艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第三十五話 いってきます!

 

 

 わたしのママ。

 1ねん1くみ しんどうさくら。

 

 わたしのママはとってもやさしくてたのしい人です。

 つくってくれるごはんもおいしいし、パパともとってもなかよしです。

 日よう日にきてくれるじぃじのことが大すきで、わたしとばぁばとママでとりあいをしています。

 パパがちょっとさみしそうにするけど、そんなときはわたしがパパをなぐさめます。

 わたしはママのことが大すきだけど、どうしてもわからないことがあります。

 ママは「ありがとう」っていわれるのがきらいなんです。

 ふしぎでしょ?わたしのママは「ありがとう」っていわれるとかなしそうにわらうんです。

 

 某小学校。授業参観での一幕より。

 

ーーーーーーーー

 

 

 野風との思い出はあまり多く無い。

 私が夜、一人だと眠れない事がわかってから同室になったのが野風だった。彼女は私の抱き枕。私の話し相手。ただ、それだけの間柄だった。

 同い年だったのも手伝って、野風と私はすぐ仲良くなったわ。

 話だっていっぱいした。

 もっとも、あの子の質問に私が答えるだけだったけどね。

 例えば「何所に住んでたの?」とか「どうしてここに来たの?」とか。変わったのになると「どうやって生きてきたの?」ってのがあったわ。

 何て答えたら良いかわからなかったから「先生に助けてもらった」って答えた覚えがある。

 性格は暖簾みたいな子って言えば良いのかしら。

 何を言っても肩透かし食っちゃうって言うか、私の話をうんうんとか言いながら聞いてくれて、適度にリアクションとかもとってくれるんだけどまともに聞いてないんじゃないかな?って疑っちゃうくらい上手く流しちゃうの。

 あ、でもけっして蔑ろにしなかったわ。

 ちゃんと聞いてくれて反応を返して次の会話に繋げるのが上手だったから、私がそう思ってるだけかもしれないしね。

 顔も、私ほどじゃなかったけどかなりの美少女だったわ。オカッパ頭で純日本風な顔なんだけど、思わず「可愛らしい」って言っちゃうくらい可愛かった。

 でも、違和感があった。

 常に笑顔なんだけど、貼り付けてると言うか、型にはめてると言うか。兎に角そんな、作り物みたいに感じたわ。

 そんな彼女と研究所で過ごした日々は、検査と実験の間に休憩や食事を挟んで就寝時間に眠るだけ。お父さんの元に戻るまでその繰り返しだった。

 薄い本的な展開でもあればネタになったんでしょうけど、残念ながらそんな展開はなく。おかげ様で、旦那と一緒になるまでは男なんて知らずに過ごしたわ。

 

 『ポイントA。クリア』

 『ポイントD。クリア』

 

 野風へと続く進路を確保するために突入した部下達から、各所を制圧した旨の通信が届いてくる。

 当の私は「あんな表示あったっけ?」「ここで裸にひん剥かれたのよねぇ」などと、少ない思い出に浸りながら部下達が確保した通路を旦那と花組を引き連れて進んでいるわ。

 軍が廃棄した後もアクアリウムが根城として使っていたせいか、昔より薄汚れてる気がするけど老朽化はしてないように見える。

 

 「聞いちゃあいたっすけど、本当に病院みたいっすね」

 「お兄様はご存知なかったのですか?元々は病院だったそうですよ?」

 「それ、本当ですか?『桃』姉さん」

 「ええ、廃業して放置されていたここを軍が買い取って研究施設にしたそうです。その後、アクアリウムの本拠地になったようです」

 

 旦那の独り言に元春風の『春日 桃(かすがもも)』が答え、元旗風である『降旗 菘(ふるはたすずな)』が反応した。

 ふぅん。本当に病院だったんだ。

 たしかに、受付の造りとかまんまだったもんね。アクアリウムの下っ端がバリケード代わりにしてたから、部下達が対戦車ミサイルで玄関ごと吹っ飛ばして跡形も無くなったけど。

