艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第二十話 死んだ女房の口癖だ

 

 

 鎮守府や泊地には慰霊碑が建てられている。

 それは横須賀鎮守府だって例外じゃないわ。寮から出て5分も歩けば、海を背にして建てられている慰霊碑に行く事が出来るの。

 建てられた目的は在り来たりな理由らしいけどね。

 簡単に言うと、霊を慰めるためや、二度とそのような事がないように戒め、警告する意味で建てたらしいわ。

 もっとも、私みたいな孤児は入るお墓があるのかどうかも知らないから、この慰霊碑はそんな子達のお墓でもある。

 

 「ん?満潮じゃないか。何をしてるんだ?こんな所で」

 「こんな所はないんじゃない?お墓も兼ねてるんだから」

 「おっと、これは失言だった。すまんすまん」

 

 一応だけど、この慰霊碑には骨壺を収められるスペースが設けられている。

 万が一(・・・)遺体が残った場合に、火葬して遺骨を納めるためよ。まあ、艦娘が死ぬ場合は海の上がほとんどだから、遺体が残るのは本当に稀なんだけどね……。

 

 「元帥さんこそどうしたのよ。花束なんて持って」

 「墓参りだよ。墓参りに花は付き物だろう?」

 「あ~…なるほど」

 

 元帥さんは10年以上ここで提督をしてたんだもんね。

 と言う事は、ここに刻まれている艦娘のほとんどは元帥の命令で戦死したって事になる。来た時くらい拝礼しようとするのは当然か。

 

 「お姉ちゃんは一緒じゃないの?」

 「ああ、執務室で女子会が始まってしまってな。会話に入れないから逃げて来た」

 「桜子さんあたりに出て行けって言われたんじゃなくて?」

 「……」

 

 元帥さんはあからさまに目を逸らした。どうやら、私の予想は大当たりだったみたいだわ。しかも話題を逸らすように花束を添えてお参りし始めたし。

 

 「なあ、満潮。どうしてあの時、大淀を止めた?」

 「あの時?ああ…あの時か……。別に、なんとなくよ」

 「なんとなく?私にはやめてくれと懇願しているように見えたが?」

 

 お参りを済ませた元帥さんは、顔だけ私の方に振り向いてそう聞いて来た。

 ええそうよ。私はやめてほしかった。

 お姉ちゃんと大和が会った瞬間にアイツが出て来たのがわかったから、お姉ちゃんの旦那さんである元帥と会ったら一悶着あると思っていつでもお姉ちゃんにしがみ付けるように身構えてた。

 実際、身構えといて良かったわ。

 だって、お姉ちゃんたら本気で大和の心臓を貫くつもりだったんだもん。もし私がしがみ付いて止めてなければ、大和はきっとあの場で死んでたわ。 

 って言うか、わかってんなら聞くな。

 

 「円満から聞いてない訳ではないのだろう?」

 「あの艤装に使われてる核が窮奇の物だって事?もちろん聞いてるわ」

 「ならば何故だ?何故お前は大淀を止めた」

 「私が討ちたいのは窮奇であって大和じゃないからよ」

 

 そんな事、貴方なら聞かなくたってわかるでしょう?それなのに、なんでそんなわかりきった事を聞くのよ。

 

 「そうか。お前がまともで安心したよ」

 「私はいつだってまともなつもりだけど?」

 「ハハハハ。そうだな。お前はまともだ。だが稀に居るんだ。復讐心に身も心も焼かれすぎて、誰彼構わず殺して憂さを晴らそうとする奴が」

 「それって……」

 

 自分の事を言ってるの?

 円満さんから聞かされた程度の事しか知らないけど、元帥さんは開戦直後くらいの時期に妻子を深海棲艦に殺されてる。復讐するために陸軍から海軍に鞍替えしたとも聞いた覚えがある。

 普段のこの人からは想像もつかないけど、さっきの話が自分自身の事なら、きっと腹の内にとんでもない化け物を飼ってるんでしょうね。

 

 「満潮、今さらだが暇か?」

 「生憎と忙しい……と言いたいけど暇よ。それが何か?」

 「そうか。ならばデートをしよう。お茶でもどうだ?」

 「はぁ!?なんで私が貴方とデートしなきゃいけないのよ!」

 

 そういうセリフは円満さんに言ってあげなさい!絶対に喜ぶから!

