五章開始は早くて二週間後かなぁ……。慣れない環境での仕事のせいか、宿に帰るとすぐに寝落ちしちゃうので(-_-;)
アロマテラピーって言葉を聞いたことある?
日本語で言うと芳香療法と呼ばれるそれは、エッセンシャルオイル(精油とも呼ばれるこれは、長い歴史の中でその芳香と薬理効果が認められた植物の花、葉、茎、実、木などから抽出された濃縮な揮発性の液体の事)を用いて、その芳香が鼻から脳へ伝達され心や体に様々な効果をもたらすの。
マッサージやお風呂に入れて使うこともあるわね。
良く使われるのはラベンダーかしら。
偏見が入ってる気はするけど、トイレの芳香剤でよくある匂いを思い浮かべてもらえば問題ないと思うわ。
で、今まさに、執務室はその香りで満たされている。
ラベンダーの鎮静や弛緩効果のおかげで、訪れた人に「トイレのニオイがする~」とか言われたらどう言い訳しようって、妙にボケた頭で考えちゃってるわ。
だってそうでもしないと、執務室をトイレ臭くし、駆逐艦たちを使って私を椅子に縛りつけて、机を挟んだ正面に引っ張ってきたパイプ椅子に座る恵が説くムツリムの素晴らしさに洗脳されちゃいそうだもん。
「それでね?今入信するとぉ、もれなく『り陸奥たか』を飼える権利とMNB41の書類選考に応募できる権利がたったの10万円のお布施で貰えちゃうの!」
「いや、それ何も貰えてないじゃん」
だいたい『り陸奥たか』って何よ。
飼えるとか言ってたから生き物なんでしょうけど、そんな生物聞いたことがないんだけど?もしかしてカタツムリを逆から読んだだけ?カタツムリを飼う権利なんて誰が欲しがるのよ。
MNB41にしてもそうね。
某アイドルグループのパクりじゃん。ムツリムは陸奥が立ち上げた宗教って聞いたことがあるから、41ってもしかしなくても41センチ砲の41?アホか。
そんな得体の知れないパクリアイドルグループの書類選考に応募するなんて、893に個人情報を提供するくらい危険よ。
「さらに!さらにさらにさらにぃ!今なら信者を一人増やす毎に、紹介料として新たな信者から得たお布施を全て、アラアッラー様に捧げる権利が貰えるの!」
「だからさ、何も貰えてないよね?それに、それってネズミ講じゃん」
しかも質が悪すぎる。
いくら勧誘したって、下の人は1円も儲からないじゃない。詐欺師も呆れるほどの悪徳っぷりだわ。
「ネズミ講だなんてとんでもない!私は純粋に、アラアッラー様の教えを世に広めたいだけ!」
「うっそだ~。だったら、お布施とか求めなくていいじゃない」
「円満ちゃんは何もわかってないのね。お布施は単なる通過儀礼。10万円という、けっして安くない金額をポンと払える人だけ、アラアッラー様を信仰する権利と『あらあら』と言ってもいいお許しがでるのよ」
「そんな権利いらない」
って言うか、『あらあら』言うのにお許しが必要だったの?じゃあ、普段から『あらあら』言ってる人はムツリムってこと?そんなバカな。
「強情ねぇ。たいていの人は最初の特典で落ちちゃうのにぃ」
「はぁ!?アンタの患者はバカばっかりか!」
「円満ちゃん。それを言うなら相談者、もしくは来談者、クライエント、カウンセリーのいずれかが適当よぉ?」
「んなこたぁどうでも良いのよ!それよりも私を解放しなさい!これは立派な犯罪よ!?」
「円満ちゃん。犯罪はバレて初めて犯罪になるのよぉ?つまりぃ、バレなきゃ犯罪じゃないのよぉ♪」
「いやいや、立派に犯罪だから」
よし決めた。ムツリムを摘発しよう。
悪質な勧誘、及び詐欺同然の資金調達。さらに、提督である私を監禁、拘束したんだもの。摘発どころか壊滅させられても文句言えないわ。
「ふふふ♪やぁっと、気が紛れたみたいね」
「はぁ?紛れるどころか面倒ごとが一つ増えたんだけど?」
「嘘はダメよぉ?円満ちゃんの事ならなぁんでもわかっちゃうんだからぁ♪」
ふむ、確かに怒ったせいで、少しだけスッキリしたような気はする。
ここ最近私を悩ませているロリコンクソペド変態野郎への対応と、各提督達を説得する方法も今は考えないで済んでいる。
じゃあ恵は……。
「わざと、私を怒らせたの?殺意を覚えるレベルの宗教勧誘や、さもやっているかのように語ったネズミ講も私を怒らせるためだったの?」
「……」
おいこら元姉妹艦。何故笑顔のまま顔を背ける。
もしかして宗教勧誘とネズミ講はマジなの?マジでやってんの?マジなら絶対に摘発するけど?
