取り敢えず前半の5話だけですが、三章の投稿を開始します!
第二十二話 さあ、踊ってもらうわよ
『魔槍 叢雲』
戦争末期に活躍したネームド駆逐艦の一人。
正化29年、四代目叢雲として横須賀鎮守府に着任。
人類対深海棲艦の最終決戦となったリグリア海戦において、バルト海側からライン川を南下して上陸を試みた敵別働隊を神藤桜子大佐の指揮の下、軽巡洋艦 大淀、及び奇兵隊と共に迎撃し、人類側の勝利に大きく貢献した名艦娘である。
その戦いぶりは、神話に語られる魔槍の如く鋭く、正確に敵を貫いたと伝えられている。
~艦娘型録~
特Ⅰ型駆逐艦 五番艦 叢雲の項より抜粋。
ーーーーーーー
「二人とも、準備は良い?」
『何時でも良いわよ。さっさと終わらせてお茶にしましょ』
先生が鎮守府に訪れた翌日。時刻は
空母が飛ばした観測機と連動して映像を映す大型モニターが設置された観覧席からの私の問いに、大和の演習相手である叢雲が無線でそう答えた。
お茶は良いけど、そのお茶会には高確率で先生が加わるのに良いのかしら。叢雲って、今でも先生の事が苦手でしょ?
「大和はどう?行ける?」
『大丈夫ですけど…その、本当にやるんですか?』
「今さら何言ってるのよ。中止には出来ないんだから覚悟を決めなさい」
『ううぅ……。わかりました……』
大和は完全に気圧されてるわね。
まあ、無理もないか。片や実戦経験豊富な横須賀鎮守府最強と称えられる駆逐艦。対する大和は、ようやく砲撃が出来るようになったばかりの着任から一週間程度しか経ってないド新人。
役者が違い過ぎるわ。
「元帥閣下。開始してもよろしいですか?」
「構わんよ。それよりも円満。そういう堅苦しい物言いは……」
「やめません。観覧席に居るのが神藤、辰見両大佐くらいとは言え、周りには艦娘や職員達も居るんですから」
先生はそれでも納得できないご様子。
私とフランクな関係を望んでくれるのは嬉しいけど、仕事中、もっと言うと他人の目がある場所でくらいは体裁を保たないと沽券に関わる。
「それでは、これより模擬弾使用による戦艦 大和と駆逐艦 叢雲の演習を始めます」
私がマイクを手に取ってそう言うと、会場に設置されたスピーカーから同じ文言がほぼ同時に流れた。
マイクを使って喋るのは初めてじゃないけど、自分の声を機械を通して聴くって慣れないなぁ。なんて言うか、自分の声だってわかるのに自分の声じゃないみたいな?
「辰見はどっちに賭けたの?」
「叢雲に決まってるでしょ。私の可愛い弟子であり秘書艦なんだから」
ちなみに、元帥である先生が居るのに、と言うか居るからか。公然とどちらが勝つかという内容で賭けが行われている。
オッズは、だいたい70:30で叢雲が優勢かな。
叢雲の実力はほとんどの艦娘が知ってるから当然と言えば当然だけど、昔行われた朝潮だった頃の大淀と長門が演習をした時よりはマシかな。
たしか、あの時はは99:1だったはずよ。懐かしいなぁ。
「始め!」
その合図と共に、モニターに映し出された叢雲が『機関』から伸びたマジックアームに繋がれている連装砲を連射しながら大和から見て左方向に旋回し始めた。
まずは牽制しながら距離を詰める気ね。
開始位置は1kmほど離れた位置からにしたけど、大和は着弾の水柱にビビって動けないでいる。
これじゃあすぐに距離を詰められるわ。
「やっぱり勝負にならないわね。叢雲を捉えようと砲塔を動かしてるけどまるで追いついてない」
「結論が早すぎるんじゃない?辰見。まだわかんないわよ?」
「あら意外。桜子は大和に賭けたの?」
「ええ、ちょっと思うところがあってね」
確かに意外ね。
桜子さんは駆逐艦で最低のスペックと言われた神風として長年戦っただけあって、スペックの高さを過信したりしない。
その桜子さんが大和を押すって事は、艤装の性能じゃなくて大和本人に何か感じるモノが有るって事だ。
「タコ殴り。フルボッコ。どちらにしても、見てるのが忍びないくらい良いように撃たれまくってるわね」
「大和の死角からばかり……。えげつない撃ち方するのね叢雲って。あれ、辰見が教えたでしょ」
「あら、心外ね。私にああいう撃ち方を教えたのは桜子よ?」
確かにえげつない。
戦舞台と呼べるほど接近して撃ってる訳じゃないけど、大和から300m程の距離を保ってグルグルと周りを回りながら撃ちまくってるわ。
射撃練習でもしてるつもりなのかしら。
『ねぇ辰見さ~ん。もう決めちゃって良い?』
「それは円満に聞きなさい。この演習を仕切ってるのは円満だから」
と、同じ会話が聞こえている私に辰見さんが視線で判断を丸投げしてきた。
