艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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 7章ラストです。
 8章開始は……いつになるんだ?
 過労死するほうが先かも( ̄□ ̄;)


第六十九話 幕間 円満と長門

 

 

 

 西村艦隊よる敵艦隊背後への奇襲が成功して丸一日。

 満潮の救助とその後の面倒を大淀に任せて、私はラバウル、ブイン、ショートランドの三基地をどう攻略しようかと提督居室で考えていた。

 偵察艦隊の情報では、ラバウル基地は現在約100隻程の敵艦に包囲されているらしい。

 ブイン、ショートランドも同じく、同程度の規模の敵に包囲されている。

 

 「仕事熱心ね。あまり根を詰め過ぎると倒れるわよ?」

 「長門……さんか。入るのは良いけどノックくらいはしてちょうだい」

 「しても返事がなかったから、倒れてるんじゃないかと心配になったのよ」

 「そう、それはごめんなさい。ちょっと考え事をしてて」

 「三基地をどう攻略するか……ね?やはり制圧されていたの?」

 「いいえ、たぶん完全には制圧されてない」

 

 満潮の言う通り、少しは楽観的に考えるのも必要かもね。まさか、敵の侵攻開始から2週間以上も持ち堪えているとは考えなかったもの。

 

 「戦艦と空母による遠距離攻撃。後に、水雷戦隊による強襲。が、無難かつ確実かな」

 「三基地同時に?」

 「まさか。まずはラバウル基地を解放する。後に、ブイン基地とショートランド泊地を包囲してる敵艦隊を南北から逆に包囲する」

 「電撃戦か。なら、スピード勝負ね」

 「ええ、ワダツミは止めない。ラバウル基地を包囲している敵艦隊を移動しながら殲滅するわ。その足で、残りの両基地へ向かう」

 

 艦娘達にはまた無理をさせなきゃならない。

 その日の内に、都合200以上の敵と戦わなきゃいけないんだから。

 

 「三基地の提督達には感謝しないとね。陥落し、棲地化していたらこちらの余裕が無くなっていたわ」

 「そうね。もう少し信じるべきだった。これなら……」

 「円満」

 「わかってる。ちょっと迷っただけ」

 

 わかってはいるけど、つい考えてしまう。

 私が南方の人達を信じ切れなかったから余計な犠牲が増えたんだって。

 恐らく、今回の作戦で三基地が陥落していないのはラバウル提督の手腕によるものでしょう。

 きっと、包囲網構築が釣り餌だと気づき、秘密裏に地下壕か何かを建設して立て篭もり、今も抵抗を続けてくれてるんだわ。

 

 「過ぎた事を悔やむ余裕なんて、今の貴女にはないでしょう?」

 「うん、ない」

 

 今、私の手元には敵の侵攻開始から今までに戦死した者達のリストが広げられている。

 私が先生に渡した戦死予定者リストと九割方同じ内容となっているリストを。

 これを見る度に胸が張り裂けそうになる。自分の首を掻き切りたくなる。死んで償える罪ではないとわかっていても、死にたくなる……。

 

 「また、抱いてあげましょうか?」

 「言い方。それじゃあ私と貴女がそういう関係みたいじゃない」

 「そう言われてみれば……。いやいや、円満が欲求不満だからそういう風に考えてしまうだけよ」

 「人を飢えてるみたいに言わないで。って言うか、いつまで素でいる気?」

 「『長門』でいるのは疲れるのよ。私の素を知ったのが運の尽きだと諦めて」

 

 だから、私が仕事中だとわかってて居座っていると?

 邪魔をしないから構わないけど、人がいると落ち込めないからかえって辛いんだけどなぁ。

 

 「そんな迷惑そうな顔をしないで?心配しなくても、私が入り浸るのは満潮が復帰するまでだから」

 「じゃあもう少しね。早ければ明後日には復帰するはずだから」

 「そうね。だからそれまでは、みんなの代わりに貴女を支えるわ」

 「みんな?」

 

 みんなって誰?それに私を支えるって……。

 もしかして長門さんは、私の心が折れないよう、自分が居ない間の事を満潮に頼まれてたのかしら。いやでも、長門さんは『みんな』って言ったわよね?