「恵、アンタ……」
「そ、そうだぁ!満潮ちゃんってお友達い~っぱいできたのねぇ。私ビックリしちゃったぁ♪」
「話を逸らすんじゃ……!」
「玄関で私を待ってる間に集まってくれたみたいでね?半泣きの満潮ちゃんを皆で慰めてたわぁ」
「満潮が泣いてたの?しかも人前で?」
あの満潮が、親しい人の前以外で泣くなんてよほどの事だわ。つまり、満潮の目に映った私は、満潮が人前で泣いて協力を求めるほど酷かったって事か……。
「これは言わないでって言われてるんだけど、満潮ちゃんからよく相談されるの。どうやったら円満ちゃんの負担を軽くできるかな。って」
「満潮がそんな相談を?」
「ええ、私の一番のお得意様よぉ?」
私は、満潮が恵に相談するくらい心配をかけてたのか。心配させてる自覚はあったけど、誰かに相談するほど心配させてたとは思わなかったな……。
「円満ちゃんって、友達と呼べる人は何人居る?」
「な、何よ急に。友達くらいそれなりに……」
「じゃあ、頭の中で良いから数えてみて?」
「なんでそんな事を……」
「い・い・か・ら♪」
はいはい、やればいいんでしょ?やれば。
え~っと。
私が友達と呼べるのは、何年も寝食を共にした澪と恵、もちろん満潮も。あとは……。
辰見さんと桜子さんは親しいけど違う気がする。あの二人とは親しいけど、友達と言うよりは先輩かな。
先生も呑み友達ではあるけど、好きだと自覚してからは一歩距離を置いてる。友達じゃなく恋人になってほしいってのが理由だけど。
あ、あれ?そう考えると三人だけ?私ってこんなに友達少なかったの!?
いやいや、三人もいれば十分よね!世の中には友達が一人もいない人だっているんだし!
「円満ちゃん。大淀ちゃんを数えてないでしょぉ」
「あ、大淀がいた……。いや、でも……」
「恋敵だから数えなかった?それとも、満潮ちゃんを傷つけた事が許せないから?」
「両方……かな」
私の答えを聞いて、恵は「ふぅん」って言いながら足を組んだ。
仲良くしなさいとか言われるのかな。昔は仲が良かったじゃないとか言って説教でもする気なのかしら。
「円満ちゃん」
「な、何よ……。どうせ、仲良くしろとか言うつもりなんでしょ?」
「言わないわよぉ。言ったって無駄だものぉ」
「だったら、なに?」
「相変わらずバカだなぁと思って♪私安心しちゃったぁ」
「バ……」
バカですってぇ!?
言っときますけどね、私ってIQはかなり高いからね?数字まで言うつもりはないけど、某名探偵の孫と同じくらいあるんだから!
その私をバカ呼ばわりするなんてどういうつもりよ!
