艦隊これくしょん ~ナデシコの咲く丘で~   作:哀餓え男

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第七十一話 駆逐艦神風。進発します!

 

 

 バカじゃないの!?

 が、その時の素直な感想よ。と言うか、実際にそう言った。

 提督が書いた命令書に従ってジャワ海まで行き、こちらが捕捉されるよりも先に敵艦隊を捕捉できたのに、あろう事かあの子達は敵艦隊の前に立ち塞がったの。

 

 そう!今の青木さんみたいに「はぁ?」って感じの顔を私もしてたわ。

 せっかくの奇襲のチャンスだって言うのに、あの子達は真上に照明弾を打ち上げて自分たちを照らして名乗り口上を始めたの!こんな感じで!

 

 魚雷に平和の祈りを乗せて!

 

 灯せ正義の探照灯!

 

 例えこの身が朽ち果てようと!

 

 守ってみせるさ輝く未来を!

 

 五省に反せず一致し努力する!我らが抱くは水雷魂!臆さぬならばかかって来なさい!

 

 全艦抜錨!合戦用意!我ら水雷戦隊!

 

 カミレンジャー!

 

 てね!

 え?私もやったんじゃないかって?

 そりゃやるわよ!やらざるを得なかったもの!って言うかもう、照明弾が上がった瞬間にヤケクソになってたし!

 

 いやぁ……。今思い出すと痛いなぁ色々と。

 今週のカミレンジャーでその夜の事が再現されててさ。亭主と二人で「今見てもやっぱりバカだわ」って呆れながら見てたもの。

 

 五人とは今でも会うのか?

 会う、と言うよりはお店に来るわね。ほら、神風なんて今は桜子さんと暮らしてるでしょ?

 だから、桜ちゃんとの散歩がてらに寄ってくれるし、撮影がない日は一日中5人で入り浸ってる事もあるわ。

 うちはサービスでお客さんにコーヒーを出してるからそれ目当てでね。

 

 たまには1台買ってけって言ってるんだけど……ってそうだ!青木さん1台買ってよ!今なら消費税分はオマケするからさ!

 ね?いいでしょ?カブって便利よ?燃費は良いし丈夫だし。

 それとインタビューに協力したんだし、艦娘時代に恥ずかしい写真も撮られたし!

 あ、思い出したら腹立ってきた……。

 何よ『生まれたての矢矧』って!私、今だにアレをネタにしてイジられるのよ!?

 だからお詫びに10台ほど……ってちょっと、どこ行くのよ。まだ話は終わってな……って待ちなさい!待てコラ!青木ワレェェェェェ!

 

 

 ~戦後回想録~

 元軽巡洋艦 矢矧へのインタビューより。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 『バカじゃないの!?ねえバカじゃないの!?せっかく奇襲するチャンスだったのにぃぃぃぃ!』

 

 と、若干泣きが入った矢矧さんの声が無線を通じて聞こえてきます。

 いやほら、私もチャンスだとは思ったんだけど、正義の味方である私たちカミレンジャーが奇襲なんて格好がつかないでしょ?

 それに、名乗り口上は戦隊で一二を争う見せ場なのよ?それをやらないなんて有り得ないわ!矢矧さんだって、文句言ってる割にノリノリでやってたじゃないですか。

 

 「文句なら後でいくらでも聞きます!今は朝風達に指示を!」

 『わっかってるわよ!松風!二時方向に探照灯を3秒だけ照射!朝風、春風はそこに魚雷を撃ち込みなさい!旗風は松風と敵艦隊を挟んだ反対側1000mに移動して探照灯照射準備!』

 

 了解!と、各々の声が無線を通じて鼓膜を震わせる。

 どんな指導を受けたのかは謎だけど、金髪さんに指揮の仕方を習った矢矧さんは見違えたわ。

 一番変わったのは、私たちに対しての遠慮が無くなった事かしら。さっきのでもわかる通り、指示中の気迫は歴戦の軽巡洋艦に勝るとも劣らないわ。

 

