艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第五十六話 ちゃんと慰めてね?

 

 

 はい、あの子が南方に行っている間、彼の身の回りのお世話は私がしていました。

 まあ、知らない仲でもないですし、私を姉と慕ってくれるあの子のお願いでしたから快く引き受けました。

 あ、誤解しないでくださいね?

 今でも家族ぐるみで仲良くしていますが、彼と男女の関係になったことはありません。

 だいたいあの人、あの子以外には興味を示しませんもの。

 私と二人で居たって平然としているどころか「居たのか?」って感じでした。

 もっとも、それは遠くに居たあの子の事を想って上の空になってただけなのかもしれませんが。

 

 

 ~戦後回想録~

 元初代大淀 へのインタビューより。

 

ーーーーーーーー

 

 「元帥さんが心配?」

 「満潮ちゃん……。ええ、心配です。あの人、私が居ないとご飯をまともに食べませんから……」

 

 横須賀を出て数日。

 暇が出来たからワダツミ艦内を探検がてらお散歩してたら、所在なさげに甲板をウロウロしてたお姉ちゃんを見つけたから話しかけてみると案の定だった。

 

 「まるで円満さんみたいね。もしかして、カップ麺もまともに作れないとか?」

 「いえいえ、味付けは濃いですが、あの人は一通り料理出来ます。ただ作るのが面倒らしく、作ってあげないとおツマミくらいしか食べないんです」

 

 円満さんよりはマシだったか。

 弟子が弟子なら師匠も似たようなものだと思ってたから少し意外だわ。エプロン姿で料理してる元帥さんは想像出来ないけど。

 

 「一応、姉さんに……。あ、先代の大淀だった人にお世話をお願いしたんですが……」

 「今度は浮気されないか心配になっちゃった?」

 「それは全く心配していません。あの人は私以外の女性に興味がないですから」

 

 す、凄い自信ね。

 真剣そのものな表情で、メガネを右手でクイッと上げながら言ってるから本気でそう思ってるんでしょうけど元帥さんだって男よ?

 実際、まだ大淀だった頃のその人のスリットに手を突っ込みたいとか言ってたし。

 

 「でもさ、男の下半身は別の生き物って言うじゃない?元帥さんだって、お姉ちゃんが居ない寂しさに堪えかねて下半身が暴走するかもよ?」

 「そ、そうなったらそうなったで構いま……せん」

 「元帥さんが望むなら?」

 「はい」

 

 でも、そう言ってる割に涙ぐんでるじゃない。

 お姉ちゃんは元帥さんが望む事なら何でもするし、元帥さんがやる事なら何でも許容する。

 それが、お姉ちゃんなりの愛し方なのは理解してるつもりよ。その結果、自身がどれだけ傷ついても、お姉ちゃんにとっては本当に幸せなんだって事も。

 異常だとは思ってるけどね。

 

 「この作戦に参加したのも、元帥さんに言われたから?」

 「ええ、『円満の力になってやってくれ』と、言われました。でも、そう言われなくても、私は志願していたと思います」

 「どうして?お姉ちゃんが加わってくれるのは個人的にも戦力的にも嬉しいけど……。まだ、円満さんと険悪なままなんでしょ?」

 「それも理由の一つです。小狡いと思われちゃうかもしれないけど、戦闘で良い所を見せれば少しは話を聴いてくれるかな。って、思ったの」

 

 なるほどね。

 ここ最近はお姉ちゃんと目すら合わそうとしない円満さんでも、戦果を上げれば褒めないわけにはいかないから、それが話の切っ掛けくらいにはなるかもしれないわね。

 

 「円満さんって、昔から根に持つタイプだったの?」

 「いえ、私が知る限りそんな事は……。澪さんや恵さんなら知ってるかもしれませんが」

 

 と言って、お姉ちゃんは甲板の手摺に両手を添えて水平線上に頭を見せ始めたトラック泊地を見つめ始めた。

 私から円満さんに言ってあげようかな。

 私だけでも、非力な円満さんなら引っ張ってお姉ちゃんの前に連れて行けるし、桜子さんや元帥さんも巻き込めば円満さんだって邪険にはできないはず。

 

 「ねえお姉ちゃん。何だったら私が……。って、お姉ちゃん?」

 

 私が間に入ろうか?と提案しようと思ったら、お姉ちゃんは手摺から身を乗り出してトラック泊地の方を凝視し始めた。

 僅かだけど殺気まで帯び始めてる。

 私の目には近づく島しか見えないけど、お姉ちゃんには別の物が見えているのか、戦闘思考に移行し始めてるわ。

 

 「満潮。秘書艦権限で私に出撃許可をください」

 「出撃って……。ここらはまだこちらの勢力圏よ?直衛の艦隊にも敵を発見した様子はないし……」

 「問答をしている暇はありません。このままでは手遅れになりかねない」

 

 これはマジ……かな。

 メガネをかけてる姿からは想像出来ないけど、お姉ちゃんは気持ちが悪いくらい目が良い。

 その視力はなんと11.0!アフリカのハッザ族並の視力を有しているの!