「円満ちゃんは確かに頭が良いわぁ。艦娘だった頃でも、私と澪ちゃんは円満ちゃんが考えてる事がほとんどわからなかった。今だから言うけど、違う生き物と一緒に生活してる気分だったわぁ」
「そ、そうだっ……たの?」
「そうよぉ?円満ちゃんは頭が良すぎるから、姉さんが亡くなった後でさえ私たちを頼ってくれなかった。一緒に暮らしてるのに、姉妹なのに、円満ちゃんは私たちを頼ってくれなかった」
「た、頼らなかったのは、その……。アンタ達に心配かけたくなかったって言うか……」
いや、それは言い訳だ。
心配かけたくなかったっていうのも本当だけど、私は澪や恵に相談してもどうにもならないと思っていた。
だってアンタ達は、姉さんが戦死した時は出撃してたじゃない。私みたいに、呑気に入渠してたわけじゃない。
そんなアンタ達に、私の悔しさは理解できないと思ったのよ……。
「ほら、やっぱり円満ちゃんはバカだわ。どうして難しく考えるの?なんで、満潮ちゃんにするみたいに、素直に泣いてくれなかったの?大淀ちゃんの事だってそうよ。円満ちゃんの事だから、大淀ちゃんが一番嫌がる事をしてるでしょ。例えば無視するとか、まともに相手をしないとか。事務的な対応しかしないっていうのも、あの子には効果覿面でしょうね」
「お見通しか……。さすが心理カウンセラーね」
「茶化さないで。私がカウンセラーになろうと思ったのも、澪ちゃんが教官になったのも、素直に人を頼れない円満ちゃんの力になりたかったからなのよ?」
「だから感謝しろと?私はそんな事頼んでない!」
ああ、恵が言うとおり私はバカだ。
恵がカウンセラーになったのは、そういう立場にあれば私が相談しやすいと考えたから。
澪が教官になったのは恐らく、艦娘を育てる事が私の手助けになると考えたから。
二人とも、私のためを思って将来を決めてくれたのに、私は感情にまかせて突っかかってしまった。
満潮が人前で泣くくらい心配させてるのに、私はまだ一人で解決しようとしている……。
「ごめん……。言い過ぎた……」
「気にしないで?クライエントの溜め込んでるモノを吐き出させるのも私の仕事だもの。今日だってね?円満ちゃんが大淀ちゃんとケンカしたかもしれないって、満潮ちゃんから相談されてたから話を聞こうと思って近くまで来てたの。そしたらあの電話でしょう?私、手遅れかもしれないって本気で焦ったんだから」
それであんなに到着が早かったのか。
そりゃ近くまで来てたんなら、20分かそこらで来れたのも納得だわ。先生が出した迎えは完全に無駄になったけど。
「提督になるの、早すぎたんじゃない?円満ちゃん、10年は下積みしたいって言ってたでしょ?」
「私も早いと思ったけど……。半分仕方がなかったのよ。前の元帥さんが続けられなくなって……。ほら、あの人って100歳超えてるからさ。それで先生が元帥さんの後を継ぐことになっちゃったから……」
「でも、こういう言い方は失礼かもしれないけど代わりはいたよね?辰見さんだっているんだし。それなのに、無理矢理少将まで昇格させて提督に据えるなんて強引すぎじゃないかしら?」
恵の言うとおり、先生はかなり強引な手を使って私を提督にした。
私が艦娘時代に上げた武勲では中尉が限界だったのに、取り敢えずは提督補佐とするため、妖精さんが見える者に与えられる特典である二階級特進を使って少佐にしてくれた。
ここまでは強引と言う程じゃないんだけど、強引だったのはそれから。
旧帝国海軍時代からの慣例で、鎮守府司令長官は将官(上級大将、大将、中将、少将、准将)が務めることになっている。逆に言えば、将官しか提督になれないと言っても良いわね。まあ、国防軍になってから上級大将と准将は廃されたけど、その慣例を先生は任命会議の場で逆手に取ったの。
正化30年から時間をかけて海軍上層部を粛清し、有能が故に憂き目に遭わされていた人達を上層部に据えた先生は、元帥に就任した途端に私を提督にすると上層部の面々に言い放った。
