艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第二十九話 お世話させて頂きます。

 

 

 演習の結果は大どんでん返し。

 大和は横須賀No.1駆逐艦である叢雲に勝利。その後、何故か乱入して来た全艦娘最強との呼び声高い軽巡洋艦 大淀に事実上の敗北を与えた。

 その事を、寮に張り出される壁新聞『週刊 青葉見ちゃいました!』の号外を見て知った時は度肝を抜かれすぎて目玉が飛び出るかと思ったわ。

 

 「これ、本当なのかしら……」

 「にわかには信じられません。あの大淀さんが負けた?その気になれば素手で戦艦を殴り飛ばすような人なんですよ?」

 

 私と共に午後の哨戒に出ていた神風ちゃんも似たような反応をしてるわね。いえ、大淀さんの実力を知っている神風ちゃんの方が驚いてるかしら。

 

 「もしかして、大和さんって天才だったりします?」

 「さあ……。大和とはそれほど親しい訳じゃないからわからないわ」

 

 大和は私の事を心友とか言ってるけど、当の私は大和の事をほとんど知らない。

 旅館を営む家の養子で、高校を卒業した後は、養成所への不法侵入を繰り返すようになるまでは家の手伝いをしてたくらいしか知らない。

 以前、からかってやろうと「へぇ~。貴女の家ってホテルなんだ」と言った事があるんだけど、それを聞いた大和に「ホテルじゃありません!」とガチギレされた事があったわ。

 

 「実際に見ていた人に聞くのが確実なんでしょうけど、親しい人で見てた人いる?」

 「桜子先輩が見てたはずです。でも、連絡取れるかしら。今日は元帥さんが一緒に居るはずだし……」

 「閣下が居るとマズいの?」 

 「マズいと言うより、桜ちゃん相手に元帥さんを取り合って電話に出てくれないんです。本人は否定するんですけど、あの人って筋金入りのファザコンですから」

 

 あら意外。

 初めて『猫の目』に行った日以来会ってないけど、初見で反抗期はバリバリだったのが想像できるくらいぶっ飛んだ人だったわ。

 しかも、旦那さんは私と大和を迎えに来た舎弟みたいな喋り方する劣化海坊主でしょ?

 二人が並んだ姿を見たことはないけど、控えめに言ってDQN夫婦ね。特攻服来てヤンキー座りしてる姿が容易に想像できるわ。

 そんなあの人がファザコン?

 いい歳こいた赤い髪のDQNが、実の娘相手に父親を取り合う光景なんて想像出来ないわ。

 

 「ラインとかは?その内返信が来るかもよ?」

 「無理です。先輩はスマホを持ってませんから」

 「今時?珍しいわね。規則か何かで持てないの?」

 「いえいえ、単に使えないだけです。先輩って、ウケ狙いでやってるんじゃないかって疑っちゃうくらいの機械オンチなんですよ」

 

 神風ちゃんの話では、赤髪DQN。もとい桜子さんは、電子機器の扱いが致命的に苦手らしい。

 スマホが操作できないのは当たり前、炊飯器や電子レンジさえまともに使えないらしいわ。

 酷いのになると、電卓の使い方がわからないから計算は暗算か算盤頼りなんだとか。

 「ご飯は旦那さんが作ってるの?」って聞いたら。「ガスコンロは使えるから問題ないみたいです」とのこと。

 なんでも、お米は土鍋ご飯。オカズも、小難しい操作を必要としない調理器具を駆使して毎食作ってるんだとか。

 

 「へぇ。思ってたより家庭的なのね」

 「先輩は性格に難はありますが、家事全般そつなく熟しますよ。料理も上手ですし」

 

 難があるのは性格だけ?見た目は?

