エマにはその日の内に結婚を申し込んだよ。そう、welcome partyの時にね。
秘書艦のIowaや、俺がAdmiralになった頃からの相棒であり、Wedding ShipでもあるCharles Ausburneからは「彼女を利用する気?」などと言われたが、俺にはそんな気などさらさらなかった。
むしろ、利用されていたのは俺の方さ。
彼女は俺が保有していた第7艦隊の戦力を利用するために、Proposeを笑顔で受けてくれたんだ。
その事自体にはすぐ気付いたが、俺は騙されて利用されることにしたよ。
何故かって?決まってるだろう。
どんな形であれ、愛する女性に頼られるなんて男冥利に尽きるじゃないか。
要は、惚れた弱みってヤツさ。
~戦後回想録~
バーガーショップマクダニエル日本支店店長。
ヘンリー・ケンドリック退役大将へのインタビューより。
ーーーーーー
円満さんの振袖姿は男性陣だけに留まらず、女性陣にも好評だったわ。
特にアイオワさんとチャールズ・オースバーンって駆逐艦は「meも着たいデース!」とか「振袖は正義!」とか言ってたっけ。
「円満……。本当に綺麗になったな……。くぅ……!」
「くぅ……!じゃないでしょオジサン。あんな遠回しなフリ方しといて」
「なんだ、お前も気付いたのか。満潮」
「目の前で円満さんが解読してくれたからね。って言うか、もうちょっとマシなフリ方なかったの?円満さんじゃなきゃ気付かなかったわよきっと」
「前に話しただろう?私は死んだ女房しか女を知らなかったんだ。当然、フラれたことはあるがフッたことは無い」
などと、壇上で歓迎の挨拶を述べている円満さんを泣かせた重罪人は供述しており、反省の色など欠片も見えません。
少しは申し訳なく思いなさいよ天然タラシが。
「怒って、いるのか?」
「逆に聞くけど、怒ってないと思う?」
「すまない」
「それは私じゃなくて円満さんに言ってあげて」
「そうだな……。今度、桜子に言って一席設けさせよう」
「気を持たせるような事言っちゃダメよ?円満さんなりに、気持ちの整理をつけようとしてるはずだから」
「肝に銘じておくよ」
そう言って、元帥さんは少し寂しそうな瞳を壇上の円満さんに向けた。
元帥さんも、色恋や肉体関係はなくても、好きなお酒を飲んで愚痴を聞いたり言ったりする円満さんとの関係を気に入ってたんでしょうね。
でも、寂しがる必要は無いと思うの。
しばらくは気まずいかもしれないけど、きっと元の関係に戻るはずよ。
だって、円満さんと元帥さんは食の好みもお酒の好みも一緒なんだもの。
どうせ何回か会ったら、前と同じように。いえ、前以上に気さくに話し合ってるはずだわ。
『それではここで、遥々と米国から我が国の支援に……。いえ、失礼しました。我々と共に人類共通の敵と戦うために来日してくださったヘンリー・ケンドリック中将に一言賜りたいと思います。ケンドリック中将。どうぞ壇上へ』
言い直しはしたものの、米国海軍を支援扱いするなんて肝が冷える事言うわね。
あくまで主導は日本だと印象付けたいんでしょうけど、あの一言を聞いたとき元帥さんが「おいおい……」って言いながら冷や汗流してたわ。
まあ、壇上へ上がるケンドリック提督の顔に、気分を害したような様子は見られないから問題はないでしょうけど。
『先ずは、このような盛大なpartyを開いてくれたことにお礼を言いたい。
へぇ、思ってたより、いえ思ってた以上に流暢な日本語ね。下手な日本人より上手なんじゃない?
私はてっきり、呉の戦艦姉妹の長女みたいな似非外人風の喋り方をすると予想してたから良い意味で期待を裏切られたわ。
「お久しぶりです。元帥殿」
「ん?ああ、佐世保提督か。久しいな」
「挨拶が遅くなって申し訳ありません。妻がなかなか離してくれませんで」
「あら、私のせいですか?呉提督と『シスコンとマザコンはどちらが犯罪か』について議論していたせいでは?」
どっちも犯罪。
は、置いといて、ケンドリック提督の挨拶をBGM代わりにして現れたのは佐世保提督。
名前の通り佐世保鎮守府の提督で、筋骨隆々とした体躯に意外と男前な顔をしたシスコン野郎よ。「やらないか」とか言いそうにも見えるわね。
そしてもう一人。
佐世保提督が妻と呼んだ、紫の生地に紫陽花と月下美人があしらわれた着物姿の女性は……。
艦娘、かな?艦娘よね。
腰まで届く黒髪は一般人にもいそうだけど、紅い瞳なんてカラコン入れてるか艦娘になって色が変わったかしか有り得ないもの。
「初めまして、元帥閣下。扶桑型超弩級戦艦、姉の扶桑です。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく。結婚報告の写真で見ただけだったが、佐世保提督には勿体ない程の美女だな。おい佐世保の、どうやって騙したんだ?」
いくら上司でもそれは失礼過ぎでは?