 『ナ級二隻の撃破を確認!松風はそのまま真っ直ぐ進みなさい!旗風は10時方向へ5秒間探照灯を照射!朝風と春風は照らされたナ級に砲撃!魚雷の再装填を忘れるんじゃないわよ!』

 

 そしてこの戦術。

 朝風、春風、松風、旗風の四人は全員探照灯を装備している。

 矢矧さんが夜偵を使って敵の位置を探り、そこに向かって誰か一人に数秒間だけ探照灯を照射させて、夜偵からの映像を見ることができない私たちに間接的に教える。

 しかも数秒間しか照射しないし、そう時を置かずに別方向から照射させるから誰か一人にターゲットが集中し辛い。

 対して深海棲艦たちは、コロコロ変わる探照灯の照射位置に翻弄されて混乱し、隊列を乱して手当たり次第に砲撃や雷撃を繰り返している。

 

 『ナ級中破!朝風は11時!春風は2時方向へそれぞれ転進!松風は5時、旗風は7時に魚雷発射!』

 

 私はと言うと、夜偵からの映像と指揮に集中している矢矧さんと敵艦隊の中間位置で待機してるわ。

 正直に言うと戦闘に参加したいけど、朝風たち四人の癖を把握し、最低限の指示を与えるだけで最大限の効果を発揮させてる矢矧さんの護衛兼、誰かが戦闘不能になった場合の交代要員にならなくちゃいけないから我慢してるの。

 反対を押し切って名乗り口上やっちゃった負い目もあるしね。

 

 『駆逐棲姫大破!春風!9時に3秒!残りの三人は砲撃を集中!』

 

 遠目だからハッキリとは見えないけど、先の魚雷で大破した駆逐棲姫に砲撃が集中し、爆散したように見えた。中破してたナ級にも流れ弾が当たって大破したわ。

 

 『朝風、魚雷再装填完了!』

 『春風、上に同じです』

 『僕もOKだよ!』

 『旗風も完了です』

 

 次に狙うとしたらどれだろう?

 ほぼ無傷の重巡棲姫?それとも手負いのナ級?もしくは、私たちが撃破を命じられた、ギリシャ彫刻みたいな外見の起爆棲姫?

 

 『目標!起爆棲姫!朝風5時!春風10時!松風は6時!旗風は9時へ魚雷発射!』

 

 お見事。

 と、素直に賞賛するわ。

 魚雷の再装填時間を考慮して敵の数を減らしながら敵を中心に四人で包囲。からの、本命である起爆棲姫への集中攻撃。

 付け焼き刃とは思えない程の手際の良さよ。

 

 『起爆棲姫への着弾を確認!四人は警戒しながら様子を見て!神風、ナ級がはぐれてこちらに向かってる。始末して!』

 「了解。待ちくたびれたわ」

 

 私の前方、約2000mに上がった火柱に照らされて、ナ級が向かって来てるのが目視で確認できた。

 あちらから私が見えてるんでしょうね。

 だって、私に食い付かんばかりの勢いで突撃して来てるもの。

 

 「駆逐艦神風。敵を駆逐します」

 

 沈みかけの手負いが相手ってのが少し不満。

 でも、今日の調子を計るにはちょうど良いわ。

 だから、ほんの少し可哀想だとは思うけど全力でやってあげる。

 

 「まるで猪ね」 

 

 私は砲撃をしながら突撃して来たナ級を。『水切り』三回で右方へ回避。さっきまで私が居た場所を、ナ級が陸に打ち上げられた魚みたいに通りすぎていったわ。

 

 「調子は悪くない。むしろ良いわね。よし!」

 

 私は左旋回して再度私に突撃しようとしているナ級に砲撃し、動きが鈍ったところで魚雷を撃ち込んで撃破した。

 手応えは皆無と言って良いけど、調子は確認できたから良しとしましょう。

 