 ってツッコみたいけど、それを言っちゃうと同じ髪色の神風ちゃんまでDQN扱いしてるみたいになるから言わないでおこう。

 元神風だって聞いたし、もしかしたら艦娘だった後遺症であんな派手な髪色なのかも知れないからね。

 

 「大和さんには聞けないんですか?お友達なんですよね?」

 「不本意ながらそうだけど……。電話したくないなぁ」

 「嫌いなんですか?」

 「嫌いな訳じゃないわ。好んで関わりたくないだけ」

 

 だって、大和って私の話をまともに聞いてくれないし、言ってる事も理解出来ないんだもの。

 友人だとは思ってるけど、相手をしてると疲れるから好んで関わりたくないの。

 

 「じゃあ、円満さんに聞いてみましょうか。哨戒の報告をしに行くついでに」

 「大丈夫?他の艦隊も報告に行くだろうから忙しいんじゃない?」

 

 報告書は後日に提出するけど、口頭での報告はその日の内にしなければならない。

 週ごとに夜間哨戒に出る艦隊の見送りと、午後からの哨戒の報告を聞く役が提督と辰見大佐で変わるけど今週は提督が報告を聞く役。

 何故役割を分けているかと言うと、艦娘が提督や辰見大佐とのコミュニケーションを取って距離を縮めるため。それに加え、一時とは言え哨戒に出る艦娘と帰って来た艦娘が執務室へ同時に押し掛けてごった返しになる事態を防ぐためだそうよ。

 だから、午後の哨戒に出た艦隊が帰って来る時間。18:00(ヒトハチマルマル)前後は執務室に旗艦を務めた艦娘が来るから、提督は報告を聞くので忙しくなるの。

 夜間哨戒に出る艦隊は、余程の異常が無い限りは提督でも辰見大佐でもなく別の人に報告するんだけど、今は関係ないから割愛するわね。

 

 「帰って来たのは私達が最後だったから平気なはずですよ?」

 「あ、あぁ…そうだったわね……」

 

 何故最後になったのか。

 それは、私が羅針盤を読み間違えて変な方向に行っちゃったせいよ。

 まさか、北と南が逆になってるとは思わなかったなぁ……。

 

 「け、軽巡 矢矧です!哨戒の報告に参りました。入っても宜しいでしょうか」

 『入りなさい』

 

 実際に艦隊の指揮を執るのは神風ちゃんなんだけど、提督への報告は名目上の旗艦である私がする事になっている。もちろん、報告書の作成もね。

 すぐ傍に神風ちゃんも居てくれてるけど、私のせいで帰投が遅れちゃったから少し緊張するわね。

 入りなさい。と言った提督の声も若干イラついてるように聞こえたし、やっぱり怒られたりするのかしら……。

 

 「し、失礼します!」

 「失礼します。って、円満さん。どうかしたんですか?目元がそのぉ……」

 

 神風ちゃんが言った提督の目元は、まるで直前まで泣いていたかのように赤く腫れていた。

 私達の帰りが遅いから心配して。って感じでもないわね。何か悲しい事でもあったのかしら。

 

 「気にしないで良いわ。それより報告をしてちょうだい」

 「は、はい!」

 

 私は担当範囲の異常の有無。深海棲艦との会敵、戦闘などが無かったことを報告し、最後に帰投が遅れた原因を伝えた。

 怒られるかな?提督は怒ってる?

 私の目を真っ直ぐ見て報告を聞いてくれてるけど、提督の表情からは感情まで読み取れない。

 

 「そう。異常がなかったのなら良い。帰投が遅れた事も咎めない。お疲れ様」

 「はい!ありがとうございます!」

 「ただし。矢矧は今日の反省点をレポートにして、報告書と共に後日提出すること。良いわね?」

 「はい……」

 

 ですよねぇ……。

 本来なら、駆逐艦を率いるべき軽巡洋艦である私が羅針盤を読み間違えるという大ポカをやらかしたんだもの。反省文の提出くらいは当たり前よね。

 

 「円満さん。今日はこれで上がりですか?」

 「仕事は終わりだけど、今から『病院』に向かうわ。何か用事があるの?神風」

 「用事って程じゃないんですけど……。ん?『病院』?どこか悪いんですか?」

 

