艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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 六章ラストです。
 七章開始は三週間後……に始められればいいなぁ……。


第六十話 幕間 満潮と時雨

 

 

 ワダツミを発つ前、円満さんは私にこう言った。

 「時雨に隙を見せるな」ってね。

 それを聞いた時は、味方でも平気で撃つような人なんだと思ったわ。

 でも違った。

 円満さんがそんな注意を私にしたのは、彼女に後ろから撃たれるからとかじゃなく……。

 

 「ひぃぃぃやぁぁぁぁ!来るなぁぁぁ!くっつくなぁぁぁ!」

 「良いじゃないか満潮!ちょっとだけ。ほんの10分だけで良いから!」

 「絶対に嫌!私ノーマルだもん!女に興味ないもん!」

 「そこは安心していいよ。男より巧い自身はあるから」

 「どう安心しろって言うのよクソレズ!ちょ!こっち来んな!脱ぐな!」

 

 タウイタウイ泊地を出て二日目の昼。

 今日の晩の出撃に備えてネグロス島で二回目の昼寝をしてる最中に、私のテントに忍び込んできた時雨さんが私に襲い掛かって来た。

 もちろん意味深の方ね。

 タウイタウイ泊地で合流した時は普通だったのに、時間が経つに連れて私との物理的な距離が近くなってるなとは思ってたけど、まさかその距離をゼロにしようとしてたとは思わなかったわ。

 

 「ふふふ♪円満と同じ反応をするんだね。感じるところも一緒かな?」

 「やめ、やめろぉぉぉぉ!ってか、何処に手ぇ突っ込んでんのよ!」

 「え?パンツだけど?」

 

 え?パンツだけど?じゃない!

 どうしてさも当然みたいな顔で言えるの!?アンタ今、誰にも触らせた事がない私の秘所に手を突っ込んでるのよ!?

 

 「ほら、僕って円満にフラれ続けて結局抱けなかったからさ。この際君でも良いかなって」

 「よくねぇよアホンダラ!だいたいそれ、ケンカ売ってるよね!?私の自尊心を斬り裂いたよね!?」

 「そういうのが好みかい?」

 「んな訳あるか!とにかくどいて!離れなさいったら!」

 「痛い痛い!わかったから殴らないで……ってぐほぉあ!」

 

 必死の抵抗の末、時雨さんの……。いや、もう呼び捨てでいいやこんな奴。

 時雨の腹部に蹴りを入れて、テントの外に文字通り蹴り出す事に成功した。

 ったく、コイツがこんなにヤバい奴なら最初か言っとくべきでしょ!

 危うく、同性に初めてを奪われるとこだったわ。

 

 「あたたた……。円満より凶暴なんだね満潮は。円満はそこまで抵抗しなかったよ?」

 「ふん!同じ満潮でも円満さんと私は違うの!桜子さんに護身術習ってたんだから!」

 「桜子さん?ああ、先代の神風だった人かい?」

 「そうよ。その桜子さん」

 

 今日ほど桜子さんに感謝した日はないわね。

 もし桜子さんに護身術を習ってなかったら、私はきっと目覚めちゃいけない世界に目覚めちゃってたかもしれないし。

 

 「それにしても、こんなに騒いでるのに他の皆は静かなものね」

 「皆、声を押し殺して……。ごめん、冗談だから拳を収めてくれないかな?」

 「次言ったらマジで殴るから」

 

 まあそれでも、時雨が言おうとした事が無いわけじゃ無いと思う。

 山城さんはドン引きするくらい扶桑さん好き好きオーラ出してたし、朝雲さんと山雲さんには元々そういう噂があった。最上さんはよく知らないけど、時雨と同じ僕っ子だからエロい可能性大だわ。違ってたらごめんね?

 

 「ねえ満潮。少し話さないかい?」

 「猥談ならお断り」

 「しないよ。僕だって空気くらいは読めるさ」

 

 本当かなぁ……。

 砂浜に腰を降ろした時雨からはさっきみたいな獣のような雰囲気は感じないけど、犯されかけた直後だからまったく信用できない。

 

 「艦娘ってさ。何なのかなって考えたことない?」

 「何よ藪から棒に、艦娘は艤装と同調できた者の総称でしょ?」

 「うん、そうだね。でもさ、不思議に思ったことはないかい?」

 「何を?」

 「艦娘が存在している事にさ」

 「いや、意味わかんな……」

 

 ん?そう言えばなんで?