 「矢矧さん、起爆棲姫は?」

 『まだよ。厄介な奴が邪魔してくれたわ』

 「重巡棲姫。ですね?」

 『ええ、怒り心頭みたい。「ウヴェアァァァァ!」とか言ってやかましい事この上ないわ。今、朝風達が砲撃しながら牽制してくれてる』

 

 ふむ、護衛対象である起爆棲姫がピンチだから怒るのはわからないでもない。

 でも、私たちだって必死だ。

 円満さんが私たちに託した命令書の最後には「貴女たちに全人類の命運が掛かってる」と書かれてあった。

 その意味は、発見した敵艦隊に起爆棲姫が含まれていたことでわかったわ。

 円満さんの本命は最初からこっち。

 敵本隊の迎撃も、第7艦隊による南方中枢への攻撃も全て陽動。

 敵指揮艦が自艦隊を盛大な囮にして起爆棲姫をこちらに差し向けたように、円満さんも敵本隊の迎撃作戦を囮にして私たちをこちらに差し向けたんだ。

 

 「でも、円満さんの方が一枚上手だったようね」

 

 重巡棲姫と駆逐棲姫。さらにナ級をも含んだ艦隊は確かに精鋭と言える。

 実際、朝風達と戦ってる重巡棲姫は強いわ。

 足手纏いでしかない護衛対象がいるにも関わらず、自分の被害など考えてないようにその身を盾にしつつも、持てる砲火力を遺憾なく発揮して朝風達を圧倒してる。

 でも、私たちの方が強い。

 

 「矢矧さん。他に敵の反応は?」

 『無いわ。この海域にいる敵はあの二隻だけよ』

 「じゃあ、サッサと片づけて帰りましょう」

 『それが出来れば苦労は……。何か、策があるの?』

 「有ります」

 

 目的はともかくアイツも……彼女も必死に戦ってる。与えられた任務が失敗するかどうかの瀬戸際で戦ってる。

 傲慢かもしれないけど、そんな彼女に敬意を払いたいと思ってる私がいるわ。

 いえ、少し違う。

 私は、彼女に勝ちたいと思ってる。

 

 『シズメ……シズメェッ!』

 『矢矧さんどうするの!?このままじゃ……くぅ!魚雷を食らったわけじゃない!こんなんで…沈むもんかっ!』

 『春風!探照灯を照射して注意を引いて!旗風は砲撃を続行!松風は朝風を救助して!』

 

 朝風が被弾したみたいね。

 まだ動けるみたいだけど傷は浅くなさそう。中破ってところかしら。

 

 「神風、あの四人は損傷が増えてきてるし残弾も少ないわ。私たちも前に出るわよ」

 「ねえ、矢矧さん。彼女、私たちの名前を憶えてくれてるかな?」

 「こんな時に何言ってるの?朝風たちがピンチなのよ!?」

 「そんなに怒らないでください。ちょっと聞いてみただけですから」

 

 私のすぐ隣まで来た矢矧さんの言う事ももっとも。

 本当ならすぐさま朝風たちの援護に向かうべきだわ。それなのにどうでもいい質問をされたら怒りたくもなるわよね。

 

 「私が探照灯で引きつける。だから神風は隙を見て攻撃して」

 「わかりました」

 

 矢矧さんは私から見て2時方向へと舵を切りながら探照灯を重巡棲姫へと照射した。

 みんな必死に戦ってる。

 朝風たちは実質駆逐隊で姫級3隻を含む艦隊と戦い、重巡棲姫と起爆棲姫以外を沈めて見せた。

 これだけでも誇るべき戦果だわ。

 

 「私は何をした?何をする?」

 

 私はそう言いながら単装砲を投げ捨て、魚雷発射管をパージした。

 朝風たちの攻撃に被弾した彼女を見る限り、彼女の装甲は厚い。装甲値は200に迫るか、もしかしたら超えてるかもしれない。

 ならば、単装砲も魚雷も必要ない。

 当たったところで決定打にはならない。

 だったらただの重りでしかない単装砲と魚雷発射管を捨て、少しでも体を軽くする!

