六章開始時期は仕事が佳境に入ってるため未定です!気長にお待ちください!
会議が終わったのは何時だったのでしょうか。
お腹の減り具合から察するに、今は午後五時前後だと思うのですが……。
まあそれはともかく、私は会議が終わると辰見さんと桜子お姉さんの手で外に連れ出されて解放されました。
でも、解放してくれたのは良かったんですが、何故わざわざ拉致現場であるダルシムの前に戻したんです?
まあ、少し散歩でもして考え事をしたかったからちょうど良いと言えばちょうど良いんですけど。
「私の中に人が、いえ、深海棲艦が居たなんて……」
私は海辺を寮に向かって歩きながら、何と無しに胸に手を添えてそう呟きました。
心当たりはいくつかあります。
『大和』になる前の晩。演習の最中。そして、数日前の執務室の都合三度、記憶にはない空白の時間が私にはあります。恐らくその時に彼女は、今日のように出て来ていたのでしょう。でも……。
「今回は、記憶が残ってる」
前の三度の事は欠片も覚えていないのに、今日会議の場であった事、私の口を使って窮奇が話した事を、今でもハッキリと覚えています。
前の三度と何が違う?窮奇の名を聞いたから?それとも、私が憎む彼女のために戦うと言った窮奇が印象的だったから?
「どちらにしても、あまり良い気分はしませんね」
あんな人を愛してるだなんて正気を疑います。
そりゃあ、見た目だけなら真面目で清楚そうな美人ですから、よほど特殊な好みの男性以外は見た目にコロッと騙されるでしょう。
ですが、私は女です。しかもノンケです!
そんな私の口で、同性であるハレンチメガネに愛を囁かないでいただきたい。私までそっちの気があるんだと思われちゃうじゃないですか。
「もしかして、私が朝潮ちゃんに惹かれたのは窮奇の影響……なのかしら」
詳細までは聞けませんでしたが、ダルシムへ向かう車中で桜子お姉さんが話してくれました。
窮奇はかつて、初代朝潮を葬り、二代目朝潮だったハレンチメガネに屠られたと。
彼女を偏愛していたとも言っていました。
と、聞かされた話を思い出していると、覚えのない映像と感情が浮かんで来ました。
これは窮奇の記憶なのかしら。当時の感情すら、私は今ハッキリと
「最初に見た時は、ガッカリしました。矮小な駆逐艦と、私は侮っていました」
でも彼女は、私の砲撃を躱して見せた。幾人もの艦娘を屠って来た私の正確無比な砲撃を、彼女は掻い潜って私のすぐ傍まで一直線に向かって来た。
肉薄される頃にはすっかり魅了されていました。
でも、部下の無粋な横槍のせいで、私と彼女の初めての逢瀬は悲惨な結末を迎えました。
「二度目に会った時は、我を忘れるほど嬉しかった」
私に会いに来てくれた。
私に会うために、死の淵から甦ってきてくれた。もう一度、彼女とダンスができる。
そう、当時の私は思いました。そして私は、その時初めて彼女が好きなんだと自覚しました。
「でも、その時も添い遂げることは叶わなかった……」
三度目は雨期真っ只中の南方でした。
渾沌に落として来いと言われた敵基地に彼女が居たんです。部下の重巡が、またしてもさかしい真似をしたせいで決着は着かなかったけど、初めて本気の彼女と戦うことが出来ました。
「そして最後。私が沈んだ日……」
私は彼女に拒絶されました。私は彼女に沈められました。私は彼女に、嫌いだと言われました……。
それが、私と彼女のラストダンスでした。
「悲しくなった……。寂しくなった……。憎くなった……」
そして、身も心もズタズタにされた私は、彼女の胸に抱かれた時にこう思いました。嫌わないで……。貴女と、一緒に居たい……。と。
そうしたら彼女の声が聞こえました。
貴女が艦娘なら、それも出来たかもしれない。と。
だから私は、最後の力を振り絞って一言だけ伝えました。嫌われても良い。貴女と一緒に居られるなら何にでもなる。艦娘にだってなってやる。
という意志を込めて、一緒に…居させて……と。
「本当はあの場で抱きしめたかった……。彼女に触れたかった……。私に触れて、ほしかっ……」
違う!
これは私の感情じゃない!
