艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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今回は轟沈台詞があります。

と、言う事は轟沈描写もあります。


第五十五話 ここは任せて、先に行け

 

 

 ラバウル提督が、包囲網形成のために集められた艦娘や海兵たちにトラック泊地への撤退を命じるのと、深海棲艦の侵攻開始はほぼ同時でした。

 それでも残って戦うと言ってくれた人も居ましたが、反撃のために涙を飲んで堪えてくれと説得してなんとか撤退してもらいました。

 

 その後ですか?

 ラバウル提督と私は、包囲網の形成自体が敵艦隊を釣り上げるための作戦だと予想していたので、事前に妖精さんにお願いしてラバウル、ブイン、ショートランドの島内に地下壕を建設していたんです。もちろん、秘密裏に。その中に隠って抵抗を続けたんです。

 

 ええ、生きた心地がしませんでした。

 敵の侵攻は例えるなら津波。南方の三基地を文字通り飲み込むような勢いでしたよ。

 それでも、基地航空隊と三基地所属の艦娘と海兵、事務員まで総出で抵抗を続け、小規模な艦隊こそ逃してしまったもののなんとか一週間ほど敵本隊の侵攻を食い止めることに成功しましたし、50隻くらいは沈めることができました。

 さらにその後も、上陸しようとする深海棲艦を島中に張り巡らせた地下壕を利用してゲリラ戦を展開し、200隻ほど、味方の艦隊が来るまで釘付けにできました。

 

 心残りがあるとすれば、防御網をすり抜けた敵に、トラック泊地へ撤退中だった艦娘が数人沈められた事ですね。

 特に、彼女の最期は凄絶だっと聞いています。

 彼女は16隻からなる敵艦隊を一人で二時間も食い止め、瑞鶴さんと五十鈴さん他多数の艦娘が撤退する時間を稼ぎました。

 姉妹艦の秋月さんは彼女のことを『秋月型の誇り』と、後に仰っていましたね。

 

 

 ~戦後回想録~

 元練習巡洋艦 鹿島へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 僕たち秋月型姉妹は、艦娘歴こそ長いけど実戦経験は無いに等しい。

 理由は大本営。いや、旧大本営と言ったほうが良いかな。に、ある。

 僕たちは防空性能の高さを買われて、長い間大本営で飼い殺しにされたのさ。

 今の元帥に代わってからは、僕たち秋月型姉妹の出撃回数は劇的に増えたよ。元帥の南方巡りにも動向したし、敵艦隊が襲撃してきた時は出撃もした。

 もっとも、その時は大淀が文字通り根刮ぎ沈めてしまったから、僕たちの出番は全く無かったんだけどね。

 

 『初月。追撃の艦隊は見える?』

 「見えないよ五十鈴。静かなもんさ」

 

 僕たちは今、敵の侵攻開始と同時にラバウル提督が下した撤退命令に従って五十鈴を先頭、僕を最後尾にして、瑞鶴、そして他数名の艦娘は、応援として送られていた海軍艦艇を護衛しながらかれこれ十数時間トラック泊地へ向けて航海している。

 

 「ねえ五十鈴。戻っちゃダメかな」

 『ダメに決まってるでしょ。私たちを逃がしてくれたラバウル提督や、残って戦ってる艦娘や海兵達の想いを無にする気?』

 

 無にする気なんだよ。

 と、無線を通して聞こえてくる五十鈴の声に、僕は心の中で答えた。

 僕にはそう言って諭したクセに、自分だって本当は戻りたいんだろ?

 五十鈴だけじゃない。黙って航海を続ける瑞鶴や他の艦娘たちも同じはずさ。

 本音は今すぐ踵を返してラバウルへと戻り、残ったみんなと一緒に迎撃戦に参加したいって想いが背中からヒシヒシと感じられる。

 それなのに口にも出さないのは、ここで引き返すより本土からの援軍と合流した方が効果的、効率的だと打算しているからさ。たぶんね。

 

 「羨ましい……な」

 『羨ましい?』

 「気にしないでくれ五十鈴。ただの独り言だから」

 

 いや、無線も切らずに口に出したって事は、本当は気にして欲しかったんだろう。

 僕の。いいや、秋月型姉妹共通の夢を聞いて欲しくて、僕は無線を切らずに言葉を紡いだんだ。

 

 「ん?あれは……」

 『どうしたの初月。敵の追撃艦隊でも見つけた?』

 「かも、しれない。水平線上に人影が見えた気がしたんだ。五十鈴でも瑞鶴でも良いから、索敵機を飛ばしてくれないか?」

 

 僕の提案に「私がやる」と言って、瑞鶴が空中に一本の矢を放った。

 放たれた矢が、複数の艦載機に転じる様はいつ見ても不思議な光景だね。

 

 『マズい……!五十鈴!敵の追撃艦隊よ!』

 『追撃!?数はわかる!?』

 『数は……16!重巡2、軽巡2、駆逐艦12!』

 