いくら先生が選んだ人達だとは言っても、彼らは有能さと善良な人格を合わせ持った人達。
当然の事ながら、その時点では少佐でしかない私を提督にする事に、上層部は臆すること無く反対したわ。
例を挙げると「いくらなんでも若すぎる」「まずは提督補佐として経験を積ませるべきだ」「提督の重責に堪えられるとは思えない」等々、色んな反対意見が飛び交ったわ。
会議には当事者の私も出席させられてたから良く覚えてる。
でも彼らは、けっして自分の立場が危うくなるとか、小娘のクセにとか、そんな事で反対してたんじゃないの。
上層部の人達は海軍、延いては国防、さらに私の精神的負担を鑑みて反対してくれてた。それ自体はありがたいと思ったし、さすがは先生が選んだ人達だなとも思ったわ。
そして最後に、先生が待ち望んだ反対意見が出た。
「提督を務めることができるのは将官からですぅ。って?」
「そうよ。それを聞いて、先生は待ってましたとばかりにこう言ったわ。『ならば昇格させよう。たった今から、紫印 円満少佐を少将とする』ってね」
「相変わらず無茶苦茶するわねぇ。あのオジサン。先に出た反対意見とかガン無視じゃない」
「無視はしてないわ。屁理屈で私の階級を上げたのは言わばジャブ。それを皮切りに、先生は上層部の説得に移ったの。私的には公開処刑されてる気分だったけどね」
「どうしてぇ?」
「それは……。私からしたら褒め殺しされてるのと同じだったから……」
私を無理矢理昇格させた先生は、私を自分の隣に立たせるとプレゼンを始めたわ。
こんな感じで。
「まずは彼女を提督にする事で生まれるメリットだが、賢明な諸君らなら言わなくても想像はついてるだろう?そう、海軍、特に男性軍人の士気高揚だ。彼女の容姿は、美女美少女揃いの艦娘たちと比べても群を抜いている。いや、飛び抜けていると言っても過言ではない!そんな彼女の下で働ける男性諸氏は、正に我が世の春を経験するだろう。ハッキリ言って、私と代わってほしいくらいだ!」
場に集った上層部の人達も「何言ってんだコイツ」って思ってるのが丸わかりな顔してたわ。きっと私もそんな顔をしてたと思う。
そんな場の雰囲気など意に介さず、先生は私の容姿と性格をこれでもかと褒めちぎった後、こう締め括ったわ。
「諸君らも軍人だ。いざという時には兵を率いて戦場に赴く覚悟はあるだろう。だが今は、一兵士の立場になって考えてもらいたい。私を初めとした諸君らのようなむさいオッサンに死んでこいと言われるのと、紫印少将のような可憐な美少女に「死んでこい♪」と脳を蕩けさせるような声で言われるのとどちらが良い?断然後者だろうが!」
先生の性癖もろ出しの説得に「た、たしかに」とか「言われてみれば」と同調する声が上がり始めた。
それを見て「ダメだコイツら」って思った覚えがあるわ。でも、まともな人も残っていた。その人は臆すこと無くこう言ったわ。
「しかし閣下。艦娘は女性です」ってね。
はい論破。
と、その人の顔が語っていた気さえする。だけど、先生はその反論も予想内だったみたいで、彼のドヤ顔を嘲笑うかのようにこう問い返したわ。
「では、国民はどうだ?」と。
日本は民主主義故に、軍といえども国民の声は無視できない。不祥事を起こせばマスコミを通じて袋叩きにされるし、運営資金である軍事費にも影響が出かねない。
それを切っ掛けに、今の内閣が倒れれば軍の体勢も変わるかもしれないわね。
だから先生は、私をアイドルにしようとしたのよ。
艦娘達を指揮し、艦娘と共に戦場を勇猛果敢に駆ける可憐な戦乙女。
私を通して、女性からは憧れと羨望を、男性からは支持と理解を得ようとしたの。最悪、男性からの支持だけでも良かったんでしょうね。ほら、世界の半分は男でできてるから。
「なるほどぉ!それで一時期、円満ちゃんがテレビや雑誌に出てたのねぇ」
「ネットじゃ散々叩かれたけどね」
やれ「元帥の愛人」だとか「お飾り提督」とかね。
前者にはなりたいと思ってるから、あながち間違いないでもないかな?
