艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第十八話 野風

 

 

 大和さんとお会いした時、私は彼女が生きている事を確信しました。

 話自体は主人経由で円満さんからお聞きしていたのですが、その時まで半信半疑だったんです。だって間違いなく仕留めましたもの。

 あの日、ワダツミに迫った彼女と戦った日に、彼女は私の胸の中で確かに崩れ落ちたんですから。

 それなのに、彼女は艤装の中で生きていた。

 深海棲艦が既存の生物とは全く違う生き物だという事は知ってましたけど、まさか体を失ってまで死なないなんて思ってもみませんでした。

 けど、同時に納得もしてしまいました。

 彼女なら、それくらいの事は平気でやりそうだなって。

 だって、私も似たような事をしたから、愛する主人と添い遂げる事が出来たんですから。

 

~戦後回想録~

元軽巡洋艦 大淀。海軍元帥夫人へのインタビューより抜粋。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 「かったるぅ~い……」

 「桜子。仕事なんだからそんな事言っちゃダメでしょ?」

 「だって、お父さんよ?今さら出迎えなんてしなくて良いでしょうに……。そう言う辰見だって、本当は面倒くさいとか思ってるんじゃないの?」

 「思ってない」

 「本当にぃ?」

 「……」

 「ほら見なさい!やっぱり面倒くさいんじゃない!」

 

 もうちょっと頑張ってよ辰見さん……。

 まあ、それは兎も角。

 私と桜子さんと辰見さんの三人は、海軍元帥である先生を出迎えるために庁舎の正面玄関で到着を待っているんだけど……。

 聞いて分かる通り、桜子さんが待ちくたびれてブー垂れだしたの。まだ五分しか待ってないのに。

 

 「出迎えなんか円満だけで良いじゃない。いや、むしろそっちの方が円満的にも嬉しいんじゃない?」

 「桜子、誰が何処で聴いてるかわかんないんだから迂闊な事言うもんじゃないわよ。青葉にでも聞かれたらどうすんの?」

 「その方が面白いかもよ?」

 「面白いのは貴女だけでしょうが。円満の気持ちも少しは考えてあげなさいよ」

 

 って言うか、本人が居る前でそんな話をするな。

 貴女達がその話をする度に私のメンタルがゴリゴリ削れてるのよ?チャンスは何度もあったのに何もできてない自分が情けなさ過ぎて……。

 

 「考えてるわよ?だからさっさと卒業出来るようにアレコレ手を回してるんじゃない」

 「ちなみに、何を?」

 「そんなの処女に決まってるでしょ?こじらせたって良い事ないんだから」

 「ドストレートに言いやがった……。もうちょっとオブラートに包むとかできないの?」

 「え?ゴムなら毎回持たせてるわよ?ね?」

 

 ね?じゃない。確かに持たされてるけどこんな場所で言わないで。

 そう言えば先生が言ってたなぁ……。女の下ネタはリアル過ぎて笑えないって。私は別の意味で笑えないけど。

 

 「あ、避妊には気を使ってるんだ」

 「そりゃもちろん。避妊薬も用意してるし、デートだって円満の安全日に合わせてセッティングしてるんだから」

 

 へぇ…私って生理周期まで管理されてたんだ~。はははは……。

 ってぇ!笑ってる場合じゃない!どうやって調べたの!?私の生理周期を知ってそうなのって満潮くらいしか居ないはずだけど!?

 

 「あ、そうだ。生理って言えば、艦娘だった頃は生理が来てる子が羨ましかったなぁ」

 「いや、なんでよ。私は来てない子の方が羨ましかったけど?」

 「だって生理中は休めるじゃない。重い軽いに関わらず。そう言う辰見だって、艦娘だった頃は「ふふふ、羨ましいか?」って言ってたじゃない」

 「いや…私は軽い方だから……」

 

 なんて不純な理由だ……。

 生理中に休みを取らせるのは、一瞬の判断ミスが死に直結しかねない戦場に体調が悪い子を出す事ができないからよ。重い子は勿論だけど、軽い子だって貧血を起こす場合があるんだから無理はさせられないわ。

 まあ、桜子さんみたいな不満を抱えてる駆逐艦が居ないでもないけど、そういう子だって改二改装を受けた途端に初潮を迎える場合があるから表だって不満を言う子は居ない。

 艦娘は成長が止まっているけど、改二改装で体が成長しちゃう場合もあるからね。しない場合もあるけど……。(ここには居ない某レディーから心の目を逸らしながら……)

