大和の第一印象?
あ~……控えめに言って最悪だったわね。
着任時のテロリストによる襲撃は彼女を狙ったものだったし、鎮守府に着いて早々に円満さんを怒らせるし……。
あの後大変だったんだから。
円満さんって体形、特に胸の大きさにコンプレックス抱えててさ、異常なくらい怒るし泣くの。
あれは…去年私が改二改装を受けた日の夜だったかな。円満さんと一緒にお風呂に入ったんだけど、私の方が大きい事に気づいた途端に軽く発狂したのよあの人。「同じ満潮だったのにぃぃぃぃ!」って。
あ、知らなかった?円満さんって私の先代、二代目駆逐艦満潮だったの。
だから余計にショックだったんでしょうね。それ以来、私と一緒にお風呂に入ってくれなくなったわ。
話が逸れちゃったわね。
大和が着任したあの日、色々と雑事を済ませて一緒に円満さんの部屋に戻ったんだけど、部屋に入ってドアを閉めると同時に円満さんは膝から崩れ落ちてガチ泣きし始めたわ。
いやぁ、円満さんが泣くところは何回か見てるけど、あそこまで本気で泣いてる円満さんを見たのはあれが初めてだったわね。
何がそんなに悲しかったのかって?
そりゃあアレよ。大和に言われた「ニューハーフの提督さんとは驚きました」ってセリフが、円満さんの心にクリーンヒットしたの。
たしかに円満さんの体は凹凸に乏しいけど、それでも女性らしい恰好をすれば女性にしか見えないし、声や仕草も女性そのもの。士官服を着てても10人中9人は女性と答えると思うわ。
それなのにニューハーフ扱いだもん。悲しかったと言うより悔しかったんでしょうね。
その日の夜は泣き疲れて眠るまで、私にしがみ付いてずーーーっと!泣いてたから……。
~週刊 青葉見ちゃいました!~
駆逐艦 満潮へのインタビューより抜粋。
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「本当に、コレじゃなきゃダメなんですか?」
「当り前だ。大和型の制服だからな」
「でもコレ……」
着任から一夜明けた朝、私は一緒に住むようにと言われた大和型戦艦の二番艦、武蔵さんが部屋に持って来た制服を着た自分を姿見で見て愕然としました。
上は体のラインにフィットした前留め式の紅白のセーラー服で、首元にはスカーフではなく金の注連縄状のもの。手のひらを半分覆い隠すほど長い袖口の袖は肩が露出してて、脇下で胴と繋がっています。冬は寒そうですね……。
下は赤のミニスカですが、両腰の部分が作った人の正気を疑うほど露出してて紐パンの紐が見えちゃってます。さらにその紐に、何の意味があるのか全くわからない錨型の飾りが掛けられています。
靴下は左右非対称の紺ですし、武蔵さんみたいに痴女としか思えない格好じゃなくて少し安心しましたけど、見た目は完全にコスプレイヤーです。やはぎんの格好をコスプレじみてると思った罰なのでしょうか……。
「さて、
「迎え?」
お迎え?何のお迎えでしょう。また金髪さんと海坊主さんに連れられて何処かに行くのかしら。
けど、何処かへ行くのは構わないんですが、この格好を殿方の視線に晒すのはちょっと……。上から何か着ちゃダメかしら。
「コートか何かあります?」
「このクソ暑いのにか?今日は気温が高いから、風邪を引く心配などしなくていいだろう?」
いや、風邪の心配なんて欠片もしてないんですけど……。今までの人生で一回も引いた事がありませんし。
たぶん武蔵さんは、普段からこんな格好だから羞恥心が蒸発してしまっているんでしょうね。お可哀そうに……。
それとも、この痴女としか思えない恰好は武蔵さんなりのストレス発散の方法なのでしょうか。
いえ、きっとそうですよ!この属性のごった煮としか言えない外見は、武蔵さんのストレスが増える度に追加されて行ったんだわ!とすると、次はサラシではなくスクール水着(旧型)を着込む可能性もありますね。もしくは、本当に存在してたかも疑わしいブルマと呼ばれる運動着!
さすがにそれはマズい!それはもう痴女なんてレベルじゃありません!誰かに見られたら即通報&逮捕です!