 ここで言う『病院』とは、一般の病院じゃなくて工廠の一部。艦娘を治療する施設の事よ。

 もちろん、艤装を背負ってなければ普通の人間と大差のない艦娘を治療するだけあって、艦娘じゃない職員達の診察や治療も行う。艦娘の治療が最優先ではあるけどね。

 

 「私の体が悪いんじゃないわ。満潮の様子を見に行くだけよ」

 「満潮さん?満潮さんに何かあったんですか!?」

 「ええ……。負傷して今も意識がもどっ……。戻らない」

 

 提督は今にも泣きそうになりながらも、なんとか平静を保ってそう言った。

 どうして満潮ちゃんが意識がもどらいほどの負傷を?

 養成所の時みたいに、深海棲艦による襲撃でもあったのかしら。

 う~ん。ないわね。

 そんな事態になってれば戻れなり言われるはずだし、例えそんな事態になったとしても、姫級の戦艦と渡り合えると評される満潮ちゃんが、こんな近海に出るような敵に負傷させられるとは思えない。

 

 「ごめんなさい。もう出るから、貴女たちはお風呂にでも入って今日はゆっくりしなさい」

 「は、はい。失礼します」

 

 半ば追い出されるように執務室を後にした私と神風ちゃんは、提督に言われた通りお風呂に入るために着替えを取りにお互いの部屋に戻り、お風呂場の前で再び合流した。

 提督のあの様子じゃ、演習の話なんか聞けないわよね……。満潮ちゃんが心配で仕方ないみたいだったし。

 

 「演習で何があったのか益々気になって来たわね」

 「そうですね。演習の内容以上に、満潮さんが負傷した事の方が気になりますけど」

 「お風呂から上がったら食堂に行ってみる?誰かしら話題にはしてるでしょうし」

 「そうですね。そうしましょう」

 

 これからの予定も決まり、私達は再び別れた。

 どうしてこの鎮守府って、駆逐艦用とその他の艦種用でお風呂が分かれてるのかしら。

 だって、駆逐艦用のお風呂ってかなりの広さがあるのよ?

 それに、駆逐艦用のお風呂場の入口には『上位艦種は入場禁止。特に長門』と書かれた看板がかけられてるし……。

 長門さんが何かしたせいで浴場を分けられたのかしら。

 

 「まあ良いか。こっちも相応に広い……。げ……」

 「あら、やはぎんじゃないですか」

 

 脱衣所に入ると一糸まとわぬ姿になった大和と鉢合わせした。

 哨戒帰りで疲れてるのに大和の相手をするのは辛いわね……。もう入浴を済ませて着換えるところ…じゃないわね。たった今下着を脱いだって感じだわ。

 

 「やはぎんは今から入浴ですか?」

 「え、ええ、今からよ」

 「それは良いタイミングです!私も今からですので一緒に入りましょう!裸の付き合いってヤツです!」

 

 若干興奮気味に、大和は胸の前でガッツポーズをして詰め寄って来た。

 大和の裸を見るのは初めてだけどデカいわね。

 身長もだけど胸が。

 動く度に震えてるじゃない。あまりに見事な揺れっぷりのせいで「おっぱいぷるんぷるん!」ってセリフが脳裏を駆け巡ったわ。

 

 「おお……。やはぎんも中々良い物をお持ちで」

 「ジロジロ見ないでくれない?貴女のに比べたら貧相この上ないわ」

 「何を仰います!胸は大きければ良いわけではありません!色艶はもちろん。匂いと湿度も肝心です!」

 

 百歩譲って匂いは良いとして湿度って何?湿ってれば良いの?しっとりしてれば良いの?って言うか、なんで熱く語ってるの?

 

 「昔、幼い私にお祖父さまが教えてくださいました。曰く、『おっぱいは脂肪の塊なんかじゃない。おっぱいには夢が詰まってるんだ』と」

 

 そのジジイ頭大丈夫?

