艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第四十二話 それは、胸と呼ぶにはあまりにも小さすぎた。

 

 

 姉妹艦、特に同じ駆逐隊に所属している者同士は基本的に仲が良い。私みたいな例外を除いてって但し書きは付くけどね。

 ほら、私って姉妹艦達と距離を置いてるじゃない?

 私が一方的に避けてるから仲だって良くないわ。特に、普段は顔を合わせる事すらないこの人とは……。

 

 「ちょっと満潮!何よこの部屋!掃除がぜんっぜんなってないじゃない!」

 

 と、腰に両手を当てて、プンプン!って擬音が聞こえてきそうなほど文句を言ってるのは呉提督の秘書艦である霞さん。

 彼女は私と同じ朝潮型駆逐艦の十番艦だけど、私と違って所属は呉鎮守府だから毎年夏に開かれる駆逐艦演習大会の時くらいしか会う機会がない。

 だから、会うのはこれで3回か4回目くらいじゃないかしら。

 朝潮達は会いたがるけど、私はできる限り会いたくないから多いくらいに感じてるんだけどね。

 何故かって?

 それは、私と霞さんが犬猿の仲だからよ。

 その理由は、霞さんが初めて会った時にケンカ売ってきたからよ。

 何て言ってきたと思う?初対面でいきなり「甘ったれたガキ」呼ばわりしてきたのよ?私の事を何も知らないのにいきなり!

 私もつい「年増のババアがなんか言ってる」って言い返しちゃってさ。それからはもう顔を合わせる度にケンカするようになっちゃった。

 え?どうしてババア呼ばわりしたのかって?

 いやほら、駆逐艦って見た目の年齢と実年齢が乖離してる事があるじゃない?

 霞さんって、見た目は12~3歳だけどお姉ちゃんと同い年なのよ。だからババアって言ってやったの。

 ああでも、本当にババアって思ってるわけじゃないからね?売り言葉に買い言葉ってヤツよ。

 

 「ちょっと!ちゃんと聞いてるの!?」

 「聞いてるわよ。うるっさいわねぇ」

 

 おっと、物思いに耽ってたらババアが詰め寄ってきた。相手したくないなぁ……。でもしなきゃダメか。仕事だし。

 その霞さんが、なぜ横須賀鎮守府で部屋の掃除の出来に文句を言っているかというと、理由は明日予定されている米国第7艦隊歓迎式典にある。

 

 「うるさいぃ!?アンタは横須賀の秘書艦でしょ!アンタの態度はそのまま提督である円満の評価に直結するのよ!?少しは考えて行動しなさいな!」

 「わかってるわよそのくらい!だいたい、アンタが部屋の掃除くらいでギャーギャー騒ぐのが悪いんでしょうが!」

 「掃除くらいとは何よ掃除くらいとは!こんな汚い部屋にうちの司令官を寝かせろって言うつもり!?」

 

 そう、今日は明日の式典に備えて、呉提督が横須賀鎮守府に泊まるの。その宿泊予定の部屋の掃除がなってないっていちゃもんつけてるのよ。

 喚き出す前なんか、窓のサッシを指でツーってやって「横須賀の綺麗は随分とレベルが低いのね」と嫌みったらしく言いやがったのよ!?私思わず、姑か!って言いそうになっちゃった。

 

 「霞、そのくらいにしないか?十分過ぎるほど綺麗じゃないか」

 「アンタは黙ってなさい!今は満潮と話してるの!」

 「はいママ」

 「ちょぉ!人前でしょ!」

 

 んん?

 助け船を出そうとしてくれた呉提督が、霞さんに一喝された途端にママとか言って黙っちゃったんだけど……。聞き間違いよね?

 いやでも、呉提督はマザコンだって噂を聞いたことがあるし……。

 

 「今、ママって言った?」

 「い、言ってない!」

 

 むふ♪これは攻守が逆転したっぽいわね。

 霞さんは顔を真っ赤にして必死に否定してるし、呉提督も「やっちまった」みたいな顔して冷や汗流してるわ。ここは機を逃さず、一気に攻め立てるべきね。

 

 「いやいや、言ったよね?」

 「言ってないったら!ね!言ってないよね!?」

 「はいママ。言ってません」

 「ほら~。やっぱりママって言ってるじゃない」

 

 私の頭の中で勝利のファンファーレが鳴り響いている。霞さんも負けを悟ったのか「バ、バカ~!」って半泣きになってるわ。

 

