と言うわけで、四章投稿開始します!
第三十二話 おかえりなさい。ってね
女性比率の高い鎮守府や泊地では、艦娘同士の同性愛は黙認に近い形で認められています。
まあ、艦娘だって人間ですから恋愛したいですし、性欲だってありますもの。
男性が少ないなら同性である女性に走る。と、言うのも理解は出来ます。
それに、艦娘同士の同性愛は海軍的にもメリットがいくつかあるんです。
一つは戦意の向上。
恋人同士を同じ艦隊に編成すれば、あの子に良い所を見せよう。あの子は私が守る!的な理由で、性能以上の力を発揮することが多々あります。
作戦中も甘々な空間を作っちゃうのが、他のメンバーにとってデメリットではありますけどね。
二つ目は、妊娠のリスクが皆無なこと。
初潮前に艦娘になった子なら、艦娘になると同時に成長がほぼ止まりますから男性と性行為をしても問題はないんですが(倫理的には大問題です)、初潮を迎えてから艦娘になった人、避妊をしくじると普通に妊娠します。
そうなると大問題です。
開戦初期なら有無を言わさず堕胎なりさせられたのかもしれませんが、今は戦況が小康状態なため、無理な堕胎などさせようものなら市民団体などが黙っていません。
なので現在は、妊娠した場合は面倒な書類に嫌気が差すほどサインさせられた後に解体処分となり、監視は着きますが民間人に戻されます。
数の多い駆逐艦なら兎も角、戦力の要である空母や戦艦の人が妊娠したら痛手どころの騒ぎではありません。
しかし、そんなお上の事情など関係無しに、『元艦娘』という肩書き目当てで艦娘になった人の中には、この手を使って任期満了前に辞める不届き者がいるそうです。
だから同性愛は黙認されているんです。
言うまでもありませんが、女性同士なら妊娠することはありませんから。
極々稀に想像妊娠してしまう人が出るそうですが、稀過ぎてデメリットに数えるほどではありません。
あ、誤解しないでね?
私は同性に興味はないですし、交際してる男性がいるわけでもありません。
「でね!大和ったら私とのデートより朝潮ちゃんとのお散歩を優先するのよ!酷いと思わない!?って、ちょっと神風ちゃん聞いてる!?」
「はいはい、聞いてますよ~。ね~?桜ちゃん」
「やはぎんうるしゃい」
もう三週間ほど前になりますか。
大和さんと叢雲さんの演習が行われた日から矢矧さんの様子が激変しました。
オブラートに包まずに言いますね?大和さんと百合ってるんです。レズってるんです。
その日、矢矧さんと大和さんの情事を目撃する前までは「友達だとは思ってるけど好んで関わりたくない」と言っていたのに、食堂に二人連れ立って現れた時には大和さんの腕にしなだれていました。
それからと言うもの、円満さんの命令もあって訓練や哨戒中はもちろん、寝ている時間以外は常に一緒です。
「やっぱり小さい子が良いのかしら……。あれ以来してくれないし……」
何を?と聞くまでもないわね。ナニでしょう。
どうやらあの日、矢矧さんは大和さんのテクニックに見も心も屈したようです。
それよりも、私の膝の上でプリンを心待ちにしている桜ちゃんの前で卑猥な話はやめてください。桜子先輩みたいになったらどう責任取ってくれるんですか。
「艦娘には多いって聞いちゃあいたけどよ。実際に見ると引くな」
「言わないであげてください。面倒臭くなりますから」
用事で桜子さんと一緒に出掛けている海坊主さんの代わりに、ピンクのエプロン姿でマスター代理をしている金髪さんが、注文していたコーヒーと桜ちゃんのプリンを出すついでにそう耳打ちしきました。
矢矧さんの耳に入らなくて助かりましたけど、今のを聞かれたら面倒臭くなる事間違いなしでした。
普段でさえ、やれ「羨ましいの?」とか、やれ「私と大和は心友を越えた身友よ!」とか、終いには「大和に手を出しちゃダメだからね!」とか言って絡んでくるんです。
松風なんか「僕の先代に手籠めにされた人みたいだ」とか言ってました。
「そう言やぁ、今日は非番か?」
「そうじゃなきゃ、ここで油なんて売ってません」
「管も巻いてるが?」
「それは矢矧さんだけ」
ブツブツと独り言を言ってる矢矧さんは放って置くとして。
ブラック企業なら兎も角、国防の要である艦娘にも休日は存在します。