「武蔵さん。逮捕される前に相談してください……。私達は血の繋がりこそないですが姉妹になったんですから」
「お前は何を言ってるんだ?私は逮捕されるような事などしていない」
自覚無しですか……。
鎮守府という閉じた環境に居るせいで、自分が如何に変態チックな格好しているか気づけないのですね。
『失礼します!駆逐艦 朝潮、大和さんのお迎えに参りました!』
武蔵さんにどうやって自分が属性という概念がゲシュタルト崩壊しそうな格好をしてるかわからせる方法を思案していると、コンコンというノック音の後に幼いながらも真面目さが感じられる声がドア越しに聞こえてきました。
「朝…潮……?」
そう口に出した途端、胸の鼓動が跳ね上がりました。
聞き覚えのある名前。だけど記憶にはない名前。なのに懐かしく、愛おしささえ感じる名前。
気づいたら、私はドアを開けていました。まるで、私以外の誰かが勝手に体を動かしてそうしたように。
「あ、お初にお目に掛かります!本日、鎮守府の案内役を仰せつかった駆逐艦 朝潮です!」
ドアを開けた先に居たのは、腰にかからない程度の長さの黒髪と蒼い瞳をした11~2歳位の少女。半袖のカッターシャツに吊りスカートの出で立ちは完全に何処かの小学生みたいです。
だけど、彼女を見た瞬間に感じたのは落胆。私は何故か、『違う』と思ってしまったんです。
私が会いたかった彼女にとても良く似てるのに、私の本能とでも言うべきものが『この子は違う』と言っています。
「ど、どうかされましたか?」
「え?いえ!何でもありません!」
いけないいけない。呆けている場合じゃなかったわ。
え~と、武蔵さんが言っていた迎えとはこの子の事で、この子に連れられて向かう先は鎮守府全体。私はこの子と一緒に、今から鎮守府内を旅行すると言う事ですね。
「着替えは何泊分必要でしょうか?」
「要るわけないだろう……。鎮守府内を見て回るだけだぞ」
わかりませんよ?昨日、空の上から見た感じではかなりの広さが有りましたもの。迷子になって野宿する羽目にもなりかねません。
「テントも必要ですね!」
「野宿でもする気か!?バカな事言ってないでサッサと行って来い!」
む~っ!バカな事とは何ですかバカな事とは!武蔵さんは危機意識が低すぎます!
いくら案内役が居ると言っても、ふとした事で道を見失うかも知れませんし、私一人がはぐれる可能性だってあります。
そんな時に、何も持ってなかったら私は最悪の場合死んじゃいますよ!春とは言え夜は冷えるんですから!
「なるほど、大和さんは私とはぐれて遭難した場合を想定しているんですね」
「そう!そうなんです!わかってもらえて嬉しいです!」
「いえ、私もそこまで考えが至らず、申し訳ありませんでした」
良い子!でも、朝潮ちゃんがそこまで気にしなくて良いんですよ?
ほらほら、そんなに深々と頭を下げてないで上げてください。私が申し訳ない気分になってしまいます。
「ですが困りましたね……。今からでは道具を準備する時間が……。そうだ!武蔵さん!紐はないですか?」
「何に使うのか知らないが、ロープなら有るぞ」
そう言って武蔵さんが懐から取り出したのは、言葉通り直径1cm程の綺麗にまとめられたロープ。ええ、ロープとしか言いようがありません。誰が何と言おうとロープです!
何故、そんな荷造りをする時くらいにしか役に立ちそうにない物を携帯していたのかはツッコまないであげます!
「少し…いや、だいぶ長いですね……。3mも有れば十分なのですが」
「好きな長さに切って構わないぞ。別にロープが無くてもインシュロックがあるし」
だから、なんでそんな物を携帯してるんですか?嫌な想像しか浮かんでこないんですけど。
「まさか…手錠や鎖まで持ってないですよね?」
「良くわかったな。必需品だ」
何の!?何をするのにそんな物が必要なんですか!?いえ、言わなくても良いです。だいたい想像はついてますから。問題は誰対して使うかです!
