艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第二話 どうして…お前が生きている。

 

 

 初実戦の感想?

 私の初実戦は他の子達とは少し毛色が違うのだけど……。

 いえ、別に変わったことをしたわけではないの。

 大城戸教…じゃない。少佐に連れられて敵艦隊を迎撃しただけよ。

 ただ、私がした事と言えば、大城戸少佐が引き付けた敵を後ろから砲撃しただけ。

 しかも、1隻も沈めることが出来なかったの。笑っちゃうでしょ?

 大城戸少佐は内火艇ユニットと、模擬弾しか撃てない訓練用の単装砲で敵を3隻も沈めたのに、私は精々、敵を中破位にしか出来なかったんだから。

 今思い出しても、あの時の大城戸少佐は本当に凄かったわ。

 10ノット程度しか速度が出ない内火艇ユニットで砲撃や魚雷を避けまくり、模擬弾で敵を沈めて見せたの。ほぼゼロ距離まで接近して。

 どうやって、ですか?

 後に聞いたんだけど、敵が発砲する瞬間に、砲身に模擬弾を撃ち込んで誘爆させたそうよ。信じられないでしょ?

 模擬弾は、候補生を被弾に慣れさせるために爆発するようにはなっているんだけど、内火艇ユニットの装甲で防げる程度の威力しかないのよ?

 いくら理論上は可能だと言っても、実践するなんて正気じゃないわ。

 しかも、しかもね!

 同じ事を竹槍でやった人が過去には居たんだって!もう、半分オカルトの域よ。

 

 けど、そんな大城戸少佐の活躍が霞む位の出来事がその時にあったの。

 彼女はたった一撃。いや、正確には九撃で残りの敵を葬ってしまったの。

 世界を揺らすような轟音と共に放たれた、文字通り必殺の一撃で。

 

 ~鎮守府壁新聞 週刊『青葉見ちゃいました!』~

  軽巡洋艦 矢矧へのインタビューより抜粋。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 月と星の明かりくらいしか無い暗闇の海を、迫っているはずの敵艦隊目指して私と大城戸少佐は進んでいる。

 正直、気が気じゃないわ。

 だって初の実践が夜戦。しかも相手の数は六倍よ?艤装と適合したばかりで、練度も1である私には荷が重すぎるわ。

 もし私が相応に経験を積み、駆逐艦を率いていたら「夜戦なの?悪くないわね!」とか言いながら突撃したんだろうけど、今の私の頭の中は「死にたくない」ただこれだけに支配されている。

 きっと体もガチガチに緊張し、歯の根も合ってないんじゃないかしら。

 

 「見つけた」

 

 私が暗い海ばかり見つめていると、大城戸少佐が敵を発見した。

 どこ?目が慣れて来たとは言え、私には真っ暗で何も見えない。

 

 「矢矧。貴女は距離を取って、敵の背中だけ狙えば良い。私を巻き込むとかは考えなくて良いから、ただ背を向けた敵だけを撃ちなさい。良いですね?」

 「は…はい……」

 

 返事はしたものの、私には大城戸少佐が何を言っているのかわからなかった。

 どうして敵が私に背を向けるの?どうして私が撃たなきゃいけないの?

 

 「行きますよ!これより我ら!夜戦突入す!」

 

 そう言うやいなや、大城戸少佐は私から500メートル程先行し、敵艦隊へ向けて探照灯を照射しました。何の迷いも無く。躊躇も無く。それをするのが当たり前のように、大城戸少佐は自らを囮にした。

 

 「あれが艦娘……。あれが激戦を生き抜いた元駆逐艦……」

 

 真っ当な艤装を装備している私と違い、大城戸少佐が装備しているのは至近弾でも即死しかねないほど脆弱な『装甲』しか張れない内火艇ユニット。

 それなのに、あの人は全く恐れていない。

 本当のところはどうなのかわからないけど、少なくとも私にはそう思えた。

 

 『矢矧!十時の方向!』

 

