艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第四十一話 おっそ~い!

 

 

 泊地はどうか知らないけれど、本土にある横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊の五大鎮守府には、それぞれ名物と呼ばれるモノがある。

 私が知ってる限りで申し訳ないけど、呉だと記念艦の大和。頭がおかしい方の大和じゃなくて実艦の方の大和ね。

 あとは、佐世保鎮守府内にある妹カフェかしら。

 これは佐世保提督の趣味で運営されているカフェで、入店すると「お兄ちゃんおかえり♪」って、店員を務める駆逐艦が出迎えてくれるそうよ。一番人気は文月って子だったかな?

 そして当然、私が所属する横須賀鎮守府にも名物が存在する。

 金曜日限定の横須賀海軍カレーはまだまともな部類だけど、まともじゃないモノもあるわ。その一つが……。

 

 「矢矧さん。手が止まってますよ」

 「す、少し休ませてくれない?飽きちゃ……。いやいや!疲れちゃった!」

 「訓練に比べれば楽なものでしょう?てるてる坊主を作ってるだけなんですから」

 

 と、言いながら、大量の〇コッティの箱に囲まれて、死んだ魚みたいな目でてるてる坊主を量産しているのは神風ちゃん。

 確かに訓練よりは体力的に楽だけど全く楽しくない。

 神風ちゃんが住んでる第一駆逐隊の部屋で、二人で朝から作ってるけど終わる気がしないわ。

 だいたい何よ!てるてる坊主生産任務って!

 横須賀鎮守府の伝統で、毎年各駆逐隊が持ち回りでやってるらしいけど数がおかしいでしょ!

 え?何個かって?300個よ300個!そんな大量に作ってどこに吊す気なのよ!ってツッコみたいわ!

 それにまだ五月よ!?気が早すぎでしょ!

 

 「売るんですよ」

 「売るの!?って言うか売れるの!?ティッシュの塊に(・∀・)(こんな)顔を書いてるだけよ!?」

 「それが売れるんですよ。一個1500円で」

 「たっか!原価数円にも満たない紙の塊に1500円!?売る方もバカだけど買う方はもっとバカよ!」

 

 そう、これが横須賀鎮守府名物の一つ。その名も『駆逐艦が手作りしたてるてる坊主』よ!

 ってまんまやんけ!

 せめて名前くらいはもうちょっと捻ろうよ!どう捻れば良いの?とか言われても困るけどそのまんますぎでしょ!

 シンプルイズベストなつもり?それとも名前つけた人のネーミングセンスが安直だっただけ!?

 

 「意外なことに、毎年完売しているそうです」

 「日本人頭大丈夫!?てるてる坊主が欲しいなら自分で作ればいいじゃない!それとも何?『駆逐艦が手作り』ってところに惹かれて買うの?身の毛がよだつわ!」

 

 だいたい、駆逐艦が手作りしたって売り手が謳ってるだけで、駆逐艦が作ったって確証を買い手は得られないでしょう?実際、今年は軽巡である私が半分作ってるんだし。

 

 「これは先輩に聞いたんですけど、作った子のブロマイドをオマケにつけて販売してるんだとか」

 「どう考えてもそっちが本命じゃん!オマケでてるてる坊主がついてくるの間違いじゃないの!?」

 

 いやもう、これ間違いないでしょ。

 ブロマイドが欲しくて買ってるの確実じゃん。

 だって、艦娘を撮影しようとしても、普段は鎮守府か洋上どちらかにしか居ない艦娘を撮影するなんて至難の業だもの。

 戦艦や空母は広報のためにメディアに露出する事があるそうだけど、それ以下の艦種。特に駆逐艦なんかは、年齢が低いのもあってメディアへの露出は控えられている。

 故に、駆逐艦や海防艦などのロリコン御用達艦の生写真にはネット上で高値がついている。

 艦型によって差があるけど、普通の立ち姿でも数千円から数万円。パンチラ写真なら数十万もの値がつくそうよ。被弾して制服が破れている写真なら数百万出しても惜しくないと言う変態もいるんだとか。

 

 「今ってさ。戦争中よね?」

 「戦争中、と言ってももう長いですからね。みんな慣れちゃったんですよ」

 「慣れすぎでしょ。いくら本土に爆弾が落ちなくなったって言っても、艦娘の護衛無しじゃまともに航海出来ないのは変わってないのよ?」

 「それはそうですが、生活に影響が出ない限り、国民の大半にとっては対岸の火事と同じですからね。でも、艦娘が受け入れられてると思えば我慢できるでしょう?」

 

 え?神風ちゃんは我慢できるの?