「よし!これだけ有れば十分です!武蔵さん、ありがとうございました」
「気にするな。そろそろ買い換えようか迷っていたんだが、おかげで踏ん切りが着いたよ」
「そうだったんですか。いつも武蔵さんには助けて頂いてばかりで申し訳ないです……」
「それこそ朝潮が気にする事じゃない。バカな先輩を押さえ付けるのは後輩の役目だよ」
なるほど、この鎮守府には朝潮ちゃんを襲う不届き者が居て、それは武蔵さんの先輩に当たる人なのですね。その人を拘束するために、ロープやインシュロックなどを携帯していると……。
けど、朝潮ちゃんみたいな幼い子を襲う危険人物が普通に生活してるなんて……。この鎮守府、大丈夫ですか?
「大和さん、ちょっと屈んでもらってよろしいですか?」
「あ、はい。何をするんですか?」
「大和さんが私とはぐれないようにする対策です」
私が朝潮ちゃんの頭を同じくらいの高さまで身を屈め…と言うかほとんどしゃがむと、朝潮ちゃんは私の首に武蔵さんから貰ったロープを一巻き。首が締まらない程度の空間を開けて縛りました。
「なるほど!これならはぐれる心配はありませんね!」
「いや…お前が良いなら良いが……。オブラートに包んで言うと犬の散歩だぞ」
「何か問題でも?」
「問題しかないと思うが?」
はて?武蔵さんは何が問題だと言うのでしょう。
首にロープを巻かれた私と、そのロープの先を持つ朝潮ちゃんの姿を例えるなら大型犬とその可愛い主人。なんとも微笑ましい光景じゃないですか。
「逆の方が良かったですか?」
「逆は絶対にやめろ!即座に憲兵が飛んでくるぞ!」
朝潮ちゃんの言う今の逆……。それは朝潮ちゃんの首にロープを巻き、私が先を持って引っ張ると言う事ですか?それとも、首にロープを巻いた朝潮ちゃんが先行して私が端を持ってついて行く?
どちらにしても微笑ましい光景だとは思いますが、朝潮ちゃんと私の対格差を考えると朝潮ちゃんは小型犬。散歩の時は抱っこですね!
「朝潮ちゃん!抱かせてください!」
「お前は何を言ってるんだ!?通報されたいのか!?」
「え?大和さんが仰る通り、小型犬をお散歩させる時は抱っこしませんか?」
「犬ならな!?犬なら全く構わないがお前たちは人間だろ!?」
「「私たちが犬に見えますか?」」
「見えないから言ってるんだよ!もういい!さっさと行け!」
「きゃっ!ちょっと……」
痛いですねぇ。何に怒ったのか知りませんけど、お尻を蹴って部屋から追い出す事ないじゃないですか。おかげで朝潮ちゃんを押し倒してしまいました。
「朝潮ちゃん。大丈夫ですか?」
「はい…私は大丈夫ですけど…そのぉ……」
「あっ!ごめんなさい!すぐ退きます!」
咄嗟に飛びのいたは良いですが、気まずい雰囲気になってしまいました……。朝潮ちゃんも同じ気持ちなのか、頬を赤らめて私をチラチラと覗っています。可愛い……。
「そ、そろそろ行きましょうか。
「は、はい!行きましょう!どこから案内してくれるんですか?」
「そうですね…まずは外にある工廠と酒保を回って、それからお昼を食べて執務室に行ってから庁舎内を案内します」
なるほど。効率を最優先に考えた案内ルートだわ。最初に感じた通り、真面目な子なんですね。
「ん?」
「どうかされましたか?」
「いえ、何でもありません。たぶん気のせいです」
寮から外に出た途端、誰かの視線を感じたような気がしたんですが……。やっぱり気のせいですよね。視線以外の気配は感じませんでしたし。
「ところで やはぎん……。矢矧は一緒に回らないんですか?」
「矢矧さんは顔見せも兼ねて、同じ水雷戦隊を組む事になってる子達が案内する予定です」
あら残念。やはぎんとは別行動ですか。
スイライセンタイとやらが何なのかわかりませんが、『組む』と言うくらいですからゲームで言うパーティとかそんな感じのモノなのでしょう。ん?と言う事は……。
「私は矢矧と同じスイライセンタイではないと言う事ですか?」
「え?大和さんは戦艦ですから水雷戦隊ではなく、武蔵さんと同じ第一戦隊ですよ?」
「そう…ですか……」
大丈夫かしら……。やはぎんは怒りっぽいから、組む事になる子と上手くやっていけるか心配で仕方ありません。私のように穏やかな性格なら何の問題もないのでしょうけど……。
「ここが工廠になります。艤装の整備や保管、艦娘の治療をここで行います」
「二つまとめて工廠と呼んでいるんですか?」
「はい。隣の白い建物は艦娘を治療する治療施設です。病院と呼ぶ子もいますね」
やはぎんの心配をしながら、朝潮ちゃん連れられて訪れた先に有ったのは学校の体育館のような形をした建物と、すぐ隣に併設された白壁の病院みたいな建物でした。
ここで艤装を装着して、左手に見える桟橋などから海に出るわけですね。
「ここから西に行くと『倉庫街』と呼ばれている区画に行けるんですが……。そこは艦娘にはほとんど関係ありませんので今回は割愛します。ただ……」
「ただ?」
「カレー屋さんと喫茶店があるのですが……。質の悪いトラップもあるんです」
「トラップ!?どうしてそんな危ない物が鎮守府内に仕掛けられてるんですか!?」
朝潮ちゃんの顔が悔しさで歪んでいます。もしや、お友達がトラップの被害に?
