艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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 ようやく飲み歩く余裕が出て来たので只今飲み歩き中。
 呑んだことのない日本酒を制覇する!
 って事で、添削がちゃんと出来ているか少々不安ですが、今日だけはご勘弁を!


第二十八話 勝負なら、いつでも受けて立つ覚悟です!

 

 

 円満さんは、私にとって掛け替えのない存在です。

 朝潮として横須賀鎮守府に着任して最初に仲良くなった人ですし、私を鍛えてくれた先生でもあります。

 主人の次。いえ、もしかしたら主人以上に、私の事を理解してくれている人です。

 そんな円満さんの大切な人。

 私にとっても妹のように大切な子を、私は自分の我が儘のために傷つけた。殺そうとした。

 円満さんに受けた恩を仇で返した。

 その事を反省していますし後悔もしていますが、同じ状況になれば、私は迷わずまた同じ事をするでしょう。

 愛する主人のためと言う、自分への言い訳を掲げて。

 

 「ほ、本当に今日じゃないとダメですか?日を改めた方が……」

 「ここまで来て愚図ってんじゃない。謝るなら早い方がいいんだから覚悟を決めなさい」

 

 『病院』で治療を受けた後、付き添いをしてくれた主人が誰かと電話している隙を狙ったかのように『円満に一言詫び入れときなさい』と言う桜子さんに引っ張られて執務室の前まで来たんですが怖じ気づいてしまいました。

 入りたくないなぁ……。

 絶対に怒ってますもの。円満さんに怒られるのは初めてじゃないですけど、円満さんが大切にしてる満潮ちゃんを半殺しにしてしまったんです。

 きっと、今まで見たことないくらい怒ってるはずです。

 

 「円満居る~?居るよね?入るわよ」

 「ちょ、ちょっと桜子さん!」

 

 私が覚悟を決めたかどうかなど関係無し、それどころか執務室の中に円満さんが居るかどうかも関係無しに、桜子さんは勝手知ったる我が家の如くドアを開けました。

 いつもこんな入室の仕方をしているのでしょうか。

 義理とは言え、我が娘ながら礼儀の『れ』の字も感じさせません。

 お仕置きした方がいいかしら。

 でも、入室したからには覚悟を決めないと。

 気まずいけど、例え殴られたって謝らなきゃ。

 

 「まだ入室の許可を出してないんだけど?」

 「いつもの事じゃない。今さら言う事でもないでしょうが」

 「それもそうね。で?何か用?」

 

 桜子さんの「おろ?今日は引きが良い」って独り言は置いといて、やっぱりいつもあんな入室の仕方をしてたんですね。後でお尻ペンペンです。泣いて謝るまで叩くのをやめません。

 

 「大淀が今日の件を謝りたいんだってさ。聞いてあげてくれる?」

 「謝る?何を謝るって言うのよ」

 

 あれ?怒ってない?

 私は主人や円満さんみたいに表情から考えを読むなんて芸当は出来ませんが、気配で相手の感情の起伏を察することくらいなら出来ます。

 円満さんの表情は至って普通ですし、怒気の類も感じませんから怒ってないと思うのですが……。

 

 「あ、あの……。ごめんなさい!私、満潮ちゃんに酷い事をしてしまいました!」

 「ああ、その事?別に良いわよ。アンタと一緒に居たらああなる(・・・・)って、わかっててそうしたんだから」

 「で、でもその……。営倉入りくらいはしなきゃダメです……よね?命令違反をしたんですし」

 「私に、大本営付きの艦娘である貴女に対するそんな権限はないわ」

 

 いや、確かにないですけど……。

 それくらいはしてくれないと私の気が済まないと言いますか、晴れないと言いますか……。

 

 「それでも、貴女が謝りたいって言うなら満潮に謝ってあげなさい」

 

 なんだろう。

 若干事務的ですが、口調も態度も普段の円満さんです。なのに凄く遠く感じます。拒絶されてる気さえします。

 怒ってるのを悟らせないようにしてるだけで、やっぱり本当は怒ってるのでしょうか。

 

 「用はそれだけ?だったら悪いんだけど、もうすぐ午後の哨戒に出てた子たちが帰ってくるから退室してくれないかしら。意外と混むの、ここで秘書艦やってた貴女なら知ってるでしょ?」

 「知ってますけど……。でも!」

 「桜子さん。お願いしていい?」

 

 円満さんは、私が出て行く気がないと察するなり、入口で腕組みをして趨勢を見守っていた桜子さんに声をかけました。恐らく「連れて出て行って」と暗に言ったんだと思います。

 なるほど。

 私と言葉を交わしたくない。私の顔を見ていたくないと、そういう事ですね?