 あ、ちなみにだけど、旦那は花組の4人から『兄』と呼ばれてるわ。姉と慕う私の旦那だからそう呼ぶようにしたんだってさ。

 

 「でもさ、ここが艦娘発祥の地だと思うと、なんだか感慨深くない?」

 「同感だね。だからここらで一発。どうだい?」

 「するわけないでしょ!アンタには節操ってもんが無いの!?今は作戦中でしょうが!」

 「無いね!むしろ作戦中だからムラムラしてしょうがない!」

 

 作戦中にも関わらずレズろうとしてるのは、元朝風の朝霧 桔梗(あさぎりききょう)と元松風の雄松 くらら(おまつくらら)

 桔梗も嫌がってる割に乗り気なのか、「せ、せめて人目がないところでね?」とか言ってるわ。

 艦娘だった頃からガチレズだった くららは人目なんて気にせず脱がしにかかってるけど。

 

 「くらら姉さんは相変わらずですね」

 「ええ……。くららさんの悪行のせいで、今の松風さんが迷惑してると言うのに」

 

 桃が言った迷惑とは、くららじゃないと満足出来なくなった元艦娘や現艦娘達が、くららの代わりとばかりに度々松風を攫おうとする事よ。

 目的は言うまでもないわね。でも、今の松風は くららと違ってノンケだから当人からしたら恐怖でしかない。

 松風の怯えっぷりが目に余るから、奇兵隊員をボディガードにつけた事があるくらいよ。

 

 「なあ兄貴。昔ここで、姉貴が裸に剥かれて実験(意味深)されてたと思うと興奮しないかい?」

 「しないっすよ。むしろ殺意が湧いて来るっす」

 「兄貴……。本当に男かい?美少女が色んな器具(意味深)を体に這わされ、入れられて壊されていく様なんて最高じゃないか」

 

 されてないし最高じゃない。

 コイツの頭の中にはエロしかないのか。

 くららは自分で言った妄想で興奮したのか、頬を染めながら体に手を這わしだしたわ。

 ソロプレイなら帰ってからにしなさい。このド変態。

 

 「まさか……。桔梗姉さんはいつも くらら姉さんとそんなプレイを……。では頭の探照灯はそのせい?」

 「菘さん。それ以上はダメです。桔梗さんの探照灯は自前なんですから」

 

 桔梗に飛び火した!?

 ちょっとちょっと、桔梗をハゲ扱いしないであげて!ちょっとオデコが広いだけだから!ちょっと人より多く光を反射しちゃうだけだから!

 

 「私のオデコを兄さんの頭と同じにしないでくれない!?私のオデコがが探照灯なら兄さんの頭なんて裸電球じゃない!」

 「姉貴……。兄貴のライフがゴリゴリ減ってるからそれくらいで……」

 「うっさい!だいたい、くららのせいで謂われの無いハゲ呼ばわりされてるんだからね!?私ハゲてないもん!兄さんみたいにハゲてない!あそこまでツルピカじゃないもん!」

 

 もうやめて!

 旦那の毛根を死滅させたのは私なの!旦那がハゲ呼ばわりされる度に、私の中で罪悪感が膨れ上がっていくじゃない!

 それにね?

 旦那はハゲてる自覚がないの。まだ毛根は生きてるって信じてるの!産毛すら生えない不毛の頭皮なのに「剃ってるだけっす」って言い張ってるの!

 しかも!しかもね!

 毎晩お風呂上がりに輪切りにしたレモンでスキンケアしてるのよ。頭皮の!

 それを始めて見たお父さんが「まるで天光寺だな。ちょっと乾電池を持たせてみよう」って言ってたわ。

 あ、ネタがわかんない人はグーグル先生にでも聞いてね。天光寺でググると出て来ると思うから。

 

 「ハゲてねぇっす。剃ってるだけっす」

 「現実見ようよ兄貴。それだけ見事なハゲっぷりでそう言い張れる度胸は認めるけどさ。どう見てもハゲてるよ?毛根の『も』の字もないほどツルッツルだよ?」

 

 くらら……。アンタ、慰めるフリして追い詰めてるでしょ。私の旦那をイジメて楽しんでるでしょ!