「理由はわかりませんが、この鎮守府が設立された頃からあるそうです。あの駆逐艦を狙ってるとしか思えないような罵詈雑言が書かれた看板トラップは」
「看板トラップ?」
「はい。私が引っかか…知ってるだけでも3カ所あります。その悉くが私の…じゃない。引っ掛かった子のメンタルを粉々にしました」
可哀想に……。必死に隠そうとしてますが、朝潮ちゃんはそのトラップに三回も引っ掛かったんですね。
その時の事を思い出したのか、口をへの字にして瞳には涙を浮かべています。
どんな罵詈雑言書かれていたのか気にはなりますけど、朝潮ちゃんの様子を見てしまった後では聞けませんよねぇ……。
「気になり…ますか?」
「え!?そりゃまあ…少しだけ……。いやいや!やっぱりいいです!だって言いたくないのでしょう!?」
「そう言って頂けて助かりました……。正直、思い出すだけで舌を噛み切りたくなりますので……」
嘘です。すっごく気になります。
真面目な朝潮ちゃんを、思い出しただけで悔しがらせる文言とは如何なるものか気になるのは当たり前です!
だって朝潮ちゃんが涙ぐんだフレンチブルドックみたいな顔でプルプルしてるんですよ!?何ですか、この可愛いにステータスを全振りした生き物は!
「それでは、次は酒保へご案内します。大抵の物は酒保で揃うくらい品揃えが良いんですよ」
次に、気を取り直した朝潮ちゃんに案内されたのは酒保と呼ばれる売店……。売店です…よね?小型のスーパーマーケット程の大きさがありますけど…売店と呼ぶには些か大きすぎる気がします。
「大和さんはお酒を飲まれる方ですか?」
「いえ、飲んだことありません。まだ未成年なので……」
「お酒が飲める年齢になったらお酒のコーナーに行ってみてください。お酒好き垂涎の品揃えだそうですよ」
「お酒のコーナー?」
「はい。先代の司令官の頃からそうだったらしいんですが、この酒保のお酒の品ぞろえは街の酒屋さん以上だそうです。今の司令官になってからは女性が好むお酒の種類も増えたそうですよ」
「朝潮ちゃんはお酒を飲むんですか?」
「いえいえ!私は飲めません!私はまだ12歳になったばかりですので」
小学生と変わらない年齢……。それなのに、こんな軍事施設で艦娘として働いているなんて……。そういえば、駆逐艦になる子は戦災孤児が大半だと噂で聞いた事があります。もしかして朝潮ちゃんは……。
「朝潮ちゃん、その…親御さんは……」
「それは…次に案内する場所に着いてから話しましょう」
酒保を後にした私と朝潮ちゃんが次に向かったのは庁舎の東側。海を背にするように建てられた、高さ3メートル程の石碑でした。
これは…慰霊碑でしょうか。石碑には大きく『平和を願った英雄達の碑』と彫られ、その下に小さな文字が並んでいます。これが慰霊碑だとすると、下の小さい文字列はたぶん……。
「開戦から今までに戦死した、この鎮守府に所属していた艦娘の艦名と本名が彫られた慰霊碑です」
「こんなに……。亡くなったんですか?」
掘られた戦死者の名前は、ざっと数えただけで200は超えているように見えます。
戦争で200人程度の戦死者なら少ないと思ってしまいそうですが、これはあくまで横須賀鎮守府に所属していた艦娘だけ。日本全体で見ればもっと多いのでしょうし、艦娘が投入される前は普通の軍人さん達も戦っていたはずです。これを見てるだけで、痛ましい気持ちになってしまいますね……。
それと同時に、私もここに名前が彫られ事になるじゃないかと思うと少し怖いです。
「先ほど、私の親について聞かれましたよね?」
「はい…でも答えたくないのなら……」
「あ、申し訳ありません。誤解させてしまったみたいですが、私の両親は健在です」
「そ、そうなんですか!?良かったぁ……。けど、だったら何故艦娘に?」
「私の家はあまり裕福ではなくて……。その、金銭面で親に迷惑を掛けたくなかったんです。艦娘になればお給料も頂けますし、仕送りで親を助ける事ができます。端的に言うと……お金目当てです」
朝潮ちゃんはバツが悪そうに笑っていますが、恥じる必要は全くありません。お金目当て?それの何が悪いんですか!朝潮ちゃんの歳で、金銭面で親を助けようと考えれる子供はそうそういません!立派です!