と、喉元まで出かかったその言葉を私はなんとか飲み込んだ。
だって、元帥さんがそう言いたくなる気持ちもわかるんだもん。
見た目は確かにイケメンの部類に入るのに、佐世保提督を見てると女性より男性の方が好きそうに見えちゃうの。要はホモっぽいのよこの人。「ウホッ♪いい男」とか日常会話で使ってそうだわ。
「騙しただなんてとんでもない!長い間支え合い、信頼を深め合った提督と秘書艦が籍を入れるのは自然なことでしょう!」
「わかった。わーかった。私が悪かったから落ち着け。それに近い。暑苦しい」
おー!キスでもする勢いで佐世保提督が元帥さんに詰め寄ってる!
やっぱり佐世保提督はホモ?ああでも、扶桑さんと結婚してるんだからバイかしら。
しかもそれでシスコンなんでしょ?ヤバいじゃんこの人。私が知る提督で一番終わってるわ。
佐世保の憲兵さんは何も言わないのかしら。
「元帥殿から見てどうですか?ケンドリック殿は」
「今日会ったばかりなのに何とも言えんよ。ただ……」
「ただ?ただ、何です?」
「女性の好みは私に近い」
「それはつまり……」
ロリコンってことでしょ。
そのロリコンが、どうして円満さんを嫁に欲しがったのかは少し疑問だけど、米国の人からしたら円満さんでも子供に見えちゃうのかもね。
実際胸は幼女、下手すりゃ赤子並だし。
「初めまして。貴女は閣下の秘書艦かしら?」
「あ、初めまして。私はこの人の秘書艦じゃなくて、紫印提督秘書艦の満潮です」
「あらごめんなさい。仲が良さそうだったから私てっきり……。それに」
「元帥さんがロリコンだから。ですか?」
うん、「そ、そこまでは言ってませんよ?」とか言って弁明してるけど間違いなさそう。
提督とそれに準ずる人、それに秘書艦しかいないこの場で、駆逐艦の私がロリコンで有名な元帥さんと親しく話してるから秘書艦だと勘違いされたのね。激しく遺憾です。
「元帥さんの秘書艦は軽巡のお姉ちゃ……。大淀さんです」
「大淀さんと言うと、前元帥閣下の秘書艦も務めていらした方ですよね?」
「あ、違います。今は代替わりして、元朝潮だった人が大淀になってます」
「ああ、例の実験の……。だからお姉ちゃんと言い掛けたのね」
「はい、今日も来てるはずなんですが……。どこに居るんだろ?」
よほどの事が無い限り、元帥さんの傍から離れようとしないお姉ちゃんがこの場に居ないと言う事は、逆に言えばよほどの事が起こってるってことになるんだけど……。
まさか、大和と出くわしてケンカでもしてるんじゃないでしょうね。
「大淀なら桜子の所だ。彼女はほら、夜が……な」
「あ~……。そう言えばそうだったわね」
「それに、円満と顔を合わせ辛そうだったのも理由だ」
「まだ、引き摺ってるの?」
「お互いにな」
そっか、もしかしてとは思ってたけど、まだ二人は演習での一件で仲違いしてたのね。
私があの時、お姉ちゃんの邪魔をしなかったら二人は今でも仲の良い友達のままだったんじゃないかと思うと、私のせいで二人が険悪になったんじゃないかと思えてきちゃうな……。
『そして何より、俺が感動したのは日本の女性の美しさだ。実際にこの目で見て、grandpa が grandma に惹かれた理由が俺にもようやく理解できた。日本の女性は素晴らしい!その中でも、特にエマは!』
私が罪悪感に苛まれていると、挨拶も恐らく後半ってところで変な流れになってきた。
円満さんが綺麗なのは認めるけど、挨拶の最中に言うようなこと?
