかなって……」

 

 なるほど、桜お姉ちゃんは神風の真っ赤な髪に憧れてるわけですね。

 確かに桜お姉ちゃんの背中にかかるくらいの長さの髪の毛は、毛先から中程にかけて赤くグラデーションになっていて中途半端と言えなくもないです。でも……。

 

 「僕は桜お姉ちゃんの髪、好きだよ?」

 

 僕がそう言うと、桜お姉ちゃんはカァ!って擬音が聴こえそうな勢いで真っ赤になりました。

 今なら神風の髪と同じくらい真っ赤です。

 

 「君は、もう!そんな……す、好きとか軽々しく言っちゃダメ!」

 「どうして?」

 「どうしても!」

 「でも、僕は桜お姉ちゃんが大好きなんだよ?」

 

 お母さんの次に。

 と、続ける前に、桜お姉ちゃんは頭を抱えてうずくまってしまいました。

 顔どころか耳まで真っ赤にして、頭の天辺から湯気が出ているようにさえ見えます。

 そして一頻り「う~……」って言ったあと、スックと立ち上がって何もなかった風を装おって……。

 

 「その……私にはたまに言っても良いけど、他の女の子には絶対に言っちゃダメだからね?」

 

 と、言いました。

 何もなかった風を装おっていますが顔は赤いままですね。それに、僕の方をチラチラと見ては目そらしを繰り返しています。

 でも、どうして他の女の子に好きと言っちゃダメなんでしょう。

 

 「あ、その顔、絶対私が言ったこと理解してないでしょ!」

 「うん。だってわからないもん。どうして桜お姉ちゃん以外の子に好きって言っちゃダメなの?」

 「それは……その……。そう!たまにしか使っちゃダメだからよ!」

 「でも、お母さんは毎日お父さんと僕に好きって言ってるよ?」

 「ばぁばは君とじぃじにしか言わないから良いの!」

 

 なるほど。

 お母さんはお父さんと僕にしか言わないから良いのか。勉強になりました。

 

 「だから君も……。私以外に好きって言っちゃダメ。言わないで」

 「うん、わかった。桜お姉ちゃん以外の人には好きって言わない」

 「ほ、本当に?」

 「本当だよ。だって僕、桜お姉ちゃんが大好きだから」

 

 お?桜お姉ちゃんがまたうずくまって「う~う~」言い始めた。もしかして弱点ゲットかな?

 

 (…………………タ)

 「え?桜お姉ちゃん、今何か言った?」

 「何も言ってないわよ。それより、今日はもう満足した?」

 「うん……」

 

 本当は満足してないけど、今はそれよりもさっきの声の方が気になる。

 いったい誰が、あんな鼓膜を震わすんじゃなくて頭の中に響かせるような声を……。

 

 (………………シマシタ)

 「まただ……」

 「ちょ!ちょっとどこ行くの!?」

 

 何処に?僕は何処に向かってるんだろう。

 強いて言うなら声がする方?

 でも、自分の意思で歩いてる気がしない。まるで手を引かれているように、僕は声がする方に向かって歩いています。

 

 「ちょっと待ちなさいったら!そっちに行っても何もないよ!?」

 「でも……」

 

 そんな事はわかってる。

 このまま行っても外に出るだけ。それでも歩いた先にあるのは一般開放区と、桜お姉ちゃんの家がある倉庫街と呼ばれる地区を隔てる壁があるだけ。

 でも呼んでるんだ。

 誰か、僕の知らない誰かが僕を呼んでる。

 その壁のずっと向こうで、誰かが僕のことを呼んでるんだ。見覚えのない、木製の大きな机が置かれた部屋で誰かが僕を待ってる。

 

 「待ってって!止まりなさい!」

 「あ……。僕……」

 

 桜お姉ちゃんに強引に手を引かれて、僕の足はようやく歩みを止めてくれた。

 僕はどこに行こうとしてたんだろう。

 声と一緒に頭に浮かんできた、あの部屋はいったい何処なんだろう。

 

 「大丈夫?顔が真っ青だよ?ばぁば呼ぶ?」

 「大丈夫。べつに気分も悪くないから」

 「そう?ならいいけど……」

 