 こちらの倍以上か。

 瑞鶴の索敵機にも気付いたろうから、距離的にもそろそろ撃ってくるな。

 まったく、せっかく諦めかけていたのに……。

 

 「五十鈴、意見具申してもいいかい?」

 『ダメよ!』

 「ダメ?まだ何も言ってないんだけど」

 『アンタが言いそうな事くらい想像がつくわよ!どうせ、一人で時間を稼がせろとか言うつもりでしょ!』

 

 大正解。

 さすがは経験豊富な軽巡洋艦だ。

 僕みたいなタイプの駆逐艦が言いそうな事は先刻承知らしい。

 でも、僕は引かないよ。再び巡ってきたチャンスなんだ。もうお預けにされるのはこりごりだからね。

 

 「駆逐艦 初月はこれより転進し、味方撤退の時間を稼ぐ」

 『ダメ!やめなさい初月!戻って!』

 

 もう遅いよ五十鈴。

 もう反転しちゃったから、今から針路を元に戻しても僕は一人だけ落伍する。

 

 『ありったけの艦爆と艦攻を援護に出すわ。だから、機を見て離脱しなさい。トラック泊地で……待ってるから』

 「ありがとう瑞鶴。恩に着るよ」

 

 余計なことを。

 と、頭上を通り過ぎていく瑞鶴の艦載機を仰ぎながら思った。

 バチが当たるかな。

 彼女なりに、僕の生存率を少しでも上げようとしてくれたんだろうけど、暗くなる寸前の今ではあまり意味はない。それに、生憎と僕は生きてトラック泊地に行く気はないんだ。

 だって僕は、死にたいんだから。

 

 「少し違うか」

 

 僕は艦娘として死にたいんだ。

 戦う力を与えられながら、僕たちの秋月型姉妹は何年もの間無為に過ごした

 歯痒かった。悔しかった。苦しかった。

 だけど、僕たちはその日々を堪え抜いた。堪え抜いてようやく、艦娘として戦い、華々しく散る機会を得たんだ。

 

 「ふふ♪お前も嬉しいのか?超10cm」

 

 意思を持っているかのように振る舞う僕たち秋月型の艤装。超10cm砲。

 姉さんたちはちゃん付けで呼んでるけど、僕は呼び捨てだ。ほら、ちゃん付けなんて僕のキャラじゃないだろ?

 

 「敵艦隊を目視で確認。敵は多いぞ。砲撃戦用意!行くぞ!」

 

 敵艦隊が瑞鶴の艦載機を相手にしている隙を狙って、僕はスモークを展開して五十鈴たちの姿を見えなくした。

 散るのが目的とは言え、ちゃんと時間は稼がないといけないからね。

 

 『初月!絶対にトラック泊地まで来なさいよ!死んだら……許さないんだから!』

 

 五十鈴の悲痛な叫びが、無線を通じて鼓膜を震わせた。

 僕の生還を望んでくれるのは嬉しく思う。

 でも、無理だ。この数相手に生還など絶望的。僕が大淀並に強ければそれも叶ったんだろうけど、生憎と僕はそこまで強くない。

 でも、無理だと言うと五十鈴たちまで転進しちゃいそうだから、ここはそれっぽい事を言って安心させてあげなきゃ。

 

 「そうだ。今こそアレを言う時じゃないか?」

 

 僕には艦娘として散るという夢とは別に、生きている内に一度は言ってみたいと思っているセリフがいくつかある。

 その内の一つが。

 いや、その中で一番言いたかったセリフが、今の状況にピッタリだ。

 

 「必ず追いつくさ。だから……。ここは任せて、先に行け」

 

 無線が届くギリギリの距離だけどちゃんと届いたかな。まあ、届いてなくてもいいか。

 言いたかったセリフを言えて夢まで叶いそうなんだ。これ以上望んだら本土にいる姉さんたちに申し訳ない。

 

 「さあ行こう。超10cm。第六十一駆逐隊、初月、出撃するぞ!」

 

 僕は速度を上げて敵艦隊へと突撃を開始した。

 夜闇とスモークで五十鈴たちの姿は隠れているけど、艦隊を分けて五十鈴たちを追うかもしれない。

 まずは、僕へと注意を向けなければ。

 

 「艦載機は全滅か。ツ級が交じっていたな」

 

 でも、撃ち落とされた艦載機の雨が照明弾のように敵艦隊を照らし出している。

 僕からは丸見えだけど、敵に僕の姿は見えているのか?

 見えているな。

 敵はかなり正確な精度で僕を狙って砲撃を開始した。

 恐らくは電探射撃。夜闇もこれじゃああまり意味がない。

 

 「だがまあ、これだけ正確ならかえって避けやすい」

 

 僕たちは訓練する時間だけはあったんだ。

 姉妹全員分の弾幕を回避する訓練を散々やったし、今の大淀が着任してからは反則級の強さの敵への対処法だって学べ……てないか。 

 だって僕たちは、四人がかりでも大淀に一発も当てることができなかったんだから。

 しいて彼女から学べた事があるとすれば……。

 

 「大淀に比べればマシ。と、思える心の余裕かな。よし!そこだ、撃て!」

 

 そう、彼女に比べればどうという事は無い。

 敵の方が僕より数が多い?