 艤装の通信装置を通して大城戸少佐が指示した方向を見ると、駆逐艦が私に背を向けていた。

 あれをどうしろと?撃てば良いの?でも、撃ったら私の位置が敵にバレるんじゃ……。

 

 『次!二時と三時!好きな方を撃ちなさい!』

 

 再び攻撃指示。だけど動けない。

 大城戸少佐は、わざわざ私から見て何時の方向か指示してくれているのに、私の指は引き金を引いてくれない。

 

 『矢矧!授業を思い出しなさい!これは実戦ですが、貴女がやる事は授業でやった射撃訓練と同じです!』

 

 わかっています…頭ではわかってるんです……。私が発砲したって敵が私の方に来る事はない。きっと大城戸少佐がそうさせない。

 でも怖いんです。体が言う事を聞いてくれないんです!

 

 『怖いですか?』

 

 そんなの、貴女なら聞かなくてもわかるでしょう?写真か映像でしか見たこと無い化け物を目の前にして怖くない訳がない。

 それだけじゃない。攻撃を受ければ怪我をするし、最悪に場合は死ぬ。そんな状況に放り込まれて怖がらない方が異常よ。狂ってると言っても良いわ。

 

 『それで良いんです。それが普通なんです。けど、貴女は艦娘になる事を選び、艦娘になったんです』

 「だから何だって言うんですか!艦娘になったら怖がっちゃいけないんですか!?」

 『べつに構いませんよ?私だって怖いですもの』

 「え……?今…なんて」

 『怖いって言ったんです。当たり前じゃないですか。当たったら怪我をするし、最悪の場合は死ぬんですよ?これで怖がらない人は、控えめに言って頭おかしいです』

 「じゃあ…なんで少佐は……」

 

 戦うことが出来るんですか?

 今この時も、貴女は至近弾でも即死しかねない装備なのに探照灯を使って12隻もの敵の注意を一手に引き受け、10ノット程度の速度で攻撃を回避し続けている。

 そんな、狂気の沙汰としか言えない行為を繰り返している貴女が恐怖している?

 

 『ムカつくからです』

 「え?今…なんて……。ムカつく?」

 『そうです。いいですか?本来なら、この時間はオフなんです。あの不法侵入者のおかげで残業になっちゃいましたがアフターファイブだったんです』

 「いや…あの……」

 『風呂上がりのビールを飲みながら、録り溜めてるドラマを見るのが一日の楽しみなのに、コイツ等のおかげでそれがおじゃんです。ムカつくでしょ!?今日見るはずだった話はそのドラマ一番見せ場なんですよ!今回で主人公と恋人がくっついてハッピーエンドだったんです!それなのに、コイツ等が変な時間に襲撃して来たせいで私のプライベートはバッドエンドです!ああもう!ぎゃあぎゃあ五月蠅いんですよ!この魚モドキ!』

 

 まるで怒りを……。

 いえ、オブラートに包む必要はないわね。八つ当たりだわ…これ……。

 大城戸少佐は、砲を連射しながら迫って来た敵駆逐艦に内火艇ユニットで出せる速度を遥かに超える速度で急接近し、ほぼゼロ距離で12cm単装砲(仮)を発砲。敵駆逐艦を撃破した。

 有り得ない……。

 訓練用の模擬弾しか撃てない兵装で深海棲艦を撃破?有り得なさ過ぎて現実味が皆無だわ。

 

 「あ、あのぉ……。少佐……?」

 『なんですか!私はとっとと終わらせてドラマの続きを見に帰るんです!無駄口叩いてる暇があったら貴女も撃ってください!ほら12時!バカな駆逐艦が尻尾振ってますよ!』

 「はっ!はいぃ!」

 

 私は大城戸少佐の怒声で反射的に発砲した。照準から発砲まで、自分でもビックリするくらいスムーズに。

 だけど倒すことは出来なかった。直撃はしたけど、贔屓目に見ても中破くらいかしら。

 

 『撃ったらすぐ移動しなさい!何度も教えたでしょう!』

 「あっ!はい!」

 