 そのお姉ちゃんが出撃させろなんて言ってるんだから、ただ事じゃないわ。

 

 「後部カタパルトを使って!円満さんには私が言っとく!」

 「わかりました。後部カタパルトですね」

 

 お姉ちゃんが後部カタパルトへ向かうために艦内へ駆け出したのを尻目に「さて、それじゃあ円満さんに……」と言いながらスマホを取り出すのと、第一種戦闘配置を告げる警報と艦娘に自室待機を命じるアナウンスが流れるのは同時だった。

 遅すぎる気はするけど、ワダツミのレーダーでもお姉ちゃんが見つけた敵を発見したんだわ。

 

 「ん?円満さんから着信?もしもし?」

 『満潮、大淀はそこに居る?』

 「ちょうど良かった。私もその事で連絡しようと思ってたの」

 

 さすがは円満さん。

 暇が出来た私が、艦内を散歩してお姉ちゃんを見つけたら雑談でも交わしてるだろうと予想してかけて来たのね。

 あ、ちなみに。

 艦娘に支給されているスマホは、一般の回線はもちろんワダツミで外洋に出てる時はワダツミの回線を使って電話くらいなら出来るの。

 さすがにネットは無理。と言うか、ワダツミに乗艦しているイコール作戦行動中だから使わせてもらえないんはだけどね。

 

 「お姉……じゃなかった。大淀さんは敵を察知して後部カタパルトに向かったわ。出撃させてあげて」

 『手間が省けたわ。アンタも後部カタパルトで待機しておいて。艤装は着けなくていいから』

 「生身のままで良いの?」

 『ええ、大淀が連行してくる艦娘を……そうね。提督居室に連れて来て』

 「は?艦娘?」

 

 円満さんとお姉ちゃんが察知した敵(仮)は艦娘って事?そいつをお姉ちゃんが拘束してくるから、一緒に円満さんの所に連れて来いって言う事?

 あ、だから警報が遅かったんだ。

 レーダーでは捕捉してたけど、脅威だと判断するかどうかで悩んでたのね。

 

 『満潮、復唱は?』

 「あ、ごめん。駆逐艦満潮は後部カタパルトにて待機、大淀帰投後に……って!アレって艦載機!?まさか、爆撃する気!?」

 

 接近中の艦娘が放ったと思われる艦攻と艦爆が、お姉ちゃんほどじゃない私の目にも見えた。

 針路的に目標はこの艦。しかも艦橋を狙ってる?

 でも誰が?トラック泊地には空母なんて居ない……。

 

 「いや、()は居たわね。まさか、ワダツミを爆撃しようとしてるのは瑞鶴さん?」

 『まず間違いないわ。そこまで察したなら、何をすれば良いかわかるわね?』

 

 五十鈴さんを初めとして、ラバウルへ応援として派遣していた艦娘と軍人たちがトラック泊地まで撤退してきたという報告は入っている。その中に、装甲空母の瑞鶴さんが居たことも。

 ならば、私がするべき事は……。

 

 「わかってる。他の艦娘には見られないようにするわ。あ、そうだ。加賀さんはどうする?瑞鶴さんを諫めるには彼女が適任だと思うけど?」

 『私から連絡しておくわ。じゃあ、後は任せたわよ。早く大淀に連絡しないと瑞鶴を沈めかねないから』

 

 と言って、一方的に通話を切った円満さんにお姉ちゃんと加賀さんへの連絡は任せといてっと。

 私も早く後部カタパルトに行かなきゃ。

 すでにお姉ちゃん迎撃を始めてるから、瑞鶴さんが拘束されるのは時間の問題だわ。

 

 「狙いはワダツミ。と言うより円満さんでしょうね。きっと、三基地に集められた人達が餌だと気付いたんだ」

 

 だから、怒りにまかせて爆撃なんて暴挙に出たんだわ。

 まあ、気持ちはわからないでもないけど……。

 

