艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第四十七話 一花咲かせたいんです!

 

 

 あの作戦、特に会議の場であったことについては、今でも機密扱いになってる事が多いからあまり話せないんだけど、控え目に言って紫印提督は針の筵状態だったかな。

 うん、今思いだしても、見てて痛々しかったよ。

 だって、あの場で紫印提督が相手取っていたのは全員自分より長く提督を務めてきた人たちだったんだよ?

 そんな人たちから責め立てられたら、少なくとも私はプレッシャーで潰れちゃうかな……。

 

 味方してあげなかったのかって?

 それがね?

 しようとしてたし、元帥閣下からも頼まれてはいたんだけど、懇談会の後でその話をしようとしたら先に言われたのよ。「私の味方をしようなんて考えないでください」ってね。 

 まさかそう言われるとは思ってなかったから、思わず「よしきたー!任せといて!」って言っちゃったなぁ。すぐに「へ?」ってなったけど。

 だから会議では、多少の擁護はしたものの基本的には敵に回ったよ。作戦に反対する大湊提督と佐世保提督に同調するようにね。

 でも、あの場であの子が表情を崩すことはなかったよ。うん、なかった。終始あの子は平静を保ってたわ。

 でもきっと、あの子の心はズタボロになってたんじゃないかな……。

 

 

 ~戦後回想録~

 舞鶴鎮守府司令長官。長倉 良子中将へのインタビューより。

 

ーーーーーー

 

 

 横須賀鎮守府の地下には、艦隊への指示を出す艦隊司令部施設と第三会議室と呼ばれる部屋がある。

 両方ともここ数年は使われていなかったんだけど、歓迎式典を終えた今現在、後者の第三会議に五大鎮守府の提督と元帥さん。さらに、ケンドリック提督と各秘書艦達が集められている。

 国防を直接司る人物が一堂に会するなんて滅多に無いだけに、実際に目にすると壮観だわ。

 

 余談だけど、第三会議はその名の通り横須賀鎮守府にある三番目の会議室で、地下と感じさせない明るめの内装に徹底した防音、盗聴対策を施し、部屋の中央に直径5メートルほどの円卓が設えられている。

 今回の会議では、元帥さんが入口から一番遠くの席に座り、その隣、元帥さんを十二時として時計で言うと一時に円満さん、三時に呉提督、五時に佐世保提督、七時に長倉提督、九時に大湊提督、十一時の席にはケンドリック提督が座り、各提督の傍らに各秘書艦が佇んでるわ。

 

 「この度、諸君らに集まって貰ったのは他でもない。今諸君らの手元にある書類に書かれた作戦について、発案者である紫印提督自らが説明したいと望んだからだ」

 

 元帥さんが口火を切ると、場の空気が一気に重たくなった気がする。まあ、原因はわかり切ってるんだけどね。

 その原因は間違いなく、円満さんに言われて私が各提督に配った『捷号作戦』の作戦概要書でしょう。

 

 「元帥閣下。発言しても宜しいでしょうか」

 「構わんよ大湊提督。忌憚のない意見を聞かせてくれ」

 「では失礼して。正気ですか?閣下」

 

 一番槍を買って出たのは、長髪が印象的な大湊提督。一応言っておくけど男性よ。

 私は概要書の中身を知らないけど、大湊提督が元帥さんの正気を疑うほどの事が書いてあるのかしら。

 

 「もちろん正気だ。諸君らが今読んでいる概要書の中身も知っている」

 「では、この作戦を本当に実行すると仰るのですね?」

 「当然だ。何か問題があるか?」

 「問題だらけでしょう!第一、この作戦は前提から狂っているではないですか!」

 

 大湊提督の怒声が室内に響き渡り、秘書艦の千歳さんが必死に宥めようとしてる。

 前提が狂っているって、いったいどういう事なんだろう?

