武蔵さんの戦いぶり?
それはどちらの武蔵さんですか?初代?それとも二代目?
まあ、どちらでも良いですね。
だって、武蔵の名を名乗った二人は二人とも、あの戦争を勇猛果敢に戦ったんですもの。
ええ、格好良かった。どちらも格好良かったです。
でも、リグリア海戦で敵を沈めまくった二代目武蔵には悪いと思いますが、戦艦の矜恃を見せつけて散っていった初代武蔵さんの散り様の方が格好良かったと思っています。内緒ですよ?
今でもたまに、アレが滅びの美学というヤツなんだろうなと、思い出すことがあります。
不謹慎極まりないですが、動けなくなった私達の盾になってくれた彼女を見て、私はこう思ってしまったんです。武蔵さんが男だったらよかったのにって。
ええ、私はノンケでしたから。
でも、あの時にそんな事を考えていた自分に、『馬鹿め』と、言ってさしあげたい気分になることがたまにありますよ。
~戦後回想録~
元重巡洋艦 高雄へのインタビューより。
ーーーーーーー
「金剛より入電。我、補給の必要あり。繰り返す。補給の必要あり。です」
「10分で良いから踏ん張らせて。明石、第二主力艦隊の補給状況は?」
『あと1分ください!』
「わかった。2分あげるから急いで。それが終わり次第出撃させて」
『了解しました』
敵本隊との交戦が始まって丸二日。
予定通り西に誘導を成功させた私達は、今度は北、エンガノ岬沖に誘引しようと攻撃と撤退を繰り返していた。
今、私こと長門は、状況を把握するためにブリッジを訪れている。断っておくが、けっして暇だからではないぞ?
「第三波の位置は?」
「ほぼ変わっていません。今だに、ミンダナオ島やや東に停滞しています」
予想はしてたが、管制官は聞きたくない予想通りの答えを提督に返した。
第一波でこちらの戦力上限を探ってるのか?それとも、単に第一波が私達を突破するのを待っている?
「提督、どうするのだ?」
「ちょっと待って、考えてるから」
そう言って、提督は顎に右手の親指を当て、瞼を閉じて熟考し始めた。
こういう姿を見ると、もう艦娘ではないんだなと痛感してしまうな。艦娘だった頃は、考えるより先に行動するような印象を抱かせる子だったのに。
「長門、第一部隊はすぐに出れる?」
「当たり前だ。赤城たちが仕掛けてからこっち、全員待機ルームに詰めている」
「……無理を。いえ、厳しいことを言っても良いかしら」
「構わん。言ってくれ」
提督がそんな断りを入れてくると言う事は、今から相当な無茶を言うつもりなのだろう。
それこそ、中破や大破を出しながらも、順調に戦ってきた私達の中から戦死者が出るほどの無茶を。
「今晩、西村艦隊がスリガオ海峡の突破を敢行する手筈になってるのは知ってるわよね?」
「ああ。私達が敵の誘引に手こずっている事もな」
「なら話が早いわ。第三波を北に誘引するには、その旗艦である混沌を焦らせる。もしくは怒らせる必要がある」
「なるほど、つまり……」
私達第一部隊が行うのは敵第一波の旗艦、深海鶴棲姫の撃破か。
確かに、第一波の前衛を沈める端から第二波の艦を補充として送られている現状で、最後尾にいる敵旗艦を撃破するのは至難の業だ。
「提督、少し外に出れるか?」
「今ここを離れるわけには……」
「いかないのはわかっている。だがどうしても、聞いておかなければならない事がある」
珍しく、渋面を浮かべて提督が悩んでいる。
悩んでいるのは、私が聞きたいことなどお見通しだからだ。それを、答えなければならないがここで言う訳にはいかないからだ。
「行って来いよ嬢……じゃねぇ提督。何かあればすぐに呼ぶからよぉ」
「でも……」
「今の状況じゃあ、敵が艦隊を一発で吹き飛ばすような爆弾でも使わねぇ限り大きな変化はねぇよ。それくらい、お前ぇさんならわかってんだろ?」
艦長に諭されて、提督は何かあったらすぐに知らせるよう管制官に命じて席を立った。
