艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第五十八話 成功の可能性は100%

 

 

 

 最初の戦闘は、瑞鶴がワダツミを爆撃した三日後だったわね。

 ええ、前日の晩に『決戦仕様』と銘打たれた服装に着替えたあの子と話したからよく憶えているわ。

 瑞鶴を叱ったか?

 いいえ、叱ったりはしなかったわ。ただ、話を聴いてあげただけ。

 あの子だって、提督がした事は許せないけど勝つために必要な事だったとは理解していたの。

 感情に流されてしまったのは軍人。いえ、艦娘としては褒められたことではないけれど、あの子の強さの根幹はその人間らしい部分だと思っていたから連行直後の一発だけで許したわ。

 

 あの子の事をどう思っていたか?

 そうね……。

 才能だけなら、歴代瑞鶴はおろか歴代の全空母で一番。初月の件で甘さが抜けたあの子の射形と射型は、私と赤城さんが見惚れてしまうほど見事なモノになったわ。

 ええ、そうよ。

 あの時、瑞鶴は私を超えて見せたの。

 その事を誇りに思う反面、悔しく思ったのを憶えているわ。

 あの子は私の愛すべき後輩であり、切磋琢磨し合うライバルでもあったから。

 

 ~戦後回想録~

 元正規空母 加賀へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 「状況は?」

 「現在、夕張を旗艦とした対潜哨戒部隊が潜水ソ級を旗艦とした潜水艦部隊との戦闘に勝利。確保したルート上を第一機動部隊が進行中です」

 

 私の問いに、ブリッジで管制官を務める女性士官が冷静な口調で答えてくれた。

 この人も長いわね。

 確か、朝潮姉さんと最期に通信を交わしたのもこの人だったはず。

 

 「さて、いよいよ追い込み漁の始まりだなぁ、円満の嬢ちゃん」

 「艦長、作戦行動中に嬢ちゃんやめてください。それ以外の時は構いませんから」

 「おっと、これは申し訳ない提督殿。これでいいかい?」

 

 と、全く反省の色を見せずに言って来たのは前タウイタウイ泊地提督であり、現ワダツミ艦長である『艦長』。定年はとっくに過ぎているはずなのに、海の上で死にたいと言い張って今だに居座り続けている白髪に白髭のお爺ちゃんよ。

 誰かに例えるとしたら、太平洋戦争中に撃沈された設定の大和を、宇宙戦艦に改造してイスカンダルを目指すアニメに出て来た沖田艦長の口調を荒っぽくした感じかしら。

 

 「三基地からの報告では、敵本隊の数は500強。それが三つに別れて北上中……か。第一波の現在位置は?」

 「マリアナ諸島南、40海里程です」

 「頃合い……かな。第一機動部隊に敵艦隊捕捉後、直ちに攻撃を開始するよう伝えて。同時に、第二機動部隊も出撃。後に、第一機動部隊が弾切れを起こす前に交代出来るよう洋上にて待機」

 「了解しました」

 

 もう一手欲しいわね。少し早いけど、第一遊撃部隊第二部隊も出すか……。

 

 「もう一手欲しい。ってとこだな」

 「ええ、早いですが第二部隊も出します」

 「ワダツミを動かすか?」

 「それには及びません。マリアナ諸島までヘリで輸送します。もう、戻ってますよね?」

 「整備と補給までバッチリ終わってるさ。シートが硬いそうだから交換までしてな」

 「シートが硬い?誰がそんな我が儘……。あ、満潮か……」

 

 まず間違いないわね。

 ワダツミに搭載してある輸送ヘリに乗った事がある艦娘は、昨日タウイタウイ泊地に向かうために乗った満潮くらいだもの。

 

 「すみません。私の秘書艦がご迷惑をおかけしました」

 「気にすんな。シートが硬いかどうかを満潮の嬢ちゃんに聞いたのはパイロットだ。嬢ちゃんはそれに「硬い」と答えただけだよ」

 「それはそうですが……」

 「気に病んでくれるのはありがてぇが、今は敵艦隊への対処を優先すべきだとワシは思うが?」

 「わかりました。お礼は後日必ず」

 

