艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第六十八話 周防の狂人

 

 

 

 円満に指揮された艦隊が南方でドンパチやってる真っ最中。私は山陽自動車道をひたすた西に向かって進んでいた。

 もちろん車でよ?徒歩で高速道路を進むなんて疲れる真似をするほど私は体力バカじゃないもの。

 で、どこに向かってるかというと、お父さんの地元である山口県。目的はお母さんと娘さんのお墓参りよ。ほら、今ってちょうどお盆時期だからさ。

 だから当然、一緒にいるお父さんも士官服じゃなくて私服。

 いつも通り、金髪が運転する黒塗りのハイエースに亭主と桜共々同乗してかれこれ15時間ほど退屈な時間を過ごしてるわ。ちなみに、桜は退屈過ぎてお父さんのお腹に頭を預けて寝ちゃった。

 一応作戦中なんだから、お墓参りは見送った方がいいんじゃない?とも言ったんだけど、お父さんがどうしても行くって聞かなくてさ。

 仕方ないから家族旅行(護衛の車の群れから目を逸らしながら)も兼ねて横須賀を発ったって訳。

 

 「今さらだけどさ。私達だけでお墓参りに行ったってバレたら大淀が拗ねちゃうんじゃない?」

 「心配するな。彼女が帰ってきたら二人きりで温泉旅行に行くことになっている」

 「子作りも兼ねて?」

 「それは追々……。それよりも、前に頼んでいた件はやってくれたのか?」

 「前に?何か頼まれてたっけ?」

 「病院に付き添ってやってくれと頼んでいただろうが。忘れたのか?」

 「あ~、その事か。ちゃんと行ったよ?」

 

 本当か?と、言いたそうな顔で右隣に座る私を見てるけど本当です。

 貴重な休日を潰して、「桜もいく~!」と駄々をこねる愛娘を神風に押し付け……もとい!預けて行って来たんだから。

 

 「検査結果もあの子から聞いたけど異常は無かったってさ」

 「そうか。なら俺に問題が……」

 「単に薄くなってるだけなんじゃない?ほら、お父さんって歳が歳だし」

 「お前は……。もうちょっと言い方はないのか。桜に聞こえたら教育に悪いだろう」

 「これだけ熟睡してたら抓ったって起きないわよ。なんなら抓ってみる?」

 「お前の尻を抓ってやろうか?」

 「ちぎれそうだから嫌。って言うかそれ、絵的に問題あると思うけど?」

 

 ちょっと想像してみよう。

 世の女共が羨み、男共が罪を犯してでも手に入れようとするであろうナイスバディを持つ私のお尻を誰がどう見てもオッサンのお父さんが抓る。

 うん、即逮捕ね。その場で殺されたって文句は言えないわ。

 

 「変態。娘のお尻を抓っていいのは親だけよ?」

 「父親ですが何か?」

 「父親でもお尻を抓って良いわけないでしょ!バカなの!?」

 「お前、ついさっき自分がなんて言ったか憶えてないのか?」

 「あれは言葉の綾」

 

 でもね?やっぱり父親でもやって良い事と悪い事はあると思うのよ。

 もう何年も前の事だけど、イタズラがバレる度にお尻を叩かれてたわ。しかもお父さんの腕力で!

 酷いと思わない?

 袴の上からとは言え腫れ上がるまでお尻ペンペンされてたんだから!

 

 「ねえ!貴方も酷いと思うでしょ!?」

 「いきなり何言ってんすか?」

 「わかんないの!?私がお尻ペンペンされてるとこ貴方も見たことあるでしょ!」

 「あ~……。桜子さんガチ泣きしてたっすもんねぇ。でも、自分は感謝すべきだと思うっすよ?」

 「はぁ!?なんでよ!」

 

 お尻ペンペンされた事に感謝しろ?

 申し訳ないけど、私にはそういう特殊な性癖は皆無だから。それくらい、亭主なんだからわかるでしょ?