小さいな。
私は女の割に大柄な方ではあるが、提督はその私の下乳辺りまでの身長しかない。肩幅など私のウエストと同じくらい……。と言ったら私が太っているみたいに聞こえるからやめておこう。
兎に角、提督はこんな華奢な体で、作戦に参加している全ての艦娘。いや、人の命を背負っているのだな。
「私が聞きたいこと。わかっているのだろう?」
「ええ、誰が死ぬのか。ね?」
ブリッジから出た廊下で、私は出し抜けにそう言った。
提督は今の状況も予想していたはずだ。
悩んでいたのはどうしたら良いかではなく、予定通りに実行するかどうかだったはず。
私が聞きたいことをわかっていたのがその証拠だな。
「清霜はほぼ確実。場合によっては、能代、沖波、島風も……」
「そう、か……」
前衛を務める艦隊から四名も……。
しかも、武蔵のカンフル剤として編成された清霜が確実に……か。
だから提督は、ギリギリまで実行に移すのを踏みとどまっていたのだな。
「提督。一つお願いがある」
「何?」
「私が合図したら、明石をすぐに私達のもとへ来させてほしい」
「明石を?でも洋上で出来る修理なんて高が知れ……」
また顎に右手の親指を当てて考え始めたな。
頭の良い彼女のことだ、恐らく私がしようとしている事に気づいたのだろう。
「わかった。護衛をつけて洋上で待機させておく」
「ありがとう。これで最悪の場合、アイツも浮かばれる事になるはずだ」
「
「わかっているさ。
無言で目を逸らすのは肯定してるのと同じだぞ提督。
私自身、誰も死なずに作戦を完遂出来た方が良いと思っている。だが、システムに守られているゲームならいざ知らず、現実の世界のこの規模の作戦でそれは不可能だ。
それこそ、神のような采配が必要になる。
「提督。いや、円満。気負いすぎよ。少しは肩の力を抜きなさい」
「今はそんな気を抜くような事……。って、長門?」
「あら、キャラが変わったのに驚いた?見せるのは初めてだけど、どちらかと言うとこっちが私の素なの」
戦艦としての威厳を保つために被り続けてきた『長門』の仮面。それを、友人達の前以外で初めて外した。
高圧的な『長門』より、気が弱く臆病な『私』の言葉の方が円満の心に響くと思ったから。
「貴女が満潮だった頃から思ってたけど、貴女は何でも一人で解決、いえ、背負い込み過ぎよ。少しは人を頼りなさい」
「……似たような事を、恵にも言われた」
「ふふ♪頭が良すぎて馬鹿。とも言われなかった?」
「そこまではさすがに……。いや、馬鹿とは言われたか」
少し、力が抜けたかな?表情も若干柔らかくなった気がする。
「随伴艦を死なせるのは旗艦の責任でもある。だから、私も一緒に背負うわ。貴女一人が気に病む必要はない」
「でも……」
「でも、じゃない。貴女は少しバカになりなさい。このままじゃ貴女、目的を果たす前に潰れるわよ?」
「それはわかってます!だけど……!」
最期まで言わずに黙ってしまったけど、自分が立てた作戦で死んで逝った者達を想わないなんて事は出来ない。って感じのことを言おうとしたんでしょうね。
まったく、優しすぎるこの子にこんな思いをさせるなんて、元帥も罪な人ね。
「え?ちょ、長門……さん?」
「黙って深呼吸しなさい。そう、ゆっくりで良いから」
私は円満を抱きしめ、頭を撫で始めた。
別に欲情したわけじゃないわよ?小さな体で無理をしている円満を見てたら、こうせずにはいられなくなったの。
「こうされると、意外と落ち着くものでしょう?」
「……うん。お母さんみたいな匂いがする」
「ふふ♪子供は産んだことないけど、そう言われると嬉しいわ」
それと同時に、懐かしいとも思う。
もう10年以上前、艦娘になる前の教師をしていた頃。
生徒が「お母さん」と呼び間違う度にキョドちゃってた、遠い日の事が。