「立派な理由じゃないですか!卑下して言う事ありません!」
「ありがとうございます。けど、親には猛反対されまして……。ほとんど勘当同然で艦娘になったんです。お金は毎月仕送りしてるんですけど、ちゃんと受け取ってくれているかどうか……」
「受け取ってくれてるに決まってます!猛反対したのだって、朝潮ちゃんを想っての事のはずです!だから…そんなに悲しそうな顔をしないでください……」
「はい。だから、私はこの慰霊碑に名前を刻まなくて済むように頑張るつもりです。死んでしまったら、それこそ両親に申し訳ないですから……」
そう言った朝潮ちゃんの視線を追うと、『駆逐艦朝潮』の艦名とその本名を見つけました。これはどう言う事?朝潮ちゃんは私の隣に居るのに、どうして朝潮ちゃんの名前が慰霊碑に掘られているのかしら。
まさか朝潮ちゃんは幽霊!?いやいやいやいや、武蔵さんとも会話してましたし、ロープを首に繋いでくれてる時に体温も感じました。間違いなく、朝潮ちゃんは生きてます!
「ここに掘られている朝潮は、一番最初に朝潮になった方だと伺っています」
「一番最初?」
「はい。私は三代目なんです」
あ、なるほど。つまり、ここに居る朝潮ちゃんより前に朝潮だった子の名前が彫られてるんですね。
三代目と言う事は……朝潮ちゃんの前に朝潮が二人居たと言う事ですよね?ここに掘られているのが初代朝潮なら、二代目はどこに?
「先代のお二人は凄い人たちだったと色んな人たちから聞かされました。初代朝潮は、横須賀鎮守府に迫った敵艦隊の旗艦をその命と引き換えにして中破に追い込み、艦隊ごと撤退させて鎮守府を守りました。二代目朝潮は艦娘史上最強と言われる程強く、四年前のハワイ島攻略戦で戦艦水鬼を単独で撃破したそうです」
「戦艦を単独で?それは…やっぱり凄い事なのですか?」
「凄すぎます!駆逐艦が戦艦を単独で倒すなど普通なら不可能に近いです!しかも!二代目が倒したのは姫級を凌ぐ水鬼級の戦艦!神業と言っても過言ではないです!」
朝潮ちゃんは興奮しているのか、ピョンピョンと飛び跳ねながら凄い凄いと連呼しています。
そっか~凄いのか~。私はそういった知識がまるでないので、駆逐艦が戦艦を単独で倒すのがどれだけ凄いのかまったく想像できません。
「その二代目さんは今どちらに?」
「今は大本営にお勤めだと聞いています。本当なら今年で四年の任期が終わる予定だったのですが、何かの実験のために三年目で解体を行ったらしいです。それがなければ、私はまだ朝潮になれていませんでした」
実験と聞くと、どうしても嫌なイメージしか湧いて来ませんね……。大本営と言う場所に勤めていると言うくらいですからご壮健なのは確かなんでしょうけど。
「朝潮ちゃんは私の…『戦艦 大和』の先代はどのような人だったかご存知ですか?」
「大和さんのですか?大和さんに先代はいらっしゃいません。『戦艦 大和』の艤装と適合したのは大和さんが初めてです」
私の前に大和だった人は居ないのですか……。少し寂しい気もしますね。
けど、どうして居なかったのでしょう?大城戸さんは『適性のある子が艤装に空き待ち状態』だと仰ってたのに、私は起きたら大和になっていました。これでは理屈に合いません。
それに…眠る前に誰かの声を聞いたような……。
「大和さん?」
「あっ!ごめんなさい!ボーっとしてしまいました!」
どうしてでしょう。あの夜の事を思い出そうとしたら意識が遠のいていくような感じがしました。遠のくと言うよりは引っ張られるのが近いのかしら?まるで、意識の底に引き込まれるような……。