 だから、こんなに事務的な態度なのですね。

 事務的に対応して、私に感情を悟られないようにしているのですね。

 

 「言ってくださいよ。言いたい事があるんじゃないんですか?私に腹が立って仕方ないんじゃないですか!?ねえ!円満さん!」

 「やめなさい。大淀。帰るわよ」

 「帰れません!円満さんの本音を聞くまでは帰りません!」

 

 私が激昂しても、円満さんは澄まし顔で眉一つ動かしていない。

 私は円満さんの指示を無視して演習を滅茶苦茶にしたんですよ?ムカつくでしょ?本当は怒鳴りたいんでしょ?

 私は円満さんの大切な満潮ちゃんを傷つけたんですよ?憎いでしょ?本当は殴りたいんでしょ?

 だったら澄ましてないでそうしてくださいよ!

 その方が、罵詈雑言を浴びせ掛けられたり殴られたりする方が、こんな他人行儀な態度を取られるより遥かに気が楽です!

 

 「だから、円満はそうしてるのよ。貴女には、その方が堪えるでしょう?」

 「なっ……!」

 

 考えを読まれた!?

 は、今さらか、円満さんはもちろん、桜子さんに隠し事なんて出来ません。円満さんにしても桜子さんにしても、頭の中が透けて見えているかのように私の考えを読んできますから。

 

 「もう良いでしょ。行くわよ」

 「ま、待って!まだぁぁぁぁぁ!?痛い痛い!そっち折れてます!そっちは折れてる方ですからぁぁぁ!」

 「だから引っ張ってんのよ。つべこべ言ってないで来い」

 

 桜子さんに首から下げていた折れた左手を引っ張られて、私は無理矢理執務室から連れ出されました。

 せめて右手にしてください!脱臼させられた肩ならほぼ治ってますから!折れてる方はやめて!

 それにですね?私、満潮ちゃんとの戦いで腰を痛めてるんです。私の腰は湿布まみれなんです!

 もしかして怒ってるんですか?桜子さんが怒りっぽいのは知ってますけど、なぜ急に機嫌が悪くなったのか理由がわかりません。

 

 「あの……。桜子さん?」

 「何よ」

 「なんで、怒ってるんですか?」

 「怒ってない」

 「怒ってますよね?」

 「しつっこいわね!怒ってないって言ってるでしょ!」

 

 ほら怒ってる。

 寮から出た辺りで聞いてみたらビンゴでした。

 でも私、何か桜子さんを怒らせるような事したかしら。それとも、別の事で怒ってるんですか?

 

 「なんなのよアイツ!こんな時くらい素直に怒りなさいよ!」

 「さ、桜子さん!?」

 「私、アイツのああいうところが大っ嫌い!感情押し殺して我慢するのがカッコいいとでも思ってんのかクソっ垂れ!」

 

 地面が凹みそうな勢いで地団駄を踏みながら、桜子さんは円満さんに文句を言い出しました。

 桜子さんには、最初から円満さんの澄まし顔が演技だとわかっていたみたいです。

 

 「アイツはね。自分には泣く権利が無いって思ってるのよ。貴女を罵倒する権利が無いって思ってるのよ!だからあんな態度が取れるのよ!」

 「権利が、無い?」

 「そうよ!アイツは満潮が貴女に半殺しにされるのをわかってて同じ場所に配置した!貴女が暴走したら。その身を犠牲にしてでも止めようとするってわかっててね!」

 

 だから、泣く権利も私を罵倒する権利も無いと?

 でも桜子さんは、あの態度の方が私は堪えると……。私に仕返しするためにああしてたんじゃないんですか?