 「円満さんの気も知らないで余計な重荷を増やしやがって。連行する前に一発ぶん殴ってやる!」

 

 などと、我ながら乱暴な口調でぼやきながら後部カタパルトへ向かい、着いたら着いたで殴るための準備運動をしていると、解放されている後部カタパルトからではなく艦内の方から誰かが入って来た気配を感じた。

 このタイミングで来るのはたぶん……。

 

 「加賀さん。こちらに来るように言われたんですか?」

 「いいえ、私の独断よ。命令違反の処罰は後で受けるわ」

 「問題ないと思いますよ。なんなら私が口添えしますし」

 「結構よ。罰はちゃんと受けるわ。じゃないと、今から私に殴られる五航戦に示しがつかないから」

 

 艤装を装着した状態で拳を握りながらそう言った加賀さんの視線を追うと、お姉ちゃんに砲を背中に押しつけられて後部カタパルトに入って来た瑞鶴さんが目に映った。

 若干消化不良気味な気分だけど、殴るのは加賀さんに任せよう。その方が、大人しく加賀さんの前に立つ彼女には響くはずだから。

 

 「加賀……さん」

 「申し開きがあるなら聴いてあげるわ」

 「……」

 「そう……。頭にきました」

 

 無言で首を横に振った瑞鶴さんの左頬を、加賀さんはそう言って殴った。と言うか殴り飛ばした。グーで。

 殴られた瑞鶴さんは、まるで大砲で撃ち出されたみたいに閉まった後部カタパルトのハッチまで飛んで行ったわ。いくら艤装を装着した状態とは言え、下手したら死んだんじゃない?あれ……。

 

 「た~まや~。と、言うべきですかね?」

 「いやいや、空気読んでお姉ちゃん。そんな雰囲気じゃないでしょ?」

 

 殴り飛ばされた瑞鶴さんを軽く躱したお姉ちゃんがおバカな事を言い出したのは取り敢えず放っておくとして、今は気絶したっぽい瑞鶴さんを円満さんの所まで運ぶことを考えないと。重そうだなぁ……。

 

 「さすがに私の手には余る……か。加賀さん、お願いしても良いですか?」

 「最初からそのつもりよ。連行先は提督居室で良いのかしら?」

 「はい。出歩いてる艦娘が居ないとも限りませんので私は先行します。おね……大淀さんは念のため、加賀さんに同行してください」

 

 お姉ちゃんは「わかりました」と言って従ってくれたけど、その表情は「円満さんに会わなきゃいけないのか……」って言いそうなほど暗く沈んだ。

 円満さんの役に立つために作戦に参加したものの、まだ面と向かう覚悟は出来てなかったのね。

 

 「じゃあ、先に行くわね」

 

 と言って二人と別れ、私は待機命令を破って出歩いてる艦娘がいないか目を光らせながら提督居室に向かった。

 円満さんはもう来てるかしら。

 あ、来てるわね。部屋の中から円満さんの気配を感じるもの。

 

 「円満さん、もうすぐお姉ちゃんと加賀さんに連れられて瑞鶴さんが到着するわ」

 「そう、ありがとう。他の子達には見られてない?」

 「大丈夫なはずよ。でも、直衛艦隊の子達には見られてるはずだから、遅かれ早かれ、襲撃犯が瑞鶴さんだって事は広まると思う」

 「そうね。一応、直衛艦隊の子達には見たものを口外しないよう言ってあるけどそれは仕方がないわ」

 

 提督居室の窓から外を見ながら話す円満さんの口調からは動揺は感じられない。

 でも、胸中は穏やかじゃないはずよ。

 覚悟してたとは言え、仲間から殺されかけたんだから。

 

 「大丈夫?」

 「大丈夫じゃないわ。今晩泣いちゃうから、ちゃんと慰めてね?」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 そう言って無理矢理笑顔を作った円満さんは、瑞鶴さんには提督の顔で対面した。

 加賀さんが一緒に居たから大人しくしてたけど、瑞鶴さんはずっと、憎しみが隠った瞳で円満さんを睨み付けてたな……。

 その時何があったか?

 その時は、瑞鶴さんを第二機動部隊の旗艦にする事と、加賀さんを監視として着ける事を伝えただけで終わったわ。

 

 でも円満さんにとって、瑞鶴さんに無言で睨まれ続けた十数分は、あの作戦で上から数えた方が早いくらいの修羅場だったんじゃないかな。

 だって、その晩は眠ってからもずっと「ごめんなさい」ってうわごとを繰り返してうなされてたから。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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