 

 「そう、みんな。桜子や、今は軍監として第7艦隊に同行してる辰見と叢雲。そしてもちろん、満潮からも」

 「信用されてないなぁ……。私、そんなに弱い?」

 「いいえ、貴女は強い。武蔵の件で思い知ったけど、私じゃ貴女みたいに堪えられない。素直に凄いと思ったわ。でも、強すぎるとも思った」

 「強すぎる?」

 「そう、貴女は強すぎるの。だから、仲間の死に堪えれてしまう。でも限界は必ずあるわ。だから、私達は貴女の気持ちの捌け口として支えるの。貴女が限界を迎えないように」

 

 限界を迎えないように……か。

 たしかに、私一人だったらとっくに限界が来てた。

 桜子さんがいなかったら先生を想いすぎておかしくなっていたでしょうし、辰見さんがいなかったら失恋を受け容れる事も出来なかった。長門さんが半分背負ってくれなかったら武蔵の死に堪えられなかったし、満潮がいなかったらとうの昔に拳銃で頭を撃ち抜くくらいしてたでしょう。

 私は、みんなに支えられてる。

 そんな事を今さら理解するなんて、私は本当にバカだわ。

 

 「そういう面を見せていれば、大淀に毛嫌いされる事もなかったでしょうに」

 「あ、あれはそのぉ……。私って元々可愛いモノが好きだからそれで……」

 「それで、大きくなった大淀を見限って今の朝潮に鞍替えしたの?」

 「そ、そんな事は……無いとも言えないわね。でも、私が今の朝潮に拘ってるのは別の理由からよ」

 「へぇ、興味あるわね。聞いても良い?」

 

 頬をポリポリ掻きながら話そうか悩んでるわね。悩むって事は、やっぱり不純な理由なんじゃないの?

 

 「一言で言うと、放っておけない。かな」

 「放っておけない?あの子、度が過ぎて真面目ではあるけど私生活もしっかりしてるわよ?」

 「それが放っておけない理由よ。あの子はあの歳でしっかりし過ぎてる。いいえ、キッチリし過ぎてるって言った方が良いかしら」

 「キッチリ……か」

 

 言われてみればたしかに心当たりがある。

 度が過ぎて真面目と片付けるのは簡単。でも今言ったように、朝潮の真面目さは度が過ぎている。

 満潮を大和の嚮導としてつけている間、残りの八駆の三人に交代で秘書艦をしてもらった時に、あの子の異常な程の真面目さに始めて気づいた。

 

 あの子が書く文字は判で圧したように全く同じ。僅かでもズレたりすれば新たに書き直そうとする。

 書き直しが不可能な場合は始末書を書くし、「私は秘書艦失格です」と言って憲兵のところに行こうとする。

 書類を書き損じたから逮捕してくださいと言われたら憲兵も困るわよ。と、言って宥めたけど本人は納得出来なかったらしく「な、ならば司令官が罰を!」とか言ってお尻を差し出すの。

 真面目と言うよりは臆病と言った方が良いのかもしれないわ。たぶんあの子は……。

 

 「失敗を異常に恐れている。私にはそう思えるの」

 「長門さんも、そう思う?」

 「ええ、あの子がどういう育ち方をしたのかは知らないけど、きっと躾の厳しい家で育ったんでしょうね」

 「半分正解」

 

 あの子の艦娘になる前の経歴は養成所の段階で調べられている。

 躾が厳しい家だったのは合ってるわ。でも、あの子が受けた躾は虐待と言っていい。

 あの子の家は裕福とは言えない。いえ、ハッキリ言うわ。貧乏だった。

 その事に、あの子の両親はコンプレックスを抱えていたのか、貧乏だと馬鹿にされないようあの子を躾けた。

 でも、その躾は度が過ぎていた。

 養成所の調べでは、あの子は何か失敗する度に殴られ、真冬に冷水を浴びせられ、外に放置されたこともあったそうよ。児童相談所も動いたレベルだったんだとか。

 そんな目に遭わされていたのに、あの子の志願理由は「両親を金銭的に助ける」事だった。

 そんなあの子に、養成所の職員はこう尋ねた。

 「虐待されていたのにどうして?」と。

 いや、もうちょっとオブラートに包んで言いなさいよとも思ったけど、あの子は不思議そうに職員を見た後こう言った。

 「親が困っているときに子が助けるのは当然じゃないですか」と。

 いやぁ、出来た子だ。と、その話を聞いた直後は思ったわ。でもその続きが、その感想を180度変えてしまった。

 あの子は親の反対を押し切って艦娘になったんだと思っているようだけど全く違う。

 あの子は売られた。

 あの子の両親は、あの子の歳でもお金を稼ぐことが出来る『艦娘』という仕事があることをさり気なく、例えばニュースを見せるなりして吹き込み、計画通りにあの子が「艦娘になる」と言い出すや反対し、親の反対を押し切って艦娘になったんだとあの子に思い込ませた。

