艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第三十七話 天国なんて、あるのかな

 

 

 お姉様と野風さんの戦いはとても長かったです。

 長かった。とは言っても、時間にすれば20分かそこらだったのでしょう。

 ですが、私を含め、あの死闘をドローンから送られてくる映像を通して見守っていた私たちには永遠に続くかのように感じられたんです。

 ええ、全員気が気ではありませんでした。

 お兄様などは、口には出しませんでしたけど「早く終わってくれ」と思っているのが丸わかりでしたもの。

 お兄様のお気持ちは痛いほどわかります。

 だってそうでしょう?

 相手は艦娘。しかも本来の性能を遺憾なく発揮できる状態でした。それどころか深海化まで使ったんですよ?

 対するお姉様が使うのは狩衣と薄衣。

 大層な名前が付けられていますが、要は内火艇ユニットです。駆逐艦と内火艇では勝負にならない事くらい、おバカさんでもおわかりになるでしょう?

 そんな分の悪い勝負にお姉様は挑んだのです。

 そして勝ったのです。

 バトルフィールドが200m×200mという狭い範囲で、脚技を使えなかった野風さんの移動が制限されていたのも勝因の一つではあるでしょうが、それ以前に、艦娘に出来ることと出来ないこと、それらを熟知していた事が最大の勝因だったのだと私は考えます。

 だって、初めて見ましたもの。

 正直言いますと、あんな方法はお姉様しか思い付かないと思います。

 あんな方法で艦娘を、いえ、深海棲艦を倒したのはお姉様が最初のはずです。

 

 

 ~戦後回想録~

 

 元駆逐艦春風。春日 桃少尉へのインタビューより抜粋。

 

ーーーーーーーー

 

 

 野風との戦闘が始まって何分経った?

 5分?10分?それとも1分も経ってないのかしら。

 まあ、何分でも良いか。

 だって何分、何十分、何時間経とうと、どちらかが死ぬまで終わらない。これは、試合終了を告げる審判もタイマーもない死合いなんだから。

 

 「砲撃の威力を見る限り、火力は鬼風より少し低い位かしら」

 

 建物が倒壊する恐れもあるのに、関係なく野風は砲撃を続けている。

 野風が一発撃つ度に鼓膜が破れそうな程の轟音が室内に響き、壁に大穴を開けてるわ。

 

 「脚技は使えないみたいね。それに、砲撃も下手クソ。まさか、偏差射撃すらできないなんてね」

 

 艤装の動きを見る限り練度は高い。

 でも練度、つまり艤装との同調率が高くても、それを十全に扱えるだけの技量が野風には無い。

 例えるなら、レベルマックスの魔法使いが、魔法を覚えてないから物理で殴ってる感じかしら。

 え?わかり辛いって?しょうがないじゃない!良い例えが思い付かなかったんだから!

 

 「とは言え、厄介な事に変わりはないか。さて、お次はっと!」

 

 私は『装甲』の厚さを確かめるために、砲撃の合間を縫って『稲妻』で一気に接近した。

 想定通りなら鬼風と同程度。

 もしそうなら、今の私じゃ傷一つ付けられないはず。

 

 「クッソ!やっぱ硬い!」

 

 私はすれ違いざまに、野風の首を狙って横薙ぎの一太刀を繰り出したけど、刃は野風には届かず、ギャリン!という金属音を響かせただけに留まった。

 あの硬さじゃ『神狩り』でも貫くのは無理そうね。さて、どうしたものか……。

 

 「どうしたのぉ?神風ぇ。斬れないのぉ?」

 「うっさい!もうすぐ斬ってあげるから待ってろ!」

 

 とは言ったものの、どうする桜子。

 野風の攻撃は、余波だけで私にジワジワとダメージを与えるほど強力。直撃しようものなら骨も残らないでしょう。

 対して、私の攻撃は分厚い『装甲』に阻まれて野風に届かない。髪の毛一本斬ることが出来ないわ。

 ならどうする?諦める?諦めて野風に殺される?