 え?それとも何?元帥さんってやっぱりローティーンじゃないと興奮しない人なの?だから、お姉ちゃんや円満さんが居るのに私をデートに誘ってるの?

 ちょっとちょっと勘弁してよ。

 それって、下手したらお姉ちゃんと円満さんの両方を敵に回しかねないじゃない。そんな事態になったら100回死んでもまだ死に足りないくらい殺されるわ。

 第一、私にはお姉ちゃんや円満さんみたいなオジン趣味はないから。

 そうね…せめて同い歳、年上だとしても精々二つか三つが限界かしら。下は論外ね。ガキはお呼びじゃないから。

 

 「嫌か?円満はこう言うと、忙しくても必ず付き合ってくれるんだが」

 「そりゃあ……」

 

 そうでしょ。

 円満さんは元帥さんLOVEなんだから。

 元帥さんは知らないと思うけど、円満さんのスマホに入ってる画像データって全部貴方の写真だからね?暇さえあれば眺めてニヤニヤしてるんだから。

 

 「ねえ、元帥さんは円満さんの事どう想ってるの?」

 「良く出来た部下だよ。正直、私には勿体ない」

 

 慰霊碑の傍に作られた石造りのベンチに腰掛けて、私は常々思っていた疑問をぶつけてみた。

 予想通り差し障りのない答えではあったけど、元帥さんは私の隣に座りながらそう答えてくれたわ。

 

 「部下としか…見てないの?」 

 「それはどういう……。あ~…お前がそういう言い方をするという事はやはりそうなのか?」

 

 やばっ!もしかして円満さんの気持ちに気づかせちゃった!?

 いや待って。「やはりそうなのか?」って聞き返したくらいだから、元帥さんも薄々円満さんの気持ちに察しがついてたって事よね?

 

 「そんなに迷惑そうな顔しないであげてよ……」

 「迷惑な訳じゃない。困惑しているんだ。私のどこが良いのか全く分からん」

 「それと同じ事、お姉ちゃんにも言える?」

 「言えないが同じ事を思った事はある。私は女性にモテる方ではないしな」

    

 そんな事ないと思うけど?

 元帥さんって強面ではあるけど不細工じゃないし、体もガッチリしてるから筋肉が好き!って人にはたまらないと思う。

 それに、円満さんとお姉ちゃんって言う美人二人に好かれてるし、片方とは結婚までしてるじゃない。

 それなのにモテないなんて言ってたら、本当にモテない人に恨まれるどころか殺されるわよ?

 

 「もしかして、くらいに察しがついてたんなら、なんで手を出さなかったの?機会はいくらでもあったはずよ?」

 「手ぇ出すわけなかろうが。俺にゃあ大淀ゅちゅう嫁が居るんじゃけぇ。(危ない場面は何度かあったが……)

 

 なんで素に戻った?

 まあ、それは良いか。最後の方とか声が小さくて聞き取れなかったけど、この様子だと元帥さも円満さんの事を女として見てるって事よね?

 だったら手を出せばいいのに。そしたら円満さんは大喜びだし、私も「何も出来なかった」って落ち込む円満さんを慰めなくて済んだんだから。

 

 「据え膳喰わぬは何とやら。って諺なかったっけ?」

 「男の恥か?確かにそうじゃが……」

 

 じゃが?じゃが何よ。何か不満でもあるの

 同性の私から見ても円満さんは魅力的な女性よ?

 手足はスラッとしてるし腰の位置も高い。顔面偏差値なんて数字にするのが馬鹿らしいほど高いわ。アレでほぼスッピンなんだからチートって言っても良いわね。

 まあ、同じくらい欠点も多い人だけど……。

 寝坊助だし料理も出来ない。掃除も出来ない。洗濯も出来ない。ないないついでに胸も無い!

 おっと、最後のはただの悪口だった。ごめんね円満さん。反省はしてない。

 でも、やっぱりそれがネックなのかしら?

 う~ん……。聞いてみればハッキリすんだろうけど……。円満さんは居ない…よね?うん、居ない。聞くなら今しかないわね。

 

 「何をキョロキョロしちょんじゃ?」

 「ちょっとした用心よ。それよりも、元帥さんが円満さんに手を出さないのって、やっぱりその…胸が無いから?」

 「は?」

 

 ってなるよね!

 そんな「何言うちょんじゃお前は」みたいな顔しなくたっていいじゃない。私自信、バカな事聞いたな~って思ってるんだから!