 300個のてるてる坊主が完売するという事は、単純に300人のロリコンが買いに来れる範囲に生息してるという事よ?

 そして今年、そのロリコン共が買い求めるのは神風ちゃんの写真。

 神風ちゃんって、全身の色が派手なことに目を瞑ればかなりレベルの高い美少女だし、大正浪漫を思わせる女学生風の服装も劣情を掻き立てるのに一役買うでしょう。

 ポーズ次第では確実にネタにされるわ。

 何のネタかって?フ……。わかってるクセに。

 

 「憲兵さんが何も言わないのが不思議ね。売り子とか速攻で拘束されそうなものだけど」

 「べつに不思議じゃないですよ。売り子は憲兵さんですから」

 「はぁ!?」

 

 うぉい!憲兵!

 取り締まらなきゃならな立場の人が、こんないかがわしいイベントに率先して協力するとはどういう事だ!

 

 「しかも先輩の話では、オマケでつくブロマイドの被写体はコスプレした憲兵さんだそうです」

 「憲兵さぁぁぁぁん!憲兵さん何してんの!?私も中で憲兵さんの株が大暴落しちゃったじゃない!」

 

 巡回する憲兵さんを何度か見たことがあるけど、射貫くような鋭い視線で鎮守府の治安を守っていると思ってた憲兵さんが、まさか女装癖のある変態だとは微塵も考えなかった!

 という事は、あの鋭い視線は獲物を物色してたってこと!?

 

 「コスプレしてるのは憲兵隊長さんらしいですよ。ほら、あの人って男か女かわからない顔と体型ですから」

 「いや、わかるでしょ!格好が違うだけで全部同じ人のコスプレなんでしょ!?区別つかねぇのか変態ども!」

 「手で目元や口元を隠して上手く誤魔化してるそうです。こんな感じで」

 「余計いかがわしいわ!出会い系か!」

 

 と、実際に手で目元を隠してくれた神風ちゃんにツッコんじゃったけど、これと似たような写真が売られるって事よね?

 うわぁ…ないわぁ……。

 完全に援〇目当てにしか見えないわ。ホ別3とかコメントに書いてありそう……。

 鎮守府の闇を垣間見てる気分になってきちゃったから話変えよ……。

 

 「話は変わるけど、どうして第一駆逐隊は神風ちゃん一人なの?駆逐隊って基本的に四人編成よね?」

 「本当にガラッと変えましたね。別に良いですけど……」

 「だって気になるじゃない。四人いれば、このアホみたいな任務だって私が手伝わなくても楽に済んだでしょうに」

 

 普段、神風ちゃんが朝風ちゃんたち第五駆逐隊の面々と一緒に行動しているのもこれが理由の一つ。

 神風ちゃんは、駆逐隊に所属してはいるものの駆逐隊として行動していないの。それが私はずっと不思議だった。

 だからこの機に聞いてみようと思ったのよ。けっして、この退屈で頭がおかしくなりそうな任務に巻き込める子が他にいないか確かめるためじゃないわ。本当よ?

 

 「私の艤装、『神風』が全ての艤装のプロトタイプという事は識っていますか?」

 「養成所の座学で習った程度だけど、一応識ってるわ」

 

 今から遡ること十数年前の正化20年。

 深海棲艦に対抗するために海軍が総力を挙げて開発、実用化した世界初の対深海棲艦用人型兵器『艦娘』。そのプロトタイプが、『神風』を初めとした神風型駆逐艦だと養成所の座学で習った。

 残念ながら、一番艦の『神風』を除いた他の神風型の初代達は、全員壮絶な戦死を遂げたそうだけど……。

 

 「他にも、同時期に開発された野風型と呼ばれる艦型があったんですが、老朽化が激しく、私達五人を除いた他の神風型の艤装と同じく、今は工廠で保管されています」

 「それが、神風ちゃんが一人の理由?だったら他の駆逐艦と組ませても……」

 「それが無理だから私は一人なんです。私の艦娘としての性能は最低。低すぎて、普通に艦隊行動を取るだけでメンバーに迷惑をかけてしまいます」

 「脚技を習得しているのに?」

 