 答えはNO。

 私は絶対に諦めない。絶対に死なない。絶対にアンタに勝つ!

 

 「魚雷ってどうやって撃つんだっけぇ?あ、こうだったぁ♪」

 「バっ……!室内で魚雷とか正気か!」

 

 野風が後先考えずに二発の魚雷を発射しようとしている。

 ハッキリ言って避けるのは簡単だ。でも、避ければプールの縁に当たった魚雷が屋根どころか壁や柱の類まで吹き飛ばすのは確実。下手をすれば建物が倒壊する。

 被害を少なくするには、発射直後に破壊するしかない。そうすれば、吹き飛ばされるのは屋根くらいで済むはずよ。

 問題は、放たれた魚雷をどうやって破壊するかだけど……。

 

 「ちぃっ!こんな事なら、射撃の練習をもっと真面目にしとくんだった!」

 

 と、過去の自分に文句を言いながら、刀を鞘にしまい、代わりに腰のホルスターからサブウェポンとして持ち歩いてる拳銃。旦那が選んでくれたグロック17を抜いて、発射されて水面に潜ろうとしている魚雷に狙いを定めた。

 距離は40mってとこかしら。この銃の有効射程はたしか50mって旦那が言ってたから射程的には問題ない。

 問題があるのは私の腕。

 散々撃ちまくった単装砲とは射程も威力も機構も全く違うこの銃で、正確に魚雷の先端を撃ち抜けるのか。

 

 「てぇっ!」

 

 あらやだ。艦娘時代の癖でつい『てぇっ!』なんて言っちゃった。しかも意外と可愛らしい声で……って、そんな事考えてる場合じゃなかった!

 耳を塞がなきゃ!

 

 「うひぃぃぃぃ!耳が死ぬぅぅぅぅ!」

 

 弾倉が空になるまで撃ちまくった内の一発が当たって爆発した魚雷の一発が、もう一発を巻き込んで誘爆を起こし、野風と私の間で大爆発して野風と私を壁際まで吹き飛ばした。

 ダメージは全身打撲に軽い火傷ってところかしら。大丈夫、動けないほどじゃない。

 それよりも問題なのは、室内で反響しまくった爆発音で耳どころか三半規管にまで影響が出てしまったこと。

 今追撃されたら確実に避けられない。

 

 「こ、これだから素人は……。建物が崩れなかったのは奇跡ね」

 

 酔ったみたいにフラフラする足を殴りながら何とか立ち上がって野風が飛ばされた方を見ると、野風は立ち上がれないのか四つん這いでプールに戻ろうとしてるわ。

 ったく、追撃の心配をして損しちゃったじゃない。

 

 「ちょっとどころじゃなく遠いわね……」

 

 直線距離で約200m。

 今ならプールに足が着いてないから『装甲』も薄くなってるはずだけど、今の私に200m離れた相手を攻撃する手段は無い。

 接近するにしても、今から走ったって私が野風に達するより、野風がプールに辿り着く方が早い。

 

 「待てよ?足が水面に着いてなければ……」

 

 艦娘や深海棲艦の性能は激減する。

 それは深海化している野風も例外じゃないはずよ。

 野風の足が水面についておらず、かつ私の足が水面に着いた状態なら、野風の分厚い『装甲』を斬れるかもしれない。

 

 「いや、それに賭けるしかない。やるしかない!」

 

 手段もある。

 その手段とは、大淀が朝潮だった頃に編み出した対長門用の『衝角戦術』。

 本来は砲撃の反動や被弾等の衝撃からの保護。艤装などの、女の細腕じゃ持てないような重量物を違和感無く持てるようにする強化外骨格に近い『装甲』の保護機能を、相手を殴りつけるための筋力として使用するものよ。

