私は主人である海軍元帥を愛しています。
もちろん、主人も私を愛してくれています。
在り来たりかも知れませんが、どっちが相手を深く愛しているかでケンカしたりもします。
馴れ初めですか?
主人と初めて会ったのは私が三つか四つくらい。物心がようやくついてきた頃でした。
当時住んでいた町が深海棲艦の襲撃を受けた時、救援に駆け付けてくれた部隊の隊長が主人だったんです。
もっとも主人からしたら、私は助けた多くの人達の一人でしかありませんでしたから「そんな事もあったような……」くらいにしか覚えていませんでした。
ですが、避難所に預けられる時に泣きじゃくって駄々をこねた話をしたら「あの時の子だったの!?」と、主人より先に桜子さんが思い出してくれました。どうやら、当時神風になったばかりの桜子さんもその場に居たようです。
当の主人はと言いますと「俺ぁあんな幼子に手ぇ出したんか……」と、幼かった当時の私を思い浮かべながら打ちひしがれてました。
それを聞いた桜子さんは「いや、朝潮だった頃の時点でアウトだから」と言ってましたね。
私的にはOKだったのですが……。
話が逸れてしまいました。
その後、朝潮になって横須賀鎮守府に着任した日に桜の下で主人と再会しました。
その時に私は、この人の支えになろう。この人を守れるくらい強くなろう。
もう二度と、この人に悲しい思いをさせたりしない。
と、勝手な約束を交わしたんです。
その約束を守るために、私を姉と慕ってくれた子を傷つけたり、私の姉であり掛け替えのない友人である円満さんと険悪になったりもしました。
確かに悲しかったですが、それらと同じくらいショックな事もありました。
かつて、私が彼女に言った拒絶の言葉を、彼女を内に秘めていた大和さんに言われてしまったんです。
ええ、ハッキリと言われました。
「貴女の事が嫌いです」と。
~戦後回想録~
元軽巡洋艦 大淀。元帥夫人へのインタビューより抜粋。
ーーーーーーー
「やめなさい大淀!演習への介入は認めないわよ!」
叢雲が投げ飛ばされたあたりで、大淀の接近に気づいた円満が必死に呼び掛けてるけど大淀に止まる気配はなし。
窮奇がお父さんに何かする前に沈めようって魂胆なんでしょうけど、窮奇が暴走した時のために待機していた奴が先に暴走してどうすんのって感じね。
一緒に居たはずの満潮は何してたんだろ?
「クソ!無線は聞こえてるはずなのに無視してるわあの子!」
無線機が置いてあるテーブルをダンッ!と叩いてそう言った円満は怒り心頭怒髪天で激おこプンプン丸。
額に浮かんだ青筋が今にも弾けそうだわ。
「満潮。応答しなさい!満潮!?」
「満潮も応答しないの?」
「ええ…たぶん、大淀を止めようとして返り討ちになったんだと思う」
さっきまで真っ赤だった円満の顔が、辰見の質問に答えた途端に青ざめ始めた。
予想外の事態に焦ってると言うよりは、予想通りになったから心労が一気に来たって感じね。
きっと円満にとっては、満潮が無線に応答できないほど痛めつけられるのも想定内だったんでしょう。
だけど、そこまで痛めつけるかなぁ……。
大淀は、朝潮だった頃から満潮を妹として可愛がってるし、満潮も今だに大淀をお姉ちゃんと呼んで慕ってる。
そんな二人がそもそも争うだろうか。
二人が装填しているのは大和、叢雲と違って実弾。やり合えば大なり小なり怪我をするし、最悪の場合はどちらかが死ぬ可能性があるのよ?
それ程危険な行為をあの二人がする?
う~ん。答えはYesね。
満潮は兎も角、大淀はお父さんのために必要だと判断したら迷わず満潮を攻撃する。
例え、妹のように可愛がってる満潮が死ぬ事になろうとも。
「空いてる駆逐隊を満潮の救助に向かわせるわ。良いわね?円満」
「お願い。第九駆逐隊が空いてるから…あとその……」
「わかってる。ちゃんとフォローもしとくから安心しなさい」
「ありがとう。辰見さん」
本当は満潮よりも叢雲の救助に駆逐隊を回したいだろうに、辰見は取り敢えずは無事な叢雲を後回しにして安否が不明な満潮の救助を命じるために観覧席から出て行った。
さて、問題は大和を乗っ取った窮奇を殺そうとしてる大淀だけど……。
『歓迎しますよ窮奇。ようこそ、私の
アンフィ…何?
