艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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 ブルマ世代の私は常々思うんですが、ブルマのどこに興奮要素があるのだろうか……。
 


第七話 地獄を見せてやるんだから

 

 

 私には、自分が人に好かれる性格じゃないという自覚がある。

 別に嫌ってるわけじゃないんだけど、仲良くする気になれないの。どうしても、壁を作っちゃうのよ。

 それでも、私と仲良くしようとしてくれた人はそれなりに居るわ。

 例を挙げるなら、先週まで所属していた第四駆逐隊の嵐。詳しくは割愛するけど、彼女は私が作った壁を力ずくで破ろうとしてくれたわ。残念ながら、実力不足で壁に押し潰されちゃったけどね。

 

 「あの子達も、嵐みたいに諦めてくれればいいのに……」

 「そんな事言わないで満潮。大事な姉妹艦じゃない」

 

 私がボソッと言った独り言に苦言を呈して来たのは、私が座ってる方から見たら(こんな)形に見える提督と秘書艦用の机が一つになった執務机の長い方、提督席に座った円満さん。

 歳は19歳と若いし、見た目も若干幼いけど横須賀鎮守府のトップである提督様よ。敬わないけどね。

 

 「円満さんにだけは言われたくないわね。円満さんだって、私と似たような事してたんでしょ?」

 

 今でこそ、提督として人と分け隔てなく接している円満さんだけど、ほんの数年前まで私の先代として悪名を轟かせていたらしいわ。私が知ってる限りだと……。

 

 「激辛フレンチクルーラー。だったっけ?」

 「うぐっ!」

 「それだけじゃないわ。今も浴場に隠すように置いてある『満潮入浴中』と書かれた看板。実際に使ってみてビックリしたけど、本当に誰も入って来なくなるのね。何したらそんなに嫌われるのよ」

 「いやぁそのぉ……。私も若かったと言うか……」

 「それなのに、私には他人と仲良くしろって?ふざけんじゃないわよ」

 

 もっとも看板に関しては、円満さんじゃなくて私が嫌われてるからだと思うけど。

 それと最初にも言ったけど、私は他人を嫌ってるわけじゃない。なのに仲良くしないのは、仲良くする必要がないと思ってるからよ。

 だって単独行動させられる事が多いんだもの。

 その命令を出してるのは他ならぬ円満さんだし、私が単独行動をせざるを得ないほど強くしたのは引退した姉さん達だわ。

 

 「でも、せめて姉妹艦とくらいは……。私だって、澪や恵とは普通に接してたし」 

 「今のあの子達は姉さん達じゃない」

 

 澪姉さんと恵姉さんが解体されて、それから一ヶ月もしない内に今の大潮と荒潮が着任した。お姉ちゃんが解体された時なんか、数日で新しい朝潮が着任したわ。

 しかも質の悪い事に、三人とも姉さん達と顔は違うけど雰囲気はそっくり。大潮なんかは、無駄に「アゲアゲ!」って言うところまでそっくりね。

 私と円満さんも顔の雰囲気は似てるし、似たような顔つきの子が選ばれてるんじゃないかって変に勘ぐっちゃったくらいよ。

 

 「アンタの気持ちはもわからなくもないわ。私にだって経験があるもの」 

 「お姉ちゃんが着任した時とか?」

 「うん、先生……前提督からあの子の嚮導を頼まれた時はどうして良いかわかんなかったわ。さっきアンタが言った通り、姉さんと同じ艦名を名乗る別人だったから」

 「じゃあ、話はこれで終わりで良いわね。私の気持ちがわかるんなら無理強いしないで」

 「はぁ…わかったわ。これ以上は言わない。けど、あの子達がアンタを慕ってるって事だけはわかってあげてね?」

 「うん…わかった……」

 

 三人とも良い子だとは思う。

 大潮と荒潮は、同い歳なのも手伝って初対面から馴れ馴れしかったけど、朝潮は一つとは言え年下なのに負い目があるのか今だに敬語を貫いている。まあ、朝潮の場合は真面目なだけって可能性の方が高いけど。

 私だって、あの三人とくらいは仲良くしたいと思ってるのよ?