 どんな会話の果てにそんなセリフを口にしたのかはわからないけど、どう好意的に取っても幼子に教えて良いセリフじゃないわよ。憲兵さん呼ぶ?

 

 「そう言えば、演習で大暴れしたみたいじゃない。何があったの?」

 「ええ、まあ。やはぎんは見てなかったんですか?」

 「哨戒に出てたからね。壁新聞に載ってた程度の内容しか知らないわ」

 

 体を洗い終え、湯船に浸かった私は気になっていた演習の内容を尋ねてみることにした。

 大和は当事者だから、観戦してた人より詳しく聞けると思ったのよ。

 

 「何があったのかを説明するのは難しいですね。私がお話出来るのは最初の十数分と、ハレンチメガネが乱入して来た後の事だけですから」

 「ハ、ハレンチメガネ?それって大淀さんの事?」

 「そうです。大淀の事です。今回は仕留め損ないましたが次こそは……」

 

 大和は大淀さんの事が嫌いなのかしら

 彼女の名前を口にした途端、憎々しげに顔を歪めちゃったけど……。

 

 「大淀さんと、何かあったの?」

 「……心友であるやはぎんには、話しても良いかもしれませんね」

 

 それから大和は淡々と話してくれた。

 今から3年ほど前、正化30年に、当時はまだ朝潮だった大淀さんに助けられたこと。

 彼女の到着が遅かったせいで、弟さんを亡くしたことを。

 

 「あの…さ。言いにくいんだけど、それって……」

 「ええ、逆恨みです。それはわかってるんです。でも……」

 

 心は納得してくれない。

 どうしても、恨みの矛先を彼女に向けてしまう。

 最初は彼女と同じ駆逐艦になって、彼女に出来なかった事を自分がやって見せてやるつもりだったそうよ。

 でも、大和には駆逐艦はおろか、艦娘になれる適性が無かった。

 だから、不法侵入までして艦娘を目指した。

 艦娘になれない失意と絶望に耐え続ける内に、大和の復讐心は大淀さんの命を奪おうとするほど膨れ上がってしまった。

 そうしている内に、大和は自分では制御出来ないほどの化け物を胸の内に生み出してしまった。

 

 「さっき、大淀さんが乱入して来る前の事を説明出来ないって言ったのもそれが原因?」

 「いえ、それは単に記憶がないだけです。返してもらって最初の内は覚えていたんですが」

 「返してもらった?何を?誰に?」

 「さあ?」

 

 いやいや、さあ?って何よさあ?って。自分の事なのになんで覚えてないのよ。

 もしかして、大和ってその歳で認知症?私と同い年よね?ああでも、大和なら認知症でも不思議はないか。単に馬鹿って可能性もあるけど。

 

 「私も不思議なんです。その時の記憶が、時間が経つに連れて朧気になってしまって……。夢の内容を覚えていない感じに似てるでしょうか」

 「白昼夢でも見てたって言うの?演習とは言え戦闘中に?」

 「夢見る少女ですから」

 「言ってろ。少女を自称していい大きさじゃないでしょ」

 

 ドヤ顔で言ったとこ悪いけど、貴女ってどう見ても少女には見えないからね?強いて言うなら大女だからね?

 男性顔負けの身長で何言ってんのよ。寝言なら寝て言いなさい。

 

 「酷い!やはぎんだって大きいじゃないですか!」

 「何が?貴女より頭一つ分は小さいけど?」

 「身長じゃありません!おっぱいです!ツンと上向きでピンク色の乳首。ブラを取っても形が殆ど変わらず量感にもあふれてボリュームもたっぷり!もっとも美しくエロさ漂うおっぱいの理想形。最高級のおっぱいです!ちなみに!やはぎんみたいなおっぱいの形を釣鐘型と言うんですよ?おっぱいソムリエ垂涎の一品。いえ、逸品です!あ、こんな所にホクロが」

 「人の胸の特徴を事細かに説明しないでくれない!?」

 

 なんか教師みたいな仕草で得意げに語ってるけど嬉しくないからね?褒められてるんだとは思うけど欠片も嬉しくないから!