セリフの感じと、『稲妻』で大和の死角に潜り込もうとしてるのを見る限りでは『戦舞台』を仕掛けようとしてるように見えるけど……。
「アンフィテアトルム……。確か日本語で『円形劇場』だったかしら」
「そうだ。あれは『戦舞台』の欠点を解消し、より完成度を高めた物だ」
へぇ~、円形劇場って意味なんだ~。円満は物知りだなぁ~。
ってぇ!それはどうでも良い!『戦舞台』の欠点を解消ですって!?
確かに、私が創作した『脚技』に欠点があるように、それを駆使して相手をハメ殺す『戦舞台』にも欠点はある。あるんだけど……。
「桜子。『戦舞台』の利点を説明してみろ」
「利点?え~っと……」
説明しよう!
『戦舞台』とは、この桜子さんが艦娘時代に戦艦をタコ殴りにするために考え出した奥の手の一つよ。
やり方は至って簡単。
敵の動きに合わせて、海上でも陸上とほぼ同じ動きを可能とする『脚技』の一つ、『水切り』を駆使して相手の死角から死角へ移動を続けながら砲撃、または雷撃を繰り返すの。
艦娘や深海棲艦って人型の割に下半身の動きに融通が利かないから、相手の艦種が大きくなるほど、つまり、旋回半径が大きくなればなるほど、この技は威力を発揮するわ。
「では、欠点は何だ?」
欠点などない!
と、言いたいところだけど、先に言った通り私が創作した『脚技』が欠点の塊であるように、それを使用する『戦舞台』にも欠点が存在する。
メインで使う『水切り』は『脚技』の中でも肉体的、燃料的な負担は少ない方なんだけど、『戦舞台』の使用時間が延びれば延びるほど、疲労や燃料消費は増加して行く。
それに加え、相手を中心として最大でも10m前後の至近距離で相手の死角を覗いながら戦う都合上、戦場に対する視野が狭くなるという欠点がある。
更に付け加えると、自分が相手の死角に潜り込んでる間、相手が死角外で何をしているのか把握しにくいのも欠点として挙げられるかな。
例えば、相手の背中側に自分が居た場合、前で相手が何をしてるか、何をしようとしているかが見えないの。相手自身が壁になってね。
「肉体的な負担は軽巡になった事で増したが、視野的な欠点は逆に解消できた。それがアレだ」
「なるほどね。要は、
お父さんが視線で指したモニターの映像を見てようやく得心が行った。
どんな見え方をしてるかはわかんないけど、大淀は大和の上空を旋回させている6機の偵察機からの視覚情報で、俯瞰的に戦場と相手の動きを把握してるのよ。
「天才っぷりは相変わらずね。自分の目と偵察機6機分の視覚情報をどうやって処理してるんだろ?」
「大淀が言うには、頭の天辺に偵察機の視界が浮かび上がっている感じらしい」
「意味分かんないんだけど?」
「私にもわからん。両目以外の目と同時に見る映像など想像も出来んよ」
説明の下手さも相変わらずか。
大淀って、なまじ『見た』だけで大抵のことを覚えられるせいで説明がド下手なのよ。
たぶんだけど、偵察機の扱い方も空母なり航空巡洋艦なりが使ってるところを見て覚えたんじゃないかな。
「大和は『装甲』が厚いおかげでまだ耐えられてるみたいだけど、抜かれるのは時間の問題ね」
大和は必死に大淀を捉えようとしてるみたいだけど、制服が破れて血が滲み、徐々にダメージが目に見える形で体に刻まれ始めている。
それに、大和の表情が叢雲に本気を出させる前に戻ってる。
「円満、窮奇はとっくに引っ込んでるんじゃない?」
「ええ、だから大淀を止めたいんだけど、私の呼び掛けを完全に無視してるからどうしようもないのよ」
実戦、いや、大淀による公開処刑の場となった演習を止めたい。だけど満潮の安否も気になって仕方がないって感じね。
苦虫を噛み潰したような顔をして、目尻には涙が滲んでるわ。
「止めてあげたら?お父さんの言う事なら流石に聞くでしょ?」
「そうしよう……。ん?いや、待て。大和は何をする気だ?」
お父さんはモニターに映った大和見た途端、演習を止めようと浮かしかけた腰を止めた。
円満も、お父さんが何を疑問に思ったのかわからずにモニターに視線を戻したわ。
「戦う…つもりなの?」
「戦う?誰とよ。大淀と?」
円満の言ったことが理解できない。
大和は窮奇に乗っ取られる前にしていたように全砲塔を広てるけど、相変わらず良いように撃たれまくってるし大淀の動きを目で追えてない。
ハッキリ言って戦いになってないわ。アレは射撃訓練と言っても過言じゃない。移動すら満足に出来ない大和などただの的。サンドバッグと同じだ。
それなのに戦う?反撃するサンドバッグなんて聞いた事がないわ。
「駆逐艦並に負けず嫌いだな。あの状況で一糸報いる。いや、大淀に勝とうとしている」
「どうやってよ。文字通り手も足も出てないじゃない」
叢雲にしたように気配で位置を探って撃つ気?