 少佐がさっきと同じ方法で、私が仕留めそこなった駆逐艦にトドメを刺した後、間髪入れずに注意を促して来た。

 良く見てるなぁ……。こんなに真っ暗なのに何で見えるんだろ。

 

 『矢矧!雷撃戦用意!敵艦隊が貴女に横っ腹を晒すと同時に魚雷を放射状に発射しなさい!当てようだなんて考えなくて良い!』

 「りょ、了解しました!」

 

 あれ?まだ体はガチガチに緊張してるのに動けてる。

 魚雷発射管を操作して、少佐が敵艦隊を誘導して来るのを待っている。早く来いとさえ思ってる。きっと、敵艦隊が私の視界に入った瞬間に、私は躊躇わずに魚雷を発射するわ。

 さっきまで、恐怖に震えて何も出来なかったのが嘘みたい。もしかして、少佐は私の緊張を和らげようとしてあんな事を……。

 

 『とっとと着いて来なさいよ鈍足!ああっ!もう22時過ぎてるじゃない!私、明日も仕事なんですよ!?』

 

 いや、たぶんだけど、あれって本心だわ。とても演技とは思えないもの……。私もモタモタしてると、大城戸少佐の八つ当たり対象になりかねないわね。

 そう思ったら、深海棲艦と戦う方が楽な気がして来た。

 

 「軽巡 矢矧。砲雷撃戦、始めます!」

 

 少佐を追いかけている敵艦隊が視界に入った。それと同時に、少佐がどうやって追いつかれずに誘導してるんだろうって疑問も解消したわ。

 少佐は探照灯を敵艦隊に照射しつつ、まるで海面を滑空するように移動していたの。

 一度の滑空は10メートル有るか無いかの距離だけど、滑空中の速度は30ノットを超えているように見える。下手したら40ノット近く出てるんじゃないかしら。それを連続で使用して距離を保ってるわ。

 どうやったらそんな事出来んだろうって疑問が新たに出て来ちゃったけど……。

 

 『良い調子です!貴女はその調子で敵を削ってください!トドメは…私が!』

 

 私が撃った8発の魚雷の内1発に被雷した先頭の駆逐艦を少佐が撃破。これで3隻目。

 敵わないな……。これが経験の差と言う奴なのかしら。今の私では、どんなに性能の良い兵装を装備していても、少佐のように敵を倒せる自信がない。

 って言うか、8発も魚雷を撃って当たったのが一発だけって……。

 

 「ん?何?この反応……。友軍艦隊?いや、反応は一つ……しかも、養成所の方?」

 

 私が気を取り直して砲撃戦に備えようとした時、電探が友軍識別信号をキャッチした。

 だけど数と方角がおかしい。

 反応は明らかに養成所の方、しかも動いていないし反応も大きい。このサイズは正規空母?それとも戦艦?どちらにしても、養成所に空母や戦艦の艦娘は居なかったはずよ。

 だったらこれは何?私たちの背後に何が居るの!?

 

 「少佐!養成所の方に妙な反応が!」

 『妙な反応?味方の救援ではないのですか?』

 「救援にしては数が少なすぎます!それに……」

 『それに…何です?』

 

 反応が不自然に大きい。

 そう伝えようと口を開きかけた時、背中に悪寒を感じた。いえ、悪寒なんて可愛いものじゃない。まるで、背中から海面に押し付けられるんじゃないかと錯覚するような圧力。

 巨大な手の平で潰されそうになっているかのように物理的な力すら感じるわ。

 

 『ザザ…ザザザザ……』

 『通信に割り込み!?いや、違う……。これは全周波通信!いったい誰が!?』

 

 ザザザ……。と言う雑音の後、何者かが私と少佐の通信に割り込んできた。

 なんとなくわかる。通信に割り込んで来たのは、背後に突如現れたアンノウンだわ。

 やはり味方なの?けど、アンノウンからの通信はチャンネルを合わせた通信ではなく、全てのチャンネルで受信可能な全周波通信だ。

 アンノウンは何を考えてそんな事を……。 

 