 

 「ちなみに、私のは円錐型と呼ばれるおっぱいです。見ようによってはロケットみたいに見えなくもないですが、けっして飛びませんから注意してください」

 「聞いてない!と言うか、何に注意しろと!?」

 「え?だって、やはぎんだったら『飛びそう』とか言いそうだから……」

 「言わねぇよ!男子小学生じゃあるまいに!」

 「ふぁ!?やはぎん男の子だったんですか!?」

 「どうしてそうなるの!?生えてる!?何がとまでは言わないけど生えてる!?生えてないでしょうが!」

 

 私は思わず立ち上がって大和に見せつけた。何処を?とか聞かないでね。そこは察してちょうだい。

 もし、万が一、絶対に有り得ないことだけど、私が男だったらアウトだわ。即座に憲兵さんに連行されてカツ丼を振る舞われながら「どうしてあんな事をしたんだ!言え!」と詰め寄られるでしょう。

 

 「あ、あの……。はい、それなりに茂ってます。はい」

 「毛じゃねぇよ!」

 

 顔を赤らめてチラチラ見るな。

 ジーっと見られるより視線を感じてこそばゆいじゃない。そっちの趣味に目覚めたらどう責任取ってくれるの?

 

 「はぁ、貴女と話すと本当に疲れる……」

 「そうですか?朝潮ちゃんは、私と話すと癒されるって言ってくれますよ?」

 「貴女、元朝潮の大淀さんを恨んでるクセに朝潮ちゃんの事は何とも思わないのね」

 「え?だって朝潮ちゃんとハレンチメガネは別人じゃないですか」

 

 ああ、そこはちゃんと区別してるんだ。

 気が狂いそうなほど大淀さんを恨んでいるのなら、その身内と言えなくもない朝潮ちゃんの事も良く思ってないのかと心配したけどそんな事なかったのね。

 意外と分別があるじゃない。

 

 「演習が終わって浜に戻った時も本気で心配してくれました。「よーしよしよし。お腹空いてないですか?」とか「怪我をしてますね。急いで獣医さんに見て貰いましょう!」って感じで」

 「いや、貴女がそれで良いなら良いけど」

 

 人間に見られてなくない?完全に犬扱いよそれ。

 と言うか、怪我より先にお腹の空き具合を心配されるってどういう事?大和はもちろんだけど、朝潮ちゃんも同じくらいおバカなの?

 

 「あれ?でも貴女、怪我なんてしてないじゃない。綺麗な体してるし」

 「や、やはぎんのお気持ちは嬉ですが私はノーマルです。だから諦めてください」

 「別に貴女の体を狙ってる訳じゃないからね?終いには殴るよ?」

 

 両手で胸を隠してジリジリと離れてるけど、私は至ってノーマルだし同性に欲情するほど餓えてもないから。

 だいたい、普段朝潮ちゃんにリードで繋がれて雌犬プレイしてる貴女に言われたくないわよ。

 自分の普段の行いを思い出してから言いなさい。この雌犬が。

 

 「高速修復材とやらのおかげですぐに治っちゃいました。火傷や切り傷、擦り傷、打ち身に捻挫等々はこれ一本で解決です」

 「傷薬のキャッチコピーか。いい加減にして」

 

 それは兎も角。

 他の鎮守府や泊地と違って、ここ横須賀鎮守府は艤装の修理に高速修復材を使うことはあっても、艦娘自身に使うのは傷跡や後遺症が残りそうな時だけって、神風ちゃんから聞いてたんだけどなぁ。

 ああでも、逆に考えれば大和はそうなりそうな程の怪我を負ってたって事になるのか。

 