 けど、聞いちゃったんだからちゃんと答えは聞かないと!さあ!どうなの!?

 

 「胸など飾りにすぎん。エロい奴にはそれがわからんのじゃ。(無いよりは有る方がええが)

 「最後の方が聞き取れなかったんだけど?」

 「気にすんな。で?俺にそんな事ぉ聞いてどうしょうっちゅうんじゃ?」

 「どうもしないわよ。円満さんに脈がのあるかどうか確かめたかっただけだから」

 

 よかったわね円満さん。胸はなくても良いってさ。

 本当は今すぐにこの事を教えてあげたいけど、下手したら元帥さんに円満さんの気持ちを気づかせちゃったことがバレかねないから教えてあげない。

 

 「円満の気持ちは嬉しく思うが脈はない。俺ぁ女房一筋じゃ」

 「お堅いわねぇ。浮気は男の甲斐性なんじゃないの?」

 「確かにそういう言葉もあるが……。逆に聞くが、お前はそれでええんか?下手すると円満も大淀も傷つくことになるぞ?」

 

 ならないんだなぁこれが。

 だってお姉ちゃん公認だもん。離婚して円満さんに乗り換えるまで許すかどうかはわかんないけど、肉体関係だけなら全く問題ないわ。たぶん。

 まあ、お姉ちゃんより先に円満さんが元帥の子供を身篭もったら問題ありそうだから、桜子さんに円満さんの生理の状況を教えて調整してもらってるけどね。

 

 「セフレでいいじゃない。それなら後腐れないでしょ?」

 「女の子がセフレとか言うんじゃありません!何処で覚えたんやそんな言葉!」

 「いやいや、艦娘だって陸に居る時は一般人と大差ないからね?そういう知識くらい普通に持ってるわよ」

 

 今の世の中、そういう情報を隠そうって方が逆に無理でしょ。

 だって艦娘は、海軍からの支給品とは言え申請すればスマホが貰えるじゃない。アレ一つあれば大抵の情報は入手できるもの。

 まあ、艦娘が不用意に機密に抵触する事を発信しないよう、艦娘に支給されるスマホには機密に関する文言が入力出来ないようにプロテクトがかけられてるし、回線も海軍独自の物で艦娘が閲覧してるサイトは24時間監視されてるわ。まあ、最後のは知らない子も居るけど。

 エロサイト見てる子は性癖がモロバレだけどドンマイ。

 

 「惚れさせたんだから責任は取るべきだと思うわよ?極端な話だけど「処女のまま死にたくない!」とか言われたらどうするの?断り切れる?」

 「それは……」

 「それでもダメだって言うなら、円満さんが貴方から乗り換えちゃうくらい良い男を紹介することね」

 「それが一番平和的かもなぁ……。じゃが、そうなると円満と呑みにくぅなるのぉ」

 

 お?この様子じゃ、円満さんと一緒に居るの自体は嫌じゃないらしい。むしろ望んでさえいそうね。

 私的にも不倫紛いの事はやめた方が良いと思ってるけど、円満さんが元帥から乗り換えても良いと思えるほどの男性を紹介できないんじゃ諦めてもらうしかないわ。

 罪悪感を煽って逃げ場を無くしてやろう。

 

 「何それ。円満さんをキャバ嬢かなんかと勘違いしてない?」

 「そんな事ぁない!俺ぁアイツを……」

 「アイツを?アイツを何よ」

 「大切な友人じゃ思うちょる。アイツの気持ちを知った今でもな。じゃけぇ……」

 「まさかいい歳こいて、今の関係を壊すのが嫌だから手を出さないんだ~とか言うつもりじゃないでしょうね?」

 「否定はせん。円満とは酒の好みも話も合う。アイツと一緒におる時ゃあ、大淀とは違った安らぎを覚えるくらい居心地がええ」

 

 だから何よ。私が聞きたいのはそんな答えじゃない。

 大切な友人?一緒に居ると居心地が良い?だったらそう言ってあげなさいよ。その言葉を早い内に聞いてたら、夢で魘されて飛び起きる程貴方にのめり込んだりしなかったかもしれないのに。

 