 お父さんはなんか「さすがバカ息子。ようわかっとる」とか言ってるし。

 

 「いやほら、そのおかげで桜子さんのお尻は張りも弾力も最高なんすよ。たぶん」

 「おいバカ息子。ちょっと表に出ろ」

 「いやいや!今出たら死ぬっすよ!?」

 

 おっと、自分が知らない私のお尻の良い所を旦那が知ってる事に嫉妬したお父さんが、助手席に座る旦那の首を後ろから絞め始めたわ。

 このままじゃ未亡人になりそうだから、話題を変えて助けてあげるとしますか。

 

 「それはそうと、よく大淀が作戦への参加を受け入れたわね。命令したの?」

 「命令はしたが、半分は彼女の意思だ」

 「円満の役に立って会話の糸口にしよう。って魂胆でしょ?」

 「そんなところだろう。もっとも、彼女の意思がどうあれ、作戦には参加してもらうつもりだったがな」

 

 まあ、大淀が加わるだけで作戦の成功率が何%か上がるもんね。元帥としては作戦は成功してもらわなきゃならないから当然と言えば当然か。

 愛しいって理由で、海軍の最高戦力である大淀を大本営で飼い殺しにするなんて愚策もいいとこだし。

 ところで、解放されたはずの旦那が咳き込みもせずピクリともしないんだけどちゃんと生きてる?

 まさか、落としちゃった?

 

 「また暴走しなきゃいいけど……。あの子って目は良いクセに視野は狭いからさ」

 「問題ない。今回はその事も含めて命令しておいた」

 「なら安心か。あの子、お父さんの命令なら何があっても守るもんね」

 「ああ、彼女は俺の命令は必ず完遂する。どんな事(・・・・)でもな」

 

 んん?なぁんか引っ掛かる物言いね。

 どんな事でもってどういう意味?暴走禁止と作戦への参加を命令したんじゃないの?

 

 「お父さん。何か企んでる?」

 「知りたいか?」

 

 知りたい。

 と、言うのは簡単だ。でもお父さんがそんな聞き方をしてくるって事は話さなくても良いなら話したくないと言う事。

 やっぱり、お父さんが大淀に命じたのは作戦への参加だけじゃないわ。

 

 「教えて」

 「……わかった。まずはこれを見ろ」

 「何?それ、写真?」

 

 お父さんがスーツの内ポケットから取りだしたのは一枚の写真。

 パっと見は海の写真ね。

 何処かの海岸沿いから撮影されたらしい写真の中央辺りには……艦娘かな?の艦隊が海を進んでる様子が映されてるわ。

 

 「これがどうしたの?一般人が艦娘を撮影した写真?」

 「そこに映っているのは艦娘ではない。姫級の深海棲艦とその随伴艦だ」

 「はぁ!?姫級!?こんな海岸沿いまで姫級に接近されたことがあるの!?」

 「ある。そしてこれが、そこに写っている奴を拡大した物だ」

 

 お父さんが再び懐に手を入れ、取り出した写真には、細部まではわからないけどツインテールっぽい髪型の姫級とその随伴艦達が写っていた。

 随伴艦は形からしてヲ級。それが6隻。さらにル級とタ級。それ以下の艦種は見当たらないわね。

 こんな近海まで侵攻してるのに護衛の駆逐艦や軽巡を連れてないなんて不自然な気が……。

 いや、待って?まさかこの写真……。

 

 「お、お父さん。これって何処で……いや、いつ(・・)撮影された物なの?」

 「撮影時期はおよそ13年前。場所は恐らく国道188号線沿いだ」

 「13年前?188号線沿い?じゃ、じゃあこの艦隊って!」

 「察しの通りだ。その艦隊が俺の故郷を……俺の家族を奪った奴らだ」

 

 お父さんの口調は淡々としている。

 殺気も怒気も感じない。

 でも私にはわかる。そう思えるのは感情を必死に圧し殺しているから。

 

 「そこに写っている姫級。特徴からして南方棲戦姫だろう」

 「私もそう思う……。で、でもさ」

 

 ヲ級やル級、タ級はもちろん、南方棲戦姫の撃破例もいくつかある。

 コイツがお父さんの家族の仇なのはほぼ間違いなくても、この南方棲戦姫が今も健在とは……。

 

 「ソイツは生きている」

 「確信、してるの?」

 「ああ、当時の襲撃場所を調べた結果。ソイツが現れた場所だけ戦略的意味があった」

 「基地とか工場関係?」

 「そうだ。そう言った場所の襲撃艦隊には必ず南方棲戦姫が居たよ」

 

 それが、コイツが生きていると確信した根拠?

 たしかに当時の……いや、今もか。で考えると、戦略的に動く深海棲艦は稀。

 でも、たまたまだった可能性もあるんじゃない?