 

 「落ち着きなさい大湊提督。元帥閣下も、この作戦を考えた紫印提督も、我が軍がトラック泊地まで後退せざるを得ない状況になると予想したから、この作戦を速やかに実行に移すため、事前に我々に説明しておこうという考えなのはわかるでしょう?」

 「お言葉だが長倉提督。その前提がそもそもおかしいと言っているんだ!今現在、我が軍は南方中枢に対する包囲網を形成中だと聞き及んでいる。完成が間近な事もだ!そんな状況で我が軍がトラック泊地まで後退?有り得ないだろう!」

 

 へぇ、南方じゃそんな事してたんだ。全然知らなかった。

 でもそれなら、大湊提督が言った『前提が狂ってる』ってのも納得できるわ。だって、包囲網の形成が可能って事は、戦況がそれだけこちらに有利って事だもの。

 大湊提督がキレてる意味はわかんないけど。

 

 「少し頭を冷やせ大湊の。紫印提督、一つ確認したいことがあるんだが宜しいか?」

 「どうぞ、佐世保提督」

 「ありがとう。ではお聞きするが、今大湊提督が言った包囲網形成、さらにその後の殲滅戦も貴女が考えたと聞いているのだが間違いないか?」

 「間違いありません。元帥閣下より南方攻略の作戦を立てろと命じられ、予備プラン(・・・・・)として立案、提出しました」

 「生け贄(・・・)ではなく、か?」

 

 佐世保提督の目が鋭く細められた。殺気すら感じるわ。その視線を真っ向から受け止めている円満さんに動揺はないわね。

 事前に覚悟はしてた。ってとこかしら。

 

 「そう思われても仕方がありませんが……。いえ、お為ごかしはやめましょう。その通りです。敵艦隊を誘き出すための作戦を、予備プランと称して提出しました」

 

 円満さんのその説明で、会議室が一瞬だけザワついた。私自身、円満さんが何を言ってるのかすぐには理解できなかったわ。いや、理解したくなかったのかな。

 だって円満さんは、南方で包囲網を形成中の艦娘や泊地の人たちを、敵艦隊を釣り上げるための餌だと言ったんだから。

 

 「包囲網形成に動員している艦娘の数は40名。これは、我が国が保有する艦娘の六分の一もの数だ。それを丸々餌にすると言うのだな?」

 「はい。その通りです」

 「理由を聞こう。その理由次第では、我が佐世保鎮守府は総力を挙げてアイアンボトムサウンドへと攻め込む」

 

 アイアンボトムサウンド?

 攻め込むって言ってるくらいだから敵地、地名よね?

 南方、しかもラバウル、ブイン、ショートランドで包囲網を形成するような海域にそんな地名なんてあったかしら?

 

 「先程も言いましたが、アイアンボトムサウンドに潜んでいる敵艦隊を誘き出すのが一つ目の理由です。そして二つ目は敵戦力の把握。総数を600強と予測していますが、生憎と予測の域を出ていませんので」

 「だから、それを前線の三基地にやらせようと言うのか?600強もの敵艦隊が攻めて来ると予測しておきながら」

 「ええ、きっと少しでも正確な数字を。と、奮闘してくれるものと思っています」

 

 言ってる事は理解できる。

 敵戦力を把握しない事には、こちらも防衛体制を構築できないもの。

 それ自体は、赤鬼もビックリするくらい顔を赤く染め始め、青筋を浮かべている佐世保提督もわかっているはずよ。あれ?でもどうして、包囲網の形成で敵を誘き出すことが出来るんだろう?

 

 「理由はもう一つあります」

 「……時間稼ぎ。だろう?」

 「はい。現在の包囲網はそのまま防御網として転用可能です。ラバウル提督あたりが、敵の侵攻を察知すると同時に、迎撃戦にシフトしてくれると期待しています。彼は第一次ソロモン海戦で指揮を執った経験がありますので」

 

 そう解説しながら、円満さんは円卓中央に設置されている液晶ディスプレイのスイッチを入れた。

 そこに映し出されたのは、現在の形成中の包囲網が、敵艦隊の北進、または西進に応じて防御網へと変化する様子をCGで映像化したもので、ブイン、ショートランド泊地を最前線として『く』の字みたいにソロモン諸島を包囲していた線が、ツラギ島とガダルカナル島の間から出た赤い線、恐らく敵艦隊の侵攻に合わせて、今度はブイン、ショートランド泊地を起点に『(逆くの字)』に変化したわ。

 あの赤い線の起点がアイアンボトムサウンドなのかな?

 

 「ラバウル提督が迎撃戦を行わない場合はどうするつもりだ?」

 「それこそ有り得ないのでは?ラバウル、ブイン、ショートランドの三基地は南方中枢の封じ込めが第一義です。敵が攻めてくれば迎撃くらいはするでしょう。それとも、佐世保提督は彼の三基地の提督達が命欲しさに逃げ出すとお思いで?」

 「前例があるのでな。俺は実際に会ったことがある提督しか信用しない事にしている」

 

 はて?前例がある?

