興奮しすぎたので軽トラ(うちの)ひっくり返してきます!
私が第7艦隊に軍監として同行して約2週間。
横須賀を出てからかなり大回りしてソロモン諸島の南、サンクリストバル島の西に到達した第7艦隊は、ツラギ島とガダルカナル島の間、アイアンボトムサウンドと目されていた地点で、南方中枢と思われる個体を発見した。
「吹雪を大人にしたような奴ね」
とは、第7艦隊総旗艦『ロナルド・レーガン』の艦橋のほぼ中央に設えられたテーブル型の大型モニターに映し出されたその映像を私と共に見てる我が麗しの秘書艦、叢雲の感想よ。
「へえ、吹雪って成長するとあんなボインになるの?」
「退役後の吹雪に会ったことが無いのに知るわけないでしょ?前に会った事がある吹雪と顔が似てるからそう思っただけ」
その割に、なんだか複雑そうな顔してるじゃない。
知り合い程度の関係とは言え、姉妹艦と似た奴が敵として存在してるのに戸惑ってるのかしら。
その叢雲の話を聞いて何か思い付いたらしく、私の隣にいるヘンケン提督は手の平をポンと叩いて。
「ならば闇落ち吹雪とでも名付けるかい?もしくは悪ブッキー」
「緊張感が失せますのでやめてくださいヘンケン提督。それより、どう攻めるお積もりで?」
「そうだな……。取り敢えずミサイルでも撃ち込んでみよう」
「は?」
いくら何でも軽率過ぎる。
と、抗議するよりも早く、ヘンケン提督の合図で護衛のイージス艦1隻からミサイルが発射された。
奇襲する絶好のチャンスなのに何やってんの!?
艦娘による攻撃ならまだしも、通常兵器で奇襲なんて正気じゃないわ。ハッキリ言って悪手よ。
だって、深海棲艦に通常兵器はほぼ意味がないのよ?それなのに通常兵器を撃ち込むなんて私たちの居場所を宣伝するようなものだわ。
「Ms 辰見。窮奇の話では、南方中枢に結界を張る余裕は無いとの事だったな?」
「そんな事を言ってましたね。まさか、今の一撃はそれを確かめるために?」
「そんなところだ。まあ結果は、結界を張られるより厄介な状況になったみたいだがね」
「結界を張られるより厄介?」
「見ればわかる」
と、促されてモニターに目を移した私は思わず「うわぁ……」とぼやいてしまった。
そこに何が映っていたかというと、簡単に言えば深海棲艦が湧き出る様子よ。
いやホント、湧き出てるとしか言えないわ。
南方中枢……悪ブッキーの足元から湧き出るように深海棲艦がワラワラと出て来てるんですもの。
ざっと数えて50隻くらいかしら。
第7艦隊が保有している艦娘の四分の一程度の数ではあるけど半分以上が鬼級より上。
さらに悪ブッキーの撃破まで考えたら頭が痛くなる数字だわ。
「ねえ、アイツ縮んでない?」
「縮む?ああ、そういう事?確かに縮んでるわね」
叢雲の指摘で始めて気づいたけど、最初はグラマラス芋レディとでも呼べそうな外見だった悪ブッキーが吹雪を白くしただけのような芋少女になっていた。
深海棲艦を産み出すのに力を使ったせいかしら。アイツらって、力を使いすぎると幼くなるの?
いや、それよりも……。
「俺はそれよりも赤く染まった海の方が気になるな」
「同意見です。あのような現象はハワイでは確認できませんでしたから」
「駆逐隊を偵察に向かわせよう。嫌な予感がする」
と言うや、ヘンケン提督は英語で部下にその旨を命じ始めた。
この人、私たちと会話するときはわざわざ日本語で会話してくれてるの。
私は兎も角、叢雲は英語が話せないし聞き取れないから。
「ふむ……」
「何かわかりましたか?」
「偵察に出た駆逐隊の報告では、あの赤い海水に触れていると艤装が徐々に損傷していくらしい」
「面倒ですね」
「全くだ」
駆逐隊を出撃させて一時間弱。
入って来た報告は面倒としか言えないような内容だった。
艤装を徐々に損傷させる赤い海水。それが悪ブッキーを中心として半径10kmもの範囲に広がっている。
これなら結界を攻略する方が余程楽だわ。
それとも、あの赤い海がアイツの結界なのかしら。
「まあ問題はないさ」
「問題しかないと思いますが?」
「そう思うのは君が日本人だからだよ」
いや、訳がわからない。
日本人だから問題だと思う?米国人はこの状況を屁とも思わないって事?