 実際に使うところを何度か見たことがあるんだけど、見た目はガゼルパンチなのに、食らった長門は砲弾ばりの速度でふっ飛ばされてたわ。

 あの時は「五万馬力ガゼルパンチ!」とか言ってたかな?本当に五万馬力もの力で殴ってたのかまではわからないけど、『衝角戦術』を使えば見た目が完全に子供の駆逐艦でも、大柄な長門を艤装ごと殴り飛ばすほどの膂力を得ることができるわ。

 まあ、殴り飛ばすだけなら五万馬力も要らないんだけどね。一馬力でもおつりが出るわ。

 それは何故か。

 実艦に五万馬力で突っ込んでも戦艦をそんな風にふっ飛ばせはしないんでしょうけど、艦娘や深海棲艦は保有する戦力は実艦と大差ないのに、重さは自前の体重と艤装の分しかない。

 つまり、駆逐艦の場合だとだいたい大人1.5人分の重さしかないの。長門の場合でも精々大人5~6人分ね。

 そんな低重量なのに、数万馬力もの衝撃を受けて、海面下に『脚』が沈んでる状態とは言え耐えられると思う?

 答えは耐えられない。

 ダメージ自体は致命傷にならなくても、衝撃に耐えきれずに海面から引き剝がされるわ。

 

 「やるのは初めてだけど、私ならやれる!」

 

 『衝角戦術』なら、野風を空中に放り投げる、もしくは打ち上げるくらいは出来るはず。

 内火艇ユニットが元の狩衣でも、海と繋がってるこのプール上なら100馬力以上出せるんだから!

 

 「今度は何をしてくれるのぉ?」

 

 プール上に駆け下りて突撃を開始した私に、野風はプレゼントの包み紙を開ける子供のような無邪気さでそう言った。

 どうして野風は、こんなにも混じりっけのない殺気を振りまけるんだろう。

 無邪気さを感じさせる表情からは考えられないほど純粋な殺意。今の野風は『私を殺す』それだけしか考えていない。

 今した質問なんて、私がしようとしている事を聞き、無駄だとわからせて絶望させる手段でしかない。

  ならば私は、あえてアンタに乗ってやる。手に内を晒して、その通りに実行してやる。

 

 「アンタを花火にしてあげるのよ!」

 「あはっ♪花火かぁ♪私より先に花火にならないでねぇ?」

 

 私は掻い潜った。

 野風の殺意が籠もった砲撃を。野風の想いが詰まった砲撃を。

 そうして、私が残り10m程まで接近した頃になってようやく野風が焦り始めた。

 距離を取ろうとしている。砲撃で牽制しながら後退しようとしている。

 何故、野風は慌てたのか。

 それは、圧倒的と言ってもまだ足りないくらいの戦力差に慢心した野風が、移動らしい移動をほとんどせずに自信を固定砲台と化していたからよ。

 駆逐艦でこれは悪手。

 小回りが利き、砲の連射速度も早い駆逐艦がタイマンしてる最中に固定砲台になってどうすんの?

 速度と機動性、さらに手数の多さで相手を翻弄し、隙あらば魚雷で一発を狙うのが駆逐艦の戦い方よ。

 それなのに、ほとんど止まった状態からじゃ速度を生かせない。速度が乗ってなきゃ、旋回しても上がりきってない速度を落とすだけ。

 ハッキリ言って遅い。速度も遅い。判断も遅い。遅い遅い遅い遅い!

 

 「おっっっ!そぉぉぉぉい!」

 「う、嘘……!きゃあぁぁぁぁぁ!」

 

 私は野風の『装甲』に手を添え、バックドロップ気味に、力の限り放り投げた。

 宙を舞う野風は手足をバタつかせながらも、なんとか私に砲を向けようと藻掻いているわ。

 でも!