 いや、海軍が艤装を作って、それに適合、同調できたから私達みたいな艦娘が生まれたのはわかってるの。

 私がわからないのは……。

 

 「都合が良すぎる。と、思わないかい?」

 「え、ええ……。言われてみれば」

 

 艦娘は、人類が深海棲艦に対抗するために作った兵器。それが、私達を含めた世間一般の常識よ。

 でも、その艤装の大元は深海棲艦の核。さらに言うと、その核を妖精さんに渡すことで建造される。

 つまり私が疑問に思い、時雨が都合が良すぎると言ったのは……。

 

 「まるで、人類に抵抗するための力を与えるために現れたような妖精さん?」

 「そう、妖精が居なければ、人類はそもそも抵抗すら出来なかった」

 「でもさ、妖精さんって何処から来たの?」

 「さあ?それは僕も知らないよ。ただ、深海棲艦の発生と同時期に、人類にコンタクトを取ってきたって事は知ってる」

 「私もそれくらいは知ってるけど……」

 

 私は砂浜をポンポンと左手で叩く時雨に誘われるように、隣に腰を降ろした。

 危ないかな?と思ったから、1mほど距離を開けてね。

 

 「僕さ、時雨になって長いんだけど、最近妙な夢を見るようになったんだ」

 「妙な夢?」

 「うん……。時期的には、扶桑が第7艦隊の歓迎式典のために横須賀に行った頃かな」

 「どんな、夢なの?」

 

 さっきまでの、欲情したレイプ魔みたいな顔をしてたとは思えないほど、今の時雨の表情は沈んでいる。

 いえ、怖がってると言っても良いかもしれない。

 

 「その夢では、僕は人ではなく船なんだ」

 「船?」

 「そう、船。たぶんアレが、太平洋戦争中に大海原を駆けた駆逐艦時雨なんだろうね。その周りには、同じく船の扶桑、山城。最上と、朝雲と山雲。そして、君がいた」

 「それって……」

 

 本来の歴史で実行されたスリガオ海峡突入の様子?それをアンタは、夢で見たって言うの?

 

 「最初に扶桑がやられた。次に君と山雲。そして朝雲も。でも、山城は被雷しながらもこう言うんだ。『各艦は我を顧みず前進し、敵を攻撃すべし』って。その後、退避しようとした最上もやられて、僕だけが生き残った」

 

 間違いない。

 時雨が今言った内容は、円満さんに見せてもらった『歴史書』の内容とも一致する。

 でもどうして?

 どうして時雨は、知り得るはずがない史実を夢で見たの?

 

 「その様子じゃ、僕の夢の内容に心当たりがあるみたいだね」

 「ええ、まあ……」

 「そっか。じゃあやっぱり、あの夢はこの世界では起こらなかった事なんだね。よかった……」

 

 よかった?

 そりゃあ、あんな事起こらないに越したことはないけど……。時雨は何が言いたいの?すっかり話が逸れちゃったわよ?

 

 「ここ数年は、護衛と哨戒くらいしかする事がなかったから考えたんだ。艦娘って何だろう。深海棲艦って何だろうって」

 「……円満さんは、歴史の修正力って言ってた」

 「へぇ、円満はそう考えたのか」

 

 正確には元帥さんだけどね。

 それを言いだしたらまた脱線するから、ここは円満さんが考えたで押し通そう。

 それにこの様子じゃ、顛末は知らなくても、この世界の歴史が改竄されてるって事は知ってるみたいだし。

 佐世保提督から聞いたのかな?

 

 「アンタは違うの?」

 「少しちがうかな。確かに深海棲艦の発生理由はそうなんだと思う」

 「じゃあ、何が違うのよ」

 「僕はね、試練だと思ってるんだ」

 「試練?深海棲艦が?」

 「そう、人類に対する試練。だって考えてみなよ。深海棲艦が歴史の修正力と言うなら、それを生み出したのは誰だい?少なくとも人間じゃない。あんな化け物を生み出せるとしたら、陳腐な言い方をすれば神様さ」

 

 言われてみれば。

 あんな生物が自然に、突然発生するなんて普通に考えれば有り得ない。もし有り得るとしたら、それが出来るのは時雨が言うとおり神様くらいのものね。

 

 「そして神様は、その試練に立ち向かう手段として妖精、そして艦娘を人類に与えた」

 「艦娘は深海棲艦の対存在。とでも言いたいの?」

 「艦娘と言うよりは妖精が。だね。満潮は艦娘、特に空母が扱う装備に人の名前や部隊名がついてる物があるのを知ってる?」

 「江草隊とか友永隊の事?あるのは知ってるけど……」

 

 使うことがないから変わった名前だなぁ、くらいにしか思ってなかった。

 でも、それが何だって言うの?

 艤装もそうだけど、装備だって第二次大戦期の物をモデルにしてるんだから、そういう名前がついてたって不思議じゃないんじゃない?