 私が知る限り、敵前逃亡した提督は居ないはず。舞鶴襲撃時に、当時の舞鶴提督が早々に戦死したって話なら知ってるけど……。

 

 「佐世保提督。前舞鶴提督の事を言っているのなら訂正すべきです。彼は率先して戦死なさった(・・・・・・・・・・)のですから。その事は、その現場を直接見た私が保証しますよ」

 「そうだな。失言だった。許してくれ長倉提督。彼が戦死する瞬間(・・・・・)を見たのは君だったな」

 

 わざとらしい。

 佐世保提督が言った前例はどうやら前舞鶴提督のようね。

 経緯まではわからないけど、今の会話から察するに、襲撃時に前舞鶴提督は真っ先に逃げ出したんだわ。しかも、当時は艦娘だった長倉提督の前で。

 

 「佐世保提督。話を戻しても?」

 「ああ、戻してくれ。まだ理由があるのなら。だが」

 「当然あります。一つ目の理由と少し被るのですが、敵の侵攻ルートを限定するのが三つ目の理由です」

 「包囲網の形成完了をもって戦力の追加は終了。それは敵からすれば、ソロモン諸島に展開している我が軍の総戦力の上限が知れる唯一の機会。故に、攻める気でいるならそのタイミングで侵攻を開始する。と、言う理屈はわかる。だが、何故敵がバカ正直に包囲網を突破すると考える?」

 

 へぇ、包囲網の完成でそこまでわかるものなんだ。佐世保提督ってホモっぽい顔してるに頭良いのね。

 他の提督達も異論はないって事は、同じ事に思い至ってるってことなのかな?

 

 「敵の指揮艦。南方棲戦姫『渾沌』が、中途半端に人間の戦略、戦術を真似ている節があるからです」

 「詳しく聞こう」

 「では、話は逸れますが説明させて頂きます。神藤大佐率いる奇兵隊によって反政府組織『アクアリウム』が壊滅した事は耳に届いていると思います。その際に……」

 

 桜子さんはアクアリウムの最高指導者だった『マザー

』が渾沌と通じて情報を流していた事と、深海棲艦の最終目的が人類文明の初期化だということを聞き出した。

 と、円満さんは場に集った人たちに説明した。

 私が入渠してる間にそんな事をしてたのも驚きだけど、深海棲艦の目的が人類文明の初期化ですって?

 そんな事、いったいどうやってするつもりなんだろう。そっちの方が私的には気になるわ。

 

 「人類文明の初期化?そんな事をどうやって……。いや、つまり渾沌という個体は、その目的を達成するために、南方の戦力上限が確定する場所をあえて突破すると言うんだな?」

 「はい。こちら側に絶望感を与える。くらいの事も考えているかも知れませんが」

 「では、侵攻ルート上に敵の目標。つまり、人類文明を初期化する手段もあるということか」

 

 う~ん……。

 そんな物ある?

 と頭を捻っていたら、円卓中央の液晶ディスプレイに、敵艦隊が二つのルートに別れる様子が映し出された。

 一つはブイン、ショートランドを経由してソロモン諸島の北側へ。そしてもう一つは、ブイン、ショートランド、次いでラバウルを経由しての北西に向かって日本の硫黄島付近に。

 

 「なるほど、スーパーボルケーノか」

 「その通りです閣下。スーパーボルケーノの破局噴火。それが、人類文明を初期化する手段です」

 

 円満さんがそう言うと、敵の予想侵攻ルートの終着点にそれぞれ『オントンジャワ海台』『薩摩硫黄島』と表示された。

 これが、人類文明を初期化する手段か。じゃあ、捷号作戦は南方中枢を攻略するためじゃなく、敵艦隊のスーパーボルケーノへの到達を阻止するための作戦ってこと?

 

 「どうして、スーパーボルケーノの破局噴火が深海棲艦の目的だと考えた?」

 「手段が限られているからです。米国が第二次大戦時に開発したという原子爆弾と似たような物を深海棲艦が持っているならそっちを使うでしょうが、そんな物を持っているなら、『調整』の段階で何発か使っているはずです」

 「だから火山か。だが、それに思い至る根拠があったのだろう?」

 「はい。ハワイ島攻略戦時の敵配置を資料を見て、一体だけ配置のおかしい敵艦がいたのが理由の一つです」

 「島南側のギミックか」

 「そうです。そのギミックの眼下にはイエローストーンがありました。恐らくあのギミックの『結界』への力場供給機能はオマケ。本来は、火山を起爆させる役目を担っているのだと思います」

 「確証は?」

 「あります。ですが、現時点(・・・)ではただの予想、妄想と言われても反論は出来ません」

 

 確証はあるけど証明は出来ないって事?