 でも、どうしても違和感を感じてしまう。あの三人は姉さん達じゃないと、どうしても頭が勝手に考えてしまう。あの三人を見てると、姉さん達に置いて行かれたと思えて寂しくなる……。

 だから、姉さん達が引退してから程なくして、私は円満さんの部屋に引っ越しまでしたわ。

 あの子達を見て寂しい思いをするより、朝が弱い円満さんを叩き起こす方が遥かに気が楽だから。

 

 「澪達と一緒に戦いたかった?」

 「……そうよ。そのために、私は姉さん達の訓練に耐えきったんだから」

 

 姉さん達が私に課した訓練は熾烈を極めたわ。拷問と言い換えても良いかも知れないわね。

 足腰立たなくなるのは当たり前、血反吐を吐いたのも一度や二度じゃ利かないし、精神的にもかなり追いつめられた。今思い出しても、寒気がしてくるほど容赦がなかったなぁ……。

 普通なら、そんな目に遭わされたら姉さん達を嫌いそうなものだけど、姉さん達が本気で私を強くしてくれようとしてるがわかったし、厳しくし過ぎてるんじゃないかと落ち込んでる姿も見た。

 でもそれ以上に、私が姉さん達と肩を並べて戦いたいって気持ちが強かったから成し遂げることができた。

 それなのに……。

 

 「姉さん達は、私を置いて艦娘を辞めちゃった……」

 

 一緒に戦えるようになったと自分で思えるようになった時、澪姉さんと恵姉さんは揃って艦娘を辞めていった。

 姉さん達の目的が、私と一緒に戦う事じゃなくて自分たちが培ってきた技術を残したかっただけってのは頭では理解してるわ。

 気持ちじゃ割り切れなかったから…しばらく落ち込んじゃったけどね……。

 でも、その頃はまだお姉ちゃんが居た。

 お姉ちゃんの任期を考えても一年は一緒に戦える。そう思ってたのに、結局、哨戒任務以上の出撃の機会に巡り会うこともなく、お姉ちゃんは任期が残ってるのにも関わらず実験のために解体された。

 今も艦娘ではあるけど、お姉ちゃんが居るのは大本営。円満さんにお姉ちゃんへの命令権はないから、私がお姉ちゃんと一緒に戦うことはよっぽどの事がない限りないわ。

 

 「お姉ちゃん…いっその事ここに住めばいいのに……」

 「それは絶対にないわね。あの子にだって仕事があるし、家庭だってある。週一で横須賀に来るのはまあ……来すぎだとは思うけど」

 「わかってるわよ…そんなこと……」

 

 ちなみに、お姉ちゃんは今年で17歳。高校生でもおかしくない歳だけど、16歳になると同時に結婚しちゃったの。カッコカリじゃなくてガチの方ね。

 子供はまだらしいけど、今は周りがどん引きするくらい、家でも職場でも旦那とイチャイチャしてるらしいわ。

 

 「次は明後日くらいだっけ?」

 「普段ならその位だけど今週は来ないわ」

 「どうして?」

 「来週末に先せ…元帥と一緒に来るためにスケジュールを調整するらしいわ」

 「元帥も?もしかして孫の顔を見に?元帥って暇なの?」

 

 一応説明しておくと、現海軍元帥はお姉ちゃんの旦那さんで、円満さんの前に横須賀鎮守府で提督を務めていた人よ。歳は40代前半くらいだったかな?

