艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第三十四話 艦娘発祥の地。

 

 

 「つぅ訳で、姐さんが一週間ほど神風をお嬢の子守り役にしてくれってよ」

 「いや、どういう訳よ。事情を説明してくれなきゃ許可なんて出せないわ」

 

 仕事も一段落着いて、今日の秘書艦をしてくれている大潮がお使いから戻ったらお茶にしようと用意してたら、タンクトップに短パン姿の上からピンク色のエプロンを身に着けた金髪さんが執務室を尋ねて来るなりそう言った。

 うん、ツッコミどころが満載なんだけど何処からツッコもうかしら。

 まずは服装からが無難かな。

 以前からファッションセンスが皆無なのは知ってたけど、どういう思考回路をしてたらこんな服装が出来るんだろう。

 だって、短パンよ?これがジーパンとかならたぶん絵になるの。

 この人ってチンピラとしか思えない外見だけどイケメンの部類だから。例えば短パンをジーパンに履き替えるだけで、ワイルドさにちょっと家庭的な一面がプラスされて良い感じになるはずよ。

 それなのに短パンが全てを台無しにしてる。

 後ろから見たらそうじゃないだろうけど、正面から見てる私には裸エプロンにしか見えない。

 ハッキリ言って不快ね。

 金髪さんだと気付くのが少し遅れてたら射殺してたわ。慈悲は皆無。

 

 次はその態度。

 簡単に言うと、彼は両足を肩幅に開いて両手を後ろで組んだ休めの姿勢。

 ええ、姿勢自体は完璧よ。

 姿勢だけ見れば訓練の行き届いた立派な軍人だわ。多少太々しいのも、歴戦の強者が出せる風格だと思えば我慢できる。

 服装が台無しにしてるけどね。

 

 さらにお次は口調ね。

 これに関しては服装以上にフォローのしようがない。

 だって、完全にチンピラだもん。

 貴方からしたら、私なんてただの小娘かもしれないけど提督なの。この鎮守府の最高責任者なの。これでも少将なの。第一海軍区を預かる横須賀鎮守府司令長官なの!

 その私にその言葉遣いはないでしょ。

 完全に不敬罪よ。上官侮辱罪をオマケでつけるのも厭わないわ。

 

 「あ~……。やっぱ説明しねぇとダメか?」

 「ダメに決まってるでしょ。神風は海軍所属の艦娘であって奇兵隊所属じゃないんだから」

 「なんとかなんねぇ?俺と嬢ちゃんの仲じゃねぇか」

 「なりません。いくら子守りとは言え、艦娘である神風を奇兵隊に貸し出す以上、私が納得出来る理由を説明してくれなければ許可できません」

 「固ってぇなぁ。いつも親父とのデート手伝ってやってるだろ?」

 

 あくまで、説明せずに押し通すつもりか。

 私にも言えない事なのかしら。それとも、単に説明するのが面倒なだけ?

 う~ん。後者の可能性が大ね。

 あの桜子さんがわざわざ(・・・・)許可を取れと金髪さんに命じたんだ。私が説明を要求することくらいわかっているはずだもの。

 ならば、私に説明しても問題ない案件。

 そうなると、アレしかないわね。

 今日、正確には数日前だけど、海坊主さんが求めてきた出撃許可。最低限の人員のみを残して、鎮守府に詰める奇兵隊の過半数を伴って出撃した今日の作戦に関係するんでしょう。

 目標は恐らく……。

 

 「アクアリウム殲滅作戦。その作戦を完遂するまで帰って来れないから。ってとこかしら?」

 「なんだ、知ってんじゃねぇか」

 「知ってたんじゃなくて予想しただけ。だから詳細は知らないわ」

 「詳細まで話さねぇとダメか?」

 「ダメ」

 

 金髪さんは虚空を仰いで「ふぅ~」と、心底面倒臭そうに溜息をついた。

 貴方の不快な服装と態度が悪いんだからね?最初から礼節をもってそう言ってれば、私も詳細まで話せとは言わなかったのに。

 親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってる?