だって私は、弟を助けてくれなかった彼女を恨んでるんだもの!だからこれは、私のじゃなくて窮奇の感情よ!それなのにどうして、私は自分の感情と錯覚したの!?
「私、どうなっちゃったんですか?もしかして、このまま乗っ取られちゃうんじゃ……」
そう口に出したことで、言い知れぬ恐怖が私の体を駆け巡り、私は道端にへたり込みました。
怖い……。私の内にいる窮奇に、いつか身も心も乗っ取られるんじゃないかと考えるだけで身が震える。立っていられない。
「大和……さん?」
「朝潮ちゃん……」
へたり込んで怯えていた私に声をかけてくれたのは、何故か汗だくで息を切らせていた朝潮ちゃんでした。
どうしてそんなに汗をかいているのですか?どうしてそんなに、息を切らせているのですか?
もしかして、私が拉致されてからずっと探し回ってくれてたんじゃ……。
「そんな所に蹲ってどうしたんですか!?お腹痛いんですか?もしかして酷い事されたんですか!?エロ同人みたいに!」
「エ、エロ同人?いえ、そんな事はされてません。ちょっと気分が悪くなっただけでして……」
と、誤魔化したものの、朝潮ちゃんの口からエロ同人なんて単語が飛び出すなんて思ってもみませんでしたよ。意外すぎて、恐怖心なんてどっか行っちゃいました。
「朝潮ちゃんこそどうしたんですか?そんなに汗だくになって」
「大和さんを探してたに決まってるじゃないですか!大和さんがハイエースされちゃったから私、心配で居ても立ってもいられなかったんです!」
ちょっと待ってください。
ハイエースされちゃったって何ですか?ハイエースって車名ですよね?それなのにそんな言い方をすると言うことは、ハイエースって誘拐とか拉致の隠語なんですか?
「本当に痛いことされてません?もしくは、気持ち良い事とか……。まさか、集団で寄って集って……!」
「ちょ!ちょっとストップ!何を言ってるんですか!?」
「え?何って……。その、ハイエースされたらエ、エッチな事されるって荒潮さんが……」
おぅふ……。
朝潮ちゃんはどうやら、荒潮ちゃんに出鱈目な性知識を植え付けられてるようですね。
真っ赤になってモジモジしてる朝潮ちゃんは愛らしいし舐めたり撫でたり揉んだりしたいですけど、ここは年長者として間違った知識を正してあげないと。
「ど、どうだったんですか!?痛かったんですか!?それとも気持ち良くなっちゃちゃんですか!?こ、壊れちゃう~!とか、いぐぅぅぅぅ!とか言っちゃったんですか!?」
「え~っと……」
これ、正さなくていいや。
真面目な朝潮ちゃんの口から卑猥な言葉が飛び出す度に、私の劣情がこれでもかと掻き立てられますもの。
これは正すには惜しい。荒潮ちゃんグッジョブです!
このままお持ち帰りして、今口にしたセリフを実際に言わせるのも有りですね!
「はっ!私は今なんて事を……!これも窮奇の影響ですか!」
「きゅう……き?それは何かの暗号ですか?」
「いえ、暗号ではなく、その……」
私は窮奇の事を説明するため、今日はあった事を朝潮ちゃんに話しました。
先代朝潮二人と窮奇の因縁はもちろん、作戦の内容まで。
「先代達と窮奇の間でそんな事が……。その窮奇が、今大和さんの中にいるんですか?」
「はい……。たまに記憶が飛ぶことがあったんですが、どうもその時に出て来てたみたいです」
「でも、今回は憶えてるんですよね?」
「ええ、ハッキリと」
それどころか、当時の記憶まで流れ込んでいます。まるで、思い出しているかのように。
「少し、歩きませんか?」
「それは構いませんが、でも……」
朝潮ちゃんの汗は引いていません。ブラウスだって透けて下着が見えちゃってます。
お風呂にだって入りたいでしょうに、私を気遣ってお散歩しようと言ってくれてるんでしょうね。
あ、一応言っておきますが、朝潮ちゃんってブラしてたんだ。とか思ってませんからね?