 「高速修復材と言えば、満潮ちゃんが負傷して意識が戻らないって提督が言ってたけど何があったの?」

 「わかりません」

 「記憶が朧気って事?」

 「いえ、そうではなくて本当にわからないんです。私を止めに来た時には既に負傷していて……」

 

 そこまで言って、大和は沈痛な面持ちで押し黙ってしまった。

 満潮ちゃんは貴女の教官だもんね。心配なのは痛いほどわかるわ。

 私だって、大城戸教官が怪我をしたって聞いたら居ても立ってもいられなくなるもの。

 

 「お見舞い。行かないの?」

 「治療を受けた後病室に行ったんですが……。辰見さん、でしたっけ?に、面会謝絶だと追い返されてしまいまして」

 「そんなに酷い怪我なんだ……」

 「はい。右半身が焼け焦げていました。何かの爆発に巻き込まれたかのように」

 

 爆発、か。

 私が軽巡だからかも知れないけど、パッと思い付くのは魚雷ね。大和は右半身って言ってたから、左に回避しようとしたものの、爆発の圏内から逃げ切れなかったんでしょうね。

 

 「心配?」

 「ええ、心配です。でも大丈夫です!教官はちゃんと完治しますし、提督は私を気遣ってくれたのか、しばらくの間は やはぎんと行動しろと言ってくださいましたから」

 「は?今なんて?」

 「聞いてないんですか?明後日からですが、教官が動けるようになるまで やはぎんと行動しろ、と提督に言われました」

 「いや、ちょっとなに言ってるかわかんない」

 

 そんな話はまったく聞いてない。提督も神風ちゃんもそんな事は言ってなかった。

 もしかして言い忘れた?

 提督は満潮ちゃんの容態を心配するあまり、言うのを忘れちゃったの?

 それとも、明日言うつもりだったのかしら。

 どちらにしても迷惑この上ない。主に私に!

 話すだけ疲れるのに一緒に行動しろ?どの程度まで一緒に行動しろと?軽巡の私と大和じゃ訓練の仕方だって違うだろうし(たぶん)、訓練場以上の範囲を航行した事がないはずの大和を連れて哨戒に出るわけにもいかない。って言うか哨戒で戦艦を使うとかコスパ悪すぎでしょ。

 

 「やはぎんと一緒に出撃するかも知れないと思うと楽しみで仕方ありません♪ね、やはぎん♪」

 「え?やだ」

 

 絶対に嫌だ。

 提督は何を考えてるの?満潮ちゃんがいない間、大和と面識のある私に面倒を見させようって魂胆なの?

 そりゃあ、私だって艦娘の端くれですし?提督のご命令には従いますよ。ええ、従いますとも。

 例え死んでこいと言われても、瀕死の仲間を見捨てろと命じられても従います(たぶん)。

 でも、これだけは無理。

 一日の大半を大和と一緒に過ごせ?ハハハッ♪何よその拷問。一日中大和の相手をするくらいなら敵艦隊に一人で突っ込めと言われる方が気楽よ。

 

 「ちょっと提督に抗議してくる」

 「何をですか?」

 「アンタのお守り役は嫌だって言いに行くのよ!決まってんでしょ!」

 「ええ!?ダメですよ!ちゃんと面倒見てくれなきゃ!」

 「見たくないから文句言いに行くのよ!ってか離せ!足を引っ張るな!」

 

 湯船から上がった私の左足に抱きつき、デカ女は物理的に足を引っ張ってきた。

 ええ、私の左足は大和の胸の谷間に埋まってるわ。何よこの、柔らかくて気持ちが良いとは思うけど全く嬉しくない体験は。女の胸に足を埋めて悦ぶ趣味なんてないんだけど?