 ごめん、桜お姉ちゃん。僕は嘘をつきました。

 本当は吐きそうだし頭もガンガンしてる。

 でもそれ以上に、あそこに行かなきゃって気持ちが強い。今すぐ走り出したい。あそこに行かなきゃ。あそこでみんなに命令を出さなきゃ。

 あそこで……執務室で。

 

 「う、うぅぅ……」

 「ちょっ……!痛いの!?頭痛いの!?やだ、どうしよう……そうだばぁばに……!」

 

 急激な頭痛に襲われてうずくまってしまった僕の傍らで、桜お姉ちゃんがスマホでお母さんを呼んでる声が聴こえる。

 でもそれ以上に、頭に響く声が大きくなってる。

 

 「テイ……トク?テイトクって何?僕のこと?」

 

 知らない言葉がどんどん頭に流れ込んでくる。

 また始まる?二期?海域をリセット?仕様変更?意味がわからない。この声は僕に何を伝えようとしているの?

 

 「あ!ばぁば!こっちこっち!」

 「まあ!どうしたの!?何があったの!?」

 

 変わらず頭を抱えてうずくまっていた僕を、いつの間にか来ていたお母さんが抱き上げた。

 お母さんは僕の頭を撫でながら何か言ってるけど、頭に響く声の方が大きくなってるせいで聴こえない。

 

 「だ…れ?君は……誰?」

 

 意識が朦朧とし始めた僕の目に映ったのはお母さんではなく、水色のリボンで纏めたツインテールに頭の天辺からアホ毛を生やし、セーラー服を着たお姉さんだった。

 この人は誰?

 この人が声の主?この人が、僕の頭を痛くしているの?

 

 (………………)

 

 そのお姉さんは、それだけ言うと僕の前から霧のように消えていった。

 それと同時に、僕の頭痛も波が引くようにスーッと治まった。あのお姉さんはいったいどこへ……。

 

 「あ、お母さん」

 「ああ……良かった。呼んでも返事がないから心配したのよ?」

 

 お姉さんを探してキョロキョロしていたらお母さんと目が合った。

 目尻に涙が浮かんでるから、僕の様子は相当おかしかったらしい。桜お姉ちゃんなんか泣き出しちゃってるし。

 

 「一応お医者さんに診てもらいましょう。桜ちゃんも行こ?ね?」

 

 そう言ってお母さんは、相変わらず泣いている桜お姉ちゃんの手を引いて歩き始めた。

 ごねんね桜お姉ちゃん。僕を心配して泣いちゃったんだよね。

 でももう一度ごめん。

 桜お姉ちゃんを泣かしちゃったのに、僕はあのお姉さんが最後に言った言葉が気になって仕方がないんだ。

 

 「提督が……」

 

 あのお姉さんは最後にこう言った。

 まるで水底から響いて来るような、暗く、静かな声で確かに、「提督ガ鎮守府ニ着任シマシタ 」って言ったんだ。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 もしかしたら、アレが始まりだったのかもしれない。

 

 頭の片隅のこびりつくように残っていたあの少女の言葉を覚えていたから、僕は両親の反対を押し切って士官学校に入ったんだと思う。

 

 そうして僕は、彼女達に出会った。

 

 一人は深紅の髪を靡かせて、僕の命を脅かした深海棲艦に「覚悟しなさい深海棲艦。今からこの戦場に、私が神風を吹かせてあげる!」と言いながら立ち塞がってくれた、僕にとって大切な人。

 

 そしてもう一人。

 僕が初めて出会った少女。艶やかな黒髪が似合い、何かある度に「司令官!ご命令を!」と言ってくる、真面目が服を着て歩いてるんじゃないかと思える僕の初恋の人に良く似た少女。

 

 僕と彼女達の物語は、きっとあの日から始まったんだ。

 

 

 

 







 ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!

 なんか続編がありそうなエピローグですが続編はまるっきり考えていません!

 一応は一部から三部までを加筆修正して一纏めにした物をそのうち投稿しようかなと考えていますが、今時点では考えているだけで実際に書くかどうかは未定です。

 たまに思い付いた短編などを投稿することもあると思いますので、見かけたら読んでやってください(。・ω・。)

 

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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