土日祝日。と言うわけにはいきませんが、だいたい週に一度、各艦隊や駆逐隊がローテーションで24時間の休みを取り、生理が来てる人はその日に合わせて休みが貰えます。
午前、午後、夜間の哨戒任務も週によって担当が代わるんですが、今は関係ないので割愛しますね。
もっとも、私の休みは桜ちゃんの面倒を見るので潰れちゃいますけど。
「軽巡以下は毎日忙しそうだが、それ以上は割と暇そうだよな」
「そんな事ありませんよ?訓練だってしてますし、担当軍区外への出撃もありますから」
ここ数年は減っていますが、担当軍区外、例えば泊地への応援や、発見された敵はぐれ艦隊の殲滅などで出撃することがあります。
今だと、軽巡の五十鈴さん、装甲空母の瑞鶴さん他数名が、ラバウル基地へ応援として派遣されています。
大本営付きの駆逐艦も派遣されたって噂で聞きましたね。艦名までは憶えてませんが、たしか秋月型の人だったはずです。
「そう言う金髪さんはどうなんです?先輩と海坊主さんは出掛けてるんでしょ?」
「だからいい加減名前を覚えろ。は、まあいいか。俺ぁ念のために待機してんだよ。姐さんと相棒が居ねぇ時ぁ、俺が隊の指揮を執ることのなってっからな」
「へぇ。意外と偉かったんですね」
「お前、俺のこと下っ端だとでも思ってたのか?これでも少佐だぞ?」
ふぅん。
心底どうでもいいけど少佐だったんだ。先輩が大佐で海坊主さんが中佐だってのは知ってたけど、金髪さんまで佐官だとは知らなかったわ。
「ねえ!二人とも私の話聞いてる!?」
「「聞いてない」」
「聞いてよぉぉぉ!」
嫌ですよ。
他人の色恋沙汰には関わるななんて自殺行為に等しいです。面倒臭いです。ウザいです。どっか行ってください。
だいたい、聞いてと言いますけど頭を抱えて独り言のようにブツブツ言ってるから聞き取れません。聞き取る気もないですが。
「かみっか~。やはぎん頭痛いの?」
「痛いんじゃなくておかしいのよ~。あ、痛いのも合ってるのかな?」
「痛うておかしいの?」
「そうそう!痛くておかしい人なの!桜ちゃんはあんな風になっちゃダメよ?」
「あいっ♪」
うん可愛い。
たぶん意味は理解出来てないんでしょうけど、桜ちゃんがあんな風にならないよう、かみっかお姉ちゃんは頑張るから!
「ねぇおいたん!ぷいん!」
「なんだ?お嬢。おかわりか?」
「うん!おかわい!」
金髪さんは出されたプリンを平らげ、尚も食べたいとねだる桜ちゃんを横目で見たあと、視線を私まで上げて「良いのか?」と尋ねてきた。
あんまり食べると吐いちゃうからやめた方がいいんだけど、ダメだって言うと愚図るしなぁ。
「ダメだぞ、お嬢。食い過ぎだ」
「やー!おかわい!」
私がどうするべきが悩んでいると、金髪さんが憎まれ役を買って出てくれた。
この人って言葉遣いはチンピラみたいだけど察しは良いし、親切で面倒見もいいのよねぇ。
倉庫街に探検に来て迷子になった駆逐艦をよく保護してるし、イケメンだから女性職員や上位艦種の人にも受けが良い。
それなのに、金髪さんって浮いた話が一つもないの。
一部の人はホモなんじゃないかって噂してるわ。
とある駆逐艦なんて、金髪さんと海坊主さんのBL本を描くほどよ。ちなみに金髪さんが攻め。
「かみっか~。おいたんがイジワルすゆ~!」
「意地悪じゃないのよ?おいたんは桜ちゃんのぽんぽんを心配してるの」
「ぽんぽん?」
「そうよ?ぽんぽん痛くなるの嫌でしょ?」
「やー!」
よし。
この線でいけそうだわ
桜ちゃんはお腹が痛くなるのを想像したのか、涙目になって私の胸に顔を埋めてきた。
胸の肉ごと服を握り込まれてるからちょっと痛いけど、このまま説得すれば諦めそうだからここは我慢!
「じゃあ、我慢できる?」
「がまん……すゆ」
この子は頭が良い。
私が言ってること理解してるし、人のことを気遣うことも出来る。
本当は泣きじゃくっておかわりをねだりたいのに、金髪さんが自分の事を心配してダメだと言ったのを理解して我慢してる。
こういうところは先輩に似て……ないか。人の事は気遣うけど、あの人には我慢って概念がないし。
「じゃあ、桜ちゃんはおいたんになんて言うの?」
「え~とぉ……」
桜ちゃんは顔だけ金髪さんに向けて悩み始めた。
当の金髪さんは、どんな顔をして良いのかわからずに目が泳いでるわ。
「あい……。あいあとう。おいたん」
「お、おう。まあ、気にすんな」
皆さん!これがうちの娘です!