演習が始まって…まだ10分程度か。モニターじゃ叢雲の表情までは見えないけど、体の動かし方でやる気が無いのは丸わかり。いや、やる気が無いと言うよりは退屈してるって言うべきかしら。
演習相手の大和がほぼ棒立ち状態で、反撃もまともに出来てないんだから仕方ないと言えば仕方ないか。
「大和が反撃出来る程度に砲撃の手を緩めてもう少し続けて。まだ終わらせちゃダメ」
『これでもかなり手加減してるんだけど?『脚技』だって使ってないし。それでも私を捉えられないのよ?』
「だったら足を止めてみたら?そうすれば撃って来るかもよ?」
『いやいや、模擬弾とは言え戦艦の火力で撃たれたらただじゃ済まないから』
「わかってるわよ。でもアンタなら、停止状態からでも避けれるでしょ?」
それに、今の大和じゃ停止した目標にも当てられない可能性が高い。
そう、
この会話は大和にも聞こえているはずだから、挑発として受け取ってくれればいいんだけど。
「円満。まさか大和の内に居る窮奇を引っ張り出そうとしているのか?」
「ええ、そのつもりです」
バレたか。でも問題ないわ。
窮奇が出て来てこちらに攻撃してこようとしても、長門を初めとした横須賀鎮守の主力艦隊を洋上に配してるし、満潮と大淀にも待機してもらっている。
不安要素があるとすれば、窮奇が出て来た途端に大淀が演習に介入してくる事かしら。
まあ、その場合は満潮が時間稼ぎくらいはしてくれると思ってる。
なんだかんだで、嚮導してる内に情が湧いちゃったみたいだから……。
「……理由を聞こう。奴を引っ張り出せたとしても、こちらのコントロール下に置けるとは思えない」
「コントロール下に置こうなんて考えていません。ただ、確かめたいだけです。奴が表に出てきた場合、どの程度の事が出来るのかを」
私の答えに納得したのか、先生は「ふむ」と言いながら視線をモニターに戻した。
そう、この演習の目的は、窮奇が出てきた場合の大和の戦闘力を計る事。
なにせ奴は、9つの的を同時に撃ち抜くなんて芸当をした奴だ。戦闘力を把握し、出て来る条件が掴めれば使いようはいくらでもある。
「へぇ……」
「どうしたの?桜子。なんか妙に感心してるけど」
「見てればわかるわ。最悪、円満の目論見は外れるかもよ?」
私の目論見が外れる?辰見さんも、桜子さんが何を言ってるのかいまいち理解できてないみたいだけど……。
モニターに映る大和にも特に変わった様子はない…よね?
航行を完全に停止して、無駄に砲塔を広げ……過ぎじゃない?艤装に備えられている主砲を両舷ともやや後方、4時と8時の方に向けて背中の主砲は真後ろに。
艤装前面の副砲二基を1時と11時。側面の二基を仰角を最大まで上げて3時と9時に向けている。
「なるほど…これは駆逐艦じゃ思いつかないわ」
「あら、円満も大和が何をしようとしてるのか気づいたの?」
「だいたいね。でも、どうやって捕捉するつもりなのかしら。あの近距離じゃ、電探で捕捉してから撃ったんじゃ遅すぎるし……」
「そりゃあ気配で察するつもりなんでしょ。見てみなさいよ。アイツ、あんな状況で目を瞑ってるわ」
なるほど、気配か。大和が桜子さんの尾行に気づくほど気配に敏感なのを忘れてたわ。
「あっ!そういう事か!」
「お?辰見も気づいたみたいね」
「ええ、大和が何をしようとしてるのかはわかったけど……」
辰見さんが何を言いかけたのかはなんとなくわかる。確かに感心したけど、あんなの
「まるで居合い…だな」
「そうね。ただし、射角までは操作できないでしょうから水平面のみだけど」
言い得て妙ね。
先生の言う通り、大和がやろうとしている事は居合いに近い。電探の機能を持つ傘を差して佇む姿からは想像できないけど、大和は叢雲の動きに合わせて発砲するのではなく、砲の射線上に叢雲が入ったのを気配で察知した瞬間に発砲する気なんだわ。
『おっ!ようやく撃って来たわね!しかも中々正確じゃない!』
大和の右舷後方に差し掛かった叢雲に大和の右舷主砲が火を噴き、叢雲の後方50mほどに着弾して水柱を上げた。
けど、発砲のタイミングが遅い。叢雲の速度に追いつけてないわ。
『おおっと!今のは危なかったわ!』
大和は続いて右舷側面の副砲を発砲。今度は叢雲の後方20m程に着弾した。
タイミングを自分なりに修正してるわね。もう何発か撃てば、見た目上は偏差射撃と言える程度にまでなりそうだわ。
「戦艦のクセに考え方が駆逐艦に近いわね。あの子。自分に出来ない事をあっさりと切り捨て、現状できる事のみで対処しようとしてる」
桜子さんが今言った事を捕捉説明するとこういう事よ。