 あ、そうか。両方を兼ねてるんですね。

 円満さんのさっきの態度は、私への仕返しと同時に自分への罰でもあるんだ。

 

 「はぁ……。弱いクセに背負いすぎなのよ。あのままじゃ、そう遠くない内に潰れかねない……」

 「そんな……。円満さんはけっして弱くは……」

 「弱いわよ!感情を殺さなきゃ命令も出せない!自分を殺さなきゃ冷酷にもなれない!いくらお父さんの弟子だからって、ダメなとこまで真似る必要なんてないのに!」

 

 桜子さんは大嫌いと言いましたが、本当は円満さんの事が心配で仕方はないみたいです。

 桜子さんの言う通り、円満さんが主人のダメなところまで真似ているのなら、円満さんの心はどれ程傷ついていいるんでしょうか。どれだけの痛みに耐えているのでしょうか。

 

 「お父さんには私たちが居るから良いけど、アイツには満潮しか居ないの。円満が本当に心を許せるのは満潮しかいないのに……」

 

 私が、一時とは言え奪ってしまった。

 円満さんの心の拠り所である満潮ちゃんを傷つけ、円満さんから奪ってしまった。

 自分の我が儘を、押し通すために。

 

 「ねえ、大淀。貴女がお父さんの幸せを守る事以外に興味がないのはわかってるし、ありがたいとも思ってる。でもね?もし、今日の事で満潮が死んでたらお父さんは悲しむよ?死んだ満潮に縋り付いて泣く円満を見たら、お父さんはきっと後悔するよ?」

 「ですが、私は……」

 「全部守りなさいよ!貴女はお父さんが満足して人生を終えれるようするんでしょ!?だったら守ってよ!円満も満潮も守りなさいよ!貴女にはそれだけの力があるのよ!?」

 「か、買いかぶり過ぎです……。私はそこまで強く……」

 

 ない。

 朝潮だった頃は出来ると思っていました。主人の身も心も守れると思っていました。

 でも、歳を重ねるに連れて、身を守るので精一杯になっていきました。

 心を守るのをお座なりにするようになりました。生きてさえいれば良い。生きてさえいれば幸せになれると、言い訳を重ねるようになりました。

 私と一つになった、初代朝潮と同じよう考えをするようになりました。

 約束を、破ってしまいました……。

 その結果、私は満潮ちゃんを傷つけ、円満さんに嫌われてしまった。

 大好きだったお姉ちゃんに、嫌われてしまいました。

 

 「私…朝潮だった頃より弱くなってたんですね……」

 

 桜子さんは何も言わない。

 何も言わず、黙って私の懺悔を聞いてくれています。

 朝潮だった頃、主人と結婚する前までは全ての悲しみからあの人を守ると誓っていたのに、それをいともアッサリ破った私の懺悔を。

 

 「中途半端に大人になったせいで諦めてしまった……。だから、窮奇にも負けてしまった」

 

 初めて私を愛してると言ってくれた人。全てを投げ捨てて私を求めてくれた人。

 正直、迷惑でしたし気持ち悪かったです。でも、歪んではいましたが、彼女の真っ直ぐなところに憧れと言いますか、嫉妬と言いますか、そんな感情を抱いていたんです。

 彼女みたいに、素直に感情をぶつけたいと思ったんです。

 

 「あ~……。浸ってるとこ悪いんだけど、貴女が乱入したくらいから窮奇は引っ込んでたみたいよ?」

 「そ、そうなのですか!?」

 

 言われてみれば、あの時の彼女からはかつての気持ち悪さを感じませんでしたね……。

 それに、戦い方もかつての窮奇とはかけ離れていましたし、弟が云々と訳のわからない事を言っていました。

 

 「じゃあ、私は……」

 「ド新人の戦艦に負けたの。両手をぶっ壊されてね」

 「あぅ……」

 

 さ、さすがに落ち込んでしまいますね。

 負けたのは窮奇だと思ってましたから、今までさして落ち込まずに済んでいたのですが。

 

 「アイツ、大和はね。私も資料で読んだ程度のことしか知らないんだけど、貴女に助けられた事があるらしいわ」

 「私に…ですか?」

 「そう、今から3年ほど前。ほら、貴女がお父さんから指輪を貰った日よ」

 「指輪を貰った日?じゃあ、あの時救助したフェリーに?え?でも、それならどうして……」

 

 私は恨まれているのですか?