と、自慢したい。我が儘言って『ごめんなさい』ではなく、心配してくれて『ありがとう』と、この子は言ったんです!
ああっ!私の育て方は間違ってなかった!
「コ、ココアでも淹れてやんよ。ココアくらいなら良いだろ?」
「ここあ!かみっか!ここあ!」
「はい。温めで淹れてあげてください」
金髪さんは照れ臭くてしょうがなかったみたいですね。この場を離れる理由が出来た途端、そそくさと厨房に行っちゃいました。
「あの人ってさ、損な性格してるよね」
「金髪さんの事ですか?」
「他に誰が居るのよ」
そりゃあ居ませんけど、ついさっきまで頭抱えてブツクサと独り言言ってた人が急にどうしたんです?
「私さ。着任してから、ちょいちょいあの人の世話になってるのよ」
「はぁ……」
何が言いたいんだろう。
金髪さんが消えた厨房の方を頬杖ついてじーっと見てるけど。
もしかして、大和さんに手籠めにされる前は金髪さんの事が好きだったとか?
「矢矧さん、もしかして……」
「ええ、惹かれてたわ。あ、勘違いしないでね?惹かれてはいたけど好きって程じゃなかったんだから」
「へぇ、意外でした」
矢矧さんは、金髪さんみたいなタイプの人は好みじゃないと思ってましたから。
だって見た目的に、矢矧さんは学級委員とか風紀委員っ感じですけど、金髪さんは年甲斐もなく頭を真っ金金に染めて両耳にはピアスがいっぱい。どう控えめに言ってもDQNです。昔風に言うとヤンキーでしょうか。
「前にね?迷子になった駆逐艦を保護してるところを見たことがあるんだけど、その時の光景がさ……。なんて言うか」
「捨て猫を拾う不良みたいな?」
「そう!正にそんな感じだったの!」
なるほど、ギャップ萌えと言うヤツですね?
私が金髪さんの人柄を知らずにそんな場面を見たら間違いなく憲兵さんに通報しますけど、矢矧さんはしなかったどころか魅了されたようです。
なぜ通報するのかって?
想像してみてください。
頭を金髪に染め上げて、耳はピアスまみれのDQNが幼い駆逐艦に声をかけていたらどう思います?
大半の人はハイエースしようとしてるって思うんじゃないかしら。
間違っても迷子を保護しようとしてるとは思わないはずです。保護ではなく捕獲だと考えるのが妥当でしょう。
「暇な時は倉庫街を巡回してますからねぇ。あの人。特に先輩が仕掛けたイタズラの辺りを重点的に」
「桜子さんが仕掛けたイタズラ?」
「はい。この鎮守府。特に倉庫街には、あちこちに先輩が仕掛けたイタズラが……。いや、あれはもうトラップと言って良いですね。引っ掛かってトラウマを抱えてしまった子もいると聞いた事がありますし」
あれ?矢矧さんが若干顔を青くして何か考えてる。
もしかして引っ掛かった事があるのかしら。金髪さんの話では、真面目な子ほど引っ掛かりやすいらしいけど……。
「それ、もしかして看板の……事?」
「はい。艦娘、特に駆逐艦にトラウマを与えかねない文言が書かれた看板だそうです」
あ、引っ掛かったんだ。
どんな事が書いてあったかは謎だけど、矢矧さんは「アレのせいカレーが食べれなくなったのよね」と言いながら拳を握り締めています。
犯人がわかって怒り心頭なのでしょう。
「ちなみに、どんなイタズラに引っ掛かったんです?」
「言いたくない。思い出しただけで吐きそうになるから……」
「すでに、吐きそうなほど真っ青ですけど」
矢矧さんはそれっきり黙り込んでしまいました。
よほど衝撃的な事が書いてあったんでしょうね。ご愁傷様です。
でもまあ、先輩がやった事なので、犬に噛まれたとでも思って諦めてください。
「あん?どうしたんだ矢矧。またアレを思い出したのか?」
「放って置いて。言われると余計に思い出すから」
桜ちゃんのココアを持って厨房から出て来た金髪さんが、矢矧さん様子に気付いてそう言いました。
いつの間にか呼び捨てにする仲になってたんですね。
もし、矢矧さんが大和さんに手籠めにされてなければ、近い将来二人は付き合ったりしてたかもしれません。
「惜しかったですね。もしかしたら付き合えてたかもしれないのに」
「俺と矢矧がか?冗談やめろや。俺と矢矧は水と油だよ」
「当然、私が水よね?」
「別にかまわねぇぞ。泥水」
「酷くない!?それじゃあ私が汚れてるみたいじゃない!」
「みたいじゃなくて、実際汚れてんだろうがクソレズが!」
ケンカするの良いけど他所でやってくれないかな?