 大和を迎えに行ってる満潮だってそうよ。

 あの子は初潮前に艦娘になったから生理とは無縁だったんだけど、改二改装を受けたら色々成長しちゃって生理が始まったわ。「私…病気なの……?」って言いながら泣きそうになった満潮を慰めたのは良い思い出ね。

 

 「あ、来たみたいね」

 「ホントだ。こんだけ待たせたんだから土産の一つもせしめないとね」

 

 ちなみに10分も待ってない。

 と、ツッコんでる暇はないか。辰見さんが言う通り、正門が開いて先導車が入って来たわ。先導車……で良いのよね?私には戦車にしか見えないんだけど……。

 まあいいか。気にしたら負け。来るのは海軍元帥なんだから戦車一個中隊規模の護衛は普通よ。うん、普通普通。戦車の砲についさっき発砲した形跡があるのも普通。何台かに着弾痕があるもの普通。「負傷者は西門に回せ―!」とか言ってる声が聞こえるのもきっと普通だわ。

 普通ってなんだっけ……。

 

 「総員!(かしら)ー右!」

 

 私の号令で、それまでの緩い雰囲気を払拭した桜子さんと辰見さんはロータリーを回って来る先生が乗った黒塗りのセダンに頭を向けた。

 元帥専用の耐弾耐爆仕様の車らしいんだけど、先生ってこの車嫌いらしいのよねぇ。なんか、高級車特有の匂いで酔っちゃうんだってさ。

 

 「お久しぶりです。皆さん元気そうでなによりです」

 「三人とも出迎えご苦労。久しぶりだな」

 

 私達の前に停まった車の助手席から護衛の奇兵隊員が降りて後部座席のドアを開けると、胸にタブレットを抱えた大淀が先に降り、続いて先生が降りて来た。

 昼間に会うのは久しぶりだけど、やっぱりカッコいいなぁ……。理解してくれる人は少ないけど。

 

 「ねえお父さん。襲撃されたみたいだけど大丈夫だったの?」

 「ああ、問題ない。戦闘に加わりたいのを堪えるのに苦労したよ。負傷した者は後で労ってやるとしよう」

 「別に良いわよ。それはこっちでやっとくから」

 

 職務中なんだからお父さんはやめろ。

 と言いたいところだけど、鎮守府の外ならともかく中では皆このノリだ。私も最初の内は形式通りの対応をしてたんだけど、「肩が凝るからやめてくれ」と言われてからは普通に相手してるわ。さすがに先生とは呼ばないけど。

 

 「どうした円満?今日はやけに大人しいな」

 「私はいつも大人しいわよ。桜子さんほど血の気も多くないし」

 「ハハハハ。それもそうだな」

 

 桜子さんの「誰の血の気が多いって?」という抗議は無視するとして、本当は照れちゃって何を言って良いかわかんないだけ。いきなり声をかけられたから心臓が口から飛び出すかと思ったわ。正直、顔もまともに見れないし。

 

 「ここで立ち話もなんだし移動しません?ねえ円満、応接室…で良かったのよね?」

 「え?ああ…うん。そっちで良い。ありがとう、辰見さん」

 

 私に気を使ってくれたのか、辰見さんは先生を先導して庁舎の二階、執務室の反対側にある応接室に移動し始めた。今は辰見さんの気遣いがありがたいわね……。

 三人の後ろを、大淀と二人で並んで歩く事になっちゃったのが誤算だったけど……。何か話さないとダメかなぁ……。

 

 「えっと…三日くらい…こっちに居るんだっけ?」

 「はい。一応、視察と言う名目は付けましたが実質休暇ですね」

 「へぇ…そうなんだ……」

 

 私は横目で大淀を覗いてみた。

 平成二年に行われた『艦種変更実験』の末に大淀となった元朝潮。私の元姉妹艦であり友人。そして…恋敵。と言っても、私が横恋慕しちゃったんだけどね。

 朝潮だった頃と同じ黒のロングヘアに蒼い瞳、それにアンダーリムの伊達メガネ。身長は160cmに届いてないと思うけど、私より少し高いかな。胸も…大きいとは言い難いけど、存在を確認できるほどには大きくなった。

 ええそうよ?私より大きいわよ。どうせ私は無いわよ!

 

 「え、円満さん?」

 「ごめん。なんでもない……」

 

 危ない危ない。危うく発狂するところだった。

 やっぱり先生に揉まれてるから大きくなったかのかな……ってそれはもういい!胸から離れるのよ私!