「艦娘が、艤装との初同調時に先代適合者の記憶を垣間見る。と言う話をご存知ですか?」
「ええ、一応は」
「私も例に漏れず、先代の記憶を見ました」
「どんな、内容だったんですか?」
朝潮ちゃんが話してくれた先代朝潮達の記憶の内容を聞いていく内に、私は胸が締め付けられるように切ない気分になりました。
初代朝潮は愛する人を守るために、その身を犠牲にした。朝潮ちゃんは名前まで知らなかったそうですが、彼女が死ぬ切っ掛けを作ったのは他ならぬ窮奇。
今も私の内で、一緒に話を聞いているであろう窮奇でした。
「先輩は落ちこぼれだったそうです。男性ですら使用できる内火艇ユニットが使えず、三年もの間養成所に居たんだとか」
そして、四年目を迎えようとしていたある日、彼女は朝潮となった。
幼い頃に命を救ってくれた『あの人』のために艦娘になると誓っていた彼女は、念願叶って艦娘となり、初代朝潮の仇を見事討って『あの人』と添い遂げた。
季節外れの花を咲かせた桜の木の下で、彼女は『あの人』と想いを重ね合った。
その日に私の弟は死に、私と彼女は出会った。出会って、しまいました……。
「先代達は窮奇を憎んでいました。愛する人の命を脅かそうとする窮奇を。でも、私は……」
私の前へと歩み出て振り返った朝潮ちゃんは、ニッコリと微笑んで私の目を真っ直ぐ見てこう言ってくれました。
「私は先代達とは違って窮奇を憎んではいません。だって何もされてませんもの。だから、その窮奇を内に秘めている大和さんを嫌うこともありません」
「で、でも私、いつか乗っ取られちゃうかもしれないんですよ?そうしたら朝潮ちゃんにも酷い事をしちゃうかも……」
「逆に乗っ取っちゃえば良いんです。先輩と互角以上に戦った窮奇の経験が得られれば鬼に金棒でしょう?」
いや、それができれば最高ですけど、本当にそんな事が可能なのでしょうか。
事実、私の精神は窮奇の影響を受けて不安定になっていますし……。
「出来ないとは言わせません。大和さんは私の自慢の飼い犬なんですから」
「朝潮ちゃんは、こんな私を……」
信じてくれるのですね。
今も乗っ取られるんじゃないかとビクビクしている、こんな臆病な私を。
「でも、話を聞く限り今度の作戦は危ないかもしれません。だから、大和さんが危なくなれば私がお助けします!」
沈み始めた太陽を背にそう言ってくれた朝潮ちゃんを見ていた私は、どうして自分がこの子に惹かれたのかわかった気がしました。
この子はよく騙されます。
この子は人が言う事を疑いません。今話した、私の内に窮奇が居るという話もアッサリと受け容れてくれました。
そしてこの子は、ルールは絶対厳守を座右の銘にしてそうなほどの堅物と周りからは言われています。
でもそれは、嘘がつけないほど実直で、破っても咎められないほど些細なルールを守るほど義理堅いと言う事。
そんな、律儀な性格のこの子に私は惹かれたんだと思います。
この子は私を裏切らない。と、無意識に思ったんだと思います。
「絶対、ですよ?」
「はい!お約束します!」
同じ艦隊に配属されるかわからないのに、それどころか作戦に参加出来るかすらもわからないのに、朝潮ちゃんは右手の小指を差し出しながら約束してくれました。
この子は必ず来てくれる。
私が危ない時には必ず駆け付けてくれる。そう、根拠のない確信を抱いて、私は朝潮ちゃんの小指と自分の小指を絡めました。
「「ゆ~びき~りげ~んまん。う~そつ~いたらは~りせんぼんの~ます。ゆ~びきった!」」
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その日、私は朝潮ちゃんと夕日の中で、お互いにはにかみながら初めての約束を交わしました。
ええ、この時には思ってもみませんでした。
この迂闊な約束が、朝潮ちゃんに大怪我を負わせる事になるなんて。
私は気付けなかったんです。
約束のためなら命令どころか、自分の命すら蔑ろにする、呪いにも似た『駆逐艦 朝潮』の狂気に。
~戦後回想録~
匿名希望の元艦娘へのインタビューより。
次章予告。
大淀です。
溢れ出るように現れた敵の大艦隊。
なのにラバウル提督は妙に落ち着いています。
ラバウル提督なりに何か考えがあったのか、敵艦隊が現れた時点で攻撃を開始しちゃいました。徹底抗戦して玉砕するつもりなのでしょうか?
次章、艦隊これくしょん『小さき勇者と伊達女の
お楽しみに。
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)