 その証拠に、あの子の両親はあの子が養成所の門を叩くより前に、あの子が艦娘になれるかどうかを尋ねていたらしいわ。両親のどちらかに、かつての艦艇のいずれかとの縁が有れば艦娘になれる可能性があるからね。

 もっとも、艦娘になれる条件は一般には公開されていないから、あの子の両親は髪の毛やら爪やらを持ち込んだんだってさ。

 

 さらに裏付けとして、あの子の両親はあの子の仕送りを振り込まれた週に使い切るような生活をしている。

 ギャンブルは当たり前だし、無駄な買い物や旅行等々、数え上げたら殺したくなるわ。

 

 「そんな……酷すぎる!あの子は純粋に親の事を想って……!」

 「これでもマシな方よ。もっと酷い目には遭ってる駆逐艦はいっぱいいる」

 「だから何もしないって言うの!?」

 「長門さん、ちょっと落ち着いて。何もしてないなんて言ってないでしょ?」

 「じゃあ、そういう子の退役後の対策はしてるのね?」

 「当然よ。もっとも、先生がそうしてたんだけどね」

 

 具体的に言うと、朝潮のような境遇の子が退役を選択した場合はその時の両親の素行調査を行い、その調査結果をその子に報せ、二通りの進路を提示する。

 一つ。

 戸籍を復活させて両親の元に戻るか。

 二つ。

 新たに別の戸籍を取得し、艦娘になる前とは全くの別人として生きるか。二つ目の場合は、両親にはその子が戦死したと伝えられる。

 

 「そんな制度があったのね。知らなかったわ」

 「知らなくて当然よ。長門さんのような上位艦種にはほぼ関係ないし、こんな制度一般には公表できないからそういう境遇の子が退役を選択した場合にその子のみに伝えられる。要は例外みたいなモノよ。私自身、提督になるまで知らなかったわ」

 

 もっとも、大半の場合は親元に戻るのを選択するそうだけどね。その後がどうなるかはその子次第。さすがに、軍を離れて一般に戻った後は介入が難しいから。

 

 「円満も、そうだったの?」

 「心配しなくても私は孤児よ。空襲で両親を亡くして、気づいたら養成所に居たわ」

 「そう……」

 「辛い想いをしたのね。なんて言わないでよ?こんなの、駆逐艦じゃよくある話なんだから」

 

 あらら、長門さんが絶句しちゃった。

 私が自分の境遇を軽く言ったから呆れてるのかしら。でも仕方ないのよ?さっきも言ったけど、親を亡くして養成所に流れつくなんて駆逐艦にとっては普通の境遇なの。私が艦娘になった頃なんて別の境遇の子の方が珍しかったわ。

 まあ、それよりも。こんな話をしたもんだからなんだか……。

 

 「湿っぽくなっちゃったわね」

 「そうね……。ごめんなさい。私のせいだわ」

 

 今さらだけど違和感が凄いなぁ。

 こっちが素だとか言ってたけど、最近まで普段の『長門』しか知らなかった私からしたら別人にしか見えないわ。

 だていつもは無駄に胸を張ってるゴリラなのに、今の長門さんは気弱でお淑やかなんだもの。

 

 「そっち(・・・)なら男にもモテそうなのに、どうして幼女にしか興味がないの?」

 「べ、べつに幼女が好きなわけじゃ……」

 「でも、朝潮を追いかけ回してるよね?」

 「あれはそのぉ……。そ、そう!あの子と遊ぼうとしてるのよ!」

 「意味深に聞こえるなぁ。それに、部屋中あの子の写真だらけって噂を聞いたんだけど?」

 

 あ、冷や汗流して目を泳がせてる。どうやら噂はマジっぽいわ。

 先生もそうだったけど、どうして朝潮が好きな人は写真とかを撮りたがるんだろ?ロリコンってそういう習性があるのかな。

 

 「まあ、ほどほどにしといてよね。あの子も嫌がってるし、下手すると大和を敵に回すことになるわよ?」

 「ふ、ふん!大和ごとき遅れを取るほど私は弱くは……」

 「大和って、あの大淀を素手で痛めつけたのよ?勝てる?」

 

 むむむ……。とか言って腕を組んで悩んでるけど勝てないでしょ?あの子って、桜子さんとガチ喧嘩した上に勝ったこともあるのよ?