 だからなんだ。僕が相手にしているのは高々16隻。しかも戦艦も空母もいない。

 世の中には連合艦隊規模の敵を無数の艦載機諸共沈めてしまう化け物がいるんだ。

 そんな彼女を相手にするのと比べれば天国とも言える。

 絶望しないのか?

 ああ、状況は絶望的さ。今はまだ、応射と速度の緩急とジグザグ航行で回避できているが被弾するのは時間の問題。

 しかも、旗艦と思われる重巡の懐に僕が飛び込めないよう、9隻の駆逐艦が砲撃と魚雷で僕の行動を阻害し、僕を包み込まんばかりに軽巡と重巡が砲撃を浴びせてくる。うん、どう楽観的に考えても絶望的だ。

 だったらなんだ。

 状況が絶望的でも、僕自身は絶望したりしない。

 ただ一方的に撃たれまくって回避するのが精一杯なだけじゃないか。

 これが大淀なら、回避する暇も無く僕はやられているはずさ。

 

 「ぅああっ! ……まだだ、まだ走れるさ!」

 

 初めての実弾による被弾。

 被害的には小破と言ったところだろうか。想像してたより熱いし痛いんだな。

 だけど、手足は健在だし我慢できないほど痛い訳じゃない。僕は……まだ動ける!

 

 「これが戦闘。本物の戦闘……か。くくくくく……。良いじゃないか!これだよこれ!これを待ってたんだ!」

 

 被弾する度に気を失いそうになる。

 気が狂いそうな程の恐怖が胸に渦巻く。

 姉さんたちの元に戻りたいと、心が泣き言を言っている。

 けど反面、痛みを心地良く感じる僕がいる。

 恐怖心をねじ伏せて、己を奮い立たせるのに何とも言えない興奮を感じている僕がいる。

 姉さんたちより先に、夢を叶えられる悦びに打ち震えている僕がいる。

 

 「ちぃっ! 当ててくるな。まだ沈むわけにはいかない、まだだ……!」

 

 まだ足りない。

 まだ僕は満足していない。

 砲撃を上手く躱しても満足できない。

 何射線もの魚雷の隙間を上手くすり抜けても満足できない。

 駆逐艦を一隻沈めても満足できない。

 軽巡に魚雷を撃ち込んでもまだ満足できていない。

 僕はもっともっと戦いたい!

 

 「あれ?足がないな」

 

 砲撃で千切られたのか、それとも魚雷の爆発で吹き飛んだのか。兎に角いつの間にか、僕の左足がなくなっていた。

 痛みは感じないけど、これじゃあ回避は無理だな。

 敵もトドメを刺すつもりなのか、残りの15隻が砲撃体勢に入っている。

 

 「秋月型防空駆逐艦、四番艦初月は敵追撃艦隊を二時間近く足止めし、味方撤退の時間を稼ぐことに成功。ってところかな……」

 

 これが、僕が胸を張って言える初戦果。僕の最初で最後の大戦果だ。

 どうだい?秋月姉さん。

 僕は秋月型として立派に戦ったよ。

 照月姉さん、僕は凄いだろ?

 圧倒的な戦力差の中、駆逐艦とは言え一隻沈めたよ。

 でも、涼月姉さんは怒るかな?

 僕がラバウルに行く事を一番心配してくれてた涼月姉さんだけは怒るかもしれないな。

 

 「ああ……。涼月姉さんが作ったふかし芋が食べたい……。もう一度、照月姉さんの胸を枕しにて眠りたい……。秋月姉さんが大事にしてた牛缶を黙って食べた事を謝りたい……」

 

 これが走馬燈と言うヤツだろうか。

 姉さんたちとの日々の思い出が、僕を仕留めるために放たれた砲撃の灯りをバックに映し出される。

 それに後押しされるように、未練まで湧き出してくる。

 

 「僕は……。僕のやるべきことを……やり遂げただろうか……」

 

 不安にまでなってきた。

 今からコイツらが追撃を再開しても追いつけるとは思えないけど、五十鈴たちは無事に逃げ切れたかな?

 トラック泊地に着いた?まだ航行中?

 まあ、どちらでも良いか。

 二時間近く、敵には散々撃たせたし動き回らせたんだ。きっと奴らの弾薬も燃料もギリギリさ。

 

 「姉さん……。僕はやっと、艦娘に成れたよ……」

 

 僕は、僕の命を刈り取るために放たれた鉄の雨を他人事のように眺めながら、姉さんたちに自慢するように一言だけそう呟いた。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
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