 言われた元帥さんも同じように思ったらしく「ふむ……」とか言って顎を撫でてるわ。大湊提督と佐世保提督は胡散臭そうに見てるけど。

 

 「紫印提督。僕も質問して良いかな?」

 「どうぞ、呉提督」

 「ありがとう。ではシャツキー海台、トバ火山、タウポに侵攻すると考えないのは何故かな?」

 「シャツキー海台は遠すぎます。そこに行くくらいなら全力で硫黄島へと侵攻するでしょう」

 「トバ火山は?」

 「ご存知の通り、トバ火山があるスマトラ島にはリンガ泊地があります。ここはシーレーンの要所であり、常に高練度の艦娘が詰めていますし、渾沌はここの戦力を知る術がありません」

 「なるほど、だから攻める踏ん切りがつかないと言う事だね。では、タウポは?」

 「豪国海軍がいるからです。米国程ではないにしろ、彼国も艦娘を保有しています。上限の知れない敵と戦うより、上限が知れている方を突破しようとすると、私は考えました」

 「うん、納得した。つまり渾沌は、中途半端に人間の戦略を学んだ結果、保有する戦力と情報で確実に勝てる戦しかしない指揮官になったと君はプロファイリングしたわけだ」

 

 頭がこんがらがってきた。今何の話してるんだっけ?

 最初は大湊提督が、前提が狂ってる!とか言いだして、次は佐世保提督が40人もの艦娘を犠牲にする理由を聞いたのよね?

 そしたら今度は深海棲艦の目的の話になって、そうかと思えば火山の話に早変わり。

 終いには、呉提督がプロファイリングがどうとか言いだしたわ。

 

 「でも紫印提督。スーパーボルケーノの件は後付けだよね?この概要書に書かれている内容、最初は単に、南方中枢を攻略するための作戦だったはずだ」

 「仰るとおりです。神藤大佐がもたらしてくれた情報で深海棲艦の目的の目星はつけれました。ですが代わりに、大筋は変えてないものの、状況に応じてこちらの侵攻ルートを複数に分けなくてはならなくもなりました」

 「では、最新版があるんだね?」

 「はい。それは、今から口頭で説明させて頂きます」

 

 円満さんがそう言うと、円卓の液晶ディスプレイに表示されていた矢印が消えて地図だけになった。

 これから本格的に、捷号作戦の説明が始まるのね。私もしっかりと聞いとかなきゃ。

 

 「捷号作戦は、敵の侵攻ルートに応じた一号、二号、三号の3パターンが存在します。まずは、私が一番可能性が高いと考えているルート。『捷一号作戦』について説明します」

 

 円満さんが手元のタブレットにペンを走らせると、アイアンボトムサウンドを起点とした赤い線がブイン、ショートランド、ラバウルを経由してビスマルク海へと抜けた。 

 これは……薩摩硫黄島を目指すルートね。

 でも、オントンジャワ海台の方が遥かに近いのに、なんでわざわざ遠い方へ侵攻するんだろ?

 

 「オントンジャワ海台方面へ侵攻しないのは、ハワイ島に駐留している米国艦隊を刺激しないため。かな?」

 「その通りです呉提督。南方の三基地を陥落させるほどの艦隊が北上を開始したとなれば、米国も黙ってはいません。最悪の場合、渾沌は日米両軍を相手取る形になりますね」

 

 だから、あえて二番目に近い薩摩硫黄島って訳か。

 そりゃそうよね。

 だって、渾沌は人類側が深海棲艦の最終目的に気づいてることを知らないはずなんだもの。侵攻するなら、スーパーボルケーノを噴火させるつもりだと知らない人類がどう動くかを考えなきゃいけないはずよ。

 あれ?と言うことは……。

 

 「スーパーボルケーノに到達しても即座に起爆はできない。と、考えているのかい?」

 「考えている。と言うよりは確信しています」

 「ほう?その根拠は?」

 「それは後ほど説明いたします。次は我が軍の侵攻ルートですが……。出撃地点はこうなります」

 

 再び円満さんがタブレットにペンを走らせると、今度は液晶ディスプレイに三つの青い光点が表示されたわ。

 一つはタウイタウイ泊地。もう一つはトラック泊地かしら。そして最後の一つは台湾島の東。恐らく、鎮守府機能の簡易版を搭載した艦娘運用母艦『ワダツミ』だと思う。

 