 それよりもなんて力してんのよコイツ。

 抱きつかれているとは言え足がビクとも動かない。いや?これは単に大和が重いだけかしら。

 

 「ふぅ……。OKわかったわ。提督に文句言いに行くのはやめる」

 「ほ、本当ですか?」

 「本当よ。だから足を離してくれない?」

 

 大和は恐る恐る両手を離して、若干潤んだ瞳で私を見上げてる。

 ふむ、なかなかにエロい。

 両手を腿の間に挟んでるせいで胸が強調され、更に上目遣いをしながらへたり込む大和はその手の雑誌のグラビア写真でありそうだわ。

 男性が見たら、理性なんて跡形もなく吹き飛んでルパンダイブでもしちゃうんじゃないかしら。

 でもおあいにく様。

 私は至ってノーマル。今の貴女を見たって何とも思わない。馬鹿な男みたいにムラムラしてガー!ってなったりもしない。

 だから、誰かのセリフをパクってる気がするけど「馬鹿め」と言って差し上げるわ大和。

 諦めた風を装ったのは演技。そう、貴女の拘束から逃れるための演技!

 押してダメなら引いてみろってヤツよ!

 

 「あ~ばよ!とっつぁ~ん!」

 

 私は某怪盗の三代目のセリフを言いながら脱衣所へダッシュした。

 着替え中に追い付かれるかな?とも考えたけど、庁舎の南側、つまり艦娘寮側に位置するお風呂場の外は基本的に同性である艦娘しか居ない。

 全裸で飛び出ても失うモノは少なくて済む!

 

 「逃しません!」

 「なっ……!?」

 

 大和は、その巨体からは考えられないような速度で私の腰に飛び付いてきた。

 そのせいで、腰からゴキゴキゴキッ!って嫌な音が聞こえたけど大丈夫かしらこれ。って、それは今はいい。

 デカ女のタックルをモロに食らったせいで、私は大和諸共脱衣所の床に倒れ込んでしまった。

 しかも、質が悪い事に大和に太腿辺りに乗られてマウントを取られた状態でうつ伏せ。このままじゃ逃げられない!

 

 「さあ、どうしてくれましょうか」

 「何よ、その手の動き。まさかとは思うけど……。ひゃん!」

 「あらあら。やはぎんは背中が弱いのですね」

 

 コイツ、私の背筋を触れるか触れないかという微妙な手加減で人差し指をつーっと這わせやがった。

 気持ち良い。もとい、気持ち悪い刺激が背中を駆け巡ったせいで変な声を上げちゃったわ。

 

 「素直に、私の面倒を見ると言えばやめてあげますよ?」

 「誰が言うかぁぁぁぁん!『の』はやめて!その絶妙な力加減で『の』の字をかかないでぇぇぇ!」

 「強情ですねぇ。では、これならどうです?」

 「ひゃあぁん!」

 

 大和は卑怯にも、身動きが取れない私の腋から脇腹にかけて、指を羽毛のようなソフトタッチで這わせた。

 それはあまりにもこそばゆく、かつ若干物足りなさを感じさせ、私の上半身はバネでも仕掛けられているかのように跳ね上がった。

 

 「あはははは♪まるでオットセイみたいですよ♪」

 「ふぅ…ふぅ……。ふぐぅ……!」

 

 私は自らの両手で口を押さえ、淫らな声を出さないようにして大和が私の体を愛撫、再度もとい、弄ぶのに飽きるまでひたすら耐えた。耐えるつもりだった。

 だけど、大和の執拗な攻撃により、意志とは関係無しに、私に体は快楽を求め始めた。

 もっと強く。もっと激しく。もっと下の方を。ってね。

 

 「はぁ…はぁ…んっ……!」

 「ふふふ♪体は正直なんですね。こんなに火照ってしまって。どうです?心も素直になってみませんか?」

 「じょ…ぁん!冗談じゃない。誰が貴女のお守りなんてするもんか!」

 「じゃあ、もっと素直にしてあげましょう」

 

 私が腕を立てて上体を起こしたのを見計らったのように、大和は両手で私の胸を鷲掴みにした。

 指が食い込むくらい強くね。

 思わず「下手クソ!」って言いそうになったけど、そう言うよりも早く、大和は下乳の辺りから優しく揉み始めた。

 あ、やっべコレ。

 なんでこんなに上手いの?私の弱いポイントを的確に攻めてくる。

 このまま揉まれ続けたら目覚めちゃう。目覚めちゃいけないモノに目覚めちゃう!

