艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第二十三話 相手になってあげる!

 

 

 自慢じゃないけど、私が鍛えた叢雲は強い。

 もちろん性能的な意味じゃないわ。持てる力を限界まで引き出し、研ぎ澄まし、使いこなすという意味でよ。

 ほら、ロボットもののアニメ。具体的に言うとガ〇ダムとかでも、腕のいいパイロットとそうじゃないパイロットじゃMSの動きは全然違うでしょ?アレと似たような感じかしら。

 それに、あの子はツンケンしてる割に協調性が高いの。

 艦隊を組めば旗艦の言う事は素直に聞くし(指示が酷ければ口答えはするけど)、口が悪いのが玉に瑕だけど後輩の駆逐艦の面倒見も良い。

 親バカとか依怙贔屓とか言われるかもしれないけど、叢雲は私が胸を張って自慢できる優秀な秘書艦であり、戦友よ。

 

 

 ~週刊 青葉見ちゃいました!~

 辰見 天奈大佐へのインタビューより抜粋。

 

ーーーーーーー

 

 

 私は戦艦、もっと言うと上位艦種にあまり良い感情を抱いていない。

 何故かって?

 それは、駆逐艦とは比べるのも馬鹿らしいほど高い性能の上に胡坐をかいてるような戦い方しかしないと思っているからよ。

 もちろん、そんな人ばかりじゃないのはわかってる。

 今や横須賀鎮守府最古参の長門さんや鳳翔さん。軽巡になっちゃった元朝潮の大淀など、自分が持てる性能を限界まで引き出し、使いこなす人もいる。そういう人達は素直に尊敬してるわ。

 けど、そういう熟練の人達とは違い、中途半端に経験を積んでる奴や新人は先に言った通りの場合が多い。ハッキリ言って見習う所はないわ。

 大和の事も最初はそうだと思っていた。

 けど大和は、出来ないなりにできる事をした。

 ちょこまかと動き回る私に砲塔の動きが追い付かないと判断するや、大和は砲を固定し、恐らくだけど気配で私の動きを察知して砲撃して見せた。

 だったらと装填の隙を狙ったら体を捻って別の装填済みの砲で攻撃までしたわ。

 自分にできる事を把握し、最大限に生かそうとする姿勢は、例え新米だとしても十分尊敬に値する。

 

 「砲身が指みたいにワキワキと動いてる……。円満と辰見さんから聞いてはいたけど、これがコイツの本性ってわけね」

 

 かつて朝潮が倒した戦艦水鬼。その意識が出て来て大和を乗っ取る可能性があるとは聞いていた。

 話を聞いた時は「そんな事有り得るの?」って言っちゃったけど、実際に目の当りにしたら信じるしかなくなったわ。

 だって、砲の動きが全く違うもの。見た目は機械なのに、その動きはまるで生き物みたいだわ。

 

 『駆逐艦よ、一つ問う』

 「……何よ」

 

 無線を通して大和の声が聞こえて来た。

 口調まで変わってるわね。それに纏う雰囲気も。

 私を見下す大和は、演習開始時の自信なさげ態度から一転、まるで女王と見紛うような威厳と風格を纏っているわ。

 最初の感じが、養成所に居た頃のアイツに似てて少し懐かしく思ってたんだけどな……。

 

 『貴様は彼女と同じ事が出来るのか?』

 「彼女?彼女って誰の事よ」

 

 予想はついてる。

 コイツが言う『彼女』とは、深海棲艦だった頃の自分を討った朝潮。今の大淀の事だ。そんな事は聞かなくても何となくわかる。

 

 『ああ、怯えなくていい。別に取って食おうという訳ではない。ただ確認したかったんだ』

 「べつに怯えてなんてないわ。で?何を確認したいって言うのよ」

 

 大和は右方、西の方へ顔だけ向けてそう言った。

 何かを警戒してる?そう言えば、円満は窮奇が出て来たと判断した場合、洋上に待機させてる艦隊を第一種戦闘配置に移行させると言っていたわね。

 じゃあコイツは、自分を狙ってるであろう艦隊を警戒してるって事かしら。

 でも、西の方に待機してるのは大淀と満潮だけのはずだけど……。

 

 『貴様がブランクを埋めるのに丁度良いかを確認したいのだ。彼女と同じ事ができるのなら好都合だからな』

 「へぇ…この叢雲様を……」

 