 「トラック泊地の艦隊で敵の侵攻ルートを狭め、ワダツミ旗下の本隊とタウイタウイ泊地からの艦隊で挟撃。という算段だね。タウイタウイからの艦隊はスリガオ海峡とサンベルナルジノ海峡のどちらからだい?」

 「挟撃を行う艦隊はスリガオ海峡からです。タウイタウイからの艦隊にはスリガオ海峡突破後に、本隊が北に誘引した敵艦隊の背後を爆撃、及び砲撃させます。敵旗艦を撃ち取れれば最高ですね」

 

 て、点と線が表示されただけでそこまでわかるの?私にはサッパリわかんないんですけど?

 他の提督達も、呉提督が言った事に疑問はないみたいだし、全員同じ事に思い至ったってことよね?

 はぁ……。提督って凄いなぁ。

 あ、こういうの何て言うんだっけ。コナミ…粉ミルク……じゃないや。粉ミカン?そう!子並感よ!

 

 「爆撃と砲撃……。スリガオ海峡を突破させる艦隊には航空戦艦を?」

 「ええ、恐らく敵は、挟撃されるのを防ぐためサンベルナルジノ海峡、及びスリガオ海峡を封鎖するはずです。なので、突入は夜陰に乗じて少数精鋭で行い、余計な戦闘は避けて翌朝までに突破。本隊が敵を誘引しだい攻撃を開始させます」

 

 航空戦艦を使うって事は、代替わりして1年くらいしか経ってない伊勢型の二人じゃ練度不足で使えないわね。

 と言う事は、今にも怒鳴り出しそうな雰囲気を何故か醸し出している佐世保提督の傍らで、静かに液晶ディスプレイを見つめている扶桑さんとその姉妹艦の山城さん。

 その二人に、護衛として駆逐艦数人と巡洋艦って感じの編成になりそうね。

 

 「スリガオ海峡の突破には反対だ。突破はせず、逆に封鎖して、敵艦隊を牽制すべきだ」

 「理由をお聞きしてもよろしいですか?佐世保提督」

 「理由だと?無謀だからだ!敵がどれだけの規模でスリガオ海峡を封鎖するかもわからないのに、少数で突破させて敵主力の背後を突くだと?戦争ごっこがしたいなら他所でやれ!」

 

 佐世保提督が席から立ち、円満さんに殴りかからんばかりに円卓に身を乗り出した。

 それを諫めるべき立場の扶桑さんは、相変わらず液晶ディスプレイを見つめたままで動く気配はない。

 最悪、佐世保提督が円満さんを殴ろうとしたら、私が割って入って盾になるしかないわね。

 顎が割れるくらいですみますように……。

 

 「Mr.佐世保。君が反対しているのは本当にそれが理由かい?」

 「どういう意味ですかな?ケンドリック殿」

 「ハッキリ言わないとわからないかな?俺には君が、「嫁を危険な目遭わせたくない」と、そう言ってるように聞こえるんだよ」

 「き、貴様……。俺を侮辱する気か!」

 

 お?佐世保提督の怒りの矛先がケンドリック提督に向いたみたいね。

 取り敢えずは、これで痛い思いをしなくて済みそうだわ。

 今度は佐世保提督とケンドリック提督が始めるであろう殴り合いをどうやって止めるかって問題が出て来ちゃったけど。

 

 「ケンドリック提督。そのあたりで……」

 「だがエマ。彼は私情で反対しているぞ?突破が成功すれば勿論、失敗してもこちらが挟撃を仕掛けてきたと敵に認識させるのは効果的だ。それなのに、彼は自分の嫁の命欲しさに反対している」

 

 まあ、佐世保提督と扶桑さんの関係を知ってれば、そう見えちゃうのも仕方ないかな。

 例え結婚(ガチ)してなくたって、提督と秘書艦は強い信頼関係で結ばれている。他の提督が似たような事を言っても、他人の目には同じように写ると思うわ。

 

 「俺はけっして……!」

 「嫁の命が惜しいわけじゃない。かな?ならば賛成するべきだよMr.佐世保。この作戦は南方攻略から、人類文明を護る戦いへとシフトしている。少しでも成功確率が上がるなら実行すべきだ」

 

 それはわかっている。

 人類文明の衰退と愛妻の命。どちらを優先すべきかなんて、佐世保提督は頭ではわかってるはずよ。

 でも、心では簡単に割り切れない。きっと、佐世保提督は提督として妻を送り出すか、夫として妻を守るべきかで葛藤してるんだと思う。

 