 『さあ奏でましょう……。恐怖と悲哀の幻想曲を。愛でましょう。屍肉と業火の花束を』

 『この声は…けどこの言い回し……。まさか……!』

 

 少佐は心当たりがあるみたいだけど、私には聞き覚えのない女性の声だった。

 いえ、少し違うわね。

 声自体は聞き覚えがあるけど、雰囲気が別人だわ。

 芝居がかった言い回し。暗い水底から響いてくるような口調。こんなに狂気に満ちた声を聴くのは初めてだ。これほど妖艶な声を聴くのも初めてだ。

 こんなに恐怖を掻き立てる声を聴くのは生れて始めてだ!

 

 『嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!だってお前はあの時……!』

 

 さっきまで、深海棲艦に八つ当たりしながらも冷静さは保っていた大城戸少佐が激しく動揺してる。

 敵艦隊も浮足立っているように…いや、恐怖している?戦闘開始直後の私以上に、深海棲艦たちがアンノウンに恐怖しているように見える。

 

 『そして歌いましょう……。彼女に捧げる恋歌(ラブソング)を……』

 

 そのセリフを合図に、十秒程度の間を置いてズドン!と、これまでの人生で聴いた中で一番大きな音が戦場に。いえ、世界に響き渡った。

 今のは砲声?あんな巨大な砲声を響かせる事ができる者が存在がするの?

 反応は養成所からほぼ動いていないのに。養成所からこの戦場まで軽く15海里は離れているのに。そのアンノウンが放ったと思われる砲声を、私は体で感じる事が出来た。

 

 『動きなさい矢矧!巻き込まれる!』

 「え?何に……」

 

 正気を取り戻した少佐の声で俯いていた顔を上げた時、九発の砲弾が深海棲艦に降り注ぐ瞬間がスローモーションで目に映った。

 砲声は一回しか聴こえなかったのに、なぜか九発も飛んで来た砲弾は正確に9隻の深海棲艦を貫き、炎を纏った水柱を同じ数だけ起ち上げた。

 その光景はまるで……。

 

 「地…獄……」

 

 そう。これは地獄だわ。

 夜の海を真っ赤に染め上げ、業火と深海棲艦の断末魔が響き渡るここは正に地獄。アンノウンは、たった一撃で戦場を地獄に変えた。

 

 「矢矧!無事ですか!?」

 「あ…大城戸…教官……」

 「そうです!教官です!貴女の教官です!怪我はありませんか?痛いところはないですか!?」

 

 非常時には少佐と呼ばなければならない事も忘れて、私は教官と呼んでしまった。

 本来なら怒られるような事をしてるのに、教官は『装甲』すら維持できない程放心していた私の肩をユサユサと揺すりました。

 

 「大…丈夫です……。怪我はありません……。でも……」

 

 目の前の光景から目が離せない。

 目の前には大城戸教官が居るのに、私はその向こう側から目を離せないでいる。深海棲艦の燃料に引火して、今も海面を焦がし続けている炎の海から。

 

 「良く聞きなさい矢矧。私はこれから養成所へ向かいます。貴女は『装甲』の維持と、いつでも回避運動が取れるよう心構えをしてここで待っていなさい」

 「それはどう言う……」

 「もう一戦、やる羽目になるかもしれないからです。私が先行して様子を見ます」

 

 もう一戦?冗談でしょう?冗談ですよね!?

 養成所の方に居るのはアンノウンだけですよ?教官は、たった一撃で戦場を破壊するほどの奴を相手に戦うつもりなんですか!?

 

 「安心しなさい。あくまで念のためです。たぶん…戦闘にはなりません。気配を感じませんから」

 「でも……!」

 「私が養成所に到達しても、戦闘が起きないようなら戻って来なさい…って。もう…泣くんじゃありません。私なら大丈夫ですから。ね?」

 「一人で…行くんですか?」

 「はい。もし私の予想通りなら、貴女には酷過ぎる相手ですので」

 

 教官は、いつの間にか流れていた私の涙を指で拭い、私を置いて養成所へ向かい始めました。  

 さっきまでの相手以上の化け物を相手にしなければならないかもしれないのに、教官はそれでも行くんですか?そりゃあ、私なんかじゃ足手纏いにしかならないのはわかっていますけど、いくら何でも無謀すぎます。

 さっき以上の自殺行為です!