「
「日本語で構わないよCharlie。Ms 辰見たちにも聞かせてあげてくれ」
「私は良いけど……。本当に良いの?」
「もちろんだ。彼女たちは味方なんだから当然だろう?」
艦橋に入って報告するなりヘンケン提督にそう言われた駆逐艦。たしか、チャールズ・オースバーンとかって名前だったはずの子は少し困ったような顔をして私とヘンケン提督を交互に見てるわ。
自軍が掴んだ敵の情報を、おいそれと外様である私たちに教えて良いのか。って悩んでるんでしょう。
と言っても、私は聞き取れたんだけどね。
どうもこの人には、私も叢雲と同じで英語ができないと思われてるみたいだわ。
まあ専門用語とかはうろ覚えだから、日本語でもう一度説明されるのはありがたいか。
「で?何分だ?」
「20分ってとこね。約20分で中破と言えるところまで艤装が損傷するわ」
厳しい。
赤い海域に突入してから20分しか行動できないのは厳しすぎる。
最初に効きもしないミサイルなんか撃ち込まなければ、赤い海水を広げられる前に倒せたかもしれないのに……。
「なんだ、20分もあるのか。俺の予想の倍じゃないか」
「あくまで予想時間よ。実際はこれより短いかもしれないわ」
「それでも十分すぎる。ところでCharlie、お前ならどう攻める?」
「敵艦隊はすでにこちらを捕捉して向かって来てるのにどう攻めるも無いでしょ?きっともう少ししたら砲撃なり航空攻撃なりが始まるわよ」
「そうだな。では先手を打とう。
「そういうの、あんまり好きじゃないなぁ。数で押し潰すなんて正義に反するわ」
「勝った方が正義だよCharlie。それに、奴らは人類に仇成す悪そのものだ」
「はぁ……。了解したわ。全員で良いのね?」
「ああ、全員だ」
不承不承と言った感じでチャールズ・オースバーンは艦橋を出て行った。
全駆逐艦で殲滅するは良いけど、50隻もの艦隊を駆逐艦だけで殲滅するなんて芸当ができるとはとても……。
「175名。それが、我が艦隊が保有する駆逐艦の数だ」
「ひゃ、175!?」
と、私の疑問に答えるようなヘンケン提督の言葉に素っ頓狂な声を上げたのは私じゃなくて叢雲。
私も口に出掛けたから助かったわ。もし叢雲が先に言わなかったら、たぶん私が言ってたと思うし。
「
「
ヘンケン提督の命令をオペレーターが何処かに伝えて数分後、悪ブッキーから湧き出た深海棲艦たちのように、その三倍以上の駆逐艦がワラワラとロナルド・レーガンから湧き出して敵艦隊へと向かっていった。
「ね、ねえ辰見さん、あれって全部同型艦よね?」
「フレッチャー
フレッチャー級駆逐艦。
たしか、米国の主力駆逐艦の一つであり、もっとも同型艦が多い艦級だったはず。
でも傑作駆逐艦と評価されてるものの、抜きん出た性能が別段あるわけじゃないとも聞いた事があるわ。
陽炎型のライバルと言われてた時期もあったわね。
水雷戦に特化した陽炎型と違って、フレッチャー級はって対空・対潜・対艦全てをそつなくこなせる優等生的な性質で、拡張性の高さも持ちあわせるなど汎用駆逐艦としては非常に優秀な艦との話よ。
「勝負になってなくない?」
「それ、人数の話でしょ?性能で語ってあげて」
むしろ水雷戦の性能なら陽炎型の方が勝ってるからね?