 

 「チッ、しかたねぇなぁ。(胸と同じくらい細けぇ女だ……)

 「何か言った?」

 「なんでもねぇよ。じゃあ、説明すっぞ」

 

 誤魔化した?胸がどうとか言ってた気がするんだけど……。まあ、それはどうでもいいか。

 金髪さんの説明によると、演習からの数週間で奇兵隊は各地、各業界に持つコネクションを最大限に活用してアクアリウムの拠点や隠れ家、構成員と思われる(・・・・)モノを拘束、もしくはテロを装って破壊して回ったらしい。

 証拠の有る無しに関わらず、疑わしいってだけでね。

 本来なら軍の存在意義が揺らぐどころか崩壊するほどの大問題行為だけど、その甲斐あってアクアリウムを追い詰めるのに成功した。

 野風を初めとしたアクアリウム残党は、県内のある一拠点に籠もって抵抗を続けているみたいだけど、陥落は時間の問題という話よ。

 

 「マザー……。野風もそこに?」

 「ああ、相棒が捕らえた構成員を尋問して聞き出したってよ」

 

 尋問とか言っちゃって、本当は拷問したんでしょ?

 短気が服着て歩いてるような桜子さんが、尋問なんてまどろっこしい真似するわけないじゃない。

 

 「陥落は時間の問題と言った割に、一週間もかけるのね」

 「相棒の目算じゃ二日ってとこだ。残りの五日はまあ……」

 「何よ。まさか、ついでに旅行でもして帰ろうとしてるんじゃないでしょうね」

 「んな訳ねぇだろ。バカか」

 

 バカ……だと?

 言っときますけど、貴方のボスの方がよっぽどバカだからね?

 物事の解決は力尽く。自分が楽しむためなら、相手が泣くまでイジるのをやめないし、旦那がいるってのに父親に甘えまくるファザコン。

 そんな、胸にばっかり栄養を蓄えてそうなバカ女と私を一緒にしないでくれないかしら。

 

 「その、なんだ。ニオイを消すのにそんくらい欲しいんだとよ」

 「ニオイって……。火薬の?」

 

 確かに好んで嗅ぎたいと思うニオイじゃないけど、五日もかけて消さなきゃならないモノじゃないと思うんだけど?

 もしかして子供が嫌がるのかしら。

 でも、『猫の目』店内は兎も角、その裏にある兵舎は火薬のニオイで溢れてるしなぁ。

 今さらじゃない?

 

 「いや、血のニオイだ。姐さんは、血のニオイを漂わせたままお嬢を抱きたくねぇんだよ」

 「ああ、そういう事ね……」

 

 奇兵隊には、銃ではなく刀などの近接武器を好んで使う人が少数だけど存在する。

 桜子さんもその一人よ。

 サブウェポンで拳銃くらいは携帯してるらしいんだけど、メインウェポンはあくまで刀。先生から贈られた日本刀だ。

 何故、人を殺す作業にそんな効率の悪い武器を使っているかと言うと、桜子さんの場合は『殺した人を忘れないため』だそうよ。

 まあ、中には単に人を切る感触が好きな特殊嗜好の人も居るそうだけど、桜子さんはけっしてそんな人じゃない。

 人を、特に私をイジって楽しむようなサディストではあるけど、私が泣くまでイジるのは単に加減が下手クソなせい。泣くとごめんねって謝るし、わかりやすいほど狼狽えるもの。

 そんな桜子さんが、愛娘に血生臭いまま会いたくないって言うのも何となく理解は出来る。

 でも……。

 

 「うん、やっぱり許可はできないわ」

 「んでだよっ!そんくらいの融通利かせても良いだろうが!」

 

 怖っ!

 言葉遣いこそチンピラだけど、背中の産毛が総毛立ちするくらいの殺気をビンビン飛ばして来てるわ。

 でも、私だって激戦を生き抜いた元駆逐艦だ。この程度で引いてなんてあげないんだから。

 

 「怒鳴らないでくれないかしら。神風の件は奇兵隊からの正式な要請ではなく単なるお願い。しかも、目的は子守り。艦娘は兵士である以前に兵器です。兵器の私的運用なんて認められる訳ないでしょ」

 「けどよぉ!それでも……!」

 「納得出来ない?だったら、私じゃなくて神風に直接お願いしなさい。現時刻(・・・)より、神風は168時間の休暇に入るから」

 「は?いや、それってよぉ……」

 

 呆気にとられちゃってまあ。

 私だって鬼じゃないし、桜子さんにはお世話になってる。それに、アクアリウムの殲滅は必要な事だから協力するのは吝かじゃないもの。

 

 「最初から許可出せってんだ。クソっ、素直じゃねぇなぁ」

 「言ったでしょ?兵器である艦娘に子守りをさせる許可は出せない。だけど、休暇中の艦娘にお願いするのは問題ないわ」

 「ただの屁理屈じゃなぇのか?それ」

 「許可を出すってなると書面にして残さなきゃならないの。運用目的に『子守り』なんて書けると思う?」

 「あ~、そりゃ書けねぇわな……」

 

 でしょう?