 

 「駆逐艦神風。進発します!」

 

 私は左腰に差した日本刀の鞘を左手で少しだけ引き抜き、柄に右手を添えて前傾姿勢を取り、トビウオで加速した。

 

 「神風より旗艦 矢矧に意見具申。私が突っ込むまで起爆棲姫は沈めないで、朝風たちには魚雷を再装填させて」

 『突っ込む?突っ込むって何をする気!?』

 「神風()を吹かせます」

 『風!?風って何よ!答えなさい神か……!』

 

 私は通信を切った。

 だって邪魔だもの。今の私は重巡棲姫を倒すことしか考えたくない。先輩に授けられた日本刀()神狩り()で彼女を倒したい!

 

 「覚悟しなさい重巡棲姫。私がこの戦場に、神風を吹かせてあげる!」

 

 彼女までの距離は軽く1000m。無線を閉じてる私の声が彼女に届くわけがないのに、そう言わずにはいられなかった。

 でも、声は届かなくても私には気づいたみたい。

 矢矧さんの探照灯に照らされた彼女が、今なお攻撃を続けている朝風たちより私に注目してるもの。

 

 「撃ってきたわね。でも、まだ大丈夫。まだ脚技を使うほどじゃない」

 

 朝風たちの攻撃のせいもあるんだろうけど、彼女の砲撃は私を捉えきれずにいる。

 500mを切るまでは舵操作だけでなんとかなりそうだわ。

 

 「援護します。お姉様はそのまま邁進してください」

 「ありがとう春風。じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうわ」

 

 いつの間に近づいて来たのか、私と併走しながらそう言った春風はトビウオで11時方向へ加速し、単装砲で攻撃を再開した。

 他のみんなも、矢矧さんまでも、重巡棲姫の砲撃が私に集中しなよう、お腹から伸びている重巡棲姫の砲や起爆棲姫に攻撃して邪魔してくれてる。

 

 「さあ、追い込むわ」

 

 距離は300m。

 私は刀を鞘から抜いて、右肘を後ろに引いて刃を上にし、切っ先に左手をレールのように添えて重巡棲姫に向けた。

 今から放つのは神狩り。

 誰よりも弱かった先輩が、強者を倒してでも生き残ろうと編み出した悪足掻きの集大成。

 

 先輩が最初に、お手本とばかりに見せてくれた時は叢雲さんの魔槍と同じだと思った。違いがわからなかった。

 でも次に、私に向けて放っくれたことで違いが理解できたわ。

 結果だけ言うと、神狩りを受けた私の装甲はガラスのようにパリンと音を立てて砕け散ったの。

 

 「神狩りは魔槍のように、切っ先に集めた力場と突進力で無理矢理装甲を貫く技じゃない」

 

 神狩りは言わば装甲破壊術。

 稲妻の突進力で、力場を集約した切っ先を相手の装甲に潜り込ませ、十分に潜り込んだところで集約していた力場を解放する。

 そうすると、相手の装甲は潜り込んだ切っ先を起点に、放射状に崩壊するの。

 その後の刺突は、言うなればただのオマケね。

 

 「先輩は凄い。こんな、刹那のタイミングを要する力場操作を実戦で編み出し、軽々と使うんだから」

 

 距離200m。

 彼女との距離が縮まるにつれて不安が込み上げてくる。

 私に出来るの?

 練習でも10回に1回しか成功しなかったのに、こんな大事な場面でちゃんと決めれるの?

 先輩のように、神風を吹かせられるの?