 そうとなれば、まずは金剛たち第二部隊への出撃命令と輸送ヘリの発艦準備。それと、第一部隊も第二から第一種戦闘配置に移行させなきゃ。

 

 「提督。第一機動部隊 赤城より入電です」

 「何かあったの?」

 

 一連の指示を出し終えたタイミングで、管制官が赤城から通信が入った旨を顔だけ私に向けて伝えてきた。

 タイミング的に、敵艦隊を発見した事を伝えてきたのかしら。

 

 「我、敵第一波の旗艦と思われる新種の姫級を発見。指示を乞う。です」

 「映像はある?」

 「はい、お手元のタブレットに回します」

 

 管制官が赤城から受け取って、私のタブレットに回してくれた画像に写っていたのは見たこともないタイプの深海棲艦。

 白い髪を両サイドで纏め、それが怒髪天を衝くように大きく跳ね上がり、こめかみ辺りから短い角が2本生え、両耳に大きめの黒い四角形が3つ繋がった耳飾りをつけている。

 飛行甲板と三連装砲を搭載した鯨のような艤装に乗っているわね。艦種的には航空戦艦?それとも、三連装砲を装備した空母と言うべきなのかしら。

 いや、それよりも……。

 

 「瑞鶴の嬢ちゃんに似てるなぁ。闇落ち瑞鶴とでも名付けるかい?」

 「私も似ているとは思いますが、また爆撃されかねないのでやめておきましょう。深海鶴棲姫。とかどうです?」

 「良いんじゃねぇか?」

 「どうでも。と、続きそうですが?」

 

 言おうとしてたわね。

 先んじて私にツッコまれたもんだから、わざとらしくそっぽ向いて誤魔化してるわ。

 

 「待機中の艦隊も含めて、全員に新種の情報を共有させて。それと、赤城と瑞鶴には無理に撃破しようとせず、新種の性能を探ることに専念するよう伝えてちょうだい」

 「了解しました」

 

 返事と共に、即座に伝えるべき事を伝え始めてくれる管制官はありがたいわね。

 おかげで、安心して思考の海に沈む事が出来るわ。隣のお爺ちゃんがチョイチョイちょっかいをかけてくるのが少しウザいけど。

 

 「艦隊が伸びすぎてるわね。このままじゃ、敵第一波はまともに相手しなきゃいけなくなる」

 「第一、第二波はそうでもねぇが、第三波が確かに離れすぎてるな。あそこに混沌とやらが居るのかねぇ」

 「まず間違いないかと。恐らく、第二波の一部で海峡を封鎖後、距離を詰めるつもりなんでしょう」

 「ククク、敵はこちらの五倍以上。しかもこっちは、ただでさえ数で負けてるってのに艦隊を分けてる」

 「ええ、厳しいですが負けるわけにはいきません」

 

 この人は何を考えている?

 ブリッジ要員しか居ないとは言っても、部下の不安を煽るようなことを聞こえるように言うなんて。

 

 「負けたら死ぬだけじゃ済まねぇな。本土は開戦時より酷くなり、お前ぇさんは無能として歴史に名を残す事になるなぁ」

 

 歴史として残せるほど人類が存続していれば。って但し書きが付きそう。

 でも、それくらいの罰で済むなら安いもの。って思っちゃってる私は、もうおかしくなってるんでしょうね。

 

 「勝算はどれくれぇなんだ?」

 「聞きたいですか?」

 「ああ、聞きてぇな」

 

 艦長の目付きが鋭くなった。

 きっと、この人が聞きたいのは勝算なんかじゃない。私の覚悟だ。

 ならば、私はこう答えるわ。

 

 「100%です」

 「何がだ?」

 「勝つ見込みですよ。失敗は許されないのですから、成功の可能性は100%以外有り得ません」

 「こんな序盤戦が始まったばかりでそう言い切るたぁ良い度胸だ。気に入ったぞ提督」

 「あら、私はてっきり、また死に損なっちまう。とか言い出すと思ってたんですが?」

 「ハハハハハハ!違ぇねぇ!いざとなったらワダツミをぶつける。くらいはいつでも考えてるさ」

 