「満潮じゃ、コレは出来ないでしょ?」
「うん……」
円満の肩が小刻みに震えだし、声も若干うわずってる。きっと、泣いているのね。
私に抱きしめられた事で、溜め込んでいたモノが溢れたんだわ。
「ありがとう。もう……大丈夫だから」
そう言って、両腕で私を引き剝がすように円満は私から離れた。
やはり泣いていたのね。必死に誤魔化そうとしているけど、赤く腫れた瞼を見れば一目瞭然だわ。
「また、して欲しくなったら来なさい。空いてる時ならいつでも良いから」
「うん、わかった」
素直になったものね。
満潮だった頃の貴女なら「はぁ!?意味分かんない!」とか「調子にのらないで!」などと言ってただろうに。
その円満が素直に甘えられるようになり、そして今、佇まいを正して私に命じようとしている。
この作戦を次の段階へと進める一手を。
「第一遊撃部隊第一部隊旗艦、長門に命じます。敵第一波の旗艦、深海鶴棲姫を撃破しなさい」
「了解した。改装されたこの長門、まだまだ新入りには負けないさ。任せておけ」
私は円満と敬礼を交わし合い、第一部隊の面々が待つ待機ルームへと向かった。
誰も死なずに戻って来る事を願う頭の片隅で、最悪の事態を想定しながら。
「皆、揃っているな?」
「長門さん、何処に行ってたんですか?武蔵が出撃させろ出撃させろとうるさくて困ってたんですよ?」
ワダツミのほぼ中央に設けられた30畳程の広さがある待機ルーム。そこに入室して皆が揃っているかを確認するや否や、大和がぷんぷん!と聞こえてきそうな顔で詰め寄ってきた。
その奥、部屋の中央辺りに目をやると、大和が言った通り武蔵が今にも飛び出しそうなほど身構えていた。
「すまんな大和。提督に命令を貰いに行ってたんだ」
「命令?と、言う事は……」
「ああ、第一遊撃部隊第一部隊は今から出撃する。目標は深海鶴棲姫。敵第一波旗艦の撃破だ」
その一言で、緩んでいた室内の空気が一変した。
無駄に動き回っていた島風が、動くのをやめて生唾を飲み込むほどに空気が重くなった。
「皆、覚悟は良いな?」
私が皆を見回しながらそう言うと、全員覚悟を決めた表情で直立し、敬礼した。
一緒に艦隊を組むのが初めてな子がほとんどだが、全員いい顔をしている。頼もしいかぎりだな。
「では抜錨準備に入るぞ!前衛艦隊は右舷カタパルト、本隊は左舷カタパルトだ!」
「「「「了解!」」」」
ーーーーーーーー
ワダツミから出撃した後は熾烈を極めた。
ああ、ソロモン諸島で奇襲を受けた時よりもな。
補給を受けて再度出撃した第二部隊の支援砲撃や、第三機動部隊による航空支援。その助けもあって、我々第一部隊は敵第一波深奥へと到達した。
それから?
それからは文字通りの死闘だったよ。
敵の編成は、深海鶴棲姫を筆頭に複数の空母棲姫や戦艦棲姫と戦艦水鬼その改良型まで居た。
そうだな。
支援があったとは言え、よく勝てたものだと思うよ。
島風がその速度で前衛艦隊を翻弄し、能代達が横っ腹を晒した奴から順に沈めていった。
私か?
私は当時、火力よりも速度と対空を意識した装備をしていてな。ガラ空きになった敵本隊に突っ込み、空母棲姫と戦艦棲姫を相手にヒットアンドアウェイを繰り返していた。要は、島風と同じ事をしていたのさ。
そして、高雄と愛宕、それに大和と武蔵は隙を突いて砲撃し、涼月は必死に艦載機を落とし、全員一丸となって敵の数を順調に減らしていった。
そうそう、『畳返し』を初めて実戦で使ったのもあの時だな。
何?知らない?
私が先代の朝潮と演習した時に使った技だ……っと、そうか、その頃お前は着任してなかったんだったな。
すまんすまん、青葉はどいつもコイツもパパラッチみたいな事をしてたからテッキリ……な?
でだ、『畳返し』とはな。こう、片脚で浮力を維持しつつもう片方の脚で海面を……。
なんだと?説明しなくていい?
そ、そうか……。
続き?