 

 「お、お疲れなのでは?ちゃんと休み取ってます?」

 「ちゃんと休んでるから心配しないで。直近なら明後日休む予定にしてるから」

 「そうなのですか?あ、だったらお休みも重なりますし、一緒にどこか行きませんか?」

 「どこかってどこよ。行きたい場所でもあるの?」

 「いえ、私とではなくて…そのぉ……。色々話したい事もあると思いまして」

 

 ああ、そういう事か。要は先生とデートして来いって言いたいんでしょ?

 ムカつく……。

 アンタは私の事を気遣ってそんな事を言ってるんだろうけど、私からした「私のおこぼれでいいなら差し上げます」って言われてるのと同じよ。バカにしやがって……。

 

 「せっかくこっちに居られるんだから孫と一緒に居させてあげなさいよ。私の事なんて気にしなくていいから」

 「それはそうなんですが……。ほら!私も桜ちゃんも21時には寝ちゃいますし!」

 

 ああ、つまり自分の代わりに夜の相手をしてやれって事?そうよね。アンタって21時には何があっても寝ちゃうもんね。

 なぜかって?

 それはこの子の才能に原因があるの。

 例えば『脚技』や、一般的な物になると料理の仕方まで、自前の身体能力内で再現可能な事なら一度見ただけで完璧に再現する事ができる特殊な才能を持ってるの。この子は『猿真似』って呼んでたかな?

 で、朝潮だった頃は単に夜が弱いだけだと思われてたんだけど、21時になると電源が落ちるみたいに急に寝る事を不思議に思った先生が医学的に調べて、起きてる間の脳の活動が常人の数倍以上だと言う事がわかったわ。

 簡単に言うと、起きてる間常時発動してる『猿真似』で働き過ぎた脳が、21時になると休息を求めて強制的にシャットダウンしちゃうのよ。

 そのせいで、大淀は『一人艦隊』と呼ばれる程の戦闘力を有していながら夜戦で使いにくいし、日を跨いだ作戦にも使えない。それなら艦隊を組ませればいいってなるけど、強すぎて一緒に行動できる艦娘が居ないの。満潮と叢雲でギリギリかな。先生との夜戦(意味深)とかどうしてるんだろ?

 

 「アンタ、私が未成年だって事忘れてない?呑むことは呑むけど、あんまり大っぴらには出来ないのよ?」

 「それはわかってます。けど…主人が望んでますし、私も相手が円満さんなら安心だから……」

 

 主人…ねぇ……。すっかり人妻になっちゃったわね。

 主人の不倫を認めるのみならず応援するのは異常だと思うけど、この子は先生が望むことは何でも受け容れるつもりなんでしょう。

 その結果。私がどれだけ傷つくかなんて考えもせずに。

 

 「何が安心なのかはわかんないけどわかったわ。元帥にもそう言っといてちょうだい」

 「はい。伝えておきます。断られたらどうしようかと思ってました。円満さんと呑むんだ~って楽しみにしてるお酒があるらしいんですよ」

 「ふぅ~ん。そ、そう……」

 

 ヤバい。

 先生が私と呑むのを楽しみにしてるって聞いて顔がニヤけちゃった。咄嗟に顔を逸らしたから大淀には見られてないと思うけど……。

 単純だなぁ…私って……。

 

 「お父さん。下座じゃなくて上座に座りなさいよ。一番偉いんだから」

 「ダメか?下座の方が落ち着くんだが……」

 「出口が近いからでしょ?心配しなくても、武装した私と辰見が居るんだから大丈夫よ。大淀だって居るんだし」

 

 応接室に入ると、桜子さんと先生がそんな問答をやっていた。

 出口付近に陣取りたいと思う先生を臆病だと言うつもりはないわ。退路を確保するのは常識だからね。とは言え、やっぱり上座に座って貰わないと締まらないか。

 

 「椅子が高級過ぎて落ち着かん……。円満、パイプ椅子はないのか?」

 「あるけど出しません。だいたい、大本営に居る時はそれより高級なの使ってるじゃない」

 「それは来客がある時だけだ。普段は座布団だな」

 

 なぜ座布団なのか…と思って先生の左横に移動した大淀をチラリと見ると、「普段は畳敷きの六畳一間でお仕事してます」と教えてくれた。

 この人…元帥用の部屋が性に合わないからって部屋を改造したのね。

 以前、先生と前海軍元帥に会いに行った時に通された部屋は、家具こそ質素だったけど二十畳くらいあったもの。

 きっと、二十畳近い部屋の一角に畳を敷いて仕事してるんだわ。ちゃぶ台に書類を積んで、座布団の上に胡座をかいて判子を押してる姿が目に浮かぶわね。

 