 つまりコイツが基地や工場関係を襲ったのもたまたま、偶然だっただけなんじゃ……。

 

 「戦略、戦術の概念を持つ南方棲戦姫。心当たりがあるだろう?」

 「渾沌。今、南方で円満達が戦ってる艦隊の指揮艦ね。でもさ。渾沌が戦術を学んだのは野風と合った後。たしか正化20年の末頃からのはずよ?時期がおかしくない?」 

 「おかしくはないさ。奴は野風から戦術を学ぶ前から基地や工場を潰せば有利になる。くらいは考えることが出来たんだろう。逆に言えば、だからこそ野風に惹かれたとも言える」

 

 なるほど。

 元々興味があったって訳か。だから、出会いこそ誤認だったものの、野風から人間の事を学ぶ事に抵抗がなかったとお父さんは考えたのね。

 あれ?お父さんの家族の仇が渾沌と言う事は……。

 

 「今回の作戦で終わる……の?」

 

 円満が率いた艦隊が渾沌を討ち取ればお父さんの復讐は終わる。

 だって直接手を下したのは渾沌だもの。

 深海棲艦を滅ぼさなければ気が済まないって思ってるなら話は変わるけど、それでも復讐の半分は終わる。

 もしかしたら、お父さんが大淀に命じたのは渾沌の撃破かもしれない。あの子ならアクシデントでもない限り必ず討ち取るでしょうから。

 なのにどうして、お父さんは無表情なの?

 何を考えてるの?何を隠してるの?

 お父さんは大淀に何を命じたの?

 

 「終わらんさ。まだ終わらんよ」

 

 お父さんの頬が歪むのを見てゾッとした。

 殺気の類は感じない。でも嬉々としてるのがわかる。

 私が結婚して、桜が生まれて、大淀と添い遂げて、お父さんが幸せだと思える出来事が続いたことで、お父さんの復讐心はなりを潜めたと思っていた。

 でも違った。

 この人の復讐心は萎えてなんかいない。むしろ酷くなってる。幸せな出来事が、逆に復讐心をさらに燃え上がらせてるんだわ。

 

 「奴の始末だけは大淀にも円満にも譲らん。俺が殺してやる。だが、ただ殺すのでは意味がない。絶望のドン底に突き落とした後で殺してやる。俺、自らの手でな」

 

 狂ってる。

 それがお父さんに抱いた私の感想だった。

 大淀とイチャイチャしてるお父さんも、桜にじぃじと呼ばれてデレデレになるお父さんも嘘偽りないお父さんなのはわかってる。でも、本性じゃない。それが今、確信できた。

 あの時、吹き飛ばされた家の前で生まれた復讐鬼はまだ生きていたのよ。

 そして成長を続けていた。

 この写真を手に入れ、渾沌が仇だと確信したのがいつなのかはわからないけど、10年以上の時間をかけて復讐の相手を渾沌に絞り込み、そして復讐鬼は手に入れた。

 目の前の邪魔者を薙ぎ払う最強の大淀()と、復讐の場へと運んでくれる最高の円満()。その、復讐を成就させる手段を手に入れてしまった。

 

 「だが今回はダメだ。まだ早い。まだ……な」

 

 私が知る限り、ここまで深海棲艦を憎んでる人はいない。ただ殺すだけならまだしも、絶望させようなんて考えてる人なんていない。

 だって人の身でそんな事不可能に近いもの。

 それは人の身で鬼級と戦った私が一番よくわかってる。倒すだけで精一杯なのに、元が人間だった野風なら兎も角、根っからの深海棲艦である渾沌を絶望させる手段なんて私には思い浮かばない。

 でもきっと、その段取りを円満にやらせるつもりなんだわ。円満本人にも、気づかせないように。

 

 「渾沌に同情しちゃうわね。喧嘩を売った相手が最悪を通り越してる」

 

 渾沌が変に人間の真似をしなければお父さんにバレなかったし楽に死ねたでしょう。それこそ今回の作戦で、もっと言えば三年前のハワイ島攻略戦で。

 でも、もう手遅れ。

 すでにお父さんの中では算段がつき、渾沌の首を真綿で絞めるように追い詰めている。

 

 本当に同情するわよ渾沌。

 アンタが恨みを買い、敵に回したのは私が知る限り最狂の人間。

 人の身で深海棲艦を殺すバケモノ殺しの化け物。

 艦娘が現れた事で英雄になり損ねた英雄。

 アンタが焼いた周防の国が産み、アンタへの憎しみが育んだ最狂最悪の復讐鬼。

 『周防の狂人』なんだから。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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