 「酷い人ね。円満さんの気持ちを弄んで」

 「返す言葉もない。じゃけど…俺ぁ意外とモテるんじゃのぉ……」

 「何よソレ。お姉ちゃんや円満さんみたいな美人に好かれてるクセに自覚ないの?」

 「無いのぉ……。俺ぁ大淀と一緒になるまで死んだ女房しか女を知らんかった。俺が女に告ってフラれた回数、教えちゃろうか?」

 「興味ない」

 

 元帥さんは「そうか」とだけ言って上着のポケットをゴソゴソし始めた。

 何か出すつもり?こういう場面で出しそうな物って言ったら……。何だろ?死んだ奥さんの写真とか?それとも煙草?あ、煙草だ。銀色の…シガレットケースだっけ?に入れてる煙草を一本取り出して火を点けようとしてるわ。

 でもここ、喫煙スペースじゃないんだけどなぁ。

 

 「ねえ、ここで吸う気?」

 「ん?ああすまん。つい癖でな」

 「ヤニカスめ。吸うなら喫煙所で吸いなさいな」

 「お前…俺が海軍元帥ちゅうの忘れちょらんか?」

 

 それが何か?

 悪いけど、場所を弁えずに煙を巻き散らすヤニカスに人権は無いの。それは海軍元帥だろうと関係ないわ。ルールを守って吸うなら何も言わないけど。

 

 「お姉ちゃんと円満さんは何も言わないの?」

 「煙草か?あの二人は言わんなぁ。二人の前じゃ吸わんようにしちょるっちゅうのもあるが」

 「だったら私の前でも吸わないで。吸わなきゃ文句なんて言わないんだから」

 「わかったわかった。じゃけぇそう怒るな。折角の美人が台無しぞ?」

 

 うわぁ。臆面もなく言いやがったよこのオッサン。

 そりゃあ、私だって女の端くれだから美人と言われて悪い気はしないけど、聞く人によっては口説かれてると思っちゃうんじゃない?

 って言うかこの人、自分はモテないと思い込んでるだけで、実は無自覚に惚れさせてる人がけっこういるんじゃないかしら。

 

 「そういうセリフを平然と言うのやめなさいよ。私まで誑し込もうっての?」

 

 ん?なんか鳩が豆鉄砲食らったような顔して私を見てるけどどうしたんだろ?

 まさかとは思うけど怒った?それとも私に見とれてる?

 いや、前者はないか。

 この人って相手が駆逐艦なら、面と向かって罵倒されても「私の業界ではご褒美だ」とか海軍自体が誤解されかねない事言いそうだし。

 じゃ、じゃあ後者?

 確かに私は、そこらのジュニアアイドルより容姿が整ってる自信はあるけど、さっきも言った通りオジン趣味はないからね?だから諦めて!

 

 「な、何よ……。見つめるんなら私じゃなくて円満さんにしなさいな」

 「ああ…すまん。ちぃと懐かしくなってのぉ……。それに加えて、「アンタが思っちょる以上に女は単純」って、昔よう言われたんじゃ」

 「何よそれ。聞く人が聞いたら女性差別だー!って騒ぎ出しそうなセリフね」

 「まったくじゃの。じゃがそのセリフを言うた奴が言うには、女はどんなに使い古された誉め言葉でも言われると嬉しいものらしい」

 

 元帥さんは何かを懐かしんでるような瞳でそう言った。

 たぶんだけど、元帥さんにそんな事を言ったのは女性。しかも、元帥の事を深く理解してる人だと思う。

 きっとその人は、今みたいに平然と口説き文句を口走る元帥に忠告する意味で言ったんでしょうね。

 

 「俺ぁ素直に褒めただけのつもりじゃったんじゃが、褒める度にさっきのセリフを言われたわい」

 「『そんなセリフを平然と言うな』って?それってさ…その……」

 「ああ、死んだ女房の口癖だ」

 

 元帥はそれ以上言わずに、日が沈み始めた西の空を眩しそうに見つめた。

 その瞳は哀愁に満ちているように見えたわ。

 私より4倍近く長く生きて来た人。私が赤ん坊の頃にはすでに戦ってた人。きっと私より多くのモノを失って来た人。この人に比べたら、私なんて無垢な子供だわ。

 なんて、私は柄にもなく思ってしまった。

 お姉ちゃんと円満さんは、この人のこういうところに惹かれたのかな…と頭の隅っこで考えながら。





ぶっちゃけると、元帥にサブタイのセリフを言わせたかっただけのお話でした。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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