 長門さんが女性とは思えないくらい筋肉ムキムキでも勝てるなんて考えられないわ。

 

 「そ、そう言えばだ!大淀はどこで使うつもりなんだ?私が知ってる限りだと瑞鶴の捕縛と満潮の救助くらいしかさせていないだろう」

 「あ、話逸らしやがった。しかも『長門』になってるし」

 「い、いいだろうべつに!で?どうなんだ?」

 「……正直に言うと使いたくない」

 「使いたくない?演習の件で険悪なままだからか?」

 「それもなくはない」

 

 でも違う。作戦中である以上、私情は挟まない。

 一人で一艦隊分の働きをするあの子を使えば戦闘が楽になるのはわかってるわ。

 でも、あの子がこの作戦に参加してるのに違和感を感じるから使いあぐねてるの。

 

 「気持ちはわからなくもないが、大淀が戦線に出れば……」

 「言わなくて良いわ。言いたい事はわかってるから。それに、それを理由にして使わないんじゃない」

 「なら、どうしてだ?」

 「あの子、たぶん先生に何か命じられてるわ」

 「元帥に?」

 「ええ、それは恐らく後の戦況を左右しかねない」

 

 何を命じたのかまではわからない。

 勘ではあるけど、あの子の何かを隠してそうな態度からそう感じる。

 有力なのは、窮奇を内に秘めている大和の暗殺。

 先生からすれば、窮奇は先生の婚約者だった初代朝潮の仇であり、大和は現在進行形で大淀を恨んでる厄介者だもの。戦闘の混乱に乗じて始末しよう。くらいは考えててもおかしくないわ。

 

 「まあ、最悪の場合は出すわ。それまでは雑用に専念してもらう」

 「海軍最高戦力である大淀を雑用で使うか……。正直その……」

 「もったいないとは思ってる。でも、あの子を使えば最悪以上になりかねない」

 

 窮奇との約束もあるし、どこかしらで使う必要もあるしね。

 でも、それより今は大淀をどう使うかよりも三基地の救助の方が先決。

 算段は大方ついたから、後は参加させる各艦隊に説明ね。

 

 「長門、各艦隊旗艦に、1時間後にブリーフィングルームに集まるよう伝えてちょうだい」

 「どう攻めるか決まったのか?」

 「ええ、明朝、ラバウル基地を包囲している敵艦隊を強襲する」

 

 作戦開始は夜明けの一時間前。

 ラバウル基地の北西、マン島沖まで進んだワダツミから第一主力部隊と第一遊撃部隊第二部隊を出撃させ、ラバウル基地を包囲中の敵艦隊に対して長距離艦砲射撃。後に、随伴艦隊による雷撃で兎に角数を減らす。

 敵はラバウル基地に上陸するため、団子に近い状態になってるはずだから、距離さえ間違わなければ目を瞑ってたって当たるはずよ。

 その後、随伴艦隊を残敵掃討のために残し、さらに後詰めとして第一機動部隊も出撃させ、ラバウル基地を解放する。

 

 次は、そのままニューアイルランド島とニューブリテン島の間を通ってブイン、ショートランドを目指し、ブーゲンビル島北端に到達後、足の速い第二遊撃部隊と第二主力部隊を島南側の海岸線沿いに進ませる。

 ワダツミは逆に北側を進むわ。

 後は折を見て残りの艦隊を出撃させ、先に出撃させていた二艦隊と共に、ブイン、ショートランドを包囲している艦隊を南北から挟撃、逆包囲する。

 

 「明日の昼までには終わらせるわ。気合入れてよね。長門」

 「任せておけ。満潮の代わりに、私がしっかりと遂行してやる」

 

 長門の頼もしさをありがたいと感じる反面、私は言いようのない不安に襲われた。

 作戦は順調。艦隊の消耗も想定以下。

 たぶん、作戦自体はこのままほぼ予定通りに終わる。

 私を不安にさせているのは大淀。もっと言えば先生。頭をよぎってしまった先生の思惑がいくら考えてもわからない。

 先生はいったい何を企み、私に何をさせようとしているの?私に、どこへ連れて行けって言うの?

 

 

 

 

 




次章予告。


 大淀です。

 艦娘運用母艦ワダツミで敵残存艦隊を掃討しながら渾沌を探す日本艦隊。
 一方、ヘンケン提督率いる第7艦隊は辰見さんが予想だにしない方法で南方中枢(どことなく吹雪さんに似てますね)を追い詰めます。
 さらにその一方で、人知れず開始される小規模な夜戦。
 爆音と砲声が轟く海域で再び風が吹き荒れます。かつて戦場を駆け抜けた緋色の風が。
 そして、私と大和さんは……。

次章、艦隊これくしょん『光と影の戯曲 (ドラマプレイ)
お楽しみに。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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