 

 「これで……終わりよ!」

 

 私は、放物線を描きながら頭から落下している野風に『稲妻』で突撃開始。同時に、狩衣の力場を抜き放った刀の切っ先に集中した。

 

 「クソっ!クソっ!クソぉぉぉ!こんな所で死んでたまるか!お前なんかに殺されてたまるか!人間なんかに負けてたまるかぁぁぁぁぁ!」

 「いいえ。アンタの負けよ。深海棲艦(アンタ)人間()に負けるの」

 

 今から私が繰り出すのは神殺しの刃。

 アンタが崇め奉る神々を屠ってきた必殺の一撃。

 信心を積み重ねた末に、深海棲艦()と成ったアンタをあの世へ送るのにピッタリな技。その名も……。

 

 「神狩り!」

 

 私は、プールサイド上に落ちて立ち上がろうとしている野風に、最後の踏切と同時に刀を突き出した。

 切っ先が野風の『装甲』と接触し、キィィィィ!っと金属を斬り裂くような音を立てながら潜り込んでみつつ、野風をプールサイドの壁に押しつけている。もう少し。あと数ミリ入れば野風の『装甲』を破砕できる。

 

 「今っ!」

 

 切っ先が十分に潜り込んだのを確認した私は、切っ先に集中していた力場を解放。内側から野風の『装甲』はパリィンという音を立てて砕け散った。

 そこまでは良かったけど、『稲妻』で加速した勢いを『装甲』を突破するために殆ど使っちゃったわ。

 これじゃあ野風の心臓まで刃が届かない。肋骨辺りで止まっちゃう。

 

 「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁ!死にたくないぃぃぃぃ!」

 

 野風が艤装で覆われた左腕で、私を横薙ぎにしようとしている。

 このままじゃ、私の刃が届くのとほぼ同時くらいに殴り飛ばされそうね。

 だったら!

 

 「シャァァァァァァァ!」

 

 私は、左足で自身の突進の勢いを受け止めると同時に刃が真横になるように刀を一度引いて、反時計回りに円を描くように野風の左腕へと斬り上げた。

 

 「あ……。私の腕……」

 

 野風の左腕が落ちて行くのを右目の端に見つつ、上段まで振り上げた刀を、野風の左肩から胸の谷間を通して脇腹まで一息に袈裟斬りにした。

 あまりにも勢いよく血が噴き出すもんだから、野風の胸と左腕から噴き出す鮮血を浴びながら、『深海化しても血は赤いままなんだ』なんて、呑気な事を考えちゃったわ。

 野風も同じ事を考えたのか「私の血……。まだ赤かったんだぁ……」と、呟きながら膝から崩れ落ちた。

 

 「また……真っ赤になっちゃった」

 

 野風の血を頭から浴びたせいで、初めて人を殺した日の記憶がフラッシュバックして少し吐きそうになったけど、なんとか抑え込んで血溜まりの中に倒れた野風を抱き起こした。

 深海化が解け初めて、徐々に元の野風の姿に戻っいってるわね。それに、まだ息がある。

 まだ、野風は生きてる。

 

 「負けちゃったぁ……。やっぱり神風は強いなぁ」

 「私は強くなんかない。アンタが弱かっただけよ」

 「そんなことないわよぉ。貴女はあの頃よりずぅ~っと、強くなったわぁ」

 

 そうかな……。

 強くなったのかな……。

 私は本当に強くなった?

 私は今でも、誰かが隣に居ないと眠れない。一人で居ると孤独に押し潰されそうになる。すぐに泣いてしまう。お父さんに甘えたくなる。旦那に抱きしめてもらいたくなる。

 やっぱり、強くなんてなってないよ。

 私はあの頃から何も変わってない。アンタに子守歌を歌ってもらわなければ寝付けなかった頃と何も変わってない。

 私は……弱いままだ。

 

 「ねえ、野風。一つどうしても聞きたかった事があるんだけど」

 「なぁにぃ?」

 「なんで、信者達にマザーなんて呼ばせてたの?」

 「なんとなく……かなぁ。なんか、それっぽいじゃない?」

 

 嘘だ。

 アンタは母親に餓えてたんじゃない?焦がれてたんじゃない?なりたかったんじゃない?