「でもぉ、それで懐柔できるほど、今の上層部ってバカばっかりなのぉ?」
「まさか。そんな訳ないでしょ?」
先生だって、そこまでバカな人達を上層部に置いたりはしない。
そこからは、私の指揮能力、管理能力等々、提督に必要な能力を私が満たしている事を、先生は過去の実績も含めて説明してくれた。
説明された私の方はと言うと、こんなに私の事を見てくれてたんだって感無量だったわ。
「その結果、私は異例の若さで提督になれたってわけ」
「ふぅん。でも要は、円満ちゃん以外に自分の席を譲りたくなかったから。でしょぉ?」
「そんな身も蓋もないこと言わないでくれない?最初に言ったでしょ?半分仕方がなかったって」
そう、私を提督に据えたのは暫定措置な側面もある。
それは、恵が言ったように先生が後を任せても良いと思える人が居なかったから。
今は陸軍にいる少佐を取り敢えずの提督に据えて、私が経験を積むまで待つのも考えたらしいけど、陸軍の上層部にも根を張っておきたかった先生はその案を取りやめにした。じゃあ辰見さんを、ともなったんだけど断られたそうよ。
「長倉さんが来てくれれば一番良かったんだけどね……」
「長倉さんって、舞鶴の?」
「うん。現舞鶴提督の長倉中将」
辰見さんの次に白羽の矢を立てられたのが、初の女性提督であり、初めて元艦娘で提督になった人。さらに、妖精さんとコンタクトが取れない唯一の提督でもある、
「たしか、長良だった人よね?」
「うん。アンタも会ったことがあるでしょ?正化25年の舞鶴襲撃時に、早々に戦死した前提督に代わって陣頭指揮を執ってた、あの長良だった人」
長倉さんは、奇兵隊縁の人たちや私たち以外で先生が信を置く数少ない人で、私が一人前になるまで横須賀で提督をしてくれと打診したそうよ。
長倉さんも、提督になる際に先生に後押ししてもらった事や、舞鶴襲撃時にいの一番に救援を送り、舞鶴が復興するまで協力、支援してくれたことに恩義を感じていたらしく、二つ返事で引き受けてくれた。
だけど彼女を慕い、彼女の下以外では戦いたくないと言う艦娘や職員達の嘆願書が先生のもとに届いて、それを読んだ先生は泣く泣く話を白紙に戻したの。
「長倉さんは文句言わなかったのぉ?舞鶴が横須賀に劣るって言うつもりはないけど、彼女からしたら栄転じゃない」
「文句は言わなかったそうよ。むしろ、そこまで慕われてたんだって涙を流したらしいわ」
「そっかぁ……。恩義より情が勝っちゃったのねぇ」
「うん……。戦況が落ち着いて来てたのも、それを後押ししたんだと思う」
「なんだか、残念そうねぇ」
「残念と言うか……」
いや、やっぱり残念かな。
だって、長倉さんは私が理想とする提督像を体現してる人の一人だもの。彼女の下で提督について学びたかったわ。彼女のように、栄転なのにもかかわらず、皆から行かないでと言われる提督になりたいって今でも思ってる。
「人を駒扱いしてるクセにね」
「でも、蔑ろにはしてないでしょ?」
「その、つもりだけど……」
ちゃんと出来てるかいつも不安になる。
優しくし過ぎてもダメ。厳しくし過ぎてもダメ。出撃にしても、安全マージンはギリギリに設定してるつもりだけど、辰見さんからは過保護過ぎると注意されることが今だにある。
満潮のように扱いなさいと言われた事もあるわ。
それでも、満潮には一人での出撃を命じる事が出来るのに、他の子にはそれが出来ない。
「信頼、してないのかな」
「それは違うわ。円満ちゃんは艦娘たちを信じてる。艦娘たちだって、円満ちゃんを信じてるわ」
「でも……」
「じゃあ、円満ちゃんが喜びそうな良い事を教えてあげましょう」
「良い事?」
なんだろう?
今の話で私が喜びそうな良い事って言ったら、私が艦娘たちにどう思われてるか、くらいよね?