 にわかには信じられない。

 一緒に哨戒に出るようになって、神風ちゃんが戦うところを何度か見る機会があったけど凄まじかったじゃない。

 敵の攻撃は掠りもせず、照準すらつけさせなかった。それだけじゃないわ。

 神風ちゃんは、正に肉薄とも呼ぶべき距離まで接近して魚雷を放ち、駆逐艦や軽巡洋艦。重巡洋艦だって沈めて見せたのよ?それ程の戦闘力を有しているのに、他の艦隊メンバーに迷惑をかけると言われても信じられるわけがない。

 

 「それも理由の一つです。私は性能の低さを誤魔化すために、邪道と言われる脚技を習得しました。逆に言うと、私の戦闘力の高さは脚技有りきなんです。そのせいで、今度は脚技を習得している子としか組めなくなりました。多少大袈裟ですが、真っ当に戦えば新米の駆逐艦にすら負けかねません」

 「島風ちゃんとは逆って事か……」

 「そうとも言えますね。もっとも、あの子の場合は性格の問題もありますが」

 

 島風型駆逐艦一番艦の島風。

 数多い駆逐艦の中でもトップクラスの性能を持ちながら、その高い性能。特に速度に差が有り過ぎて組める艦娘が居ない。

 だったら速度を調整すれば良いじゃないってなるけど、彼女は己の速度に誇りを持っているのか他のメンバーと速度を合わせようとしないそうよ。

 

 「いつも一人で走ってるよね。あの子」

 「きっと、走れる事が嬉しいんだと思います」

 「どうしてそう思うの?もしかして、島風ちゃんとは仲が良いの?」

 「ん~……。良いか悪いかと聞かれたら悪いです。と言うのも以前、着任してしばらく経った頃に絡まれた事があるんです。「おっそ~い!」って」

 

 絡まれた?

 なんで島風ちゃんは、神風ちゃんに絡んだんだろう。

 おっそ~い!って言われたそうだから、速度の遅さをバカにしたのかしら。それとも、他に理由が?

 

 「自分と同じように一人でいる私に興味が湧いたんだと思います。その日を皮切りに、暇さえあれば絡んでくるようになりましたから」

 「おっそ~い!って?」

 「はい。無駄にかけっこしたがるんですよあの子。私もその当時は一人ぼっちでしたから、絡んできてくれる事が嬉しかったんでしょうね。律儀に相手してあげてました。その頃に聞いたんです。あの子が艦娘になった理由を」

 

 神風ちゃんの話だと、島風ちゃんは艤装と適合できる条件がわかってから最初に艦娘になった子で、初めてスカウトされて艦娘になった子でもあるそうよ。

 スカウトされたのは、交通事故に遭って入院した直後。下半身不随と診断された後だったんだとか。

 

 「元々走るのが好きだったらしく、彼女は艦娘にならないかと言う海軍からの申し出に一も二もなく飛び付いたそうです」

 「高速修復材が目当てで。でしょ?」

 

 高速修復材は妖精さんが定期的に精製してくれる液体で、これまた妖精さん特製のバケツに入れてしか保存できない謎の物質よ。しかも艦娘にしか効果が無い。

 だけど効果は抜群で、例え体の一部が欠損していても復元してしまうほどの効果を持っている。脊髄が損傷してたって元通りよ。ただし、効果があるのは怪我が完治する前に限られる。傷が塞がってしまうと、損傷した状態を正常な状態と高速修復材が捉えるのか、それ以前の状態には治してくれないの。

 原理は今だに不明なんだけどね。

 

 「はい。彼女に『島風』の適性があるのがわかったのと、事故に遭ったのがほぼ同じタイミングだったのが、彼女にとっても海軍にとっても僥倖でした」

 「そっか、だから必要な事とは言え、速度を落とすのを嫌がるのね……」

 

 きっと彼女は、再び全力で走れるようになったのに、全力で走ることが許されない事が我慢できないんだわ。

 例えそれが、他人の目には我が儘にしか映らなくても。

 

 「でも、今は絡まれたりしてないわよね?一緒に居るところを見たことないし」

 「私が朝風達と一緒に行動するようになってから近づかなくなりました。たぶん、同じはみ出し者だと思ってたのに、仲間が出来た私を裏切り者だって思ってるのかもしれません」

 「それ大袈裟に考えすぎなんじゃない?」

 「そんなことありません。たまに会っても目すら合わせてくれませんから」

 

 そう言って神風ちゃんは、てるてる坊主を作る手は止めずに目を伏せた。

 嫌われてる。とか思ってるのかしら。だから、仲が良いのかと聞いた時も悪いと言ったの?