それと金髪さん。桜ちゃんの前で下品な事を言うのはやめてください。
桜ちゃんが「くそれじゅってなぁに?」って、不思議そうに聞いてきたじゃないですか。
「フ……。貴方みたいな見も心も汚れてる人には、私と大和のピュアな関係がそう見えてもも仕方ないわね」
「何がピュアだ。肉欲の塊みてぇな関係じゃねぇか」
「本っ当に失礼な人ね!大和に抱かれたのは一回だけよ!」
「たった一回で目覚めた尻軽がほざいてんじゃねぇよ
!犯すぞ!」
「ヤれるもんならヤってみなさいよ!大和より下手だったら鼻で笑ってやるんだから!」
なんだかおかしな流れになってきたわね。このまま、売り言葉に買い言葉で一線を越えちゃうのかしら。
と言うか、そろそろ本当にやめてくれません?
くすぐって笑わせる事で、桜ちゃんの耳に二人の会話が入らないようにしていますが限界が近いです。
主に、桜ちゃんをくすぐってる私の手が。
「上等だこのクソアマ!ヒーヒー言わせてやるから表に……。っと、ちょっと待て、電話だ」
「電話なんてほっときなさいよ!私と一戦交えるのが先でしょうが!」
そんなに交わりたいのかこの色惚け軽巡は。
怒ってるのか、それとも発情してるのかはわかりませんが、兎に角興奮して、スマホで通話中の金髪さんに詰め寄ってます。
「了解だ。円満の嬢ちゃんには許可を貰っといてやるよ。ああ、わかった」
話し方的に、相手は海坊主さんかな?
しかも、電話に出て程なく金髪さんの纏う空気が変わりました。エプロン姿なのは変わっていませんが、さっきまでの桜ちゃんの言葉で照れ、矢矧さんと不毛な言い争いをしていた金髪さんじゃない。
今の金髪さんは、艦娘が実戦投入される前から深海棲艦と戦っていた、一騎当千万夫不当の軍人だ。ピンクのエプロン姿なのが残念ですけど。
「神風、姐さんから伝言だ。『一週間ほど桜の面倒を頼む』だとよ」
「それは構いませんけど……。でも私、訓練や任務が」
「それは今から許可を取りに行く。だから悪ぃが、矢矧は帰ってくれ。今日は閉店だ」
有無を言わさぬ迫力ってヤツね。
桜ちゃんは「おいたんこあい……」と怯え、矢矧さんは「誰これ」って言った後ポカーンとなってます。まあ、見た目が同じ別人って感じですから、矢矧さんのこの反応も当然かもしれません。
「何かの作戦、ですか?」
「ああ、
金髪さんの本業。それは奇兵隊の任務の事。しかも、わざわざそんな言い方をすると言うことは汚れ仕事だ。
相手は恐らく、いえ、間違いなく人間。
「かみっかぁ。ママとパパ……。かえってくゆ?」
「桜ちゃん……」
この子、危険を感じてる。
自分に迫る危険じゃなく、桜子先輩と海坊主さんに迫る危険を。
「大丈夫よ」
不安そうに私を見上げる桜ちゃんの頭を撫でながら、諭すようにそう言った。
そして、両親の身を按じながらも、独りになるかもしれない不安に押し潰れそうな桜ちゃんにもわかるよう、ゆっくりとこう続けた。
「貴女のパパは、誰よりも正確に獲物を貫くスナイパー。貴女のママは、全てを斬り裂く鋼の刃。だから安心して?あの二人は絶対に帰ってくる」
難しい言葉を使いすぎたかな?
桜ちゃんの頭の上を、ハテナマークが群れをなして飛んでるのが見えるようだわ。
でも、最後の部分は理解できたみたい。
ほんの少しだけど、不安を拭えたみたいだわ。
「だから、二人が帰って来たら一緒に言いましょう?」
「いっしょに?」
「そう、一緒に言うの」
きっと、「ただいま」って言う二人に、帰りを待ってた私たちは声を揃えてこう言うの。
「おかえりなさい。ってね」
主要キャラ人気投票
-
朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
-
大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)