 「ケンドリック提督。そのあたりで本当にやめてください」

 「No.だ。私情で異を唱える彼はAdmiral失か……」

 「ヘンケン!」

 「……Okエマ。俺は黙るとしよう」

 

 あ、なんでケンドリック提督が佐世保提督に絡んだかわかった。

 佐世保提督の怒りを自分に向けさせるのはもちろんだけど、本当の目的はたぶん、円満さんに『ヘンケン』って呼ばせる事だわ。だって『ヘンケン』って呼ばれた時ニヤリとしたもの。

 でも、ヘン(・・)リー・ケン(・・)ドリックを略してヘンケンなんて安直にも程があるわね。誰が考えたんだろ。元帥さんかな?それとも辰見さん?

 

 「提督。私に行かせてください」

 「扶桑、お前は何を言っている?死にに行くようなものだぞ!?」

 

 おっと、私がヘンケンなんてあだ名を考えたのは誰か、なんてどうでもいいことを考えてたら、扶桑さんが佐世保提督を説得し始めたわ。

 いいぞー!扶桑さん!そんな怒りん坊なんか言いくるめちゃえ!

 

 「それでも、行かせてください」

 「なぜ、そこまで行きたがる?」

 「貴方はご存知でしょう?私と山城が、『艦隊にいる方が珍しい』と揶揄されていたことを」

 

 へぇ、戦艦でもそんな風に言われる事があるのね。

 私が普段、『円満さんの脛齧り』とか『先代八駆の七光り』なんて言われてるせいかも知れないけど、なんだか親近感を感じちゃうわ。

 

 「ああ知っている。だが、それは昔の事じゃないか」

 「ええ、昔のことです。貴方は私たちを有効に使ってくださいましたし、改二改装を受けてからは出撃する機会は更に増えました」

 「だったら……!」

 

 それで十分だろう?全く出撃してないわけじゃないんだから、それで満足してくれないか?

 と、佐世保提督は続けたかったのかな。

 でも、その思いは言葉にはならず、扶桑さんの追撃で飲み込むしかなくなったみたい。

 

 「でもね?貴方。私は今まで、一度も大規模作戦に参加した事がないのです」

 「それは……。そうだが……」

 「これは私の人生。いえ、艦生で最後の機会かもしれません。だから行きたいんです。艦娘として一花咲かせたいんです!」

 

 扶桑さんの気持ちはわからなくもない。

 私みたいに復讐が目的で艦娘になった子だって、出撃を繰り返している内に欲が出ることがあるもの。

 例えば、一度の出撃で何隻も撃沈して褒められたいとか、あわよくば、ネームド艦娘の仲間入りとかね。

 扶桑さんが艦娘になった理由は知らないけど、仲間が大規模作戦で活躍していく中、自分は地味な書類仕事か後方支援だったんでしょう。

 そんな日々を送ってきた扶桑さんが主役の作戦ともなれば、是が非でも行きたいと言うのは必然ね。

 

 「わかったよ扶桑。だが、一花咲かせるのはいいが散らないでくれよ?俺が、お前がいないとダメなのはよく知っているだろう?」

 「ええ、知ってますとも。だから必ず帰ります。愛する貴方のもとへ」

 

 えっと……。

 二人だけの空間を作って浸るのはけっこうなんですが……。 今って会議中よ?円満さんはこの光景に憧れでもあるのか、ボソッと「いいなぁ……」とか言ってるけど他の人達は呆れてるからね?「家に帰ってからやれや」って思ってるのが丸わかりだから。

 

 「ううんっ!紫印提督。少し休憩を入れないか?」

 「え?あ、ああ、そうですね。皆さんもそれでよろしいですか?」

 

 異議な~し。

 と、絶賛イチャラブ中の二人以外が元帥さんの提案に賛成して、30分程休憩することになったわ。

 最初にキレた大湊提督でさえ、「少し頭を冷やすか」なんて言ってるほど、佐世保提督と扶桑さんのバカップルぶりに呆れちゃったみたい。

 

 「やれやれ、この先いったいどうなる事やら……」

 

 なんて独り言を言いながら、無表情でタブレットを見つめる円満さんを尻目にして、私はお茶を淹れるためにその場を離れた。

 この時は夢にも思わなかったわ。

 まさか自分が、スリガオ海峡へ突入する艦隊。『西村艦隊』のメンバーに選ばれているなんて。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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