 

 「ハ、ハゲて……。ハゲてない……」

 「あー!もう!ハゲって言われたくらいで泣くんじゃないわよみっともない!」

 「でも桜子さん、自分ハゲてないんす……。それなのにハゲって言うんすよぉ」

 「あ~はいはい。ハゲてない。貴方はハゲてないわ。帰ったらワックス塗ってあげるから機嫌直してよ」

 「ザイモールじゃないと嫌っす」

 

 桃と菘が「桃姉さん。ザイモールとはなんですか?」「お高いカーワックスです。言わせないでください」とか言ってるけど、旦那はハゲてる事を認めたがらないクセにワックスで頭皮をピカピカに磨き上げてあげると凄く喜ぶの。

 カーワックスを頭皮に塗るとか正気の沙汰じゃないけどね。

 

 「ふと思ったのですが、どうしてアクアリウムはここに立て籠もったのでしょうか。マザーが艦娘なのなら、海の近くの方が良かったのでは?」

 「それは、ここのプールが海と繋がってるからだと思います。普通のプールでは無理でも、海と繋がってさえいれば艦娘は本来の性能を発揮できますから」

 「海と?たしかに車で行ける距離に海はありますけど、かなり離れていますよ?」

 「当時、艤装開発を取り仕切っていた方が妖精さんに地下水路を作らせたそうです。妖精さんなら、年単位でかかる工事も数日で終わらせてしまいますから」

 

 妖精さんマジパネェ。は、置いといて。

 桃の説明によると、開発当初は普通の淡水を使ったプールだったらしいんだけど、想定以下の性能しか出せない事を妖精さんに相談したら「海ジャナイカラデス」って教えてくれたそうよ。

 

 「じゃあ、その開発を取り仕切っていた人って妖精さんの姿だけじゃなくて声まで聞こえたって事よね?」

 「その通りですお姉様。その方こそ、何を隠そう前海軍元帥様です」

 

 へぇ、あのお爺ちゃんそんな事までしてたんだ。

 当時の海軍元帥が陣頭指揮を執っていたから、艦娘なんていう前代未聞の兵器の開発から投入まですんなりと行ったのね。

 

 「ここが、そのプールっすか?」

 「ええ、そうよ。野風が居るとしたらここしか残ってない」

 

 私と旦那達が辿り着いたのは、実験用プールと書かれた扉。かつて、艤装の動作試験が繰り返し行われた、200m×200mの実験用プールがある中央部だった。

 

 『こちらガンナー2。フラワー1応答願います』

 「……こちらフラワー1。どうぞ」

 『施設中央部にて目標を目視で確認しました。仕掛けますか?』

 「仕掛けなくていい。目標は何してる?」

 『プール中央に陣取って微動だにしていません』

 「そう、わかった。全部隊は施設から1kmの地点まで後退。包囲網を形成後、待機して」

 『了解しました。ご武運を』

 

 やっぱりここに居たか。 

 抵抗する気なら、艤装の力を制限無しで振るうことが出来るここに居ると踏んでたけど、どうやら当たりだったみたいだわ。

 問題は……。

 

 「あなた達も後退して。ここからは私一人で良い」

 「そんな……。桜子お姉様を一人で行かせるなんて出来ません!」

 「桃姉さんの仰るとおりです。私達もご一緒させてください」

 

 案の定、桃と菘が反対してきたか。

 私の事を想ってくれるのはありがたいけど、恐らくこの子たちじゃ野風、と言うより、制限無しで力を行使できる艦娘の相手は無理。それどころか足手纏いになるわ。

 

 「桃、菘。桜子姉の邪魔しちゃダメよ。大人しく後退しましょう」

 「おや?桔梗の姉貴がそんな事を言うなんて意外だなぁ。僕はてっきり、二人みたいについて行きたがると思ってたよ」

 