でも、辞める前ならまだしも、艦娘を辞めた恵に今所属してる子達が私をどう思ってるかなんて知りようがないと思うんだけど……。
「私が活動してるのが神奈川県っていうのもあるんだけどぉ、クライエントは横須賀に所属してた人達がほとんどなのね?その人達は、決まって円満ちゃんの事を話題に出すのぉ」
「ちゃんとやってるか。って感じで?」
「そうねぇ。だいたいそんな感じよぉ。『満潮は上手くやってる?クソ提督になってない?』とか『私の名前、ちゃんと書けるようになった?』とか『ちゃんと卵焼き食べてる?食べてないなら作りに行ってあげるけど、食べりゅ?』とかねぇ」
「取り敢えず、元阿武隈と元瑞鳳をここに連れて来い。文句言ってやる」
今の阿武隈もそうだけど、どうして自分の名前を書けるかどうかを気にするのかしら。確かに『隈』とかは難しい部類に入るでしょうけど、アンタ達だって私の名前書けなかったじゃない。
書いてみて?って言ったら『死因 絵馬』とか『エマ・シーン』とか書いてたからね?後者とか絶対にわざとでしょ。
瑞鳳の卵焼きに対するこだわりも相変わらずみたいね。提督補佐になったばかりの頃は、卵焼きの試作品をこれでもかと食べさせられたわ。おかげで、太りにくい体質なのに3キロも体重が増えちゃった。
「彼女達なりに、円満ちゃんの事を気にかけてるのよ。元曙ちゃんなんて、『艦娘が足りないなら漁船団を率いて哨戒してあげる』って言ってたわぁ」
「いやいや、申し出はありがたいけど危ないからやらないで?って言うか、あの子今何してるの?」
「気仙沼で網元してる」
「網元!?マジで!?」
艦娘だった頃から漁師のアイドルみたいな地位を築いてたけど、まさか網元になってたとは……。
交渉したら安く魚を卸してくれるかな?そうすれば食堂の材料費がけっこう浮くし。
「元艦娘だけじゃないわぁ。今艦娘を務めてる子達も、どうやったら円満ちゃんの役に立てるかって、自分の先代に相談とかしてるのよぉ?」
「それ、本当?」
「本当よぉ。円満ちゃんが思っている以上に、円満ちゃんは慕われてるの。満潮だった頃の円満ちゃんを知ってる人ほど、その傾向が強いわぁ」
恵は諭すようにそう語るけど、とても信じらる気になれない。
だって、艦娘だった頃の私はみんなに嫌われていた。相手にしなかったしされなかった。
そんな私を知ってる人ほど、私を慕ってる?そんなの、信じられるわけないじゃない。
「円満ちゃんが他人を寄せ付けなかった理由はみんな知ってたわぁ。ひたむきに訓練に励んでいた事もね?強くなりたい。強くなって私が守る。こう二度と、誰も死なせたりしない。そう考えてたのは、私や澪ちゃんじゃなくてもわかってたのよ」
「はは……。みんな好意的に見すぎよ……」
「でも、その通りだったんでしょう?」
どう、かな……。
確かに強くなりたかった。強くなって守りたかった。私が居ない間に死んでほしくなかった。でもそれは、あくまで澪と恵だけ。他の子の事なんて考えてなかったわ。
それなのに、そこまで好意的に見られてたって知っちゃったら罪悪感が湧いて来ちゃうじゃない。
「みんな、円満ちゃんの頑張りをちゃんと見てるのよ。だから無理に気負わなくて良いの。気に入られようとか、仲良くしようとか考えなくても良いの。あの頃みたいに、ひたむきに頑張ってる姿を見せてれば騙されて慕ってくれちゃうんだから」
「だ、騙すのはちょっと……」
「ふふふ♪嘘も方便って言うでしょう?」
「用法用量を間違えたらただの嘘つきだけどね」
「あらあら、まるでお薬みたいねぇ」
なんて、冗談が言える気分になれたのは恵のおかげかな。と、思いながら、私と恵は昔話混じりの雑談に花を咲かせた。
椅子に縛られた状態で笑う私を、哨戒の報告に来た子達がどう思わうかなんて欠片も考えずに。
次章予告。
大淀です。
ついに動き出す捷号作戦。
横須賀鎮守府に集められた五大鎮守府の提督と秘書艦達は、異国の提督も交えて円満さんの思惑を聞かされます。
一体、円満さんはは何を考えているのでしょう?
円満さんが思い描く、捷号作戦のシナリオとは?
次章、艦隊これくしょん『欺瞞と策謀の
お楽しみに。
主要キャラ人気投票
-
朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
-
大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)