褒められた円満さん自身、「はぁ!?意味わかんない!」とか言って動揺してる。でもそれ、私のセリフだからね。円満さんは満潮を辞めたんだから多用禁止。
『エマ。すまないがこちらへ来てくれないか?』
ケンドリック提督はそう言いつつ、右斜め後ろで待機していた円満さんに右手を差し出しながら体ごと振り向いたわ。
円満さんはどうしていいかわからないのか、若干怯えた瞳でケンドリック提督を見据えて差し出された手をとろうか迷ってるみたい。
『エマ、順序が逆になってしまったが、この場を借りて君に言いたい事がある』
『な、何で……
いや、場も雰囲気も出鱈目だけどわかるでしょう。告白よ告白!
円満さんだって、それを察したから声が擦れちゃったんでしょ?茹で蛸みたいに顔を真っ赤にしてるんでしょ?交際を申し込まれたら困るから、元帥さんをチラチラ見て助けを求めてるんじゃないの?
『俺は君ほどcharmingでintelligenceに溢れた女性に会ったことがない』
『そ、そんな、買い被りです。私なんて……』
歯が浮きそう。って言うより歯痒い感じがするわね。
元帥さんと佐世保提督も背中が痒いとか言ってるし、私の感覚は間違いないと思う。
円満さんだって、普段なら鼻で笑って「拾い食いでもしたの?」くらい言うのに、実際に言われると満更でもなかったのか「うわぁー!うわぁー!どうしよこれどうしよぉぉぉ!」って言いたそうに唇を噛んで俯いちゃったわ。
『買い被りなんかじゃない!俺は君の星のように煌めく瞳に、小鳥のさえずりのように耳に心地良い声に首ったけだ!俺にとっては、君以外の女性などそこらの雑草と大差ない!』
ほう?私は雑草ってか。
円満さんを口説くために必死なんでしょうけど、そのセリフでこの場に居る大半の女性陣を敵に回したわよ。
辰見さんと長倉提督は妙に達観して「ねえ良子。ちょっと臭わない?」「天奈~。ブラックコーヒーないの?」とか言ってるし、その傍らに居る叢雲さんと大鳳さんは「ふん!この叢雲様を雑草呼ばわりとは良い度胸じゃない!」「雑草、か。草も生えない私からしたら褒め言葉……かな」なんて言ってるわ。ってか大鳳さん、胸は生えるものじゃないからね?大鳳さんの胸板は雑草も生えない不毛の地じゃないから。
「お、おい佐世保の。なぜ霞は泣いてるんだ?」
「霞?ああ、呉の秘書艦ですか。はて?何故泣いてるのかはわかりませんが、俺が扶桑と結婚すると報告した時のお袋と同じ顔ですね」
うわぁ、本当だ。
何故か霞さんが笑顔で泣いてるわ。まるで「ようやく円満にも春が……」とか考えてるみたいに。
『単刀直入に言うぞ。エマ、俺と結婚してくれ!君を伴侶に迎えられるなら、俺は今この場でAdmiralの地位と権力を捨てるのも厭わない!」
言ったぁぁぁぁぁ!
外国人にクセに、下手な日本人より難しい言葉を識ってるのが気にはなるけど言いやがったぁぁぁ!
円満さんも、ここまでストレートに言われるとは思ってなかったのか目をまん丸にし驚いてるわ!
『あ、あの……。私……』
困るよね!そりゃあ困るわよ!
ここはそんな場じゃないもの。米国から支援に来てくれたヘンドリック提督と親交を深めるための懇談会だもの!それなのに結婚を申し込まれたら困るのは当たり前よ!
だいたいね、円満さんは告白された経験がないの。
だって円満さんは幼少期から艦娘として過ごし、辞めた今も提督として鎮守府で暮らしてるんだもの。
そんな円満さんに交際を申し込もうって勇者は皆無だから、見目麗しい外見とは裏腹にまっっっったくモテない!並大抵の男じゃ、円満さんの立場と外見に尻込みして目も合わせられないはずよ。
故に、さっきも言ったけど円満さんは告白された経験がない。
きっと、人生初の告白を受けた円満さんの頭はパニックになってるわ。
『お、お気持ちは大変嬉しく思うのですが……』
これは断りそうね。
作戦に協力してもらう手前、ハッキリと断るのは立場上出来ないでしょうから「少し考えさせてください」とか言って、この場を収めるのが妥当かしら。
『私なんかで……良いんですか?』
んん?今なんて言った?
