艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第六十三話 不幸だわ……。

 

 

 

 航空巡洋艦 最上。

 

 重巡洋艦の火力と水上機運用能力を両立した初めての艦娘で、装備の幅が広く多芸だがあれもこれも行おうとすると全てが中途半端になってしまうため、装備については他の艦種以上に気を配る必要がある艦種でもあった。

 だが逆に言えば、装備にさえ気を配れば複数の艦種で行うことを一人で可能にする程の汎用性を実現することができた。

 

 歴代の『最上』の中で特に名を馳せたのは、正化30年に着任した五代目最上であろう。

 現在では、第一遊撃部隊第三部隊の存在に対する議論中に名前が出る程度だが、西村艦隊が実在したとした場合、彼女はスリガオ海峡突破に際して多大な貢献をしている。

 それに留まらず、西村艦隊が第二遊撃部隊の支援を受けて撤退するまで、損傷した他のメンバーに攻撃が行かないよう敵の注意を引きつけ続けたと伝えられている。

 

 

 ~艦娘型録~

 航空巡洋艦 最上の項より抜粋。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 「不幸だわ……」

 

 が、山城さんの口癖だった。

 ホント、事あるごとに言ってたわよ?

 雨が降ったら「不幸だわ……」烏が飛んだら「不幸だわ……」アイスで当たりを引いても「不幸だわ……」ってね。

 あまりにも言うもんだから、いや、アンタ「不幸だわ……」って言いたいだけでしょ。ってツッコんじゃった。

 え?そりゃツッコむでしょ。

 私、言いたい事はハッキリ言わなきゃ気が済まない質だもん。そしたら山城さんは……。

 

 「だって不幸だもの。今年もサマージャンボ宝くじ外したし……」

 「いや、大半の人がそうだからね?宝くじがハズレたくらいで不幸なら世の中不幸な人だらけよ」

 「でも、4等が当たったのよ?どうせ当たるなら……。ねえ?」

 「ねえ?じゃない。アンタ今すぐ謝りなさい。300円しか当たらなかった人に謝りなさい!」

 

 とか言っちゃってさ。

 実はあの人って、不幸不幸言ってたけど運は良い方だったの。もちろん、艦娘のステータスとしての運じゃないわよ?アレは戦闘に関する事だけで私生活の運とは関係ないから。

 例えば、砲撃がたまたま装甲の薄いところに当たるとか、これ当たるわ~とか思ってた攻撃が風で逸れて当たらないとかね。

 

 でもさっきの宝くじの件でもわかる通り、山城さんの私生活は小さな幸運の積み重ねで出来てるって言っても良いほど恵まれてたの。

 聞いた限りでは、食堂に行けば人が少ないタイミングに当たり、お風呂に入ろうとするといつも空いてるし、当たり付きの自動販売機で飲み物を買うと三回に一回は当たるって感じだったそうよ。

 

 「満潮は、自分の事を不幸だって思ったことある?」

 「ない。むしろ、私は幸せな方だと思うわ」

 「そう……。いいわね。私も幸せになりたい……」

 

 性格は暗かったなぁ……。

 山城さんって、扶桑さんと一緒に居る時は「姉様姉様」言ってテンション高いんだけど、扶桑さんが居ない時は体育座りして溜息吐いてるのがデフォみたいな人だったのよ。

 うん、ウザかった。

 私もそうだったけど、駆逐艦や海防艦になるような子は大なり小なり不幸な目に遭ってたからさ。自分を不幸だとのたまう山城さんに同情できなかったんだ。

 

 「はあ……。空はあんなに青いのに」

 「いや、土砂降りだけど?」

 

 口癖って呼べる頻度では言ってなかったけど、扶桑さんはたまにそう言ってたな。

 そんな扶桑さんは、山城さんとは逆でガチで運がなかった。

 食堂で注文したら注文した料理が直前で終わってたり、小石を蹴れば跳ね返って自分に当たるし、休日に外出しようとすれば必ず雨って感じでね。

 時雨の話だと、佐世保でイベント事がある時は扶桑さんには外出しようとしないでって、他の艦娘達からお願いされてたそうよ。

 「気持はわからなくもないけど酷すぎない?」って言ったら、「その分、提督とイチャラブしてたから、扶桑にとっては願ったり叶ったりだったんじゃないかな」って答えが返ってきたわ。

 

 そうそう、佐世保の提督と言えば、扶桑さんに「どうしてあんな人と結婚したの?」って、タウイタウイ泊地で合流してから聞いた覚えがあるわね。

 いや、なんでって……。

 あの人って、会議の時に散々いちゃもんつけたのよ?