大和は回避運動がまともに取れないから動きを止め、動く目標に照準を合わせる事も出来ないから砲を固定した。
演習で、しかも砲撃じゃ大和の『装甲』を抜くことが困難な駆逐艦が相手だからできる事ではあるけど、逆に言えばこの状況なら有効。
大和はほぼ360度に砲を向けた固定砲台と自分を化したのよ。
「でも、魚雷を撃たれたら終わりよね?」
「そうよ辰見。叢雲が魚雷を撃てば終わり。いくら演習だと言っても、全弾命中すれば轟沈判定よ」
実戦ならもっと耐えれるんでしょうけど、それじゃ叢雲が不利過ぎるから魚雷8発が直撃で轟沈判定としている。それは大和にも伝えてるわ。
あの状態で、大和が魚雷をどう対処するかまでは想像がつかないけど。
『くっ!コイツ!』
「大和の砲が叢雲を捉え始めたわね。アレだけ撃たれまくったら、いくら叢雲でも迂闊に接近できないわ」
「ちょっと桜子、叢雲を見くびり過ぎじゃない?叢雲ならあの程度の砲撃なんて掻い潜るわ」
「別に見くびってないわよ。客観的にみてそう思っただけ。辰見は弟子贔屓が酷すぎなんじゃない?」
なんか別のバトルが始まりそうになってるけど放っておこう。
で、今どうなってるかと言うと、大和は反時計回りに回る叢雲の動きに合わせて砲撃を続けているわ。叢雲は装填の合間を縫って接近しようとしてるみたいだけど、大和は体を捻って無理矢理別の砲を叢雲に向けて装填の隙を補ってる。
もっとも、叢雲の砲撃は当たりまくってるからそろそろ中破判定に届きそうだけど。
「叢雲の勝ちは揺るがない。窮奇が出て来る様子もない。当てが外れたわね。円満」
「そうね。けどまあ、鍛えればそれなりに使えそうな事がわかっただけで良しとするわ」
辰見さんにそう言われて、私は叢雲に「終わらせて良い」と伝える事にした。
正直、これ以上変化がないなら見ていても仕方がないし、
「叢雲、もう終わらせ……」
『きゃあっ!』
「叢雲!?」
私が叢雲に指示を出そうとした途端、大和の砲撃が叢雲に直撃して吹き飛ばした。
確かに大和は叢雲を捉え始めていたけど、叢雲なら捉えられても回避は余裕のはず。それなのに直撃した。いったい何が……。
私がモニターを見続けていた桜子さんと辰見さんの方を見ると、代わりに先生が私の疑問に答えてくれた。
「出て来たようだ」
「出て来た?お父さん、それってやっぱり……」
「ああ、窮奇だ。奴め、前面に配してある副砲で叢雲の動きを止め、そこに主砲を撃ち込みおった。直撃自体はなんとか避けたようだがな」
モニターに目を戻すと、電探傘を日傘のように差して悠然と佇む大和と、『装甲』を抜かれたのか艤装の
なるほど。躱せないと悟った叢雲は側転気味に『トビウオ』か『稲妻』で跳んだのね。
だから見た目上は直撃したかのように吹き飛び、反時計回りに旋回してたはずなのに右舷から煙を上げてるんだ。
「叢雲、本気でやっていいわ。ただし、『魔槍』は極力使わないで。第一、第二艦隊、及び全航空母艦は第一種戦闘配置に移行。大和が砲をこちらに向ける様なら即座に無力化して」
私は叢雲と、第二種戦闘配置で待機させていた艦娘に指示を飛ばしながら手元のタブレットに目を落とした。
そこには、大和の艤装に潜ませた工廠妖精さんが計ってくれた大和の練度。いえ、窮奇の練度が表示されてるわ。正直信じられない数字だけど、モニターに映しだされた砲の動きを見て信じるしかなくなった。
表示された練度は99。ケッコンカッコカリをしてない艦娘の最高練度。
内心驚いてるけど、反面嬉しくも思ってる。予想以上の練度だったからね。
まったく、随分と勿体ぶってくれたじゃない窮奇。あまりにも出てくる気配がないから終わらせちゃうところだったわ。
「ここからが本番。ってとこね。どうする?辰見。大和に賭け替える?」
「冗談言わないで桜子。私が鍛えた叢雲が負ける訳ないじゃない」
辰見さんの気持ちもわかる。
演習のルール内、さらにかつての窮奇と同程度なら叢雲が勝つ可能性が高いわ。だけど、奴が使用するのは『大和』の艤装。かつてと同じ戦い方をするとは限らない。
だから見せてちょうだい。今のお前の力を。私の期待通りの力を見せてくれないようなら即座に解体してやるんだから。
「さあ、踊ってもらうわよ」
私は他の三人に聞こえないように呟いた。
かつての仇敵を憎む気持ちを抑えつけ、使えるようなら死ぬまで利用してやるんだと、自分に言い聞かせながら。
主要キャラ人気投票
-
朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
-
大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)