今現在、敵艦隊がされてるように175×四射線の魚雷に晒されたら「あ、ダメだこれ」みたいな感じになっちゃうでしょうけど、諦めなければ活路は開ける!はずよ。
「うわぁ……。何よあれ、敵艦隊の前が雷跡だらけ……」
「躱せる?叢雲」
「逆に聞くけど、辰見さんは躱しきれる?」
「たぶん……無理」
フレッチャーズはただ魚雷を放ってるんじゃない。
約40隻づつ、四つの塊に別れた各フレッチャーズが織田信長の三段撃ちばりに魚雷の再装填時間を補い合いながら交代しつつ魚雷を放つ様はまさに魚雷の絨毯。
ハッキリ言って当たるなって言うの方が無理だわ。
「悪ブッキーもこんな感じで倒しちゃうのかしら」
「悪ブッキーって呼ばないで叢雲。緊張感が霧散するから」
とは言いつつ、私も脳内で悪ブッキーって呼んでるんだけどね。
いや、だって正式な名前が決まってないもの。
仮に吹雪棲姫って名付けても良いけど、それじゃあ吹雪への熱い風評被害になりかねないからね。
「手応えがないな。生まれたてだからか?」
「魚雷群で吹き飛ばしておいて何言ってるんですか。海峡が火の海ですよ?」
「しかし10分も保たないのは弱すぎる。しかもこちらの損耗は1%にも満たない。おかげで戦艦と空母を出すタイミングがズレてしまった」
「必要ないのでは?ハワイ島中枢のような大規模な結界は無いようですし相手は海上です。魚雷の絨毯で包み殺せるのでは?」
「それでは我が
「はぁ……。色々と大変……」
ん?空母艦載機部隊を是が非でも使え?
空母艦娘の扱う航空戦力は戦術の要と言って良いほど重要。開幕に航空攻撃で先制できるのとできないのとでは後の展開が全く異なるもの。
その艦載機部隊を国からの命令で渋々使う?
この人って、元帥と同じで駆逐艦至上主義なのかしら。
いや、違う。
何かを見落としてる。
私なら駆逐艦のみで片がつきそうで空母の出番が無さそうなときは何て言う。
そのまま『空母の出番が無い』と言う。『
まさかとは思うけど、ヘンケン提督が言った空母艦載機部隊とは……。
「この空母、ロナルド・レーガンの艦載機部隊?」
「
「オーバーキルなのでは?いくら中枢と言えど、装甲が無ければ人と大差ありませんよ?」
「だから『結界を張られるより厄介』と言ったんだよ。赤い海水ではなく、素直に結界を張ってくれた方が俺的には嬉しかったんだ」
なるほど、問題だと思うのは私が日本人だからと言われた理由が理解できたわ。
私たち日本人じゃ、こんな物量で押し潰すような戦術は思い付かないし、そもそも日本国防軍ではそんな事ができない。
ヘンケン提督は元々、結界は艦娘による攻撃で中和、もしくは破壊させ、トドメ自体はロナル・ドレーガンの艦載機部隊で行うつもりだったんだわ。
だから無駄だとわかっていながら、悪ブッキーがなけなしの力を振り絞って結界を張ってくれるのを期待してミサイルを撃ち込んだんだ。
でも結果、悪ブッキーは深海棲艦を産み出すのと赤い海水を広げるのに力を使った。
その時点で結界を艦娘で破壊して通常兵器で倒すってプランはご破算。それでも本国からの命令に従って、当初の予定通りその戦術が有効かどうか試す気なのね。
「俺に言わせれば、君たち日本人がこういう戦術を真思い付かないのが意外でならないな」
「買い被り過ぎです。円満ですら、こんな戦術は思い付きませんよ」
「そうなのか?だが、日本には数の暴力を肯定するような格言が有るじゃないか」
はて?そんな格言なんかあったかしら?
と、視線で隣の叢雲に尋ねたら、かぶりを振って「知らない」と返してきた。
でも、ヘンケン提督が口にした言葉を聞いて納得したけど、同時にどう反応したらいいかわからなくなったわ。
だって、確かにそう言った人はいる。
でも、その人は実在の人物じゃないし、名言ではあるけど格言とは言えるかどうかは微妙。
そんな言葉を、ヘンケン提督は英語で尊敬の念でも込めてるような口調でこう言ったわ。
「
主要キャラ人気投票
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朝潮(一部主役である二代目。大淀含む)
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神風(二部主役である初代。桜子さん含む)
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大和(影が薄い三部主役)
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紫印 円満(実質三部の主役?)