 だから、信者達にそう呼ばせたんじゃない?

 うん、改めて思ったわ。

 アンタと私は真逆。

 元艦娘と現艦娘。人間と深海棲艦。

 愛されて育った私と、疎まれて育ったアンタ。想ってくれる家族を手に入れた私と、手に入らなかったアンタ。

 母になった私と、母を騙ったアンタ。

 私とアンタは、全く違うけど全く同じ人生を歩んでたんだね……。

 

 「私に勝ったご褒美に、良い事を教えてあげるぅ……」

 「良い事?」

 「ええ……。とぉっても良い事よぉ……。それはね?南方の母は無理をしていることぉ」

 「無理?それはどういう……」

 「南方の母は、本来は『再現』を担っていたの。でもね?貴女にハワイ島の母が討たれた事で、彼女がするはずだった『初期化』まで担わなければならなくなった……」

 「それはつまり……」

 

 弱体化してるって事?

 本来ならやらなくても良い事をしなければならなくなったせいで、余計に力を割かなければいけなくなったから?

 

 「きっと『天幕』を張る余裕もないでしょうねぇ。渾沌ったら、戦力を整えるために相当無理をさせたって言ってたからぁ」

 「それが本当なら……」

 

 朗報なんてレベルじゃない。

 野風が言った『天幕』とは恐らく『結界』の事。それが無いのなら、南方の中枢攻略の難易度はかなり低くなる。

 

 「ふふ♪嬉しそうねぇ……。でも、貴女たちの運命は変わらない。みぃんな死んじゃえばいいわぁ」

 「私は死なないわ。みんなだって死なせない。深海棲艦の野望を阻止して、アンタの墓の前でざまぁみろって言ってやるんだから」

 「ふふふ♪言い返されちゃったぁ……。だったら、精々足掻きなさい。藻掻きなさい。貴女が苦しむ様を、あの世から見ててあげるわぁ」

 

 私が苦しむ様、か。

 そうね、アンタにはその権利がある。

 両親に愛されていた私が苦しむ様を見ていなさい。

 お父さんに救われたことで、色々あったけど旦那と結ばれ、桜を授かって幸せな家庭を築けた私を羨みなさい。

 そんな、もしかしたら自分も得ることが出来いたかもしれない幸せを享受している私が足掻き、藻掻き、苦しむ様を、あの世から見続けなさい。

 

 「あぁ、でもぉ……」

 「ん?なに?」

 

 その先のセリフを聞くんじゃなかったと、私は後悔した。

 だって、今際の際にそんな事聞くなんて卑怯よ。

 こんな事を聞かれたら、否応なく優しい言葉をかけてあげたくなっちゃうじゃない。

 

 「ねぇ、神風……。天国なんて、あるのかな」

 「そんなの……」

 

 あるに決まってる。

 私たちは死んだらそこに逝くの。いっぱい辛い目にあったんおだもの。いっぱい苦しんだんだもの。天国にくらい逝かせてくれなきゃ割に合わないわ。

 と、言ってあげたかった。

 でも言わなかった。代わりに私が言ったのは……。

 

 「アンタも私も地獄逝きよ。いっぱい悪い事したんだもの。いっぱい苦しめたんだもの。これで天国になんて逝ったら非難囂々よ」

 

 私は逆のことを言った。

 野風は優しい言葉なんか期待してない。私と同じように、野風は犯してきた罪を責めらたいんだと思ったから。

 

 「そっかぁ……。そうだよねぇ」

 

 私の言葉を聞いて、野風は満足げに微笑んでゆっくりと瞳を閉じた。

 まだ息はしている。でも、終わりが近い。一度呼吸をする度に、野風の体から命とも呼ぶべきモノが抜けているように感じる。

 

 「野風?」

 「ん~?どうしたのぉ?神風。また眠れないのぉ?」

 

 再び、ゆっくりと瞼を開いた野風に声をかけると、野風は眠れずに泣いていた私に気付く度に言ってくれた言葉を口にした。

 記憶が混濁してるのかしら。あの頃の、私をあやしてくれてた頃の野風に戻っているの?