ああ……続きか。
随伴艦をあらかた片付けた時にはみんな満身創痍だったよ。
能代、 島風、沖波は中破。長波と朝霜は血気盛んだったのが災いして大破。
高雄、愛宕は戦艦水鬼改の砲撃をまともに受けて行動不能。
涼月は、空母棲姫の艦載機を一手に引き受けた代わりに中破の上弾切れ。
大和は実戦経験が少ない割に小破で済んでいたな。
そして、私も中破していた。
それでも、涼月が戦えなくなった以上、私が深海鶴棲姫の放つ艦載機をどうにかしなければならなかったから必死に撃ち続けたよ。
そんな中、幸運にも……。
いや、不幸にもほぼ無傷で済んでいたのは武蔵と清霜だけだった。
そういう状況で、武蔵が何をするかくらい想像がつくだろう?
そうだ。
アイツはここぞとばかりに前に出た。
清霜に格好良い所を見せたいばかりに、アイツは深海鶴棲姫の攻撃を一身に受け、傷付いた私達の盾になったんだ。
そしてアイツは、清霜にこう言ったよ。
これが戦艦だ。
戦艦は退いてはならない。戦艦は媚びてはならない。戦艦は省みてはならない。
お前が戦艦に成りたいなら我が儘で在れ。
己が信じた道を、ただ我武者羅に突き進め。
とな。
~戦後回想録~
元戦艦 長門へのインタビューより。
ーーーーーーーー
「やめろ武蔵!それ以上はお前の装甲でも保たん!クソ!大和!弾幕が薄いぞ!何をしている!」
『やってます!やってますが……!』
けっして弾幕が薄いわけじゃない。
私も大和も、持てる砲全てで砲撃を繰り返しているし、他の動ける者も力を振り絞って攻撃している。
それなのに、深海鶴棲姫は私達など意に介さず、武蔵を攻撃し続けている。
まるで、武蔵を道連れにでもしようとしているように。
『くっ!いいぞ、当ててこい!私はここだ!』
「馬鹿者!下がれ!代わりに私が前に出る!」
『ふん!そんなボロボロな状態で何を言ってるんだ?先輩。私はまだやれる。まだ戦える!』
無線を通じて、武蔵の負け惜しみが聞こえてきた。
今や、武蔵の方が私より損傷が激しいと言うのに、武蔵にはまったく引く気がない。
その後ろにいる清霜は、武蔵の前に出ようとしているが敵の攻撃が激しすぎて動けないでいる。
『まだだ……。ま…だこの程度で、この武蔵は……沈まんぞ!』
『もうやめて武蔵さん!このままじゃ本当に…
…。きゃぁっ!も、もう!痛いじゃない!』
『清霜!?おのれぇぇぇ!よくも清霜をぉぉぉぉ!』
武蔵の直上から落とされた爆弾が爆発し、後ろにいた清霜を私の方へ吹き飛ばした。
損傷は軽いが、直近で爆音を聞いてしまったせいで三半規管が麻痺したのか立てないでいる。
『先輩。我が儘を一つ、言っても良いか?』
「なんだ今さら!いくらでも聞いてやるから早く……!おい待て、お前まさか」
『その……まさかだよ。清霜を頼む』
行くな!
と、叫びたかったが、武蔵を追おうとフラつきながら前に出始めた清霜に気づいて出来なかった。
きっと、清霜も武蔵がやろうとしている事に気づいたのだろう。
深海鶴棲姫も同様だったのだろうな。
艦載機の発艦をやめ、砲撃で武蔵を迎え撃っている。遠目だからわかり辛いが、笑顔を浮かべているようにも見える。
あの笑顔はなんだ?