 練習台にする気か。

 と続けようとしたら『叢雲、本気でやっていいわ。ただし、『魔槍』は極力使わないで。第一、第二艦隊、及び全航空母艦は第一種戦闘配置に移行。大和が砲をこちらに向ける様なら即座に無力化して』と、無線を通して円満の指示が耳に飛び込んできた。

 

 『どうした駆逐艦。本気を出していいとお許しが出たか?』

 「そんなところよ」

 

 私の反応で自分には届いていない無線の内容を察したのか、大和は視線を私に戻して言った。

 意外と察しが良いのね。

 円満から聞いてた話じゃ、盲目的で自己中心的。さらにクソレズのロリコンって話だったのに、私が今まで手加減していた事にも気づいているみたいだわ。

 

 「今の私は、当時のアイツより強いわよ」

 『ほう?それは良い事を聞いた。ならば見せてもらおうか。貴様の実力を』

 

 その言葉と共に、大和は左手を私に向け、それに応えるように大和の各砲門が私に狙いを定めた。

 さて、どう動く?さっきみたいに、副砲で動きを止められたらその後に来るであろう主砲の一撃は躱せない。

 ならどうする?決まってる。普通の回避運動で躱せないなら『脚技』を使うしかない。

 軽巡あたりから不興を買うだろうけど、こんな好機を逃すわけにはいかないもの。

     

 「ふふっ…いよいよ戦場(いくさば)ね」

 

 ああ、やっと戦える。

 アイツに置いて行かれた私の初舞台。アイツの背を追い求め、アイツと肩を並べて戦う事を望んだ私が初めて本気で戦う初戦闘。

 無様な姿は見せられない。だって、どこかでアイツが見てるんだから。アイツにどれだけ近づけたか確かめ、アイツに今の私を見せられる絶好の機会なんだから!

 

 「特Ⅰ型駆逐艦、五番艦。叢雲!相手になってあげる!」

 

 私はやや前傾姿勢気味に腰を落とし、左掌を槍の穂先に添え、槍の中程、手留の部分を握った右手を腰だめにして名乗りを上げた。

 別に名乗り上げなんてする必要ないんだけど、師である辰見さんが「テンション上がるから出来るならやっときなさい」という教えに従ったの。

 と言うか、テンションが上がり過ぎて名乗らずにはいられなかった。

 

 『ああ、相手をしてもらおう。足掻け。抗え。死力を尽くして私の糧となれ!』

 

 その言葉を合図に大和は全砲門を一斉射。直前まで私が居た場所に巨大な水柱が立ち上がった。

 300mほどの近距離とは言えかなり正確な射撃だわ。飛び上がる(・・・・・)のが数瞬遅れてたら、模擬弾とは言え私は死んでいたかもしれない。

 

 『そう言えば、駆逐艦は飛ぶ(・・)事もできるのだったな』

 

 大和が水柱の勢いと『トビウオ』で10mほど上空へ逃れた私に視線と副砲を向けてそう言った。

 なるほど、朝潮との戦闘でコレは見た事があるって事ね。だけど……。

 

 「コレは見たことがないでしょう!」

 

 大和が副砲で私を撃つより早く、私はマジックアームで繋がれた連装砲を右真横(・・・)へ向けて発砲。少し遅れて放たれた大和の砲撃を、自らの砲撃の反動で右方へ回避した。

 

 『ほう。口だけではないようだ』

 「当然よ!」

 

 私は着水後、即座に『トビウオ』で加速して大和への接近を開始した。

 一気に接近したいところだけど、大和の三基の主砲と四基の副砲を使った弾幕が激しすぎて迂闊に近寄れない。

 装填の隙が出来ないように、副砲と主砲を上手い具合にローテーションさせて私の針路を妨害、あわよくば直撃させようとしてるわ。

 

 「途絶える事のない砲撃…か。艦種の差を思い知らされるわね。でも!」

 

 砲撃の隙間を縫って近づく手段はある。

 一方向へ最大10m跳ぶ事が出来る『トビウオ』、主機の裏に浮力が発生する程度の『脚』を形成し、速度を犠牲にする代わりに陸上と同じ動きを可能とする『水切り』。

 この二つだけでもなんとかなりそうだけど、相手は朝潮が死闘の果てに倒した奴だ。出し惜しみはしない!

 

 「追い詰めるわ。逃がしはしない!」

 

 その軌跡はその名の通り『稲妻』。

 『トビウオ』の加速力と『水切り』の機動力を併せ持つ『脚技』の極み!100ノットを超える速度の私を捉えれるもんなら捉えてみなさい!