 助けてやったんだから感謝しろ。とは言いませんが、恨まれる筋合いはないと思うのですけど。

 

 「これは単なる想像だから合ってるかわかんないんだけど。たぶん大和は、その時に身内。貴女と戦ってる最中に言ってた弟を亡くしたのよ」

 「でもそれなら」

 「恨むべきは深海棲艦。って言いたいんでしょ?それは私もそう思う。でもね?貴女、その場にいた深海棲艦を全部沈めちゃったでしょ」

 「ええ、まあ……」

 

 全部を私一人で沈めた訳ではないですが、確かに大半は私が沈めました。主人から指輪を貰ってテンションがアゲアゲでしたし、ケッコンカッコカリの効果も表れてましたから。

 でも、弟さんを亡くしたのは不憫だと思いますけど、それで私を恨むのは筋違いなのでは?

 

 「恐らく、大和はこう思ったんでしょうね。『どうして、もっと早く来てくれなかったんだ』って」

 「そ、そんな事言われても……」

 

 どうしようもない。

 あの日、第九駆逐隊からの救援要請を受けて数分もしない内に私たちは出撃しました。

 現場に着いたのは出撃して数十分後でしたが、それでも出来る限り急いで行ったんです。

 最初から私たちが護衛に着いていたなら兎も角、襲撃された後から行った私のせいで弟さんが死んだと言われても……。正直、そのぉ……。

 

 「迷惑としか思えない?そうでしょうね。私でもそう思うわ。でも、大和には関係ない。その戦闘の最中、貴女の姿が目についてしまった。恨むべき仇を貴女が沈めてしまった。だから、恨みの矛先を貴女に向けた。ただ、それだけよ」

 「そんなのどうしろって言うんですか。あの時言われたように、許しを請えば良いのですか?それで彼女は満足してくれるのですか?」

 「そんなの、私に聞かれてもわかんないわよ。大和の気が済むまで殴って貰えば?」

 「嫌です。窮奇みたいに殴られて悦ぶ趣味はありませんので」

 「我が儘ねぇ。円満には殴られたがってたクセに」

 

 それはそうですが、円満さんの場合は私に非があったからです。営倉入りだって覚悟していました。

 でも、彼女の場合は違います。

 どう考えても私に非はありませんもの。それなのに、逆恨みされた上に殴られるなんてまっぴらごめんです。

 

 「まあ、明日には大本営に戻るんだから、しばらくは大和と顔を合わす事はないか」

 「そうですけど……。なんかスッキリしません」

 

 私恨んでいる人が居る。

 その事を知ってしまっただけなのに、私の胸中は霧でもかかったようにモヤモヤしています。

 これが恨まれると言う事なのでしょうか。

 この気持ちが晴れることはあるのでしょうか。

 

 「小難しい事考えてんじゃないわよ。挑まれたら叩き潰すだけ。そうでしょう?」

 

 私は桜子さんと違ってそこまで短絡思考ではないのですが……。

 でも、それが一番簡単なのかしら。

 挑まれる度に返り討ちにしてれば、大和さんは諦めてくれるかもしれません。

 それどころか、仲良くなる事も出来るかもしれない。

 それに、負けっぱなしは性に合いませんから。

 

 「はい、勝ちます。私の本気は、あんなモノじゃないんですから」

 

 悔しいですが、大和さんに負けたことで昔の気持ちが甦って来ました。

 私は主人を守る。

 命はもちろん、心も守ります。

 だから、私はもう切り捨てない。主人を守るためなら敵とだって手を組みますし、主人と関わりのある人は全員守ります。

 私の、全てを賭けて。

 だから、私はこう言います。

 かつての私を叩き起こし、新たな存在として甦った彼女に勝つために。大和さんの恨みを、真っ向から受け止めるために。

 

 「この大淀。勝負なら、いつでも受けて立つ覚悟です!」

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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