 「ママ。ねぇ~。随分と大きなお子さんだこと。そんなに大きかったら抱っこするのも大変でしょ。いや?逆に抱っこされるのかな?」

 「そうだね。さすがに抱っこは出来ないから僕が抱っこしてるよ」

 「アンタは黙ってなさい!余計状況が悪くなるでしょ!」

 

 ふん、すでに手遅れよ。

 霞さんはまだ諦めてないようだけど、呉提督は諦めたのか「もういいじゃないかママ。包み隠さず話そうよ」とか言ってるし。ここは霞さんを直接攻めずに、呉提督を通して責めた方が良いかもしれないわ。

 って事でさっそく。

 

 「赤ちゃんプレイは?」

 「基本」

 「霞と書いて?」

 「ママ」

 「叱られるのは?」

 「ご褒美」

 「人として終わってると思わない?」

 「むしろ始まった!」

 

 ダ~メだこりゃ。

 聞いといてなんだけどマジでキモイ。

 でも、これをネタにして一本書けそうね。なんて、訳わかんない事考えてる私がいるわ。私は何を書くつもりなんだろう?

 

 「ね、ねえ満潮」

 「なぁに?ママ。そろそろ授乳の時間かしら?」

 「それは夜……!じゃない!そんなことしてないったら!」

 

 うわぁ……。半分冗談言ってみたけど、マジで授乳プレイまでしてるんだぁ。ドン引きだわぁ。って言うか出るの?見た目の感じだと、私と同じくらいか少し小さいくらいだから出ないと思うんだけど……。

 いやぁでも、円満さんよりはあるから出るのかもしれないわね。と言う事は、もしかしたら私も出る可能性が……。ある訳ないわね。バカな事考えてないで退散しよっと。

 

 「じゃあ私、他にも用事があるからそろそろ行くわね。あ、応接室の場所は知ってるわよね?執務室の対面の。時間になったら行ってね」

 「はぁ!?こっちは客よ!?案内しないつもり!?」

 「何か言った?ママ」

 「マ、ママって言うな!い、いやそれよりも……!」

 「ああそうだ。これだけは言っておかないと」

 

 と、なおも食い下がろうとする霞さんを制して私は一言だけ言ったわ。トドメの一撃を。

 

 「どんなプレイをしようと構わないけど、終わったら綺麗に掃除(・・・・・)しといてよね」

 

 ってね。

 霞さんはぐうの音も出なくなったのか、口をパクパクさせながら私を見送ってくれたわ。

 

 「フンっだ!大人しくオムツ交換でもしてろってんだ変態共!」

 

 なんて悪態をつきながらも正面玄関に向かって歩いている私は、これからの予定を再確認する事にした。

 え~っと、マザコンとそのママの案内は終わったし、佐世保と大湊の提督と秘書艦は朝潮達が案内してくれてるから、後は到着を待って舞鶴提督とその秘書艦を寝床に案内して、折を見て応接室に連れて行くだけね。今の時間は……。

 

 「5時前ってとこか。夕飯の支度もしたいんだけどなぁ。あ、今日は夕飯はいらないんだっけ」

 

 って、これじゃあまるで主婦じゃない。

 好きでやってる事ではあるけど、13歳の身ながら下手な主婦より所帯じみてる気がするわ。

 

 「たしか、舞鶴提督は特に丁重に。とか言ってたわね。味方になってもらおうって腹積もりなのかな」

 

 私がそう思うのには理由がある。

 それは、明日の歓迎式典後に開かれる予定の『捷号作戦に関する概要説明会』と銘打たれた会議よ。

 その会議の場で、円満さんは捷号作戦の概要の説明と、各提督に直接、円満さんが使いたい艦娘を供出してくれるようお願いする気なの。

 その際に、舞鶴提督に味方してもらう気なんだと私は思ったわけ。面識があるらしいからね。

 

 「上手くいけば良いんだけど……」

 

 などと、私がしても仕方がない心配を玄関でしていたら、遠目に鎮守府の正門が開くのが見えた。

 黒塗りの高そうな車が入って来てるわ。きっとアレに、舞鶴鎮守府提督である長倉中将が乗ってるのね。

 そう言えば、舞鶴の秘書艦って誰なんだろ?空母だって聞いた覚えがあるようなないような。

 

 「おっと、敬礼敬礼っと」

 