 お姉ちゃんが16歳になると同時に結婚した事でわかると思うけど、提督時代は知らない人が居ないと言われる程のロリコン。駆逐艦は着任時に『提督と絶対に二人きりにならないこと』と教えられるほどだったわ。

 こう言うとただの変態みたいだけど、提督になる前は陸軍の将校として上陸した深海棲艦と戦い、提督時代は数々の戦果を上げて大将まで昇格した、円満さんに提督のいろはを叩きこんだ先生でもある。

 正式に提督となってからは人前で先生と呼ばなくなっちゃったけど、円満さんが先生って何度も言いかけるのはこのせいね。別に、私の前でくらいは先生って呼べばいいのにって思うけど……。 

 

 「そんな訳ないでしょ。いや…そっちが本命の可能性が高いか……」

 「どういう事?別の目的で来るの?」

 「ええ、大和を見にね。艦娘になる過程は兎も角、戦艦大和は海軍が長門以上に望んでいた艦だから」

 

 ふぅん。その辺の事情には詳しくないけど、今も記念艦として呉に現存する実艦の『戦艦 大和』は、横須賀の『戦艦 三笠』より有名で人気もある艦だもんね。

 その『戦艦 大和』をモデルとした艦娘となれば、存在するだけで軍や民衆の士気は爆上げになる。

 実際、4年前のハワイ島攻略戦で囮として投入された『大和』の映像を見た人達の熱狂ぶりは凄かったらしいし。

 

 「だから、それまでに最低でも浮けるようにはしといてね。砲撃が出来れば言う事無し」

 「いや、何の話?」

 「あれ?言ってなかったっけ?大和の嚮導、アンタにお願いするから」

 「はぁ!?なんで私なのよ!私駆逐艦よ!?」

 

 そういうのは同じ戦艦か軽巡にやらせなさいよ!

 それに、嚮導云々で流しちゃったけど、浮けないってどういう事?養成所に通ってれば、内火艇ユニットを使って浮き方を習うはずなんだけど!?

 

 「あの艤装に使われてる核は少々特殊でね。まだ確証は無いけど、包み隠さずに言うと暴走する危険性があるのよ」

 「そんな危ない艤装なの!?」

 「だから、軽巡じゃなくアンタに任せたいの。今の横須賀には、私の予想が当たった場合に対応できそうな艦娘はアンタと叢雲、それに長門くらいしか居ないのよ」

 「だったら長門さんで良いじゃない。戦艦艤装の扱い方なんて私じゃわかんないんだし」

 「もちろん長門もつけるわ。でも、メインで教えるのはアンタ。引き受けてくれるわよね?」

 

 嫌だ。と言うのは簡単。もし、私が本気で嫌だと言えば、円満さんは絶対に無理強いしてこない。

 だって、これは命令じゃないんだもの。命令すれば簡単に言うことを聞かせられるのに、程度にも寄るけど、私に面倒ごとを頼む時は絶対に命令しない。

 作戦中に予定外の敵が現れた時も、今回みたいに新人の面倒を見させたい時も、円満さんは命令ではなくお願い(・・・)してくる。まあ、お願いでどうにかなる時しかしてこないけどね。

 だけど質が悪い事に変わりはないわ。そうすれば、私が断らないって知っててそうしてるんだから。

 

 「長門さんだけじゃダメな理由は?」

 「長門の教え方が『見て覚えろ』に近いからよ。その教え方はたぶん大和に向かない」

 「その心は?」

 「ただの勘。会ったのは昨日が初めてだけど、大和は体で覚えるタイプじゃなくて、まず頭で覚えるタイプだと思うの」

 

 なるほど。視覚からか聴覚からかは置いといて、大和は理論や理屈は後回しにして、とりあえず実践して覚えて行くタイプではなく、頭で理論や理屈を理解してから実践して行くタイプだと円満さんは判断したわけね。

 だから長門さんではなく、私をメインに据えたいんだ。

 

 「はぁ……。わかったわよ。で?いつから始めたらいいの?」

 「明日からで良いわ。顔見せのために、13:00(ヒトサンマルマル)にここに連れて来るよう朝潮に言ってるから」

 「朝潮に案内させてるの?」

 「ええ、ちょっと確かめたい事があってね」

 「それ…あの子に危険はないのよね?」

 「それは心配しなくていい。大和の監視と朝潮の護衛を兼ねて桜子さんを付けてるから」

 