 

 「も、もうやめて大和。私…もう……。きゃっ!」

 「ダメですよ。まだ答えを聞いていませんから」

 

 大和は私を仰向けにひっくり返し、吐息がかかる距離まで顔を近付けてそう言った。

 うつ伏せになってたから気付かなかったけど、大和は妖艶と言う言葉が具現化したような顔をしていた。

 同性でありながら、思わず生唾呑んでしまうほど色っぽいわ。

 

 「ぜ、絶対に嫌!」

 「あらまあ、やはぎんは欲しがりさんですねぇ。まだ、イジメられたいのですか?」

 「違う!そんなんじゃない!」

 「では何故、抵抗しないのですか?」

 

 私はその言葉に愕然とした。

 そうだ。どうして私は抵抗しない?私は両手を拘束されていないのに、今も私の胸を揉み続けている大和の手を振り払おうとしない。

 私の体は、すでに大和のテクニックに屈している!

 

 「趣向を変えましょう。私の面倒を見てくれるのならこちら(・・・)もイジメてあげます」

 

 大和の右手が私の腹部をゆっくりと移動しながら下腹部に伸びて行く。

 そこは本当にマズい。

 今までは局部を触られていなかったから果てずに耐えられた。

 だけど、私の快感ゲージは振り切れる寸前。ほんの少しでも触られたら間違いなく振り切れる。

 

 「や、やめ…やめ……て。そこを触られたら私……」

 

 確実に果ててしまう。体だけでなく、心まで大和のテクニックに屈してしまう。

 それなのに、すでに大和に屈している体は抵抗してくれない。むしろ望んでいる。

 早く触れて貰いたくて疼いている!

 

 「矢矧さ~ん。まだかかりそうです……か?」

 「神風ちゃん?どうしてこっちに!?」

 

 大和の右手が私の秘所に達する直前、脱衣所の入口から神風ちゃんが顔を覗かせた。

 恥ずかしいところを見せちゃったけどおかげで助かった…って、神風ちゃん?なんでバツが悪そうに目を逸らすの?

 どうして、ジリジリと後退ってるの?

 

 「いえ、そのぉ……」

 

 神風ちゃんは極力私の方を見ずに言葉を濁らせた。

 たぶん、私が上がってくるのが遅いから様子を見るために覗いてみたって感じなんでしょうけど……。

 

 「まあ……。趣味は人それぞれですから……」

 「待って!違う!違うのぉ!」

 

 勘違いしないでよね!

 私と大和は、神風ちゃんが想像してるような関係じゃない!って言うか退きなさいよデカ女!どうしてこの状況で私の胸を揉み続けられるの!?余計に誤解されるでしょ!

 

 「あ、あの、先に食堂に行ってますから……。その……」

 

 神風ちゃんが出て行こうとしている。私を置いて出て行こうとしている。

 やめて……。置いていかないで……。このままじゃ私……。私……。

 

 「た、助け……」

 「ご、ごゆっくりぃぃぃ!」

 「ちょ!神風ちゃぁぁぁぁん!」

 

 なに?この気持ち。

 悲しいような、寂しいような。怒こりたいような、泣きたいような。これが、置いていかれるって事なのかな。戦場で置き去りにされたら、こんな気持ちになっちゃうのかな。

 

 「うふふ♪邪魔者は居なくなりましたね」

 「やだ…やめて大和……。お願い……」

 「ダぁ~メ♪」

 

 それから、時間にしたら数十分程度だったんだろうけど、私は大和に攻められ続けた。

 何度も何度も、何度も何度も何度も果てたせいで頭がおかしくなった私は、ついにその言葉を口にした。

 拷問のような快楽の嵐から逃れるために、「お世話させて頂きます」と。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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