 会議が終わってから円満さんが吐いちゃった原因は間違いなく佐世保提督と大湊提督よ。トイレ掃除大変だったからね!?

 まあそんな訳で、佐世保提督に対する私の好感度は0を振り切ってマイナス。私の中では、シスコンで男の尻も狙う変態野郎になってたの。

 そんな人と、薄幸美人って言葉が人間になったみたいな扶桑さんが夫婦だったんだもの。あの人の何処に惚れたのか聞きたくもなるってもんでしょ。

 

 でね?

 扶桑さんも誰かに聞いて欲しかったのか、最初は躊躇ってたものの話してくれたわ。何を?って、扶桑さんと佐世保提督の馴れ初め話よ。

 扶桑さんって『扶桑』としては3代目で、正化22年のシーレーン奪還作戦で戦死した二代目扶桑と入れ替わりで着任したそうなんだけど、山城さんは扶桑さんよりも先に二代目山城として着任してたんだって。

 で、着任の挨拶が済んだ後、山城さんと実の姉妹でもある事を確認されて肯定したら佐世保提督はこんな事を聞いてきたそうよ。

 

 「山城さんに兄様って呼ばれる方法を聞かれた?」 

 「ええ、それがあの人との……初めて交わした会話でした」

 

 何よそれ。が、その話を聞いて初めに抱いた感想だったわ。

 だってあの人、その当時は扶桑さんよりも山城さんに兄様って呼ばれる方法ばっかり考えてたみたいなのよ。

 でも、何をしても山城さんは兄様って呼んでくれなくて、万策尽きたー!って諦めかけてた時に艦型的にも血縁的にも姉の扶桑さんが着任したもんだから変にテンション上がっちゃったみたいでさ。

 押し倒さんばかりに詰め寄って「君と結婚したら兄様と呼んでもらえるか!?」って言ったそうよ。

 

 「最っ低」

 「そう言わないであげて?あの人にも……事情があったのよ」

 「事情?大方、空襲で妹さんを亡くしたから代わりを求めて。って感じでしょ?」

 「ええまあ……。合ってはいるんですが……」

 

 う~ん、今思い返すと、もうちょっと言い方があったんじゃないかと考えちゃうわね。

 あ~ダメダメ!あの時の事を思い出したら、「合ってるけど……。合ってるけどもっとこう……」って感じで苦笑いしてた扶桑さんの顔が頭に浮かんできちゃった!

 うわぁ……数年越しでなんか罪悪感が……。

 ま、まあでも、先に言った通り、当時の私は佐世保提督に良い感情を抱いてなかったから仕方ないよね!そう!仕方ないのよ!私に嫌われてた佐世保提督が悪いんだから!

 

 え?その後?その後はまあ、扶桑さんがひたすら佐世保提督をフォローして……。

 例えば「あの人が艦娘の戦死を過剰に恐れるのは、過去に多くの子達を自分が立てた作戦のせいで死なせてしまったせい」とか「あの人にとっては、艦娘は亡くなった妹さんの代わりであると同時に、今を生きる大切な妹でもあるんです」とかね。

 扶桑さんが言うには、円満さんが立てた作戦は艦娘の命を蔑ろにし過ぎてるように感じられたんだってさ。

 

 本当にそうだったのか?

 いやいや、そんな訳ないでしょ。

 円満さんは元帥さんみたいに艦娘を『娘』だと思ってたわけでも、佐世保提督みたいに『妹』と思ってたわけでもないわ。

 円満さんはね、艦娘を『戦友』だと思ってたのよ。

 その戦友を死ぬとわかってて囮にしたのかって言われたら何も言い返せない。いえ、言い返さないでしょうけど、円満さんからしたら例え死ぬとわかっていても、死なせたくないばかりに飼い殺しにするって事は絶対にしたくなかったのね。

 ほら、あの頃でも死んでも戦うのをやめたくない。死ぬ時は敵も道連れにしてやるって言ってる人が一定数居たじゃない?