ハッキリ言って無駄だわ。
いくら、ほぼ360度を狙えるように砲門を広げたって隙間はあるもの。
その隙間を大淀は見逃したりしない。叢雲だって、端から本気でやってたら見逃さずに突撃してたはずよ。
「やめなさい大和!大人しく両手を挙げて跪くの!そうすれば大淀も攻撃をやめるかも知れない!」
それはどうだろう。
普段の大淀ならまだしも、お父さんにとって危険だと判断したら、相手が降参しようが土下座して許しを請おうが大淀は容赦しない。
相手が窮奇なら尚更ね。
『嫌です』
「はぁ!?嫌ですって何よ嫌ですって!大人しく降参しなさい!これは命令よ!」
『絶対に嫌です!私はこの人に負けたくない!』
気概は買うけど無理。
大和は大淀には勝てない。性能だけ見れば大和が勝ってるでしょうけど、大淀の強さは性能だけじゃ測れない。
本人が天才なのもあるけど、大淀はお父さんのためならどこまでも強くなるし、どこまでも冷酷になれる。
「相手の力量がわからない訳じゃないでしょ!今のアンタじゃ絶対に勝てない!」
『それでも嫌です!この人に
妙に拘ってるわね。
大和は大淀に何か思い入れでもあるの?確か、大和を尾行した時に渡された資料では、朝潮だった頃の大淀に助けられたみたいな事が書いてあったけど……。
「クソっ!どいつもこいつも!」
勝手な事しやがって!って感じかな?
まあ、気持ちはわからなくもないわ。円満はこの鎮守府の最高責任者。わかりやすく言うと一番偉い。
その円満の言う事をまともに聞かないんだもの。
怒りたくなる気持ちはすんごくわかるわ。
みんな、私のように素直で聞き分けの良い子なら円満の苦労も減るでしょうに。
『円満、聞こえる?』
「辰見さん?満潮を救助したの?」
『いいえ。満潮と大淀が待機していた場所に到着した第九駆逐隊から、満潮が装備していたと思われる連装砲と魚雷発射管が浮いてるのを発見したけど、満潮本人は発見できなかったって報告が入ったわ』
辰見の報告を聞いた円満の顔が一気に青ざめ、体が小刻みに震え始めた。
兵装が浮いてただけで本人は発見ならず……か。
円満の頭には最悪の事態が思い浮かんでるんでしょうね。
「全空母へ通達。出せるだけの艦載機を飛ばして満潮を捜索しなさい!最優先よ!」
「落ち着きなさい円満。いくら大淀でも満潮を殺したりなんかしないはずよ」
「わかってるわよそんな事!桜子さんは黙ってて!」
ちょっとムカッと来た。
この桜子さんに向かってなんて口の利き方かしら。
だったら何を焦ってんのよ。死んでないならその内……。
いや、死んでないなら満潮はどうする?
大好きなお姉ちゃんと一戦交えてまで大和を守ろうとした満潮が、怪我をしたからってプカプカとただ浮いて救助を待つとは思えない。
「ダメ……。ダメダメダメダメ。それ以上は絶対にダメよ満潮。お願いだから大人しく気絶してて……」
想像通り…かな?
円満が心配してるのは満潮の安否なんかじゃない。大淀と一戦交えて中破、もしくは大破して尚、満潮が二人を止めようと戦闘に割り込むのを心配してるんだわ。
そんな状態で二人の間に割り込めば、今度こそ本当に満潮は死にかねないもの。
『ぐっ…油断しました。でっ、でもまだ沈みません。大淀沈みは…しません!』
予想外の大淀のセリフが耳に飛び込み、私と円満は反射的にモニターへ視線を戻した。そこには信じられない光景が映し出されていたわ。
「大和は…何をしたの?」
円満がそう言いたくなるのもわかる。だって私も同じセリフを言いそうになったもの。
私と円満、そしてお父さんが見つめるモニターには、連装砲ごと左腕をへし折られ、拳が届きそうな超至近距離で海面に膝を突いた大淀と、肩で息をしながら大淀を見下ろす大和の姿が映し出されていたんだから。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)