私なんかで良いんですか?それじゃあまるで、ケンドリック提督の答え次第じゃプロポーズを受け容れるみたいじゃない。
円満さんの意外すぎる反応に、私を含めたこの場に集まった人達はおろか、プロポーズしたケンドリック提督自身も「マジか」みたいな顔して円満さんに視線が集中してるわ。
『い、良いに決まっている!俺には君しか考えられない!君の全てが欲しい!いや、俺の全てを君に捧げよう!』
す、全てを捧げると来ましたか。
地位も権力ない、例えばニートが言おうものなら「いや、アンタに何があるの?」って鼻で嗤われそうだけど、ケンドリック提督みたいに何でも持ってそうな人から言われるとグッと来るわね。持ってないのは愛くらい?なんちゃって。
そう感じたのは私だけじゃないらしく、雑草呼ばわりされて憤慨してた女性陣から黄色い声が上がってるわ。
『その、結婚はまだ考えられないので……。あ、でも、それを前提にしたお付き合いなら……』
『ああ!ああ!それで構わない!』
なん…だと……?
婚約自体は回避したものの、あの円満さんがヘンドリック提督と付き合う?しかも結婚を前提に?
あれ?でもこれって同じ事なんじゃ……。元帥さんにでも聞いてみようかしら。
「ねえ、元帥さん。元帥さん?」
「どうしたの満潮さん。元帥閣下がどうか……。あ、あら?ね、ねえ貴方、閣下が……」
「なんだ扶桑、元帥殿なら……。げ、元帥殿?」
元帥さんの様子がおかしい。
白目剥いて口は半開き、しかも涎まで垂らしてるわ。佐世保提督が肩を揺すってもまるで反応が無いし、もしかして気絶してるの?何で?
「ど、どう?貴方」
「し、死んでる!?」
「いや、寝てるだけでしょ」
きっと、円満さんの応えが予想外過ぎて理解が追い付かなかったんだわ。
この人も円満さんをフリはしたけど、円満さんが男性と交際してショックを受ける程度には、円満さんのことを想ってたのね。
「はっ!俺はどこだ!?ここは誰だ!?」
「逆でしょ逆。佐世保提督、頭バグってるみたいだから一発殴ってあげて」
「無茶言うな!」
「そんな事したら主人の首が飛んでしまいます!」
物理的に?それとも解雇的な意味で?
それは杞憂よ。だってこの人、厳しそうな顔しといてかなりいいかげんだもん。
私がタメ口で話しても何も言わないのよ?
「逃がした魚は大きいわね」
「後悔はしてないさ。円満が幸せになれればそれで良い。だが……」
「だが?」
「違和感を感じる。照れてはにかんでいるように見えるが、必死に本心をねじ伏せようとしているようにも見えるんだ」
「本心を、ねじ伏せる……ね」
言われてみれば、そう見えなくもない気がしてくる。
そうよね。考えなくてもそうだわ。
円満さんは、つい数時間前に何年も想い続けてた人にフラれたばかり。失恋したばかりよ。
そんな円満さんが、告白されたからってホイホイと想い人を乗り換えるなんて思えないし有り得ない。
「そっか。この事だったんだ……」
これが、円満さん懇談会でやらかそうとしてた事なんだ。
たぶん円満さんは、ケンドリック提督の好意を利用して、言いなりとまではいかなくても自分に有利なように動かそうとしたんだわ。
誤算があったとすれば、先に告白された事とタイミングかしらね。
たぶん、二人きりになって円満さんの方から切り出すつもりだったのに、参加者全員の目の前、しかも想い人だった元帥さんの前でプロポーズされてしまった。
「頑張ったね……。円満さん」
本当は今すぐ逃げ出したいはず。人の好意を利用しようとしている自分に嫌悪感を抱いてるはず。
本当は今すぐ泣きたいはずなのに、円満さんは必死になって堪えている。
「満潮さん?どうしたの?どこか痛いの?」
「ううん、何でもない。こんなの、円満さんに比べたら何でもない……」
扶桑さんに気遣われて、初めて自分が泣いてるのに気がついた。
情けないな……。
円満さんより先に泣いちゃいけないのに。
泣くなら円満さんが泣き止んだ後じゃなきゃダメなのに、私の瞳は壇上で恋する乙女を演じる円満さんの姿が見えないよう、涙で視界を歪ませ続けた。
主要キャラ人気投票
-
朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
-
大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)