「あ、そろそろお昼ですね。食堂に行きましょう」
「え?もうそんな時か……」
「どうかされましたか?」
朝潮ちゃんと寮を出た時からずっと感じていた視線を一際強く感じました。すぐに消えましたが、今度は怒気を孕んだ気配までハッキリと。
「いえ、その…やっぱり誰かに見られているようで……」
「誰かに?私たち以外、誰も見当たりませんが……」
朝潮ちゃんが言うように、見える範囲には居ない。少し違うかしら、居ない様に見えるが正しい気がします。だって、視線はすぐ近くから感じますもの。距離にすると三メートルも離れていないと思います。
恐らく、私達の死角へ常に移動しているんでしょう。足音はおろか、動く気配すら感じさせずに。
「この鎮守府には怖い人が居るんですね」
「怖い人……ですか?」
おっと、つい口に出してしまいました。たぶん監視でしょうから危険はないでしょうけど、覗かれるのはあまりいい気分ではないので移動しましょう。朝潮ちゃんを怖がらせる訳にもいきませんし。
「いえ、独り言です。それより、昼食は何を食べるんですか?」
「え~と、今日は金曜日ですので……」
朝潮ちゃんを促して移動を開始し、なんとか話を逸らす事には成功しました。
それにしても彼、もしくは彼女は、私と朝潮ちゃんのどちらを監視しているんでしょう?朝潮ちゃんを監視するとは考え辛いので私でしょうか。
けど、監視されるような事なんてした覚えが……。
「あ…もしかして……」
武蔵さんと朝潮ちゃんの会話で、朝潮ちゃんを襲う不届き者が居るという情報は入手しています。
まさか、監視者はその不届き者?だとすると、監視されているのは私ではなく朝潮ちゃんと言う事に成ります。少しカマを掛けてみますか。
「朝潮ちゃん。ちょっと失礼しますね」
「え?何で…ちょっ!大和さん!?」
私は朝潮ちゃんをお姫様抱っこしました。
あ、一応断っておきますが、このまま朝潮ちゃんをお持ち帰りしようとしてる訳ではありません。私達の背後から視線を飛ばしている不届き者(仮)の反応を見るためにあえてお姫様抱っこしたんです。
小さくて柔らかいなんて思っていませんし、頬ずりしたくなるほど可愛いだなんて思っていません。ええ、思っていませんとも。
「やはり…目当ては朝潮ちゃんでしたか」
「私…ですか?」
私が朝潮ちゃんをお姫様抱っこした時、ほんの一瞬ですが、監視者が動揺したように感じました。飛び出すのはなんとか堪えたようですが、居場所も大まかに把握しました。
「……引き上げた…かな?」
「だ、誰がですか?」
「わかりません。ですが……」
相当の手練れと見ました。今は視線も気配も感じませんので、私が居場所に気づいたのを察して一旦距離を開けたのでしょう。
実際に対峙してみないとハッキリ言えませんが、お爺様との組手くらいしかした経験のない私では勝てないと思います。朝潮ちゃんが逃げる時間位は稼ぐつもりですが、出来る事ならやり合いたくありませんね。
「あ、あの…大和さん……。そろそろ……」
「あっ!ごめんなさい!すぐ降ろしますね!」
相手の目的を確かめるためとは言え、朝潮ちゃんをお姫さま抱っこした事で変な空気になってしまいました。
朝潮ちゃんも、耳まで顔を真っ赤にして目を合わせてくれません。凄く気まずいです……。誰でもいいですから、この空気をぶち壊してくれないかしら……。
「あー!やっと見つけました!大和さんですよね!?」
なんと都合の良い!