 円満さんは、そんな人たちの気持ちを無にしたくなかったのよ。

 だから、戦友たちを死地へと送った。

 自分は人でなし呼ばわりされても良い。恨まれても良い。殺されたって良い。

 そこまで覚悟して、戦友たちの無事を祈りながらも非情で冷酷な作戦に投入したのよ。

 

 青木さんはどう?円満さんの事を恨んでる?

 確か青木さんって、敵の残存艦隊が南方中枢と合流しないように引き付け続けるための、サボ島沖での戦闘に参加してたよね?

 

 え?自分には恨む資格がない?どうして?

 はぁ!?敵を味方と誤認して随伴艦に攻撃させなかった!?

 ちょ、ちょっと待って?深海棲艦は兎も角、艦娘は敵味方識別信号を常に出してたよね?それなのに敵を味方だと誤認したの?

 はぁ……なるほど。

 敵が人型の奴ばかりで、単に敵味方識別信号を出し忘れてるだけなんだと思っちゃったわけね。それで吹雪や古鷹さんが……。

 つまり青木さんは、自分の判断ミスで僚艦を死なせちゃったから円満さんを責める資格はないって思ってる訳だ。

 

 自分のミスは円満さんの予定に入ってたのかって?

 いやその……。

 サボ島沖での戦闘が終わったくらいに私が復帰したんだけど、円満さんを少しでも安心させてあげようと提督居室に顔を出したらその報告書を読んでる真っ最中だったのね?

 さすがに円満さんも予想外だったみたいで「私の読みが甘かった……。ごめん……ごめんなさい……」って泣いてた。

 それに、ショックが大きかったみたいでその日の内に十円ハゲが……。

 って、勘違いしないでね?べつに青木さんを責めてる訳じゃないから。

 確かに円満さんにとっては予想外の事だったんでしょうけど、青木さんの事は一切責めてなかったわ。あの人は、あの作戦で多くの人が戦死したのは自分のせいだっていまだに思ってるからさ。

 

 うん、私が寝てる間にいっぱい亡くなったんだってね。

 復帰してから、それまでの戦死者リストを見せてもらった時はどんな顔していいかわかんなかったわ。  

 仲が良かった人が戦死してなかったから、余計でもそんな反応になっちゃったんでしょうね。

 もし仲が良かった人が死んでたら、私は「嘘よ!あの子が死ぬはずがない!」とか言って喚き散らしてたと思うわ。

 はい!湿っぽい話は終わり!話が逸れちゃったじゃない。

 あの夜戦の時の事が聞きたいんでしょ?次は何が聞きたいわけ?

 

 ネグロス島を発った後?

 そうねぇ……海峡に突入するまでは順調だったわ。精々、最上さんが小破した程度だったわ。

 でもその後、海峡の終わりが遠目に見えてきた辺りで、まるで扶桑山城姉妹が闇落ちしたみたいな新種の姫級と、もう一隻の新種を含んだ艦隊が立ち塞がったわ。

 

 ええ、マズいと思った。

 だって私達は、突破後の奇襲のために燃料弾薬、損傷に気を使いながら戦わなきゃならなかったんだもの。ハンデ背負った状態で姫級三隻を含んだ連合艦隊と戦わなきゃならなくなったらマズいって思うのも当然でしょ?

 

 判断が一番早かったのは山雲さんね。

 敵の攻撃が始まるよりも早く、山城さんに撤退を進言してたもの。

 まああの人の場合は、朝雲さんにもしもの事がないようにしたかっただけなんでしょうけど。

 

 でも、私は突破を諦めたくなかった。

 ううん、違う。

 円満さんが立てた作戦を台無しにしたくなかった。だから、私は時雨と一緒に敵艦隊へ突入したわ。もちろん、山城さんの許可も取らずに勝手にね。

 

 でも結果として、私達のその行動がみんなに火を点けたみたいでさ。

 常に陰鬱な雰囲気を纏ってた山城さんが目を見開いて「邪魔だぁぁぁぁ!どけぇぇぇぇ!」って雄たけびを上げたり、扶桑さんが「二戦隊、突破します!てぇーーーーッ!!」とか言いながら、弾薬の消費を考えてないような乱射をはじめたりして本格的な夜戦が始まったわ。

 

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 満潮へのインタビューより。

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  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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