 だから貴方は、最初に『子守りをさせる許可をくれ』じゃなく『一週間ほど休暇をやってくれ』って言うべきだったのよ。

 

 「面倒くせぇな。軍ってのは」

 「私より長く軍に居る人が何言ってんの?先生が総隊長だった頃もこんなもんだったでしょ?」

 「いや?親父は割と適当だったからな。そういう面倒ごとは少佐……。じゃねぇや。少将がやってた」

 「あ、そなんだ……」

 

 あの人は……もう!

 厳しくした私の立場がないじゃない!

 あ~あ、どっかに居ないかなぁ。面倒ごとを全部押し付けられる便利で従順な人。

 

 「神風に休暇の件を伝えとくか?」

 「後で正式に伝えるつもりだど……。先に伝えてもらっても問題ないわ」

 「わかった。じゃあ俺はこれで……」

 「たっだいま戻りましたぁ!おやおや?お客様でしたか?」

 

 金髪さんが踵を返そうとするのを待っていたかのように、執務室のドアが乱暴に開かれた。

 入って来たのは、事務課へのお使いを頼んでいた大潮。最近、荒潮とともに改二になったばかりの子で、先代の澪以上にテンションが無駄に高いうるさい子よ。

 

 「大潮。入る前にノックくらいしなさいっていつも言ってるでしょ?」

 「申し訳ありません司令官!次からは気をつけます!たぶん!」

 

 せめて『たぶん』は小声で言いなさい。気をつける気皆無じゃない。

 まあ、いつもの事だから私も半分諦めてるけど……。

 って、あれ?なんか金髪さんが大潮を珍獣でも見るみたいな目で見てるけど……。

 

 「おー!金髪です!ヤンキーです!DQNです!司令官、この方はどなたですか?」

 「大潮は『猫の目』に行ったことがないの?」

 「行ったことありません!どんな所なんですか?」

 「普通の喫茶店よ。店長を初めとして、店員はまともじゃないのばかりだけど」

 「へぇ~。今度言ってみても良いですか?」

 

 ふむ、やはりおかしい。

 いつものこの人なら「俺はまともだ」くらい言いそうなものなのにそれが無いし、大潮の問いにも答えずにマジマジと観察してるわ。

 

 「返事がない。ただの芝刈りのようです」

 「それを言うなら屍でしょ」

 「そういう風に言う人も居るのは知ってます」

 「そういう風にしか言わないの。おバカな事言ってないでお茶を淹れてちょうだい」

 「了解しました!」

 

 と、元気よく返事をして給湯室に走って行ったけど、室内を走るなと注意するべきだったかしら。

 いや、それよりも『アッゲアゲで淹れますよー!』って言ってる方が気になる。お願いだから無駄に熱々にしないでよ?私、猫舌なんだから。

 

 「奥さんや満潮の嬢ちゃんの時にも思ったけどよ。艦娘ってホントにソックリだよなぁ。クローンとか言うヤツか?」

 「そんな訳ないでしょ。大淀の場合は兎も角、髪とか瞳の色が同じだからそう思うんじゃない?」

 「無駄にテンションが高いとこもソックリだが?」

 「あ~、それは……」

 

 間違いなく澪の、もっと言うと初代大潮の影響を受けてるんだと思う。

 朝潮姉さんから聞いた程度でしか知らないけど、澪の先代の初代と二代目もこんな感じだったそうよ。

 

 「艦娘が先代の影響を受けるって話、本当だったんだな」

 「艤装と適合してすぐ影響が出るわけじゃないけどね。由良さんなんて、着任してしばらくは酷いもんだったでしょ?」

 「あ~……。たしかにありゃぁ酷かった。昭和のスケバンか!ってツッコんじまったくらいだ」

 

 艦娘は初適合時に先代適合者達の記憶を垣間見るだけでなく、徐々に先代、特に初代の性格に似てくる。

 私の場合で説明すると、艦娘になる前は今みたいに素直で聞き分けの良い子だったのが、艦娘になって時間が経つにつれ、今の満潮みたいにツンケンした性格になっていったわ。

 今の大潮も、着任した当初は霰の間違いじゃない?って言いたくなるくらい、物静かで何考えてるかわかんない子だったわ。今は無駄にアゲアゲ言ってうるさい事この上ないけどね。