 

 『そう。その動きだ。あの時の彼女と同じ動きだ!』

 

 私は大和の砲撃をジグザグに縫ってさらに距離を詰めた。

 大和までの距離は150mってとこかしら。

 私も負けずに砲撃してるけど、大和の『装甲』はビクともしない。

 ここまで近づいてるのに貫けないなんてどんな『装甲』してんのよコイツ!

 

 『素晴らしい。やはり駆逐艦は素晴らしい!もっと見せろ!もっと魅せろ!貴様の全てを私に見せろ!』

 

 お褒めに与り光栄だけれど、大和は大して翻弄されていない。朝潮の動きを見た事があるからか私の動きに大して惑わされない。それどころか、早くも私を捉え始めている。私の動きに順応してきている。朝潮は、こんな化け物を相手に戦って勝ったのか……。

 

 「いいわね。こういうのを待っていたのよ!やればできるじゃない!」

 

 退屈した事を謝罪するわ。貴女は最高よ。最高の練習相手だわ。

 貴女を踏み台にして、私はさらなる高みへ昇る。

 さっき、私に糧となれって言ったわよね?そのセリフをそのまま返すわ。お前こそ、私がアイツに近づくための糧となりなさい!

 

 「両舷アーム!180度回頭!」

 

 悪いわね円満。『魔槍』を使わせてもらうわ。別に構わないでしょ?だって、極力(・・)使うなとしか言われてないんだから。

 

 「思い知りなさい!私が磨き上げた『魔槍』の鋭さを!」

 

 『魔槍』とは。

 私が朝潮に近づくために編み出した、『装甲』をほぼ0にし、浮いた分の力場を『弾』に上乗せして性能以上の干渉力場とする『刀』を槍の穂先に纏わせて敵を貫く奥の手。

 もちろんそれだけじゃないわ。この技の肝は、真後ろに向けたアームに繋がれた連装砲にある。

 

 「撃て(てぇ)!」

 

 『稲妻』の踏切に合わせて、私は両舷の連装砲を発射。砲撃の反動が加わり、通常の『稲妻』を越える速度で私は加速した。

 これが、私の努力の集大成よ。

 朝潮型でも似たようなことは出来るだろうけど、両手に装着するタイプの艤装では加速後の攻撃に一瞬間ができる。

 だけど、私の艤装なら問題ない。砲が使えなくたって、私には槍があるんだから!

 

 「ああ…本当に駆逐艦は最高だ……」

 

 無線越しじゃなくても声が届く距離まで接近した私に、大和は恍惚とした表情でそう言った。

 ええそうよ。駆逐艦は最高なの。

 駆逐艦は何も出来ない分、何でも出来る。上位艦種が出来ないことでも、本人の努力次第で出来るようになるのよ!

 

 「ちぃっ!」

 「あはっ♪惜しかったな駆逐艦!」

 

 真正面から大和の頭を狙った私の初撃を、大和はわざと『装甲』を消し、体を反らすことで回避した。

 初見で『魔槍』回避するなんてどんな動体視力してんのよ。砲弾と大差ない速度なのよ!?

 

 「けど、ここはもう私の距離だ!」

 

 『魔槍』の勢いのまま大和の真後ろ20mほどに着水した私は、着水位置からコの字を書くように『稲妻』で大和の左側面に回り込んだ。

 『魔槍』の最大使用回数、と言うよりは砲撃の反動を利用した移動の最大可能回数は三回。

 それ以上は私の体が保たない。しかも、使う度に砲撃の反動によるダメージが蓄積されて行き、他の手段が取りづらくなっていく。

 砲撃の反動による移動はさっきので二回目。残り一回で是が非でも決めるしかない!

 

 「貴様の素晴らしい技に敬意を表し、今度は受けて(・・・)立とう」

 

 私が踏み切った瞬間。大和は電探傘を私に向けて構えてそう言った。

 私の『魔槍』を受け止める気?ル級の『装甲』程度なら軽々と貫く私の『魔槍』を?上等じゃない!受け止められるなら受け止めてみろ!