 それなら安心だけど……。

 桜子さんこと、神藤 桜子(しんどうさくらこ)大佐は横須賀鎮守府に常駐する特殊部隊『奇兵隊』の総隊長で、平時は円満さんの護衛などをやっている鎮守府一のトラブルメーカー&現海軍元帥の愛娘で一児の母。歳は25~6だったと思う。ちなみに、私の料理の先生でもあるわ。

 昨日の出撃もこの人の独断専行よ。

 昨日の出撃のように、普通なら厳罰に処されるような事をしでかしても、現海軍元帥の娘という立場と奇兵隊が培ったコネクションを利用し、更に結果を出す(・・・・)事によって、極端な例だけど町一つを廃墟にしても不問に近い形で処罰されずに済んでいる。

 そのせいで、親や組織のコネを利用して好き勝手する我儘女と思われがちだけど、その実力は本物。

 知ってる人は限られてるけど、初代駆逐艦 神風として艦娘が正式に運用され始める前から戦い続け、4年前のハワイ島攻略戦では敵太平洋艦隊の総旗艦だった中枢棲姫を討ち取っている。

 その時に艦娘を辞めたらしいんだけど、艤装を使えなくなっただけでその戦闘能力は健在。今の横須賀鎮守府であの人を力尽くで止められる人は5人も居ないそうよ。

 

 「逆に言えば、桜子さんをつけなきゃならないほど危険って事よね?」

 「否定はしないわ。だけど、その危険はあくまで可能性が有るという程度。もし何かあっても、艤装を装着していない状態なら桜子さんで対処できるはずよ」

 

 まあそうね。あの人が陸で負けるなんて考え辛いわ。

 何度かお姉ちゃんと喧嘩(拳)してるとこを見た事あるけど、陸でも海でも反則レベルで強いお姉ちゃんと互角以上にやり合ってた…って言うか何回か勝ってたし……。

 

 「事が起こらない事を祈るわ。あの人が暴れたら鎮守府もただじゃ済まないし」

 「そうね……。昨日の戦闘で、熱海街道はしばらく使用不可能なくらい破壊されたらしいしねぇ……。鎮守府もそんな目に遭うと思ったらゾッとするわ」

 「復旧の資金は鎮守府のお金から出すの?」

 「それは奇兵隊の資金から捻出するらしいわ。あの後、一応元帥からお叱りは受けたみたいだから」

 

 お叱りねぇ……。

 あの人の事だから、まともにお説教されたのは精々10分かそこらでしょ?飽きてきたら娘を電話に出させて「じぃじ」と言わせて元帥をポンコツにして逃げるのがいつもの手だもん。

 何度か実際に見たことがあるんだけど、孫に「じぃじ」って呼ばれただけで気の弱い駆逐艦が泣き出すほど怖面の元帥が「はぁ~い♪じぃじでちゅよ~♪」って言いながらデレッデレになるの。本っ当に!気持ち悪かったわ。思い出しただけで怖気が走るレベルよ。

 

 『円満居る~?入るわよ~』

 

 なんとも都合の良いタイミングで本人が来たわね。でもこの人、ノックもするし入室の許可も一応求めるんだけど……。

 

 「まだ入室許可出してないんだけど?」

 「固いこと言わない。私と貴女の仲でしょ?」

 

 そう、艦娘だった頃と同じ紅い髪色のショートボブに奇兵隊特有の黒い軍服、左手に日本刀を下げた桜子さんは許可を求めるけど返事は待たない。だいたい「入るわよ~」って言ってる時点でドアを半分開けてたしね。

 

 「上司と部下ってだけだけど?」

 「あ、そういう事言うんだ。もうお父さんとのデートをセッティングしてあげないわよ?」

 「ぐっ……!」

 