 「さて、大和が来る前に少し話をしておきたい事があるんだが……。桜子、例の話を皆に」

 「りょーかい。あ、そうだ。ねえ大淀、お茶淹れてきてくれない?ついでに茶菓子も」

 

 いくら身内とは言っても、大本営付きの艦娘を顎で使うな。と言いたいところだけど、桜子さんは暗に「出てけ」と言ったのね。

 大淀に聞かれたらマズい話なのかしら。

 

 「……わかりました。円満さん。お茶菓子の場所は変わってませんよね?」

 「ええ、変わってないわ」

 

 チラリと先生を見て何かを納得した大淀は、お茶菓子の場所だけ確認して退室した。

 はてさて、この面子にしか話せない事って何なのかしら。

 

 「それじゃあ始めるけど。大和、矢矧の護送中にテロリストの襲撃を受けたのは皆知ってるわよね?拷…じゃなかった。尋問の結果、その襲撃を指揮した者から、反政府組織『アクアリウム』の指導者の情報が手に入ったわ」

 

 拷問って言いかけなかった?

 は置いといて、反政府組織『アクアリウム』とは正化24年頃から活発に活動し始めたテロ組織の一つで、深海棲艦共を神と崇め、信奉する狂信者の集まりでもあるわ。

 アクアリウムの手口は一般市民を先導して武器を与え、遊び半分の馬鹿共に鎮守府などの軍事施設を襲撃させる方法を取ることが多い。

 だから、正式なアクアリウムのメンバーが矢面に立つことはほとんどない。あっても一人か二人、アクアリウム内でも下位の者ね。この辺りまでの情報は、捕らえたメンバーを尋問したりして入手出来てたわ。

 けど、問題は上位のメンバー。

 もっと言うとアクアリウムのトップの情報に関してはほとんど掴めていなかった。捕らえたメンバーに『マザー』と呼ばれてたから女性である可能性が高いって事はわかってたけど、それ以上は不明だったの。今までは。

 

 「襲撃を指揮した奴は上位のメンバーだったの?」

 「そうだったみたいね。マザーと直接会った事もあるそうよ」

 「マザー…ねぇ。アクアリウムってマザコンの集まりだったりしない?」

 

 そんな訳ないでしょ辰見さん。

 マザコンの集団が重火器持って武装してるなんて世も末よ……。けど、これで大淀に席を外させた理由が何となくわかったわ。

 いくら大淀が先生の秘書艦だと言っても、これは艦娘が関わるべき事柄じゃない。こんな人間同士の争いは、艦娘達に知られる前に私達が片付けるべき問題だもの。

 

 「円満。一つ確認するんだけど、艤装の無断使用は出来る?」

 「そんなの、艦娘だった桜子さんなら聞かなくても知ってるでしょ?」

 「良いから答えて。出来るの?出来ないの?」

 

 出来るか出来ないかで言えば出来ない。

 艤装は、提督か提督補佐が許可しないと工廠から持ち出すことすら基本的に出来ない。整備員さんに止められるからね。 

 もちろん、使用を制限するのには理由があるわ。

 一つは資源の管理に影響が出るため。

 好き勝手に燃料弾薬を使われたんじゃいざという時に困るもの。

 二つ目は、艦娘が軍部、もっと言うと政府の管理下にあると民間人に印象付けるため。

 海上は言うに及ばず、陸上ですら下手な兵器より強力、かつ自己判断で行動できる艦娘は戦う術のない一般人からしたら深海棲艦と大差ない。

 実際、艦娘の危険性を訴えるデモなども過去に起こったわ。まあ、4年前の大規模作戦の成功で今は納まってるけど、ふとした切っ掛けで再燃する恐れもある。

 それを防ぐ意味合いもあって、艤装が保管してある工廠は鎮守府で一番警備が厳しい。

 24時間365日、海兵がフル装備で警備してるわ。

 だから無許可で持ち出すなんてほぼ不可能だし、仮に持ち出せたとしても、燃料や弾薬の消費ですぐに足がつく。そんな事、桜子さんでも知ってるはずなのにどうして今更……。

 いや…まさか……。

 

 「マザーは…艦娘?」

 「ご明察。私もそう思ってるわ。尋問した奴は「マザーはこの十数年歳を取っておらず、神と同じように海を駆ける」と言ったわ。これ、どう考えても艦娘よね?」

 

 想定はしていた。

 8年前の舞鶴襲撃と7年前の横須賀襲撃。この二つは、まるで鎮守府に艦娘が少ない事を知っていたかのような襲撃だった。

 当然、深海棲艦と通じてる者の存在は疑われたわ。真っ先に疑われたのは当然アクアリウム。

 でも、疑われたけど可能性は低いと思われていた。

 なぜかって?