気まずいまま朝潮ちゃんと寮へ向かっていたら、入り口から青いセーラー服にキュロットという出立の少女が大声を上げてこちらに走ってきました。首からは大きな一眼レフカメラを提げていますね。
「ども!恐縮です。青葉ですぅ!いきなりですが、一枚よろしいですか?」
「え?写真ですか?構いませんけど……」
と言うと、青葉と名乗った少女は、頬をポリポリ掻いてどう反応するべきか困っていた私をバシャリ!とカメラで撮影しました。
先に言った通り、写真に撮られるのは構わないんですけど、もう少しまともな顔を撮ってほしかったですね。
「朝潮ちゃんも一枚どうですか?」
「お断りします。どうせ長門さんに売るつもりなのでしょう?」
「あ、バレてました?朝潮ちゃんの写真と言うだけで、長門さんたらアホみたいにお金出してくれるからいいお小遣い稼ぎになるんですよ♪ちなみに今、脂汗を流しながら青ざめる朝潮ちゃんってリクエストを頂いてまして……」
「本当にやめてください!この間部屋に連れ込まれて初めて知りましたが、あの人自室の天井一面に私の写真を張ってるんですよ!?」
「愛されてますねぇ♪女冥利につきるじゃないですか♪」
「恐怖しか感じませんでしたよ!人を気持ち悪いと思ったのは生まれて初めてでした!」
ふむ、天井一面に張り付けるのはやり過ぎだと思いますが、朝潮ちゃんを愛でていたいという気持ちはわからなくもないです。個人的には、写真を愛でるより実物を愛でていたいですが、それは現実的ではありません。
例えば人形。それも、大きさもディテールも実物に近い人形が好ましいです。
「フィギュアは取り扱っていないのですか?」
「え?フィギュア?さすがにそれは……」
「そうですか。それは残念です」
本当に残念……。もし発売されたら恥も外聞もなく買いに行くのに……。
仕方ない。朝潮ちゃんの姿を目に焼き付けて木彫りで作りましょう。
こう見えて手先は器用なんです。家が田舎だったのもありますが、小さい頃は娯楽が少なかったから木彫り細工を作って遊んだりしてたんです。塗装は誰か得意そうな人を探しましょう。
「ま、まあ、フィギュアの件はとりあえず置いといて、少しだけ取材に付き合って貰ってよろしいですか?」
「ダメです。昼食の時間が無くなってしまいますので」
「朝潮ちゃんはお堅いですねぇ。少しで良いんです!ほんの数分で良いですから!」
「ダメです!また有る事無い事ごちゃまぜにして壁新聞に載せる気でしょ!」
「良いじゃないですか!それが生き甲斐なんです!だから取材させてください!」
う~ん……。
気まずい空気をぶち壊してくれた事には感謝していますが、有る事無い事書かれるのは遠慮したいですね。かと言って、このまま二人が言い争いをしていたらお昼ご飯を食べる時間が本当になくなってしまいます。ならば……。
「青葉さん…でしたよね?青葉さんも昼食をご一緒しませんか?その時に、取材にも答えられる範囲でお答えします」
「良いですね!それでいきましょう!」
「や、大和さん!本当によろしいんですか!?」
「ええ、構いません。他の艦娘さん達と仲良くなるチャンスですし」
例え有る事無い事書かれようと問題ありません。
だって昔、お爺様は周りから浮いていた幼い私にこう仰いました。「言わせたい奴には好きに言わせておけ。周りが何と言おうと、友達はお前の傍に居てくれるもんだ」と。
結局、地元に居る間にそういう人とは巡り合えませんでしたが、私は今でもお爺様の仰った事を信じています。
それに……。
「目に余るようなら……」
「え?何か仰いましたか?」
「いえ、何でもありません。さあ、食堂に参りましょう♪」
潰してしまえば良い。
そう続けようと思ったのですが、口に出す事はしませんでした。だって朝潮ちゃんが傍に居ますし、私的にもそれは本意ではありません。
ですが、この時ふと思いました。
私…こんなに好戦的な性格だったかしら……って。
ホント…朝潮のフィギュアがあったら買いに行くのに……。
買った事無いからどこで買ったらいいのかわかんないけど(ノω・、) ウゥ・・・
主要キャラ人気投票
-
朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
-
大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)