 

 「わた…私も行きます!いえ!行かせてください!」

 「ですが……」

 「もう怯えたりしません!邪魔なら見捨ててもらっても結構です!だから!だから……」

 

 一人にしないでください。一人にされるくらいなら、戦った方が遥かにマシです。だから…こんな臆病な私を、貴女と一緒に戦わせてください。一緒に、居させてください……。

 

 「まったく…甘えん坊ですねぇ……。鎮守府に配属されてちゃんとやって行けるか心配ですよ……」

 

 教官の言葉に失望の色は無かった。代わりにあったのは母親のような眼差しと優しい呆れ。

 ダダをこねる子供を、呆れながら抱きかかえる母親のような響きの口調と共に、教官は私に手を差し伸べてくれた。

 

 「では行きましょう。私を見失ってはいけませんよ?」

 「はい!」

 

 私は、この時決心した。

 この人のように成ろう。この人のように勇敢で、この人のように強い艦娘に成ろう。

 この人を失望させないように、この人が胸を張って『矢矧は私が育てた』と言えるような艦娘に成ろうと、差し出された教官の手を握りながら、私はそう決心しました。

 

 「あの…教官。教官はアンノウンの正体に心当たりがあるのですか?」

 

 養成所に向かい始めて十数分。

 私は抱いていた疑問を教官にぶつけてみた。もちろん、周囲の警戒は怠らず。いつアンノウンから攻撃されても良い様に心と体勢を整えたまま。

 

 「有るか無いかと問われれば有ると答えます。ですが、有り得ないんです」

 「有るのに、有り得ない?」

 

 なぞなぞかしら。後ろからは表情が窺えないけど、教官の口調からは緊張が伝わってくる。12隻もの敵艦隊を前にして一歩も怯まなかった教官を動揺させ、緊張させるアンノウンはいったい何者なの?

 

 「あれは……!有り得ない…やっぱり有り得ない!なんで!?どうして……!」

 「教官!?」

 

 養成所の浜が視界に入り、アンノウンの姿が米粒程度の大きさに見える位置まで戻った途端、大城戸教官は通信に割り込みが有った時以上の動揺を見せました。

 あれは…戦艦?間違いなく空母ではない。だって飛行甲板が無いもの。それに、軽巡や重巡を遥かに超える巨大な三連装の砲塔。それが左右に二基、背中に一基の都合三基。

 敵艦隊を葬ったのは間違いなくあの戦艦だ。九門の砲身一つ一つで、9隻の敵艦を火柱に変えたんだわ。

 

 「嘘…でしょ?彼女があれをやったって言うの?」

 

 私と教官はアンノウンのすぐ目の前まで接近しました。

 戦闘になると想定はしてましたけど、彼女の様子を見るに戦闘にはなり得ないと教官が判断したからです。だって彼女は、夜空を見上げたまま恍惚な表情を浮かべて気絶していたんですから。

 

 「逃げたはずじゃ…避難するのは確認したのに……」

 

 彼女を中心にして、浜に半径50メートル程の半円状のクレーターが出来ていた。きっと、砲撃した直後は海にも出来ていたんじゃないかしら。

 そこに居たのは、整備場に向かう前に、私が独居房から連れだして避難させたはずの彼女だった。

 けど、教官はその事に驚いている訳ではないようね。

 教官はきっと、彼女を通して別の誰かを見ていたんだと思う。

 黒いロングドレスを身に纏い、腰まで海に浸かって、巨大な砲身から湯気を上げながらへたり込む彼女を見おろして、大城戸少佐はこう呟いた。

 

 「どうして…お前が生きている」と。

 

 恐怖と驚愕。怒りと憎しみ。そんな負の感情が全て綯い交ぜになった表情で彼女、大和 撫子に。

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