 言いそう……。

 艦長はもちろん、男の人ってそういうの好きよね。女の私には理解しづらいけど。

 

 「提督。輸送ヘリの発艦準備が整ったようです」

 「直ちに発艦させて。ああそれと、輸送ヘリのパイロットには第二部隊を降ろした後、トラック泊地で補給を受けるよう伝えてちょうだい」

 「了解しました」

 

 さて、ここらで現状を整理しておくとしますか。

 現在、総数500強の敵艦隊は第一波200、第二波200、第三波100隻の大きな三つの塊に別れて、薩摩硫黄島を目指して北西に進んでいる。第一波はマリアナ諸島南、40海里付近よ。

 もうすぐこの敵艦隊を、トラック泊地から出撃した二つの機動部隊と、輸送ヘリでマリアナ諸島まで送られた金剛たち第一遊撃部隊第二部隊で西寄りの針路へ誘導を開始する。

 混沌は薩摩硫黄島に到達後の防衛戦力を減らしたくないはずだから、無理な応戦はせず、逃げるように西に向かうはずよ。

 そして、主戦場になると想定しているはエンガノ岬沖に、今度は艦隊を小出しにして誘引する。

 そうすれば……。

 

 「第三波の背後を西村艦隊が突いてくれる」

 「上手くいくかい?」

 「もちろんです。そのために満潮まで配置したんですから」

 「羨ましい信頼関係だなぁ。あの嬢ちゃんがヘリのパイロットにこう言ってたらしいぜ?「円満さんが立てた作戦が失敗するわけがない」ってな」

 

 あの子ならそう言うでしょうね。

 あの子は私の唯一の理解者であり、掛け替えのない友人なんだから。ああでも……。

 

 「一つだけ、心配な事があったわね」

 「おいおい、まさか作戦に影響が出るような事じゃねぇだろうな?」

 「ば、場合によっては……」

 

 その心配とは時雨。

 勘違いしないでね?アイツの戦闘能力が低いなんて心配していないわ。むしろ、朝雲と山雲のコンビを相手に互角以上に戦うことが出来るアイツの実力は頼りにしてる。

 問題なのは、アイツが気に入った艦娘を力尽くで手籠めにする強姦魔の一面。

 過去に私を襲おうとした事があるくらいだもの。当時の私と容姿が似てる満潮に欲情する事は十分に有り得るわ。

 

 「ま、まあ扶桑や山城も居るし大丈夫……よね?」

 「だと、いいがな」

 

 

ーーーーーーーー

 

 円満の嬢ちゃんの心配は杞憂に終わったけどよ、その後、第三部隊が挟撃を成功させる前の日に誤算があったんだわ。

 ああ、ワシ自身、報告を聞いたときは信じられなかったよ。

 まさか、アイツが早々に死んじまうなんてなぁ……。

 でもよぉ。

 きっとアイツは満足して死ねたんだと思うぜ?

 

 そりゃあわかるさ。

 アイツは格好つけて、つけてつけてつけまくって死んでったんだ。正直、嫉妬しちまったよ。

 ワシはあの戦争では死ねず、今もこうして生き続けてんだからなぁ。

 ん?アイツの戦死が予想より早かったのが誤算だったのかって?

 違う違う。

 確かにアイツの戦死は予想外だったらしいが、円満の嬢ちゃんの誤算はアイツの戦死じゃねぇんだよ。

 円満の嬢ちゃんの誤算はその後、アイツの生きる目的になってたあの子が……ってなんだ、言わなくてもわかってんじゃねぇか。

 そうだよ。

 アイツの死は悲しい出来事だったが、その後の出来事は、円満の嬢ちゃんにとって誤算は誤算でも嬉しい誤算。

 生で見れなかったのが残念だが、ワシはボケても、あの瞬間を忘れる事はねぇだろうなぁ。

 だってよぉ。

 ドンキホーテに憧れてた少女が、本物の勇者になった瞬間だったんぜ?

 

 ~戦後回想録~

 元ワダツミ艦長へのインタビューより。

 

主要キャラ人気投票

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  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
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