 

 「神風も、最近は姐さんに似てきてるしなぁ……」

 「あそこまで酷くないでしょ?神風は暴れたり無断出撃したりしないもの」

 「神風の場合は性格っつうより考え方だな。たまに、昔の姐さんを見てるような気分になっちまう」

 「昔の?今は違うの?」

 

 はて?今も昔も桜子さんは変わってないと思うけど、身近なこの人から見たら変わったように見えるのかしら。

 

 「ああ。神風だった頃は、親父のもとに生きて帰る。ただそれだけを目的に戦ってた。でも今は違ぇ。俺たち奇兵隊員だけでなく、家族って言う守りたい者達が出来ちまった」

 「それは、ダメな事なの?」

 「ダメじゃねぇさ。守りたいモノがある方が強いなんて言う気はねぇが、守りたいモンが出来てから姐さんは強くなった。神風だった頃よりもな」

 「あの頃より強いって……。それ、もう人間辞めてるじゃない」

 「言っとくが、腕っぷしじゃなくて精神的にって意味だからな?」

 「わかってるわよ。言ってみただけ」

 

 腕っぷしも上がってると思うけどなぁ。

 身長が伸びたから単純に筋力も上がってるでしょうし、リーチも伸びてる。

 奇兵隊専用。もっと言うと花組専用と言って良い『狩衣』と『薄衣』を同時使用すれば、海上でも駆逐艦程度が相手なら戦うことが出来るかもしれない。演習なら兎も角、実戦になると勝つのは難しいでしょうけど。

 

 「でもな、俺ぁそれが心配なんだ」

 「強くなってるのに?」

 「ああ。今の姐さんは『どんな事をしてでも生き延びる』から『どんな事をしてでも守り抜く』に変わっちまってる。それがどうにも不安でな」

 「どんな事をしてでも、か。それは当然……」

 「そうだ。自分を犠牲にするのも、今の姐さんは厭わねぇだろうよ」

 

 なるほど、生きることに必死だった桜子さんが、死んでも守りたいと思うほど今の生活、いや、日常かな。を、大切にしてたなんてね……。

 

 「姐さんは昔より強くなった。ああ、強くなったさ。でもよぉ。俺にはそれが、無理してるように見えちまうんだわ。ハッキリ言って姐さんらしくねぇ」

 「桜子さんらしくない……。か」

 

 たしかに、そう思えなくもない。

 あの人は我が儘で自己中なイタズラ好きのイジメっ子。私の天敵と言っても良い存在よ。

 けど、身内の事を常に気にかけ、身内を、家族を傷つけようとするモノに真っ向から立ち向かうほど勇敢。

 この前の無断出撃だって、愛する旦那にもしもの事があったらと思うと、いても立ってもいられなかったんでしょう。

 暇さえあれば執務室に居座り、何かと私にちょっかいをかけてくるのも、あの人が私を身内だと思ってくれてるからなんでしょうね。加減は覚えて欲しいけど……。

 そんな桜子さんが、自分の事を二の次三の次にしてるのには確かに違和感を感じる。でも。

 

 「大丈夫よ。桜子さんは忘れてなんかない。例え忘れてたって、あの人の傍には思い出させてくれる人が居るでしょ?」

 「そう、だったな。姐さんの傍にはアイツが居るんだった」

 「だから心配するだけ時間の無駄よ。それよりも、あの人が暴れて出す被害の方が私は心配だわ」

 「違ぇねぇ。だが今回は気にしなくて良いはずだ。なんせ、山の上だからな」

 

 山の上?

 そう言えば、追い詰められた野風が籠城してるって場所の詳しい話を聞いてなかったわね。県内だとは聞いたけど。

 

 「それ、何処なの?」

 「言ってなかったか?アクアリウムの奴らが立て籠もってるのは元海軍技術研究所。艦娘発祥の地だ」

 

 場所を聞いて、私は何とも言えない複雑な気分になった。

 艦娘発祥の地で日本初の、いえ、世界初の艦娘となった二人が殺し合う。

 今や最古の艦娘となった野風と、かつて最古の艦娘と呼ばれた桜子さんが始まった場所で。

 それが、私には必然のように思えたの。

 もしかしたら、あの二人はその場所で戦うために、今まで生き延びてきたんじゃないかって。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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