 

 「できる……。できるできるできるできる!私は神風!先輩から神風の名を継いだ二代目神風なんだから!」

 

 距離150m。

 歩数にして20歩を切ったところで、私は装甲をほぼ0にし、切っ先に浮いた分を集めながら稲妻で駆け始めた。

 

 「ウヴェァァァッ! ニクラシヤァァァ…!」

 

 私が一番危険だと察したのか、重巡棲姫は他のみんなを無視して私へと砲撃を集中してきた。

 音とほぼ同時に着弾するような超近距離で装甲を0にするなんて正気じゃない。ハッキリ言って狂ってる。

 それでもやるしかない。

 そうするしかなかった。

 先輩はここまでやった。

 先輩は、ここまでしなきゃ生き残れなかったんだ。

 

 「だから……私も!」

 

 距離50m。

 近づくにつれて着弾も早くなる。それでも稲妻で砲撃を躱し、速度も落とさずに突撃を敢行する。

 そんな折、重巡棲姫の砲撃の一発が私の針路上10m無いくらい、ちょうど着水する位置に飛んで来てるのが見えた。

 この一発はマズい。

 いくら水切りに近い機動力の稲妻でも方向転換できないタイミングはある。

 それが今。

 今の私は体が限界まで伸びているし、着弾点は私の着水点とイコール。

 つまり、あの一発は私に直撃する。

 

 「神風!」

 

 重巡棲姫の放った一発が私の着水位置に落ちるより早く、誰かが私と砲弾の間に割って入った。

 アレは、矢矧さん?

 

 「痛ぅ……!決めなさい!神風!」

 

 背中で砲撃を受けた矢矧さんは、飛行甲板を装備している左足を海に突っ込んで決めろと言った。

 ええ、決めさせて貰います。

 貴女の助力を無駄にはしません!

 

 「行きます!」

 

 矢矧さんが左足を突っ込んだ海面やや左に着水した私は、次の一歩のためのタイミングを計りながら一層腰を落とした。そして矢矧さんは「行っ……けぇぇぇぇぇぇ!」と雄叫びを上げながらトビウオの要領で海水ごと私を蹴り飛ばしたわ。

 その蹴りにタイミングを合わせた稲妻で、私はかつて無いほど加速した。

 具体的にどれ位の速度が出ていたのかはわからないわ。でも私はいつもより速く、長く跳んだ。

 それこそ、残り40mもの距離を一歩で踏破するほど。

 

 「神狩り!」

 

 重巡棲姫の手前、約2mに着水すると同時に、技名を合図にして切っ先を突き出した。

 すると、腕が伸びきる前に重巡棲姫の装甲と切っ先が接触したわ。

 神狩りはここからが難しい。

 切っ先が十分に食い込む前に力場を解放してもダメだし、貫いた後でもダメ。

 この食い込ませる按排を掴みきる前に、私は作戦に参加することになってしまった。

 そんな未完成の技に作戦の成否を賭けたいと思ってしまった。

 それは私が先輩に追いつきたいと思ったから。

 いえ!先輩を超えたいと思ったから!

 

 「今っ!」

 

 正直に言うと自信はなかった。

 もうちょっと食い込ませた方が良いかな?とも考えた。

 でも、同時に今だと思えた。

 「今よ!」と、ここには居ない先輩の声が聞こえた気がした。だから私は切っ先の力場を解放した。

 

 「ウァァアッ! …オノレェッ!」

 

 重巡棲姫の焦ったような声と、装甲がパリーンとガラスのような音を立てて崩壊する音が聞こえた。

 重巡棲姫のお腹から伸びた化け物のような砲が鎌首を上げて私を狙ってるのが見えた。

 このまま腕を伸ばしても切っ先は重巡棲姫に届かない。その前に薙ぎ払われるか撃たれるかする。

 ならどうする?

 お腹から伸びてる化け物を先に斬る?

 それとももう一歩跳んで背後に回り込む?

 いや、考える必要なんてない。どちらでもいい。何でもいい。どうでもいい!

 私は重巡棲姫の装甲の内側に入ってるんだ。内側にさえ入ってしまえば、手にした刀でどうとでもなるんだから!

 

 「シャァァァァァ!」

 

 私は、私を薙ぎ払おうとする化け物を身を屈めて躱し、姿勢を低くしたまま右足を起点にして時計回りに回転しながら重巡棲姫の両足を断ち切った。

 刃が肉に食い込み、骨を断つ感触が気持ち悪い。

 でも、止まるわけにはいかない!