 それは、深海棲艦が人間を問答無用で殺すから。

 それは艦娘だって例外じゃないわ。過去に深海棲艦と理解しあった艦娘は居たけど、その結末は殺し合いだもの。まあ、私と桜子さんの事なんだけど……。

 そんな例があったから、内通者が鎮守府の管理外にある艦娘という可能性は考えていたわ。

 けど、それなら何故、桜子さんはマザーが深海棲艦と通じてる可能性が有る事を言わないんだろう。そこまでは聞き出せなかったのかしら。

 初めて知った風を装って少し様子を見るか……。

 

 「そう取れなくもないけど…でも……!」

 「艤装は全て管理されてるから有り得ない?」

 「そうよ。今は使用されてない野風型の艤装ですら、ちゃんと管理されてるわ」

 

 野風型駆逐艦。

 神風型と同時期に開発、建造された睦月型以前の艦型。改峰風型と呼ばれることもあるわね。

 今は戦況が小康状態なのもあって、プロトタイプと言って良い野風型の艤装は使用されずに保管されている。

 同時期に建造された神風型もそうしようって意見もあったんだけど、桜子さんが神風としてかなりの戦果を上げてたもんだから保留にされたの。

 

 「一つだけ無いんじゃない?野風型の艤装は本来なら(・・・・)三つあるはずよ」

 「確かにそうだけど…それは単に再建造出来てないだけでしょ?」

 

 戦闘中に艦娘だけでなく、艤装まで破壊される事がたまにある。

 そうした艤装が出た場合は、『開発資材』と名称を偽った深海棲艦の核と資源を与える事で妖精さんが再建造してくれることがあるの。

 まあ、狙った艤装を建造してくれるかどうかは妖精さんの気分しだいだから、ちゃんと建造してくれるかどうかは妖精さんに祈るしかないんだけどね。

 で、話を戻すけど、過去に破壊された艤装で再建造されてない艤装が一つだけ有る。それは……。

 

 「その情報を捕虜から聞き出した後、すぐに調べたわ。具体的に言うと、あの子が配属された部隊。その生き残りとコンタクトを取った」

 「生き…残り?」

 「そう、あの子の部隊は一人を残して全滅していた。あの子の艤装が破壊されたと報告したのもその生き残り。けど嘘だった。深海棲艦の攻撃でその子諸共全滅したという報告は嘘だったの」

 「つまり…どういう事……?」

 「あの子は自分が配属された部隊を全滅させたのよ。わざと殺さなかった生き残りに、自分も死んだと報告させてね」

 

 やっぱり、野風型の一つが唯一再建造出来なかったのはそれが理由か。妖精さんのきまぐれじゃなく、今だ存在しているから再建造されないんだわ。

 だとしたら、アクアリウムの指導者、マザーの正体は野風型駆逐艦。その一番艦の……。

 

 「野風。それが、アクアリウムの最高指導者の名よ」

 

 桜子さんは、感情を無理矢理押し殺したような無表情でその名を口にした。

 きっと、桜子さんに野風が深海棲艦と通じてる事を隠すよう指示したのは先生ね。

 大方、大きな作戦前に不確実な情報を与えたくない。もしくは、不確実な情報を当てにして失敗させたくないとでも言ったんでしょう。

 でも先生、桜子さんの日本刀を握りしめる左手までは平静を装えなかったみたいよ。おかげで、深海棲艦への情報提供者の存在を確信できたわ。

 

 「じゃあ、奇兵隊はアクアリウム殲滅に向けて動くのね?」

 「ええ、既に調査は開始してる。今までのような対処療法じゃなく、拠点と思われる場所全てを破壊するわ」

 

 そこが拠点だと確定しようがしまいが関係なく…って感じね。

 私に桜子さんと野風の関係を知る術はないけど、桜子さんはこの時、もしかしたらマザーの正体に気づいた時点で決めてたんだと思うわ。

 野風を討つのは、自分だと。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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