 

 「調べてみて驚いたよ。実際あの時期に、今君が言った江草と友永と言う人物が実在した。しかも、艦載機乗りだ」

 「回りくどいわね。結局アンタは、何が言いたいの?」

 「わからない?深海棲艦と妖精の正体さ」

 

 いや、だからそれは……。

 ん?違うわね。

 歴史の修正力と言うのはあくまで発生理由。正体じゃない。それに時雨は気づいたって言うの?恐らく円満さんや元帥さんでさえ辿り着いていない、深海棲艦の正体に。

 

 「深海棲艦は、改竄されなかった本来の第二次大戦で死んだ者達の怨念。それが形を得たモノ」

 「じゃあ、妖精さんは?」

 「その逆さ。良心、とでも言うべきかな」

 

 なるほど、怨念か。

 だから奴らは、人間と見れば容赦なく殺し、街を破壊し、自分たちが営めなかった平和を享受する私達が許せなかった。って感じかしら。

 そして妖精さんはその逆。

 平和を願い、国のため、家族のために散っていった者達が、それでも国を、そこに住む人々を守ろうとして妖精さんとなり、自分たちの怨念の塊である深海棲艦の核を浄化、昇華して艤装を作り出した。

 かつて、自分たちが乗り込んだ艦艇の名を与えて。

 

 「神様って奴が本当にいるならとんだゲス野郎ね。死人に鞭打つとは正にこの事よ」

 「まあ、今言ったのは僕の想像だからね。合ってるかはわからないよ」

 「それでもよ。だいたいさ、転生者なんて人を生んだのも神様でしょ?その人達が歴史を変えたからって、今生きてる私達を苦しめるのは間違ってない?」

 「確かにね。いい迷惑だ」

 

 って、言ってる割に楽しそうなのは気のせい?

 もしかしてコイツ、この話を誰かに言うのが初めてなのかしら。

 

 「ねえ、満潮」

 「何よ。欲情したとか言ったら蹴るから」

 「言わないよ。言ったろ?僕だって空気くらいは読めるって」

 

 いやいや、ついさっき犯されかけたばかりなのに信用できるわけないでしょ?

 アンタがいつムラムラしてガー!ってなっても良いように、殴る準備は万端なんだから。

 また襲い掛かって来たらお姉ちゃん直伝のガゼルパンチを食らわせてやる。

 

 「一緒に、駆け抜けよう。みんな一緒に」

 「何を言うかと思えば。当ったり前でしょ?この私がいるんだもの、アンタ達は無事に送り届けるわ」

 「無理しちゃダメだよ?みんな一緒にって事は、君も一緒じゃなきゃ意味ないんだから」

 「わかってるわよ。だから、アンタも死ぬんじゃないわよ?」

 「心外だなぁ。僕は死なないよ」

 

 胡散臭い。

 アンタ、本当は死ぬつもりだったんじゃない?

 みんなと一緒に沈むことが出来なかった、本当の時雨の無念を晴らすために。

 

 「私とアンタで切り開くわよ。私達が歩むべきウィニングロードを」

 「僕と……君で?」

 「そう、私とアンタで。勝手に一抜けなんてさせないんだから」

 

 一瞬ハッとした時雨は、すぐに穏やかな笑顔を浮かべて一言だけ「うん」と言った。

 これで、思い止まれたかな?

 時雨はきっと、覚えのない記憶の夢を見たせいで変になってる。

 時雨の説を信じるなら、その夢を見せたのは『時雨』の艤装に宿る妖精さん。

 その妖精さんの未練に引っ張られて、時雨は自分の命と引き換えにしてでも、私達残りのメンバーを突破させようと思ったんじゃないかな。

 まあ、想像だから本当のところはわかんないんだけどね。

 

 「私達が挑むのは地獄。でも、抜けた先にあるのは勝利の栄光よ」

 「満潮は意外と熱血なんだね。でも……うん、嫌いじゃない。かな」

 

 私と時雨は、お互いにフフッと笑い合って日が沈んでいく水平線を眺めた。

 でも、時雨の不安は取り除けたかもしれないけど、私の胸中は不安で押し潰されされそうになったわ。

 知り合って数日の仲だけど、仲良くなった人達にあの姿を見せなければならなくなる事態を想像して。

 




 

次章予告。

 大淀です。

 武蔵さんがその命と引き換えに掴んだ勝利の日の晩、ついに西村艦隊がスリガオ海峡への突入を開始しました。
 何だか不気味な雰囲気が漂っていますが、満潮ちゃん達は構わず前進します。
 一人も欠けずに、海峡を突破するために。

 次章、艦隊これくしょん『意地とプライドの七重奏(セプテット)

 お楽しみに。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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