 

 「ヤァァァァァァァ!」

 

 重巡棲姫の両足を断ち切った回転の勢いを利用して体一つ分左に移動し、ガラ空きになった重巡棲姫の右脇腹から心臓の位置目掛けて刀を突き上げた。

 すると、刃が中程まで潜り込んだところで硬いモノに切っ先が触れたわ。

 たぶん、今切っ先が触れているモノが重巡棲姫の核。

 これを貫けばコイツを倒せる!

 

 「オノレ……。オノレオノレオノレオノレェェェェ!」

 「私の……。いえ、私たちの勝ちよ!」

 

 私はそう言って、核目掛けて鍔まで刀を指し込んだ後、一息に抜いた。

 人間ならこれで即死なんでしょうけど、重巡棲姫は目をいっぱいまで見開いて、脇腹から青黒い血を流しながら後退ってるわ。

 

 「矢矧さん!」

 『全艦魚雷発射!』

 

 トビウオで真後ろ跳びながら矢矧さんを呼ぶと、矢矧さんは間髪入れずに魚雷発射の指示を朝風たちに飛ばした。

 

 「オノレェェ……。ニクラシヤ……。ニクラシヤ……!カミレンジャー!」

 

 重巡棲姫は起爆棲姫共々、その恨み言を最後に朝風たちが放った魚雷に被雷して爆散した。

 

 「まるで怪人の断末魔ね」

 「矢矧さん。怪我の具合はどうです?」

 「艤装が三割くらい吹き飛ばされてるのに良いわけないでしょ?」

 

 私の隣ま寄ってきた矢矧さんを見ると、なるほど背中から煙を上げてる。控え目に言って大破一歩手前ね。

 制服もボロボロで全裸よりよほどエロい格好になってるわ。

 

 「で、どう?満足した?」

 「八割方は」

 「残りの二割は?」

 「もちろん不満です。矢矧さんを護衛している間、私は暇でしたから」

 「それはごめんなさいね。でもまあ、水雷戦隊カミレンジャーの初任務としては上出来なんじゃない?」

 「そう……ですね」

 

 確かに上出来だわ。

 みんな相応に傷付いたとは言え、私たちは与えられた任務をやり遂げた。

 私たちが起爆棲姫を討った事でこの作戦の大勢は決したと言っても良いわ。

 それなのにモヤモヤする。物足りないと思ってる私がいる。

 

 「心配しなくても出番はまだあるわよ。だからそれまで鋭気を養いましょう?」

 「ええ、そうします」

 

 

ーーーーーー

 

 

 そう、矢矧さんに宥められて、金髪さんが操船する哨戒艇に回収されてタウイタウイ泊地に戻ったんですが、結局それ以上の出番はありませんでした。

 

 哨戒艇でワダツミに合流しようって案も出たんですが、実行に移す前に円満さんからの待機命令が届いて叶いませんでした。たぶん、予想してたんでしょうね。

 

 タウイタウイ泊地で待機している間なにをしていたのか?

 その時の戦闘で自分の問題点も色々とわかりましたので、大半は訓練に費やしました。

 あとは、金髪さんが定期的に聞いてきてくれた作戦の進捗状況に一喜一憂してましたね。

 

 特に興奮したのが、大淀さんと大和さんによる渾沌艦隊撃破の報でした。

 

 信じられます?

 あの二人は、渾沌こそ取り逃がしましたが、たった二人で鬼級以上のみで構成された敵連合艦隊を撃破したんです。

 

 そうそう!近々その時の戦闘をモデルにした映画が公開されるそうですね。タイトルはたしか……。

 

 

 ~戦後回想録~

 元駆逐艦 神風へのインタビューより。

主要キャラ人気投票

  • 朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
  • 神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
  • 大和(影が薄い三部主役)
  • 紫印 円満(実質三部の主役?)
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