 だったら、安心させてあげなくちゃ。

 もう大丈夫だよって。もう、心配しなくて良いんだよって。

 

 「違うよ、野風。ちゃんと寝れる。私、野風が居なくても寝れるようになったんだよ?」

 「そうなんだぁ……。偉いのねぇ」

 

 少し、嘘をついた。

 たしかに野風が居なくても寝れるようになったけど、それは旦那と桜が隣に居てくれるから。

 今でも私は一人じゃ眠れない。誰かが隣に居てくれなきゃ、自分がしてきた罪に叩き起こされる。

 独りの私に、安眠は許されない。それが、私に与えられた罰なんだ……。

 

 「野風は、眠れないの?」

 「うん……。凄く眠たいんだけど、眠れないのぉ。なんでだろ……」

 

 野風もそうなんだと思う。いや、そうであってほしいと思った。

 あと少しなのに、あとほんの少しで眠れるのに、野風は犯してきた罪のせいで眠れないでいる。いや、眠ることを許してもらえない。

 いっそ、トドメを刺してあげようとも考えた。でもこれ以上野風を傷つけたくもない。

 だから、私は……。

 

 「ゆーりかご~のう~たをー。カーナリアーがうーたうよー。ねーんねーこぉねーんねーこ。ねーんねーこぉよ~」

 

 悩んだ末、かつて野風が歌ってくれた子守歌を歌ってあげる事にした。

 桜にも歌ってあげた、あの頃の私を安心して眠らせてくれた『ゆりかごのうた』を。今でも眠るときに聞こえてくる、野風の子守歌を……。

 

 「ありがとう……。神か……ぜ」

 

 私が歌い終わるのを待っていたかのように、野風はそう言って眠るように息を引き取った。

 その顔は満ち足りたように穏やかだわ。

 まったく……。

 龍田にしても鬼風にしても野風にしても、なんで私に殺された奴は満足して死んじゃうの?どうして恨み言を言ってくれないの?どうして……。 

 

 「お礼なんて言うのよ。ありがとうなんて言わないでよぉ……」

 

 紡ぐ言葉に促されるように涙が溢れてくる。嗚咽がこみ上げてくる。

 泣きたくなんてないのに、せめて笑顔で見送ってあげたいのに、私の顔は情けなく歪み、涙でグシャグシャになっていく。

 

 「ふざけんじゃないわよ!どいつもこいつも満足して死にやがって!」

 

 私は、起きるはずもないのに、動かなくなった野風の肩を揺すって起こそうとした。

 

 「痛かったでしょ?悔しかったでしょ?憎かったでしょ?ねえ、何とか言いなさいよ……。私がやったんだよ?私がアンタを殺したんだよ!?」

 

 ああ、ダメだ。感情が抑えられない。

 無線を通してみんなが聞いてるってのに、私はみっともなくわめき散らせてる。

 野風に、責められたがってる……。

 

 「罵ってよ!人殺しって罵倒してよぉぉぉ!ねぇ!野風ぇぇぇぇ!」

 

 ふと、私のわめき声と泣き声が室内に反響して、私と野風を包みこんでいるのに気づいた。

 そうしてる内に、私が泣いてるんじゃなくて世界が野風の死を悲しんで泣いているような気がしてきたわ。

 だから、私はこう思うことにした。

 これは泣き声なんかじゃない。嘆きでも、わめき声でもない。

 今響いているのは鎮魂歌。

 野風の魂の安らぎを願い。鎮めるためのレクイエムなんだと。

 そう思って、旦那が来てくれるまで、私は冷たくなっていく野風に縋り付いて泣き続けた。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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