 円満さんと桜子さんは名目上は上司と部下なんだけど、二人の間に上下関係は存在しない。少し違うか。逆転してるって言う方が正しいわね。

 その理由は二つあるわ。

 一つ。

 奇兵隊が円満さんの直属じゃなくて元帥直属の部隊だから。

 よって、出撃の際は円満さんの許可を取らなきゃいけないけど、円満さんに桜子さんへの命令権はないの。お願いは出来るけどね。

 二つ。

 円満さんの想い人が、桜子さんのお父さんである元帥だから。

 さっき桜子さんが言ってたように、デートのセッティングを桜子さんにお願いしてるから、円満さんは桜子さんの玩具と化してるし逆らえないの。

 

 「って言うかさ。いい加減先に進みなさいよ。いつまで呑み友達でいるつもり?」

 「頑張ってはいるんだけど……。ほら、先生って身持ちが堅いから……」

 「関係ないわよそんな事。酔わしたところで裸で迫る位しろっていつも言ってるでしょ?結局呑んで終わりじゃない」

 

 また始まった……。

 会話の切っ掛けとばかりに、桜子さんが円満さんと元帥のデートにダメ出しするってのがいつものパターンなの。親しくない人には絶対に聞かせられない内容だけどね。

 どうしてかって?

 それはさっき言ったと思うけど、元帥はお姉ちゃんと結婚してて、しかも娘の桜子さん、さらにその娘。つまり孫まで居るの。

 円満さんの想い人であり、桜子さんがデートのセッティングをしてる元帥は妻子どころか孫までいるのよ。

 聞いた限りでは肉体関係は無いみたいだけど、その元帥相手のデートなんてオブラートでどう包んでも不倫としか言い様がないわ。

 下手したらマスコミの恰好のネタよ。

 だって海軍元帥と横須賀鎮守府提督の不倫だもん。邪推をする人が絶対に出るし、最悪の場合は辞任に追い込まれる可能性だってある。

 今でさえ、不倫の事実が知られていないにも関わらず、円満さんが若くして提督の地位に就けたのは元帥を体で誘惑なりしたんじゃないかって噂がある程なんだもの。

 もっとも、そうならない様にデートは限られた場所だけで行い、デート中は奇兵隊がその手のパパラッチ等を物理的に排除してるんだけどね。

 

 「次は来週にする?お父さんもここに来るんでしょ?」

 「来るけど無理でしょ。どうせ、仕事が終わったら孫に付きっ切りよ」

 「キモいくらいデレデレになるもんねぇ。私の娘だから可愛いのは当然だけど、あれだけベタベタされたら私の立場がないわよ」

 

 それは娘としてなのか、それとも母親としてなのか。

 まあ、それは兎も角。

 この人、父親が不倫してるのにその手伝いまでしてるなんて不思議に思わない?思うわよね?

 実はこの不倫、妻子公認なの。大事なことだからもう一回言うわね。()子公認なの。

 つまり、元帥の奥さんあるお姉ちゃんも認めてる不倫なのよ。その事を知らないのは当の元帥だけ。

 だったら桜子さんが言う通り、サッサとやる事やっちゃえいいじゃないってなるけど、円満さんがヘタレなのか元帥が鈍感なのか、この関係が始まって3年以上経つけどまっっっっったく進展無し!

 円満さんったら、デートから帰ってくる度に「また何も出来なかった……」って落ち込むのよ。

 それがまたすんごいウザいの。だって私が慰めなきゃいけないんだもん。

 

 「まあ、元帥の爺馬鹿っぷりは置いといて、そろそろ本題に入ってくれない?私は朝潮の護衛をお願いしてたはずだけど?」

 「失敗したから撤退して来た」

 「失敗した?貴女が?」

 「うん。たぶん寮を出たくらいから尾行に気づかれてたわね。お腹が空いてちょっとイラッとしたら尾行されてるのに確信を持たれて、カマかけに釣られたせいで居場所までバレちゃった」

 「それだけで撤退?桜子さんらしくないわね」

 

 確かに。居場所がバレただけで撤退なんて桜子さんらしくない。

 いつもの桜子さんなら「バレたんなら気絶させよう」もしくは「尾行されてたのを忘れるまで殴ろう」くらい言いながらそれを実行しそうなものだけど……。

 