死にかけの獲物を痛ぶる興奮に顔を歪めているのか?それとも、共に逝ってくれる者を得られた愉悦に打ち震えているのか?いや……。
『アッハハハハッ! 楽シイナァ……!』
『そうか、私も同じだよ。貴様を今から葬れると思うと痛快だ!主砲、一斉射だ。薙ぎ払え!』
武蔵と深海鶴棲姫の砲が、お互いの距離20mという近距離で同時に火を噴いた。
着弾で生じた巨大な水柱のせいでどうなったかはまだわからないが、あれでは例え深海鶴棲姫を倒せたとしても、武蔵もただでは済まないだろう。
それなのに、なぜ私はこんなにも冷静なんだ?達観してると言っても良いほどに、清霜や他の者達が「武蔵さん!」と叫ぶ中、提督に明石を寄越してもらうタイミングを計っている。
「提督。聞こえるか?」
『ええ、聞こえてる』
「明石は?」
『貴女たちの後方5海里で、合流した第二機動部隊と共に待機してるわ』
「そうか、ならば……」
『わかった。すぐに向かわせるわ。それまで、持ち堪えなさい』
「了解した」
提督には感謝しないとな。
これで、アイツの願いを叶えてやれる。それまでは、この命に代えてもこの場を保たせなければ。
「大和。動けるか?」
『はい。動けます』
「ならば、武蔵を私のところまで回収してきてくれ。他の者は砲撃準備」
私の指示に、艦隊メンバーが無線で一瞬だけザワついたが、すぐに事態を察したのか各々攻撃準備に入ってくれた。
そう、深海鶴棲姫は倒せていない。
奴は、大破状態だったとは言え武蔵の全力射撃に堪えきったのだ。
『コレデ勝ッタツモリ…?ハッ…冗談ジャナイッ!帰レルトオモウナヨ…!帰サナイ…カラ…!』
「ふん、差し詰め、深海鶴棲姫 壊。と言ったところか?全艦!大和を援護しろ!武蔵回収の邪魔をさせるな!」
ーーーーーーーー
私の放った艦載機が私のパチモン…深海鶴棲姫に届くのと、大和さんが武蔵さんを回収したのは同じくらいだったと思う。
そこからは、武蔵さんを担いだ大和さんが長門さんのもとへ着くまで、みんなで協力して援護したよ。
いやぁ、アイツったらしつこいくらい武蔵さんを狙っててさ。大和さんが長門さんのところに着くまで大変だったよ。私なんて、あの十数分で艦攻と艦爆をほとんど使い切っちゃったもん。
武蔵さんの状態?
うん……。息はなかった。
でもさ、寝顔は安らかだったし、至近距離で砲撃し合った割には綺麗だったよ。アチコチ焦げたり、無くなったりはしてたけどね。
その時の清霜ちゃん?
意外に思うかもだけど、あの子は泣かなかった。いや、泣くのを必死で我慢してたが正しいかな。
本当は、武蔵さんにしがみついて泣き叫びたかったでしょうに、肩をふるわせながら必死に我慢してたよ。
そんな清霜ちゃんに、長門さんはこう尋ねた。
戦艦に、成りたいか?って。
~戦後回想録~
元装甲空母 瑞鶴へのインタビューより。
ーーーーーーーー
「戦艦……に?」
「そうだ。お前には、その資格がある」
本来なら、いくら努力したところで駆逐艦が戦艦になる事は出来ない。
だが、この子の場合は別だ。
今の大淀が駆逐艦から軽巡洋艦になったように、この子も戦艦になる事が出来る。
何故なら、清霜は武蔵と縁があり、武蔵が求め望んだ者だからだ。
「私が戦艦に……」
「ああ。ただし、それには一度、解体される必要がある」
「じゃあ、失敗したら……」
「二度と、清霜には戻れない」
私の駆逐艦ファイルが間違っていなければ、この子は12歳の時に先代清霜の戦死からそう時を置かず清霜となっている。
つまり、見た目は12歳くらいだが実年齢は16歳以上。正規の手順で解体するわけではないから、桜子のように体の成長が急に始まるだろう。
そうなればもう、清霜に戻ることは不可能なはずだ。
「長門さん。『武蔵』の艤装の準備は整いました」
「わかった。さあ、どうする?清霜。悩む時間はあまりないぞ」
本当なら飽きるまで悩ませてあげたい。
だが、今はその余裕が無い。
合流した第二機動部隊と大和達が奮戦してくれているがあと一歩が届かない。
もう一押しのはずなんだ。
それには清霜の、いや、武蔵の力が必要だ。
「やるよ……。私!やるよ!」
「そうか、やってくれるか」
なんて汚い大人なんだ私は。
私はこうなる事を予想していた。武蔵が清霜を庇って死に、清霜に艤装を託そうとするとわかっていた。
わかっていて、私は武蔵と清霜の想いを利用した。
「ではこちらへ。解体後、すぐに『武蔵』の艤装との同調を開始します。長門さん、脚を広げてもらって構いませんか?解体後は、清霜ちゃんは浮くことが出来ないので」
「わかった。これ位で良いか?」
「十分です」
喫水を浅くし、浮いた分で面積を直径6m程に広げた私の脚に、息絶えた武蔵と『武蔵』の艤装、そして清霜を乗せ、私は成り行きを見守り始めた。
大淀の時とは違い艤装は損傷し、ろくな機材もない。これで本当に上手くいくのか?いや、いってくれ。
でなけば、死んだ武蔵が報われない。
そう願い、趨勢を見守りながら、背面装甲の維持に全力を傾けた。
「解体、完了しました。体に異常はないですか?」
「今のところは……。あ、でも、痛みはないですけど関節に違和感が」
「わかりました。気休めですがコレを飲んでください。痛み止めです」
清霜の見た目に変化はない。
だが、桜子は解体直後に動けなくなり、その後一週間も昏睡状態になった。
解体後の体調変化に個人差があれと祈るばかりだな。
「それでは同調を開始します。やり方は憶えてますか?」
「はい。お願いします!」
その小さな体より大きな『武蔵』の艤装を背負い、清霜はゆっくりと瞼を閉じた。
その傍らでは、明石がタブレットで状態を見ている。
「え!?何よこれ!こんな事有り得ない!」
「どうした!?まさか……」
失敗した?