 な~んて考えてたら、車は私の前に止まって運転手さんが後部座席のドアを開いた。

 出て来たのは艦娘と思われる女性……。と言うか女の子?と、円満さんと同じ白い軍服に帽子姿の長倉提督と思われる女性だった。

 

 「お待ちしておりました。遠路はるばる、ようこそ横須賀鎮守府へ」

 「出迎えご苦労様。貴女が今の満潮ね。初めまして」

 

 私の出迎えの挨拶に健康的な笑顔と握手で長倉提督が答えてくれた。

 浅黒い日焼けが印象的だわ。

 提督と言うよりは、アスリートの方が合ってそうな気さえする健康的な女性って感じね。ショートカットの髪型もそれを手伝ってるわ。

 

 「そちらが秘書艦の……」

 

 私は艦名を呼ぶのを少し躊躇った。

 だって私の目には、もみあげが長いやや茶色がかった黒髪のショートボブに茶色の瞳。腋の部分が手を突っ込みたくなる程開いた薄手の上着に、下は丈の短いミニスカートにスパッツ姿の彼女が駆逐艦にしか見えなかったのよ。

 空母、しかも数少ない装甲空母って聞いてたんだけどなぁ。

 

 「そう…私が航空母艦大鳳。出迎え、ありがとうございます」

 「ん?空母?」

 

 今この人、自分の事を航空母艦って言ったよね?

 いやいや、きっと私の聞き間違いよ。この体付きで空母だなんて有り得ないわ。だって身長は私よりちょっと高い程度だし、何よりも胸が無い。

 私が知る空母で、ここまで胸が無い人は居ないわ。今はラバウルに出向してる瑞鶴さんでさえこの人よりはあるもの。

 あまりにも無さ過ぎて、私の脳内で誰かが呟いてるわ。こんな感じで。

 

 「それは、胸と呼ぶにはあまりにも小さ過ぎた。小さく、薄っぺらで、軽く、そしてフラット過ぎた。それは、正に甲板だった」

 

 と、ってあれ?私今、声に出しちゃった?出しちゃったよね!?

 長倉提督は「知~らない」って感じでそっぽ向いてるし、大鳳さんは怒ってるのか、顔を伏せて肩をプルプルさせてるわ。

 

 「ご、ごめんなさい!私ったらつい……!」

 「い、良いんです……。言われ慣れてますから」

 「で、でもその……。あの……」

 

 うわやっべぇ……。

 顔を上げた大鳳さんの瞳には涙が滲んでるじゃない。どうしようこれ。初対面で空母、しかも長倉提督の秘書艦にとんでもなく失礼な事言っちゃった。

 それどころか泣かせちゃった!

 

 「だ、大丈夫です!うちの円満さんだって同じくらい無いですから!もしかしたら円満さんの方が無いかも!」

 「満潮ちゃん……。それはあんまりフォローになってないと思う」

 「嘘!?円満さんに比べたら、男の人の方が胸が有るくらいなのよ!?」

 「それ大鳳にも刺さってる!大鳳にもクリティカルヒットしてるから!」

 

 長倉提督に言われて大鳳さんの様子を覗ってみると、顔面蒼白白目剥いて口からは泡を噴いていた。

 確かにクリティカルヒットしてるわ。轟沈寸前じゃない。いや、メンタル的には轟沈してるかな?

 

 「気にしちゃダメよ大鳳!女の価値は胸じゃないわ!」

 

 と、長倉提督が大鳳さんの肩を揺さぶりながら言ってるけど、当の大鳳さんは大きいと言う程ではないけど並の大きさは確実に有る長倉提督の胸と顔を交互に何度も見ながら「嫌味?ねえ嫌味?嫌味なんでしょ!?」ってな事を考えてそうな顔してるわ。

 

 「ふ、二人とも一旦落ち着いて部屋に行きませんか!?」

 「そうね!そうしましょう!ね?大鳳。今日の懇談会で紫印提督の胸を見れば、きっと優越感に浸れるから!」

 

 それはどうだろう……。

 私の見立てでは似たり寄ったり。間違っても優越感に浸れるほどの差はないわ。

 って言うか長倉提督も意外と毒吐くわね。悪気はないんでしょうけど。

 なんて考えながら、私は二人を案内するために歩き出した。

 私達がバカやってる間に、応接室で今以上の珍事が繰り広げられてるなんて思いもせずに。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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