 「ねえ。貴女に貰った彼女のプロフィールには旅館の娘って書いてあったわよね?」

 「ええ、間違いないわ。澪が調べてた物で裏付けは途中だけどその辺は間違いないはずよ」

 「旅館の娘って武術もやるの?」

 「武術?日本舞踊の間違いじゃなくて?習い事で日本舞踊を習っていたって情報はあったわよ?」

 「ええ、間違いじゃない。舞や踊りの技術は武道と通じる所が多々あるけど、あれはそんなレベルじゃないわ。私にカマをかけるためにしたあの動きは武道ではなく武術。人を殺すための技よ」

 

 あの大和が武術を?しかも、達人レベルの桜子さんに撤退を決意させる程の使い手ですって?昨日見た限りではそんな素振りは微塵も…ただの能天気なお嬢様って感じしかしなかったけどなぁ。

 

 「朝潮は無事なのよね?」

 「それは確認して撤退したから安心していいわ。朝潮への害意もなかったしね」

 「なら良いわ。朝潮への害意が無い事が確認できただけでも大収穫よ」

 「次は大淀(・・)と会わせる気?」

 「……それは元帥と相談してからにするわ。もし、アイツの意識が大和に影響を及ぼしているのなら、かつてアイツが愛し、アイツに引導を渡した元朝潮である大淀に反応するかもしれないから」

 

 アイツ?アイツって誰?もしかして、『戦艦 大和』の艤装の核になった深海棲艦の事?しかもお姉ちゃんが引導を渡したですって?それってまさか、『大和』の核にはあの戦艦水鬼の核が使われてるんじゃ……。

 

 「円満さん。一つ聞いていい?返答次第じゃ大和の嚮導を断るわ」

 「……アンタが察してる通りよ。『大和』の核には、アンタの友人の仇である戦艦水鬼、個体名『窮奇』の核が使われている」

 

 やっぱり……。

 円満さんは『大和』の核になった窮奇が、艦娘になる前の私の唯一の友達だった涼風の仇だと知ってて大和の嚮導を頼んだのね。

 

 「あ~……。満潮の前でこの話するのまずかった?」

 「構わないわ。今日会わせたあと、満潮にはちゃんと言うつもりだったから」

 「なら良いんだけど……」

 「満潮、断るならそうしてくれて構わないわ。けど…できる事なら……」

 

 これは願ってもないチャンスだわ。

 もし窮奇の意識が残ってて、それが表に出て来て敵対する素振りを見せたら堂々と殺って良いんでしょ?だったら喜んで引き受けるわ。お姉ちゃんが倒したと聞いた時に諦めた、私の本来の戦う理由が復活したんだから。

 けど、そうなると今のまま(・・・・)じゃ無理ね。

 私と円満さんの『命令した時に限り、全力を出す事を許可する』という約束のせいで、私は全力を出す事を禁じられているんだもの。

 別に拘束力はないんだけど、私は円満さんとの約束を破りたくはない。

 だから命令してちょうだい。今度はお願いじゃなく、ちゃんと命令して。

 

 「円満さんらしくないわね。やってほしいこと、ちゃんと言いなさいな」

 「……わかった。駆逐艦 満潮に戦艦 大和の嚮導及び、暴走時の処分を命じます。それに伴い、非常時には全力戦闘を許可します」

 「了解。やってあげるわ。しかも、全力で!」

 

 最初聞いた時は乗り気じゃなかったけど、今は自分でもビックリするくらいヤル気に満ちてるわ。

 久しぶりに全力で戦う機会が来るかも知れないというだけじゃない。諦めてた仇討ちが出来るかもしれないし、お姉ちゃんにどれだけ近づけているかを確かめる事も出来る。

 だから大和、私の期待を裏切らないでね。

 嚮導はちゃんとやってあげるから、アンタもちゃんと暴走するのよ?じゃないと……。

 

 「暴走してもしなくても、地獄を見せてやるんだから」




 
第四話後書きに次章予告を追加しました。
某ステプリの次回予告のオマージュです。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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