 

 「シャアァァァァァァァァ!」

 

 私は、通常は踏み切りに合わせて一回しかしない砲撃を踏み切り直後にもう一度発砲。体への負担は跳ね上がるけど、ここまで正々堂々と受けると言われたら私も全力以上を出さなければ失礼だ。

 

 「くぅぅぅぅっ!」

 

 大和の『装甲』に接触した槍の穂先が、キィィィ!と火花を散らしながら潜り込んでいく。

 なんて厚い『装甲』なのよ。いつもならすんなりと貫けるのに貫けない。

 このままじゃ、加速した勢いが死んで大和の主砲に無防備な姿を晒すことになってしまう。

 もう一度砲撃で加速すれば貫けそうなのに……。

 

 「やるしか……」

 

 ない!このまま負けるなんて絶対に嫌だ!どの道動けなくなるんなら限界の更に先に行ってやる!

 

 「だったらもう一発ぅぅぅ!」

 

 加速の勢いが無くなる瞬間。今度は『脚』に回していた力場まで穂先に集中し、砲撃の反動だけで私は加速した。

 体がギシギシと悲鳴を上げてるけど、その甲斐あって大和の『装甲』を貫くことに成功したわ。成功は…したけれど……。

 

 「貴様の負けだ。駆逐艦」

 

 大和の『装甲』を貫いた私の槍は大和まで届かず、向けられていた電探傘を貫いた所で止まってしまった。

 勢いは完全に死んではいなかったんだけど、大和は私の勢いを利用し、孤を描くように私を放り投げたわ。

 

 「そうね……。貴女の勝ちよ」

 

 放り投げられて、海面を仰ぎながら宙を舞っている最中の私は大和にそう返した。

 ええ、素直に負けを認めるわ。

 いつもより無理な『魔槍』の使い方をしたせいで体はガタガタ。例え、落下中の私を狙っている大和の砲撃が運良く外れたとしても、その後に打つ手がない。

 まだ、足りなかった。大和との戦いで、私に足りないモノが把握できた。それは心から感謝するし、敗北も甘んじて受け容れる。だけど……。

 

 「ごめんね…辰見さん……」

 

 私に向けられた大和の砲身を他人事のように横目で見ながら、「叢雲!」と叫んでるであろう師匠に謝罪した。

 だって、私が負けるって事は、私に全てを授けてくれた辰見さんが負けたのと同じことなんだから………。

 

 「あ、あれ?追撃がない」

 

 私はなんとか五点着地の要領で着水し、無防備な私を追撃してこない大和の方へ目を向けた。

 何してるの?コイツ。

 砲は上の方を向いてるから、落下中だった私を追撃しようとしていたのは間違いない。

 けど、見ている方向がおかしい。私の方を向いてるけど私を見ていない。私の遥か後方を見てるわ。

 

 『聞こえる?叢雲。聞こえてるなら返事をして』

 「聞こえるわよ。円満。って言うか、モニターで見てんでしょ?」

 

 感情を押し殺したような円満の声が無線を通して聞こえてきた。

 私が負けるとは思ってなかったから驚いてる?それとも、他に不測の事態でも発生した?

 

 『今すぐそこを離れなさい。下手をすると巻き込まれる』

 「巻き込まれる?」

 

 何に?もしかして待機させていた艦隊に攻撃させるつもり?それなら離れた方が良いわね。

 戦艦だけでなく、横須賀鎮守に所属する全空母の航空爆撃まで集中するとしたら、こんな近距離に居たら確実に巻き込まれる。

 と、思っていた私の予想を、後ろから私を飛び越えて大和に着弾した砲撃が否定した。

 今のは戦艦の砲撃じゃない。重巡でもない。ましてや爆撃でもない。

 今の着弾時の爆発を見る限り、私の後ろ、西から飛んで来たのは15.2cm連装砲による砲撃だわ。

 なるほど。

 アイツが来たのなら確かに巻き込まれる。

 戦場を縦横無尽に駆け回り、元帥に仇なす者なら艦娘だろうが深海棲艦だろうが容赦なく沈める忠犬。

 いや、アイツの狂ってると言っても良いほどの尽くし方を考えると狂犬の方が妥当かしら。

 

 「選手交代って訳ね」

 「ええ。ここからは私がやります」

 

 そう言って、私と入れ替わるように大和へ突撃して行く大淀の姿が、私の瞳には一振りの大剣が振り下ろされたように映ったわ。

 前横須賀提督が鍛え上げた無慈悲の一刀。

 その刃が、別人のように変わった大和に振り下ろされるのを、私はその場から離れながら冷めた瞳で静観していた。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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