 

 「神風ちゃんの方から話してみたら?もしかしたら、島風ちゃんは遠慮してるのかもよ?」

 「遠慮、ですか?」

 「そう、遠慮。だって島風ちゃんは、神風ちゃんに艦娘になった理由を話したんでしょ?」

 「ええ、まあ……」

 

 艦娘は基本的に、自分が艦娘になった理由をどうでもいい人には話さない。話すのは親しい者。例えば姉妹艦や僚艦。自分が聞いてほしいと思った相手にしか、自分が艦娘になった理由を話さないの。

 それなのに、島風ちゃんは姉妹艦でも僚艦でもない神風ちゃんに話した。

 それはイコール、神風ちゃんに聞いてほしいと思ったから。友達だと、思っていたから。

 

 「きっと島風ちゃんは、はみ出し者の自分と一緒にいたら神風ちゃんに迷惑をかけるとでも考えてるのよ」

 「迷惑だなんて……。そりゃあ、無駄に走らされるのは迷惑でしたけど、あの子に話しかけられるのを迷惑に感じた事なんてありません!」

 「だったらそう言ってあげなさい。言葉にしなきゃ伝わらないことってあるでしょ?」

 

 お?なんだか、今の私って軽巡っぽくない?

 いや、伏し目がちの神風ちゃんに「そう、ですね……」と言うくらい考えを改めさせた私は正に駆逐艦を導く軽巡だわ。

 普段はしごき回されるけど、こういう時くらい年上としての威厳を示しても良いわよね。

 

 「友達に遠慮なんてするもんじゃないわ。と言っても、大和みたいに遠慮がなさ過ぎなのはダメだけど」

 「あら、ちょっと前までは、矢矧さんの方が遠慮知らずじゃありませんでしたっけ?」

 「あれは若気の至り」

 

 うん、大和に付きまとってたのは一時の気に迷い。若さ故の過ちよ。だから、今では何とも思ってないわ。

 本当よ?たまになら抱かれてもいいかなぁ、なんて思ったりしてないんだから。

 

 「大和さんに飽きちゃったんですか?」

 「ち、違う!そういうんじゃなくてその……。そう!正気に戻ったのよ!」

 「怪しいなぁ。もしかして、金髪さんと一戦交えて乗り換えたんじゃないです?」

 「してないから!私を尻軽みたいに言わないでくれない!?」

 

 マズい。

 これ以上大和との事をツッコまれたくないわ。だって自分の壊れっぷりを思い出すだけで死にたくなるもの。

 ここは何とかして、島風ちゃんの話題に軌道修正しなきゃ。

 

 「それよりも、島風ちゃんの件はどうするの?このまま気まずいまま?それとも神風ちゃんの方から歩み寄って、元の友人関係に戻る?」

 「それは……」

 

 よし!いけそうね!

 神風ちゃんの中では、私と大和の事よりも島風ちゃんの事の方が締めてるみたい。

 てるてる坊主を作る手は止めずに「う~」とか「でもな~」とか言って悩んでるわ。

 べつにケンカしたわけじゃないんだから、変に悩まずに話しかければいいのに。

 

 「よし!決めました!」

 

 小一時間ほど悩んだ後、最後のてるてる坊主をダンボール箱に詰め終わると同時に、神風ちゃんは決心がついたのか、そう言ってダンボール箱を抱えて立ち上がった。

 ダンボール箱を抱えた神風ちゃんって絵にならないなぁ。今から引っ越しですか?ってツッコみそうになっちゃった。

 

 「次会ったら私の方から話しかけます!」

 「その意気よ!さすが神風ちゃん!」

 

 ちなみに、何て話しかけるつもりなの?

 って聞こうと思ったけど、無粋な気がしたから聞くのはやめたわ。

 でも神風ちゃんは、決意表明でもするかのように私の疑問に答えてくれたわ。

 

 「もし、一緒に居ても良いの?なんて聞こうものならこう言ってやりますよ!気付くの『おっそ~い!』って!」

 

 そう口に出したことで迷いが完全に晴れたのか、神風ちゃんは意気揚々と部屋を出て行ったわ。

 大量のス〇ッティの空箱の山に囲まれた、私を残して。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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