清霜は『武蔵』と同調できなかった?そんなバカな!
艦娘になるための三つ目の条件が確かなら、清霜が武蔵に成れないはずがないんだ!
「練度が上昇してるんです!」
「練度が!?」
「はい、現在20を超えて30、35……。まだ上昇しています!」
確かに有り得ない。
艦娘は、代替わりして新しい適合者が艤装と同調しても練度は1より上がらない。
あの大淀でさえ、『大淀』の艤装と同調した時は1だったんだ。それなのにどうして……。
「武蔵……。お前がやっているのか?」
答えなど返ってこないとわかっているのに、満足そうに眠る武蔵に問わずにいられなかった。
だって、それしか考えられないじゃないか。
初同調なのにも関わらず急激に上昇する練度。お前は、本当に全てを託したんだな……。
「練度、89で安定しました。でもこれは……」
「私にも、見せてくれるか?」
「ど、どうぞ……」
明石が渡してくれたタブレットに表示された89の数字、これはさっきまでの武蔵の練度だ。
そしてその横。
そこに表示された艦名は……。
「武蔵……改二。そうか、これがお前の想いの結晶か」
武蔵が到達できなかった改二。
それに清霜が成る……か。
いいや、成らせてやりたかったんだろう。見たかったんだろう。清霜が自分を超える瞬間を、お前は見たかったんだな。
「ねえ、長門さん」
「なんだ?清霜。ああ、もう清霜とは呼べないんだったな」
「良いですよ、清霜で。今だけは、そう名乗りたいんです」
「そうか。そうだな。なら聞かせてやってくれ。アイツに、お前の名前を」
同調が終わり、私の前に立つのは、成長が再開しているのに今だ変わら体と顔に夕雲型の制服を着た清霜。その清霜が背負うのは、自身の体よりも大きな武蔵の艤装。
不格好だが、それが本来の姿であるように違和感がない。
そして、清霜は武蔵を悲しげに一瞥した後、高らかにこう名乗った。
「戦艦 清霜!抜錨します!」と。
ーーーーーーーー
それが、二代目武蔵誕生の瞬間だった。
深海鶴棲姫は、第一部隊と第二機動部隊の攻撃を受けて満身創痍だったが、それでも果敢に戦い続けていた。
敵でなければ。と思ってしまったほどだ。
そんな奴を相手に、清霜はよく戦ったよ。
撃って撃たれて、最終的に大破になりながらも、清霜は武蔵の仇を討ったんだ。
奴を討つ瞬間のセリフは今でも忘れられないな。
今際の際に「一人は寂しい」と叫ぶ奴に、艦娘型録にも記載されていない、あの場限りの『幻の大戦艦』清霜はこう返した。
「大丈夫。寂しくないよ。あっちで武蔵さんが待ってるから」とな。
あの子がどんな気持でそう言ったのかはわからないが、そのセリフは私の胸にも突き刺さったよ。
何故かって?
責められているように感じてしまったんだ。
私は戦いに勝つために、武蔵とあの子の絆を利用したんだから……。
~戦後回想録~
元戦艦 長門へのインタビューより。
主要キャラ人気投票
-
朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
-
神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
-
大和(影が薄い三部主役)
-
紫印 円満(実質三部の主役?)