 これに関しては くららに同意。

 実際、口では二人を止めてるけど、得物の長槍を握る手からは「行きたい」って本音が湧き出ているわ。

 

 「本音を言えば行きたいわ。でもね。桜子姉が後退しろっての言うのは、私達が足手纏いになるからよ」

 「ですが……!」

 「わかりました……。後退しましょう。菘さん」

 「桃姉さんまで!桜子姉さんが心配じゃないんですか!?」

 「心配に決まってます!」

 「なら何で……!いえ、わかりました。我が儘言って申し訳ありません。」

 

 さすが桔梗。わかってるじゃない。

 菘はもちろん、桃も納得しきってないけど私の足を引っ張るよりは、と割り切ったようね。

 

 「貴方も後退して。通信は開きっぱなしにしとくから、私にもしもの事があったら円満に伝えられる限りの情報を伝えてちょうだい」

 「……」

 「ねえ、聞いてる?」

 

 おかしいわね。旦那の反応が無いわ。腕組みしてずっと私を見るばかりでピクリともしないし、サングラスのせいで表情からも何考えてるかわかんない。

 

 「もしもの事があったら。なんて、桜子さんらしくないっすね。そんなんじゃ一人で行かせらんないっす」

 「あのね。相手は駆逐艦とは言え艦娘よ?しかも、ここのプールはわざわざ海水(・・)を汲み上げてる。さっき桃が説明してくれたでしょ?ここのプールは海と繋がってるの。ここでも海上と同じように戦えるの!駆逐艦に人の身で挑むんだから『もしも』の事を考えるのは当然でしょ!」

 「それでもダメっす」

 「じゃあどうしろって言うのよ!円満に頼んで艦娘でも送って貰えって言うつもり!?」

 「そうじゃないっす。自分はただ、いつもみたいに堂々と行ってほしいだけっす」

 「はぁ!?私の腰が引けてるとでも言いたいの!?」

 

 私は今だって堂々としてるわよ。自信に満ちてるわよ。それなのに、貴方からは腰が引けてるように見えるの?怯えているように見えるの?怖がってるように見えるの?

 

 「桜子さん。自分は桜子さんに惚れてるっす。ゾッコンっす。桜子さんがいない人生なんて考えらんないっす」

 「ちょ……!やめなさいよこんな場所で!皆が……見てるじゃない」

 「構わねぇっす。自分は、いや俺は、桜子さんに帰って来てもらわなきゃ困るんす。桜ちゃんだってそうっす。……だから桜子。絶対に生きて戻って来てくれ。死ぬな。桜子」

 

 ああ、そういう事か。

 私は自分でも気づかない内にお座なりにしてたんだ。

 あんなに死にたくなかったのに。どんな奴が相手ででも、どんな事をしてでも生き延びてやるって息巻いて戦ってたのに。生きて帰る事を考えていなかった。

 

 「気負い過ぎなんすよ。相手は昔馴染みかもしれないっすけど、今は敵っす。桜子さんは、敵をどうするんすか?」

 「そんなの……」

 

 斬るに決まってる。

 野風は私が友達と呼べる数少ない子だけど、今は敵だ。しかも、長年お父さんを悩ませ、初代朝潮が戦死する切っ掛けを作った奴だ。お父さんを泣かせた奴だ。

 そんな奴に殺されてたまるか!

 

 「貴方が旦那で良かったわ。おかげで、思い出せた」

 

 私は死なない。

 そりゃあ、野風を斬るのは辛いと思う。あの子との会話次第じゃ泣くかもしれない。でも、私はあの子を斬る。そして生きて帰る。生きて帰って、愛する旦那に慰めてもらって愛娘に思いっきり甘えてもらおう。

 そうよ。ママおかえりって言ってもらうんだ。

 

 「いってらっしゃい。桜子さん」

 「うん!いってきます!」

 

 私は5人に見送られて扉を開いた。かつての友人を斬るために。

 さあ、かつて共に過ごしたこの場所で始めましょう。

 殺し合いと言う名の、十数年ぶりの再会を。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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